浅野学秀の双子の妹がエンドのE組に入った話   作:あるふぁせんとーり

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第47話 捕獲の時間

「おはようございます、志御さん!いよいよ夏休みですね!」

「ああ、おはよう律。始まったな、夏休み」

 

 夏休み初日。抜かり無くいつものように6時前に目を覚ました志御。彼女は軽くシャワーを浴びると用意していた白のブラウスに着替え、その上から半袖のパーカーを羽織った。律から今朝のニュースを聞きながら志御が手に取ったのは母親が常備している菓子パン。薄皮あんぱんとりんごパイを頬張った彼女はショルダーバッグを背負うと、前日の内に準備していた虫取り網や虫かごを携えてスマホの中の律と共に家を飛び出した。6時半手前ほどだった。

 

◇◇◇

 

 ジョギングがてら少し遠回りをしながら訪れた早朝の旧校舎。彼女よりも少し先に辿り着いていた倉橋は志御を見つけるなり「おはよ〜」と手を振った。

 

「おはようございます、倉橋さん!」

「律もおは〜。やっぱ志御が一番律フル活用してるよね〜」

「まあな。んで、トラップの方はどうだった?」

「何個か見てきた感じだけど順調だよ〜!バナナの方も、ペットボトルの方も!」

「はっ、上々だな」

 

 そう笑って、志御は昨日トラップを仕掛けた覚えのあるクヌギの樹を登り、ペットボトルを加工した容器を手に取った。中には熟成した甘い香りを放つ、ドロりと溶けかけたスイカとそれを必死に舐める甲虫類の数々。彼女はその蓋を締めると「こっち大量だぞ」と倉橋に声を掛ける。彼女は「見せて見せてっ!」と彼女のあとを追ってクヌギを登った。

 

「ホントだ!ノコギリ入ってる!しかもこのカブト結構大っきいね!」

「だよな。結構な収穫だろ?これ」

「うん!やっぱ数仕掛けるに限るね〜!」

 

 その会話からも分かる通り、彼女達の今日の目的は虫取り。昨日の烏間による近接格闘術指南の後に志御と倉橋は数十か所に虫取りトラップを仕掛けまくっていたのである。鷹岡事件の後に志御の後を追うような形で烏間に近接格闘を教わるようになった倉橋。「良い感じのカブトムシとかクワガタを捕まえて兄さんにマウントを取りたい」という志御と「虫をいっぱい取ってお小遣いを稼ぎたい」という倉橋の思惑が良い感じに一致した形である。

 そして二人がトラップを回って中のカブトムシなんかを手分けして虫かごに放り込んでいると、彼女たちの後ろで「なんだよ、先客いんのか」と声が響いた。

 

「お、前原じゃん。渚に杉野も」

「ほんとだ〜!みんなおはよ〜!」

「倉橋に志御?珍しい面子だな」

「多分目当てのモンはおんなじだけどな」

 

 そう言って志御は提げた虫かごを揺らして笑いかけた。その中身を見た男子陣は「おおっ!」と声を上げた。

 

「すげえ!大量じゃねえか!」

「いいなぁー!俺街の方だからあんまりこういうのに縁がなくてさ!」

「なら一緒に捕まえる?トラップもまだまだたくさんあるし、人手は多いに越したこともないし〜」

「良いのか?!よっしゃ、高いの捕まえてネトオクに出してボロ儲け!南国リゾートで美人の姉ちゃん侍らせるぜ!オオクワガタってやつとか数万すんだろ?」

「少しは煩悩隠せよ前原」

「う〜ん、っていうかもうオオクワじゃ厳しいかなぁ〜。ちょっと前に人工的な繁殖方法が確立されちゃってもう値崩れしてるの〜。だから数で勝負だね〜」

 

 「さっきも言ったけど、まだまだトラップも残ってるから一人当たり山分けして2000円は狙えるかな〜」なんて笑う倉橋。男子陣もかなり乗り気になって倉橋の作戦に協力することに。そして彼女達がいざトラップ巡り、と洒落込もうとしたところで「2000円とはまだまだだな。俺が狙うは100億だ!」と樹上から声が響いた。

 

「その声は……!」

「岡島!!」

 

 樹上に横になりながらエロ本を読んでいる岡島。彼はスタッと飛び降りると、「特大のトラップを仕掛けてある」とドヤ顔し、サムズアップした。

 

「100億……ってことは殺せんせーか?!」

「その通り。おそらくあのタコも南の島までは暗殺もないだろうと油断してるはずだ。俺はそこを狙うことにした。ほら、あれだ」

 

 そう言って草むらの影を指差した岡島。なんだなんだと志御達が覗くと、そこにはカブトムシのコスプレをして山積みになったエロ本を読み耽る殺せんせーの姿があった。ご丁寧にも普段付けている三日月マークの入ったネクタイではなく、「兜」という達筆一文字のみがあしらわれた大胆なスタイル。カブトムシがカブトムシと名乗るはずがないだろうというツッコミは流石に野暮なものだろうと志御は胸の内に仕舞った。

 

「で、んだよアレ」

「見て分からないのか?俺が仕掛けたエロ本トラップだ」

「いやすげえ……」

「スピード自慢の殺せんせーが微動だにせず見入ってる……」

「よっぽど好みなんだね〜」

「ああ。何せ春から研究しっぱなしだったからな。俺だって買えないから拾い集めたのを1ヶ月日替わりで置いといて反応を見てたんだ。あいつよりもあいつの好みに詳しいぜ。今の俺はな」

「かっけえ……」

「騙されてんぞ前原」

 

 そして岡島は手に持ったエロ本の隙間から対先生用ナイフを取り出して宣言する。「俺が証明してみせるさ。「エロは世界を救える」ってな」と。もはやその言動には歳不相応なカッコよさが漂っている。彼の解説曰く、エロ本の下には対先生弾を繋ぎ合わせたネットを仕込んでるとのこと。そして彼は渚にハサミを渡し、トラップを発動させるように頼むと、ナイフを構えた。が、その時だった。

 

「おや、あれは……」

 

 殺せんせーの目がにゅーんと伸び、樹上の一点を見つめたのである。そしてしゅばっと素早く触手を伸ばすと、そこには一匹のクワガタが握られていた。それに気が付いた倉橋は「わあっ!」と飛び出した。

 

「殺せんせー、それミヤマ?!しかも目白くない?!」

「ええ。まさかこの山にもいたんですねぇ」

 

 「やったやった!」とエロ本の山の上で飛び跳ねる殺せんせーと倉橋。夢潰えて悲しそうな岡島はさておいて、それを眺めていた渚と前原は酷く困惑する。そんな中でふと我に返った殺せんせーは足元のエロ本に気が付きその顔を覆った。

 

「皆さん申し訳ありません、教育者としてあるまじき姿を……。本の下に罠が入っているのには気が付きましたが、どんどん先生好みになるその誘惑に耐えきれず……」

「で、倉橋。そのミヤマ、前言ってた「アルビノ」か?」

「そう!このサイズでアルビノだったら数十万は行っちゃうかも〜!……で、そんな数十万が欲しいゲスなみんな手を上げて〜!」

 

 そう言ってアルビノのミヤマを掲げる倉橋。金に目が眩んだ男子陣がものすごい勢いで手を挙げる。より現実的な大金である分100億よりも食らいつきが良いかもしれない。「志御さんは良いのですか?」という殺せんせーの問いかけに、彼女は首を縦に振った。

 

「ああ。兄さんに自慢する用の写真は取れたしな。なぁ、律?」

「はい!バッチリです!」

「ヌルフフフ、相変わらず抜かりありませんねぇ」

「エロ本読んでるシーンもあるぜ」

「にゅやッ?!」




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