浅野学秀の双子の妹がエンドのE組に入った話   作:あるふぁせんとーり

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第48話 戦略の時間

「志御さーん、上手く出来てるかな?」

「良いんじゃねえか?倉橋。後はもう少し肩入れる感じだな」

「こう?」

 

 南の島での暗殺夏期講習まで残り一週間。今日のE組はその訓練と計画のために旧校舎に集まっていた。時はすでに8月。殺せんせーの暗殺期限まで残り7ヶ月ほどに迫っている中、生徒達は何手かに分かれてグラウンドでナイフ術や基礎体力作り、射撃訓練などに励んでいる。烏間はグラウンドの中心でこまめに水分補給や日陰での休憩を取るように指示しながらも生徒達を手際良く指導し、彼の部下も備品の準備などで積極的に生徒達をサポートしていた。

 そんな中、場違いな人影が一つ校庭に現れた。ブランド物の日除け帽子にド派手なサングラス、派手な柄とフリルのついた夏物のワンピース。無闇矢鱈に金をかければ良いみたいな一般人の集まるE組では浮きまくったファッションに「うわぁ」という生徒達の目線が注がれる。

 

「あらあらガキ共、こんなあっつい日に汗水流してご苦労なことねぇ。まぁ若い頃の苦労なんて買ってもするもんよ」

「あ、ビッチ先生だ」

「いやビッチ先生も訓練しろよ」

「私達と射撃とかナイフは大差ないじゃん」

「このままだと私にいつ負けても知らねえぞ?」

「ふっ、仮にも私はプロよ?アンタ達に便乗して甘い蜜だけ吸わせてもらうわ。プロはスマートなの」

「ほう、では彼女と一戦交えてもらおうか」

 

 聞き慣れた声にイリーナは露骨に分かるくらい背筋をビクッとさせる。恐る恐る振り向いた彼女の目に入ったのは老いながらも風格を纏う師匠(センセイ)の姿だった。

 

「ろ、ロヴロ師匠(センセイ)?!いつからここに?!」

「ああ。夏休みの特別講師としてお呼びした。今回の作戦にプロとして助言をくれるとのことだ」

「暗殺もピアノやヴァイオリンと本質的には同じ括りの技術だ。一日休めばそれだけ身体は殺しを忘れる。落第が嫌ならさっさと着替えてこい!」

「へ、ヘイ喜んで!」

 

 そう言って校舎の方へ猛ダッシュするイリーナ。「ビッチ先生も師匠には頭上がらねえんだな」「まああの人怖いもんな」と言葉を交わす生徒達。そして眼を見張るようなスピードで着替えてきたイリーナを尻目にロヴロと烏間は情報交換を行っていた。

 

「それで、殺センセーは今絶対にこちらを確認できない状況なんだな?」

「ああ。宣言の通りにヒマラヤ山脈のエベレスト、標高6000m地点で避暑中だ。部下の一人を向かわせて見張らせてるから間違いない」

「それは良い。機密保持の徹底こそ暗殺、ひいてはあらゆる計画の要となる」

「そういやロヴロ先生って「殺し屋屋」なんだろ?今回は送らないのか?」

「ああ。今回はプロは送らん……いや、送れない、と言った方が正しいか」

 

 志御からの質問に答えたロヴロ。「送れない?」と聞き返した彼女にロヴロは続けて答える。

 

「殺センセーは鼻が利く。特に君達生徒以外の匂いには非常に敏感だ。君達が知らない所で多くの殺し屋を送ってきたがその尽くが失敗してきた。例えば京都、君達の修学旅行にも腕利きのスナイパーを送り込んでいたんだがな」

「あー、私は暗殺どころじゃなかったかんな。誘拐されてて」

「それは災難だったな。……ともかく、殺センセーにやたらめったらに殺し屋を送り込むのは採算が合わないとこちらも身を以て理解したというわけだ。その上、残りの手持ちで見込みのあった殺し屋数名が突如として音信不通となってな。残念ながら今の状況では君達に殺してもらうのがもっとも有効だと私は踏んでいる」

「ま、やってみなきゃどうなるか分かんないけどな」

「それでいい。殺し屋に必要なのはその瞬間までにどれだけ備えたか、ということだ」

 

 ロヴロはそう言って僅かに微笑むと、夏なのに着ている厚手のコートから事前に共有されていた南の島の暗殺計画書を取り出す。「暑くないんスか?」という生徒からの質問には「意外と風通しが良い」と返答した。

 

「ふむ、計画によると奴との約束を使って触手を7本破壊し、そして間髪入れずにクラス全員で攻撃するとのことだったな。そこまでは理解できるのだが、一番最初の「精神攻撃」というのは?」

「殺せんせー、パニックになると動きが落ちるんです。だから最初に動揺させようと。殺気を伴わない攻撃には殺せんせー弱いから」

「なるほど」

 

 「例えば?」と問いかけたロヴロに渚は殺せんせーの弱点メモを捲る。

 

「この前殺せんせーがエロ本拾い読みしてたんです。しかも口封じにアイスまで配ってました」

「けっこう安いやつなー」

「これ以外にも殺せんせーに効くと思うネタはいくつか確保してるのでこれでゆすって追い込みます」

「これは残酷な暗殺方法だ。だが……」

 

 そう言って生徒達を見回すロヴロ。「彼等では不安か?」と尋ねた烏間に彼は「まさか」と答えた。

 

「銃もナイフも体術も良く仕込まれている。そうだな、特にあの二人が射撃に関しては素晴らしいものがある」

 

 ロヴロが指を差したその先にいたのはE組が誇るトップスナイパー、千葉と速水だった。「ああ、間違いない」と烏間は頷く。千葉は空間計算に長けた精密な遠距離狙撃、速水は手先の精密動作と動体視力に優れた至近距離射撃を得意とする生徒。どちらも銃の扱いに関しては頭一つ抜けた能力を持つが、決して強く主張をしない、結果で語る仕事人タイプだった。「俺の教え子にもこれほどはそうそういない」と感心するロヴロ。そして自身の訓練を終えて千葉達に教えを請いに来た志御を見て「なるほど」と少し驚いたように彼は呟いた。

 

「あれを鍛えたのは君か?カラスマ」

「いや、彼女自身の鍛錬の成果だ。俺はそれに助力したに過ぎん」

「しかし驚いた。14の少女がそこらのプロと大差無い風格を纏っている。もし殺しの世界、あるいは戦場に引きずり込めばあと10、いや7年だ。7年で彼女は私はおろか君をも超えるぞ。それこそ「死神」、「神兵」にさえな」

 

 烏間はその言葉を否定することも、肯定することもなかった。彼は指導の中で志御がそれに値する才能を持つことも、そしてその道に進ませてしまうことの恐ろしさも理解していたからである。まさしく怪物と呼ぶに相応しい才を持った少女が、この場にいる誰よりも厳しい鍛錬を重ねている。その桁外れの自己向上欲は教育者であるならば誰をも魅了して止まないものであった。

 

「まあ良い。それにしても、先程の二人といい彼女と言い、俺の生徒じゃないことがつくづく惜しい。他の者もこの短期間でよくぞここまで育て上げたものだ。非常に良いレベルで纏まっている」

「そうだろう。彼等の進化は目を見張る物がある」

「ああ。人生の大半を「暗殺」に費やした者、一人の暗殺者「ロヴロ・ブロフスキ」の名の下にこの作戦に合格点を与える。そうだな、殺センセー暗殺を達成するのは彼等だろう」




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