浅野学秀の双子の妹がエンドのE組に入った話 作:あるふぁせんとーり
「なるほど、ここが……」
パーティールームに足を踏み入れるなり、殺せんせーはそう呟いて辺りを見回した。中には1台のモニターと、それを半放射状に囲むよう設置された無数の座席。そしてディナー中も動画編集に勤しんでおり、先に水上小屋で待機していた三村が殺せんせーを出迎える。そして彼からリモコンを受け取った磯貝は暗殺の流れについて確認を取る。
「まずは三村制作の動画鑑賞会、その後期末で権利を得た7人が1人1本触手を破壊します。そしてそれを合図に皆で一斉攻撃し、殺せんせーを暗殺する。構いませんね?」
「ええ、上等です。どうか全力でかかってくるように」
並んだ座席の中心に立ち、答える殺せんせー。生徒達は自然体を装いながらもその周りをむらなく囲み、漂うのは殺せんせーを決して逃さないという緊迫感。そして理由は違えど、殺せんせーも同じ緊張を抱えていた。水上小屋は文字通りに四方を海で囲われ、昼間の内に生徒達には十分な準備時間、それこそ小屋の窓や壁、屋根に対先生物質を仕込む時間も十二分にあっただろう。そうなると必然的に脱出のリスクは跳ね上がる。小屋の中で避け切るしかありませんねぇ、と殺せんせーは判断を下す。
殺せんせーの暗殺を困難にする最大の障壁はそのマッハ20というトップスピード。しかしいくら超破壊生物とはいえども初速からそれほどの速度に到達するわけではない。加速を経た最高速がマッハ20なのだ。しかしこの7m四方程の空間では殺せんせーが到達可能な速度はマッハ5程度、百分率にして25%である。それに加えて触手7本破壊による大幅なスペックダウン、事実として殺せんせーは最もスペックを発揮出来ない状況に置かれていた。弾道ミサイル、ステルス戦闘機なんて持ち出してきた各国の軍隊よりも余程「殺し方」を弁えた生徒達に殺せんせーは、これだけで4ヶ月教えた甲斐があった、と少し感慨深さを覚え、そして彼等のターゲットとなっていることを改めて誇らしく思う。
「ヌルフフフ。改めて、皆さんの全力の暗殺を期待しています。知恵と工夫と重ねた努力、諸々含めてこの4ヶ月で培った「力」、遠慮なく先生にぶつけて下さい。もちろん先生も手加減はしませんがね」
そう言ってニヤリと笑う殺せんせーに「ああ、言われなくてもそうするつもりさ」と岡島は小屋の電気を消す。そして磯貝が「それでは開演です」とリモコンのスイッチを入れた。
「3年E組が送る!とある教師の生態!」
軽快な音楽とともに現れるタイトルテロップ。情報提供は渚他、撮影は岡島、そしてナレーションと編集が三村。テレビ業界を志望することもあってそのクオリティはとても中学生のものとは思えず、殺せんせーも思わず引き込まれてしまうほど。しかし互いに警戒は怠らない。生徒達は大音量で流れる音楽とナレーションが音を消す中、夜の暗がりに紛れて小屋を出入りする。しかし殺せんせーはそれを見抜いており、いくつかの気配がそこにないことにも気が付いていた。その中には殺せんせーが最警戒すべきE組のスナイパー、速水と千葉も混ざっている。しかし、その匂いはホテルが位置する陸側のスナイパーポジションを取っていることを殺せんせーの鼻は嗅ぎ分けていた。
「それにしても中々面白……」
「それではご覧頂こう、これが夏休みと高を括って裏山で集約したエロ本に耽る我らが恥ずべき担任の姿である」
「にゅやああああああああああ?!?!?!?!」
◇◇◇
「そういえば、志御って水上バイク運転していいの?」
「一応烏間先生とこで講習受けさせられたのと、私有地故の特例だ」
「そっか、それで……」
「……始まったな、上映会」
「だね」
殺せんせーの叫び声が、海底洞窟に身を隠す水着姿の2人の元へ届いた。海底洞窟は第5班の拠点となっており、烏間の運転する水上バイクによって彼女達の得物、そして殺せんせーに感づかれてはならないウォーターホースなどの物資などが運び込まれている。そして現在は水上小屋の真下、水深5mに沈めた本体と通信しながら志御のノートパソコンの中の律が以降の流れをシミュレートしているところ。リアルタイムで殺せんせーの反応を見れないというのは少し残念だったが、モニターにはカメラが仕込まれていて殺せんせーの反応の一部始終はばっちり録画出来るようになっている。そして肝心の映像の中身はこの4ヶ月で集めた殺せんせーの痴態、醜態100連発。情報提供は殺せんせーの弱点ノートをまとめている渚を始めとしたクラスメイトの大体全員。そのための「他」表記である。ちなみに志御もその一人だった。
「……ただいま。いよいよ始まったか」
「あと1時間、流石に緊張すんね」
そしてダイビング用ボンベを背負って海底洞窟に戻ってきた千葉と速水。暗殺前最後の諸々のチェック、水中での律の試運転、そしてダイビングのテストなどはオールグリーン。2人はこれから再び水上小屋に戻り、律と同じように水深5mほどで待機する手はずになっている。神崎が2人のボンベを取り替えると、そこに2人の得物を持って来た志御。バッテリーも弾倉も満タンのそれを受け取り、速水は自らを鼓舞するかのように「こんなにいらないんだけど」と口を開く。
「まあ良いだろ。一発にしろ何にしろ銀の弾丸には変わり無い」
「ま、それもそうか」
「……良し、俺達はそろそろ行く。向こうで会おうぜ、神崎、志御」
「うん。行ってらっしゃい」
そう神崎と志御が見送る中、ウェットスーツにボンベを背負った千葉と白ビキニにボンベの速水は真っ暗な夜の海に消えていく。少しだけ額に付けたライトが光っていたが、それもすぐに見えなくなる。
「……いよいよか」
「そうだね。流石の志御でも緊張する?」
「当然。一世一代の大勝負って奴だからな」
「ですが、私も、志御さんも、神崎さんも、クラスの皆さんも殺せんせーを殺すために出来ることはやりました。ですから、この先も、その瞬間まで最善を尽くすしか無いと思います」
「だな。……乾坤一擲、賽は投げられた、か」
実行時刻まで、残り54分28秒。
◇◇◇
「……死んだ、もう先生死にました、皆さんに殺されました、あんなの知られたら生きていけません、というか……」
1時間経過。散々秘蔵映像でその隠していた爆弾が爆発しまくった殺せんせーは意識も虚ろ虚ろ、顔も真っ赤にしてげっそりした顔で座席に横になっている。もはや殺す必要がないくらい死にかけている殺せんせー、その必死具合は小屋の変化にさえ気が付かないほどだった。
「さて、1時間に渡る秘蔵映像100連発にお付き合い頂いた訳だが、何かお気付きではないだろうか?」
画面から流れる三村のナレーションで殺せんせーはようやくそれに気がつく。誰が細工したわけでもなく、床を隙間なく満たす海水。そう、時刻は満潮の時を迎えていた。当然、通常であれば小屋が満潮に浸るなんてことは起こり得ない。そう、昼間ダイビングを行っていた渚やカルマ達の第2班が小屋の支柱を切り、短くしたりしない限りは。
そして中村や奥野といった各教科学年1位、触手を破壊する権利を持った生徒達がハンドガンを構えて殺せんせーに迫る。既に想定外である満潮という策に真っ向からハマった殺せんせーはわずかに冷や汗を浮かべるが、触手を落とされても陸側の千葉と速水にさえ注意すれば問題ないと判断する。そして彼等は引き金を引き、放たれた対先生BB弾が殺せんせーの触手を破壊した、その瞬間だった。
「んなっ……?!?!」
突如として小屋が崩壊を遂げたのだ。偶然ではない、タイミングを図った崩壊。そして小屋の壁の代わりに殺せんせーを囲んだのは生徒達の乗る9機のフライボード。本来は水圧を利用して空を舞う為のものだが、この場においては空を飛ぶ際に発生する水圧がメインウェポン。吹き出される海水が殺せんせーを檻のように囲む。そしてイルカの引く手漕ぎボートに乗った倉橋がイルカ達に指示を出し、飛び跳ねる彼等の水しぶき、そして小屋の外に待機していた渚や茅野などのウォーターホースがフライボードの隙間を埋める。「そんなもの小屋に入る前には確認出来なかった……!」と焦りを増す殺せんせー。しかし、その答えはすぐにやってきた。
「……っ、あれは……!」
凄まじい水しぶきを上げながら駆け回る、ビニールボートを引く1台の水上バイク。運転席に座る志御と、ビニールボートから様々な物資を投げ渡す神崎。彼女らのやってきた方向から殺せんせーは「海底洞窟か……!」と察知する。マズい、と逃走を図る殺せんせー。中学生故の不慣れか、フライボートの隙間が一箇所開いている。そしてそこに滑り込もうとした殺せんせーだったが、止まった水上バイクと浮上した律の本体が道を塞ぐ。
「見事なもんだろ?」
「ここまでです、殺せんせー」
「これより殺せんせーの周囲1m、制圧射撃を開始します」
計32門の圧倒的物量を誇る律と律に接続した、現状のE組に存在する中で最強の機関銃、M134を自在に操る志御、そしてゲームで培ったセンスで的確に「嫌なところ」に弾を置いてくる神崎。この3人を中心とする弾幕に殺せんせーは「逃げ」の選択肢を剥奪され、その場での回避に徹するしか無くなる。それでも陸のスナイパーコンビに対する注意は欠かさない殺せんせー。しかし、それこそが最後のトラップであった。
目の前で浮上し、志御と神崎との合流を遂げた律。それ故に、殺せんせーは「水中に身を隠していたのは律だけだ」と思考が無意識に固定化される。その背中には殺せんせーは脱出不可能、されど弾丸は通るほどの小さな隙間。そして背面にE組のスナイパーコンビは浮上した。その匂いも、音も、全て水の檻が掻き消していく。事実上、何一つ気付かれるはずのないこの瞬間。2人は殺せんせーの頭部に照準を合わせ、その引き金を引いた。
「……っ!」
殺せんせーが放たれたその鋭い殺意に気が付き、振り向いたのは対先生BB弾が眼前10cmを切ったところ。走馬灯のように延長された思考でもそう長くは続かない。その刹那に殺せんせーの脳裏によぎったのは陸の2人の匂いがダミー、デコイによるものだったこと、そして自らをここまで追い詰めた愛すべき生徒達への最大限の称賛であった。
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