浅野学秀の双子の妹がエンドのE組に入った話 作:あるふぁせんとーり
ほんの一瞬。千葉と速水が引き金を引き、放たれた弾丸が殺せんせーに命中するまでの、瞬きを一度挟めるかどうかというその一瞬。殺せんせーの身体は閃光と共に弾け飛んだ。そしてその爆発に巻き込まれる形で生徒達の身体も宙を舞い、海に投げ出されるがそれを気にする者はいない。いや、気にする暇が無いと言った方が正しいだろうか。爆発と共に消えた殺せんせーの姿、生徒達の身体を伝い迸る、ゾクゾクするほどの「殺した」という手応え。僅かに動きを止めた生徒達に烏間は「油断するな!」と声を掛ける。
「奴には再生能力もある!殺したことを確かに確認するまで気を抜くんじゃない!潜ってるのならそう長くは保たん!片岡さんが中心となって水面を見張れ!」
「はい!皆、もう一度小屋を囲んで!志御と神崎、倉橋は遠くに行ってないか確認お願い!」
「オッケー!」
「……了解」
そして志御はボートを切り離し神崎と二人乗りになったウォーターバイクのエンジンを吹かし、小屋から離れた海上を確認するが、その波模様は至って穏やか。当然だ。水の檻と弾の檻。何度も何度もシミュレーションしたそれが完全に殺せんせーの逃げ道を塞いでいた。しかし無視したい、目を瞑りたい現実と志御の特異な直感が断片的なデジャヴと共に、死力を尽くしたはずなのに「この程度で終わるはずがない」と激しくアラートを鳴らす。
そんな中でイルカ達を解放した倉橋は「あっ」と何かに気が付いたように声を上げた。湧き水のように、不自然に泡立っている一点。何かに気が付いたらしい生徒達は無言で頷き合い、ハンドガンの銃口をそこに向ける。その瞬間、E組が目にしたのは、殺せんせーの顔が入った透明な球体だった。そして水面に浮上したそれは「ふぅ、まさかここまで追い詰められるとは」と一息ついている。「何あれ?」とE組の心は一致した。
「ヌルフフフ、皆さん困惑していますねぇ。それもそのはず、これこそ先生の奥の手中の奥の手、「完全防御形態」!」
「完全防御……はい?」
「何言ってんの?」
「では説明しましょう。外側の透明な部分は超高密度に凝縮したエネルギーの結晶体。皆さんご覧の通り、先生は肉体を頭一つ分まで思いっきり小さく縮め、余分なエネルギーで肉体をガッチリ固めたのです。そしてこの形態になった先生はまさしく無敵!水も、対先生物質も、核兵器でさえ固められた結晶構造がものともせずに跳ね返します」
聞けば聞くほど無法なそのスペックに生徒から「そんなの殺せるはずないじゃん」と声が上がる。殺せんせーはそれに対して「ところがどっこい、そう簡単には行きません」と解説を続ける。
「このエネルギー結晶は24時間ほどしか保たず、時間が経つと自然崩壊します。そして崩壊の瞬間、先生はこの結晶からエネルギーを吸収して元の身体に戻るわけです。裏を返せば、先生は結晶が崩壊するまで一切の身動きが取れません。そこがこの完全防御形態の唯一にして最大の弱点です。この場合先生にとって詰みの一手となるのは「完全防御形態の時に高速ロケットに詰め込まれて遥か彼方の宇宙空間まで発射されてしまう」というプランですが……その点は心配ありません。24時間以内に発射可能なロケットが世界中のどこにも無いことはきっちり事前調査済みです」
「ヌルフフフ、先生の方が一枚上手だったようですねぇ」と笑う球体の中の殺せんせー。だが、志御でさえ返す言葉が一瞬では見当たらないほどの、文字通りの完全敗北だった。奥の手を最後まで隠され、その欠点さえ既に計算済み。少し無言になってE組から離れた後に、志御は後ろに座る神崎に声を掛ける。
「……次、どうやって殺す?」
「……うん、そうだね。殺せんせーがパリイを使ってくるって言うなら、完全にジャストタイミングでワンパンするしかない。今回はそれが出来る練度が足りなかった」
「……だな。まだまだ道は長い、って訳か」
相変わらずの視力と聴力で彼女らの会話を聞き、「暗殺者の鑑ですねぇ」と呟いた殺せんせー。そんな中でカルマは「いやー、俺じゃあお手上げだね」と口を開きながら殺せんせーを持ち上げる。そして彼は桟橋に置いた殺せんせーの目の前にスマートフォンを立て掛けた。
「にゅ?」
「ほら、頭だけじゃ顔覆えないもんね」
「にゅ、にゅやああああああっっ?!?!」
そこに映し出されていたのは三村のビデオに使われた映像のフルバージョン。激しく赤面する殺せんせーにカルマはさらなる攻撃を重ねる。ひょいっと素潜りし、海底から拾ってきたウミウシを貼っ付けると、さらに寺坂のパンツに「助けてーっ!」と悲鳴を上げる殺せんせーをねじ込もうとする。流石にその寸前で烏間に殺せんせーを没収されてしまったものの、こういう時のカルマの破壊力を改めてE組は見直した。
「皆思うところはあるだろうが、取り敢えず今日は解散だ。こいつの処分は上層部で検討する。これだけの大仕事の後だ、身体を休めてくれ」
そして殺せんせーを回収した烏間に殺せんせーは「対先生物質のプールにでも閉じ込めますか?烏間先生」とニヤニヤ笑う。
「まあその場合はさっきのようにエネルギーの一部を使って周りを吹き飛ばしますけどね」
「……っ」
「ですが、皆さんは誇って下さい。先生もこれを見せるのは初めてです。世界中のどの軍隊でさえ先生をここまで追い詰めることは出来ませんでした。これは皆さんの計画の賜物です」
烏間の提げたビニール袋から、殺せんせーはそうやって生徒達に声を掛ける。それが最上級の賛辞であることを生徒達は理解した、理解することは出来たが、それでも皆の落胆は隠せないほどのものだった。かつて無く大掛かりで、十全で、万端で、全身全霊を尽くし、それでなお届かなかったという現実。生徒達は肩を落としてホテルへの帰途についた。……実行班である第5班の5人を残して。
「……俺さ、撃った瞬間分かったんだ。「ミスった」って」
小屋の跡地に上がり、千葉は呟いた。速水も黙ってそれに頷く。そして千葉は「お前らはどう見えた?」とその瞬間、殺せんせーに最も近かった志御、神崎に尋ねる。少し考えてから、彼女らは口を開いた。
「正直言う。その瞬間の私は「無理だ」って直感した」
「……うん。殺せんせー、しっかり振り向いてた」
「……やっぱり。律は?撮ってたんでしょ?」
「はい。可能な限りのfpsのハイスピード撮影で一部始終を」
そして律は画面に分析結果を映し出す。四人はそれを黙って眺めていた。
「断定は出来ません。ですが仮にあの形態への移行時間を1F、0.016秒ほどと仮定しても千葉君の射撃が0.5秒早いか速水さんの射撃があと30cm近い、あるいは殺せんせーの反応を0.2秒ほど遅らせられていれば、殺せんせーが気づく前に殺せていた確率は50%ほど存在していたと考えられます」
「……いや、確実に殺せないなら今回みたいになる。それじゃあまだ0だ」
「……自信はあったんだ、俺。リハーサルはもちろん、バランスボールの上からだって一輪車の上からだって外しはしなかった。でも、あの瞬間。あの一瞬、確かに指が固まったんだ」
「……同じく」
「絶対に外しちゃいけないっていうプレッシャー、たった一発っていう状況、これが「本番」か、って怖気づいた」
そしてしばらくの沈黙の後、神崎が口を開く。
「でも、殺すしかないよ。この先も」
ある意味の思考放棄にも感じられ、そして本質にも思えるその言葉。「ああ」と千葉は頷き、そして5人は帰路を辿った。
◇◇◇
「しっかし疲れたわ〜……」
「早く休みてぇ……自室戻るかな、俺……」
どっと疲れた様子でホテルのラウンジに集まるE組。志御と神崎も部屋に律を置いてきた上で訪れた。案の定かなりのお疲れムードで机に突っ伏すような生徒も出てくる中で寺坂が「ンだよこの程度で音ェ上げやがって。どっちにしろ暗殺は終わったんだから明日は好きに出来んだろうが」と声を上げる。
「そーだそーだ、俺のノルマはあと水着ギャルをじっくり観察するだけ。鼻血満タンにして遊び倒すぜ」
「おー、そりゃあいいな」
いつもの調子で言う岡島に同意する前原。しかし、誰もツッコまない。ツッコむ気力もなければツッコんでいいという空気でもない。何かがおかしい、そう志御は直感し、隣の神崎と顔を見合わせる。彼女もコクリと頷いた。落胆、という言葉で表しきれないほどに疲弊しきった生徒達。おそらく無事な生徒は半分以下。どうなってる、と人差し指を顎に当て、彼女が思考に耽ろうとしたその瞬間、倉橋が血を吐いた。志御は固まったまま、にわかにその目を見張った。
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