浅野学秀の双子の妹がエンドのE組に入った話   作:あるふぁせんとーり

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第54話 急変の時間

「っ?!大丈夫か倉橋?!」

 

 動揺を隠せずにその目を見開きながらも、志御は倒れた彼女の背を叩く。そしてかき消されそうなか細い声で「ん……ちょっと厳しいかも……」と答える倉橋を志御はその場に寝かせ、テーブルの上のペーパーナプキンを手に取り痰を吐く。それが透明なことを確認し、彼女はナプキンを握り潰した。

 

「私はまだ無事……神崎、そっちは」

「私も大丈夫、だけど……」

 

 そう答えて神崎は辺りを見回す。血を吐き、崩れ落ち、倒れ込むクラスメイト達。クラスの半分近くが突如として、一切の前兆無くダウンする異常事態。

 

「志御、病院は……」

「待って、思い出す。島内の診療所は……8〜18で帰りの船が19。無理だな、閉まってる。おまけに医者も帰ってんな」

「大丈夫か君達?!」

 

 騒ぎを聞きつけてやってきた烏間は「何が起きた?!」とまだ無事な生徒達に声を掛けた。ビニール袋に入った完全防御形態の殺せんせーもダラダラと冷や汗をかいている。そして志御と共にテーブルや椅子をどかし、クラスメイトが横になれるスペースを作っていた神崎は「病院は……」と口にした彼にその首を横に振った。そして彼が何らかの手立てを考えようとしたその時、その携帯電話が非通知で鳴った。

 

「……やあ、先生。可愛い生徒達がずいぶんと苦しそうな目に遭ってるじゃないか」

 

 明らかにボイスチェンジャーでの加工が挟まれたその声の主に、烏間は冷静な怒りを宿しながら「何者だ」と尋ねた。

 

「ククク……言わなくても分かるだろう」

「……これはお前の仕業なんだな?」

「ああ、そうだとも。そいつは人工的に作られたウイルスでね。低い感染力と引き換えに、一度感染してしまえば全身の細胞を一週間で破壊し尽くしてそのままお陀仏というシロモノだ。治療薬もあるにはあるんだが、あいにくそれも独自開発なもので、こちらの手元にしか無い」

「……何が目的だ」

「まあそんな喧嘩腰にならないでくれ。そうだな、簡単な取引と行こうじゃないか。この島の山頂にホテルが見えるだろう。そこで今先生が持っている袋の中の怪物とこちらの治療薬を交換しようじゃないか」

 

 「生徒を助けたければ、だがな」と付け加える犯人。どこかの監視カメラにでも繋いでいるのか、彼は「おや、クラスの半分も感染したみたいだな」と電話越しに笑みを浮かべる。

 

「ああ、そうだ。妙なことを考えるなよ。治療薬はスイッチ一つで爆破できる。生徒の命は我々次第ということだ」

「ずいぶん念入りだな」

「その百億のタコが動けることが前提の計画だからな。ここまで追い込んでくれた君達の仕事には感謝しよう」

 

 その言葉に烏間、そしてそれ以上に袋の中の殺せんせーは焦り、額に汗を垂らす。

 

「それでは山頂の「普久間殿上ホテル」最上階を取引場所としよう。制限時間は1時間だ。……ああ、そうだ。先生、お前は腕が立つと聞いている。それでは少々リスクがあるな。……ではこうしよう。動ける生徒の中から最も背の低い男子、それと交渉役に最も成績の良い生徒の二人に持って来させろ。フロントに話は通してある。そちらが素直に持ってくるのであれば、こちらも素直に応じよう。だが万が一があれば……後は分かるな?それでは、君達の懸命な判断を祈る」

 

 そう言って一方的に通話は打ち切られる。烏間は酷く苛立ったように、その感情を完全防御形態の殺せんせーと共に机に叩きつけた。

 

◇◇◇

 

「……という訳だ」

 

 烏間が一連のやり取りについて生徒達に伝えると、動揺とざわめきが彼らを包んだ。その無力感に閉口した烏間に、この暗殺夏期講習に同行していた部下が急いで駆け寄ってくる。

 

「駄目です、烏間さん。あのホテルの宿泊客に関して政府として問い合わせても「プライバシー」の一点張りで……」

「……やはりか」

「……どういうことですか?烏間先生」

 

 首だけになりながら首を傾げた殺せんせー。生徒達も息を呑んで彼の言葉を待っている。烏間は「警視庁の知人から聞いた話だが」と前置きして口を開いた。

 

「この小さなリゾート島、普久間島は実は「伏魔島」と呼ばれ密かにマークされている。無論、学校が手配したこのホテル含めほとんどのホテルは真っ当だ。だが、あの山頂のホテルだけは違う。国内外のマフィア勢力やそれに繋がる財界人、あるいは政界の人間が盛んに出入りしていると聞く。南海の孤島も相まって政府や警察が手を出しにくいのを良いことにな」

「……そういうの、実在するんだ……」

「ああ。違法に武装した私兵が警備する中で、表には晒せない商談やドラッグパーティーなんかが毎晩繰り広げられていると聞く。政府高官ともパイプがある故に警察でもそう簡単には摘発出来ないらしい」

 

 聞けば聞くほど黒い話に生徒達は眉をひそめた。そして誰かは殺されたくないと怯え、誰かは意地の悪い犯人に怒り、誰かは看病に動いている。明らかに打つ手無しの状況の中、口を開いたのは神崎だった。

 

「でも、ある意味これって話がシンプルになったんじゃないかな?」

「……どういうこと?神崎さん」

「さっきまでは突然皆が倒れてどうすれば良いか分からなかったけど、今の話で犯人の手段も、目的も、居場所も全部割れたんだよ。相手が「ウイルス」じゃなくて「人間」なら、勝ち目があると思わない?」

 

 その言葉に、生徒達は俄にその目を見開く。そしてそれと同時にいつの間にか姿を消していた志御はノートパソコン片手に戻ってきていた。

 

「はっ、上手く焚き付けやがって。私の出る幕無しかよ」

「……志御さん、それに律さん、まさかそれって……」

「はい。普久間殿上ホテルのコンピュータから内部の図面と警備の巡回データをコピーしてきました」

 

 志御のノートパソコン内でピースする律。そして志御は良く通り、感情を掻き立てるその声で言い放つ。

 

「目に物、見せてやんぞ」




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