浅野学秀の双子の妹がエンドのE組に入った話   作:あるふぁせんとーり

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第57話 罠の時間

「おいおい、いいのかよ。悪人どころか人の目すら見れない陰キャ揃いじゃんか」

 

「そうでしょうねぇ、志御さん。真っ当な場所ではないというのはさっき言った通りですが、それは彼らも百も承知。下手こいてトラブルを起こしてしまうのは最も避けたい事態なのでしょうね」

 

「ならいんじゃね? むしろ警戒しなきゃいけない敵は少なくなってるってことでしょ」

 

「まあ烏間先生もいるしね……」

 

 

 茅野が呟くと同時に、「そうだそうだ」と前に出る寺坂と吉田。

 

 気付いた烏間が制止しようとするも、彼らはそれを振り切って先を急ぐ。

 

 

「この感じなら楽勝だろ! さっさと行こうぜ!」

 

「そもそもこんなちんたら行ってる時間もねーしな!」

 

「待て、万が一──」

 

「あっ、あれ!!」

 

 

 そして彼らの急ぐ先、一つの人影を見つけた不破が寺坂の方へ叫ぶ。

 

 アロハシャツに短パンで、よそ見をしながらハミングする男。

 

 志御の記憶に映ったことは、ただの一度もない。

 

 

「ならあいつか……!」

 

 

 彼女が呟いた瞬間、男はマスクを着け、懐から一本のスプレー缶を取り出す。

 

 吹き出したガスが寺坂と吉田を直撃しようとしたその刹那、二人を突き飛ばし間一髪で身代わりとなった烏間が、その噴射を真正面から受け止め、スプレー缶を蹴り飛ばした。

 

 

「チッ……!」

 

「志御、あの人、どういうこと……!?」

 

「私と神崎、そんで律はずっと一緒にいた。その上で二人……いや、三人とも感染してないってんなら必然的に私達と接触してない奴が犯人のはず。んで不破、お前あいつの顔見覚えあんだろ?」

 

「当然よ。あのおじさん、ホテルでサービスドリンク配ってた人だもん。クラス単位で感染するにはあのサービスドリンクか水上ディナーかの二択だけど、ディナーを食べずに編集してた三村君と岡島君が感染して、あの場にいた志御さんと神崎さんが感染してないってことはサービスドリンクで確定。よって犯人はあなたよ!! おじさん!!」

 

「くっ……名推理だな」

 

 

 「だが、それだけだ」と不敵に笑う毒ガス犯。

 

 何がおかしい、渚がそう言いかけた次の瞬間、烏間が堪えきれず、その場に膝から崩れ落ちた。

 

 

「……なるほど。これほどまでに実用性を重視した毒物は久々に見ましたね」

 

「ああ。俺特製の室内用麻酔ガスだ。効果は一瞬だが、その一瞬で象すら壊す。そしてその一瞬で外気によって分解され、証拠も全く残らない」

 

「はっ、合理的だな。そりゃあんなウイルスも作れるわけだ」

 

「どうだかな。だが、これでお前達に交渉の意思が無いことは充分分かった。俺は帰ってボスに報告するとしよう」

 

「私達もよく分かったよ。……あなたが、悠長だって」

 

 

 神崎がそう応えると同時、男はその致命的な悪寒に背後を振り返る。

 

 しかし、男が来た道は既にインテリアで簡易武装したE組生徒達によって封鎖されていた。

 

 

「っ……いつの間に……!?」

 

「日頃の、鍛錬の成果だ……!どうやら貴様は、我々を──」

 

 

 ふらりふらり、おぼつかない足取りながらも再び立ち上がる烏間先生。

 

 そして彼は僅かに、脚に力を込めた。

 

 

「──見誤ったようだな……!!」

 

 

 刹那、あるいは文字通りの瞬間。

 

 放たれた強烈な膝蹴りが男の顔面に直撃し、幾つもの歯を伴って、その身体を壁へと叩きつける。

 

 

(でも、それでおしまいだろ……? お前の引率もここまでだぜ……先、生……)

 

 

 そして、男の意識が消えると同時、烏間も再び崩れ落ちた。

 

 

「先生!?」

 

「大丈夫!?」

 

「っ……少々無理をした……おそらく歩くので精一杯……戦闘に戻るには、30分は見てくれ……」

 

「30分で戻れるんだ……」

 

「バケモンだな」

 

「っていうか、あれ象に効くレベルなんだよな……?」

 

 

 改めて自分達の教師の人外ぶりを再確認しながら、E組は先へ進んだ。

 

 満身創痍の烏間先生の肩は、学級委員の頼れるナイスガイ、磯貝が支えている。

 

 三階を突破した彼らの間に満ちる空気は一抹の不安。

 

 殺せんせー、烏間先生、ビッチ先生……自分達を導いてくれる、熟練の力を持った大人(プロ)はもう頼れず、代わりに自分達の障害として立ちはだかってくる。

 

 どうすればそれを越えられるのか。

 

 皆の思考が自然と揃う中、一つの声がその静寂を切り裂いた。

 

 

「いやぁ、盛り上がってきましたねぇ」

 

「……」

 

「これこそ夏休みといった感じ、皆さんの忘れられない思い出になりますよ」

 

「……」

 

「ああ、夏休みで思い出しました。皆さん宿題は順調ですか?もし終わっていなかったらそれはそれはきつ〜いお仕置きを──」

 

「渚、ブン回せ」

 

「んにゅやぁぁぁッッッ!!!???」

 

 

 脳天気な殺せんせーに、皆のヘイトが一極集中する。

 

 それも当然。

 

 1人だけ絶対的な安全が約束されている防御形態になっている奴がこれをほざいているものだから、これがどれだけ腹が立つか。

 

 

「……あ、寺坂。これケツに入れたままウンコ漏らしてもらうことって出来る?」

 

「出来るか!!」

 

「……ともかく、なんでこれが夏休みって感じなの? 殺せんせー」

 

「簡単ですよ。夏休みとは、生徒達が自分の手で何かを成し遂げる場だからです。先生と生徒は常に一緒に在るべきものではありません。時には先生の力が及ばない場所で、生徒達が学んだことを活かして挑戦をする。それこそが教育のあるべき姿なのですから。ヌルフフフ、心配する必要はありません。私も烏間先生もビッチ先生も君達をちゃんと信用してこの場に送り出しているんです。この「暗殺夏休み」を、君達ならクリアできると」

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