浅野学秀の双子の妹がエンドのE組に入った話   作:あるふぁせんとーり

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第59話「被害者の時間」

 普久間殿上ホテル6F、テラス・ラウンジルーム。

 

 息を潜めて先へ進むE組とは真逆、酒に煙草、違法薬物(ドラッグ)に溺れた世間知らずで怖い物知らずな若者達が踊り明かす。

 

 その入口は当然のように私兵によって監視され、到底「はいどうぞ」とあっさり通れるような雰囲気ではなかった。

 

 

「どうすんだ? 殺せんせー。非常口使おうにもカギ必須だぞ」

 

「そうですねぇ……いよいよ警備の目も多くなってきました。このまま揃って行動してもより怪しまれるだけかもしれません」

 

「この15分で新たに17人の警備が追加されているのを確認しました。加えて電波妨害……発見はされていませんが、タイムリミットに向けてセキュリティの方は一層強化されています」

 

「別にいいよ。結局やることもシンプルだし」

 

 

 カルマはナイトプールを囲う植木に隠れながら、ガラス越しに中身を覗く。

 

 位置的には丁度真反対、ダンスミュージックの鳴り響くパーティルームを抜けた先に7階へと続く階段、非常口が待ち構えている。

 

 そう。

 

 問題は簡単だ。

 

 バレずに非常口を開け、7階に上がる。

 

 今の関門はそれだけでしかない。

 

 

「いいこと思いついた」

 

 

 志御が口を開いた。

 

 

「男子は全員非常口で待機。ここ、女子だけで行くぞ」

 

「待って、それは志御さん達が危険過ぎるよ……!」

 

「ヌルフフフ……そうとも限りませんよ、渚くん」

 

「そ。人間ってのは割といつでも欲に正直な生き物なんだよ。金に目は眩むし、若くて可愛い女の子にはどうしても評価が甘くなる。んで、それはこういう場所ほど顕著なんだよ」

 

 

 そう言って志御はポケットから適当なアクセを取り出すと、草むらを出て入口を警備するスタッフの方へと軽い足取りで歩いていく。

 

 

「すいません。これ、プールサイドに落ちていたのですが」

 

「落とし物……ありがとうございます、後でフロントの方に届けておきますので」

 

「はい。よろしくお願いします」

 

 

 一切波風立てることなく、テストプレイを果たして戻ってきた志御。

 

 スタッフの視線は彼女を追うこともなく、落とし物をポケットに入れるなり再び暗い夜の虚空を見上げている。

 

 「ほらな」と彼女は軽く笑った。

 

 

「なるほど、これなら大丈夫そうだね」

 

「で、今行けるのが7人……3、4でもいいけど、時間考えると三手くらいには分かれたいし、どうにか男手も欲しいね」

 

「そうね、どこかにチェック抜けられるくらい女の子っぽい男とかいないもんかしら……」

 

 

 片岡に頷き、わざとらしく頭を捻る不破。

 

 それに同調するようにE組は次々に悩み始め、次第にその視線は予定調和のように1人の少年へ注がれる。

 

 

「……ま、待ってよ皆……? 一回話さない……?」

 

「つーかまーえた」

 

「カルマくん!?」

 

「衣装、拾ってきたよ」

 

「神崎さん!?」

 

「メイクは……別にいっか」

 

「志御さん!?」

 

 

 そして渚はどこの誰のものかも知らないガールズファッションを押し付けられ、ぽいっと別の茂みへ放り出される。

 

 もはや他の選択肢はなく、顔を真っ赤にして「これもE組のため、これもE組のため……」と自分に言い聞かせながら彼は1人、服を脱ぎ始めた。

 

 

「で、もう1人欲しくない?」

 

 

 そして、爆弾が投げ込まれた。

 

 一連の流れで味を占めた不破が、二次創作だし大丈夫よねと追撃を仕掛けたのだ。

 

 戦力増強、しかも楽しいということで女子勢は乗り気。

 

 ついでにカルマも乗り気。

 

 

「で、誰にす──」

 

「お前」

 

「……は?」

 

「お前」

 

 

 次の瞬間だった。

 

 志御がカルマの肩を掴んだ瞬間、視線は一気にカルマをターゲットとしてロックオン。

 

 日頃の恨みか、彼を救おうとする者は1人もおらず、殺せんせーですら「青春ですねぇ」とニヤニヤ舐めプ顔で見守っている始末。

 

 カルマが必死に振りほどこうにも、シンプルな膂力において烏間先生以外の全員に対して完全有利をつけている志御に対して腕力比べで対抗できるはずがなく、カルマはあっという間に押し倒され、シャツにインナー、ズボンから靴下に至るまでを容赦なく脱がされていく。

 

 最終的にパンイチまで脱がされた彼は流れ作業で軽いメイクを施され、エクステを付けられて、神崎が拾ってきたミニスカドレスを押し付けられて渚と同じように近くの茂みにぶん投げられた。

 

 

「……大丈夫? カルマくん」

 

「なんていうか、その……ごめん、渚くん」

 

「き、綺麗なカルマくんになってる……!?」

 

 

◇◇◇

 

 

「いや、てかスカートってこんな心許ないんだ……?」

 

「ほら。早く歩いて、カルマくん」

 

「あと喋んな。声でバレるから」

 

 

 茅野、渚、不破のチームアルファ。

 

 岡野、片岡、速水のチームブラボー。

 

 志御、神崎、カルマのチームチャーリー。

 

 三手に分かれてダンスホール内を捜索し始めた彼女達。

 

 内気で無口で恥ずかしがり屋なお嬢様、という尊厳破壊にも程がある設定を押し付けられたカルマの手を神崎が引き、その後ろからカルマを挟むように志御がついていくといった陣形で彼女達は進んでいく。

 

 

「……さっきより増えてるね、監視」

 

「ああ。向こうの目的考えたら、取引に来た私等を無理矢理捕まえて全部奪うのが最高効率だかんな。ハナから取引なんてするつもりないだろ」

 

「しかもこれ、当たりは一個だけのパターンかも」

 

「はっ、クソ怠いな、それ」

 

 

 会話内容は一旦置いといて、令嬢然とした彼女達の仕草は享楽に耽け、無法に溺れるダンスホールの中で異様な空気をまとっている。

 

 ナンパやお誘いなどもなく、むしろ彼女達が通る瞬間は極々自然な沈黙が流れていた。

 

 

「あっは。どうしたんだよカルマ、そんな顔赤くして。ナンパでも期待してたのか? 向こうの渚、絶賛口説かれ中だぜ」

 

「んなわけ……」

 

「大丈夫、今のカルマくんは充分可愛いよ」

 

「はい、同意します。それと、このホテルの本来のシフト表を手に入れました。ここに掲載されている名前を探せば、その人物がカギを持っている可能性が極めて高いです」

 

「おっけ、片っ端から殴るか」

 

「レアドロップ狙いだね」

 

 

 志御との共同作業魔改造によって並大抵の妨害電波程度なら余裕で防ぐようにまで進化した律in志御スマホの提示する情報に従い、2人は思ったよりも羞恥心で役に立たないカルマを連れて先へ進む。

 

 渚グループ、岡野グループにもすれ違いざまにその情報を共有し、分かれて虱潰しに探していくと、最後1人残ったスタッフはダンスホールの片隅でビールを煽っていた。

 

 

「一瞬で行きたいな……志御、何か注意引けそうなのある?」

 

「そんなこともあろうかと、ってな」

 

 

 笑いながら上品なハンドバックから無害なタイプの発煙筒とライターを取り出す志御。

 

 それを確認すると、神崎はカルマの手を離し、「行っていいよ」と声を掛けた。

 

 

「数えるね。3、2、1」

 

「ごー」

 

 

 気の抜けるような掛け声とともに志御は火を付け、転がすように思いっきりぶん投げる。

 

 しかも無害なだけでやたら煙の濃いタイプのそれはあっという間にダンスホールをパニックに陥れた。

 

 そしてその煙の中、ドレスを纏ったツインテ美少女カルマくんは煙の中で慌てるスタッフに近づいていく。

 

 

「……!? な、なんだ……!?」

 

「……ごめんねおじさん。俺今めちゃくちゃ──」

 

「────ッッッッ!!!???」

 

「──変な気分だから」

 

 

 カルマの渾身の蹴り上げが、スタッフの股ぐらに完璧なコースで炸裂した。

 

 もはや声すらまともに出せずに悶える彼の身体をまさぐり、見事非常口のカギを回収した彼は、合図のように手をタタンと叩く。

 

 パニックの中のその僅かな音を聞き逃さず、非常口前へ集合するE組9人。

 

 カルマは髪を耳にかけながら、非常口のカギを開けた。

 

 

「お疲れ様。派手にやったな、お前ら」

 

「志御さんだよ、発煙筒ぶっ放したの」

 

「ヌルフフフ……確かに火薬は役立ちますが、使い方を間違えるととても危ないことにもなってしまいます。二学期は暗殺にも取り入れていきたいですねぇ」

 

「ともかく、これでまた一つ黒幕に近づいた。今は先を急──」

 

 

 そこまで言いかけた烏間先生の目に、かわいそうな2人の男子中学生の姿が映る。

 

 彼は僅かな憐れみとともに、口を開いた。

 

 

「……準備が出来たら言ってくれ」

 

「……ありがとうございます、烏間先生……」

 

「……」

 

 

 そして2人は着替えを抱え、目を見張る速さで近くのカーテンへ飛び込んだ。




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