浅野学秀の双子の妹がエンドのE組に入った話 作:あるふぁせんとーり
「授業途中で失礼す──」
昼前、防衛省からの連絡を携えてE組を訪れた烏間。やけに騒がしいな、そう思いながら扉を開けた彼の目の前にはいつも以上の阿鼻叫喚が広がっていた。
「無理無理見えないって!!」
「クッソ殺せねえ!!」
「おいおい最悪だな!!クソゲーにも程があるっての!!」
「ヤバすぎだろはぐれ先生!!」
「これ狙うより当て勘の方が早えなさては!!」
「流石に潜るのはズルいよ!!」
教室を四方八方縦横無尽に、烏間の鍛え上げられた動体視力を持ってして辛うじて捉えられる程の速度でゴム毬のように跳ね回る、溶けたスライム状の殺せんせーと、それに翻弄されっぱなしの生徒達。生徒達にも狙い撃とうという意思はあるが、それ以上に目の前で起きている事態への理解が追いついていない。照準を合わせるのさえ一苦労どころか不可能といった状態だった。
「カルマ、お前殺せんせーは自分が殺すとか言い切ったらしいじゃん?その権利ここで使えよ」
「流石の俺でも今の殺せんせー殺す自信はないなぁ」
「だよな」と二人は顔を見合わせてヤケクソ気味にケラケラ笑う。最早二人共目の前の現象に対して「やべー」以上の感想は抱けなかった。そしてそうこうしている内にも液状を活かして床を抜け壁を抜け天井を抜け暴れ回るはぐれメタル状態の殺せんせー。こうなってしまってはもう収まるまで誰にも手はつけられない。烏間は、やれやれ、とため息を吐いた。
◇◇◇
「……というわけでして……」
「……なるほどな」
事の発端である奥田から一通りの話を聞いた烏間は静かに頷いた。殺せんせーに自分で調合した薬品を飲ませたこと。それは効かず、代わりに殺せんせーが一緒に殺せんせーにも効く毒薬を作ってくれたこと。けれどそれは実際は毒ではなく、殺せんせーを活性化させてしまう薬品だったこと。化学に一辺倒であった彼女の暗殺は、ある意味では当然の失敗だった。
「……そうだな。やつの言う通りだ。馬鹿正直に毒を毒と渡されて、それを素直に飲む愚か者はいない」
「はい……だから私、国語も頑張ろうと思います!自分の毒を活かすために……!」
「ああ、精進してくれ」
そう言って烏間が励ますと、奥田は「はい!」と嬉しそうに答える。そして彼らが話し終えたタイミングを見計らって倉橋陽菜乃は烏間に声を掛けた。
「それで烏間先生、今日は何しに来たの?」
「ああ、実は新しく英語の臨時教師が加わることが決まってな。君達にそれを知らせに来た」
「えー、どんな人?」
「すまないが、それについてはまだ明かせない。「暗殺」に関わることだからな。当日までのお楽しみということにしておいてくれ」
「それでは失礼する」と烏間は伝えるべきことは伝えたと教室を去っていく。「仕事人キメてんなぁ」と志御はそれを見送った。あと、「絶対倉橋って烏間先生好きだろ」なんて思ったりもした。
◇◇◇
そして数日経って5月頭。椚ヶ丘学園最寄り駅、椚ヶ丘駅を出たところで志御は悪質なナンパに絡まれている外国系の美人を見つけた。二十代前半、いや二十丁度くらいだろうか。そしてその抜群のプロポーションを囲んでいるのは男数人。「朝からキモいもん見るのもな」と志御はスタスタと彼らの背へ寄っていった。
「警察署ならすぐそこだぜ?おっさん」
意地の悪い笑みを浮かべながら、彼女はフードを被ったチンピラの背を叩いた。気付いた彼は振り向くと、心底苛立ったような顔をした。当然だろう、せっかくスタイル抜群の美人を好き放題するチャンスだったのだから。しかしそれを邪魔した目の前のガキに手を出そうにも、そいつが言っている通りに警察署は叫べば聞こえてしまう範囲にある。彼らは「邪魔しやがって」と吐き捨てると、スタスタと何処かへ去っていった。
自らを落ち着けるように少しゆっくりと呼吸する彼女に志御は「大丈夫?」と尋ねようとしたが、一瞬それを止めて思考した。顔立ち的にはロシアとかウクライナの東欧、要はスラブ系。じゃあロシア語かな、と志御は口を開いた。
「
「……え?」
あー違う、じゃあウクライナ?そんなことを考え、志御は咳払いする。
「
彼女はかなり驚いたようにパチパチと瞬きすると、少しの間の後に「日本語で大丈夫、です」と答えた。「なーんだ」と志御はもう一度ケホンと咳払いして「お姉さん何でこんなとこ来たの?」と首を傾げた。
「仕事とか?」
「実はそうなんです。教師の仕事でこっちの方に」
「へぇ」
やけに綺麗な日本語の発音。話し慣れているとかではない。明確な目的の為に習得された練度。教師、ということは語学か。それと同時に、反射的に思い出す数日前の烏間先生の「英語の臨時教師が来る」という話。そして何より、妙にあの教室に似た雰囲気。それらが無意識に結びつき、直感として志御に伝わる。「あー、そういうことか」、と論理の飛躍としか思えないほどのスピードで辿り着き、志御は口を開いた。
「殺し屋?」
志御の言葉に、瞬く間に彼女の顔は慣れない外人から鋭い仕事人のそれに変わった。はあー、とため息を吐き、その瞳が志御に向けられる。
「ってことはアンタ「E組」ね?」
「あたり」
「なら丁度良いわ、E組まで案内しなさい。私はさっさと百億貰わないといけないの」
志御が「うわ態度急変かよ。こちとら初対面だぜ?」と笑いながら返すと、彼女は「敬語も使えないガキには十分でしょ」と答える。
「百億取んだろ?なら一万で良いぜ」
「良いわよ、そんな端金」
「まいどありー」と軽口を叩き、「あの山のとこな」と志御はE組の旧校舎を指差す。「随分面倒なとこに立ってるのね」とため息を吐く彼女に「案外住めば都ってやつだぜ」と笑って答え、志御は彼女の道案内を始めた。
「あ、言っとくけどヒールはクソキツいからな?」
◇◇◇
「……というわけで、本日から君達を教えることになる英語の臨時教師を紹介する」
「イリーナ・イェラビッチです、皆さんよろしく♡」
いかにも「あなたにゾッコンです♡」と言わんばかりに殺せんせーにベッタリとくっつきながら挨拶するイリーナ。「わ、猫被った上で盛りまくってんじゃん」と志御が呟くと、カルマは「マジ?どれくらい?」と興味深そうに尋ねる。
「今のあれが10だとするじゃん?どう少なく見積もったって30は行くぜ」
「マジか、マジもんの「ビッチ」じゃん」
「はっ、違いねえな」
「ビッチ先生で決まりだな」と後ろ二人が嗤う中で、他の生徒達も「めっちゃ美人だな」「おっぱいでっか」「なんでベタベタしてんの?」「巨乳滅ぶべし」「どうせ変な先生だろ」と思い思いの感情を浮かべる。そして前から2列目に座る渚は日に日に着実に溜まっていっている殺せんせー弱点メモを開いていた。理由は簡単だ。誰がどう見たって、殺せんせーがおっぱいにデレデレになっているからである。
「……っていうか、人間もイケるんだ……」
そんなことを呟きながら、渚はメモ帳に、少し恥ずかしいながらも「おっぱいに弱い」と書き込んだ。
「それにしても素晴らしいお方……そのゴマ粒のようなつぶらで愛らしい瞳、ぐねぐねと縦横無尽で曖昧な関節、輝く満月のような丸い頭……ああ、全てが私のドストライクですわ♡」
「いやあ、生徒の前でお恥ずかしいですが、こうも褒められるのは悪くありませんねぇ」
(んなの嘘に決まってるだろ!!)と生徒の殆どの思考が揃っていたが、それと同時に志御とカルマ以外の25人も気が付いていた。こんな中途半端な時期にこの
◇◇◇
「……だから、朝一でバレた時は少し驚いたわ」
「ああ、彼女の直感は馬鹿にならん。危うく俺でも隙を突かれそうになることがあるくらいだからな」
「でも、結果としてはここまで想定内。……まさか、あの怪物にも色仕掛が通るとは思わなかったけれどね」
「……ああ、同意する」
「けれど、通るならこっちのモンよ」
そう言ってイリーナは窓を眺めながらタバコに火を付ける。その外では殺せんせー対生徒達での暗殺サッカーが行われている。けれど彼女はその異常性を取るに足らないものだと嗤うかのように煙を吐いた。
イリーナ・イェラビッチ。実に10ヶ国語をネイティブ顔負けで操るコミュニケーション能力と人の目を惹く美貌を用いてどのような
めちゃめちゃ喜ぶので高評価よろしくお願いします!