宝石の国Any%RTA フォス生存&月人消滅チャート   作:あじまる

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#3.5 月のしずく

 

 行き詰まりだ。

 

 一万四千五百十四回目の人間合成実験も失敗に終わり、私は執務室の机に突っ伏して目を瞑った。

 

 コンウァラリウスの嘆願を受け、アドミラビリスを月へ誘致してからはや40年。協力的(・・・)になったアドミラビリスによって、人間を合成する試みは成功に大きく近づいたかに思えた。しかし、いくら肉体から設計図を抽出しようにも、所詮肉の末裔、人間の三分の一でしか無かったためか、産まれるのは不完全な肉片のみ。魂の定着などもってのほかだ。このままでは金剛を動かす人間は造れない。

 

 つまり、アドミラビリスの確保はぬか喜びに過ぎなかった、という訳だ。合成実験の件は民衆に周知せずにおいて正解だった。目先にぶら下げられた餌を取り上げられるときが、最も喪失感を感じやすい。

 

 

 やり切れない思いを酒と共に飲み込み顔をあげれば、報告用のポップアップが目の前に浮いていた。少しばかり驚いたあと、指で押しウィンドウを開く。

 

「王子、先程地上より偵察部隊が戻りましたので、ご報告申し上げます」

 

「ご苦労だった。聞こう」

 

 服装を整え(尤も、フォーマルな物に変化させただけだが)居住まいを正す。

 

「はっ。今回の偵察にて、以前より目にかけておられたフォスフォフィライト及び、新しく産出されたであろう新種を確認しました。攻勢をかけた部隊は金剛の攻撃にて散じましたが、観測用偽装幕を破っていなかった部隊より映像にてデータが上がっています。ご確認ください」

 

 画面が切り替わり映像が流れ出す。ふむ、居住区の外周か。連れ立って歩いているのはフォスフォフィライト、横にいるのが新種か。

 

 …フォスフォフィライト。宝石達の行動パターンから推察するに、未だ役割を持っていないと見える。二百九十にもなって未だ雑用すら満足に任せて貰えないとは。

 

 やはり可能性がある。人間の本質、それは変化を求める意思にこそある。その点、宝石達は不死の安寧の中に揺蕩っており、変化とは程遠い種族であると言えるだろう。

 しかし、彼は違う。誰からも役割を持たされず、社会から爪弾きにされた者はどうなるだろうか?

 

 そういう者らはきまって「何者か」になりたがるものだ。ダイヤモンドやシンシャにもそういった素養があるようだが、フォスフォフィライトは特別だ。もし彼のインクルージョンが、彼の鬱屈した心に呼応し、全てを呑み込まんとする意思を宿していたならば、或いは其れこそが分かたれた三族を集め、人間たらしめんとする可能性なのかもしれない。

 

 間食を口に入れ、少し熱くなった頭を冷やす。

 いかんな。やはり希望とは甘い毒のようなものだ。心に入り込み、判断を鈍らせる。

 

 

 映像を加速し観察を続ける。画面ではフォスフォフィライトが新種を案内している様だ。

 ふむ、フォスフォフィライトが年長としての

「役割」を得ようとしている、と言った所か。

 

 

 悪くない。追い越されるかもしれないという不安は、意識を変化へと導く。もし彼がフォスフォフィライトを安寧の内から追い立てるならば、彼が人間となる可能性は高まるはずだ。

 

 画面を拡大し新種を分析にかける。とても白く、それでいて薄く青い、月のような輝きを持つ宝石。これはパール、いやアノーソクレースか?

 ふむ、屈折率が違うな。ダイヤモンド属か。乳白色の光は含有した不純物によるものだろう。幸運だ。さしずめホワイト・ダイヤモンドか。

 ダイヤモンド属の宝石は皆一芸に秀でる。上手くフォスフォフィライトの自尊心を崩してくれる事だろう。

 

 

 

 そこまで分析した所で、画面が慌ただしくなる。どうやら別働隊が攻勢を仕掛けたようだ。

 軍部にフォスフォフィライトを注意して観察する様申し付けて以降、初めて直接狙える位置まで出てきた為か、浮き足立ったな。だが、彼にとって良い刺激になるだろう。

 

 矢の雨に晒されたフォスフォフィライトをホワイト・ダイヤモンドが庇う。やはり産まれたばかりか、防ぎ方がまるでなっていない。すぐにでも割れそうだな。

 

 

 目の前で後輩が砕ける様は彼をさらなる変化へと突き動かす筈だ。

 

 

 

 

 今しがた投槍にて貫かれたホワイト・ダイヤモンドが映し出されたところで、私は画面を見つめ、目を疑った。

 

 今にも二つに裂け崩れ落ちそうな彼の胴体から金色の液体が溢れだして、幕のように広がり矢を防いだのだ。

 

 なんなんだ、これは。シンシャやオブシディアンのような体積以上に物質を生成できる宝石は観測されていたが、いずれも元となった物質の特性に準じていた。こんな脈絡の無い特性はいままでに存在しない。

 

 凄まじい跳躍力で船の上を取ったホワイト・ダイヤモンドを食い入るように目で追う。

 

 恐らく合金であろう物質を多量に放出、操作しながら、宙に浮いた船をも飛び越す脚力。船へと着地した彼は、合金で出来た四本の腕を振り回し続け様に四人を散らした。

 だが、稚拙な戦い方で限界が来たのだろう。苦し紛れに割れかけの腕を引きちぎって振り回し、さらに四人を散らしたところで、槍に貫かれかけ、金剛の攻撃によって戦闘が終了した。

 

 少しして、上空から落ちて来たホワイト・ダイヤモンドが、金剛の目の前で白い華を咲かせた。砕けた身体から合金が流れ出し、そして白い粉になって散っていった。

 

 なに?

 

 映像を止めて、霧散していく合金を拡大して解析する。既存の宝石が生み出した物の様に物質として残っていない。まるで我々のように塵になり消えていっている。

 

 合金と塵の境目をさらに拡大して解析する。

 この「完全に混ざりあった明るい灰色」には見覚えがある。

 

 

 これは、月の砂だ。

 

 だが有り得ない。

 何故この宝石の体から月の砂が?

 我々の船に付着していた微量の砂が地上に堆積し、地盤の中でダイヤモンドを依代として再び集まったとでも言うのだろうか。まるで亡霊だ。

 

 しかしそもそも、現時点での研究結果から見てもあそこまで挽きならされた塵は宝石として機能しない。含有されたインクルージョンは位置情報以外を持たず、生命体として振る舞う事は無いはずだ。

 なにか、インクルージョンに指向性を持たせる核のようなものが存在しているのか?

 

 

「お、王子。申し訳ございません。先走って攻撃したものについては至急処分を行います!」

 

 

 報告してきた通信士の声で思考から引き上げられる。

 

「いや、処分は必要ない。散じた者たちはしばし休養させなさい。新種については呼称をホワイト・ダイヤモンドとし、優先観察対象へ加える。」

 

「は、はい!」

 

 通信を切りポップアップを霧散させる。

 

 あの宝石について、未知のことが多すぎる。一旦は情報を集める事に徹する。

 だが、フォスフォフィライトへの影響という点においては期待以上だ。ホワイト・ダイヤモンドが優秀な後輩だと言うことはわかった。彼との交流はフォスフォフィライトの変化を促すだろう。

 

 

 それに、彼はもう一つ、私に贈り物をくれた。

 パール、すなわち真珠だ。

 

 我々の技術で作る合成真珠と違い、原種真珠はアラゴナイトとタンパク質からなる多層構造。この構造に手を加える。

 タンパク質を合成人間の肉片へと変更し、私の魂の一片を混入させ、種をつくる。それを一定程度まで合成真珠と同じ方法で固定化し、アドミラビリスの体内へ挿入し、成長させる。こうして肉の一族の一部で多層構造を作ることで、魂を内側に閉じ込め、強制的に定着させる。

 あとは、この真珠を宝石の肉体に埋め込み、上手く動作すれば、三族を手に入れた擬似人間となる事だろう。

差してきた光明に思わず口元が緩む。

 

 まずは真珠の生成だ。体内で殻を生成することはアドミラビリスにとって凄まじい負担になるが、これは王族に担当してもらおう。

 

 アドミラビリスの受け入れ時に、コンウァラリウスは自身とそれに連なる王族の実験へと協力を担保として、移住を請願した。コンウァラリウスは既に死んだが、その娘はすでに後継を残していると聞く。王族が絶える恐れは無くなったので、実験に使うのは役目を終えた娘が適任だろう。

 

 宝石への適合は、アドミラビリスに喰わせることで殻素材との親和性を高めて定着を促せばいい。一度アドミラビリスの体内を通過すれば、インクルージョンも貝殻を同質として認知するはずだ。

 時期的に真珠の完成と同時に動く事になる。宝石を喰う役目は、成長したコンウァラリウスの孫娘が適任か。

 

 

 急速に考えがまとまる。私は各方面に指示を出すべく執務室を出た。

 

 

 ああ、暗く輝く希望が見えるぞ。

 




おま○け

フォスフォフィライト
人間を人間たらしめるのは「真実に向かう意思」だと思うわけ。
故に人間の要素を持つものはどこかへ「向かう」ことを辞められないんやな。

ホワイト・ダイヤモンド
体内の白色は月の砂だった…?
本来は粉まで行くとインクルージョンは休眠するんですが、そんなもん大量に体に入っててなんで動けてるんですかねぇ(すっとぼけ)


エクメア
天啓キタコレ!魂定着した真珠作れそうやし、完成楽しみやなぁ。ホワイト・ダイヤモンド?なんであれで動いてるんや怖いわぁ。

真珠
養殖真珠って、知ってるかな?
身体の中に尿路結石ブチ込まれて成長させられるのは痛いですね、これは痛い(迫真)
おいたわしや母上。
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