「<煌海機ラファエル・グロワール>でアタック」
「ぐっ……!」
「エンマ、次のターンで終わりだ」
「いや、それなら俺はこのターンで終わらせてやる!」
グラウンドに現れた金属製のゴーレムともロボットともいうべき巨体が刃を振るえば、ステンドグラスのような色鮮やかな軌跡を残し、エンマのライフを削った。実物大に投影されたモンスターこそ精霊ファイトの醍醐味。自分のカードたちが動く姿を見られるのは千人に一人の選ばれた"精霊憑き"の特権で、皆の憧れの的だ。めっちゃ羨ましい。せっかく転生したなら精霊憑きになって片っ端から勝負しかけて、スゴイぞーカッコいいぞーしてみたかった。残念。あと精霊を呼び出したからといってファイトが強くなるわけじゃない。そのため互いのライフに後がないほど二人のファイトは拮抗していた。
「いくぜ、<烈豪ライガー>を<烈豪アンストッパブル・ライガー>に"エクシード"!!」
強力なモンスターを呼び出すには段階を踏む必要がある。低ランクのモンスターに高ランクのモンスターを重ねていくことが"エクシード"。エクスファイトの要だ。蒸気を噴き上げる四足歩行の機械がより大きく重厚に変形する。金属を擦り合わせた甲高い音が、ライガーの咆哮となって響き渡る。
「<烈豪アンストッパブル・ライガー>はブロックされない!いけぇ!」
「甘い。ブロックができなくても、攻撃そのものを止めてしまえばいい。スペルカード<海王の泡擁>発動!アンストッパブルライガーをレストだ」
「くっ。けど、甘いのはそっちだ!<炎岩武グラニット>が残ってる!パワーじゃラファエルを超えられねえけど、効果を発動だ!」
モンスターが行動不能にされても、エンマは逆転の目を感じているらしい。メカ・ビースト主体の<烈豪>デッキにグラニットがいるのは置いといても、その効果は条件付きの毎ターンドロー効果と非常に頼もしく、問題は打破できるカードを引けるか否か。
「俺のデッキにはレストを解除するカードが3枚ある。デッキは残り21枚。そのカードを引く確率はいくらでしょうか?」
「……」
「答えは……もちろん100%だ!ドロー!」
カイトは掛け合いにも応じず、口を閉ざしてドローを見守った。エンマは多数の渦巻いた炎が描かれたカードを見せつけるように高く掲げ、にやりと笑みを浮かべた。
「来たぜ、<炎王の号令>!これで終わりだ!」
「ああ……終わりだエンマ。お前が追加でドローをしたおかげで、発動条件が満たされた。<凶兆の防波堤>で<炎王の号令>を打ち消す」
「なに!?」
カイトは手札を一枚、迷いなく公開した。グラニットをあえて残す算段をしたのは、エンマなら逆転のカードを引きにいくという信頼でもあったかもしれない。思考を読み切り判断を誘導したのはカイトだ。エンマはカイトの掌の上で踊り、たった今握りつぶされた。もう打てる手はなくなった。
「ラファエル、終わらせろ」
「ぐ、うわあぁぁぁぁぁ!!」
実体はなくとも、対戦相手には容赦なく痛みを与える拒絶の刃が振り下ろされた。眼前に迫る刃の迫力を前にエンマは何を感じただろうか。エクスファイトが興行になるのも理解できる。多様なモンスターが動き、殴り合う臨場感はどんなスポーツやCGでも及ばない。時にその臨場感が反転し、大きな恐怖を与えることになっても、さながらコロッセオの剣闘士を取り巻く観客のように人は声を上げる。地面に倒れるエンマと、それを一瞥もしないカイト。明暗が分かれた二人にギャラリーが集まってきた。
「すげぇ!精霊ファイト初めて見た!」
「うわぁー、エンマ負けたなー。惜しかったな!」
「カイトくんの精霊だよ!」
「……カイト、待ってくれ!」
皆が一様に騒ぐ中エンマの張り上げた声が響き、静まった。皆の視線が二人に注がれていた。
「やっぱり教えてくれよ、カイト」
「……」
「お前とやるファイトが一番楽しいんだ。それができなくなるなんて、俺、嫌だよ」
心の距離はどれほどだろうか。腕の支えで体を起こしたエンマの声が曇り空に拡散していった。
「カイト様は
「余計なことを言うなミラジュエル」
「ほっほっほ」
エンマの心情の吐露に、カイトの精霊ミラジュエルがなんとなしに返答した。ボクもエンマもピンと来なかったけど、その言葉の持つ意味をギャラリーは咀嚼し、ざわめきは尋常じゃなくなった。
「頂希中学校だって!?」
「日本で一番エクスファイトが強い、あの頂希中学校!?」
「日本プロリーグに所属する4分の1が母校としているだけでなく、カードコンサルタントや弁護士、国家公務員を数々輩出してきた、日本最高峰のエクスファイト教育機関に!?」
カードコンサルタントって何。気になる。いや誰だ最後しゃべったの。小学生と思えない語彙に振り返ると、担任の先生が腕組みしながら喋っていた。その立ち位置でいいの。
「まだ受かったわけじゃない」
「でも、目指してるんでしょー?それなら遊ぶ時間が作れなくなるのも、仕方ないかなー」
その言葉は、この場にいる皆の総意だった。納得の雰囲気が充満し思い思いに喋るなか、カイトの呟きを聞き取れた人間はいなかっただろう。
「兄さんの手掛かりが、あそこなら……」
態度の豹変には兄が関わってるみたいだ。昨日までの態度は何ともなかったし、昨日今日で何かがあったのは間違いない。頭をよぎるのは失踪の文字。飛躍しすぎかもしれないけど、ここはカードゲームが支配する世界。謎の組織など陰で渦巻く陰謀がカイトの兄を巻き込んだ可能性とか……。ボクの妄想ならいいけど。言葉を最後にカイトは離れていった。ギャラリーがまばらになっていく中、一人の男が立ち上がった。頭の横に手を付け、反動をつけてアクロバットに。
「決めたぜ。俺も頂希中学校に行ってやる!!!」
「無理よ。あんた、勉強嫌いじゃない」
「か、母ちゃん!」
決意を新たに帰宅したエンマを迎えたのは、母の強烈な一撃だった。