オレの名前は火路エンマ!夢はでっかく世界一!でもそれだけじゃない。昔テレビで見た世界大会みたいに、見ているだけで内側からエクスファイトへの気力が湧き上がってくるような、すっげー熱いファイトができるような世界一を目指してる!だけど、そんな舞台に上がってくるのは精霊憑きばっかり。だから念願の精霊が来てくれて、オレは夢に大きく近づいたんだ!近づいた、はずなんだけど……
「エンマ。お母さんが洗濯物干してって」
「うわあ!ドアから首だけ生やすな!怖えよ」
「ごめんごめん。まだすり抜けるのに慣れなくってさ」
やっと勉強から解放されてうきうきで家のストレージ漁ってたっていうのに、驚いて手に持ってたカードが散らばっちまった。あいつがオレの精霊なんだけど、オレの代わりにファイトしはじめるし、昨日のお祝いパーティもいつの間にかあいつの歓迎パーティになっちまったし、嬉しいことばかりじゃないんだ。でも料理は美味しかったぜ。また食べてえなあ。
「そのカード強いよね」
「この効果のどこが強いんだよ?」
「うん?ちょっと見せて」
狭い隙間を頭から出るみたいに、あいつは身をよじって扉をすり抜けてきた。先に真っ白な肌をした肩が見えて、慌てて目を逸らしてカードを集めなおす。ほら、人をじろじろ見つめるのってなんか失礼だろ。だけどあいつはずいっと顔を寄せてきた。ち、近いって!
「うわ、すっごく似てるけど全然違うカードだ」
あいつが最初に現れたとき、オレはびっくりしたんだ。こんなきれいな……じゃない。モデルみたいな……じゃなくて、どこからどうみても人間そっくりな精霊がいるなんて思ってもみなかったしな。しかも家に帰るまでずっとついてきたからなんだか気恥ずかしい思いもしたぜ。
「知らないカードがいっぱい。なんでこんなに多いんだろ」
そういえば、オレのことをよく観察してたって言ってたんだけど、いつからなんだ?デッキのことも知ってたし、帰るときも気が付けば先を歩いていたんだ。
「あ、そのカードボクのデッキに使えそう。取っといてよ。……エンマ?」
だけど精霊として傍にいられるのも困る。変に意識するっていうか、手元のカードに集中しようとしても文字が滑って頭に入ってこない。いやいや、自分の精霊のことだし、意識するのは普通だろ。
「なにか考え事?」
突然視界が白くなる。オレの目の前をあいつの顔が塞いだ。思ってもない本人登場に驚いて再び手に持ったカードが飛び散る。のけぞったオレをあいつはくすくすと笑っていた。し、心臓に悪いぜ。
「わざとやっただろ!?」
「ぼーっとしてる方が悪いよ?なに考えてたのさ」
「……カードのこと」
「ふーん?」
こいつもカードの精霊だし、間違っちゃいないよな?上手くごまかせたのか、黙ったオレへの追求はそこまでだった。
「今のカードがボクのデッキに使えそうだから、分けて保管して欲しいなって」
「お前もデッキ組むのか?」
話に追いつかないままの頭を回して受け答えすると、あいつは呆れたように首を振って否定した。専用の新しいデッキを一から組むんだと思ってたけど、精霊は物を動かせないから意味ないって返された。だから、オレのデッキの改造案としてカードを集めたいんだとか。って、ちょっと待てよ!
「このデッキはオレの魂なんだ!改造とか急に言われても困るぜ」
「その魂の半分でいいからさ、ボクに貸してよ」
「悪霊かよ。ライフカード1枚の代わりに入れとくから、それで我慢してくれ」
「せっかくの精霊なんだから、活用してほしいの。属性も寄せたりしてさ」
デッキに入れてほしいって話ならわかるけど、デッキの構築にまで口出ししてくる精霊なんて聞いたことないぜ。カイトに教えてもらった精霊は、表に出てこようとせず後ろから見守ってくれるような存在だったのに、ちっともカードの中に居ようとしないし、貸した部屋で寝泊まりまでするのは精霊として変だよな。
「ん、属性?」
口をついて出た疑問にあいつは体を硬直させた。オレは信じられないものを見るような目っていうのを、いま理解した。慌ててデッキからカードを引っ張ると、<灰の命運リンネ>には黒に属する証が刻まれていた。オレのデッキは赤一色だから、勘違いしてた!
「自分の精霊の属性も知らないの?」
問い詰める雰囲気に視線が逃げ場を求めてさまよう。精霊の属性を勘違いするって、なんだか失礼な気がする。まずい、このままターンを譲っちまったら、オレのデッキが改造される。しかも精霊はカードを持てないから、オレ自身の手で。
「洗濯物……」
「へ?」
頭より先に口が動いたことで、オレは活路を見いだした。
「洗濯物、干さなきゃなあ」
「干し終わってからでいいよ」
「友達と遊ぶ約束もしてたっけなあ!」
「あ、ちょっと」
カードを並び順なんて気にせず片っ端からストレージに突っ込んで、振り返ることなく部屋から飛び出したオレに向かってあいつが声を張り上げる。
「今日逃げたって、ずっと一緒なんだから意味ないよ!」
言い訳に聞こえるかもしれないけど、友達の予定が入ってるのはほんとだぜ。だからその話はまた今度な!壁から首を覗かせてじとっと見つめてくるあいつと洗濯物を干し切ったあと、スケボーをかっ飛ばして集合場所に予定よりずいぶん早い時刻に着いた。
ついにこの日がきた。スマホを押す指が震えて行ったり来たりしながら、ソファに座りもせず、時間になるのをリンネと二人で正座しながら待つ。
「絶対受かってるから、緊張しなくていいって」
「絶対なんてない。うう、神さま仏さま精霊さま……」
「ボクがお祈りしてって言ったときはあんなこといってたのに……ほら、自信もって」
背中を叩いたつもりだろうけど、空振った腕がオレの胸から出ていった。これにも慣れてきたし、今は笑う気持ちにもなれない。体を上から下に押さえつける緊張感がオレを支配していた。会話はこれきりだった。ふと気になって顔色をうかがうと、あいつはファイトをしてたときみたいな真剣な表情だった。どんな結果になってもからかってくるだろうと思ってたから意外だった。
時間がきた。大きく息を吐いて、結果が読めるもう一歩手前でリンネと目を合わせて、同時にうなずく。
「いくぞ」
ずらりと並んだ受験番号。そこには、たしかにオレの番号があった。同時に歓声が上がった。喜びのままハイタッチしようとしても、精霊に触れられないことにもどかしさを覚えたのは、これが初めてだった。