黒属性でもエースカードになれますか?   作:秋巻灰兎

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第9話 フロントライン

 絶対に緑属性使いだと思う。花朱鷺(はなとき)カノンに抱いた印象から、そんな予感がしていた。白、青、赤、黒、緑。エクスファイトを彩る属性の五つはその色に見合った特徴を振り分けられる。赤は煌々と燃える炎のような苛烈な攻撃性を持ち、破壊効果が代表される。黒は暗闇があらゆるものを飲み込むように、多くに嫌えんされる行為すら分け隔てなく扱う。死を弄ぶ罰当たりな墓地利用などがそうだ。

 

 とはいってもそれぞれの効果がその色だけに留まるわけではなく、新弾で他色と共通のテーマになったり、移譲されたり、なかったことにされたりと変更や調整が重なっていく。それでも各色のイメージが先立っていることは重要だ。緑のイメージといえば自然であり、野生動物や植物がなす生態系そのものの利用はその内の一つだ。花朱鷺カノンはカードの効果を宣言し、モンスターを一枚デッキから場に出した。

 

「効果を発動。ランク1の”タレット”種族モンスターをデッキから場に召喚いたします」

「げっ、また”ブロッカー”持ちかよ!」

 

 花弁を砲身に、種子を砲弾に見立てた植物兵器といえるモンスターが召喚され、蔓がうねってその鎌首をもたげる。ただ、この植物は意思を持たない。無闇に自然へ踏み入る者にだけ牙を剥く受動的な特性はその効果に表れていた。

 

「”このモンスターは攻撃できない”か。長期戦に持ち込むつもりだな!」

 

 攻撃できない効果と攻撃を受け止める”ブロッカー”、二つが生むのは停滞だ。余裕を持ったゲーム展開を崩すため、エンマは素早くカードを切っていく。

 

「<烈豪ファルコン>を召喚!効果で山札を上から4枚めくり、”メカ””ビースト”種族のモンスターを1枚手札に加える。オレが加えるのは<烈豪アンストッパブルライガー>!そのままエクシードだ!」

 

 エクシードの基本的な条件はランク、属性、種族の三つ。これさえ整えば<ファルコン>であろうと<アンストッパブルライガー>へエクシードできる。翼を模した推進器から炎を噴かせる鳥が二階建ての建物ほどの大きさである四足獣へと変形していく。

 

「”速攻”に”ライフチェック+1”、さらにブロックされない効果……いいカードをお持ちなのね」

「おう!オレの唯一無二の切り札だぜ!」

「ですが、(わたくし)のカードには及びませんわ」

 

 どうぞアタックしてごらんなさい、と言葉が続いた。<アンストッパブルライガー>の効果を理解しても、彼女は恐れるどころか一切の動揺もせずにアタックを促してきた。大木のような決して揺るがぬ泰然とした態度には、深く張った自信の根っこが支えとなってるようだった。人の身長ほどある爪が振り下ろされ、彼女のライフを二枚削る。精霊ファイトでライフが一枚削れる痛みは、足の指にスマホを落としたぐらいの痛みとエンマは言っていた。けっこう痛いはずなのに、彼女は眉一つ動かさなかった。

 

「な、なんだよ、なにも起こらないじゃんか」

「1、2、3……4、5。1つ足りませんわね。まあいいでしょう」

 

 エンマの当惑と目の前にそびえる<アンストッパブルライガー>を、彼女は興味を無くしたように視線を外し、冷静な口調で盤面のカードを数えた。ドローしたカードを一瞥して、よどみない動作でモンスターを繰り出した。

 

「召喚。モンスター効果でデッキから”タレット”をエクシード。さらにもう一枚、手札から”タレット”をエクシードして横に展開していきますわ」

 

 <烈豪アンストッパブルライガー>に対して”ブロッカー”を横並べにすることは、その場においては無意味で、それゆえ不自然だ。めきめきと軋む音とともに植物兵器の頭数が揃っていく。色とりどりな砲身の奥は別の意図を隠すような暗闇で、時折エンマを覗いた。目が合うような不気味な感覚がエンマの不安を撫でていく。

 

「では、私も切り札をご覧に入れましょう。おいでなさい、<森器(しんき)掌握(しょうあく)エコトーン・モリガルヒ>」

 

 木が生え、草が伸び、花が咲く。そのどれもが<エコトーン・モリガルヒ>である。自然界のネットワークに現れた管理者とでも言おうか。単一の生命体かもわからず、姿もみえず、草木をまとめる生態系そのものに指令を下す存在。それが彼女の切り札だ。木枝が砕けるような音の連続とともに、彼女のモンスターに木々が絡まって取り込まれていった。

 

「<エコトーン・モリガルヒ>は場に出ている間、自分の緑属性モンスターの”攻撃できない”効果を無効にいたします」

 

 彼女が片手をあげると、統率された軍隊のように、一分の乱れもなく砲身が揃ってエンマを照準した。暗い砲口から、冷たい殺意が光って見えた。

 

「跪きなさい」

 

 振り下ろした手を合図に一斉に砲撃音がとどろき、エンマのライフを吹き飛ばした。ずれのない音の重なりが増幅し合って会場に響き渡り、しばらくの静寂を生みだしたほどだった。

 

「う、ぐぅ…」

「もう一手あればこのターンで終わりでしたけれど……」

 

 同時に五つのライフが削れたエンマはふらりと揺れ、片膝をつきそうになった体を一歩踏み込んで、気合いで持ちこたえたように見えた。

 

「あら、強情ですのね」

「いってぇ、いってぇけど……お前は、オレを無視すんなって!」

 

 突如としたエンマの言い分を、ボクとカノン、そして一斉砲撃で注目を集めたため会場の多くも不思議がって聞いていた。エンマは痛みを一秒前に置いてきたみたいに、元気に声をあげながらびしっと人差し指を突き付けた。注目もつゆ知らず、エンマは前のめりになっていく。

 

「無視なんてしておりませんわよ?」

「いいや、ずっと感じてるぜ。お前が見ているのは自分のカード、自分のプレイ……ファイトだって対話なんだ、そんなファイトばっかりしてるといつか相手が離れていくぜ」

「ご高説痛み入りますわ。私もお相手が満足いただけるよう、苦心しておりますもの」

 

 エンマが前から言っていた、ファイトすれば相手の気持ちが分かるというやつだ。周りを納得させるような根拠にはならないが、当人には心当たりがあるはず。それでも彼女は見惚れるような完璧な笑顔を貼り付けていた。

 

「そっちが態度を曲げないなら、わかったぜ。オレのファイトで本心を引き出してやる!」

「水を差すようで申し訳ありませんが、私のターンはまだ終わっておりませんわ」

「なに!」

 

 エンマのセリフを相手にもせず、彼女は<エコトーン・モリガルヒ>カードを触れながら、もう一つの効果を宣言した。

 

「このカードによって効果を無効化されたカード、または”タレット”モンスターは、自分のターン終了時に、レストからアクティブになる。レストのままではブロックできませんから」

 

 絶望的な盤面が広がっていた。ライフが一枚もないエンマに対して、カノンは三枚のライフと多数のブロッカーが並んでいる。誰が見ても勝負は決まったようなものだった。

 

「あなたのおっしゃった通り、最高のファイトになりましたわね」

「なに言ってんだよ、こっからだぜ」

 

 エンマは自分を落ち着かせるように大きく息を吐いて、命運を決する重いドローで勢いよくカードを引き込んだ。手札をしばらく眺めて、エンマの下した決断はアタックだった。

 

「<烈豪アンストッパブルライガー>でアタック!」

「通しますわ」

 

 草木を引き千切りながら再びその爪をカノンに食らわせた。三枚のライフが一枚になっても、彼女は涼しい顔だ。続くエンマの行動も冷静に対処した。

 

「<炎王の号令>発動!<アンストッパブルライガー>をアクティブにして、もう一度アタック!」

「二度目は止めておきましょう。<魅力的な果実>アタック対象を私からモンスターに移し替えます」

 

 ブロックでない方法なら、<アンストッパブルライガー>を止める手段は存在する。<魅力的な果実>によるアタック対象の変更は十分な対抗策に思えた。

 

「<灼熱波>で割り込むぜ!破壊するのは、<魅力的な果実>の対象だ!」

「スペルカードの解決は後出しが有利。つまり……」

「オレの<灼熱波>が先にモンスターを破壊して、お前の<魅力的な果実>は対象不在で無効になる!<アンストッパブルライガー>のアタック対象は変わらずライフだ!」

 

 追撃が最後のひとひらを削る。無防備になった彼女の顔に初めて焦りがみえた。だが、砕けたライフの粒子が集まって、ランク0モンスターとして場に召喚される。それは花朱鷺カノンの最後の砦である精霊だった。

 

 

 

 

 

「オーホッホッホッホ!ワタクシが来たからには、もう安心ですわよ~~!」

「な、なんだ?」

 

 花弁を衣のように纏った小さな妖精と例えようか。甲高い声を発し、手を模した花弁を丸めて胸のあたりを叩いた。エンマはやたら濃いキャラに圧倒され困惑していた。

 

「ごきげんよう、アマリリス」

「ごきげんようですわ!ワタクシ、カノンを傷つける者は白馬の王子でもはっ倒しますわよ!平と民の字が似合いそうな方なら尚更ですわ!」

「それオレに言ってんのか!?」

 

 お嬢様の精霊はお嬢様キャラだった。しかも元気に悪態つくタイプだ。

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