武装神姫 Another World   作:グレイ雪風

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Episode03 It's a race! Park going around

 梅雨ということもあり、雷を伴って激しく降った。雨は日没辺りでやみ、すっかり夜空が見えていた。

 その日の夜、アン達はアキラに神姫ハウスを紹介してきた。

 神姫ハウスとは、理人が小さい頃にビジュアライザーと呼ばれる携帯型バトルフィールド発生装置を改造したもので、スイッチ1つで様々な空間に変更できるようになっている。

 アン達の普段の部屋はどこかSFのブリーフィングルームを思わせる部屋で、4人で話し合った末、間を取ってこの部屋になったらしい。

 アキラ本人としては、このような基地みたいな空間も悪くなく、むしろ気に入っていた。

「へぇ、よくできてるな・・・」

 アキラは、ほぼ実物同然に実体化した空間の壁などに触れながら感心していた。

「さあ、今日は外に出たり風呂場の掃除をしたりして疲れてるでしょうから、これでのんびりしましょう!」

 アンはそう言ってリモコンのスイッチを押した。

 すると、たちまち部屋が変化し、目の前に銭湯が現れた。

「確かにちょうど今、お風呂に入りたい気分なのです!」

「こういう疲れた時の温泉って最高なんだよね・・・」

 アイネスとレーネもアンの提案に賛成のようだ。

「それじゃあ、早速行きましょう!」

 そう言ってアン達は銭湯へ歩いていったが、アキラとヒナがついて来なかった。

「どうしたんですか?2人共・・・」

 アンは2人に訊ねた。

 ヒナはくだらないとでも言いたげな表情だったが、アキラは何だか気まずそうな表情だった。

「いや、その・・・」

 アキラは何か言いたそうだった。

 アンは彼の様子を見て首を傾げた。

「アキラさん、お風呂嫌いなんですか?」

「違う、そうじゃないんだ。ただ・・・」

「ただ?」

 アキラは少し間を開けてから言った。

「部屋が仕切られていないからさ・・・」

 アンはそれを訊いて気づいた。ビジュアライザーで実体化された銭湯は部屋が仕切られていなかったことに。

 つまり、このままアキラも銭湯に入ると言うことは、アン達と同じ浴槽に入るということを意味していた。

「あ・・・そういえば、男性用の浴室が無かったですね。」

「そりゃまあ、元々、男性型神姫なんて今まで無かったからね・・・」

 本来、神姫は女性として扱われているが、男性型はこれまでに無かった為、こういった神姫用の設備は性別で分けられてはいなかった。

「アン達は先に入ってくれ、俺は後で入るから。」

 アキラはアン達に先に入浴するよう奨めた。

「そうだね。さすがに、このまま一緒に入るって訳にもいかないし・・・」

 アイネスもその意見に賛成した。

「わかりました。では、すみませんがお先に────」

 アンがそこまで言い掛けたときだった。

「いいえ、アキラさんも一緒に入るのです!」

 レーネがそう言ってアキラの後ろに回り込み、彼を銭湯の方へ押していった。

「お、おい、レーネ!それは・・・」

「遠慮しなくて良いのです。さ、早く早く・・・」

「ちょ、ちょっとレーネ!何考えてんのさ!?」

 さすがにアイネスもレーネを止めにかかった。

「何か問題でも?」

「大有りだよ!少しは異性のこと考えなよ!」

 アイネスはアキラをレーネから引き離そうとしながら言った。

「別に神姫のボディは人間の身体ほど精密に再現されてませんし───」

「そーいう問題じゃないの!とにかく、駄目なものは駄目~!!」

 すると、レーネはアイネスの耳元に顔を近づけて、

「これは、アキラさんの身体をいじる絶好のチャンスなのです。」

 と、レーネが小声でアイネスに言った。

 何故なら、これまでに無かった男性型の神姫なのだから、レーネは相当アキラのボディに興味があるのだ。

「あ、ちょっと・・・」

 レーネはアキラを押して銭湯の中へ入っていった。もはや、レーネを止めることは出来そうに無かった。

 すると、後ろで立っていたヒナがその場から立ち去ろうとした。

「何処行くんだよ、ヒナ。」

 アイネスはヒナを引き止める。

「その名前で呼ぶな!」

 そう言ってヒナはアイネスに刀を向けた。

「う・・・そんなことどうでも良いけどさ、ストラーフは銭湯行かないの?」

「くだらない。私はそんなことに付き合うつもりは────」

「まあまあ、そんなお堅い事言ってないで。元々はストラーフの為にアンが用意したものなんだし・・・」

 アイネスはヒナの背中に回り、銭湯の方へ押していった。

「おい、待て!だから私は、お前達の戯れ言に付き合う気は・・・」

「良いから良いから・・・」

 アイネスはヒナの言うことを無視して、銭湯の中へ入っていった。

「なんか・・・どっちもどっちですね。」

 1人残されたアンはそう言って4人の後を追った。

 

 

 

 銭湯の浴室内はそれなりに広く、向かい側の壁に大きな富士山が描かれていた。

「ふぅ~、気持ちいい・・・」

「良い湯加減なのです・・・」

「一仕事した後の温泉って、やっぱ最高だよね~」

 アンとアイネス、それにレーネがくつろぐ中、ヒナは気まずそうに胡座と腕組みをしていた。

「・・・」

 そして、最も気まずそうな様子の神姫がアン達がいる浴槽の反対側の端にいた。

 昨日、境界大学病院で湯田川からクレイドルと一緒に防水使用のアーマーも貰ってきており、今、アキラはアン達が付けているアーマーの男性用を装着していた。

 これをわざわざ一緒にくれたという事は、湯田川はこうなる事を予め予測していたということだろうかと、アキラは思った。

 だとすれば、湯田川にからかわれたということにもなる。

「アキラさん、何で私達からそんなに離れてるのですか?」

 レーネは不思議そうにアキラに訊いた。アキラはアン達に背を向けたまま答えない。

「何でって、異性の中に1人だけ混じって入ってるんだから当たり前でしょ!」

 アイネスがレーネにツッコんだ。

「そっとしておいてあげて下さい、レーネ。アキラさんは、今とても恥ずかしいんですよ。」

 だが、そんなアンの言葉を訊かず、レーネはアキラに接近した。

「そんなに恥ずかしがる事はないのです。ですから、アキラさんも────」

 すると、レーネが触れる前にアキラはその場から立ち上がり、浴槽から出た。

「アキラさん、どちらへ?」

「身体を洗ってくる。」

 そう言ってアキラは風呂椅子と湯桶を持って洗い場に向かった。

「あっ、それならレーネにおまかせなのです!」

 レーネも浴槽から上がってアキラの元へ走っていった。

「あっ!ちょっと、レーネ!」

 アイネスが止めようとしたが、レーネを捕まえることは出来なかった。

「自分でやるよ。子供じゃあるまいし・・・」

 アキラは振り向かずに言った。

「いいから私に任せるのです。」

 レーネはアキラの背中に接触してきた。

「お、おい・・・」

「身体の表面だけでなく、こういう所も・・・」

「っ!?」

 レーネがそう言った瞬間、右肩の関節から物凄く擽ったい触感が襲った。

「身体を洗う時は、こういうねじ穴まで洗うのが、レディの嗜みなのですよ。」

「いや、俺、男だから・・・うわっ」

「そんなことは関係ないのです。」

 レーネはさらにアキラのねじ穴を洗った。

「わっ・・・も、もうよせ、分かったから・・・後は自分で───うわぁぁぁぁぁぁ!」

 そんなアキラの言葉を余所に、レーネはお構いなしに彼の身体を洗った。

 その様子を、アンとアイネスは顔を赤らめて茫然と見ていた。だが、2人は直ぐに我に返り、アキラとレーネの元へ向かった。

「ちょっとレーネ!さすがにいい加減にしなよ!?」

 アイネスはそう言いながらレーネの左腕を掴んだ。

「そうです!早くアキラさんから離れて下さい、後は私がやりますから!」

 アンはレーネの右腕を掴みながらアイネスとは違う発言をした。

「・・・えっ?何言ってるのさ、アン。」

 その瞬間、騒がしい室内が静かになった。

「だって、ズルいじゃないですか。1人だけアキラさんの身体を独り占めして洗うなんて・・・」

「いや、そう言う問題じゃ無いだろ!?ていうか、アンまで何考えてんのさ!?」

 2人が言い争っている間に、レーネはアキラの身体をねじ穴中心に洗い続けた。

「あっ、こら、レーネ!」

「アキラさんの身体は渡さないのです!」

「レーネ、ズルい!」

 そして、いつの間にかアキラの取り合いになった。その中、アキラは急にめまいに襲われ、意識を失った。

 

 

 

 気がつくと、アキラは休憩所の長椅子に横たわっていた。

 辺りを見渡すと、アン達は近くのマッサージチェアに座っていた。アキラからは見えなかったが、3人は眠っていた。

「気がついたようだな。」

 声のした方を見ると、ヒナが壁にもたれてアキラを見下ろしていた。

「俺は、一体・・・」

 アキラは身体を起こした。

「アン達がお前を取り合っている最中に、気を失ったんだ。恐らく、逆上せただけだと思うが。」

 ヒナはそう言いながらペットボトルのようなものをアキラに手渡した。

 神姫用のスポーツドリンクらしく、飲むとアクエリアスのような味がした。

「神姫用にもこんなのがあるんだな・・・」

 アキラはボトルをしげしげと見ながら言った。

「ヂェリカン以外にも、神姫用に人間が食べているような食品が幾つか開発されている。さすがに、ヂェリカンだけだと物足りんからな。」

 ヒナはアキラに手渡したのと同じ物を飲んだ。

「それを訊いて安心したよ。てっきり、ヂェリカン以外、口にできる物が無いと思ってたから。」

 すると、ヒナはボトルを小さなテーブルに置いて、アキラに顔を近づけた。

「!?」

「ちょっと良いか?」

 アキラは、ヒナまでアン達のようなことをしてくるのではないかと不安になったが、用件は全く違うものだった。

 

 

 

 次の日の朝、アンが目を覚ました。だが、周りには誰も居なかった。

「レーネもアイネスも居ない・・・ストラーフも、アキラさんまで・・・」

 すると、アンはヒナとアキラのクレイドルの上に紙が置かれているのに気がついた。

 まずは、ヒナの方から見た。

 

 バイトにいってくる

 

と書いてあった。

「・・・?」

 続いてアキラの方を見た。

 

アン、アイネス、レーネ、そして理人へ

 俺は、今からあるわけがあってバイトへ行ってきます。

詳しくは話せないけど、昼までには帰ってきますので

心配しないで下さい。

               アキラ

 

と書いてあった。

「バイト?」

 

 

 

 その頃、とある公園で神姫-1グランプリと呼ばれるカーレースが開催されていた。

 アキラとヒナは、合図があるまで控え室で武装の点検をしながら待機していた。

 実は、昨日、アン達が神姫ハウスを紹介する前に理人と夏休みの事を話している時だった。

 夏休みに何処かへ旅行に行こうという話だったのだが、何処も旅費が高く、予算を大幅にオーバーしていた。

 アイネスはアキラからも旅費を出すように言ってきたが、人間に戻った際に生活費が払えないとまずいので断った。何より、理人はアイネスの意見に賛成しなかった。

 その時、理人が旅行の為にアルバイトをしまくるなど言い出したからか、銭湯でアキラが逆上せて気がついたあと、ヒナが旅費を稼ぐために一緒にバイトをするように頼んできた。

 正確には、2人ともある所から雇われたらしく、会話の内容としてはその伝言をアキラに伝えたということになるのだが。

 アキラとヒナがする仕事内容は、ゴールの前で選手達の妨害をするというものだった。

 こんな仕事を引き受けるよりも、レースの優勝賞品である沖縄旅行4泊5日のチケットを大会で勝って獲得した方が早いのではないかと思ったが、この仕事の報酬がかなりの額で、2人分を合計すると、沖縄への旅費程度は充分余裕があった。それを考えれば、レースに出場するよりもリスクが少なかった。

 結果、ヒナと共にレースの妨害担当要員として仕事をすることになった。

 選手達がスタートした数10分後、スタッフから合図が出て、2人は指定の位置に移動した。

 ヒナは道路のど真ん中に、アキラは観客席でステルス状態で待機した。

 しばらくすると、トンネルの方から1体の神姫が現れた。しかし、アキラはその姿に見覚えがあった。

 何故なら、走ってきたのはブースターを付けた大八車を引くレーネだったからだ。しかも、よく見ると大八車に乗っているブースターも何処かで見覚えがあった。

「(あれ、アンのラファールだよな・・・?)」

 アキラがそんなことを思っていると、トンネルからさらにもう1体神姫が現れた。

 一瞬、ハイマニューバ型のイーダかと思ったが、よく見ると、イーダのトライクに乗ったアイネスだった。

 何故か変装をしていたが、アキラから見れば一目瞭然だった。

「マスターに沖縄旅行をプレゼントするのは、このボクだぁぁぁ!!」

 アイネスはそう叫びながらスピードを上げた。

 どうやら2人とも理人のためにレースに出場したようだった。

 2人が妨害エリアに入り、道路のど真ん中で待機していたヒナが立ちはだかった。

「ストラーフ!?」

 アイネスが驚いたように叫んだ。

 このことは誰にも話していなかったので、無理もなかった。

 ヒナは上昇して、アイネスとレーネを背中の武装の右腕に装備されたガトリングガンで砲撃した。

 2人はそれを紙一重で避けた。

 アキラはロングレンジライフルを構え、レーネの大八車を狙った。

 放たれたビームは左の車輪に命中し、大八車は粉々になった。

 レーネは上手く転がって、大きな損傷は免れたようだった。大八車に乗せていたラファールも運良く破損箇所は無かった。

「レーネ!」

 アイネスは後方を向いて叫んだ。

 アキラはアイネスの乗るトライクの足下を狙い、車体を横転させた。

「うわぁ!!」

 アイネスは突然の出来事に、車体が横転しながら叫んだ。

 レーネが引いてきた大八車は途中の道で捨てられていたガラクタから見つけた物なので、アンのラファールさえ無事なら問題ないが、アイネスが乗っているトライクはイーダの物なので、下手に攻撃して壊してしまったら大変なことになる。

「一体、何処から・・・」

 レーネは起きあがりながら辺りを見回した。だが、当然のごとく、ステルス機能で姿を消しているアキラは見えなかった。

「何処にも姿が見えない・・・まさか、アキラ!?」

 アイネスは直感的に言い当てた。

「やれやれ、バレちゃったか・・・」

 そう言いながらも、決してステルスを切ることはせず、再び射撃を始めた。

「わあぁぁ!」

 アイネスは驚いて飛び跳ねた。

「何で!?・・・まさか、アキラもストラーフも抜け駆けして沖縄旅行を!?」

「違う!実行委員会から、レースを盛り上げる為の妨害担当要員として雇われたバイトだ!!」

 ヒナは、アイネスに対してありのままの事を言った。

「えぇぇぇ!?」

 アイネスはなんだそりゃとでも言いたげな様子だった。

「ま、そう言うことだ。」

 そう言ってアキラはアイネスを狙う。ヒナの方からも容赦なく砲撃がアイネスに降り注ぐ。

「ひぃぃぃぃ・・・ちょっとは手加減してよ!」

 アイネスは双方の攻撃を避けながら文句を言った。

 確かにヒナの攻撃には全く容赦なかった。近くで横転しているトライクに被弾したらどうする気だろうとアキラは思った。

「ここは私が!先に行って、アイネス!!」

 レーネは武装を呼び出しながらアイネスに言った。

「えっ?レーネ、知ってたの!?」

 アイネスは自分の正体を見破っていたレーネに驚いた。

「いいから早く!」

 レーネはヒナに向かって飛んでいった。

 アキラはレーネの相手をヒナに任せて、アイネスを攻撃した。

「ん゙ん゙んんんん・・・いい加減にしろぉぉぉぉ!!」

 アイネスは武装を纏い、アキラがいる地点に突っ込んでいった。

 アキラがいた所を狙って剣を振り下ろしたが、そこには何もなく、ただ観客席が壊れてるだけだった。

 すると、別の方向から砲撃がアイネスを襲った。

「そっちか!」

 アイネスは何とかアキラに当てようと攻撃を繰り返したが、姿が見えないアキラにダメージを与えることが出来なかった。

 その時、遠くでレーネの悲鳴が聞こえた。見ると、ヒナの攻撃によって地面に叩きつけられていた。

「!!」

 アイネスはアキラを無視して真っ先にレーネの元へ飛んでいった。

 アキラはその時、あえて背を向けたアイネスに攻撃しなかった。場の空気を読んだ上での配慮だった。

「レーネ!」

 アイネスはレーネに自分の腕を差し出す。

「アイネス・・・!」

 レーネはその手を握り、助け起こされた。

「ここで借りを作るわけにはいかないからね。」

 アイネスはニヤリと笑いながら言った。

 そして、2人の方を向くと、レーネはヒナ、アイネスはアキラの方へ飛んでいった。

 この時、アキラは真剣勝負の為にステルスを解除していた。

「流石はストラーフ型と、最新鋭のステルス型!高いバイト料を払っただけのことはあります!・・・行けぇ!やっちまえぇ!殺せ!殺せぇ!」

 司会のマリー・滝川・セレスが粗暴な口調になりながら実況していた。

 4人が戦闘を繰り広げる中、壊れたマシンのハンドルを持って道路を走るクララの姿が見えた。

「あら・・・」

 大会実行委員長のイーア姉さんがクララを見て少し驚いていた。

「・・・って、ここでまさかの噛ませ犬クララ!これってありかよ!?」

 ハンドルを持って走るクララを見てマリー・滝川は言った。

「ハンドルを握っているので、ギリギリありです!」

 イーア姉さんは呑気に言った。もはやカーレースとは何だったのだろうと思わせる。

「しまった!」

 アキラは対戦していたアイネスを突き飛ばすと、ロングレンジライフルを構えてクララの足下を撃った。

「きゃあぁぁぁ!」

 クララは宙を舞い、そのままゴールへ落下した。

「あ・・・」

 アキラは余計なことをしてしまった自分を愚かに思った。

「まさかの、ライフルで吹き飛ばされてゴール!」

「しかも、ちゃんとハンドルを握ったままですね。」

 マリー・滝川もイーア姉さんもその光景に驚いていた。

 クララは訳が分からない中、とりあえず勝利したことを確信すると、両腕を大きく上に上げて笑顔で笑っていた。

「えぇぇぇ!?」

 アイネスとレーネはゴールしたクララを見て、そう叫んだ。

 

 

 

 その後、4人は理人のマンションへ戻っていた。

「散々だよ全く!もう少しでマスターに、沖縄旅行プレゼント出来たのに・・・」

 アイネスは愚痴を言った。

「面目ない。俺が余計なことをしたために・・・」

 アキラは少し落ち込んでいた。

「良いよ別に、元々妨害するのがアキラとヒナの役目だったんだし・・・」

「その名前で呼ぶな!」

 ヒナはアイネスを睨みつけた。

「うっ・・・それで、レーネは結局、何がしたかったんだよ?」

「私は、マスターのためではなくて、これのためにレースに出たのです。」

 そう言ってレーネはヂェリカンを取り出した。

「イチゴ味の・・・ヂェリカン?」

「そう、完走したら貰えるこのヂェリカンを、アイネスにプレゼントしようと思ったのです。」

「・・・何で?」

 すると、レーネは俯いて話し始めた。

「だってアイネス、イチゴのヂェリカン大好きだったから・・・昔、よく2人で半分こして飲んだのです。・・・だから私・・・」

「レーネ・・・」

 アイネスはここのところ、レーネばかりが理人に良いようにされていることに嫉妬していて機嫌が悪かったので、どうやらそれでレーネがアイネスの機嫌を直そうと思ったようだ。

「お姉・・・ちゃん」

 アイネスはレーネをそう呼んだ。

「お姉ちゃん・・・?」

 武器の手入れをしていたヒナがその言葉に反応した。

「じゃなくて、レーネ!別に本当の姉妹ってわけじゃないんだから・・・」

 アイネスはヒナの方を向いて叫んだ。

「良いお姉さんじゃないか。」

 アキラはレーネのことをそう評価した。

「だから、別にレーネは本当のお姉ちゃんってわけじゃないって・・・」

 すると、レーネが微かに笑った。

「おはよう・・・」

 声が聞こえた方を向くと、寝間着姿の理人が立っていた。

「おはようって、今、何時だと思ってるんだ?」

 アキラは呆れた表情で言った。

「ホントだよ。マスター寝過ぎ、もうお昼過ぎだよ・・・」

「ああ、ごめん。でも、みんなどうしたの?」

「何でも無いのです。おはようございます、マスター。」

 理人の質問に、レーネが答えた。

「あれ?そう言えば、アンは?」

 その時、皆は初めてアンが居ないことに気づいた。だが、探す前に本人が現れた。

「マスター、見て下さい!沖縄旅行貰っちゃいました!」

 アンは、「商店街福引大会 特賞 沖縄旅行」と書かれた券を持って嬉しそうに走ってきた。

「えぇぇぇ!?何で!?」

 アイネスは驚いて立ち上がった。

「アイネスが置いていったミニカー、あの後色んな物と交換して・・・」

 アンはレース中のアイネスと会ってから彼女が置いていったミニカーを、最初は飛鳥型の神姫が持っていた豆と交換し、次にスイカ、次に狸の置物、そして商店街福引大会の福引券と交換して、見事、特賞の沖縄旅行を当てたらしい。

「というわけなんです!」

 アンは笑顔のまま言った。

「アン・・・」

 アイネスはそれだけ言った。

 アキラは、何処のわらしべ長者だと思ったのと同時に、今までの苦労は一体何だったんだと思った。

「えっ?どうかしたんですか?」

 アンは不思議そうな表情で訊いた。

「いや、何でもない。」

 そう言ってアイネスは頭を抱えた。すると、レーネはアイネスに向かって微笑んだ。

 アイネスはそんなレーネを見て、少し気まずそうな表情で微笑し、最後にもう一度レーネに向かって微笑んだ。




 今回は書くことが多すぎていつもより長めになってしまいましたので、2つに分けました。
 とある技師と神姫の物語のchapter05はもうすぐ完成です。
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