アン達4人は、真夏の日差しが降り注ぐ海岸前の砂浜に立っていた。
そこは見渡す限り、青い海が一面に広がっていた。
「青い海・・・白い砂浜・・・」
日傘を持ったアンが呟いた。
「わき上がる入道雲・・・」
アンに続いて、レーネがそう呟く。
「完璧な沖縄の海だ!」
アイネスがそう言った直後、4人は上着を脱いで中に着ていた水着を露わにすると、波打つ海岸へ走っていった。
その頃アキラは、アン達がいるビジュアライザーの外で、ある物の制作をしていた。
「それ、今日中に間に合いそう?」
アキラが保護メガネを上げて声がしたほうを振り向くと、理人がこちらを見ていた。
「ああ、もう細かいところの調整だけだ。」
「それにしても、アキラは凄いなぁ。こんなものまで1人で作っちゃうんだから・・・」
「お前にプログラム以外の技能があれば、こういう事だって出来ただろうな。」
そう言ってアキラは保護メガネを下ろして再び作業に取り掛かった。
「僕だってやれば出来ると思うんだけど、何か上手く出来ないんだよね。塗装とかはある程度出来るんだけど・・・」
「それは良いとして、旅行の準備は大丈夫なのか?いざ出発する時になって慌てるなよ?」
「あぁっ、そうだ!・・・ええっと・・・」
理人は慌てて部屋から出て行った。
「理人との旅行か・・・」
アキラは作業をしながら、先が思いやられるなと思った。
アン達はある程度海で遊び尽くすと、海岸まで上がって休憩していた。
「っ~・・・冷たぁい・・・」
アンはアイスをかじってアイスクリーム頭痛を起こした。
「頭がキ~ンとなるのです・・・」
「ん~・・・これが噂に聞くキ~ンってくるやつか・・・」
アイネスとレーネにも同じ症状が出ていた。
「あ!」
突然、アンが叫んだ。
「どうしたんですか?」
「見て下さい、当たりが出ました!」
アンが食べたアイスの棒には、(当たり)と書かれていた。
「それにしても、アキラ遅いな・・・」
アイネスは自分のアイスに当たりがないか確かめながら言った。
「本当ですね・・・特にアキラさんは、神姫の身体で泳いだことすら無いのに・・・」
アンはビジュアライザーの外を見ながら言った。
「そういえばアキラさん、アンさんが沖縄旅行を当ててから何かを作り始めていたのです。」
レーネがそんな話をした時だった。
「おーい、お待たせ!」
見ると、何か大きな物を持ち上げながら走ってくるアキラの姿があった。
「アキラさん!」
アンは立ち上がりながら叫んだ。
「遅いよ、もう・・・」
アイネスは少し怒り気味に言った。
「ごめんごめん。コイツの調整に結構時間掛かっちゃって・・・」
そう言ってアキラは持ち上げていた物をそっと降ろした。
「アキラさん、これは?」
レーネが質問した。
「ウォーターバイクだ。」
アキラが今まで制作し、そして今持ってきたのは、両側にアウトリガー(浮き)を装備したやや細身なウォーターバイクだった。
「うわぁ、凄~い!」
アンはウォーターバイクを見て関心していた。
「これ、本当にアキラが作ったの!?」
アイネスも少し驚いていた。
「フム、なかなかの腕だな。」
先ほどまで黙ってアイスを食べていたヒナも、アキラが制作したウォーターバイクを見て関心したようだった。
「アキラさん、今からそれで走るのでしたら、私も一緒に・・・」
レーネは勝手に同乗許可を求めようとしていた。
「レーネ・・・ていうか、何処にそんな物作るだけの材料があったんだよ?」
アイネスは疑問に思ったことをアキラに訊いた。
「ああ、アンが沖縄旅行当ててから、制作に必要な工具や材料をメーカーから取り寄せたんだよ。この前のバイトで、結構稼いだし。」
「ホントにこれ、沖縄に持って行くの?明らかに重量オーバーだと思うんだけど・・・それ以前にトランクの中に入らないだろこれ・・・」
アイネスが言うとおり、このウォーターバイクは5人が旅行の際に入るトランクには入らないサイズだった。ちなみに、1人が持って行く荷物は500gまでである。
「コイツがトランクに何だって?」
アキラがそう言ってウォーターバイクに備え付けられている機器の1つを操作すると、両側のアウトリガーや、ハンドル、リアユニットなどが折り畳まれ、比較にコンパクトなサイズになった。
「うぇぇえぇ!?ど、どこにそんな機能が・・・」
アイネスは突然の出来事に驚きが隠せなかった。アンやヒナ、レーネも驚いている様子だった。
「これなら入るんじゃないかな?」
アキラは笑顔で言った。
「いやいやいや、ちょっと待って。例えサイズに問題無くったって、重量が・・・」
そう言ってアイネスはコンパクトになったウォーターバイクを腰に力を入れて持ち上げようとしたが、それは軽々と持ち上がった。
「あれっ?・・・軽い。」
アイネスはウォーターバイクのあちこちを見ながら言った。よほど信じられないのだろう。
「当然だよ。そいつのボディは比較的軽い素材を使ってるんだから。まあ、構造と予算の問題で頑丈な素材を買えなかったことから、強度はあまり高くないけど。」
アキラは本来、このウォーターバイクの材料にチタンを混ぜた軽くて頑丈な素材を使いたかったのだが、その分価格が高かった為、予算の問題上購入する事ができなかった。その結果、軽さを最優先にした素材を選び、現在に至る。
「じゃあ、その格好は何?明らかに水着アーマーじゃないみたいだけど・・・」
アイネスはアキラの身体をしげしげと見ながら訊いた。
「確かに、私も気になっていた。その装備は何だ?」
ヒナもアキラの格好を見て訊いた。
「ああ、一週間前くらいに湯田川さんから送られてきた水中用の装備だよ。」
アキラは、水着というより武装に等しい格好だった。だが、いつもの武装とも違う装備だった。
頭部のバイザーはいつものが赤外線ゴーグルを思わせる形状に変化したような外装になっており、フロント部分に2つの丸いカメラが横に並んで装備されていた。
それ以外には、背中の飛行ユニットと脚部の補助スラスターがウォータージェット式の推進器になり、手足のアーマーが水の抵抗を避けるために比較的曲面が多い外装になっているのと、肩のバインダーが無いこと、そして今は出していないが武装がジャベリンガンと2丁のアンカーショットのみになっているくらいであとは特にいつもと変わらないが、全身に水着アーマー以上の防水機構が施されていた。
一方でアクティブ・ステルス機能は健在で、バックパックにはアシスト用の大容量バッテリーが搭載されている。
今回は試作型ということで(今まで使ってきたのも一応、試作段階なのだが)支援機への可変機能はオミットされているが、完成型には搭載する予定らしい。
「へえ~、いいなぁ。でも、何でそんな都合のいい物を?」
「真意は分からないけど、俺が夏休みに理人やアン達と沖縄へ行くと訊いて、まだ試作段階の水中用装備をテストする良い機会だからって、送ってきたんだ。そこで実践データを取ることを条件に。」
「そうなんだ・・・アンタも大変だね。」
アイネスはそう言って同情した。
「さて・・・じゃあ早速、コイツのテスト走行をしようか。」
そう言ってアキラはアイネスからウォーターバイクを取ると、海岸へ向かって走っていった。
「あっ、ちょっと待って!ボクもそれに乗せてよ!」
アイネスはウォーターバイクに乗りたがるレーネに呆れてはいたものの、どうやら自分も乗りたかった様子だ。
「あっ、待って下さい。私も!」
アンも後を追いかけた。
「後部座席は誰にも渡さないのです!」
そう言ってレーネもアキラを追いかけた。
ヒナは何も言わなかったが、アキラを追いかけているところから見て、どうやら彼女も乗りたいようだ。
「駄目駄目!まだ試運転してないんだから万が一の事があったら・・・」
「それはアキラだって同じでしょーが!ていうか、立場上アンタの命が最優先なんだし・・・」
アイネスの言うとおり、アキラは今、身体は神姫だが中身は人間なので、命の優先順位はアキラの方が優先である。
「そんなの、人間だろうが神姫だろうが変わらないよ!」
そう言うと、アキラは畳まれたウォーターバイクを展開して海面に浮かべ、シートへ跨がると素早くバイクを発進させた。
あと少しの所でバイクの後部座席に乗れる所まで来ていたアン達はバランスを崩して、下からアイネス、アン、レーネ、ヒナの順に重なって倒れた。
「うっ・・・ちょ、ちょっと待てってば・・・お、重い・・・」
一番体重がかかっているアイネスは苦しそうだった。
アキラが制作したウォーターバイクは、ウォータージェット推進器とスクリュー式推進器を両方搭載したハイブリッド方式で、状況に応じて使い分けられるようになっている。
例えば、先ほどのような急速な発進時はスクリューを動かし、ある程度速度が出た所でスクリューを格納してウォータージェット推進器で走行し、ウォータージェット推進器だけだと効率が悪いときなどはスクリューも動かしてサポートすることができる。
その反面、構造が複雑になるのと、2つの推進機関を同時に使用した際の電費効率の悪さ、コストの問題がある。それに、今回は軽いが耐久性が少し低い素材を使用しているので、下手に扱うと走行中に大破する危険がある。
アキラを乗せたウォーターバイクは海面をもの凄いスピードで走っていた。
「気持ちいいな・・・」
アキラが前から吹きつける風に対してそう言った。
ウォーターバイクの各機構は快調で、推進機構も正常にスクリューからウォータージェットに切り替わっていた。
「さて、次は旋回の・・・」
そう言って旋回のテストを行おうとした、その時だった。
「待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
突然、後ろから重複した叫び声が聞こえた。
「!?」
振り返ると、アン達が武装して飛行しながらアキラの後を追いかけていた。
アキラは4人に飛びつかれそうな所で咄嗟に旋回して避けた。ウォーターバイクの旋回性能には問題無さそうだった。
「あ、危ないじゃないか!壊れたりしたらどうするんだ!?」
アキラは冷や汗を掻きながら叫んだ。
「だったらボク達も乗せてよ!」
アイネスがいち早く体勢を立て直しながら叫んだ。
「だから、まだ試運転が終わってないから駄目だって!」
「それなら私が同乗する!その程度で怖じ気づいて引き下がるくらいでは、神姫として務まらんからな!」
ヒナはそう言って同乗させようとした。
「万が一、機体が大破したら危険なんだ!」
「それはアキラさんだって同じですよ!」
アンはアキラを説得しようと試みる。
「試運転が終わったらお前達も乗せてやるから、それまでは────」
「そんなに待ちきれないのです!」
レーネは3人を追い越してアキラが乗るウォーターバイクに接近した。
どうしたら分かってくれるんだ、と思いながらアキラはエンジンの出力を上げた。
数時間の間、最大出力でアン達から逃げ回った結果、ウォーターバイクのバッテリーが切れ、全員で海岸までバイクを引っ張っていく形で収束がついた。
アン達は海岸で休憩していた。
「あーあ、ウォーターバイク乗りたかったなぁ・・・」
アイネスは頭部以外の体が砂で埋められた状態だった。
「仕方ないですよ。バッテリーが切れてしまったのでは・・・」
アンはそう言ってアイネスの胸の辺りに貝殻を2つ乗せた。
「私達がせっかちになって追い回したのがいけなかったのです。」
レーネは砂のお城を作りながら言った。
アンもレーネも反省している様子だった。
「全くだ。私としたことが、こんなくだらないことで逆上するとは・・・」
ヒナはそう言って立ち上がると、懐から黒くて長い布を取り出した。
「私は私で楽しませて貰う。」
「楽しむって、何をするのさ?・・・てか、この貝殻はどういう意味だよ!?」
アイネスはヒナに質問すると同時に、胸の辺りに貝殻を乗せたアンに訊いた。
「似合ってますよ・・・」
アンはクスクス笑いながら言った。
「何だよその笑いは!?」
アイネスは自分のスタイルを気にしてか、少し怒り気味だった。
「夏の砂浜と言えばこれに決まっている・・・」
そう言ってヒナは1個のスイカを砂浜に置いた。しかも、何故かアイネスの頭部の近くに。
「スイカ割りか。なるほど、面白そうじゃないか。」
先ほどまでウォーターバイクに異常がないか点検していたアキラが立ち上がってそう言った。
「ほう、お前もやるのか。ならば、どちらが先に割るか勝負だ!」
そう言ってヒナはアキラに予備の目隠し用の黒い布を手渡し、自分の布で目を隠した。
続いてアキラがヒナに手渡された布を頭部に結びつけると、スイカ割りがスタートした。
ヒナは愛用の刀を呼び出し、アキラは何故かブレイドではなくハンドガンを呼び出した。
「あぁぁぁぁぁ・・・か、刀はともかくハンドガンでスイカ割りってどういうプレイだよ!?」
アイネスは怯えながら言った。何故なら、スイカが近くにある以上、自分に当たる危険性が高かったからだ。
ヒナは刀を前に構えながらゆっくりとスイカに向かって歩いてきた。アキラはそこから動かず、ハンドガンをゆっくりと前に向けた。
銃口の下から伸びる照準用の赤いレーザーポインターがスイカではなくアイネスの額に当たる。アキラが今、使っているハンドガンはいつものワイヤーアンカー付きのものでは無かった。
「違う・・・こっちじゃない、こっちじゃない・・・」
アイネスは必死に2人にスイカの場所を言葉で教えようと試みた。失敗すれば、自分の命の保証がないからだ。
アイネスの額に当たっていたレーザーポインターが首に移った。
「スイカはもっと右!みぎぃ!」
アイネスは焦りながら必死に叫んだ。
ヒナは立ち止まると、刀を上に大きく振り上げた。それと同時に、アキラも引き金に力を入れた。
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
ヒナは刀を振り下ろした。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
アイネスは悲鳴をあげた。
だが、ヒナがスイカとアイネスのいずれかに刀を降ろす前に、スイカが突然、破裂した。
アキラの方がヒナより先に引き金を引いていたのだ。
近くにいたヒナとアイネスは、破裂した際に飛び散ったスイカの汁でびしょ濡れだった。
その後、割ったスイカを5人で分けて食べた。切ったのではなく粉々になったので、1つ1つの形と大きさがバラバラな上に不格好だった。
「全くもう、スイカ割りにハンドガンを使うバカがどこにいるんだよ・・・」
アイネスはそう言って岩のような形のスイカにかぶりついた。
「ごめんごめん、まさか演習用のゴム弾でもあそこまで威力があるとは思わなくて・・・」
アキラはアイネスに謝った。
「でも、味はとても美味しいですね。このスイカ。」
アンはスイカに対してそう述べた。
「次は何して遊びましょうか?」
レーネは早速、次の予定を考えているようだ。
「ん~・・・だけどそのスク水アーマー、沖縄の海にはちょっと地味じゃない?他にもっと可愛いの無かったの?」
アイネスはヒナの水着を見てそう言った。
「可愛い必要はない、機動力を考えればこれが一番だ。」
ヒナはそう言って立ち上がった。
「確かに、海で思いっきり泳ぎたいなら、こういうのが一番だよな。」
アキラはそう言って両腰に手を当てて立ち上がった。
「いや、アンタの場合例外だから。」
アイネスは水着アーマーではなく水中用の武装を纏っているアキラにツッコんだ。
「機動力ねぇ・・・だったら試してみる!?」
アイネスはヒナを見上げながら、少し嫌らしい顔で言った。
「面白い、受けて立とう。」
そう言って2人が勝負に選んだのは、ビーチバレーだった。ボールを打ち返すには、相手が打つ角度やスピードに合わせて落下地点まで急速に移動する必要があるため、機動力の勝負には適したスポーツだった。
「それじゃ、行っくよぉ~。」
最初の先攻はアイネスからだった。
「そぉれ!」
アイネスはヒナの陣地に思いっきりボールを打ち込んだ。
ヒナはボールの落下地点まで走り、ブレーキをかけながらボールを打ち返した。
2人が勝負している間、アンとレーネはビーチパラソルの下でビーチドリンクを飲みながら、ビーチチェアでくつろいでいた。アキラはコートの近くで試合を見物していた。
現在の得点は0対5でヒナが勝っていた。アイネスは何度もボールを打ち返しているが、なかなか点を取れずにいた。
「くっ・・・なかなかやるじゃないか・・・」
アイネスは悔しそうな様子でヒナに言った。
「フン、これが機動力を重視した水着アーマーの格の違いだ!」
ヒナはそう言ってアイネスの陣地にボールを打ち込んだ。これで0対6になった。
「苦戦してるようだね、アイネス。」
先ほどまで試合を見物していたアキラがそう言ってアイネスの方のコートに入ってきた。
「えっ、ちょっと・・・」
アイネスは戸惑っていた。
「ほう、お前も私に勝負を挑むか・・・面白い、2人まとめて相手をしてやる!」
そう言ってヒナはビーチボールを高く上げると、相手の陣地に向かって打ち込んだ。ヒナが打ったボールはアキラともアイネスとも離れた場所に向かっていた。
だが、アキラは素早くボールが飛んでくる方向へ移動し、片手で跳ね返した。
「今のをよく跳ね返せたな、誉めてやろう。だが、これで終わりだ!」
ヒナはそう言って再び跳ね返されたボールを相手の陣地へ打ち込んだ。
だが、アキラは打ち込んできたボールをレシーブで跳ね上げ、落下したところで素早くジャンプしてヒナの陣地へボールを思いっきり打ち込んだ。
ヒナはアキラの動きの早さに、対応が間に合わなかった。
「(コイツ、あんな余計な装備をつけたままで・・・)」
アキラは、地上では全く意味のないウォータージェット推進器を装備したままだった。同時に、水着アーマーを着ているヒナと比較すると、明らかにアキラの方が重装備だった。だが、アキラはそんな状態で、しかもアーマーの各関節部分のパワーアシスト無しでヒナと互角以上の機動性を発揮していた。
その後もアキラとヒナの試合が続いたが、ほぼ一方的にヒナが押されていった。その間、アイネスは何もできないでいた。
「(コイツ、できる・・・!)」
ヒナがそんなことを思っていると、ビーチパラソルの方から悲鳴があがった。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!ねじ穴の中に!」
足元にいた蟹がアンの脚を登ってきて、股関節部分に入り込んでしまったようだった。
アンは立ち上がって蟹を出そうとする。
ちょうどその時、アキラが打ったボールをヒナがレシーブで跳ね返し、ボールがアキラの陣地ではなくアンの方へ向かって飛んでいった。
ビーチボールはアンの身体に当たり、しかもその衝撃で上のビキニの紐がほどけてしまった。
「あ・・・っ・・・あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
アンはあまりの恥ずかしさに大声で悲鳴をあげた。
「フン、だからビキニタイプのアーマーはダメなんだ。防御が甘い・・・」
ヒナは少し自慢げに言った。
アキラはアンのビキニが外れる前に外方を向いていた為、アンの裸体を見ずに済んでいた。
「?」
そこに悲鳴を聞きつけた理人がビジュアライザーの中を覗いてきた。
「ま、マスター・・・」
アンは胸部を両腕で隠しながら恥ずかしそうに見上げた。
「(タイミングの悪いときにお前は・・・)」
アキラは外方を向いたまま頭の中で呟いた。
5人は沖縄の海を再現した空間から出ると、ビジュアライザーを閉じた。
「みんな水着アーマーで何してたの?」
理人は5人に訊いた。約1名は水着アーマーではなく水中用装備なのだが。
「えっと、明日から行く沖縄旅行の予行演習をちょっと・・・」
アイネスが代表して答える。
「はは・・・予習もいいけど、早く荷作りをしてしまわないと。明日は早いんだから・・・」
「はい、マスター。でも、持って行く物がなかなか決まらなくて・・・マスターは、どっちの水着アーマーが良いと思いますか?」
アンはピンク色の水着アーマーを出しながら理人に訊いた。
「ん~・・・アンには、こっちの方が似合うんじゃないかな?」
理人はアンが今着ている水着アーマーを示した。
「そうだ、今の内にあれ塗っておこう。」
理人はそう言って、青いボトルを出した。
「防水オイル。紫外線をブロックする効果もあるんだ。」
「あ・・・お願いします、マスター。」
アンは頬を赤らめながら頼んだ。
「さあ、横になって。」
理人は筆を取り出しながら言った。
まずはアンの塗装から始めた。
「この水着アーマーだと、素体の露出部分が多いから、オイルいっぱい使っちゃいそうだな・・・」
理人はアンの全身を見ながら防水オイルをアンの腹部に優しく当てた。
「あっ!・・・うぅ・・・」
アンは擽ったそうに喚く。
「マスター!ボクもボクも!!」
アイネスはアンが羨ましくなって理人に言った。
「待って、順番順番。」
「それじゃあ、次は私が───」
「ズルいぞ、レーネ!ボクが先!!」
「喧嘩はよせ。どっちにしても全員塗るんだから。」
アキラは喧嘩になる前にアイネスとレーネをとめた。一方でヒナは、露出が少ない自分の水着アーマーを見て顔を赤らめていた。
その後、アン、アイネス、レーネ、ヒナ、そして最後にアキラの順で防水オイルを塗った。
アキラは5人の中で特に素体の露出部分が少なかった(正直なところ、本来塗る必要は無いのだが)ので、塗装には殆ど時間は掛からなかった。
塗装中、アキラは身体を擽られるような感覚に襲われたが、塗装部分が少ないことがあってか、アン達に比べれば比較的に大人しかった。
全員の塗装が終わった後、5人は荷作りを済ませて、早い内にクレイドルでバッテリーをフル充電状態にしておいた。何故なら、沖縄へ着くまでは小型トランクケースの中に居るからだ。
アキラは予行演習でバッテリー切れになったウォーターバイクもしっかり充電して、トランクの中に入れた。
そして夜、理人に挨拶をしてトランクケースに入った。理人は夏休みの宿題をまとめて終わらせてから寝ると言っていた。
アキラは少々心配だったが、人間の時と違い、無理が利かないこの身体で夜遅くまで彼を見てやることも手伝うこともできないので、今の彼にはどうすることもできなかった。アキラにできるのは、明日に備えてアン達と共に早めに休むことだけだった。
「何かドキドキして、なかなかスリープモードに入れない・・・」
アンは明日がよほど楽しみなのか、眠れない様子だった。ヒナとアイネスとレーネも、目を開けていることから同じ状況のようだが、それに対しアキラはいち早くぐっすりと眠っていた。
「寝るの早いな、コイツ・・・」
アイネスはアキラを見ながら呆れた顔で言った。
「忘れ物無いかな・・・」
レーネはそんな事を呟いた。
「あっ!」
そう言うと、アンは固定シーツから抜け出した。
「どうしたの?アン・・・」
アキラを見ていたアイネスがアンの方を向いてに訪ねた。
アンは何やら画面を空間に表示して悩んでいた。
「2日目の観光コース、やっぱり水族館より首里城を入れた方が・・・」
アンは沖縄旅行のスケジュールを気にしているようだった。
「それはマスターに聞いてみないと・・・」
レーネは画面を覗き込みながら言った。
「沖縄に着いてからで良いでしょ?それより、早く寝よう・・・って、何これ!?」
アイネスは上を見た瞬間、ある物が目に留まった。
「あっ、それはイーア姉さんから借りた人魚タイプの武装なのです。」
上の棚にはイーアネイラ型の水中用脚部パーツが棚から思いっきりはみ出た状態で置かれていた。
「デカすぎ!て言うか、荷物は1人500gまでってみんなで決めたでしょ!?」
隣に置いてあるアンのロングヘアパーツやアキラの折り畳まれたウォーターバイクと比較しても圧倒的に大きかった。
「だけどアイネスだって・・・」
レーネがそこまで言いかけた時、鼻先に雫が落ちてきた。雫の正体は、ヂェリカンの液体だった。棚に置かれていた大量のヂェリカンの1つのバルブが緩んで、中の液体が漏れていた。
「あっ、漏れてるのです!何でこんなにたくさんのヂェリカン~!」
レーネはそう言いながら緩んだヂェリカンのバルブを閉めた。
「だって、ヂェリカンはおやつ・・・じゃなくて、重さに入らないんじゃなかったっけ?」
「そんなの訊いてなかったのです。・・・だったら、私だってもっと・・・」
「何を持って行くのさ?」
「えっと・・・」
レーネが考え込んでると、1匹のハムスターがトランクケースの中に顔を出した。
「いや、お前は連れてけないから・・・」
アイネスがツッコんだ。
「あ・・・」
アンが見た先にはビキニタイプの水着を見ているヒナの姿があった。
「水着アーマーは、やっぱりビキニタイプが似合うと思います。」
「も、もう寝る!」
アンがそう言うと、ヒナは顔を赤らめて固定シーツに潜り込んだ。
アンは微笑んでシーツの中に入った。
「私達も、もう寝ましょう。明日、目が覚めたら・・・そこはもう沖縄・・・」
そう言って、アンは瞳を閉じた。
次の日、アン達はあらかじめセットしておいたアラームに起こされた。
「ん~・・・、みんなおはよう・・・」
アンに続いてヒナ、アイネス、レーネも起床した。
「ふわぁぁぁぁ・・・もう、沖縄に着いてる頃だね。」
アイネスは欠伸をしながら言った。
「あら?アキラさんが居ないのです。」
レーネが見ている方を見ると、アキラの姿が無かった。
「さてはアキラの奴、抜け駆けして先に沖縄の海に・・・」
アイネスがそんな事を言っていると、あとの3人が水着アーマーに着替え始めた。
「直ぐに後を追うぞ!」
水着アーマーを着ながらヒナは言った。
「ああっ!ちょっと、ボクも!!」
アイネスは慌てて着替え始めた。
そして、アン達はフル装備状態でトランクケースから飛び出した。
「沖縄の海~!」
そう言って出た先には、1匹のハムスターが向日葵の種をカジりながら立っていた。
「あれ?」
最初は一緒について来たのかと思ったのだが、周りを見ると、そこは沖縄などではなく、理人のマンションの中だった。
「ひょっとしてボクたち・・・」
「置いて行かれちゃった・・・?」
すると、遠くでアキラの声が聞こえた。ビジュアライザーが置いてある方向だった。
アン達は声がする方へ行ってみると、予想通りにビジュアライザーが展開していた。
フィールド内に入ると、アキラが受話器を手に誰かと話していた。
「だからあれほど言ったじゃないか。出発する時になって慌てるなよって・・・」
<ゴメン、本当にゴメン!>
相手は沖縄にいる理人だった。
「良いよ、そんなに謝らなくても。起きてしまったことはどうしようもないし・・・」
理人はアン達が入っているトランクケースともう1つ、模様以外同一のトランクケースを持って行かないのにも関わらず、アン達が入っているトランクケースの近くに置いていた。それを理人が寝坊して焦っていた時に間違えて持って行かない方のトランクケースを持って行ってしまったのだ。
その中身はただのガラクタで、しかも、ちょうどアン達が入っている時の重さとほぼ同じだった。
アキラは、あの時、ちゃんとトランクケースの事を訊いておけば良かったと後悔した。
「アキラさん?」
アンが後ろから小声でアキラを呼んだ。
「?・・・ああ、起きたのか。」
アキラは振り返ってアン達を認識した。
「あの、今、話している方は?」
「ああ、今、理人と話しているところだよ。」
「マスターと!?」
アンはアキラから受話器を取りあげた。
「マスター!?私です、アンです!」
<あ、アン!?・・・ゴメンね、アキラから聞いたかもしれないけど、今日出るときに間違えて違うトランクケースを持って行っちゃったんだ・・・>
「そうなんですか・・・」
<ゴメンねアン、本当にゴメン!>
「そんなに謝らなくても大丈夫ですよ。マスター、昨日は夜遅くまで勉強してたんですし、仕方ありません。」
アキラはその会話を聞いて、アンは優しいなと思った。それに対して、自分は責める言葉しかなかった為、罪悪感すら感じた。
「はい・・・はい・・・えぇっ!?そうですか。じゃあ、マスターと3日間も会えないと言うことに・・・」
今回、旅行に使用した沖縄旅行のチケットは、通常の航空券での旅行と違い、帰国日が決められているため、その日までは戻ることが出来ないのだ。
アンは通話を終了すると、受話器を戻した。
「3日間もマスターと離れ離れ・・・」
アイネスはガッカリしていた。
「せっかく、マスターと沖縄、楽しみにしてたのに・・・」
レーネもかなり落ち込んでいた。
「どうしよう・・・」
「どうしようもない。私達だけじゃ、飛行機には乗れない。」
アイネスの言ったことに対し、ヒナがそう答えた。すると、周りはさらに落ち込んだ。
アキラは、ふと自分のバッテリー残量を確認した。現在、本体のバッテリーと武装側のアシストバッテリーの容量を合計するとエネルギーは99%あった。そして、次にここから沖縄までの距離と、現在のバッテリー残量で飛べる航続距離を計算した。
沖縄までは約2000kmあり、現在のバッテリー残量で沖縄まで飛行ユニットで飛んでいくことはギリギリ可能だった。
しかし、これはあくまでアキラが前提のデータであって、本体側のバッテリーしか持たないアン達では、航続距離が足りなかった。予備バッテリーを使用したとしても、現状、理人のマンションにある予備バッテリーは1人1個分しかない上、沖縄まで飛ぶには最低でも予備バッテリーが2つ必要なため、どちらにしても沖縄まで自力で飛んでいくことは不可能だった。
アキラは、他に沖縄へ行く方法が無いか考えた。すると、交通機関を利用できないのかと思いついた。バスや電車を途中で利用しながら行けば、その分バッテリーは消費しないので、これならば効率的に沖縄へ行けるのではないかと考えた。
アキラは直ぐに交通機関の利用を前提としたデータをはじき出した。結果、予備バッテリーが1個さえあればアン達でも余裕で沖縄へ行くことが可能だった。
アキラはそれをみんなに説明しようとした時、アンが口を開いた。
「諦めちゃダメです!」
「えっ、でも・・・」
「別に、地球の裏側まで行こうって訳じゃ無いんです!きっと何とかなります!私達だけで行きましょう、沖縄へ!」
しばらくの間、沈黙が続いた。
「うん、アンの言うとおりだ!」
先に口を開いたのはアイネスだった。
「なのです!」
レーネも続いて頷いた。
「まあ、ここでじっとしていても、身体が鈍るだけだしな。」
ヒナは両手を腰に当てながら賛成した。
「自力で沖縄まで飛んでいくのか・・・面白そうじゃないか。」
もちろん、アキラもアンの意見に賛成だった。
「みんなでマスターをびっくりさせましょう!」
そう言ってアンは笑顔を作った。
こうして、アン達5人は自分たちだけで沖縄へ行くことになった。
今回も文章が長めになってしまいましたので、AパートとBパートに分けました。引き続き、Bパートをどうぞご覧ください。