武装神姫 Another World   作:グレイ雪風

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Bパートです。


Episode04 Journey of Okinawa 2000 km Part.B

 アン達はマンションのベランダから出発した。5人はそれぞれ自分の荷物を持ちながら飛行していた。アンはハムスター型のリュックを、ヒナは3本銛を、アイネスとレーネは浮き輪を、アキラは折り畳まれたウォーターバイクを両手で持っていた。

 まずはアキラが先頭になって、素体本体と頭部バイザーの機能で沖縄までの最短ルートを調べた。数秒後、直ぐにバイザーに最短ルートが表示され、アキラはそのルートに従って旋回を始めた。後ろを飛んでいるアン達もアキラに続いて旋回した。

 しばらくの間、ルートを辿って飛んでいると、富士山が見えてきた。

「今どの辺り?」

 アイネスが現在地を訊いてきた。

「山梨県富士吉田市上空。」

 アキラが答えた。

「まだまだ先は長い。」

 一番後ろを飛んでいるヒナはそう言った。

「ねえ、まさかこのまま沖縄まで飛んでくつもり?」

 アイネスは心配になって尋ねた。

「大丈夫なのです。乗り換え案内でルートを調べれば・・・」

 レーネはそう言って高速道路を走るバスの行き先を調べた。

「あのバスに乗るのです!」

 そう言って名古屋行きのバスのルーフの上に着地した。レーネがここまで考えていたことに、アキラは少し関心した。何故なら、いつもは少しドジな一面があるからだ。

 5人はバスのルーフの上にあるガスボンベのカバーにもたれた。前方から吹き付けてくる風が気持ち良かった。だが、アン達がしていることは、いくら神姫用の乗車券などが無いとはいえ不正乗車である事に変わりはないので、乗っている時も降りる時も、周りの人間に発見されないようにしなければならない。断じて今から30年ほど前にあったどこかのアニメにいたアンに少し似た声の宇宙人が言ったような台詞を言うつもりは無いが。

「気持ちいい~」

「これってどこ行きですか?」

 アンがバスの行き先を訊いた。

「流石に沖縄までは無理っしょ・・・」

 アイネスは分かり切ったように言った。

「名古屋行きだよ。」

 アキラが答える。

「次は列車に乗り換えるのです!」

 レーネは人差し指を上に向けながら言った。

 アン達は線路の近くでバスを降り、目的の列車が来るのを待った。

「来た。」

 ヒナがそう言った時、線路の向こう側から目的の列車が走ってきた。

 だが、それは通常の電車ではなく、貨物列車だった。列車はアン達の近くで停車した。

「貨物列車・・・?」

 アイネスは、呆然とした表情で言った。

「行きましょう!」

 レーネに続いて列車の上に乗った。

 列車が再び走り出すと、そこには普段電車の客席から見るのと変わらない風景があった。

「列車の旅も良いものなのです。」

 レーネがそんなことを呟いた。アキラも同感だった。景色が横へと流れていくのを眺めながら旅するのも嫌いではなかった。

 アキラは、武装の収納スペースからカメラを取り出した。

「えっ、何それ!?」

 アイネスは、見慣れない物をアキラが出したので、少し驚いていた。

「一眼レフカメラだよ。ウォーターバイクを製作する前に作ったんだ、こういう時の為にね。」

 アキラはそう言いながらカメラを構えてシャッターボタンを押した。

「凄いですね、アキラさんって色んな物を作れるんですから・・・」

 アンはアキラの技術力にかなり関心を持っていた。

「いや、流石に何でも作れるというわけじゃないけど・・・それに、コイツは本来、内部にミラーを付けたかったんだけど、スペースの問題でミラーレスになっちゃったから、俺としては納得のいく出来では無いんだ。」

 アキラはカメラを下ろしながらそう言った。

「て言うか、別にそんなカメラ使わなくったって、神姫本体のカメラ機能使えば良くない?」

 アイネスは疑問に思ったことを言った。

 神姫の目のカメラには撮影機能も備わっていて、パソコンなどの端末を通して保存した画像データを他のメモリーなどに移したり、写真を印刷したりできる。

「こういうのは、好みと拘りってヤツだよ。それに、こういうのに画像データを保存しておけば、その分、体内のメモリーを使わずに済むだろ?」

 アキラはまたカメラを構えて風景を撮った。

「確かにそうだけどさ・・・。それにしても、揺れが気持ちいいよね・・・何か眠くなっちゃいそう。」

 アイネスは、アキラの一眼レフのことから列車のことについて言った。

「それじゃあ、みんなでお弁当にしましょう。」

 そう言ってアンはリュックの中からヂェリカンを取り出した。パッケージには“KAMAMESHI”と書いてあった。

「峠の釜飯味・・・」

 ヒナは半目になって言った。

「お腹いっぱいになったら、ますます眠くなっちゃいそう・・・」

「だったら、アイネスはいらない?」

「あぁっ、・・・食べる食べる!」

 アイネスは居眠りを心配していたが、釜飯味のヂェリカンを食べ損ねるのが我慢できず、一緒にそのヂェリカンを飲むことにした。

「順番に一口ずつですよ~」

 アンはそう言ってレーネにヂェリカンを渡した。

「お茶を持ってくるの忘れた・・・」

「お茶なら俺が持ってきたよ。」

 アキラはヒナに言った。

 アキラは弁当にお茶が入ったボトルとカロリーメイトのような固体のエネルギー補給食品を持ってきていた。

「そんなのいいから、早く早く!」

「私は、イカ飯味を持ってきたのです!」

 レーネが持ってきたイカ飯味のヂェリカンが追加され、みんなに回すのが困難になった。

 アン達が乗った列車は橋の上を通った。しばらくの間、昼食をとっている内にアン達は予想通りに居眠りをしてしまっていた。唯一、起きていたアキラは風景をカメラに収めていると、眠っているアン達に気づいた。

 アキラはフッと微笑むと、居眠りしているアン達4人をカメラで1枚撮った。

 そして再び風景の撮影をしていると、横で何かが動く音と誰かの声が聞こえた。どうやらアンが起きたようだった。しかし、次の瞬間、何かが滑り落ちる音と共にアンが叫んだ。

「荷物が!」

 アンはそう言って、武装を展開して橋の下へ降下した。見ると、アンが持ってきたリュックが橋の下の川へと落ちていく様子が確認できた。

 アキラはみんなが目を覚ますより先に、武装を呼び出してアンの後を追いかけた。

 リュックは、アンが追いつくより前に川の中へ落ちた。アンは諦めたのか、徐々に速度を落としていった。だが、アキラはそんなアンを追い越し、水面すれすれまで高度を落とすと、武装を水中用の装備に付け替えて川の中へ飛び込んだ。

 一方、アンは川の近くの岩の上で立ち尽くしていた。

「どうしよう・・・」

 すると、あとを追ってきたアイネス、レーネ、ヒナの3人が降りてきた。

「あー、諦めるしかないね。」

 アイネスは着地しながら言った。

「居眠りしたのが悪かったのです・・・」

 レーネは自分達の行いを反省した。

「でも、あれが無いと・・・」

 だがアンは、リュックに重要な物が入っていたという感じの様子だった。

「中身は何だったんだ?」

 ヒナが訊く。

「予備のバッテリーパック・・・みんなの分も。」

「えぇぇぇ!?」

「と言うことは・・・」

 アイネスとレーネは重大な問題が発生したことで不安が広がった。

「ボクたち、途中どこかで充電しないと、沖縄までエネルギーがもたないって事?」

「とにかく線路に戻ろう。大きな街なら、神姫ショップがあるはず・・・」

 ヒナがそう言ったとき、アキラが居ないことにレーネが気づいた。

「そういえば、アキラさんは?」

 その直後、川の下流の方からアキラがアンのリュックを両手でぶら下げながら飛んできた。

「アキラさん!私のリュック、見つけてきてくれたんですね!!」

 アンは嬉しそうに言った。だが、それに対してアキラは何か気まずそうな表情だった。

「ありがとう、アキラ!良かった・・・これで沖縄まで────」

「すまない・・・中に入っていた予備バッテリーなんだが・・・」

 アキラはアイネスの言葉を遮って謝罪の言葉を口にした。

「全部水没してて、使えそうにないんだ・・・」

 

 

 

 アンのリュックは特に防水加工されていたわけでは無かった為、中は水浸しだった。アキラの証言通り、中に入っていた予備バッテリーは完全に水に浸かっていた。

 アキラは自分の分の予備バッテリーの状態を調べた。予想通り、予備バッテリーは水没して使い物にならないことが判明した。視界にも、予備バッテリーが使用不可能と示す表示が出ていた。

「駄目だ、やっぱり使えなそうだ。」

 アキラは後ろで自分の予備バッテリーを調べているアン達に振り向きながらそう報告した。

「こっちも使えないみたい。」

 アイネスはアキラの方を見て言った。後の3人も同じようだった。

「はあ・・・折角、バッテリーの心配がなくなったと思ったのに・・・」

 アンは溜め息をつきながら呟いた。

「すまない、俺がちゃんと見てさえいれば・・・」

「アキラさんのせいじゃありませんよ。そもそも、私がお弁当にしようなんて言わなければ、居眠りすることも・・・」

「だけどあの場合、起きている俺が本来見ているべきだったんだ・・・」

「それは────」

「今更過ぎたことを悔やんでいたって仕方がない。とにかく、線路へ戻ろう。」

 ヒナが会話に割り込んでそう言った。

「そうだな、いつまでもこんなことしてたって、エネルギーの無駄だしな。」

 アキラは立ち上がりながら言った。

「そうだ、お前に1つ言っておこう。アキラ、お前の飛行ユニットのバッテリーをなるべく温存しておいてくれ。いざという時に、そいつからエネルギーを補給できるように・・・」

 アキラの飛行ユニットには、使用時に膨大な電力を消費するアクティブ・ステルス機能の活動時間延長の為に、神姫本体の約3倍以上の容量をもつ小型大容量バッテリーが搭載されていた。これにより、ステルス機能非使用時の活動時間は倍に延長され、同時にこの飛行ユニットを他の神姫に装着させることによってエネルギーの充電を行うことも可能だった。

 アキラはヒナにそう言われると、飛行ユニットの大容量バッテリーからの電力供給をカットした。現在、身体本体のバッテリー残量は100%、飛行ユニットの大容量バッテリーは94%残っていた。このまま予定通りに行けば沖縄までエネルギーは何とか保ちそうだったが、さっき列車を降りてしまった為、ここから街まで歩いて行かなければならなくなっていた。

 ちょうどアキラ達がいる辺りは山に囲まれていて電波が届かないので、現在地が分からなかった。その為、通常モードよりもエネルギーを消費する飛行モードで下手に飛んでいくのは危険だった。

 アキラ達は線路まで戻ると、そこから列車が走って行った方へ向かって歩き始めた。線路の中央をアキラ、ヒナ、アン、レーネが横に並んで進み、右のレールの上をアイネスが歩いた。

「喉乾いたぁ~・・・アキラ、お茶~」

 アイネスが辛そうな表情でアキラに要求してきた。

「列車の上で弁当を食べたとき、全部飲んじゃっただろ?しかも、最後に飲み干したのはアイネスじゃないか。」

 アキラは空のボトルを振りながら言った。

「どうぞ。」

 アンはリュックに入っていた釜飯味のヂェリカンを差し出した。

「この状況で釜飯味ってどうなの・・・?」

 アイネスは呆れた顔で言った。

「文句があるなら飲むな。」

 ヒナはそう言ってアンから受け取ったヂェリカンを一口飲んだ。だが、さすがのヒナも水分補給に釜飯味のヂェリカンは口に合わない様子だった。

「アキラさんはどうですか?」

 アンはアキラにも勧めてきた。

「いや、俺はいいよ・・・」

 アキラはそう言って断った。

 アキラとしては、できれば本当に喉が乾いた時以外は釜飯味のヂェリカンは飲みたくないと思った。

「それにしても、もう随分歩いてるのに、電車は一本も通らないのです・・・」

 レーネは人差し指を上に向けながら言った。

「そう言えば、途中でいくつか線路の切り替えポイントあったよね・・・」

 アイネスは首を傾げた。

「まさか、使われていない線路に入っちゃったとか・・・」

 アンは少し不安になった。

 アキラは現在地を確認しようとしたが、電波が届かない為、ネットに接続出来なかった。このまま引き返しても、現在地が分からない以上、余計に道に迷う危険があった。

 アキラ達は、ただその道が目的地に繋がっていることを祈るしか無かった。

 

 

 

「どうやら、そのまさかみたいだ。」

 アキラ達がたどり着いた場所は、廃線になって使われていない荒れ果てた無人駅だった。

 現在のJRは、全体のほぼ90%以上が有人駅で、最低限駅施設や、駅員および駅員神姫が配備されている。それに対し、無人駅の殆どはちゃんとした設備を備えた有人駅に改装されたか、ほんの僅かながら人口の多い田舎の駅として現役で使用されているか、あるいはそのまま使われずに放棄されているのが現状である。

 アキラ達がたどり着いたのは、使われず放棄された無人駅の内の1つのようだ。

「廃線?やっぱり、途中で線路を間違えた・・・」

 アンはリュックを下ろしながら言った。

「今、どの辺り?・・・地図は・・・?」

 アイネスは中腰の状態で木の枝を杖にもたれ掛かりながら立つレーネに訊いた。

「駄目です、圏外です・・・ネットに接続できません・・・」

 レーネは息を切らしながら言った。レーネの前には赤く(圏外)と空間に表示され、点滅していた。

 アキラは念の為に自分もネットに接続できないか試したが、結果は同じだった。レーネとは少し違い、目の前の空間に(Out of area)と青い横長の四角い枠の中に白く表示されていた。

「仕方がない、こうなったら自力で飛んで───」

「いや、飛行モードはエネルギーの消費が激しい。現在地も分からないのに、飛ぶのは・・・」

 今からマラソンでもするかのようなポーズで飛ぼうとするアイネスを、ヒナがそう言って引き止めた。

 その時、生い茂る草が動く音が聞こえた。音に気づいたヒナは辺りを警戒する。

「どうしたの?」

 アンは警戒するヒナに尋ねた。

「何か居る・・・」

「人間?」

 アイネスが訊く。

「違う・・・」

「野生動物か何か?」

 アンも辺りを見回しながら言った。

「山の中だし、熊って可能性もあるな・・・」

 アキラはそう言いながら、眉をひそめて周りを警戒した。

「ちょっと、嫌なこと言わないでよぉ!」

 アイネスは、不安な表情でアキラに文句を言った。

「とにかく、今は武装して戦うのも避けた方がいい。」

「そうなのです・・・飛行モードよりさらにエネルギーを消耗してしまうのです・・・」

 レーネは疲れ切った声でそう言いながらヒナに賛同した。

 アキラは5人の中で一番活動時間が長いが、非常時に備えてアシストバッテリーを温存しなければならないので、彼が戦うわけにもいかなかった。さらに言えば、アキラのアクティブ・ステルス機能は戦闘モードの倍にエネルギーを消費する上、活動時間延長用のアシストバッテリーのエネルギー供給を受けないとなるとさらに活動時間が減少することになる。

「暗くなってからの移動は危険だ、今夜はここで一泊しよう。2人ずつ組になって、交代で見張りを。」

 ヒナがそう提案した時、アキラは視線を感じて樹木の方を睨んだ。

「どうした?」

 ヒナはアキラに尋ねた。樹木には何も居なかった。

「・・・いや、何でもない。」

 アキラはそう言って樹木から目を離した。

 その後、夕日はあっという間に沈み、辺りは月と蛍の照らす光以外薄暗くてよく見えなくなっていた。アンとヒナ、それにアキラの3人は川の近くの岩の上で見張り、アイネスとレーネは後ろの草むらの中で眠っていた。

「お前はまだ寝ていろ。交代の時間まではエネルギーを温存して────」

「大丈夫。みんなほど本体のエネルギーは消耗していないから・・・」

 ヒナは、3本銛を手に周りを警戒しながらアキラに言った。本来はまだアキラが見張る番では無かった。だが、交代時間まで休むように言うヒナに、アキラはそう言って辺りを見回した。

 アキラのエネルギーは、予備バッテリーを失うまでの間、飛行ユニットのアシストバッテリーで補っていた為、本体のバッテリー残量はまだ80%も残っていた。

「それでも、お前はなるべく休んでいろ。お前にはいざという時に飛行ユニットのバッテリーからエネルギーを供給できるようにしておいてほしいからな。それに、お前は・・・」

 お前は人間だから、と言おうとして口を止めた。アキラは、人間だからとか神姫だからとかで命の優先順位や価値を決めるような考えを嫌っているからだ。

「こんな山の中でエネルギーが切れて動けなくなったら、誰も助けに来てくれない・・・マスターとも、もう二度と会えない。」

 岩の上に座っていたアンが突然、そう呟いた。酷く辛い表情だった。

「マスター、今頃どうしてるかな・・・?」

「きっと、もう眠っている。」

 アンの疑問に、ヒナが答えた。時刻は10時半過ぎだった。

「私のせいでこんなことになって・・・」

「別に、アンだけのせいじゃない。」

「でも、私が行こうって言い出したから────」

「アンが言わなかったら、俺が言ってたよ。」

 アキラが会話に割り込んでそう言った。アンは驚いてアキラの方を向いた。

「あの時、俺は何とか自力で沖縄へ行けないか検討したんだ。その結果、交通機関を利用すれば、何とか理人のマンションにある装備で沖縄まで行けることが判明したから、それをみんなに話そうとした時に、アンが自分達だけで沖縄へ行こうって言い出したんだ。」

「アキラさん・・・」

「だから、別にアンだけが責任を感じることはないよ。」

 アキラは微笑みながらアンに言った。

「アンやアキラが言わなくても、きっと他の誰かが言い出していた。それに・・・」

 ヒナは一度言葉を切り、アンがこちらを見ると同時に正面を向いた。

「私も、本物の海を見るのは初めてだから、一度行ってみたかった。」

「ストラーフ・・・」

 アンは、それを聞いてふと思い出した。ヒナはアキラを除けば理人のもとに来てからまだ数ヶ月で、本物の海など見たことがないことに。それならば、さぞかし海には興味があるだろう。

「っ!・・・などと考えてしまうくらい、最近は腑抜けていたが私はサバイバル能力にも長けている。これくらいの状況何でもない。」

「そこはもっと素直になってもいいんじゃないかな?」

 アキラは、急に開き直ったヒナにそう言った。

「う、うるさい!あくまで興味があっただけの話で・・・」

「俺は子供の頃に、何度か両親に海へ連れて行ってもらったことがあるけど、さすがに沖縄の海は見たことが無かったし、それどころか沖縄にすら行ったことが無かったからね。俺も一度で良いから、沖縄には行ってみたかったんだ。」

 アキラは自分の思いを語った。だが、その時のアキラは、何故か悲しそうな表情だった。

「どうしたんですか?アキラさん・・・」

 アンは心配そうにアキラに訊いた。

「あっ、いや・・・何でもないよ。」

 アキラは我に返って、無理に微笑んだ。アキラが何かを隠していることは、アンやヒナにも分かった。しかし、あえてその事には触れなかった。

「ありがとう。アキラさん、ストラーフ・・・」

 アンは2人に礼を言った。

 その時、アキラの視界に警告音と共に警告アラートが表示された。

<WARNING:Unidentified enemy approaching. Be careful.>

 アキラは辺りを見回した。すると、暗い森の奥の辺りで敵の位置を示すアイコンが視界に複数表示された。

「どうした?」

 ヒナは、驚いた表情で森の奥を見るアキラに尋ねた。警告音は、周りには聞こえないようになっていた。

 すると、突然近くの草むらが動いた。

「!?・・・やっぱり、何か居る。」

 ヒナは3本銛を構えて辺りを警戒した。

 草むらの奥には、複数の狼が瞳を黄色に光らせてアン達を睨んでいた。アキラが見ている森の奥にも、大量の狼が数体こちらに向かっていた。上空を見ると、複数の鷲がアン達を狙って旋回し続けていた。

「マズいな、逃げ場が無いぞ・・・」

 アン達は、完全に囲まれていた。

 ヒナは、アンの前に立ち、3本銛を構えた。すると、アンがヒナの横に立って構えた。

「ストラーフ、私も一緒に戦います!」

「待て。」

 ヒナと共に戦おうとするアンを、アキラが止めた。何を言ってるんですか、とアンが言おうとすると、アキラはアンの手元に何かを投げ渡した。

「これは・・・?」

「折り畳み式のコンバットナイフだ。丸腰で戦うよりはマシだろう?」

 アキラはそう言いながら、いつの間にか脚部にマウントされていたホルダーからもう1本のコンバットナイフを取り出した。

 グリップにあるスイッチを押すと、柄の部分から刀身が出てきた。

 この装備は、アキラが万が一、バッテリー残量が少ない状態での戦闘を強いられた時を想定して購入していたもので、正式名称は、“対装甲・戦闘用サバイバルナイフ”という。

 刀身の刃の部分がチェーンソーのように高速回転することにより、切断力を向上させることが可能な上、使用電力も少なく、刃を回転させなくても充分な切れ味があるのでバッテリーが少ない時などの戦闘に適した武装と言える。

 このコンバットナイフは、他にも超振動モーターを搭載したタイプがあり、これらの特徴から、愛用者からはプログレッシブナイフ、アーマーシュナイダーなどとも呼ばれている。

「来るぞ・・・」

 アキラはコンバットナイフを翳しながら言った。周りを取り囲む狼と上空を飛ぶ鷲が、ほぼ同時にアン達に襲いかかってきた。

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 ヒナが狼の大群に飛びかかろうとしたと同時に、アキラが大群の中の1匹をロックオンしようとした、その時だった。

 突如、背後から銃声が響いた。狼と鷲の大群はその銃声に驚いて逃げていった。

「!?」

 アン達が振り向くと、少し離れた所にゼルノグラード型の神姫が長砲身ライフルを構えて立っていた。

 頭部バイザーの赤いセンサーが薄暗い空間の中で光っていた。

「あなた達!そんな軽装備で山に入るなんて無防備過ぎだよ!」

 ゼルノグラード型の神姫は頭部バイザーを上げながらアン達に言った。

「俺達の装備が何か?」

 アキラは自分の武装を呼び出しながらゼルノグラード型に言った。

「アキラさん・・・」

 アンはそんなアキラを見ながら苦笑いした。

「あれっ?・・・君って、もしかして・・・」

 ゼルノグラード型が、アキラに心当たりがある様子だった。

「・・・?」

 

 

 

 アン達は、寝ていたアイネスとレーネと一緒にゼルノグラード型の神姫のテントへと案内された。テントと言っても、軍用のヘルメットに電球や発電器が付いたような代物だったのだが。

 アン達は発電器から電力を得るためのクッション型充電ユニットの上に座って充電してもらっていた。

「自家発電だから、ちょっと時間はかかるけど、朝までには全員終わると思うよ。」

 ゼルノグラード型がアン達に言った。

「ありがとうございます。助かりました・・・」

 アンはゼルノグラード型の神姫に礼を言った。

「でも、何でこんな山の中で1人でテント生活を?」

「マスターはいらっしゃらないのですか?」

 アイネスとレーネが質問した。

「私のマスターは自衛官なんだ。ほら、あそこに基地が。」

 ゼルノグラード型は草木の間から見える自衛隊の基地を指差した。

「私の任務は、この山を守ること。だから、マスターの任務中は、ここで1人で野営をしてるってわけ。」

 ゼルノグラード型はアン達に向き直りながら腕を組んだ。

「へぇ・・・結構大変だろ?電波も届かないのに・・・道に迷ったりしないのか?」

「まぁ、この山のことは知り尽くしているから、特に困ることも、道に迷ったりすることなんてめったに無いけど・・・あっ、でも、君たちみたいに、無防備に山の中に入って迷子になったりする神姫がよく居るから、それはちょっと困るな・・・」

 アキラの質問に、ゼルノグラード型が答えた。それくらい出来なければ、この任務は務まらないのだろう。

「それにしても、驚いたよ。まさか、こんなところで噂の男性型神姫に会えるなんて思ってもみなかったから・・・」

「そんなに俺のことが噂になってるのか?」

「それはもう、うちのマスターの基地でも話題になってるくらいだし、結構、君って人気者みたいだよ。」

 アキラのことは、ニュースや新聞、ネットなどを通じて話題になっており、ゼルノグラード型のマスターの自衛隊基地でもこの話が話題になっているようだった。

 翌朝、全員のバッテリーの充電が無事に完了し、ゼルノグラード型に山の出口まで案内してもらった。

「南の方角はあっち。それじゃあ、私はここでね。」

「ありがとう。次に会った時は、是非、一戦交えよう。」

 ヒナはゼルノグラード型に礼を言った。

「うん、楽しみにしてる。ストラーフ型とは、一度戦って見たかったんだ・・・そうだ、アキラ・・・だっけ?」

 ゼルノグラード型の神姫がアキラを見て言った。

「ああ。」

「君とも、今度会った時に対戦してみたいなぁ・・・」

「うちのマスターの許可が下りればな。神姫バトルは危ないからって、俺達のバトルへの参加を許可してくれないんだよな・・・」

「そうなんだ・・・もし、対戦できる機会があったら、その時は、最新型の性能を見せてもらうよ。」

「ああ、その時は、ゼルノグラード型の射撃能力も見せてもらおうかな。」

 アキラは、ゼルノグラード型の射撃能力にも興味があったので、対戦できる時が待ち遠しく思った。

「本当に、すっかりお世話になっちゃいました。予備の電池パックまで頂いて・・・」

 アンは少し申し訳なさそうな表情で言った。しかも、本来必要のないアキラの分の電池パックまでも、念のためにと譲ってくれていた。

「良いって事。困った時はお互い様だから・・・」

「今日中に沖縄に着けるかな?」

 アイネスが心配そうな顔でレーネに訊いた。

「何とかなります。きっと・・・」

 レーネはそう答えた。

 アキラは自分のバッテリー残量を確認した。本体及び、飛行ユニットのアシストバッテリーは100%で、現在地から沖縄まで余裕で飛んでいくことが可能だった。

「無事、マスターに会えるといいね。」

 そう言ってゼルノグラード型の神姫はにっこりと笑顔を作った。

「はい!」

 アンは、そう返事をした。

「色々ありがとう。それじゃ、出発しようか!」

 アキラはそう言うと、武装を呼び出して真っ先に沖縄に向かって出発した。アキラの飛行ユニットのスラスターは5人の中で一番高性能な上に最速を誇るため、スラスター点火と同時にほぼ一瞬で空の彼方へ飛んでいった。

「あっ、ちょっと待ってよぉ!」

 アイネスは慌てて武装を呼び出し、アキラの後を追いかけた。

「勝手に1人で飛んでいっては駄目なのです!」

「アキラさん、速い!」

「全く、何考えてんだか・・・」

 アンやヒナ、レーネの3人もアイネスに続いてアキラを追いかけた。

「アキラ・・・か。」

 ゼルノグラード型の神姫は、南の空へと飛んでいく5人が見えなくなるまで、そこに立ったまま見送った。

 

 

 

 その後、アキラ達は沖縄を目指しながら途中で通りかかった色々な観光地を見ていった。

 最初は、京都の清水寺の五重塔を、次に大阪の大阪城付近を通りかかった所で、レーネが野良犬にさらわれ、それを追いかける羽目になった。アキラ達が追いついた頃には、レーネは野良犬に逆さの状態で地面に埋められ、下半身のみが地上に出ている状態になっていた。その光景は、まるでドラゴンボールに登場するベジータのあるシーンを連想させた。

 その次に兵庫県神戸市のメリケンパークを休憩時に観光し、次に広島の原爆ドームを、タクシーのルーフの上に乗りながら見かけた。もちろん、無賃乗車だった。

 アキラは、見かけた観光地をカメラで全て収めていた。

 途中でまた道に迷いかけ、おまけに予想以上に時間を掛けるなどのアクシデントが発生したので、道路脇で(沖縄)と書かれたボードを掲げながら沖縄への道案内を呼びかけたが、結局誰もそれに応じてはくれなかった。

 仕方なく、アキラ達は瀬戸内海まで何とか自力でたどり着いたが、そこでアキラ以外の4人の航続距離が足りないことが判明した。途中で寄り道をし過ぎたのだ。

「どうしよう、この辺じゃ沖縄行きの船なんて見当たらないし、ボク達だけで泳いでいくなんて無理だよ・・・」

 アイネスは辺りを見回しながら言った。

「困りましたね。もう、ゼルノグラード型の神姫さんからいただいた予備バッテリーも使っちゃったし・・・」

 アンはその場に立ち尽くしながら言う。

「どうだ、アキラ?沖縄まで保ちそうか?」

 ヒナは、飛行ユニットのアシストバッテリーで全員のバッテリーをチャージした場合の航続距離を計算するアキラに訊いた。

「駄目だな。全員のエネルギーを充電しても、航続距離が足りない。5人共々、海へ真っ逆さまだ。」

 アキラはそう言って、計算結果をヒナに見せた。

「でも、この辺りに神姫ショップはありませんし、どうしましょう・・・」

 レーネは不安になってそう呟いた。

 もはやこれまでか、そう思いだしたその時だった。アキラの目に、風に流されながら空中に浮かぶ風船が映った。アキラはすかさず、武装を呼び出して風船を追いかけた。

「あっ、ちょっとアキラ!どこ行くのさ!?」

 アイネスがそう叫ぶのを余所に、アキラは風船の紐の先にくくり付けられている厚紙に向かってハンドガンのアンカーを射出した。アンカーの先端は見事、風船の紐にある厚紙に吸着した。アキラは、次々に空中に浮かぶ風船を回収し始めた。

「なるほど、そういうことか!」

 その様子を見ていた4人の内、ヒナが最初にアキラの意図に気づき、加勢しに向かった。

 遅れて気づいたあとの3人も、2人の方へ向かった。その時には既に、空中に浮かんでいた5つの風船を全て回収していた。

「これだけあれば、沖縄まで保つんじゃないかな?」

 アキラの提案は、風船の浮力を利用して沖縄まで行こうと言うものだった。無論、沖縄へ向かうために進行方向を調節する必要があったが、風船の浮力が働く分エネルギーを使わないので、これなら沖縄までたどり着けそうだった。

 4人はアキラの提案に乗り、風船に掴まって沖縄まで飛んでいくことになった。

 アキラを中心にアン達がその周りにしがみつき、アキラの両手に握られたハンドガンのワイヤーアンカーを5人の周りに巻き付け、アンカーの先端は結んだ紐の先端の厚紙に固定した。風船は5人のほぼ中心から出ていた。

 アン、ヒナ、アイネス、レーネの4人は万が一の時に備えて風船の紐をしっかり握り、アキラはハンドガンと背中の飛行ユニット以外の武装を解除し、飛行ユニットのスラスターと主翼のエルロンなどで進行方向を調節しながら、沖縄を目指した。

 しばらく海の上を飛んでいる間に日が暮れ、夕陽が見えた。

「綺麗・・・」

 アンは夕陽を見ながら呟いた。あとの4人も同じ気分のようだった。しかし、アキラは少し残念そうな表情だった。

「か、カメラが出せない・・・」

 アキラはそう言った。

 彼の両腕は、アン達と風船を固定するためのワイヤーアンカー付きのハンドガンで塞がれているため、カメラが取り出せなかった。

「もう、これぐらい自分のカメラ機能で記録しなよ。」

 アイネスはアキラにそう言った。

 仕方なくアキラは、瞳のカメラ機能で夕陽を撮影した。神姫本体のカメラ機能の性能もそれなりに高いので、写りは悪くなかった。

 それから少しして、アキラ達の視界の先に、目的地の沖縄が見えてきた。

「見て、沖縄だよ!ボク達、ついにここまで来たんだよ!」

 アイネスは興奮していた。

「本当ですね。私達、やっと・・・」

「油断するな、まだ到着したわけではない。」

 ヒナがアンの言葉を遮って、そう警告した。現在、高度はまだかなり高いので、早く降下しなければ着陸する前に通り過ぎてしまう危険があった。アキラのバッテリー残量も残り少なく、何度もやり直す余裕は無かった。

「当機は間もなく、沖縄へ着陸いたします。」

「そんなこと言わなくて良いから、早く着陸して!」

 アイネスは、旅客機のアナウンスの真似をしたアキラにそう言ってツッコミながら沖縄への降下を要求した。

 アキラ達は、沖縄へと降下を始めた。

 

 

 

 その頃、理人は海岸の近くで自由の女神像の置物を地面に突き刺して座り込んでいた。彼は、アン達をうっかり自宅に置き去りにしてしまった自分を責めていた。自分がもっとしっかりしていれば、こんなことにはならなかったのに。アン達に寂しい思いをさせることにはなかったのに。そう思いながら、海面へ砂を投げていた。

 理人はこの2日間、ろくに沖縄旅行を満喫してはいなかった。置いて行かれたアン達は今頃、寂しい思いをしながらマンションでひっそりと過ごしているというのに、自分だけ沖縄での生活を楽しむことなどできなかった。こうなったのは、自分のせいだと言うのに。

 理人がまた、海面に砂を投げようとした、その時だった。

「おーい、理人~!」

「マスター!」

 自分を呼ぶ声が、後方から聞こえた。理人は振り返って上空を見ると、風船にしがみつくアキラ達がこちらに向かって飛んできていた。両腕が塞がっているアキラを除き、あとの4人が空いている片手を振った。

 理人は笑顔になって、アキラ達を出迎えた。

 アキラ達は、ある程度高度を下げた所で風船を切り離し、差し出された理人の手のひらの上に着地した。

「マスター、来ちゃいました!」

 アンが、笑顔で理人を見上げながら言った。

「手間をかけさせてくれるよ、全く。」

 続いてアキラが言う。

「本当、大変だったんだからね!」

 アイネスが怒りっぽく言ったが、顔は怒ってはいなかった。

「でも、楽しかったのです!」

 レーネがそう言った。

 それに対し理人は、ここまでアン達に苦労させてしまったことへの罪悪感を感じて、落ち込んだ表情になっていた。

「みんな・・・ゴメン。」

 理人は5人に謝った。

 アキラ達が掴まっていた5つの風船が、茜色の空へと消えていった。




 作中及び原作でアン達がゼルルっちと別れた後に通りかかった場所は、行ったことがない所が多かったので、名前を探すのに苦労しました。
 次回は、原作には無かったオリジナルストーリーを書いていきます。
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