桜色に手をのばす   作:かなで☆

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第10話『同じ』

 窓から差し込む柔らかい陽射しが暗部の面を微かに光らせ、静寂をより際立たせる。

 その反射を頬に受けながら、カカシはどこか呆れたように言った。

 「呼んでおいてなんだけどさぁ。お前一体いつまでオレに張り付いてるのよ。」

 せっかくの休暇に何をやっているのか。呆れたものの、正直カカシには心強かった。特に今回はそれを感じていた。

 「先輩の護衛は趣味みたいなものですから。」

 飄々と返しながら立ち上がる。

 「それで、暗部のボクになんの用事ですか」

 その時に使われる名で呼ばれ、その姿で身を現したのだ。テンゾウが命令を待つ。

 「テンゾウ」

 カカシは何か吹っ切れたような表情を浮かべていた。

 「悪いんだけど…」

 「嫌です」

 言葉半ばに断る。

 「お前ね、まだ何も言ってないでしょうよ」

 「何を言うつもりか分かったから断わってるんです」

 カカシの表情から内容を読み取り、テンゾウは面をはずしてヤマトとして向き合う。

 「言いましたよね。ボクは先輩派だって。だからお断りします。」

 詰め寄って強く言い放つ。

 少し身を反らしながらカカシは気まずそうに笑った。

 「そう言わずに頼むよ。サスケを探し出してきてくれ」

 それこそがカカシの出した答えだった。

 やはりサクラにはサスケなのだと。

 「何でですか!」

 納得いかぬ様子でヤマトはさらに詰め寄る。

 「先輩、サクラの事好きなんでしょ?」

 「そうだな。オレにとってサクラは本当に大切な存在だ。寂しい思いをさせたくない。悲しませたくないし、泣かせるような事はしたくない」

 「だったら…」

 「でもな」

 カカシは少し嬉しそうに、それでいて切なげな笑みを浮かべていた。

 「それはサスケに対しても同じなんだよ」 

 ヤマトが小さく息を飲んだ。

 昨晩里を見ながら歩く中で様々な思い出がよみがえった。初めてナルト、サスケ、サクラに出会った日。鈴取りの演習。任務。中忍試験。サスケとの修行。

 どれにおいても、誰一人欠けてはならない思い出で、誰か一人だけが特別であった日はなかった。

 サスケが里を抜けた後もずっと、第7班の部下であるあの3人が等しく大切であったのだ。

 「でも、本当に…」

 それでいいのかと、ヤマトは納得しきれない様子であった。

 「だって、先輩も気づいてたでしょ?昨夜も、さっきもサクラは起きてましたよ」

 カカシを呼んだ切ない声。それを噛みしめるようにカカシは目を閉じた。自分を求めて呼んだあの声は、きっと一生記憶に残るだろう。

 カカシにはそれで十分であった。

 「だからだよ」

 意味が分からぬヤマトは黙って続きを待った。

 「サクラが本当に眠っていたら、呼ばれたのはオレじゃなかったよ」

 「そんなの、分からないじゃないですか」

 ヤマトは諦め悪く食い下がる。それでもカカシはもう心を変える気はなかった。

 「分かるんだよ。オレはあいつらの先生だからね」

 サクラはサスケでなければならず。サスケはサクラでなければならない。思い返してみれば、あの2人はずっとそうだったのだ。

 今サクラは寂しさに耐えきれずに自分を頼っているが、すがるような愛情はいつかサクラを傷つける。

 そして、ナルトもサスケも傷つくことになる。カカシはそう考えついた。そういう形の愛も救いになる事はもちろんある。幸せになれる事もある。

 だが、それを選択するにはまだサクラは若い。

 まずはサスケと向き合う必要があるのだ。

 「だから、頼むよヤマト。」

 呆れたような、困り果てたような。そんな表情を浮かべ、ヤマトは黙り込んだままだ。

 「頼む」

 しかし重ねられた言葉に、ようやく諦めたように大きくため息をついた。

 「後悔しても知りませんよ」

 「その時はお前が酒に付き合ってくれるんだろ?」

 「先輩のおごりですよ」

 軽く睨み、暗部の面をつける。

 「テンゾウ。うちはサスケの居場所を突き止めてくれ」

 改めて火影の言葉で告げる。

 サスケが里を離れているのは、自身のもつ特殊な力を狙う者から里を守るためでもある。

 その動きはあまり知られるわけにはいかない。故に優秀かつ秘密裏に動ける暗部への任務なのだ。

 「温泉街でのこの任務に合流させてほしい。」

 任務の司令書を手渡す。

 アカデミー生の課外授業の護衛任務。そこにはナルトとサクラの名前が書かれていた。

 「それが厳しいようなら、遅くとも1週間後にはオレの所に連れてきてほしい」

 居場所のはっきりしないサスケを探し当てるには短い。今回の任務には合流できないかもしれない。しかし、砂隠れからの話を考えればタイムリミットはそれがギリギリ。

 「いけるか?」

 不安を帯びた声。

 本の少し間を置き、テンゾウは司令書を返した。

 「5日で大丈夫です」

 「5日って、お前…」

 確信のある見積もりに、カカシはハッとしてテンゾウを睨んだ。

 先輩派ですよ。等と言いながらも、こうなる事をどこかで予想して、すでにサスケの居場所を探っていたのだろうと読み当たる。その上5日で連れ戻せるとなると、里へと向かうように仕向けていた可能性もある。

 はじめに自分に会いに来たときか、もしくはサクラの噂を耳にしてすぐに調べたのか。どちらにせよ心のどこかで、やはりサクラにはサスケだと感じていたのであろう。

 何にせよ、それなら向こうですぐに合流できる。

 「お前は本当に、くえないやつだよ」

 「褒め言葉だと受け取ります」

 面の向こうでどんな表情を浮かべているのか、読めぬそれにカカシは睨みながらも何か嬉しい気持ちになった。

 「オレの事よくわかってるじゃないか」

 「まぁ、付き合いが長いですから」

 何とも心強い。ならばもう一つ甘えようかと思う。

 「それから…」

 「ナルトにこっそり伝えておけばいいんでしょ。砂隠れからの話を」 

 やはり聞いていたかと頷く。

 「ナルトが聞けば、サスケに会った時に慌てて話すでしょうし、計らずもサスケをうまく焚き付けるでしょうね」

 ハハ…とカカシが笑った。

 「ナルトの事もよくわかってるじゃないの」

 本当に心強いと安堵する。

 「頼んだぞ」

 静かな言い渡しに、テンゾウは「はっ」とキレの良い返事を返して姿を消した。

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