トリニティの12使徒   作:椎名丸

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どこでもかしこでも、脳破壊ばかりされている……あんまりすぎるナギサ様に捧ぐ。



1章・アビドスの危機!! 走れダチョウ!! 編
1・慈愛の君の代理人


「あ、ありがとうございます、ナギサ様……」

 

 阿慈谷ヒフミは安堵していた。

 

 助けたいと願ったアビドスの救援要請が受理されたからだ。ただ、断られることはないとは思っていた。眼の前のトリニティ総合学園の最高権力者、生徒会ティーパーティのホストである「桐藤ナギサ」は、慈愛の人だと知っているのだから。

 

 そんな偉大な人に気に入られているのだという自覚と打算もあった、そうでなければ突然の訪問が許される筈など無い。それだけの立場の人物だし、その忙しさは一般生徒であるヒフミの想像の及ぶところでもない。

 

 それでも……話さえ、助けを求める人の話さえ直接させてもらえれば……必ず助けてくれる人だという確信が、これまでの実績が、彼女にはあった。

 

「そうですね、確かちょうど……牽引式榴弾砲を扱う野外授業の予定があったはずです。せっかくですし、ちょっとしたピクニックなどいかがでしょう」

 

「えっと、牽引式榴弾砲というと……L118の……?」

 

 ヒフミにとって、それは意外な答え。

 

 本来なら即座に繰り出してくるだろう「あの部隊」ではなく、ティーパーティー直下の砲兵隊が出てくるというのだから。他学区救援には先ず用いられてはこなかった戦力だ。何かお考えがあるのだという疑問が、問いとなって備砲の確認をしてしまう。

 

「はい、他ならないヒフミさんですし、全てお任せします。細かいことは私の方で……」

 

 

「ナギサ様」

 

 

 穏やかで、静やかで……それでいて、力のある声音がテラスに響く。

 

「……どうしました?」

 

「砲兵隊は近接攻撃に無防備です、直掩が必要かと」

 

 桐藤ナギサの背後、その背中から遠くも近くもない距離に、気配を殺して立っていた1人の少女の声。小銃のストックを床につけ、銃の先端を右手で支え、左手を後腰に回した待機の姿勢で不動だった、そんな生徒達の内1人が意見する……戦力は他にも必要だと。

 

「……そうですね、できれば最近忙しくしていた皆さんを休ませることも……考えましたが。ヒフミさんと砲兵隊の皆さんに、危険があってはいけませんから」

 

「じ、じゃあ、ナギサ様……!!」

 

「ええ……せっかくのピクニックです、万全の準備を」

 

「ありがとう、ございます……!!」

 

「ナギサ様、ティーポットの使用をお許し願えますでしょうか」

 

「許します、よきに計らってください」

 

 ティーポット。それはティーパーティー直轄部隊の輸送に投入される、ECM・ECCM電子戦術システムを搭載したV-22オスプレイ。今までにない、本気の支援が約束されているのだとヒフミには感じられた。

 

 彼女の願いは全て叶えられたのだ、最も欲した戦力だけではなく、電子戦機と砲兵隊まで付く。望みうる最高の結果だった。しかし相手はカイザー、アビドスは先生がついていても……5人しかいない。

 

 けれど、彼女達がいれば。

 

「12使徒の皆さん、ヒフミさんと砲兵隊の皆さんを、どうかよろしくお願いします」

 

 ナギサのその言葉に、その場にいた「12人」全員が、一分のズレさえもなく全く同じ動きで捧げ銃を彼女に行う。テラスに響く銃の鳴る音、靴が立てるその整然とした音色と共に……彼女達は一斉に左手でスカートをつまみ、静かにカーテシーで己らの主人に肯定の意思を、言葉無く返した。

 

 

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「前方に敵を発見しました!!」

「距離は2Km、もうすぐ接敵します……皆さん準備を……」

 

 降り注ぐ飛翔音、響き渡る爆発音がアヤネの言葉を遮る。

 

「!? あれは……」

 

「支援射撃?」

 

「……L118!! トリニティの牽引式榴弾砲です!! トリニティ!! これ!! まさか!!」

 

 アヤネは驚愕と困惑、そして期待に喘いだ。

 

 トリニティ……トリニティの砲兵隊。生徒会ティーパーティー直轄部隊であるそれが、ホストの命令でなければ動くはずのない砲兵隊が、アビドスの砂漠まで進出して、自分たちの支援射撃をしてくれている、その理由に、その期待に。

 

「と、通ったの? もしかして、支援要請!! 通ったの!?」

 

「通ったんだ……通ったよセリカちゃん!! ヒフミさんの話は本当だったんだ……!! 来た!! 来てくれた!! トリニティからの、援軍!!」

 

「あ、あぅ……わ、私です……」

 

「あっヒフ……」

 

「ち、違います!! 私はヒフミではなく、ファウストです!!」

 

「わぁぁ、ファウストさん!! 来てくれたんですね!! お名前言っちゃってますけど☆」

 

「あぅぅ……そ、それで、この榴弾砲はトリニティのL118ですけれども……トリニティ砲兵隊は、射撃訓練のために場をお借りしているだけなので……実際ティーパーティーは全く微塵も関係ないです……そういうことなので……」

 

 そういう建前であることは、誰もがわかっていた。

 

「そのような事実はない」それがトリニティの長「慈愛の君」の常套句であることは、今やキヴォトスの誰もが知っている。力に圧されて苦しんでいる誰かを、何かしらの理由をつけて助けにやってくる。そして何時もそう答える。助けられた後に彼女に問えば……必ずその答えが返ってくるのだから。

 

 だからこそ砲兵隊が出てくることが、珍しい。

 

 流石に砲兵隊の移動と弾薬消費は個人での支援を超えている、それでもこうして砲兵を送り込んできているということは、この支援がただならぬ意思の元、彼女の強い意向で行なわれていることに他ならない。

 

 カイザーという強大な敵と、ホシノが居ない今……たった4人のアビドスが戦うために必要だと、彼女は認識し、決断してくれたのだと……4人にはそう伝わった。

 

 苛烈な砲撃が、今もカイザーの主力を吹き飛ばしていく。

 ティーパーティー直轄部隊の練度は、テレビやショーで見るものと桁違いだった、重砲の射撃は修正射が必要不可欠、なのに初撃から殆ど有効射になっている。しかも今は効力射に移行していて、大瀑布のごとき連射、連射、連射。猛爆といって差し支えない。

 

 まるで地ならしだ、凄まじい練度で繰り出されるタイムオンターゲットの猛打……それはまるで、弱者を圧する悪意の暴虐を許さない、桐藤ナギサという人物の意思なのではないかと、アヤネには感じられた。

 

「そんなこと、ないです……ずっと、支援要請してきましたから。こうして来てもらえたこと、本当にうれしいです。きっと、あの方に手紙が届きさえすればって……思ってましたから……」

 

「……すみません、遅くなってしまって」

 

「いいえ……いいえ!! ありがとう、ございます」

 

 アヤネは胸に詰まった、手紙は出し続けていたのだ、以前から。

 トリニティの慈愛の君、そう呼ばれる彼女へと、一縷の望みを抱いて。

 

 ホシノは諦めていた、どうせ届くことはないと。ヒフミが直接、彼女に会って話してくれると言った時も、リップサービスだろうという反応だった。それに実際……トリニティからの返信はなかった。彼女の慈悲を求めて送られる、多すぎる要請を外務の担当者が分別して、却下しているという噂はあった、そうなってしまったのだろう……けれど諦めきれなかった。

 

 貧しいアビドスを善意で助けてくれる勢力などある筈がない、あってもカイザーのような後ろ暗い狙いがある筈、そう思うと助けを求めるのは難しい、けれど。

 

 たった二人だけ、信頼できた、できるかもしれなかった、その可能性があった。

 

 キヴォトスに外からやってきた……シャーレの先生、そして。

 トリニティ総合学園生徒会長、ティーパーティーホスト……桐藤ナギサ。

 

 助けは……来た、先ず先生が、来てくれた。

 そして今、彼女が……彼女の代理人が、ここに。

 

 桐藤ナギサの代理人、それは。

 

「ううん、凄く……凄く助かった」

 

「ありがとうございます!! ところでファウストちゃん……こういう時、砲兵隊はあまり出てこないと聞いてるんですが、もしかして? もしかして?」

 

「あ、その、大丈夫です!! もうすぐ接敵します」

 

「ほ、ほんとに? 嘘じゃないよね? 今日は何人? 何人で来てくれてるの?」

 

「はい……今日は特別なので……全員で来てます」

 

 

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「ヒフミ様!! 敵戦闘ヘリと思われる反応!! 数6!!」

 

「やっぱり来ますよね……」

 

 砲撃を続ける重砲を、カイザーPMCが見逃す筈などない。

 当然だ、放置すれば自らの主戦力を榴弾ですり潰されてしまう、既に被害は許容できる範囲を遥かに超えている。今すぐ対処せねば全滅してしまうからだ。

 

 だからこそ戦闘ヘリによる逆襲は行なわれる。

 しかし、砲兵隊にAAガンは帯同していない。

 

 砲兵は近接攻撃に脆弱な兵科だ、護衛の存在は本来不可避と言える。

 

「防空戦闘用意はいたしますか?」

 

「えと……必要ないと、思います」

 

「承りました……砲撃を続行する!! 観測、密に!! 修正射!! てぇー!!」

 

 そう、アンチエアー装備など、この部隊には必要ない。歩兵の浸透も気にする必要はない、ここは砂漠で、見晴らしはいい。守りを気にする必要はないのだ。そして護衛というにはあまりにも強すぎる存在が、ティーパーティーの誇る最強の戦闘部隊が帯同しているのだから。必要のない準備など、する必要はなかった。

 

「ヒフミです、ティーポット聞こえますか? 対処をお願いします」

 

< ティーポット、アイ・コピー。戦闘機動に入ります、ECMスタンバイ >

< ヒフミ様、320秒間、以後の通信は不通となります、ご注意を >

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 それでも、油断などはしない。

 

< バッテリーチェック、グリーンライト。ECMオンラインまで10秒(テンカウント) >

< カーゴ開きます……アポストル隊、降下用意、ご武運を >

 

「ヒフミです、皆さん!! お気をつけて!!」

 

 空を震えさせるエンジンの轟音。

 

 2つのプロペラブレードが切り裂く大気の音と共に、ヒフミ達砲兵隊の頭上を通過。ティーパーティーの白で染められた、V-22オスプレイ「ティーポット」が敵ヘリ部隊目掛けて空を奔る。

 

 開いていくその後部カーゴハッチの向こうに並ぶ、白い制服の少女達がヒフミには見えた。

 

 

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「砲煙見えました!!」

 

「見つけたぞ……トリニティめ!! 何だって重砲まで……!!」

 

 カイザーヘリ部隊は現状この場に6機、社の最新鋭戦闘ヘリで揃えたばかりの部隊だ。練度はまだ高くない。結成以来さほどの実戦経験はなく、訓練は多くとも実包訓練は少ない。ましてAAガンが囲んでいるだろう砲兵陣地への突貫など未経験だ。

 

 だが、AAガン程度などより……遥かに恐ろしい存在が「居る」という濃厚な予感が、彼らにはあった。居るはずなのだ。あの桐藤ナギサが、他自治区への救援に用いる戦力など、本来1つしかない。砲兵がいる事自体が異常、通常では考えられない規模の戦力投入……それだけに恐ろしい。

 

 奴らは、桐藤ナギサの本気度で投入人数が変わると言われている。

 これまでにない砲兵までいるのだ、だとしたら……だとしたら?

 

 ここに来るはずの、奴らは……何人いる?

 

「気を引き締めろ!! 居るはずだ……奴らは必ず!!」

 

< !? 隊長!? これは………!? >

 

「どうした!? 何? 2号機!! 編隊を崩すな!! なんだクソ!? 通信が!?」

 

 突然のレーダーホワイトアウト。編隊無線も不通。

 ECMだ、そう確信すると同時に……自分たちに迫っている脅威を知る。

 

「!? 12時に所属不明ティルトローター!! 数1!!」

 

「ティーポット……!! 奴らだ!! 空対空戦闘用意!!」

 

 白い機影がヘッドオンで彼らに迫る、同時にそのオスプレイから白く輝く何かが……左右に分かれて空へと撒かれていく。白い、とても小さい何か……それは。

 

「!? フレア? いや、違う!! あれは!!」

 

 人だ。

 

 自らの翼を広げ、左右に整然と展開しながら空を舞う12人。

 ティーパーティーの制服に身を包み、M14小銃を抱えた少女達。

 

 ヘイローを輝かせた、白き大翼を持つ、それはキヴォトスの生徒。

 

 今代ティーパーティーのホスト、桐藤ナギサの意思、その代理人。

 彼女に絶対の忠誠を誓う、最強の直轄部隊。

 

 

「じゅ、12使徒!!」

 

 





初投稿です、対戦よろしくお願いします。
ブルアカは3周年イベからスタート。
感想とか頂けると、とても嬉しいです。

余談ですが「青資秘密学園奮闘ログ」という作品を拝見しまして。
とても面白かったので自分も二次創作を始めてみました。

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