トリニティの12使徒   作:椎名丸

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究極横領都市エリドゥ攻略のイカれたフロントメンバーを紹介するぜ!! 

・C&C
美甘ネル(4.8ダチョウパワー)
一之瀬アスナ(ダチョウエフェクト強化個体)
角楯カリン(ダチョウエフェクト強化個体)
室笠アカネ(ダチョウエフェクト強化個体)

・ゲーム開発部
才羽モモイ(特殊戦強化個体)
才羽ミドリ(特殊戦強化個体)
花岡ユズ(特殊戦強化個体)

・エンジニア部
白石ウタハ(何かヤバい物持ってる)
猫塚ヒビキ(せ、先輩。あれはまだ……ヤバくて……)
豊見コトリ(特に理由のない野生の特殊戦個体)



8・ストームバード

 

 アリスは去った、リオと共に。

 残されたのは納得できないと叫ぶ若鳥達の咆哮。戦うと決めた鬨の声。

 

 その中で、美甘ネルはキレていた。

 

 そうは見えないが普通にキレている。納得のいかない任務、面倒事の数々、好き放題言ってくる生徒会長ことビッグシスター。そして何より自分が封殺されることを許した。コード00を刻んだ服を纏いながら敗北、あまつさえ後輩達の前で関節を決められてまさかの完敗である、これほど情けないことはない。

 

 勝利の数字を背負いながらこれだ、ありえないほどの恥辱。

 新しいナンバーズだという娘の身体能力は、これまでの仮想敵達のそれとは一段も二段も劣るようにしか見えない、しかし負けた。まるで「未来でも見えている」かのような挙動、全てに先回りされているような感覚。

 

 何某かのギミックがあることは確定、しかしそれを食い破らねば勝利はない。

 

 だが美甘ネルはキレていた、だから決めたのだ……二度目は無い。

 

 戦うべき理由は明白、ならば征くのみ。相手に否と言うならば、このキヴォトスのたった一つのルールで応じるべきだ。相手はそうした、ならばこちらもそうするまで……文句などよもやあるまい。

 

 何時もなら誰かに頼りなどしない、しかし今は別。

 負けは許されず、己の恥辱を雪ぐ機会はこれから一度きり。

 ならばお遊びはナシだ、エージェントとはやると決めたら勝利だけを希求する。

 

 お前もそうだろう? いつか来たるべき……強敵よ。

 

 

「単純な話だよ。あれこれ浅知恵こねくりまわす暇があるんだったら、初っ端から突っ込んだ方がいいってことだ」

 

「ですが部長、それこそリオ会長の思うツボでは……」

 

「だから作戦が必要つってんだよ……正確には陽動作戦……って言いたいところ、だが」

 

 ゛だが? ゛

 

「別に陽動で済まさなくてもいいだろ、なぁ?」

 

 ネルは言う、先生の背後に居る、誰かに向かって。

 

「そうだろ、お前とあたしが揃うんだ……片っ端からぶっ飛ばしちまえばいい」

 

「!? まさか!!」

 

 全員が一斉に振り向く、その先に居たのは。トリニティ生徒会ティーパーティーの証たる白制服を身に纏った、完全武装の一人の生徒。

 

 隙無く抱えられた、M14バトルライフルに刻まれた紋章は「桐紋に藤」。

 その銃の名はストームバード、嵐のごとく舞う恐鳥達に与えられた12丁の1。

 桐紋を許される生徒など、この世に僅か12名。

 

 調月リオは知る由もない。

 

 ほんの僅かな時間、ゲーム開発部という空間で共に過ごしただけの関係に過ぎない他校の生徒。地位もある、立場もある。あの慈愛の君の直属という身でありながら、政治的な配慮も何も無しに……1生徒の電話一本で、本気で翔けてくるなどと。

 

 そして恐鳥は、一羽で暴れる事はまず無いのだ。

 一羽が呼べば、三羽が来る。三羽が呼べば八羽が来る。

 

 まずは、ここに一羽。

 

 これぞ非合理、そして不条理。

 されどそれが12使徒。

 

「……C4、現着」

 

「「「キリコ!!」」」

 

 C&CにCがもう一つ増えたって、かまやしねぇだろ? 

 首を洗って待ってろよ。

 

 

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 要塞都市エリドゥ。

 

 ミレニアムの資金横領によって建設されたこの都市は、完全なる戦闘用の都市であった。要塞の名に恥じぬ武装ビルや、一体何を想定しているのか巨大なシールドと化す跳ね上げ式の道路など、人が暮らす都市というにはあまりに攻撃的。

 

 外敵からキヴォトスを守るために作り上げられ、練られた都市計画は、このキヴォトスを破壊に追いやる強大な力を持つ存在、それ相応の相手に攻撃される前提の防御力を備えている。

 

 ……筈だった。

 

 

「ちょっとまってちょうだい!?」

 

 様子がおかしすぎる、普通こういうのは潜入から始まるのがセオリーでは? 無人列車で来た、それは判る、そこまでは普通だ。そこから分散して、陽動をして……それがセオリーだ、想定の範囲である筈なのに。

 

 まってほしい、何故真正面から隠れもせずに、何を考えて……ちょっとまて。こんなことは考えられない、その筈なのに、今こうして俄には信じがたい行為が……。

 

 調月リオの思考は一瞬普通に停止した、考えられない事態が始まっている。

 

「おあつらえ向きに無人の街だぁ? だったら手加減する必要なんて、ねぇんだよなぁぁぁ!!」

 

「それはそう」

 

 こいつら、この街丸ごと潰すつもりなの!?

 

 片っ端からブチ折られるビルにタワー。追加でビルとタワー、ついでにまたビル。

 積み木崩しの如く端から折られていく防御機構、武装ビル。戦闘ロボットAMASは目があった端からスクラップにされている。たった二人にこれはない、いくらなんでもこんなの想定にない。美甘ネルは陽動に出てくる、それはわかる。でもこんなの陽動ってレベルじゃない、もうこれは攻撃だろ。あまつさえ、見覚えのありすぎる白い翼がセットでついてる。

 

 おい、なんで12使徒がいる。

 

 どう見ても完全武装の12使徒だった、偽装すらしていない。ティーパーティーの制服のまま、トリニティの紋章も、桐紋に藤すら堂々と掲げて、ここで戦っていることが当然かのように居た。しかも今1連射で防衛機構のタワーを根本からへし折った、数千万単位の資金を要した防御塔が支柱を失い倒壊し……追加で折るな!! 何をしてるんだこいつは!! 頭おかしいんか!! リオは流石にちょっと叫んだ。

 

 秘されどもエリドゥはミレニアムの領地である、言い訳しようがない立地、しかも生徒会長たる調月リオが居る眼の前で、三大校の暗黙の不干渉を完全に無視した、頭のおかしくなりそうな大破壊を敢行している12使徒。

 

 全く容赦のない暴力の行使、しかも美甘ネルと共同していて連携までしている。12使徒が前衛に立って、美甘ネルと組んでいるのだ。防御も回避も気にする必要がなくなったダブルオーが、その暴力を存分に振るっている。テーマパークを練り歩くような気楽さで振るわれる暴虐、二人が力の限りの破壊を尽くす様がモニターに広がって、都市の防御システムステータスが端から真っ赤に染まっていく。

 

 たった二人で引き起こせる破壊力とは、到底思えない暴力がエリドゥを襲っていた。こんなのを放置したら、目的を達する前にどころか……明日の朝には要塞都市エリドゥが崩壊してしまう。止めに来るのはわかっていた、けれど……開幕街ごと潰し出す奴があるか!!

 

「ア、アバンギャルド君!!」

 

 C&C相手には全く出す予定でなかったそれに、調月リオは引きつった表情で出撃コードを打ち込んだ。

 

 

 ---------------------------------

 

 

「こいつはいいな!」

 

 美甘ネルは12使徒の一人、九字キリコの背中に掴まっていた。ローラーダッシュでエリドゥのシティハイウェイを疾走する、その背中に。

 

 腰上付近から生えるキリコの大翼は車さえも跳ね飛ばせるパワーがある、ネルの体重など空気に等しい。付け根を足場に両足で踏ん張り、包まれるように翼で守られたネルは今や走る機関銃座だ。翼の装甲値を考えれば、もう装甲車といっていい。

 

 キリコが持ち込んでいた機関銃、ブレンガンをぶっ放しながら、12使徒の継戦能力の高さ、その秘密の一端を見たネルはご機嫌だった。なにせ当面弾の心配もしなくていい。この連中がどうやって大量の弾薬を持って移動しているのかと思っていたら……カバンやクロースの下だけでなく、ようは二つ折りに格納している大翼、その羽毛に挟んだり吊るして隠していたわけだ。これだけ大きな翼なら、マガジンなどいくつも差し込んで隠しておける。

 

 キリコは先生達と別れる際に、ありったけの弾薬を器用にも翼に包んできた。ネルを支えて包んでいる翼の中には山と積まれたブレンガンのマガジンとネルのMPX用マグもある、陽動ついでの大破壊を実行するには十分な弾薬だ。

 

「オラオラオラ!! どうしたよ!! ガラクタばっか集めてどうしよってんだぁ!!」

 

 集まってくる防衛ロボットを目に付く端から蜂の巣にしながら、見かけた「壊されたくなさそうな」防御機構を全部叩き折っていく。時折飛び込んでくる銃撃にはキリコの翼が反応し、羽根が的確に弾いてネルの身体に弾が当たることはない。キリコ本人に刺さった銃弾は効いた様子が全くなく、まるで無視であった。

 

 トリガーを引きっぱなしにしながら弾を叩き込み続けるネル、射線の先にあるものは全て薙ぎ倒されていった。轟音をたてながら、側面の支柱を全て失ったタワービルが、隣の武装ビルを巻き込みながら倒壊する。

 

 連鎖してドミノ倒しになるビル群を尻目に滑走するキリコは、前方の道路が変形し始めたことに気づく。

 

「パイセン、あれ」

 

「あん?」

 

 直線、その先の道路の一部がせり上がってくる。何かアニメで見た決戦機動兵器の出撃シーンを思わせる、開口部と伸びる固定具の支柱。

 

「ようやくお出ましか、来たぞキリコ。あのクソダセぇポンコツだ」

 

「だね。会長……ゴミを出す判断が遅い」

 

 リオが聞いたら泣きそうな感想を吐きながら、キリコは加速してそこへと向かう。

 

 まるで垂直カタパルトのように変形した道路の開口部から、凄まじい勢いで地下より射出されてくる脅威のバトルメカ、その名はスーパーアバンギャルド君ターボカスタム。

 

 < ハローワールド!! マイネイムイズ、アバンギャルド!! >

 < 敵性存在を確認、排除、排除、排除 >

 

 威圧的な文言と共に左手のヘビーガトリングガンが乱射される、徹甲弾の嵐が二人を襲ったが……そんなものでどうにかなる12使徒でもなければダブルオーでもない。

 

 即座にキリコの翼を蹴って空を舞ったネルは空中でブレンガンを撃ち切るとそれを手放し、両手で愛銃を引き抜いた。硝煙を引きながら虚空へと消えるブレンガンが最後に撃ち抜いたのはアバンギャルド君ではない、その背後の対空銃座塔だ。

 

 キリコはもう無用だとばかりにネルの装甲にしていた翼を展開し、一度強く羽ばたくと、羽根で抱えていたブレンガンの弾を全て捨て、アバンギャルド君へ向けて腰を落としてローラーダッシュで加速する。

 

 アバンギャルド君の戦闘AIはヘビーガトリングガンで狙うべき相手を正面の12使徒に設定し、空中のダブルオーには右に構えたバズーカから散弾を選択して対処する。調月リオの組み上げた戦闘ロジックは優秀だ。相手の位置と装甲値のデータから瞬時に導き出したその回答は正しい。

 

 だが時に、ロジカルな概念の通用しないモンスターが現れてしまうのがこのキヴォトス。

 

 ヘビーガトリングガンの鋭い火線、弾幕ではなくしっかりと照準され必中の筈のそれを12使徒、C4こと九字キリコは……翼で弾きながら全く怯むこと無く突撃してきた。並のシールドなら穴だらけにしてしまうそれを全く寄せ付けないばかりか、体勢をなんら崩すこともなく真っ直ぐ疾走してくる。

 

 よく見れば翼に角度をつけ、弾丸を逸らしているのだと判るが、アバンギャルドの戦闘システムがそんなものを認識できる筈もない。命中しているのに撃破できないという矛盾が、彼に射撃の続行を決定させる。

 

 空中のダブルオーを撃墜する筈の散弾……それは目標にかすりもせず虚空だけを穿った。ダブルオーは、美甘ネルはどこに? 答えは上。垂らしたチェーンをハイウェイを照らすライトに引っ掛け、勢いをつけて更に上へ飛んでいた。アバンギャルドのFCSが処理できる限界を超えた速度で行なわれる、空中でのフェイントを混ぜた3次元機動。

 

 同時に行なわれる2目標のデータに無い動きに対応することは出来ず、不可解な戦闘状況に答えを出せないまま、二人のモンスターの「距離」に飛び込まれた。即座にネルのMPXツイン・ドラゴンとキリコのM14ストームバードが同時に火を吹き。アバンギャルド君をスクラップに……。

 

「かってぇな!?」

 

「……」

 

 アバンギャルド君が背後のサブアーム2本で掲げた黄金比を模した形のシールド2枚が同時に二人の銃撃を防ぐ。並の相手ならシールドの上から穴開きチーズにできる火力を完全に防ぎきったそれは、被弾した瞬間に表面から謎の紫電が走っていたことをキリコは見逃さなかった。

 

 ミレニアムの最重要施設、データセンターのメインタワーを防御している電磁装甲、アクティブ防御システムだ。これも調月リオの開発品、しかし大型の専用発電モジュールが必要だった電磁装甲システムを、ウタハから話こそ聞いていたが、まさかミッド級自律戦闘ロボットに搭載してくるなど。

 

 これでは攻撃が通らない。

 ターボカスタムの名に恥じぬ。想像以上に強化されている。

 

 お手上げだ……普通なら。

 

 この連中は普通ではない。

 

「いらねぇ手間とらせやがってよ!!」

 

 チェーンをキリコに向かって奔らせるネル、それを無言で掴むキリコ。腕力に物を言わせてチェーンを引き戻し、地上にネルを急降下させると……即地面を蹴ったネルが残像を残して風を追い抜き、音を追い抜き、たった2歩でもう、アバンギャルドの眼前に居た。

 

 FCSがそれに攻撃可否の判断を処理するよりも早く、ネルの蹴りがアバンギャルドの頭部を蹴り飛ばす。簡単にへし折れて空を舞う頭部ユニット。反動で宙を舞うネルの姿、センサーを失ったアバンギャルドはそれを捉えることが出来ない。しかしそれだけでは戦闘力を失ったりはしないのがアバンギャルド、本体サブセンサーが立ち上がり認識を……。

 

 そんな一瞬以上の隙など晒せば、恐鳥にはもう十分。

 

 今度は轟音。キリコの足がハイウェイの路面を砕いて音の壁を越える。走るその軌跡が怪獣が踏み抜いた跡のように陥没し、その勢いのまま左腕を引き絞られた弓のごとく振りかぶっていたキリコの拳が、アバンギャルドのクロスして掲げたシールドを。

 

「……」

 

 真正面から撃ち抜いた。

 ベニヤの板か、アルミの板か、そんな表現が似合うほどのひしゃげ方をしたシールド2枚ごと、アバンギャルドの腕が諸共もげて本体にそのままめり込む。……めり込むどころか突き抜ける勢いだ、加えられた拳の「捻り」が拡大され、ボディを凄まじい力で歪め潰し。

 

 あろうことか、その勢いのまま上半身が折れて吹き飛んだ。

 

 ハイウェイの上を転がりながら吹き飛ぶ捻れた残骸はそのまま爆散、宙を舞った頭部がハイウェイに落ちる音と共に、格付けは済んだ。

 

「やっぱすげーな!! お前らのそれは流石に喰らえねぇわ!!」

 

 虚しくも残ったアバンギャルドの下半身に着地したネルが、キリコの全力の拳の結果を見届けて笑う。これぞ本気になった恐鳥の剛力。12使徒らしい普段の統一された静謐な動きからかけ離れた力押しのそれは、特殊戦として戦わない時、或いは死力を尽くさせねばならない相手と相対した時に見られるものだ。自分に向けられなければ、ただ爽快の一言につきる。

 

「パイセン、かすりもしなかったけどね」

 

「そりゃそうだろ!! 空崎ヒナと一緒にすんなよな!!」

 

「ヒナは硬くて、ヤバかった」

 

「これ食らって死んでねぇのが不思議だよ!! おまえらもだけどな!!」

 

 そう笑うネルに、薄く微笑み返すキリコ。

 

「さあて、これでだいたい計画通りか。ならあたしは行くぜ、キリコ……あと、任せるわ」

 

 その信頼に応えるかのように、キリコは静かにカーテシーでC&Cの元へ向かうネルの背中を見送った。

 

 

 ---------------------------------

 

 

 仲の良い先輩後輩の談笑に見える二人の姿を、カメラ越しに見ていたリオはドン引きしたが、彼女達は知る由もないし、知った事ではない。

 

 再設計に等しい改良を重ねたスーパーアバンギャルド君ターボカスタムの戦闘力は、対12使徒を想定されたもの。12使徒の戦闘力の高さは連携にあり、火力もまたそれに準ずる。数秒で大破させられた試作機の反省を踏まえ、12使徒の攻撃を防ぐことができればという勝機を見出しての電磁装甲シールド2枚の採用だった。

 

 電磁シールドは電界層を作り出して反作用で衝撃を相殺するシステムだ、銃弾のような一瞬の衝突エネルギーには強い。だが持続する衝撃には弱い。その弱点を一瞬で看破した12使徒が繰り出した攻撃は、なんと拳。

 

 えぐり込むように捻りを加えられたパンチが回転方向に電界層を乱し、即座に無効化。50mmの装甲二枚重ね、それを人間の拳が貫通する様を……リオは直視することができなかった。こんなモンスター一体どうすれば……。

 

 判断を誤った、この二人にはトキを当てるべきだったのだ。

 しかしもう遅い、トキは他のC&Cに当てている。こちらはまだいい、トキの負担は大きいが、足止めはできている。そして、先生達にはAMASを当てているが……。

 

 モニターの向こうには、ゲーム開発部と呼ぶにはあまりに洗練された動きで警備ロボットを蹂躙する姉妹の姿があった。生徒会長として彼女達の成長を見守ってきたリオだったが、脳内に疑問符しか湧いてこない。ゲーム開発部はクリエイト系の部活の筈、なんでC&Cみたいな戦闘力を発揮して、AMASが蹂躙されている?

 

 全ての状況が想定はしていた感じの流れであるのに、何もかも滅茶苦茶だった。何一つ予想通りではない、99.999%とは? 一体何が起きている? こんなの計算にないよ。

 

 この瞬間、調月リオのストレスは結構限界だった。

 

 誤解されているが、これも彼女としては苦渋の決断である。好き好んでアリスのヘイローを破壊したいわけではない。トロッコの切り替えレバーを引く役目を自認しての大義のための憎まれ役、そのための計画。

 

 それはそれとして自信をもって練った計画が全部ぶっ潰されていく様はキツい。この流れ去年のクリスマスでも見たな、とか一瞬思ったが、自分がされる側になるとか考えたくもない悪夢以外何物でもない。

 

 というか12使徒である、なんでお前こんなところにいるんだ。アバンギャルド君のテスト戦闘で見せた動きとはまるで違う、暴虐の塊かのような理不尽なパワーとアーマーの権化となり、計画の全てを破壊しようと迫ってくる。

 

 そんな理不尽を前に、少し早めの限界がきた。

 

「コード99!! アバンギャルド君40体!! 12使徒を攻撃!!」

 

 44機配備したアバンギャルド君のうち、これで残されたのは3体。先生達への対応と予備機1機を残しての全力投入を決断した。このイカれたモンスターをもう人間だとは思わない。一瞬アリスよりよっぽどじゃね? と脳裏をよぎったが無視する。

 

 もうこいつを倒さないと絶対計画は上手くいかないことが確定なのだ、出し惜しみなどできない。絶対に倒す、もう絶対に倒すという理不尽への怒りと焦燥が、何時ものリオであれば躊躇する、生徒1人相手へと虎の子のアバンギャルド40機を投げつける暴挙に打って出させた。

 

 画面の向こう、地下から射出されてきた戦力に包囲された12使徒の姿。アバンギャルドの実績を知っていればどんな生徒でも震え上がる状況で……しかし、12使徒の1人は全く焦ることもなく。M14小銃のマガジンを丁寧にリロードしていた。

 

 

 ---------------------------------

 

 

「先生!! なんか向こう凄いことになってそうだけど大丈夫かな!?」

 

 ゛大丈夫、キリコだからね゛

 

「けど、アバンギャルド君を最大量引き付けるための作戦、流石に危なくないかな……あちらにはヴェリタスの支援もない、ウタハ先輩は大丈夫っていうけど」

 

 そもそも、それが作戦であった。

 

 確実に此処にあるだろう行方不明のアバンギャルド君を早期に盤面に引きずり出すこと、これが作戦の大前提であった。想定される数は44機、これを最低でも30機以上は12使徒に請け負ってもらわなければ勝機など最初から無い。スーパーアバンギャルド君ターボカスタムとはそれだけのマシーンだ、各個撃破できなければ今の面子ではどうしようもない。

 

 トキはまだ未知数としても、先に無力化しておくべきは……戦力が判明しているアバンギャルド。だからネルとキリコを組ませ、最大の脅威と見せることで戦力を誘引。アバンギャルドを誘い出したところで圧倒的な力で……できるだけ派手に破壊、追加の数を引き出してそれをキリコが担当して陽動、離脱したネルがC&C、またはこちらに合流という流れである。

 

 この作戦、想定外の事態を連発させてリオの精神を攻める以外に勝機はないと見ての、ネルと先生の発案であった。特にネルは最後の切り札、体力と弾薬を温存する必要がある。アバンギャルドとの連続戦闘で消耗しては不味い。

 

 だからこそ、最大の負担となる盤面が12使徒に任されている。

 それだけの信頼と実績が彼女にはあった。

 

「先生も大分信頼してるみたいだね」

 

 ゛ウタハは付き合いが長いんだったね゛

 

「そう、もう3年になるかな……あの頃も大概な強さだったと思うけれど、今はもっと凄い。あの子達、全身我がエンジニア部装備だからね、なんといっても自信作さ」

 

「そう!! ご説明しましょう!! 12使徒専用装備は何もカバンとシューズだけじゃありません!! 見た目は全部ティーパーティー標準制服セットですが、靴下からインナーにいたるまで私達の自信作です!! オーパーツもふんだんに使いましたよ!! その性能たるやTier10と言ったところでしょうか!! 特に気をつけたのが壊れにくさですが、何よりも……」

 

「コトリ、説明は後。何か来る」

 

「まあ、何かといってもアレしかないでしょうけど」

 

「ついにきちゃうかー……勝てるかなぁ、キリコは「秒」って言ってたけど」

 

「キリコちゃん基準とか何にも参考にならない……」

 

 ゛さあ皆、まだ先は長いけど……一段目の正念場だよ゛

 

 そう、まだ夜は長くなる。

 この捻れた物語をハッピーエンドに終わらせるためには、超えねばならない壁はまだある。ミレニアムの守護神は今や、あまりにも大きな障害。力を合わせ、乗り越えねば救いも未来もやってはこない。

 

「やったるぞぉぉ!! いくよ!! ミドリ!! ユズ!! コトリ!!」

 

「お姉ちゃんコール、コール。自分で言っといてさぁ……」

 

「おっと、プレイヤー1より各位、戦闘準備!! 装備点検!!」

 

「プレイヤー2、異常なし」

 

「プレイヤー3、い、異常なし」

 

「プレイヤー4!! 異常ありません!!」

 

「戦闘準備完了!! 先生、下がってて!! プレイヤー小隊は敵アバンギャルドタイプを迎撃するよ!! ウタハ先輩!! ヒビキ!! アシストよろしく!! 電磁シールドをお願い!!」

 

「「オールコマンド、アイ・コピー!!」」「ア、アイ・コピー……」

 

「まかされた……いやぁ、モモイ達も何時の間にか……かなり特殊戦だねぇ」

 

「というか、信じられないぐらい強いよウタハ先輩……まって、コトリは何なの? 何自然と混ざって連携できてるの? おかしくない?」

 

 そして道の先から現れたのは、正しくアバンギャルド君。

 AMASを引き連れて道の先からやってくるその姿は、異様なデザインに反して……いや、それがある意味作用してか、威圧的な存在感を放っていた。

 

 ウタハはそれが対12使徒を想定した兵器であることを知っている。なにせ制作協力者の1人だ、ターボカスタムに搭載されたジェットダッシュ機構、そして目玉の電磁装甲システムのことも勿論知っているし、その対処方法もある。

 

 それでも尚、このメンバーであっても厳しいマシーンであることは揺らがない。

 

 あれは並の学兵なら100人束となってもどうにもならないモンスターマシーンだ、それをして「秒」とのたまう後輩達が異常なのであって、こんなものを解き放たれたらそれこそキヴォトスは火の海だろう。

 

 そして……その主も現れた。

 

 < 先生、来たのね…… >

 

 ゛リオ、君を止めに来たよ゛

 

 < そう、少しばかり想定にない要素が、多い……けれど、私は……え? は? >

 

 AMASの表示するホログラフのリオが、冷たくも凛々しい表情を突然崩して驚きに染まる。想定にない要素、これまでも少しばかりでは済まなかったことだ。

 

 まあ、勿論まだある。

 

 < ちょ、ちょっと!? まってちょうだい!? >

 

 ゛リオ、ごめんね。だから待たない……君を、止めるよ゛

 

 < せ、先生……!! >

 

 リオが見るエリドゥの監視システムが捉えたのは……。

 

 目を離した隙に「4人に増えていた12使徒」の姿であった。

 

 恐鳥は、一羽で暴れる事はまず無いのだ。

 一羽が呼べば、三羽が来る。三羽が呼べば八羽が来る。

 

 これで4羽。

 

 嵐の夜はまだ、始まったばかり。

 

 





12使徒Cチーム
「ヨロシクネキー!!」

リオさん
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

後方腕組夢の中セイア様
「調月リオ……私達の苦しみを君も味わうんだ。大丈夫、直ぐに慣れる……恐れることはないんだ。正直君が予想して色々やったところで、どうせダチョウ12匹叩き込んだら全部ぶっ飛んで終わるから、女王とか何とかの軍団とかもう誤差だよ。そんなことより白石ウタハを止めろ……わかっているのか!? これは冗談じゃ済まないんだぞ!! 横領で都市作るとかドン引きだが、それどころじゃないものを作ってるんだぞあいつは!!」

まだ何も知らないナギサ様
「これとあれを決済して……つかれましたね。安藤さん、お茶にしましょうか? ええ、なんだか今日は空気が澄んで、気分が良くて。月でも眺めながら? いいですね」

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