トリニティの12使徒   作:椎名丸

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「なんなんですかこれは!? これ滅ぼせって本気ですか!?」
「大体自分のところの都市をなんで嬉々として大破壊してるんですか!!」
「り、理解不能!! 理解不能!!」
「プロトコル何も進まないし全部ぶっ潰されていく!!」
「なぜ!? こんなことが!? まるで理解できない!?」
「この12体本当に人類なんですか!? もう人間のステータスしてないでしょ!!」
「どうすればいいんですかこんなの!! 王女!? まってください王女!!」



10・夜明けの凱旋

 

 勇者の帰還、モモイとミドリ、そしてユズの絆が育んだ心が魔王を勇者に導き……ここに無名の司祭の野望は砕かれた。

 

 エリドゥの夜明け。朝日がコントロールタワーを優しく撫でていき、輝く地平線の向こうから陽の光が眩しくも照らす。戦いの終わり、長く冷たい夜を包み込むような温かい光、それはあたかも勇者の凱旋を祝すかのごとく。

 

 エリドゥコントロールタワーの屋上に登った先生とモモイ達ゲーム開発部は、澄み切った美しい夜明け空の風と共に、やたらと硝煙と瓦礫の粉塵の香りに染まった空気を胸いっぱいに吸い込んで、長い一夜の終わりを……。

 

 

「もう廃墟じゃんこれ!?」

 

 

 眼下に広がる無惨な光景を見て絶叫した。

 

「ええ……なにこれ……」

 

「わ……ぁ……」

 

 ゛ぇぇ……エリドゥが……。゛

 

 エリドゥは、控えめに言ってもう廃墟だった。

 

 先生達がコントロールタワーに入るまでは、まだ一応整然と並んでいた筈の、中央ブロック以外の高層ビル群は大体なぎ倒され、都市を美しく繋いでいたハイウェイは高架ごと溶けて消え、まさに未来都市という景観だった面影は……概ね跡形もない。

 

 一応タワー周辺の中央ブロックは綺麗なままだ、でもそこから見渡す限り、中央以外のエリアは壊滅だった。ドミノ倒しにされたビル群、完全に崩壊して瓦礫の山になったビル群、何がどうなったらそうなるのか溶け落ちたり穴が空いたビル群、折れて逆さまに地面に突き刺さってるビルもある。

 

 タワー突入から夜が明けるまで大体4時間少しである、4時間でこれなの? おかしいよ……様子がおかしすぎる。どうなってるのこれ。

 

 特にコントロールタワー正面の方向には、月でも落ちてきたんか?みたいなドでかい大穴が空いている、もうこれはクレーターだろ。周辺の被害も壮絶という他ない、そして一番困惑したのが……。

 

 そのクレーター跡から扇状に「何も無くなってる」こと。

 

 マジで何も無い、何かガラス質に変貌した建物の痕跡はあるものの、常軌を逸した高エネルギーの奔流にでも炙られたかのように……遥か遠くまで消滅し、要塞都市エリドゥの「端」とその先の「荒野」が見えてしまっている。

 

 夢でも見てるような大破壊の跡がそこにあった。

 

「アリスはさっき「向こう」で見てました!! キリコとキリコの姉妹の皆が大回転してました!! すごかったです!! 竜巻旋風羽根でビルが切れてました!! やっぱりキリコは凄いです!!」

 

 ゛ええ……。゛

 

 竜巻旋風羽根って何?

 

 先生はドン引きした。確かに陽動はお願いした、アバンギャルド君を引きつけてもらわないとここまで来れなかった、これは確かだ。スーパーアバンギャルド君ターボカスタム40機、これはもう12使徒でなければどうにもならない戦力だったのだ。

 

 確かに、出来るならアバンギャルド君を倒して欲しいとは言った、引きつけてほしいとも。キリコなら全滅させてしまいそうだな……とは思っていたし、途中の連絡で他の12使徒の皆も来ていることは判っていたので、まあまず勝てるだろう、でもこれは正直後でエライことになるな……ナギサになんて言おう、とかは思っていた。

 

 事態が急変、リオの懸念した不可解な軍隊が実際にやって来た時には焦りつつも「彼女達がいるなら大丈夫」という安心感、信頼もあった……実際この場所には全く寄せ付けず、どこか憔悴した様子のKeyと名乗った子の思考迷宮という罠を突破するまでの時間を稼いでくれたのだ。だからアリスの救出は成功した。リオとも和解し、皆が共に戦い、試練を乗り越えた……不可能なんか無いと証明する、最高の結果……けれど。

 

 ここまですることある?

 

 もう街ないじゃん!! エリドゥ無くなってるよ!!

 

 

「別にかまわないわ」

 

 

「「「「リオ会長!!」」」」

 

 ヒマリ達に後のシステム面の処理を押し付けて、リオは屋上から呆然とエリドゥの様子を眺めていた先生達に声を掛けた。

 

 ゛リオ……いいの……?。゛

 

 備えに備えたという、悪いことをしてまで備えて作った都市が灰燼に帰した、大きすぎるショックを受けていてもおかしくないと先生は思ったが……。

 

「ええ、エリドゥは防衛用の都市です、役目を果たしただけ」

「それに、その正面は私が消し飛ばしたもの」

 

 ゛はい?。゛「「「えぇ!?」」」

 

「流石は白石ウタハ、これほどの物とは思わなかったわ、見事ね」

 

 その名前が出た瞬間、皆が「ああ……」という感じになった、ウタハの連れていた雷ちゃんが異様にデカかったこと、ヒビキがずっと「まだヤバくて」と言い、コトリも「こいつはヤバいことになりますよぉー」と再三言っていたので、全員なんとなくそんな気はしていた。

 

「ウタハ先輩……」

 

「いやいやいや!? エリドゥ廃墟になっちゃってるよ!?」

 

「? 必要なデータは取れたわ」

 

 そもそも浪漫に生きるエンジニア部が「ヤバい」とか言ってる段階でもうマトモではない。発動の暁には最低でも12使徒レベルの大破壊が待ってる気がしていたけれど……事態はその想像の2000倍ぐらい上を行った。様子がおかしすぎるし、都市一つ消しておいてこの感想のリオもやっぱりどこかおかしい。

 

 全部ミレニアムだからで説明がついてしまうのが、本当にあんまりである。先生は……これは流石にウタハとお話しようと思った。

 

「リオ会長!! リオ会長も使ったのですね!! 光の剣を!!」

 

「……ええ」

 

「リオ会長も、勇者だったんですね!!」

 

「私は……勇者ではないわ、やったことを思えばいいとこ魔王……」

 

「RPGにはタイトルごとに主人公がいます!!」

 

「?」

 

「10の物語には10人の主人公、勇者がいます!!」

「だから、会長も光の剣を使う……勇者だったんです!!」

 

「……貴女に、酷いことをしたわ。私は貴女に……貴女を…………したのよ」

「これが、勇者のすることだとでも? ありえないわ」

 

「闇落ちした前作主人公が味方になる展開ほど、盛り上がることはないです!!」

「味方になって、ジョブが勇者に戻る……アリスは、すごく良いと思います!!」

 

「…………」

 

「それにモモイは言ってました、終わりよければ全てヨシッ!!」

 

「その掛け声は、あまり良くない感じがするわね」

 

「ええ!?」

 

 雰囲気が、違うのだ。リオの様子はコントロールタワーの制御室で会った時から変わっていた、張り詰めた様子だった初めて会った時とは違う……何処か憑き物が落ちたような、ある種の清々しさ、開放されたかのような空気があった。

 

 自分を追い込んでいた何かから、開放されたかのような。

 

「先生、私は……私の判断を、決断を、誤りだとは思いません」

 

 ゛リオ……。゛「会長!!」

 

「ですが、この結果でよかったと……この未来へ辿り着けて、より良い未来を掴むことが出来て、良かったと……思います」

 

 ゛そうだね。゛

 

 意固地に苦しい選択を選ぼうとしていたリオが、こうも。

 

 先生は思い出した、キリコが「ナギサ様から勅命が下った」と言っていたことを。キリコの声音はあの瞬間、ゲーム開発部で見せていた、どこか飄々とした様子が完全に消えていた。姉妹を呼び寄せ、来たるべき脅威と戦うために……陽動という、手抜きをやめたのだ。

 

 ナギサ、桐藤ナギサ。巨大学園トリニティの生徒会長として、このキヴォトスの不幸を祓うために日々戦う生徒、12使徒達の主。心配になる程によく働く子だった、そして何より……優しい。同じトリニティの生徒だけでなく、キヴォトスの人々のために戦うことを選んだ生徒。

 

 彼女が12使徒に指令を与えるということは、この事態を把握しているという意味を持つ。

 

 思えば12使徒の集結が早すぎた、周辺で待機していなければ絶対に間に合わない筈、不可解な軍隊と交戦する頃にはもう12人いたのだ。キリコがミドリの救援要請に気づき、ミレニアムに走った段階で、おそらくもう……。

 

 ナギサは遥か遠いトリニティから、12使徒を送り込むことで皆を助けてくれていた。リオが今までとは一転してアリスを救うために力を尽くしてくれたのは、その選択を後押ししたのは……きっと。

 

 ゛ナギサは、なんて?。゛

 

「!!……わかるのですね」

 

 ゛彼女達がいるからね。゛

 

「……私の決断を、肯定してくれました。けれど、まだ選べる未来がある、と……そのために、それを伝えるために……待っていて、くれたのです」

 

 ゛そっか、すごいな、ナギサは。゛

 

「ええ」

 

 あの時、もう12時は回っていた筈、とっくに休んでいる筈の時間。それでも彼女を助けるために、あのテラスの席に座って、ずっと待っていただろうナギサの姿が脳裏に浮かぶ。

 

 なんて子だろう……あの時リオに、先生としては……返せる言葉がなかったという不甲斐なさもあった、そこを埋めてもらったという感謝、そして情けなさ。あの子も、生徒だというのに。

 

 ゛今回は、結果はヨシッだけど、ちょっと不甲斐なかったかな、先生としては。゛

 

「……彼女は、先生には出せない答えもある、そう言っていました」

 

 ゛……。゛

 

 本当に、そうだっただろうか。命の選択などできない、それでも。

 先生はポケットの中で……一枚のカードを指で撫でた。

 

「先生!! 会長!! 難しい顔してないでさ!! もういいじゃん!! 結果ヨシッだよ!!」

 

「アリスちゃんに酷いことしたのはダメですけど……理由があって、解決できたなら……皆で、解決できたんなら」

 

「私達の、皆の……勝ちです」

 

「パンパカパーン!! 高難度シナリオ、クリアです!!」

 

 ゛なら、帰ろうか……ミレニアムへ、あの部室へ……ね。゛

 

「「「「はーい!!」」」」

 

 ゛さあ、リオも……お疲れ様、がんばったね。゛

 

「…………はい」

 

 その言葉を聞いた瞬間、リオの張り詰めていた身体から、最後の強張りが抜けた。深く息を吐き、吸い、朝日が赤く照らし始めた雲を見上げる。

 

 リオは、先生に手を取られ引かれて行くことに、抵抗しなかった。

 

 

 -------------------------

 

 

「よう、終わったかよ」

 

「「「「ネル先輩」」」」

 

 ゛ネル、皆。ありがとうね。゛

 

 フロアにはC&Cが全員揃っていた、トキはパワードスーツの残骸と共に壁端に寝かされていたが、手当もされている。

 

「いいってことよ……なんだ、会長もいんのか」

 

「美甘ネル、トキは?」

 

「新入りならまだ伸びてるぜ。しこたまブン殴ったからな、そこそこ折れてるだろ、暫くは起きねぇ。中々頑丈だぜ、それなりにガッツもある……諦めが悪いのは中々いい」

 

「そう……」

 

「そっちは色々あったみたいだが……まあいいさ、終わりよければだ」

 

「ヨシッ!! だね!!」

 

「アスナ先輩、それはたしか危ないやつ……」

 

「事件が丸く収まろうかというのに、フラグを立ててはいけませんよ」

 

「そこまでのものなの!?」

 

「いや……一体何のことだよ? いや、それより先生、会長。外だ。見てみろよ。大物のおでましだぜ……」

 

 ネルに促されてタワーの玄関を出る。

 

 エリドゥ・コントロールタワー、1階の正面玄関から見下ろすように長い階段を降りた先、その広大な踊場に……12使徒が整列していた。6人ずつ二列に分かれて向かい合い、着剣した銃身を並べて先生達を出迎えるかのように。

 

「キリコ達だ!!」「キリコちゃんどこ?どこ?」「たぶん……あそこ」

 

 整列し、その整然と掲げられた銃の回廊の先に。片膝をつき、まるで主を待つようにして、スーパーアバンギャルド君RSCと雷ちゃんが鎮座している。12使徒達も、アバンギャルド君も。激しい戦いを物語るかのように煤け、粉塵にまみれていたが……その姿はむしろ先生達には、輝くようにして見えた。

 

 夜明けの陽を背景に並ぶ戦士達の姿。その影を広場に落とし、一夜を終えた主役達を、12翼の天使と鋼の騎士が出迎えている。

 

 そして、アバンギャルド君を見上げるようにして、並ぶ銃剣の林の向こうに一人の生徒が背を見せている。それはトリニティ生徒会ティーパーティーの証、12使徒達と同じ白衣服の……。

 

「え? あの人って」

 

 ゛ミカ?。゛

 

 後ろ手に何かを持ったまま、振り向いた生徒。ティーパーティー3首長の一人、パテルの長であり、この場所に居るはずのない……トリニティの支配者、その一人。12使徒を閲兵するかのように自然体でその場に立っていたのは……聖園ミカ。

 

「こんばんわ先生☆ あ、もう日が登っちゃったから、おはよう☆かな?」

 

 ゛おはようミカ、どうしてここに?。゛

 

「ナギちゃんがね、念の為向かってくださいって☆ もう寝てたのに酷いよね!!」

 

 ゛そうなんだ……ありがとうね、ミカ。゛

 

「んーん、いいのいいの☆ 皆もおつかれ!!」

 

 ミカがそう言うと、12使徒が一斉に捧げ銃を行い、一部の狂いもない快音が、他に動く者の居なくなった静かなエリドゥの、夜明けの空に響いた。

 

 それは事件の終わりを告げる音、ハッピーエンドを示すメッセンジャー、トリニティから来た大天使が逆光の中から微笑む。

 

 それは、透き通るような……神秘的光景だった。

 

 

 ただ一つの点を除いて。

 

 

「……一つ、良いですか?」

 

「なーに?」

 

「なぜ、鉄骨を持っているんです?」

 

 調月リオは空気を読むのが不得意だった。

 

 お前、それ聞くのかよ。皆あえて聞かないようにしてたのに……。という空気がちょっとあったが、1年生ズには気になりすぎる光景だったので支持が上がった。

 

 そう、ミカは後ろ手に、バッグや日傘でも持つように慎ましく……クソデカい鉄骨を持っていた。どう考えても本人の雰囲気にそぐわないを通り過ぎ、違和感の塊だった。銃ならまだわかる、でもその手にあったのは長大で結構太い、立派な鉄骨だった。

 

「き、聞かないでもらえると、嬉しいなぁ……」

 

「? 残骸の片付けをさせてしまったのではないのですか?」

 

 リオは空気を読むのがとても不得意だった。

 

 ゛ミカ、もしかしてエリドゥに向かう途中の軍団を?。゛

 

「そうそう、急いで走って……んん。ここに来る間にねー、道にたくさんロボットがいたから、全部退かしておいたよ☆」

 

「……数千と居たと、思いますが。全部?」

 

「そ、大したことなかったね…………」

 

 ミカは何処かハイライトの消えた目で手に握った鉄骨を見つめた。ナギサがキヴォトスの危機かもしれないから、どうしてもと言ってきたので……泣く泣く正実の射撃場をぶっ潰して引き抜いてきた1本だった。

 

 道を埋め尽くしたロボットの集団、見つけたら倒してという話だったので……ミカは手当たり次第と鉄骨を振り抜きながらエリドゥまで来たのだ、鉄骨握って……走……おしとやかに、徒歩で。

 

 威力は絶大という他になく、4波以降、軍団の増援が止まったのはミカがここへ向かいながら後続を鉄骨でブチのめし、殲滅していたからだった。

 

 押しも押されぬトリニティのお嬢様、そのトップヒエラルキー。事実としてのポジションお姫様のすることか? これが。暴力にも振るい方ってもんがあるだろ、掴んでるのが銃じゃなくて鉄骨って何?

 

 ドン引きされている、それもC&Cというミレニアムの荒事専門のトップチームに。それが判ってミカは深く傷ついた。一年生と思われる双子の姉妹は小声で「やっぱティーパーティーヤバいよ、ハンパないよ」「12使徒じゃないのにこの暴レベルなの?」とか言ってるし、赤毛の子は先生の後ろに隠れようとしている。キラキラした目で見てくるアリスという子だけが癒やしだったが「ジョブは戦士です!!」とか言い出す、そういうのは求めてない。

 

 もしかして私、今後何か危機が起きる度に……これ(鉄骨)使わなくちゃいけないの? と暗澹たる気持ちになったミカだった。けれどこの鉄骨を使うと……本当に強くなってしまう。何故か不思議な事が起きて防御力も上がるので、何をどう撃たれても服さえ汚れなくなるのだ。

 

 そのせいでセイアどころか、ついにナギサさえも「鉄骨を、今すぐ急いで」とか言い出す有様。急いで鉄骨って、どんな状況で出てくる言葉? こんな状況? そっかぁ……。

 

 二人の中で私今どうなってるの? 私女の子なのに勧められる武器が鉄骨って何? こんなの絶対おかしいよ、こんなのってない……と思いながら、地面に鉄骨を突き立てると。両手でスカートをつまみ、丁寧に挨拶をする。

 

「改めて……トリニティ総合学園、次席生徒会長の聖園ミカです。ミレニアムサイエンススクール総領主、調月リオ生徒会長。私達トリニティの長……ティーパーティーのホスト、桐藤ナギサ首席生徒会長の代理人として、貴女様をお茶会へと招待に参りました」

 

「調月リオです、お受けします」

 

 軽々しく地面に突き立った鉄骨を無かったことにして儀礼の場が進む、ナギサはリオをお茶会に誘っているという。今回の話を聞きたいということなのだろうと皆の中で察しが付く。非公式とはいえ……3大校の内2頭のトップ会談となるのだ。

 

「はい、真面目なのおしまい☆ リオさん、疲れているだろうからすぐにじゃなくて、一旦トリニティのホテルで休んでから、お会いしましょうって」

 

「そう? 私は、すぐにでも会いたいのだけど」

 

「……わぁお、またナギちゃん、やっちゃったかなこれは」

 

「? けれどそうね、桐藤さんも夜通しでしょうし、お言葉に甘えるわ」

 

「はーい、うちのティルトローター呼んであるから、移動はそれで」

 

「わかりました」

 

「じゃあ皆も、同時に撤収ねー」

 

 ミカが手を軽く振った瞬間、捧げ銃を解除して待機の姿勢に戻る12使徒。なんでもないかのように行なわれる、あの12使徒を平然と従える支配者の雰囲気に、C&Cは悟らせぬように緊張していた。先生と合流前に接触しなかったのには理由があった。

 

 12使徒だけでも問題だというのに、まさかこんな……。聖園ミカは控えめに見ても12使徒一人一人よりも強者、それも鉄骨を握っていた時の威圧感は空崎ヒナもかくやという有様、それなのに今日ここまで完全に無警戒の生徒であった。剣先ツルギという強者が既にいるのに、更にである。

 

 次席生徒会長なので最後の最後になるまで出てこないだろう、しかしそれは、最後の最後には出てくるということなのだ……これが。仮に12使徒を倒すことができたとして、消耗したところに正実を引き連れた剣先ツルギと、この聖園ミカが出てきたら、もうどうしようもない。

 

 これを見て、楽しそうにしてられるのはネルぐらいのもの。

 トリニティの底知れなさを垣間見たアカネは小さく息を吐いた。

 

「ヒマリ、行ってくるわ」

 

 < あと全投げで!? なんか急に図々しくなってませんか!? >

 

 < 会長、トリニティに行くなら白石ウタハが支援の礼を言っていたと、そう頼むよ。こちらはまだ少しかかる、良いデータもとれた、期待していてくれ >

 

「いいでしょう、期待しておくわ」

 

 < 会長ー!? これ後始末は!? >

 

「ユウカ、暫く任せるわ」

 

 < あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! >

 

 伝説の一夜が、終わる。

 

 

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 その日、空崎ヒナは執務室でクロノスニュースを眺めていた。途中やってきた棗イロハと少し仕事の話をすると、ニュースのことを話題にお茶にしようという提案に頷いた、確かにそういう時間である。

 

 ヒナは先日親しい12使徒の一人と、恒例の夜茶会をしていた時に話に出てきた事件が気になっていた。このタイミングで来たイロハも、ヒナからそれを聞き出そうという思惑もあるだろう。

 

 二人共ミレニアムで先々週に起きた騒乱の秘された真実だという、謎の軍団の話は興味があった。クロノスニュースにはその事件の、表向きに付けられた後始末の結果がのっている。

 

 キヴォトスを破壊するかもしれないという、オーパーツの制作者達「無名の司祭」そして「不可解な軍隊」の暴走。一夜の内にまさかそんな事件が起きていたとは、呼んでくれれば走っていったのに……と、ヒナは思った。

 

「やめてくださいよ、貴女まで混ざったら街が追加でもう二つぐらい消えちゃいます。流石にゲヘナでも後始末が発生しちゃいますよ、めんどうです」

 

「理由もなく、そんなことしないわ」

 

 謎の軍団、まあこれはいい。彼女達が暴れ倒せば大体のことは一晩もあれば解決する。基本的に問題は全部ぶん殴って全部ぶっ飛ばせば解決するのだという思考は、意外にも思われるかもしれないが……ヒナも標準搭載のゲヘナ的発想である。理性的だからそうは見えないだけで、ヒナも大概そういうところがあった、だから12使徒と相性がいいのである。

 

 ヒナは司祭や軍隊に関して、あまり気にしていない。もし彼女達が苦戦するようならば自分も走っていけばいいのだ。13人で殴れば解決できないことはないとヒナは知っているし、キヴォトスは恐怖に慄いている。

 

「だといいんですけどねぇ」

 

 澄まし顔でこれだ、イロハの懸念は当たっている……。

 

 ヒナにとっては、それよりもミレニアムだ、要塞都市エリドゥという秘密裏に建設された戦闘都市というのが凄まじかった。常々様子のおかしい学園だと思っていたが、今回はぶっ飛んでいる。

 

 都市が建つほどの横領というのも凄いが、堪えた様子がないミレニアムも大概だった。普通学園の金庫の底が抜ける事態だと思われるが……現にミレニアムは平然と通常運転している。

 

 一夜で廃墟と化した都市エリドゥ、そこで行われた尋常ならざる戦闘。いくら秘密都市といっても、そんなもの隠し通せるわけがない。しかも夜空が輝くほどの高エネルギー兵器が使われたという話で、連邦生徒会の気象室が大慌てで調査に乗り出していた。

 

「連邦生徒会が珍しくやる気出してましたね、こういうどうでもいいことに頑張らなくていいのに。他にやること沢山ありますよ」

 

「そうね」

 

 連邦生徒会虎の子の大型高高度巡航偵察ドローン、イーグルアイが動員されて光学観測されるにあたり、エリドゥの位置とその有様が連邦生徒会の知れるところとなったのだ。届け出のない都市開発、学園自治区の内部なので連邦生徒会には関係ないと詳細の開示は突っぱねられているが、あの有様と合わせれば連邦生徒会が神経質になるのもわからないでもない。

 

 ミレニアム生徒会、セミナー曰く。エリドゥは実験都市であり、都市運用を想定された各種の実験に使用されていたという。技術検証のためのもの。人間は住んでいない無人都市。

 

 それが激しく破壊されている、広大な都市だったものは概ね廃墟に近しい有様となっていて、一体何があったのかと驚愕するのも仕方ない事態だ。連邦生徒会の懸念は「ミレニアムが連邦法違反の大量破壊兵器を開発している」のではないか、秘密都市はその運用試験が行われたのではないか……ということだ、もっともである。

 

 流石に破壊の規模の様子がおかしすぎる、明らかにライン超えの熱光学兵器が使用された痕跡、そして謎のクレーター。どれをとっても大量破壊兵器の疑いには十分だ。

 

 それに加えて、匿名の通報。ミレニアム・エンジニア部の部長、白石ウタハが光学系の大量破壊兵器を開発しているというタレコミ。流石のヴァルキューレも動かざるを得ない。そうして白石ウタハはヴァルキューレに任意同行されて取り調べとあいなった……が。

 

 真顔のミレニアム総領主が走ってきた。

 

 結論から言うと、不起訴。ミレニアム生徒会長、調月リオが直々に連邦生徒会へ出てきての「誠に遺憾」が飛び出してしまい、速攻で釈放されることになった。政治的にこんな相手勝てるわけがない。そして何故かトリニティの慈愛の君から防衛室の不知火カヤにお電話が入っていた、不正はなかった。

 

「セミナーの会長が出てくるなんて絶対まともなことじゃないと思いましたけど、ぶっとんでるなんてもんじゃないですね」

 

「白石ウタハは彼女達の後援者だもの、不思議でもないわ」

 

「12使徒を強化し続けるのは趣味だったり?」

 

「そうみたい」

 

「思うんですけど……ミレニアムの生徒は頭がおかしいのでは?」

 

「失礼よ、イロハ」

 

 白石ウタハ釈放に当たり、調月リオはエリドゥに関してある程度の情報開示を行った。これが今回、クロノスが嗅ぎつけたという「真実」である。

 

 12使徒用の装備を開発していた白石ウタハは、その市街戦訓練の場として実験都市エリドゥの使用をセミナーに求め、受理された。これはミレニアムとトリニティの開発計画の一端であり、過度な追求は内政干渉に当たる……というもの、そしてその実験内容のデータが開示される。その中に、都市の破壊に関する実録データがあった。

 

 曰く、都市を破壊したのは12使徒だということだ。

 

 それを知ったキヴォトスの市民は納得した、まああいつらならそれぐらいなんてことないわな。空崎ヒナもいたけど、一晩で4つ都市滅ぼした実績あるし。

 

 そもそもエリドゥは破壊されることが前提の都市、訓練場であり、破壊試験場であり、インフラの試験都市でもあったという。そこで試験データに満足した調月リオはエリドゥを使った最終試験を行った。

 

 最終試験、試作実験都市エリドゥを破壊する実験だ。

 

「このエリドゥって結構大きな都市構造だと思うんですけど、地下構造まであるのに、よくここまでぶっ壊せたもんですね……ビルを倒壊させて地下鉄の入口を塞がれると利用できなくなる? 何言ってるんです? このレポート、実行するまでもなくわかりますよ」

 

「やることが派手ね」

 

 都市の破壊が実験? 頭おかしいんか? という疑問は尤もだが、ミレニアムに常識の話が通じるわけがない。曰く、12使徒の本気の暴力にどこまで都市構造が耐えられるかという試験であったという。

 

 防衛用施設もあり、都市構造だけでなく防御戦闘の機能も試験されており、これらのデータも実際に公開されている。大量のドローン兵器からの侵攻に対する耐久力も検証されている。マジであの連中は都市一つをぶっ潰して試験していたのだ、これには連邦生徒会もドン引きしながら引き下がるしかない。

 

 もしかしてミレニアム郊外の廃墟って、こういうこと昔の卒業生もしたんかこいつら……と連邦役員に思われたりもしたが、ミレニアムの生徒に常識を説いても無意味なので口をつぐんだ。

 

 得られたデータはミレニアムを満足させるものだったらしく、公開された新型都市開発計画のパッケージングシティとして都市構造のモックアップと共に、各自治区向けに説明会がなされた。

 

 結果的に大破しているとはいえ、フル装備の12使徒、12人全員の攻撃に十分に耐えたといえる結果。自律警備ロボットによる治安維持のオートメーション、インフラの高度な自動化という都市機能が全てパッケージングされたこのプロダクト・エリドゥは……大好評となった。

 

「なんでも売れるものなのね」

 

「都市計画というのは難しいんですよ、丸ごとパッケージにして売るっていうのは中々凄いアイデアだと思いますよ。自動建設システムにプロダクト・エリドゥを入力したら完成を待てばいいだけですからね、画期的です、楽でいい」

 

「その自動建設システムも……」

 

「ミレニアム・エンジニアリング製ですよ、だから手強いんですよね」

 

 高度に無人化された自動建設システムはミレニアムの独占技術だ、この都市計画パッケージを買うだけで、あとは待てば都市が完成するというのは凄いことである。画一的なものしか作れないため、トリニティやゲヘナのような歴史ある美観地区には適さない、しかし普通の都市計画においては最高の設計図だった。

 

 今後新設される都市計画にプロダクト・エリドゥのモデルが購入され、使われることになるのは確実という完成度だ。しかも実際に試験都市を建造し、モデルテストも行われている、あらゆるデータが貴重な現物なのだ。実績までもが既に揃っている。

 

 そして素晴らしいことに一部のみの設計も部分利用できるという懐の深さだ。災害対応設計都市という側面もあり、有事の避難施設としての機能も充実しているという、いたれりつくせりの完成度の高さ。都市計画を考えるなら最高の資料になるどころではない、当然今ある自治区都市の改修計画に使えるので、飛ぶように売れた。

 

 結果として、プロダクト・エリドゥはその狂気に反して……開発者の調月リオ生徒会長の名声を更に高める結果となった、それだけではない。

 

「あの変なロボット、そんなに強かったんですか?」

 

「そんなことないけれど、この特別なモデルが凄かったとは聞いたわ」

 

 調月リオの開発品でもう一つ、脚光を浴びたものがあった。ヘビー級警備ロボット「スーパーアバンギャルド君RSC」だ。有人操縦型ながら、傑作機SAターボカスタムを更に発展させた機体だというこのマシーンが、12使徒と交戦しても撃破されなかったというので、脚光を浴びた。

 

 12使徒に破壊されなかったマシーン兵器など、想像を絶する完成度だ。しかもアバンギャルドシリーズにありがちだったデザインの問題があまりない、継承しているのは頭部センサーのデザインのみで、本体はマッシブで重々しくもヒロイックな、どこか重厚な騎士を思わせるデザインである。

 

 その上性能がお墨付きというなら、問い合わせが殺到するのも当然だった。

 

 採算度外視のコンセプトモデルということで一般販売は不可能とされているが、技術移転された量産型の登場に市場の期待は一気に高まり、カイザーインダストリのゴリアテからスーパーアバンギャルドへの代替えや、新規に導入したいという声は日増しに高まっていった。

 

 それだけでなく高額でもとRSCの実機を求めて、キヴォトス中に販売熱望論が持ち上がっているという。今やスーパーアバンギャルド君RSCはキヴォトス製マシーン兵器のトップ・フラッグシップモデルとして資料と共に展示を熱望される人気度だ。

 

 積み上がる金、信用。株価は上り、評価も上がり続けている。調月リオはこの一件でエリドゥ建設の負債を早期に回収しようとしているどころか、更に稼ごうとしていた。

 

 ミレニアムは結局、この事件のゴタゴタを全部、利益に変えてしまったのだ。

 

「この商才を、うちの総領にも分けてほしいところですね」

 

「マコトはどうなの?」

 

「こんな器用なことができるタイプだと思います?」

 

「それもそうね」

 

「ま、うちはうち、他所は他所ですよ、気楽にやりましょ」

 

「そうね……イロハ、はい」

 

「おっと、ありがたいですねぇ」

 

 ゲヘナとはそういうところだ、ヒナはそういう居心地の良い混沌があるこの場所が、やはり好ましい。そう思いながら、イロハの空いたティーカップにお茶を注いでやり、午後のティータイムを楽しんだ。

 




・凱旋シーン直前
ミカ「来ちゃった☆」
ダチョウ「うわぁぁぁミカちゃん様が鉄骨もってる!!」(驚愕)
ミカ「みんなやりすぎ☆!!」
ダチョウ「お、お慈悲……お慈悲~!!」
ミカ「でももうすぐ試験あるし制裁は免除しとくね☆」
ダチョウ「ゆ、ゆるされた……」(試験???)

・朝登校してきたらぶっ潰れてた射撃場を見た一般通過正実生徒
「ええ……」「一体何が……」「私達の部室が……」

・心労でフトモモが痩せてきたユウカ
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!(その時不思議な事が起きて消える負債)

・データ処理全投げされたヒマリちゃん様
ホントに一体何があったんです!? どういうことなの!?

・重要参考人、白石ウタハ(17)
しまったな、データの解析が遅れてしまう……あの結果なら、更に発展させれば更に砲身を増やして回転速度を上げれば冷却も、でも大爆発するのも捨てがたい……どうせならフィナーレを飾る大きな花火が欲しいし、悩ましいな……。

・限界のセイアちゃん様
も、もうだめだ……おしまいだ……こんな、こんな状態でエデン突入とか、信じられない、こんなハズがあるか…こんな馬鹿な、こんな不条理なことがあるか!! 眩しくて未来見えないってなんなんだよ!! おかしいだろ!! 何が放たれるんだよエデンで!! 私達に何が待ってるっていうんだよ!! 

それにアズサ!! 君たちは本気なのか!! あれ見てまだやろうっていうのか!? 自殺したいとしか思えない!! 説得できなかったのかい!? ダチョウ共は容赦なんかしないんだぞ!! 君の家族絶対えらいことになるぞ!! で、できなかったのか……そ、そうか……。
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