トリニティの12使徒   作:椎名丸

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・特殊戦研究会、部歌 「この世を暴力」

力の限りパワー。どこまでもツヨシ。
我ら等しく、特殊戦。
力をパワー!! 正義を尽くそう。
力をパワー!! 悪を倒そう。
皆の幸せ、平和にしよう。
我ら等しく、特殊戦。
迷うな、戦え。

カナリの暴力。
ワレラは暴力。
スゴサの特殊戦。

力を……パワー!!



13・機密学園24時半

 

 ゛ナギサ、こんにちは。゛

 

「こんにちは、先生。お疲れ様です、改めて補習授業部の顧問、お忙しい中引き受けていただいて、ありがとうございます。その後、彼女達はどうでしょうか」

 

 先生はティーパーティー・テラスでナギサと会っていた。補習授業部の顧問をお願いされた時以来となる、何時もながら忙しそうなティーパーティーへと、あえて知らせ無しで直接赴いたのは、気になることがあったためだ。

 

 ゛皆、ちゃんとやってくれているよ……その、少し時間がかかりそうだけれどね……。゛

 

「そう……ですよね……」

 

 ナギサも擁護困難な面子が3人ばかりいるので、特に驚きはなかった。

 

 ゛ツバメも、頑張ってるよ……。゛

 

「意欲を買ってあげてください……努力は惜しまない子ですので……」

 

 ゛本当にね。゛

 

 実際、方向性はともかくとして努力家なのは確かだった。先生はシャーレに来訪する、全ての12使徒を見てきた……それぞれに個性があり、統一して似せた容姿でありながら、誰が誰か直ぐにわかるほどに違いのある12人。

 

 しかし根底にあるものは同じだった。彼女達の努力の方向は常に、同じ向きにある。それは努力の量も、意欲も同じだけあることを意味した。

 

 ともすれば実の姉妹よりも余程深い、矜持と意志を同じくする、稀有な12人。魂の姉妹とはよく言ったものだ。

 

 城島ツバメ、その12使徒達のリーダー。凄まじい暴力性と暴走性を持つ彼女達の中では際立って冷静に見えるのもあり、彼女一人「だけ」が落第という事で先生は内心驚きつつ、それがより、この場に来るための理由について……ある疑問を加速させていた。

 

 ゛ナギサ、聞きたいことがあるんだ。いいかな?。゛

 

「……どうぞ、先生」

 

 ゛トリニティに、何か起きてる?。゛

 

 流石に勘が良い、ナギサは内心そう思ったが顔には当然出さない。それに予想された質問ではあった、本来補習程度であれば先生を呼ぶ必要など無いのだ。補習授業部は特例の部活とはいえ、顧問を外部から置いた記録は1つの例もない。

 

「先生は、どうしてそのように?」

 

 ゛どこか緊張してるように思えてね。゛

 

 密かに置いている護衛が露見したわけでもあるまいに。12使徒が鍛え上げ、羽川ハスミが推薦した特戦研の精鋭だ、姿を見られるような弱兵は居ないと明言されている。

 

「先生には以前、エデン条約のことをお話しましたね」

 

 ゛うん、もう近いね。゛

 

「はい、キヴォトスの歴史に残る大きな条約となります。流石に緊張がないとはいえません。我がトリニティの辿ってきた歴史を思えば、ゲヘナと交渉が成立すること自体が奇跡に近い……」

 

 事実であるが真実ではない。今代のゲヘナ総領主、羽沼マコト議長は融和に前向きだ。条約の事前交渉の段階から意欲的であり、協力的であった。言動こそ胡乱な所もあるが、発言の内容は極めて真っ当なことばかり。

 

 連邦生徒会の出してきた初期案の内容に細かく指摘を入れている姿を見れば、その言動が韜晦であることなど明らか。何度目かの会合でそれとなく些細な部分について聞いてみたところ、1語の狂いもなく記憶していた。こちらの入れた注釈込みである。そもそもあの混沌のゲヘナを「真っ当」に統治できている段階で只者ではない。

 

 これが支持率9%の指導者? 誤情報としか思えない。ゲヘナは意外にも民主政体の学園だが、僅か9%の支持率で差配できるような自治区と実績ではないのは明らかだ。

 

 それにゲヘナの指導者層だというのに、トリニティの中枢にいる最上位生徒である12使徒と友誼を結んでいる。これも常識では考えられないこと、もし12使徒に害意が僅かでもあれば……彼女達を迎え入れた瞬間に万魔殿は全滅してしまうのだ。

 

 だというのに……執務室で皆とプリンを一緒に食べて遊んでました、という信じがたい写真がモモトークで送られてくる始末。何度かD.U.に出る際の護衛を、遊びに来ていたからという理由でそのまま12使徒に任せている。ゲヘナの総領が、トリニティの最終暴力装置を護衛にだ……度胸も器も一級。

 

 あのゲヘナが内情を平然と見せてくる事自体が驚異的にすぎた。詳しく聞き出せた万魔殿内部の様子を見れば、今代の万魔殿にはトリニティへの隔意が見受けられない。ゲヘナの歴史を紐解いても、稀有な指導者と言える。

 

 そう、不思議なぐらいに……羽沼マコトはトリニティとの融和に意欲的な指導者なのだ。今やトリニティとゲヘナとの関係に、実際の所……懸念は殆ど無く。末端の暴走等はあれど、それは双方にままあることなので問題にならない。首脳が双方、明確な意思を示している今、大勢になんら影響はないのだ。

 

 ゛マコト達も乗り気だったね、無事にいきそう?。゛

 

「ええ、このままであれば大過なく条約は進む運びとなるでしょう」

 

 ゛よかった……なら、力になれることはない? 困ってる事は無い?。゛

 

 ナギサは先生が何かあると確信してしまっていることを悟った、同時に迷う。アリウスのことを打ち明けるのは容易い、しかし変数でもある。

 

 先生を顧問という名目でトリニティにお呼びしたのは、白洲アズサのケアという面もあるが、そもそも先生自身の警護でもあるからだ。最強の使徒を側に置き、制圧の当日まで可能なら事態を秘匿し、補習授業に注力して頂くというのが当初のプラン。

 

 ……なるほど、ならば露見したのはあそこから。いや、状況が隠匿できる事態を超えたということか、彼女はきっとそう判断したのだ。

 

「先生……連邦生徒会から、お話が?」

 

 ゛……防衛室のカヤちゃんからね、今すぐシャーレを離れてトリニティへ行って……退避してくださいって。詳細は調査中らしいんだけどね。゛

 

「……やはり居ましたか、手の長いこと」

 

 ゛ナギサ。゛

 

 可能性の1つではあった。キヴォトスの多くの自治区生徒会長達はあまり意識していないが、シャーレの権限は連邦生徒会長に匹敵する、先生のその人柄を悪用すれば、自治区サイドからでも……かなりの無茶ができるのだ。それだけの権限だ、だからこそ狙われる。

 

 アリウスが自治区1つを壊滅させるような攻撃を実行した結果、最悪の想定をすれば自治区の治安維持能力は喪失し、無政府状態となるだろう。

 

 連邦生徒会が機能していれば特例法に基づき治安出動を行うが、SRT無き今……それは不可能。この場合、シャーレの先生は事態鎮圧のための最上位権限を行使できる数少ない「個人」なのだ。混乱を狙うならば、無力化するべき対象となる……先生が目標になり得るという分析は正しかった。

 

 同時に、マダムとやらが……油断できる相手ではないことが再確認できた。やはり、情報を知らないのではない、調べた上で……アリウス学兵の内、子飼い以外には何も知らせてはいないのだろう。

 

 そして、潜り込んでいた何者かは……。

 

「先生、暫しお待ち頂けますか?」

 

 頷く先生、それを見たナギサは控えていた安藤に目配せし、彼女が持つティートレーに乗せて来たホロビジュアル・ホンを繋がせる。相手は……。

 

 < はい、連邦防衛室の不知火です >

 

「桐藤です。お忙しいところ、申し訳なく思います」

 

 < !? ナギサ様。寧ろご迷惑をおかけして…… >

 

「いいえ、協力体制ができていればこその今です、トリニティの問題でもありますから……。不知火さん、お聞きします……居たのですね?」

 

 < はい、調査中ではありますが……遺憾ながら、スパイの痕跡を確認しています >

 

「先生は現在、我がトリニティにて警護をしています。ですが気になることが1つ、直ちに退避という表現を用いた理由に、思い当たることがあるのです……特殊戦ですね?」

 

 < ……統制を保持できていない、連邦生徒会の不手際を改めてお詫びいたします。お察しの通りですナギサ様……スパイはSRT特殊学園におりました。離反した1年生のチーム、MOUSE小隊が先生の業務予定表を含む、トリニティとエデン条約に関連した機密情報を奪取し……行方をくらませております >

 

「他の2小隊も関与していると思われますか?」

 

 < 現在、所在の判明しているRABBIT小隊については既に確保し、取り調べを行っております。CHEETAH小隊は未だ所在不明、場合によっては特殊戦が2小隊、シャーレを強襲する可能性を鑑み、即時退避を要請しました >

 

 的確な判断だと言える、特殊戦相手では小細工など無駄だ。ましてSRTの生徒が相手では、ヴァルキューレの警備部など付けたところで時間稼ぎにもならない。

 

 先生は今、補習授業部の顧問ではあっても他の業務がもちろんある。シャーレには定期的に戻っていたのだ。連邦生徒会防衛室長、不知火カヤ執行役員はそれを危険と見て、自己の職責を意図的に無視し、トリニティでの保護に切り替えた。

 

 連邦生徒会防衛室長という、キヴォトス最上位エリートのプライドに固執せず、適切な判断をし、実行した。今や動かせる手駒が殆ど無い中、よくやってくれているとナギサは思う。

 

 不知火カヤ。桐藤派を名乗り、不思議なぐらいナギサに心服しているため、度々連邦生徒会長への就任を打診してくる困った面もあったが……義務と職責を全うしようとする、多くの自治区生徒会長達にとって信用できる、現状……ただ一人の連邦生徒会上位役員であった。

 

「ありがとうございます、こちらに関して心配の必要はありません。あとは任せてください。不知火さんも身辺に注意して、緊急時はトリニティへ退避を、困難な場合は12使徒を派遣します。」

 

 < ありがとうございます……ナギサ様、お力になれず……あまつさえ…… >

 

「いいえ不知火さん、貴女が力の限りを尽くしてくださることに、私は何時も感謝しております。重ねて身辺に注意を、詳細はまた後ほど」

 

 < !! はい、失礼いたします >

 

 ゛……ナギサ。゛

 

「……先生、少しお時間を、頂けますでしょうか」

 

 話は、長くなることだろうから。

 ナギサは安藤がお茶の支度を始めた姿を見ながら、深く息を吐いた。

 

 

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「正義実現委員会は精鋭だな」

 

「わかるかい、アズサ」

 

「ああ」

 

「二人共……息、も!! ……乱して、ないの……なんなの!?」

 

 荒い息を吐く下江コハルと同じ運動をしていた白洲アズサ、そして城島ツバメの三人は、グラウンド端の木陰でクールダウンに勤しんでいた。2年生二人はほぼ汗もかいていない。

 

 見ているだけだったヒフミとハナコが若干引くようなメニューであり、ランニング程度では全く無い。コハルは知らなかったが、それは現在の12使徒、特殊戦研究会が中学時代に特戦研への入部を望む、後輩達の適性テストに使ったものだった。

 

 暴力耐性が素の一年生であるコハルがついていけたのはポジティブだ。城島ツバメは下江コハルの評価を、彼女が知らない所で二段引き上げた。

 

「体力は不足だ、懸念かな」

 

「何、すぐに身につく、叩けば伸びしろはありそうだ。私達みたいに6日間不休で戦う予定があるわけでもない、3日も戦えれば十分だろう」

 

「6日間も戦えるのか……流石だ、ツバメ」

 

「怖すぎる話しないで!?」

 

 学兵としてのキャリアが違う。ツバメは当然として、アズサも厳しい訓練を潜ってきた。だからこの場にいる、十分に選抜といって良い。

 

「正実の新兵訓練は温くはないんだアズサ、だが特殊戦には不足だろう」

 

「12使徒を見ていると……スクワッドですら力不足を感じる、世界は広いな」

 

「アズサ!? 先輩達がぶっ飛んでるだけだから!!」

 

「ツバメで良いといったろ。自信を持てよコハル、お前はやれる子だ」

 

「ぅ……その、そ、そうかな? ツバ……メ……さん」

 

「敬語はもういらんて」

 

 中学時代から12使徒が暴れまわった結果、キヴォトス全土の軍事組織はここ数年、大きな体制の変革、意識改革を余儀なくされてきた。当然、12使徒の教練を直接受ける正義実現委員会の学兵は、精鋭主義の権化である。この過酷な世界となったキヴォトスでは弱兵に価値など無い……実戦で数秒すら立っていることも出来ないのだ。

 

 ゲヘナと交戦することがあれば最悪の場合、空崎ヒナが眼前に立つ可能性もあった。12使徒を単独撃破できるような存在相手に勝ち目などある筈がないし、瞬間移動に近い機動力を誇るため逃げることも難しい。多くの生徒にとって、ゲヘナのデーモンロードは命乞いをするしかない存在であって、戦うことなど考えられない。

 

 そんな絶望的な存在と交戦する可能性を、何時かはあるものと考えるのが今の学兵の常だ、末端の正実生とて覚悟が無ければ黒服など着れない。正義実現委員会の入部式が神聖な覚悟の誓いとさえ言われているのは、そういう側面も大いにあった。

 

 コハルも今期入学の1年生ながら、入部に必須の体力試験を突破し、既に正実の基礎訓練を修了した身、そこらの生徒より格段に体力はある。しかし流石に比較相手が悪い。

 

「この合宿中に、大内を驚かせるぐらいには強化してやるぞ、コハル」

 

「ホ、ホントに!? ウッチーより強くなれる!?」

 

「努力次第やな」

 

「つ、つらいけど……私だって正実、エリートだもん……が、がんばる!!」

 

「頑張るのはお勉強です!! 訓練じゃないんですーーー!!」

 

 学兵強化合宿と化してしまいそうな勢いにストップをかけたヒフミ。補習授業部部長は今、死ぬほど苦労していた。羽のついた鳥頭連中は大体言うことを聞かないし、物覚えも悪いのだ。若干アズサが素直なぐらいで、ツバメとコハルはマジでヤバい類の鳥類だった。

 

「えっと!? 体育の授業枠超えてますよね!? ツバメちゃん!!」

 

「すまん、つい」

 

「ついでやっちゃう訓練なんですかこれ!?」

 

 グラウンドの中央は、夜が明けたら特殊部隊の訓練施設になっていた。この建物構造を模した、沢山の仕切り板何処から湧いた?

 

 雲梯にロープ、丸太に網とかもある。ほぼ泣いたり笑ったりできなくなる枠のミリタリーなアスレチックだった。一晩で用意されたのこれ? 何しにここ来たと思ってんだ、補習だよ補習。

 

 嫌な予感はあった、ツバメとアズサは相性が良すぎる。プロ同士多くを語らない空気を醸成しており、見た目は二人共お嬢さんなのに物騒で微笑ましいを通り越している。揃って成績も低空飛行なので阿慈谷部長の労力は二倍だった。尚コハルは更に成績が悪く、ハナコが付きっきりである。

 

「そうだった……いや、一緒にすればいいのか?」

 

「文武を両立か、頼もしいぞアズサ」

 

「ああ、ツバメの点数に追いつきたいところだ」

 

「二人の波長が近すぎて不味いことになってます!! ハ、ハナコちゃーん!!」

 

「お二人の仲が良い姿はなんだかこう、見ていると微笑ましくなりますよね」

 

「ハナコちゃんーーッ!!」

 

「学業はヒフミとハナコに任せるか……体力と体幹だな、どう思うアズサ」

 

「うん、それがいい。体幹はあって困らない、何事も基礎」「えっ!? 全投げなんです!?」「あら……」

 

「が、がんばるから……!!」「モチベあがっちゃうんですか!?」「ふふふ」

 

「鍛えれば良い学兵になる。大内が優秀と言うだけはあるか……楽しみやな。選抜中隊も狙えるかもしれん、仲も悪くないらしいし」

 

「選抜中隊か、時折見かける気配の違う正実生徒かな。ここの周囲にもいる」

 

 瞬間、ツバメの前髪に隠れた目に剣呑な物が混ざったことにアズサは気づく。

 

「わかるかい、アズサ」

 

「ああ、少しだけ周囲が冷えているような感覚がある」

 

「流石だアズサ、スクワッドの戦力評価を上方修正しなくてはならんね……けど、お修業が足りんな、隠形は自分の影と一体化しろと教えた筈だが」

 

「ツバメ達の隠形を求めるのは酷だ、かなり鍛えられているよ」

 

 ツバメの本気の隠形はアズサですら感知不可能なレベルだった。あれだけ暴れ倒しておいて、特殊戦としては本気でなかったのかとアズサは内心ドン引きではあったが、同時に、トリニティへ投降した判断が正しかったことを悟る。

 

 この連中に本気で襲われるということ、それは知らない間に部隊が壊滅していることも十分にありえるという意味だ。これでティーパーティーの襲撃など出来るわけがない。警戒範囲に入った瞬間、背後から口をふさがれ無音で四肢の骨を折られて終了だ、こんなのが12人もいる……怖すぎる。

 

「そう言ってくれるのはありがたいが。私達が見せ札になる分、後輩達は影に潜めるよう仕込んであった。特殊戦が存在を悟られるようでは困る、アズサ相手とはいえ……こう容易く看破されてはな」

 

「容易くはないんだが……」「ほ、ほんとに皆いるの? 全然わかんない……」

 

「まるで長年の友……ですよね、ちょっとうらやましいです」

 

「ハナコちゃん!? 物騒さも倍なんですけど!?」

 

「さあヒフミちゃん、私達も走りましょうね」

 

「完全に流すんです!? この流れで総スルー!?」

 

 ハナコはヒフミの手を引いてトラックに向かう。どう考えても不穏な思惑があるだろう補習部合宿会ではあったが……浦和ハナコは案外今、この時間を楽しめていた。

 

 

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「中々楽しかった、また明日」「眠くなってきましたねぇ……」

 

「ん」「おやすみなさい、アズサちゃん、ヒフミちゃん」

 

 アズサがヒフミの手を引いて部屋を出る。

 残されたのは城島ツバメと、浦和ハナコ。

 

 合宿の夜、5人集まってのカードゲームというレクリエーションの時間の終わり。まるで修学旅行という空気にテンションの上がったコハルは、少しお調子にのったあと……カードゲームでヒフミ相手にボッコボコにされて惨敗し、ぐずった結果ハナコに寝かしつけられ、一足早く力尽きて寝ていた。

 

 コハルは知らなかったが、ヒフミはペロログッズ奪取のために闇のカードバトルにガチ参加したことがあり、煽りすぎると卑劣な技も容赦なく使ってくる。お遊びデッキのコハルに勝ち目は無かったし、コツを掴んだアズサにもボコされる始末であった。

 

 コハルが勝てたのはツバメ相手だけである。城島ツバメはカードゲームが不得意な鳥類だった……わけではなく、手心を加えただけだ。全敗では悲しかろうという先輩の隠れた心遣いである。

 

 ツバメは基本「痛くなければ覚えませぬ」という方針だが、それは戦いにしか適用する気はない。厳しい特戦研の修練に、多くの後輩達が続いたのは、ただ厳しいだけではない……温かい日々がそこにあったからだった。

 

 ちなみにヒフミの邪悪なイカサマに気づいたツバメは「もう少しこう何というか、手心というか……」という発言をしていた。世間のイメージ的には発言者が逆なのだが、お遊びをやめたヒフミはナチュラルにアウトローである、容赦はなかったし、コハルの持ち点は飛んだ。

 

「…………」

 

「必要がなくなると物静かなんですね、ツバメさん」

 

「そうかな?」

 

「12使徒は殆ど喋らないと聞きますけど、とてもそうは思えない子が近くにいるので……ちょっと新鮮かな、と」

 

「リクは喋りすぎだな」

 

「あら、あれぐらいで丁度いいと思いますよ?」

 

 突然始まった、補習授業部五名の落第者が暮らすことになった強制合宿校舎での日々は、当初の予測よりも遥かにゆったりとした時間が流れている。本校や外部へと出歩くことも禁止されていないし、授業と寝泊まりが離れの別校舎となっているだけである。

 

 開始2日目終了後に、クラスメイト達とさっそく再会しお話したヒフミの感想は真実「合宿」というものであった。転入生支援のいかにもな集中授業、ヒフミ達が集められたのは人数合わせの「ついで」であり、なんと先生まで来てくれる豪華な待遇。補習の常連、12使徒の落第者が一人しかいないことが一番驚かれている。あまつさえクロノスに「12使徒の落第者が今期1名のみ!?」と、ニュースにされてしまう始末。

 

 そうして本校の生徒達は、補習授業部について違和感を持つものはいなくなった。

 

 何故隔離されたのか、何故この5名なのか、何故補習校舎エリアの外へ出る時には二人以上を推奨されているのか、何故……アズサとツバメは外に出ようとはしないのか、その疑問に思いを巡らしているのは今や浦和ハナコ一人だ。

 

「ツバメさん、聞きたいことがあるんです、いいです?」

 

「……」

 

 浦和ハナコはこの3日、少しずつ城島ツバメを観察し、その為人を掴みつつあった。この無言は肯定、先を促してもいる……否というならば言葉に出すのだ。

 

「今日の昼のことです、マリーちゃんと一緒に、正義実現委員会の生徒がいらっしゃいましたね」

 

「それが?」

 

「選抜中隊の方ですよね? コハルちゃんのお友達の」

 

「大内やね」

 

「周囲を警戒している様子でしたね、何故でしょう?」

 

「……」

 

「ツバメさん、一体誰に「見られたか」を、彼女に聞いたのですか?」

 

 

 それは昼、伊落マリーが白洲アズサを訪ね、この校舎にやってきた時の話であった。一人の正実生徒が同行していたのである。その生徒の名は大内、正義実現委員会・選抜中隊の隊長にして一年生……下江コハルのクラスメイトだ。

 

 伊落マリー来訪の要件は、長い合宿のため、足りない生活雑貨があるだろうと気を使ってのことだった。転校に際したアズサの身元引受人はシスターフッドの長、歌住サクラコであり。トリニティでの暮らしの支援をしているのもシスターフッドである。

 

 これ自体は特に違和感はない。シスターフッドの活動には不良生徒の更生活動や、転校支援もある。心身を清め、改めてトリニティの生徒として再出発する元スケバンや元ヘルメット団の生徒、他の学校から転校してきた生徒達は慣れない環境に戸惑いがちなので支援が必須。

 

 桐藤ナギサはここにも手を付けた。歌住サクラコの快い、そして強い協力の元、転入・転校支援を行ったのである。キヴォトスでは所属学園の変更は一大事だ、学籍が人権に等しいこの地では、よほどのことがなければ実施されないのが常……転校という行為自体が難しいという面が大いにあった。

 

 安全な暮らし、平穏な日常を求めてトリニティへの転校を望む生徒は多いがハードルは高い、しかし真剣にそれを越えようとする者には手厚いのだ。自治区が自治能力を喪失して学園が解散……廃校となり、学籍を失ってしまった生徒達への支援も行われている。こんなことまでしているから、連邦生徒会には何も期待していない、ナギサ様こそが……と公言するような小勢力が多いのだ。

 

 これほど手厚い受け入れ体制が整っている学園はトリニティ以外になかった。去年の末から増え始めた転校生達の存在は、トリニティがこのキヴォトスでいかに安定した自治区であるかを物語っている。

 

 アズサもそういった生徒の一人だとハナコは思っていた、言動が物騒なのは、もしかしたら元SRTの生徒なのかもしれないとも。ツバメと仲が良いのは、同じ闇の生徒だから……という推測はあった。

 

 だからマリーは判る。しかし、正実選抜中隊の隊長、大内が同行してくるのは何故?

 

 彼女の来訪名目はコハルの様子を見に、であったが。マリーは彼女と合流したのが……来たことのない旧校舎への道に迷った、藪道の中であるという。

 

 誰も来ないだろう藪道の中に、彼女は何故いたのか? 正実選抜部隊の生徒が道に迷う? ありえない、ならばどうしてそんな場所に。

 

 何かがおかしい、それは……ハナコがあえて置き忘れておいたスマホのマイクが記録した。ツバメと大内の会話でより鮮明になる。ツバメは帰り際の大内に対して、靴箱の影で小さく……こう言った「見られたか?」と。

 

 コハルと再会しての仲の良い闊達な雰囲気とは一転して、緊張した様子の大内は「不明です、警戒範囲に「目」は確認できませんでした。すみません総長、姿を見せてしまい」と詫び。ツバメは「かまわない、伊落が怪我をするかもしれなかった。友達を見捨てるのは違うだろ、それでいいんだ、ウチ」と、応えている。

 

 特戦研の長と部下の会話だ、意図しない事態によって彼女は同行してきたことを示している。怪我をするかもしれなかったという発言と合わせて、ハナコは……この校舎が正実選抜隊の警戒下にあり、足を踏み入れてはいけない場所にはトラップがしかけられているのだろうことも悟った。

 

 落第生の脱走防止というには、あまりにも本気すぎる警戒態勢だ。

 

 

「答えることはできない」

 

「……ティーパーティーの命令ですか?」

 

「そうなる」

 

 比類ない忠誠を誇る彼女達が、主人から与えられた秘密を明かすことは絶対にない。しかし、答えられないということは、相応の秘密があるのだと言っているようなもの。それでも問いに無言ではなく、言葉で応えたのは、ツバメのハナコに対しての誠実さだ。

 

 しかし、その誠実さを利用すれば大体の背景を探ることが出来る。直接の答えを聞かずとも、答えてくれる内容から探れば良い……相手の誠実さに付け込む自身の在りように、ハナコは自己嫌悪をしつつ、慎重に……そして明確に探りを入れていく。

 

 ハナコの頭脳は優秀にすぎた、断片的な情報があれば全体を推測することは容易いのだ。ツバメは大内を通して、ハナコに情報を与えすぎたと言える。

 

 この警戒は内側ではなく、外側から何かがやってくることを警戒するもの。単独行動を避け、外に出ようとしない転校生のアズサ。アズサが時折口にする古語……をよく知る、それを彼女に教えただろう百合園セイアが面会謝絶の入院に入り、一人首長を欠いたティーパーティーの絡んだ案件……補習授業部は4人以上で設立されるという制度の制限。

 

 ハナコの中で、様々な要素が組み立てられていく。導き出された、この場所に自分達が隔離された理由。ティーパーティーの意図……。陰謀の只中にあるのではないかという恐れ、困惑。

 

「アズサちゃんと一緒に、補習部に入る生徒が誰かを決めたのは……どなたですか? 補習対象は多かったと思いますけど」

 

 そう、補習対象生徒は多い。他にも転入組で落第した生徒は居た……補習授業部が真実転入生支援なら、その生徒達も入って然るべきなのだ。しかし彼女達は選ばれず、この5人が選ばれた。成績順ではない、意図がある。

 

「藤沢さん」

 

 総務の長……ティーパーティー人事部ではない? 最上位生徒が直接の選定とは一体どういうことなのか。人事部の関与が無いか、それを探るには……。

 

「ツバメさん、私がもし、ティーパーティーに入ると言えば……この補習部から皆を出してもらえたりしますか? そういう話、あったりしました?」

 

「? 茶会にそんな特権ないぞ、私達だってブチ込まれてる」

 

「それも、そうですね……」

 

 そういう意味ではないのだが、ツバメは心底理解していないようなので、この線はやはり薄いともハナコは見た。去年のトリニティならそれぐらいのことはしてきた筈だ……条件を付け、逃げ場をなくし、囲い込む。権力の使い方だ……。

 

 しかし今、トリニティ最大の権力者、絶対君主は……その権力を振りかざすような事は無いに等しかった。それに……そんな事をする方ならば、彼女達は絶対に従わないという、ある種の確信、信頼がハナコにはあった。

 

 ……一年で、本当に様変わりしたものだと思う。

 

「ハナコ。たぶんもう、察してしまったんだろうが……」

 

「ええ」

 

「ハナコに口で勝てるとは思ってなかったが、失態だな」

 

 それは貴女が誠実であってくれたから……と、浦和ハナコは口には出さなかった。

 

「何者かが、ここを……アズサちゃんを狙ってくるということですか?」

 

「可能性はある」

 

「補習授業部は、囮……ですか?」

 

「違う」

 

 それは強い否定だった。間髪も入れず、城島ツバメは明確に、否定する。

 堅固な意思を感じさせる……低く、そしてよく通る声であった。

 

「私は、何を求められて?」

 

「補習の合格だけだ」

 

「本当に?」

 

「ああ」

 

「私、嫌になるぐらい……色々と部活入りに声をかけられるんです。てっきり、そういうことなのかと思っちゃいました」

 

「? 大変やね、殴っとこうか?」

 

「い、いえ、そういうのはいいです……」

 

 炭沢リクと全く同じ反応なので、やっぱり12使徒だなとハナコは思った。

 

「ヒフミちゃんとコハルちゃんは、危ないことにはならないんですね?」

 

「ハナコ、お前もだ」

 

「………」

 

「そしてアズサも、だから私が来たんだ」

 

 12使徒の長が来たという意味、言葉の重さがあった。

 

 ハナコは深く息を吸う、そして吐く。腕を組み、壁にもたれながら窓の外の夜を見ているツバメの横顔を覗き込み、距離を縮め……出会ってから初めて、本音の言葉を口にした。

 

「私、ツバメちゃんとも、仲良くしたいと思ってるんです」

 

「私もだ」

 





・何が起きてんだよ? 何が始まろうとしてるんだよ? わかんねぇけど走っていくしかねぇ、それが先生ってもんだろ、そうだろカヤちゃん!!そうなのだ!!先生!!(イマジナリーカヤちゃん)
「ほんげぇぇぇぇ!? この3人合わせても100点ない!? ツバメ!! 点数下がってる!!」(補習計画修正不可避)

・ダチョウを拾ったせいで、山程やってくる難題で心身すり減ってる、キヴォトスの未来を一身に背負わされていると言っても過言でない聖人、桐藤ナギサ様17歳
「……ワ…ァ……」(SRTにスパイが居た=それですんでるわけがない事に心を痛める姿)

・私が桐藤派です、クーしちゃおっかなゲージ(45%→65%)が今黄色く点灯してる、2年半ばあたりから誰かに脳焼きされて仕事に本気になったので結構信用を稼いでる連邦生徒会防衛室長、不知火カヤちゃんさん17歳
「…………ユキノさんを呼んでください」(瞳孔が開き始めている)

・闇の王ファウストこと隠蔽が完璧なダークアウトロー、実は闇のカードバトル編という遊戯王みたいな、命と尊厳のかかった劇場版ブルーアーカイブを通過済みの阿慈谷ヒフミ16歳
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」(補習計画修正不可避)

・転校生はテロリスト!!わりとマジで外患誘致なので完全に事態を秘さないと立場がヤバい、茶会の権力全身全霊で保護されてる白洲アズサ16歳
「なんてことだ……点数が下がった、これは一体」(ヒント・訓練時間)

・正義実現委員会はわりとガチでエリートであり、入部できた段階で既にカカシではない、それはそれとしてクラスでも部でもマスコットとしてもみくちゃに可愛がられている系の小鳥、下江コハル15歳
「わかんないわかんない!! なんでぇー!?」(ヒント・訓練時間)

・頭よすぎる枠として、一部のダチョウ頭共以外から僅かに距離を感じる本校での暮らしより気楽で、放課後だいたいあった勧誘お茶会もなく、アホ達と只管良い空気吸ってる浦和フラワー16歳
「……ふふ」(やや不穏な空気)

・突然ハナコにちゃんづけされ始めたことに特に困惑しない、空気を察するということができないタイプの鳥類、模試点数59→30点の城島ダチョウ16歳
「? どうしたんだよハナコ」(ハナコの話を部分的に理解してない)

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