トリニティの12使徒   作:椎名丸

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《三次創作》トリニティの12使徒 番外編 作者ねねと様

驚くべきことに三次創作をしてくださる方が、ありがとうございます。
時間軸が本編の未来なのでIFという形になっておりますが。
こちらも頑張っていつか至る未来へたどり着かねばなりませんね、感謝。



14・キヴォトス研究会サークル発表会

 

 夜の闇、道を照らす街灯の明かり。

 

 合宿を抜け出す生徒5人の秘密の夜遊び、という体の先生随伴の青春の一コマ。そんな補習授業部の前に現れたのは、トリニティの中心部から外れているとはいえ……まさに招かれざる来訪者。

 

「あら、こんばんわ。お久しぶりですわね、ツバメさん。それに先生まで、ごきげんよう」

 

 その名も、美食研究会。

 

 ゛こんばんは、ハルナ、皆もいるんだね。゛

 

「暫くぶりか、ハルナ。それにジュンコ、アカリ、イズミ」

 

「ウワーーッ!? ツバメ!? なんでぇぇぇー補習じゃなかったの!?」

 

「あらぁ……」「あ、ツバメと先生ーこんばんわー!!」

 

「補習授業部収監と聞いていましたけれど、脱獄して夜の街とは、おやりになりますわね」

 

「だ、脱……やっぱり悪いことしてる感ありすぎるよぉ……!!」

 

「あはは……ま、まあ先生もいらっしゃいますし、ね?」

 

「ワクワクしますね、アズサちゃん」「うん、新鮮だ。ありがとうハナコ」

 

 ハナコの「全員でなら、アズサちゃんも連れて補習校舎の外へ行けますよね?」という発案で補習授業部は青春の一夜を求めて夜の街に繰り出していた。尚、先生はわりとなし崩しに連れ出された保護者である。

 

 ハナコも先生も補習部設立の背景を知ったものの、詳細を知らないハナコの方はさほど危険視はしていない。ツバメが守ると言ったのだ、それ以上に信用すべきものはないし、実際実力・実績からして大言などではない……12使徒に勝てる可能性があるのは、あの空崎ヒナだけだ。

 

 ならば、ハナコにとって補習授業部は今求めるべき青春の場。逃げ出し、狙われなくてはいけない程に制限の多い場所から来たという、慣れないアズサにもそれを味わって欲しいし。気を配ってくれるヒフミと、可愛らしいコハルとも楽しみたい。そしてツバメと「ちょっと悪いこと」をしてみたいという、優等生にありがちの……慎ましいハジけの発露がこの夜遊びだ。

 

 そのティーパーティー制服を着ている立場上トップエリートの筈の落第生徒は……普通に夜襲とかしまくるし、夜討ち朝駆けは基本なので、普段からちょっと慎ましいとか、悪いとかの次元超えてるのだが。

 

 ハナコは去年まで品行方正の優等生だった、キヴォトスで夜に出歩くのはあまり推奨されない理由を、本質的に理解していなかった……ので。

 

「ムグーッ!?」

 

「フウカ、今日もか。連れて来るのは良いが、毎度ふん縛るのはよしてやんなよ」「ムグ!? ムグーッ!? ンンーッ!!」

 

 こういう光景に出くわす、キヴォトスの夜は大体こんなもんである。

 

 平和なトリニティに暮らしていると感覚が麻痺してくるが……12使徒を用いて「整地」が実行された(ロードローラーが暴走したとも言う)桐藤ナギサの翼下に無い世界とは、本来こういうもの。ハナコもまた、その恩恵に与っていた生徒の一人であった。

 

「ムグゥー!!」(ツバメーッ!!)

 

 囚われの愛清フウカは全力で「良いわけあるかクソボケ!!」と叫んだが、口をテープで塞がれているので魂の叫びは誰にも伝わることはなく。城島ツバメもフウカは今日も元気だな、程度の感覚で流した。

 

 特殊戦研究会を前身とする12使徒は元々、特殊戦を追求する趣味の部。美食を追求する趣味の部である美食研究会とは、共に研究会を冠する盟友。

 

 いかなる困難も乗り越え、艱難辛苦に耐え、最終的に暴力を用いてでも美食を追求するハルナ達とは趣味友として共感するところも多々ある。力による正義か、美食か……だ、付き合いもそれなりに長い。

 

 愛清フウカが拉致されてる光景は見慣れているし、給食部部長は食を追求する部の長である筈、よってツバメ達12使徒の中では……フウカは美食研のオブザーバー枠なのだ。なんだかんだ言いつつ、ハルナ達に付き合ってしまう、フウカの人の良さが悲しいすれ違いを生んでいた。

 

「ツバメ、知り合いか?」

 

「飯友兼、テロリストやね」

 

「それ、兼用できる概念なんです……?」

 

「? ゲヘナじゃよくある。ハナコはゲヘナに知り合い居ないのか?」

 

「トリニティ生の多くは、そう居ないと思いますよ……」

 

「そうか? ヒフミは結構いたと思うが」

 

「い、いやぁ……そ、そんなには……」

 

 モモフレンズ愛好家の友もいれば、表沙汰にはできないゲームのライバルもいたりする。阿慈谷ヒフミの交友関係は学園の外にも広いが、できるだけ秘密にしなければいけない関係もあったりするのだ。

 

「って!? び、美食研究会!? 指名手配犯じゃない!!」

 

 ゛ハルナ、こんな遅くにどうしたの?。゛

 

「ゴールドマグロ、あれを頂きに参りましたの。ですがちょっと警戒が厳重すぎて困ってしまいますね、正義実現委員会の生徒がこうもいては、正面突破も迷うところです」

 

 ハルナとしては、水族館を爆破してゴールドマグロを抱えて脱出……といきたいところだったのだが。トリニティの自治区に入った瞬間から肌を刺す圧力を感じ、攻めあぐねていた。

 

 正義実現委員会の学兵がそれとわからぬよう、驚くほどの密度で巡回している。だけではなく。誰かに見られている気配が常にあった、大方特戦研……選抜中隊だろうと踏んだハルナであったが、何時にない事態と言える。

 

 選抜隊のメンバーとは面識があるので、普段ならこうも警戒されたりはしないのだ。そもそも美食チャレンジを実行する段になると初手襲撃してくる……全力で頑張れば倒せなくもないので、美食へのモチベーションが上がるよきハードルでもあるが。

 

 ただ、流石の美食研もここまでマークされると陽動のしようがなく、夜の闇に溶け込んだ黒制服の気配の多さからして……このままではゴールドマグロの奪取に成算がない、が。それで諦めるようでは美食研ではない、よって別のアプローチを模索していたところであった。

 

「ゴールドマグロ? 水族館のか」

 

「金の魚? 変わった生き物もいるんだな、沈まないか?」

 

「アズサちゃん!? 本当に金なわけじゃないです!!」

 

 アリウスには海がないので、アズサのマグロへの理解度は0だった。

 

「水面で金色に輝くことからそう呼ばれていますの。実際に金色なのではなく、体表の微細な凹凸によってできる反射、光の加減で金色に見えるそうですわね。普段は深海に暮らし、早朝のみ海面にやってきます。回遊魚の仲間で体長はおおよそ2から4メートル、500キロから1トンほどになる赤身の希少魚ですわ」

 

「なるほど……勉強になる、ありがとう」「教えてくれるんですねぇ!?」

 

「いえいえ、美食研たるもの素材のことを学ばねば。それを広く紹介するのも活動の1つです、ちなみにお刺身が一番美味と伺っております、是非とも試したいところですわね」

 

「それはいいんですけどっ、水族館襲撃まですることあります!?」

 

 ゛えっ!? 襲撃予定だったの!?。゛

 

「先生、美食は時に力で勝ち取るものですわ」

 

 ゛そ、そうかなぁ!?。゛

 

 ヒフミと先生は補習部設立からずっと突っ込みっぱなしだ、出くわす人間が全員ハジけている。その上更にゲヘナから登場の連中もこの有り様、補習部部長と部活顧問は過酷な役職であった。

 

「そう、あれは貴重な食材ですのよ。見世物にするなんてもったいない……そう思いませんこと?」

 

「一理ある」

 

「あるんですか!?」「あるんだ!?」「ツバメちゃん……」

 

 野菜に一家言ある城島ツバメの食への姿勢は、どちらかというと黒舘ハルナ寄りだった。しかしそれはそれ、これはこれである。12使徒はトリニティでの狼藉を許さない、テロ準備の答えは1つ。暴力執行あるのみだ。

 

「ハルナ、わかってると思うが」

 

「ええ、ある時は食卓を共に、またある時は追い追われる仲。激しい争いの果てに掴み取る味もまた、格別の美味……今宵はお一人ですわね。この勝負、勝たせて頂きますわ」

 

「姉妹はいないが、一人ではないな」

 

「戦いか、腕がなる」

 

 白洲アズサは勿論、下江コハルもいる。来たるべき敵ならば一人で倒してしまうところだが、相手は勝手知ったる美食研……独特の美学で戦う彼女達は、ある意味で訓練に最適だ。加減も出来、付き合いもよく、実力も申し分ない。ツバメはこれをコハルの実戦訓練と決めた。

 

「コハルはアズサと組め、後衛とする。アズサの動きを見て学ぶんだ。美食は手強い、油断はするな。訓練を思い出せ、作戦目標は美食研の撃破、人質の救出とする」

 

「え、と、は、はい!!」「よろしく、コハル」

 

「特戦研の子ではありませんのね。新しい後輩さんですの?」

 

「ああ、今教練中。未熟な学兵を当てるのは、美食の求道へ礼を失するかもしれんが、許せよ」

 

「かまいませんわ。ですが……わたくしは貴女と踊りたいと思います。ツバメさん、お付き合いくださいませんか? 暫くご無沙汰ですものね。わたくしが勝てばマグロはお刺身にして共に、貴女が勝てば……まだ開いている良いところがあります、遅めの夕飯といたしましょう」

 

「ああ、今夜は飯が美味いで」

 

「ふふ……ええ、ほんとうに」

 

「ツバメちゃん……あの方とは、以前からこんな感じで?」

 

 名だたるテロリストと仲が良さそうなツバメの様子に、ハナコは訝しみつつ尋ねる。これから殴り合おうかという会話ではない、流石にこの仲の良さは気になるどころではなかった。

 

 しかも食事の誘いに「今夜は飯がうまいで」だ……そんな台詞聞いたことがない上、普段殆ど動かない表情に喜色があるのだ。

 

「そう、中坊の頃からだから、もう3年になる」

 

「そうですか……」

 

「? ハナコ、先生と下がっていてくれ」

 

 ゛いやいやいや、別に戦わなくてよくない!?。゛

 

「いけませんわ先生、美食への道は常に舗装されているとは限りません、時に困難な道も選ばなければ……真の美食、勝ち取らねば研究会の名折れというもの」

 

「先生、研究会とはそういうものなんだ」

 

 ゛厳しい世界だなぁ!?。゛

 

 

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「私も呼んでくれればよかったのに」

 

「すまないヒナ、流石にもう済ませてるかと思った。ああ……そうか、イトとは何時頃?」

 

「あの子と夜にお茶をするのは、大体同じ時間帯よ。その日は何時も夕食を軽めにしてる、日が変わった後、自治区に戻るの」

 

「覚えておこう、またの機会に」

 

「ええ」

 

 ハルナ達美食研究会4人をボッコボコにして惨敗させ、美食研推薦、真夜中の洋食屋にて遅めの夕食を共に済ませた一同。洋食屋の主人がぶっ潰されたハルナ達の様子に全く動じることはなく、全員ズタズタにされつつも平然とビーフシチューを堪能する美食研に……補習部の面々はドン引きしつつも、流石美食推薦の店……と揃って心底堪能した。

 

 そして楽しく食後を過ごし、ご馳走様でしたで解散……で済ませて良い被害(交差点・および周辺ビル倒壊)じゃないので。それはそれ、これはこれ。美食の4人+1をゲヘナ風紀委員会への引き渡しに、自治区境界まで来ていた。

 

 連絡してやってきた、ゲヘナ側の迎えはなんと空崎ヒナ、風紀委員長その人である。

 

「それではまた、ごきげんよう」

 

「ああ」

 

「またねー!」「ムグゥーッ!?」(なんで私また口ふさがれてるの!? なんで!?)

 

「今度は普通に来てくださいね……」

 

「ゲヘナは活気があるんだな」「ええ……」

 

 ゛活気……で、済ませていいのかなぁ……。゛

 

 帰りのタクシーに乗る程度の感覚で護送車に乗り込んでいく美食研+1の面々は、それはもう骨折を含むボッコボコなのだが、ゲヘナ側は何ら気にした様子はない。挙げ句、ヒナに同行してきた救急医学部の氷室セナはひと目見て「軽傷ですね、死体には程遠い」等と、のたまう始末。

 

 ツバメとガチったハルナとアカリは骨折のお祭りだし、アカリにいたっては左腕関節が逆方向に向いたままだが、軽傷? 頭おかしいんか? と、ハナコとコハルは思った。

 

 ゲヘナは初めてか? 肩の力抜けよ……というツバメとヒフミはゲヘナに慣れきっているし、修羅のアリウス出身のアズサも動じない、アズサは駝鳥の暴虐に早くも順応してきていた。しかしハナコとコハルはドン引きだ。

 

 ちなみにそんなコハルは連携してジュンコ・イズミペアと、アズサと共に普通に戦ってしっかり勝った。着実に知力を暴力に変換しつつあるコハルの成長率は目覚ましく、その結果にツバメは満足し、ヒフミと先生は頭が痛い。

 

 ボッコボコのハルナ達の様子に先生は当初すごく心配したものの、折れて曲がった指を自分で掴んで向きを戻してから、優雅にお箸を平然と使ってくるハルナの姿に、キヴォトスの研究会ほんとハンパねぇな……という顔で考えるのをやめ、全員の簡単な手当をしていた。キヴォトス赴任の先生たる者、救急キットを持つのは嗜みである。

 

 ゲヘナでいう重症とは「動かなくなって」からを指す。ヒナの拳を受ければ誰でもそうなる……というわかりやすい基準があるので、動けているならゲヘナでは軽傷だし、治療の必要があるかと言うと「消毒と湿布ぐらいしてもらえば?」というレベルに過ぎない。一般生徒の感覚でこれなので、いかに修羅の土地かがわかろうものだ。

 

 トリニティでいう救護とは、ゲヘナのそれに比べればかなり真っ当な治療であった。ただ、トリニティ内部では引かれ気味の救護騎士団団長、蒼森ミネの行う暴力的救護はゲヘナでは日常であるため、むしろこの面ではゲヘナ側からの理解度が高い。価値観を同じくする者がいるというのは相互理解と連帯を生む。

 

「……ツバメ。少しいいかしら」

 

「ああ」

 

「その後は何か?」

 

 手招きされた車の影で、二人が車体に寄りかかり囁き合う。

 

 ヒナは風紀委員長として、トリニティで起きようとしている事は既に把握していた。連邦生徒会での一件もそう、油断なく連携している両校の組織は連絡を密にしている。ただ不気味なのは、その両校の情報部が特に何もつかめていないという事だ。

 

 しかしヒナは特に不安視はしていない、何故なら……自分と12人の盟友が、最強の生物であるという自覚と自負があるのだ。

 

「特に動きはない」

 

「そう……何かあったら呼んで、走っていくわ」

 

「助かる」

 

 キヴォトス全土の者が恐怖に凍りつく意思表明であった。アリウスの者達はそれを知らないが、12使徒のうち一人と風紀委員長は驚くほど親密だし、残る11人の使徒とも関係は良好だ。両校の最大戦力が仲良く手を取り合う様など想像もできないことだろう……だがこれが現実。

 

「また、一緒に戦いたいものね」

 

「ああ、イトも喜ぶ」

 

 何かあれば走っていく……ヒナのそれはリップサービスなどではない、本当に走ってくる。車よりずっと速いので全速ならゲヘナからトリニティまで30分以内で到着してしまうし、弾薬無限のマシンガンで弾切れの概念はなく、体力は12使徒12人分。実行されたことがないので世間は気づいてないが、友人の羽根をモフって吸っていれば一週間無休も可能だった。

 

「もう、あれから結構経つのね」

 

「聖夜か、今年は静かに祝いたいな」

 

「そうね、でも……もしも何か起きるなら、今度は最初から13人よ」

 

「去年はクリスマス会はできなかった、初手13人なら片付けて聖夜を祝うに十分余裕ができそうやね、ハルナに場所取りをしてもらうのも良いな」

 

「いい考えだわ」

 

 真面目で、遊びの余裕もなく……ただ眼の前に出てきた仕事を片付けるワーカーホリック、どこか惰性的だった空崎ヒナは過去の話。13人で暴虐の限りを尽くしたあの夜に、ヒナの中である種のタガが外れてしまっていた。

 

 今まで一度もなかった、全身全霊を賭けて戦うという爽快感。生の充実を感じる暴力の行使、死力以上を尽くした上で尚打倒できない、真実対等と言える12人の存在。

 

 そんな強敵達は……ただ弱き誰かのため、キヴォトスの平和のために戦うという、今まで一度も会ったことのない尊い志を堂々と宣言し、実行する。認めた相手に善悪問わずの敬意を、そしてわだかまりなど欠片も持たない、あまりに清々しいその気質。

 

 ゲヘナにあるべき力の体現者でありながら、トリニティというそぐわぬ世界に生きるというのに……なんと気持ちの良い娘達か。

 

 その身にあまりある力を宿しつつも、求められる仕事に追われ、内に鬱屈したものを溜め込んだまま、いつか卒業の日を迎える筈だった空崎ヒナという生徒は……全力で殴ったら人は死んでしまうだろうからと、常に窮屈に自分を押し込めて生きてきた空崎ヒナは。

 

 殴っても死なない鳥類を全力でぶん殴って、お返しに魂が軋むほどの対等な力で殴り返された結果……ハジけてしまったのだ。

 

 真の力を開放し、世に知らしめたヒナは……無敵に至った。

 

 学外の一般生徒達に怪獣を見る目で遠巻きに恐れられるのは悲しいが、対等な友人がいるし。ゲヘナの生徒の多くは、そんなヒナに対しても全く気にする様子もなく問題を起こし続けている。居心地だけが劇的に改善されたのだ。

 

 トリニティならばハナコのごとく学友との距離を感じてしまい、少し辛い思いをしたかもしれなかったが……生徒がほぼ全員ハジけているゲヘナでは、強者は単に尊敬されるだけなので、突き抜けた力を見せつけるデメリットが無い。

 

 聖夜の想像を絶する結果に万魔殿も即静かになり。今やあらゆる「悪」がヒナを見れば、いや見なくとも恐怖で震え上がって這いつくばり、命乞いをするという……人生最大の成功体験を「全力で力を振るった」ことで得たヒナは、このキヴォトス最強にして無敵の生物だった。

 

 圧倒的な、ただ圧倒的な個人。絶対的最強存在、空崎ヒナの答えは1つ。

 何が来てもぶん殴って、何もかもぶっ潰してしまえば良い。

 何事も暴力で解決するのが一番だ……ヒナに迷いはなかった。

 

 だから、トリニティを……つまり同盟予定のゲヘナを狙っていることになる、アリウス某とその裏にいる誰かは、空崎ヒナにとっても全力でぶん殴るべき相手となった。

 

 アリウスを支配するマダムなる人物はまだ知る由もなかったが、キヴォトス最強の大怪獣が心の中で……自身を狙ってシュッシュッと可愛らしい感じで小動物みたいなイメージ映像の、命が狩り取られる威力のシャドーボクシングをしていたりした。ちなみに12使徒でも平均8秒ほど気絶する威力なので、一般成人女性のマダムがくらうと死ぬ。

 

「条約前……ETOが設立される前に来るのかしら」

 

「そう思っている、全員捕縛してナギサ様の慈悲に漬ける予定」

 

「本当に、優しい方ね」

 

「ああ」

 

 ヒナの中に、彼女達の主、桐藤ナギサへの羨ましさがあった。望むならば12人がゲヘナに居てくれたら……というのが、ヒナの中に秘めた欲である。理想……夢だ。それは叶わない。

 

 しかしETOが発足された、その暁には……。

 

「……日が変わるわ、戻りましょうか。皆にもよろしく、おやすみなさいツバメ」

 

「ん、おやすみヒナ」

 

 補習授業部の最初の夜遊びはこうして終わった。

 

 12使徒案件であるし被害は軽微……だったので、正実の警邏部(+監視の選抜小隊)は待機中の即応部を呼ばなかったし、委員会への報告も事務的であった。この程度のトラブルで委員会はもちろん茶会幹部の貴重な睡眠時間を削る必要はない、そういう判断ができるだけの教育がされている。そんな正実生徒達は正しく精鋭だった。

 

 翌朝知らせを聞いたティーパーティー総務は何事もなかったかのように破損区画の修繕決済の書類を仕上げると、全く触れずに別件の仕事にとりかかった。訓練されすぎた茶会総務はこの程度では何も感じない。朝から晩まで内外の陳情がやってくる、トリニティ・ティーパーティーはそんなに暇ではないのだ。

 

 

 ----------------------------------

 

 

 合宿7日目の昼下がり、まだ日は高い。そんな時間にグラウンドのベンチに座った先生は、結構憔悴していた。いうまでもなく補習対象生徒の成績が普通に芳しくないためである。

 

 ヒフミはいい、ちょっとぶっ飛んだ所が……いや試験サボりはちょっとか?……所がある生徒だが、成績自体は良い。全く問題ないし、部長として先生と一緒に過去問から試験範囲のあれこれやらと、他の面々に教えたり頼もしいことこの上ない。勢いに押され気味ではあるものの、ツバメで慣れているのかアズサとコハルを御すのも上手い。気弱に見えるがモチベーターなのだ。

 

 ハナコ……は、意図的な落第点を狙っているだけで成績は最高だった。補習部の事情を知ったらしく、3回目の試験で合格すればいいだけであると認識しているからか、模試の点数は100で、受ける予定の第二回試験では59点を狙いますと宣言してきている。この補習合宿を最大限引き延ばそうという意思を感じた……逆に難しい点数を狙うあたり、完全に遊んでいた。ただ講師としても最高レベルなので、ヒフミと並んで二本柱となる。

 

 問題は3匹の鳥類。

 

 アズサ……は、まだいい。一度点数が下がったが、持ち直してからは右肩上がりだ。ゆっくりとではあるが、着実に点数が上がっている。問題児の中では優等生であると言える。体育枠の特殊訓練を減らせば顕著に学習効果が上昇しているので、きっと……合格できる。でもそれは紙一重ではないかなぁ……。

 

 ツバメは……点数下がり過ぎでは? どうしたのこれ? 59から30で、42点に上がったと思ったらまた30点!! 12使徒の中では一番頭が「マシ」なほうだと評判を聞いていたので、この結果には先生も驚愕だった。同時に、ツバメでこれなら他の11人がどうやって合格したのか……全てを察してしまう。道理で他の12使徒が全員、護衛ついでにナギサとミカ達ティーパーティーに特別補講授業されている筈だった。

 

 そして……コハル……うわぁ……これどうしよう。

 

 先生は固く誓った、特殊訓練はお休みにしようと。やっぱだめだよ、身体と頭同時に使わせるようなことしてたら……特戦の訓練する度に色々授業内容抜け落ちてる気がするので、もうこれは絶対だった。

 

 3回試験までには本気出すとかそういうのはだめです、ということで先生は3人の体育の時間も座学に変更したものの……何故かツバメの点数が下がった。なんでだよ。

 

 もしかして、この子戦ってる時のほうが頭の回転いいの? という、気づいてはいけないことに気づいてしまったので。そういえばキリコもそんな感じだったなと思った先生は、ツバメだけグラウンドで訓練させながら単語覚えさせたら上手くいった、マジかよ。

 

 補習授業部はステージクリアに必要なギミックが多彩だった。これもうリアル・テイルズサガクロニクルだろ……ゲーム開発部の姿が脳裏に浮かんだ先生だった。

 

 そんなベンチで項垂れている先生の視界に、人影が差す。生徒のそれとはシルエットが違う、細く長い……それは男性の。

 

「クックックッ、こんにちは先生。随分とお疲れのようですね」

 

 ゛黒服!?。゛

 

 なんと黒服だった。先生は正直驚いてしまう、というのも……どう考えても怪しい秘密結社の人間な空気だったので、雲一つ無い青空の、それも結構汗ばんでしまうような太陽の下で出くわすような雰囲気の存在ではない。

 

 ゛え? 今夜じゃないよね? なんでここに? どうしてトリニティに?。゛

 

 アビドスの一件でバチバチだったのを一瞬忘れるぐらいには驚いて、普通に尋ねてしまう。もっとこう……薄暗い場所にいるようなイメージの人物なので、晴れ渡る空の下にいると違和感がすごい。

 

「クックックッ、先生……私は夜でないと活動しないということはありませんよ。仕事は昼間にありますからね、今日は外回りです」

 

 ゛正業あるんだ!? 秘密結社なのに!?。゛

 

「先生、我々ゲマトリアは結社ではありますが特に秘密というわけではありません。クックックッ……巷では神秘研究所と呼ばれております、中々的を射た呼称で気に入っておりますよ、ああ、そう言えば失礼を……以前は名刺を渡しそびれておりました……どうぞ、先生」

 

 初遭遇の時、すんごい悪のオーラだしてたじゃん!! 外回りとかイメージ違いすぎるよ!! ゲマトリアって一体なんなの!? と先生は思ったが、現実として黒服は営業中だったし、名刺も出てきた。

 

 ゛あ、ども……。゛

 

 ゲマトリア神秘研究所??? 名前黒服って偽名じゃないんかい。

 

「クックックッ……本日は12使徒のツバメさんに用がありましてね。直接寄らせていただきましたクックックッ……依頼の品をお持ちしましてね、納品です」

 

 ゛納品!? 普通にビジネスパーソンすぎてイメージぶっこわれまくっていくよ!! そういうことできるならホシノにもちゃんと大人としてさぁ!!。゛

 

「クックックッ……先生、彼女は我々の夢、崇高のための大事な生徒。契約が結ばれたのなら「遵守」するつもりでおりましたとも、クックックッ……」

 

 ゛……ツバメに変な契約もちかけてないでしょうね?。゛

 

「12使徒の皆さんとは素晴らしい契約を結ばせていただいておりますよ、彼女達と出会ってから……我々ゲマトリアの研究は実に目覚ましい発展を遂げています」

 

 ゛黒服……!!。゛

 

「定期的に襲撃を受けますが、開けた崇高への道に比べれば些細な事」

 

 ゛……んん??。゛

 

「研究は進み、創作意欲も尽きること無く湧いてくる、実に……素晴らしい……クックックッ、クックックックッ!!」

 

 ゛なんか今ちょっとおかしいところなかった?。゛

 

 今定期的に襲撃されるとかなかった? 契約してて、物品売買してて納品までしてるのに? なにかおかしくない? 先生は疲れ気味だったのも手伝って、大分頭が働かなくなってきていた。でも聞き違いじゃないよな?

 

「黒おじ、来てたのか」

 

 気配0で突然かけられる声。

 

 城島ツバメが……黒服に対して妙に慣れた呼称で呼びかけ、ベンチに寄ってきた。相変わらず気配を消していると全くわからない、しかし黒服は驚いた様子もない、慣れているかのように。

 

「こんにちはツバメさん。少しばかりかかりましたが用意できましてね、お持ちしましたよ……「真実の羽根」追加の500発、寮にお届けしておきました、納品書はこちらに……クックックックッ」

 

「助かる、手間かけた。これなら奇跡の大爆発をお見舞いできるやね」

 

「良いデータを期待しておりますよ、マエストロとゴルコンダもね。アメミットはその後どうです? 意欲作でしたが」

 

「満足、正直ゲマ研の最高傑作やない?」

 

「おや、嬉しいですねぇ……クックックッ」

 

 ゛なんか気安くない??。゛

 

 あの凄い銃、ゲマトリアの販売品だったんだ……まって、定期的に襲撃してくる子達に武器弾薬作って渡してるの? ゲマトリアどうなってるの? おかしいよ……。

 

「? 中坊の頃からの付き合いだし……先生、黒おじと知り合いだった?」

 

 ゛うん、ちょっと前にね……。゛

 

「そう。ゲマ研はダークサイド大人だから、変な契約持ちかけられないようにね」

 

「クックックッ、契約はよく読まねばなりませんね、クックックッ」

 

 先生もう君たちのことよくわかんないよ、そんな感じであった。

 

「どうでしょう先生。これを機に、是非……我々と共に崇高を目指してみませんか? クックックッ」

 

「でたわね、黒おじのダークサイドへの誘い」

 

 ゛遠慮しとくね……。゛

 

「おや、残念ですね。クックックッ……ですが、近々我らゲマトリアの研究の成果を、貴女にお見せする機会が来るでしょう、是非……それをご覧になって頂きたい」

 

「奇跡のカーニバル、待ち遠しい」

 

「クックックッ……「真実の羽根」が「悪」に振るわれるその機会……是非見たい。楽しみにしておりますよ……クックックックッ……クックックッ……」

 

 ゛ツバメ、今撃ち込んでみたら?。゛

 

「おやおや……それもまた、興味深い」

 

 ゛いいんだ!?。゛

 

「先生、ゲマ研は皆こんなもんだよ。研究会だからね」

 

 研究会ってホントなんなんだろうねぇ!? 

 

 

 





研究会、それは遊びだけど全身全霊でやる趣味の道その集まり。

研ぎ澄まされたハジけの因子、熱意が今、熱き血潮となってメンバーを突き動かす。全力でアホをやるもよし、されど道に真摯たれ。それが研究会……成果は大事、されど過程も楽しまねば継続はならない、結果もついてこない。

それは少し昔の話……甘言で利用しようとした悪の秘密結社の大人に、荒くれのダチョウはボッコボコにしてぶっ潰した後……こう言った。

「趣味なら、修業(過程)も楽しまないと嘘だろ」

遅々と進まない研究にどこか苛立っていた大人達の、迷いが……晴れた。

美味い、今吸い込む空気が……!! 清々しいほどに!!
ゲマトリアの大人達は充実していた、やめられんでこんなん。

そんな高いテンションのおじさん達に、新参の女性サークル参加者は正直引いていた。元々有益な情報や資金を吸うために参加したとはいえ。テンションがウザい……しかも成果が大分出てるのが更にイラつく。

自分からは僅かな持ち出しで、結構な量の研究成果と資金を使い込めたマダム・ベアトリーチェは、こんなアホの男どもに付き合えるか。崇高に至って用が終わったらさっさと脱退しよ……とか思っていたが。

紳士のマエストロはともかく、黒服はしっかりしたワルのダークサイド男性であることを失念していたので……クックックックッ。


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