トリニティの12使徒   作:椎名丸

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力こそが正義を弱者を守ることで否定しながら。
力こそが正義を誰よりも暴力で体現する、そういう連中。



2・暴威の救い手

 

「アコ、送られてきた座標に到達、目標……と、違うものがいるわ」

 

「はい、委員長。カイザーの砲兵隊です……妙ですね、それに浮足立っています」

 

 ゲヘナ風紀委員長、空崎ヒナは部下を連れ、先生の求めに応え、アビドスの砂漠……そこに点在する砂に埋れた旧市街の一角に侵入していた。目的はカイザーPMCの補給を担う兵站・輸送部隊、そして後詰の予備部隊を「粉砕」すること……だが、その場所には、予備と思われる戦力に帯同して、砲兵隊がいる。

 

 砲兵など、少数のアビドスに向けられるような部隊ではない、過剰すぎるし意味もない。これらは明らかに「同格」の敵を迎え撃つために進出してきた存在だ。

 

 明らかに慌てて砲陣地を構築しているその様は、何かに追い立てられているよう。

 

「……そういうこと」

 

「委員長?」

 

 砲兵が慌てて前へ出てくるなど、対抗砲撃戦以外にないではないか。

 つまり彼らは既に撃たれているのだ、重砲を、誰かに。

 

 浮足立っているのは、対抗砲撃しようにも相手の座標を掴みそこねているから。でなければとっくに砲弾の応酬をしている、その理由にも、ヒナは心当たりがあった。「彼女達」の使うオスプレイは確か、強力なECMシステムを積んだ電子戦機……短時間なら単独でも、カイザーの対砲兵レーダーを役立たずの傘に貶められる。

 

 意識して耳をすませば、遠く、遠く、遥かな先に遠雷が聞こえてくるような気がする。晴天の砂漠に雷など、落ちはしない。なら、それは。

 

 こんなところへ榴弾砲を、それもたった5人の援護のために……砲兵隊ごと持ち込んでくる。そんな人間は……1人しか居ない。このキヴォトスにただ1人しか、空崎ヒナは知らなかった。

 

「……貴女の勝ちよ、小鳥遊ホシノ」

 

 小鳥遊ホシノ……苦しみに耐え、孤立に耐え、痛みに耐えに耐え忍び、ついに……掴んだのだ。逆転の目、救いの糸……それをようやく。勝手に、そして一方的に知っているだけの相手。彼女が今どんな状況なのか、何を思っているのか、想像でしかない。けれど……ただ、思う。

 

 彼女は賭けに勝ったのだと、青い空を見上げ、ただ思う。

 

 アビドスに、導き手の大人と、救いを運ぶ天使がやってきたのだ。

 

「アコ、彼女達が来ているわ」

 

「なっ!? いえ、そうですね……こんな状況を見過ごす方とも思えませんし」

「だとしたら送り込まれるのは当然、あの連中……でも砲兵隊まで繰り出すなんて、今までにない事です……随分とアビドスに肩入れしますね、あの方も」

 

「そうね」

 

 きっと、彼女達の主は知ったのだ。

 アビドスが受けた苦痛、恥辱、汚され続けた尊厳を。

 

 なら、力の行使を躊躇うような人物ではない。

 放たれる砲弾は、きっと彼女が顔には……決して出さない怒りそのもの。

 

「何人で来てるかな、今日は」

 

「おそらくですが……全員ですよ、イオリ」

 

 そうだろう、砲弾を叩き込むほどの怒りがあるのだとすれば、12人全員投入以外などありえない。電子戦機まで繰り出しているのだ。けして本音の言葉で語ることの無いという彼女の……何時にない感情の発露、それを感じ取れるかのようだとヒナは思った。

 

 そして12使徒……知らない仲では、ない。あの中で親しいと言えるのは……1人だけだけれど。全員と戦ったことだってある、クリスマスの事件……それは文字通りの死闘だった。けれど、だからこそ彼女達は……信頼に、足りうる。

 

 

「アコ、チナツと部隊を後詰に。イオリ……ついてきなさい、あれは潰す」

 

「「「はい!! 委員長!!」」」

 

「いくよ、手当たり次第に」

 

 

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「あはは……ほんとに、凄い」

 

 これならば、そう思わせるだけの力がそこにあった。

 

「わぁぁぁ!! ティーパーティー万歳!! ナギサ様万歳!!」

「12使徒!! 我らトリニティの力!! 栄光!!」

 

 地に落ち燃え上がるヘリの残骸と黒煙に、トリニティ砲学生達が猛る。

 

 カイザー戦闘ヘリ部隊は、一瞬で駆逐された。

 

「ティーポット」V-22オスプレイがECMジャミングを開始し、12使徒を空に放って上昇反転というヘリにはついていけない機動で退避してから、二十秒という僅かな間の出来事である。

 

 体当たりも厭わず突貫した攻撃ヘリを……彼女達はすれ違い様に小銃で落としていった、それだけのことだ。ドッグファイトなど無し、ただ横を通っただけのように、何でもないと言わんばかりにヘリは一航過の只中で瞬時に仕留められた。だが空中で、そんなことができる生徒がこのキヴォトスに一体何人いるだろう。

 

 阿慈谷ヒフミにとっては、その中によく知る級友がいるということが……どうにも不思議に感じられた。そして落ち行くヘリに一瞥もくれることなく、彼女達はカイザー基地へとグライダーのように風を踏み、飛び去っていく。

 

 砲声も止む。目標の歩兵部隊、その主力の殲滅を完了したのだ。

 砲兵隊の仕事は終わった、後はアビドスが先行した基地の内部に12使徒が突入すれば全てが終わる。後続の部隊はゲヘナの風紀委員会と、ゲヘナの別の部活と思われる4人組が抑えていた。砲兵の出番は本来、これで終わり。十分な戦果だと言える。

 

 遠く、揺らぐ砂漠と青空の向こう。基地は見えない、見えるような距離から砲兵は撃たないからだ。けれど彼女はその場所を、今戦っている人達のことを、思う。

 

 ヒフミは手の中の紙袋、5のナンバーが記された覆面を見る。これを被ってあの場所へ駆けつけることも一瞬考えたが、頭を振ってその選択肢を消した。

 

「ティーポット、聞こえますか? ゲヘナ風紀委員会の位置はまだわかりますか?」

 

< はい、ヒフミ様。捕捉し続けております、戦闘継続中のようです>

 

 ティーポットの観測機器は砲の着弾修正用でもある、その複数の望遠レンズは遠距離索敵でその全てを捉えていた。ゲヘナの風紀委員会が参戦し、作戦区域に突入していることは最初からわかっていて、追跡していた。

 

 やるべきだと、するべきだと、そう……ヒフミは思う。

 

「あの、援護って……できますか?」

 

「……ゲヘナを、でございますか?」

 

「は、はい、アビドスを、一緒に助けに来てくれてるんです……」

「その、だから……あの人達は味方、です」

 

 目のつり上がった砲術委員に少し、気圧されながらもヒフミは言い切った。

 

「……承りました。射撃用意!! ティーポット、目標の座標を送れ!!」

 

「あ、ありがとうございます!!」

 

「いえ、ナギサ様であれば……そうなさると、私も思います」

 

「そうですよね?」

 

「はい」

 

 ヒフミはゲヘナに嫌悪感は無い、無いというよりブラックマーケットの人間に比べれば脅威とは感じていないという方が正しかったが、単によく知らないだけの誰かを一括りに嫌うような感性を持ち得ない面もあった。自然的に出た、人を助けようという善意、その善意の発露が……思いがけない切っ掛けを紡いでいく。

 

 砲術委員長はゲヘナに対してトリニティの伝統らしい嫌悪感があった、煮え湯を飲まされたこともある……けれど、自らの敬愛する偉大なトリニティの首座にある方がもしこの場におられたら、慈愛をもって援護を命じただろうと、それを受け入れた。

 

 善意、そう……それは一つの慈愛。あの方の二つ名。

 

「エデン条約、ですか」

 

 彼女自身は上手くいくとは思っていない、だが……。

 

「こういうことの、積み重ねなのかもしれませんね」

 

 地位も家名もない、単なる一生徒に過ぎない阿慈谷ヒフミ。そんな彼女を何故あの方が側に置きたがるのか……砲術委員長は今、なんとなく理解できたような気がした。

 

 

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「アビドス本校じゃなくて、もう実質採掘基地だなんてね」

 

「結構潜ってきましたけど、ホシノ先輩はどこでしょう?」

 

 アビドスが突入した採掘基地、アビドスのかつての本校跡。砂に埋れたその姿が掘り出されるようにして基地に変わっている。地上こそゲートに覆われつつもまだ校舎の名残はそのままだったが、地下は人工物の通路が張り巡らされ、宛ら迷路や要塞のようであった。

 

 ゛皆、疲れはない? ゛

 

「はい、大丈夫です!!」

 

「ん、まだ弾薬もある、アヤネが運んでくれるから」

 

「先生が沢山用意してくださったからですよ、助かりました……」

「でもまさか、こんなに戦闘が長丁場になるだなんて」

 

 ゛大丈夫、きっともうすぐだよ ゛

 

「はい、便利屋68にゲヘナの風紀委員、それにヒフミさん達……トリニティ。そして……先生。多くの人達が助けてくれています、だからきっと、これで……」

 

 大きな通路、何度か潜ってきた巨大なゲート。そして待ち受けるのは……。

 

「!? 熱源反応!! 皆さん注意してください!!」

 

 現れるのは戦車、カイザータンクの一個小隊、そして囲むように歩兵多数。

 地下の隘路で戦車など常識では考えられない運用だ、しかしいざ対面してみれば対処は難しい、手練れのアビドス勢といえど何度もひやりとした……最も厚い装甲正面を向けられていては、切り込むにも穿つにも限度がある。

 

 左右のゲートからもカイザー兵が大量に現れ、4人と先生は僅かな間に囲まれた。

 

「ちょ、ちょっと!? また戦車!? 地下通路になんて物持ち込むのよ!?」

 

「ここは広いですもんね、それに大きな重機も運ぶレールがある……あれは!!」

 

 正面の戦車、その前に立っていた大柄の機械族男性をノノミが見つける。

 忘れる筈もない、アビドスをこれまで苦しめてきた首魁、その1人。

 

「!? カイザーの理事……」

 

「しつこい」

 

「対策委員会……これまで貴様らがずっと目障りだっ……何!? どうし」

 

 背後から爆発音……そして聞き慣れない甲高い音が、全員の耳に入る。

 これまでアビドスと先生が通ってきた通路を、背後から高速で追走してきた何者かの放つ、大地を駆ける音が地下空間に響く……高速、そして複数。

 

 ゛この音は……? ゛

 

「ば、馬鹿な!? 送り込んだ部隊はどうした!! 何故奴らがここに!?」

 

 通信機に向かい、慌てるカイザー理事の姿に。

 アビドス勢は確信した……彼女達が、来たのだと。

 

 曰く、彼女達が履くそのミレニアムのエンジニア部が開発したという、その一見普通のシューズには……靴底にオーパーツ由来のグライディングホイールという「コロ」がついているという。

 

 いわゆるローラースケートシューズの一種、ただし……100か0かという凄まじい加速力を齎すそれは、事故と怪我人続出で試作止まりに終わった……筈だったものを、彼女達は使いこなしているという、全員が。

 

 そう、それは疾走する時に、こんな音を立てる。

 

「ローラーダッシュの滑走音!!」

 

「「「「トリニティの、12使徒!!」」」」

 

 一斉に振り返ったアビドスの4人、そして先生の前に現れたのは白い制服に身を包んだ生徒達……8人。大きな翼を小さく綺麗に折りたたみ、器用にバランスを取りながら火花を散らして、通路を左右に入れ替わるように蛇行しながら滑り込んでくる姿。

 

「撃て!! 奴らを倒せ!!」

 

 カイザー理事の叫びに呼応してPMC達が銃を乱射する。しかし火線の隙間を縫うように滑り込んでくる12使徒を止めることなどできない。ばかりか、彼女達の構えたM14が速射され、包囲の包みは端から瞬時に打ち崩されていく。

 

 ゛すごい ゛ <<先生!! しゃがんでください!!>>

 

 一射一殺、連射しているようでいて、その攻撃は正確無比の極致だった。

 

 アビドスの囲みが、まるで皮でも剥かれるように打倒され、正面の戦車から放たれた砲弾がアロナの声でとっさに屈んだ先生の頭上を通過、12使徒の1人に直撃……したかに見えたが、開かれた片翼に弾かれ、逸らされて……通路の奥へと消えた。

 

 流石に戦車砲を弾いてみせたその技には、アビドス勢も驚愕する。ホシノならば盾で似たような芸当は何度も見せていたが、いくらなんでも自分自身の翼を盾代わりに、そんな使い方をするなど埒外である。しかも彼女はローラーダッシュで滑走中なのだ。逸らしたとはいえ戦車砲で撃たれて、何故微塵もバランスを崩す様子がないのか。

 

「ふざけるな!? 貴様らはなんなんだ!? 貴様らの、その戦闘能力は!?」

「しかも8人だと!? 12使徒を8人も……桐藤ナギサ!! おのれ!!」

 

 8人、アヤネはその数にはっとする。

 ヒフミは先ほどなんと言っていた? そう、確か……。

 

 今日は特別でして……全員来てます。

 

 爆音、PMC兵が先ほど出てきた横のゲートが吹き飛び、その向こうから更に4人、白い制服に身を包んだ、全く同じ姿の少女達が爆炎と共に飛び出してくる。

 

 アビドスと先生の左右を最初の8人が二手に分かれて通過。更に合流した4人がカイザー兵を射撃でなぎ倒しながら敵前でターンし、カイザー理事と相対するように、アビドスと先生を守るかのように並ぶと、12人揃うや……先生の周囲を円運動で旋回しながら……マガジンの弾を全て吐き出す勢いのフルオート連射で、周囲の全て、全周を力任せに薙ぎ払う。

 

「うわぁぁぁ!? り、理事!? これは持ちま……!!」

 

「シールドが!! 何故たかが小銃一発で……!? ウバーッ!?」

 

 参戦から僅か数十秒。

 たったそれだけの時間で、カイザーPMC兵の包囲は崩壊した。

 

 円運動を止め、先生達の正面へと一列に滑るようにしてピタリと並ぶ。完全な等間隔、一分の隙さえない整然とした流れるような……同じ容姿の12人の整列。中央の4人が立射、左右の8人は膝をついて射撃の体勢。

 

 そして、放たれる銃撃。12人の射撃音が、全く同一に聞こえる完全な統一射撃。斉射3連。残された正面のカイザー戦車が、そのたった3斉射で砲塔が浮き上がるほどの爆炎を上げて吹き飛ぶ。カイザー理事の率いた部隊は、ほんの僅かな時間で無力化され、戦闘は……ここに終結した。

 

「これが、12使徒」

 

「……すごい」

 

 燃え上がる戦車の炎を背景に、トリニティ生徒会ティーパーティーの所属を示す白制服が艷やかに輝く。炎に照らされたからか、灰色とも薄桃色ともつかぬ髪の色が揺らめいて、畳まれた翼の羽と共に、地下に吹く風に靡いていた。

 

 12人が全く同一のタイミングで、優雅とさえ思える動きで先生とアビドス達に向き直ると、彼女達は挨拶の代わりなのか……一斉に先生へと捧げ銃を行う。

 

 こんな場所で、それは場違いなほどに礼節に則った儀礼の形。

 

 流れるようなその所作は、銃が立てる音すら……真実一分のズレもない。その統一された容姿、鏡に写ったかのような12人全員が全く同じ動きで銃と靴を鳴らして、待機の姿勢でM14ライフルの銃床を床に打ち付けた音が、空間に澄んだ音となって響き渡った。

 

 ゛助けに来てくれて、ありがとう……君たちが、12使徒というんだね? ゛

 

 言葉での返答は無い。

 

 けれど12人は一斉にスカートの端を左手でつまむと、完成された統一感のあるカーテシーをもって、先生のその問いに……肯定の意を返した。

 





12使徒の特殊装備は全てミレニアム・エンジニア部作。
オーパーツを使いまくった、中々に高価な品という話。

・ブースト・カバン。
後腰に装備する小ぶりなカバン……防御力は上がらない。
代わりに強めのジェット噴射して推進力を得られる。
翼の大きい天使族なら空も短時間なら飛べるかもね。

・ローラーダッシュ・シューズ。
ティーパーティー生徒標準シューズ……なのは見た目だけ。
普通の人間なら即座にぶっ飛ぶレベルの加速を実現した。
Bluetooth搭載の事故者製造靴、慣れると横方向にも走行可能。
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