「……」
「なんです黒服? 先生とやらが、そんなに気になりますか?」
「先生を巻き込むとは、聞いていませんものでね」
「崇高に興味を示さない者がなんだというのです」
「それにあのお気に入りの羽付き達、絆でもされましたか? 愚かしい」
「そういうわけではありませんよ、しかし結果は……楽しみではあります」
「見ていることです、私はこれをもって至ります」
「ミメシスの教義ですか……果たして機能しますか」
「聖堂などそこにあればいいのです、どうなっていようと関係ない」
「なるほど、お手並み拝見といきましょう……クックック」
古聖堂の正門へと向けて歩く姿。
それは制服というよりは軍服のそれに見え、見る者に力強さを感じさせた。
威風堂々。胸を張り、まさに肩で風を切るかのような自信あふれるその姿は。数千人といるだろうトリニティ・ゲヘナの生徒達が整列した回廊を進む。そんな彼女の背後からそれは来た……左右を一人、また一人と、甲高い音と共に疾走する赤い片マントをした生徒達が交差し、追い抜き、彼女の進む先へと走っていく。
整列するトリニティの生徒は表情一つ変えないながらも、その光景に震撼していた。詳細不明であったゲヘナ総領主の親衛隊「レッドショルダー」が初めて公の場に現れたのだ。
甲高い疾走音を立てるのは、間違いなくトリニティの12使徒が使うローラーダッシュシューズのそれと同じ物。それを装備し扱える生徒がこの場に20名、一個中隊……その事実は驚愕に値するもの。
ゲヘナの主が、マントを揺らして手を軽く振る。
その瞬間交差しながら疾走していたレッドショルダー達が一斉に整列走行に移行し、先に進んで停止した。自らの主を迎えるかのようにして回廊先、12の白制服を着た生徒達が並ぶ列に加わる。
片側16名、計32名が正対し銃を天に掲げる回廊を進んだ先、古聖堂の門前に、白制服を纏った一人の生徒の姿があった。同じ白制服とは思えぬほど……それは輝くばかりの存在感。
「ようこそ……お待ちしておりました、羽沼マコト議長」
「キキキ、中々壮観な出迎えだ。悪くないな、桐藤ナギサ」
二大学園の指導者が、相対した。
「……この日が来ることを、心待ちにしておりました」
「それはこちらも同じだな、キキキ……始めようか」
「ええ」
整列する4000人の生徒に見送られ、二人の生徒会長が門を潜る。
トリニティの中央から外れた位置にあるそれは、歴史ある建物だ。古聖堂という名称は俗称、忘れられたその名はユスティナ大聖堂。かつて栄華を誇った聖徒会の中心地。
32名の生徒が掲げる、トリニティとゲヘナの校章を記した旗が風に揺れ、ゆっくりと古聖堂へと向けて歩む二人を挟んで行進する。一分のズレもないそれは、見事な行進だった。
クロノスが行う中継を通してみる、キヴォトス中の視線を受けても些かも淀みはない。まさに儀仗兵として選ばれた最も優れる32名なのだと人々に感じさせるに足る威容。
門を抜けた先に、更に居並ぶ2000の学兵。その回廊を二人と32名が進み……ついに約束の場所、楽園を形作る盟約の場へと、階段を二人の指導者が並んで登る。その先に……調印席があった。約束を記す盟約の場に佇むは、トリニティ・正義実現委員会より委員長・剣先ツルギ。そしてゲヘナ・風紀委員会より委員長・空崎ヒナ。
階上にて、隊列を組み替えた32名が、トリニティとゲヘナに分かれ、12名ずつに並ぶ。トリニティの12使徒、そしてゲヘナのレッドショルダーが、互いの旗を掲げて正対する。
レッドショルダーの整列せぬ8名が古聖堂まで進んで並び、正義実現委員会より8名選出された精鋭の反対側へと。建物を守るかのようにして、旗を掲げ、支え銃の姿勢で待機の姿勢に入り、場は整った。
階上で二人の生徒会長が振り返り、両校の並ぶ旗を背にして、古聖堂の広場を見渡す。広大な古聖堂の敷地には2000人が整列、トリニティとゲヘナの生徒が相対していた。城壁もかくやという門の向こうには更に4000人もいるのだ、無数の学園旗が揺らめくその光景は、いにしえの閲兵式であるかのよう。
桐藤ナギサが空へと手を掲げ、2000の生徒が一斉にナギサとマコトに向かって身を正す。背後で声一つ無く動いた24名が歩んで進み、互いの持つ学園旗を一糸乱れぬ動きで交換し、戻り……掲げ、全ての準備が終わる。
「キキキ、悪くない気分だ、そう思わないか? 桐藤ナギサ」
「ええ、ここに至るまで、随分と苦労しましたけれど……」
「何、これからは楽をさせてやる。色々とな、キキキ!!」
「……頼もしく思います」
古聖堂の正面、調印式の場へと振り向いた二人が。トリニティが掲げるゲヘナの旗と、ゲヘナが掲げるトリニティの旗が作る、アーチを潜る。
並ぶ12使徒達を見て、ナギサは感慨深い思いを胸にした。
思えば長い苦労の日々。トリニティの政治の中枢に入ったその時……抱えていたのは野心である。フィリウスの栄達、いってしまえば自分の立場の強化。いずれは首長となる身分とはいえ、やはり上にいなければ、名家の出であるからこそ……派閥蠢くトリニティでの暮らしは容易なことではない。
政治に興味も、適性もない幼馴染の分、そういう後ろ暗いことを受け持たねばという思いもあった。政治闘争が得意かと言われれば、そうでもない。ただ言葉を交わせれば、上手くやれるという自信はあった……が、世の中言葉が通じない方が多いのが現実。
そこで目をつけたのだ、12の荒ぶる恐鳥達に。
中学1年の段階から、彼女達の活躍は異常だった。高校最高学年の生徒達でさえ尻込みするような闘争の日々、悪しき大人との戦いなど枚挙に暇がない。自身達の掲げる「信念」の障害と見ればあらゆる存在をなぎ倒した。文字通り全てを……そこにはヴァルキューレどころか連邦生徒会さえ含まれる。
多くの治安組織が制圧を試み、惨敗し、反撃され破滅的な被害を受ける。それを喜んだ反社会組織はそれを上回る暴力を叩きこまれて悲惨なまでの壊滅をする……まさに目に付く何もかもを破壊する存在。全てを焼き尽くす、灰にくすんだ……12の翼。恐鳥と呼ばれるに相応しい存在。
多くの者が、彼女達を利用し栄光をつかもうとして、破滅した。
触れ得ざる者、そうして怖れられる制御不能の存在……特殊戦研究会。
それがトリニティへの入学を希望しているという情報を掴んだ時、ナギサの中に一つの野心が生まれた。恐鳥について調べ、多くの失敗に学び、数多の破滅を見てきた桐藤ナギサは、ひとつの答え……活路を見出す。
天使族というには、あまりに悪魔のそれと謳われたこの12人は……ただただ、心からの善意で、正義を胸に動いているのだということを。
力による力への反抗。一貫している……あまり賢くないがため、出せる答えがたった一つのシンプルな出力「暴力」以外にないだけで、弱きを、他者を助けようという善意だけで動いている。その努力、研鑽の苛烈と真剣さを考えれば、そこらの荒くれとは一線を画する。
一度敵対しようと終われば後に尾を引かない、竹を割ったような物の考え方。敵も味方もない、過ちは力によって正す、終わればそれまで。義理人情を大事にする仁義の生き方……侠客と呼ばれるそれだ。
答えが見えたかに思えた、この最強の力を「上手く扱う」ことができれば、確実な栄光が約束されている。我が身の栄達は勿論のこと……心の何処かで、トリニティを覆う陰鬱な空気も、どこか閉塞感漂うキヴォトスの現状さえも打破できるのではないか。そう思ったナギサは……意を決して声をかけた。
そして成った。12使徒という名を与えられた恐鳥達は、秩序の側に立って闘争を始める。しかし制御に成功した瞬間、ナギサの中にあったのは安堵ではなかった……それは緊張感。
心がけたのは「誠実である」こと。ナギサは12人に対して嘘をつかないと決めた、トリニティでは平常である騙し騙されも、この12人には一切通用しない。信義にもとる行為をした瞬間に、敵と見られた者には拳が刺さり、制圧される。
信義だ。必要なのは……信じてもらうこと。信頼されなければならない。桐藤ナギサはこのキヴォトスの現状を憂いており、それを変えたい人間なのだと、信じてもらわなければ成功はありえない。
そのためには行動が必要だった、12人の求める「人々の平穏」のために、文字通り粉骨砕身の思いで動いてみせねばならなかった。約束を違えたと思われれば……その暴力がトリニティに、自分に向く。
信じ、信じてもらうために動き、そして委ねる以外に……信頼を勝ち取る方法は無い。それは簡単な道のりではなかった……委ねるということは、暴れまわる恐鳥を自由にさせることを意味し、その惨禍を正当化するために、まさに死力を尽くす必要があった。
当初はとんでもない連中を呼び込んだと、激しい非難もあった。だから一番最初に手を付けたのはティーパーティーの「掃除」だ。悪事の抗弁など、1秒も猶予を与えられない苛烈な暴力の行使を前に……一人また一人と耐えられぬ者は去り、心を入れ替えたか、心ある者だけが残り、変革を悟った者達が集っていく。
止まれない。止まることはできない。一度始めてしまった以上、止まれば「約束を違えた」ことになってしまう。信頼を失った時、掴むことが出来た手綱は千切れ、全ての制御を失った恐鳥達が自分達をも喰らい尽くす。抱えたその力は、自分達も焼き尽くす可能性を常に秘めていた。
3年生達はあまりの暴力性に震え上がり、ナギサ達に全てを委ねて政治の場から一線を引くと、野生のままとさえ言われた12人を大人しくさせるため「躾」する方針に舵を切ったが……トリニティらしさを前面に出せば「潰される」ため、本当にただの躾、淑女教育そのままとなり、苦心の末にそれは結実した。
あれは途中から、皆絆されていたように思う。強すぎる暴力性、その恐ろしさの中に……無垢に目上と慕う愛らしさが彼女達にはあった、純粋なのだ。その純粋さ故に……方向性を与えねば破滅的な破壊をもって正義を実行しようとする。
方向性を与え、暴力に指向性をもたせ、目標を達する。ナギサは成功した、信頼を勝ち取り、揺らがぬ忠誠を得た。それと同時に……野心の先にあった、心の底の希望が成就したのだ。
そう、キヴォトスは変わった。トリニティの栄華もその歴史上で一度としてなかった至高の領域にある、敵対してきたゲヘナとさえ同盟が結べる程の存在感。この地に住まう全ての民……全土の学園が、連邦生徒会でさえ、トリニティを、ティーパーティーを、そして桐藤ナギサを軽視することはできない。
栄達は成された、桐藤ナギサは望みを叶えたのだ。
その青春を過労の中で消費するという、代償の果てに。
「本当に、苦労の連続でした」
「キキキ、真面目すぎるな。全てを管理しようなどと思い上がるからそうなる……政治など要点だけで良いのだ、支持者を一定固めておけばなんとでもなる。私など支持率9%だぞ? キキキ!!」
「誰でもできることではありませんよ……」
「キキキ!! そうかそうか!! キキキ!!」
簡単に言う、それはナギサの本心である。
あの巨大学園ゲヘナで支持率9%、これは低いように思えるがそんなことはない。議長選挙の投票者はほぼ1割、ゲヘナ全学の10%しか無いのだ……そして残り1%は出馬していない空崎ヒナへの無効票。つまり羽沼マコトはゲヘナの「投票者の9割」から支持がある、圧倒的な支持率といえる。
当然だ。12の恐鳥が暴れまわる世界であっても、変わりなく自由と混沌を尊ぶ校風を維持するゲヘナは単純に強い。堅苦しい他学にはない風通し、それでいて困らぬ豊かさを保ち、他学の圧力など物ともせぬ威風……連邦生徒会に手出しさせることもない。
必要最低限の規律、無法の地の評判にそぐわぬ堅実な学園運営、統治も司法も機能していて、自由を拘束するものはほとんどない。自由の結果として捕まったところで刑罰は軽く、他学区で収監されてもあっという間に釈放だ……荒くれの気質ある生徒達にとっての楽園。
何より「雷帝」支配の時代を思えば、これ以上の統治者など望めぬ。
キヴォトス最強、空崎ヒナが「従っている」段階で、凡百の指導者ではない。その上長らく敵対校だったトリニティの最上位生徒「12使徒」さえその威風には感服し、尊敬を顕にしているという。その手腕には12使徒の主……あの「慈愛の君」さえ一目置き、同盟を願い出る程……これで権威が高まらない筈がなかった。
キヴォトスに名の知れた者達が、皆……羽沼マコトに一目置いている。それだけでマコトの権威は天井知らずだった。何もしていなくても上がり続ける権威、威風。政治など少し「要所」を抑えるだけで良い、それだけで評判は上がり続け、マコトの自尊心を大いに高めてくれる。
羽沼マコトは今……ゲヘナの総領主として、比類ない権勢を誇っていた。
「ETOが出来れば楽しくなるぞ、毎日がな、キキキ」
「どちらかというと抑止力として望んだのですが……」
「このキヴォトスがそんなことで大人しくなるものか、暴れる連中はそのままだ。考えが甘いな、おっと、これは批判ではないぞ桐藤ナギサ。気にすることはない、キキキ!!」
「少しでも、僅かでも楽になってくれるだけでもいいので……」
「望みは大きく持て桐藤ナギサ、何もしなくてよくなるぐらいを望むが良いぞ、キキキ!!」
「そういうわけには参りませんよ……」
「真面目なことだ、らしいがな」
フラッグアーチが終わる、巡る思いに蓋をして、桐藤ナギサは務めを果たすために、その場に立つ。堂々不遜の羽沼マコトと向き合い、その手を取らねばならない。
トリニティとゲヘナの歴史上初めて、二人の総領主の握手。
「こんな日がくるとは思いませんでした」
「全くだ、キキキ」
「では、始めましょう……よろしくお願いします」
「いいだろう、新たな始まりということだ、色々な意味でな」
差し出したナギサの手に、マコトが手を伸ばした。
その時。
「……?」
「なんだ、地震?」
僅かに、揺れている……大地が。
それは徐々に、そして急激に大きくなる。
「地震だ!!」
「狼狽えるな、姿勢を低く!!」「なんだって今……」
「うわっ!?」
生徒の多くが立っていられなくなるまで、時はかからなかった。それでも12使徒とレッドショルダー達は訝しみながらもまだ立っている、旗手が学園旗を地につけることなどありえない。それは許されないことだからだ。
だがその一瞬、旗手であるがゆえの判断、それが……。
「!!」
ドン、そんな巨音と共に、大地が砕けた。
もう誰が何を言っているのかも判別できないほどの轟音と大地の揺れの中で「地面が落ちていく」。割れ、砕け、古聖堂の土地そのものが、聖堂さえも飲み込みながら、大地の底へと飲み込まれていく。
迷った一瞬、その僅かな時間で……すでに離脱できる猶予はなかった。
階上から溶け落ちるようにして、古聖堂そのものと共に、全てが奈落へと崩れ落ちていく。
巨大な穴のように広がる落盤。それは広がっていき、なんとか逃げようとする広場に整列していた生徒達が端から次々と飲み込まれていった。
「な、何!? 一体何!?」
「一体何が!! 起きてるの!?」
古聖堂の外にいた生徒達も、あまりの事態に動くことが出来ない。
地震は続いており、まだ立ち上がるのは難しい。這うようにして崩れ行く聖堂を見上げることしかできず、動けはしなかった。
「こ、んな……? あれ、は?」
それに気付いたのは、一人の生徒。偶然だった、空を見ることは難しい姿勢だ、偶々だと言える。ふと横の学友に声をかけようと横を見た。
先ほどまで晴天だったのに陰り、曇り空が見えている、雲だ、その先に……。
何か、飛んでくる物が。
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二人の生徒が戦っていた、一人は片腕を怪我し、勝負はつきつつある。
「……これ以上の抵抗は無駄です、投降を」
「そうはいくか……私達の戦いは、まだ終わりじゃない」
オデュッセイア海洋学園の護衛艦、その艦内で……SRT特殊学園同士の戦いが、密かに繰り広げられていた。相対するはRABBITリーダー、月雪。そしてCHEETAHリーダー、加藤。
「SRTの誇りをこれ以上汚さないで」
「誇り? 今日で廃校ですとかナメたこと言ってくる連中に、はいはい従うことが誇りか? ふざけるなよ月雪、今の連邦生徒会は相応しい主じゃない」
「だからといって、守るべき市民と生徒、学園を襲い、危険にさらすことが許される筈がないでしょう!!」
「戦い続けるためだ!!」
SRT入学同期、1年生同士であった月雪と加藤は小隊を率い、逃げ場のない艦上でぶつかり合う。志を同じくしていた筈の同志、同期。それが今……感情のままに銃を向け合う。
「それはもう、SRTじゃない!!」
「ほざけ!! シャーレに媚を売って席を取っておいて、SRTはまだあるとでも!? 12使徒からも支援があったんだろう、知っているぞ!! お前らは自力で戦えないからと連中を頼った!! 誇りがないのはどっちだ!!」
SRTで小隊を任される生徒の能力は、キヴォトスの中でも選りすぐりの精鋭と言って良い。二人の実力は伯仲していた、共に厳しい訓練をくぐり抜けた、互いを称え合い、互いを意識し、キヴォトス最高位の特殊学園に入学を許されたエリートとしての誇りを胸に、高め合ってきたのだ。
だからこそ、道を違えたお互いを、許すことは出来ない。
「!? くそ、やられたのかCHEETAH4……」
「!! RABBIT4、CHEETAH4は!!」
< う、うん。撃破……損害なし >
「RABBIT2!! サキ!! そちらは!!」
< いそげよ!! 流石に二人相手は!! >
「CHEETAH2、CHEETAH3、RABBIT2を仕留めろ!! CHEETAH4ダウン!!」
「させません!!」
艦全体という遮蔽物を利用して激しく戦う2つの小隊が、甲板と艦内で激突していた。しかし、オデュッセイア生徒の姿は見えない、居ないのだ、ここには誰も居ない。この艦は平時オデュッセイア海洋学園が運行する艦ではない、有事に運用される特殊な艦。
有事、それはこのキヴォトスが「外敵」から侵攻を受けた時を意味する。この艦は事ある時に国土を守るために出撃する、キヴォトス防衛艦隊の一隻だった。
離反したSRT2小隊を追っていたRABBIT小隊は、オデュッセイアの防衛艦隊にCHEETAH小隊が潜入したことを掴み、追ってここまで来た。目的は艦艇に搭載されているミサイルシステムの部品なのだろうと。
しかし、相対した2小隊が戦う内に艦は出港し、外洋へと向かっている。この艦は本来無人艦ではない、そして訓練か有事にしか運用しない。連邦生徒会の命令がなければ動かす権限のない、岸壁に放置された護衛艦に……乗員などいない。
では、何故動いているのか。誰が動かしているのか。
「MOUSE!! どうした!! 何故援護しない!!」
この場に、追っていたもう1小隊もいるからだ。
< カトー!! 話聞けよ!! MOUSEの連中はSRTじゃないって言ってるだろ!! >
「ふざけるなサキ!! 仲間を何だと思って!! 何がアリウス!! 相手の都合のいい情報掴まされて、それでもSRTか!! お前らは!! 学友を!!」
CHEETAHはSRTの生徒として、誇りある任務を共にしてきた仲間を疑えなかった。CHEETAH1、加藤は連邦生徒会を離脱して以降、新たな情報を得ることが出来ず、部隊と装備の維持のために様々な罪を犯さざるをえず。それが更に視界を狭め、耳を閉じることに繋がってしまった。
だから知らない。MOUSEの4人が、アリウスなる勢力の工作員だったなどと。
自分達の卒業後に「無くなる」零細学園で育ったCHEETAH達にとって、SRTへの入学が許されたことは母校と共に大切な誇りだ。そして同じくもう「無い」学園から入学できたというMOUSE小隊の学友達に、親近感があった。だからこそ……MOUSE小隊を共に連邦生徒会に反抗する、失った学校を取り戻す、SRTの復興を願う同志だと、信じて疑わなかった。
< RABBIT3よりオールコマンド!! 艦の射撃レーダーが起動してる!! RABBIT1!! コントロール室は!? 制圧は!? >
< 操作なんてできる状況じゃない、一体どうして!? >
RABBIT1とCHEETAH1が戦う、艦のCIC(コントロール室)は激しい銃撃で破壊され続けていて操作などしようがない。にも関わらず、無人の筈の護衛艦が「戦うために」動いている。
「!? どういうことだ!? 何でFCS(火器管制)がオンラインになってる!? MOUSE!! 土御門!! 船の武器なんて使う話じゃなかったろ!!」
< カトー!! MOUSEはどこ!! >
< ま、まずいよミヤコちゃん!! VLSの、ハッチが開いてる!! >
VLS、甲板の垂直発射ミサイルシステムが起動しているということは、明らかに攻撃の意思が介在していることを意味していた。
そして、それは同時にある事も意味している。
MOUSEの依頼で以前手に入れた、オデュッセイア船団の艦隊データリンクシステム暗号乱数表、以前沈めた船の通信室から持ち出したそれを……今持っているのが、信じていた学友であるという現実。
そしてRABBITが言う、SRTの裏切り者……MOUSEが盗み出したのだと言う、連邦生徒会からの資料。そんなはずはない、兵装が起動しているのなら、ミサイルが発射できるというのならば。本当に盗み出されたのは、資料などでは。
「あ、な……ミド……どうして……」
「カトー!! MOUSEはどこ!!」
< !! この艦じゃない!! データリンクで動かしてる!! >
「隣の……コントロール艦……」
MOUSE小隊は最初から、護衛艦には乗っていなかった。状況が不利だから艦を沖にだし、空の足を持たないRABBITを置いてヘリで脱出しようというMOUSEからの提案だった。並走しているコントロール艦に搭載されていたヘリを使って、CHEETAHの援護がされる予定だったのだ……だが。
コントロール艦は、連邦生徒会のキーがあれば……データリンクで繋がっている護衛艦を遠隔で操作できる。入力された射撃諸元に向かって、攻撃命令がだせる。
< RABBIT3!! モエ!! 回線を制圧して!! 止められないの!? >
< 艦隊データリンクに侵入なんてそう簡単に!? >
艦に、振動が走る。
< ミユ!! 甲板から退避して!! >
< だめ!! 発射される!! これどこを狙ってるっていうの!? >
轟音とともに白い円筒が天へと飛び上がり、向きを変えて飛び去っていった。
CICのディスプレイに空へと打ち上がるミサイルの姿が映し出されていく。一発ではなかった、艦に搭載されている全てが発射されるべく、次々とオンラインになっていく。
< 今日なんだぞ……そんなの、一つしかないだろモエ…… >
ミサイルはキヴォトス本土へと向かって飛び去った。ならば……今日この時、狙われるべき目標はたった一つ。狙うべき目標は、あそこだけ。
「カトー!! この艦を無力化します、手伝って!!」
「け、けど、けど……」
「急いで!! これ以上撃たせては……え!? これは!!」
アリウスからやってきた工作員、MOUSE小隊のリーダー土御門は、マダム・ベアトリーチェからの命令を忠実に実行した。入学以来、交流を重ねた学友の思いを踏みにじり、平然と、無感動に、コントロール艦から全ての命令を実行する。そのような感情に動かされるような情動は、既に持ちあわせていないからだ。
だから何も気にならない、この命令を実行した結果、何が起きても。
そう、気にならない……「艦隊が」持つ全ての弾薬を使用せよという命令に、何も。
< 全艦データリンク!! 攻撃命令が全部オンラインになってる!! ハルマゲドンモード!? あいつら正気なの!? >
気がつけば並走していた「全て」の護衛艦からミサイルが発射されていった。遠隔で出港した護衛艦、10隻。搭載されたミサイルの全てが発射された場合、その投射数は……360発。
次々と打ち上がる対艦ミサイル、それはキヴォトス国防のために「外」の技術が使われている「巡航」ミサイル。だからこそ連邦生徒会だけがその発射権限を持ち、運用をオデュッセイア海洋学園に任せながらも、火器使用に必要な解除キーを連邦生徒会が保管していた。
連邦生徒会からMOUSE小隊が盗み出したのは、トリニティとエデンの資料だけではない。それは発覚を遅らせるためのカバーに過ぎず、本命はこのファイアコントロールキーだったのだと、RABBIT小隊はこの場で知ることになった。
だが、もう遅い。
そう、そして。エデンの会場には……オブザーバーとして。
「先生!!」
「今この時、お前たちが、最後のSRTだ……」そう言って先輩達に送り出されたRABBIT小隊でしたが、策謀を防ぐには至りませんでした。これにはカヤちゃんさんも意気消沈でしょう……まあ、エデン条約に関してのコメントを求められて、カスみたいなお答えをしてしまった3徹目のリンちゃんさん代行のせいで、今それどころじゃないけどな。(65%→75%)
そしてミサイル君が発射され、レーダーが真っ赤になってお祭りになった連邦生徒会の一室で、ファイアキーの所在に思い立ったカヤちゃんさんはキレました。何故? 何故ってそのキーは本来……自分の座ってる部屋の金庫に保管されている筈だからです、防衛室だからね。
けど持ち出されました、何故? ロックナンバーを知ってるのは誰? 連邦生徒会長と自分以外に、そのナンバーを知っているのは誰? いねぇよなぁ……連邦生徒会長代行以外に。開けられるわけねぇよなぁ……どっかに金庫の鍵開けスキルもってるような奴がいたかもしれないけど、いねぇよなぁ、代行。(75%→85%)