トリニティの12使徒   作:椎名丸

41 / 86

時刻、AM 11:42
トリニティエリア・旧区画
ユスティナ古聖堂(跡地)、座標「大穴内部」

事件発生から、約1時間。



22・騎兵隊のテーマは何とかの騎行

 

「ぅ……ここ、は?」

 

 ナギサが目覚めたのは正実選抜中隊、セレクションチームE小隊隊長、大内の背。ナギサは彼女の翼に支えられ、E小隊に全周警護された状態で崩れた大穴の中にいた。

 

「ナギサ様!! ナギサ様が気が付かれました!!」

 

「何!! 本当か!!」「ナギサ様がお気づきに!!」

 

「ナギサ様!!」「やったぁ!! じゃあ反撃しよ!!」「反撃だ!! ぶっ殺そうぜ!! もう待ちきれねぇよ!!」「ナギサ様がお目覚めになられた!!」

 

 状況のわからぬナギサがあたりを見回すと、この場は崩壊した古聖堂の壁面だった物が斜めに突き刺さった広場、傾いてはいるが……平面がある場所に集結している正義実現委員会の生徒達に囲まれていた。他の場所からも歓声があがり、生徒の多くはかなり分散しているとわかった。なんと壁面に取りついている隊もいるのだ。

 

 落下の途中で意識が遠のいたため、今改めて上を見ると……かなり崩落しているのが判る。一体地下何十メートル、幅は何百メートルかというような巨大な大穴の中。

 

 周囲の大勢から歓喜の声が上がり、それが穴全体に広がっていく中。周囲に集まった生徒達を散開させながら現れたのは、ナギサの頼れる同級生、正義実現委員会・副委員長。

 

「ナギサ様、ご無事で」

 

 羽川ハスミは服こそ汚れがあったが無傷のように見えた。学友の無事に安堵したナギサは、トリニティの君主として状況の把握に努めることを優先した。これは、明確に攻撃であろうからだ。

 

「ハスミさん……いえ、羽川副委員長、状況はどうなっていますか? 皆さんは無事なのですか? 急ぎ事態の把握を、埋まっている子達を探さないと……」

 

「はい、アリウス閥の攻撃と考えられます。カタコンベを爆破し地下構造を爆砕、全軍を丸ごと地下に落とした上での巡航ミサイル攻撃です。100発を超えるミサイル攻撃を受けておりました、また詳細不明の陸戦力の包囲下にあり、この場にて現在防備を固めております」

 

「巡航ミサイル!? 100発以上!? いったいどうやってそんな物を……」

 

 ナギサが驚愕するのも当然の攻撃だった、桁が違うといってもいい。調べの付いていたアリウスの貧しい戦力で、そんなことができる筈もないのだ。しかし今はそれを考えている暇はない、自身が気を失っていたとはいえ、正実主力がこれだけ揃っていて地下に逼塞を余儀なくされているという現状が、それだけ事態が困難であることを示している。

 

「困難な状況ですが、ご心配には及びません。会場にいた正実学兵は皆健在です、少数生き埋めになりましたが既に全員復帰しております。点呼をとり確認済みです。これはゲヘナも同様で、羽沼議長もご無事です、現在下層にてゲヘナの指揮を取られています。委員長剣先は先程威力偵察に」

 

 ちなみに今地上にいるツルギはリーダー格と思しき体格の良いガスマスクシスターをボッコボコにして捕まえ、何か情報ワンチャン吐いたりしないかな? と思ってマウントポジションで消滅するまでインタビュー(拳)していたりした。

 

 地上は新たに湧き出した無数のユスティナ聖徒で再び埋め尽くされたが、剣先ツルギのあまりの暴虐に遠巻きに包囲するばかりで、大穴へのユスティナ・ミメシスの攻撃は頓挫している。

 

 激しすぎるインタビューの光景をLIVEで目にした地下の誰かが、ミメシス役に立ってねぇじゃねぇかと叫んだが、恐鳥5.5匹分の戦闘力を持つ剣先ツルギと随伴の中隊に複製怪人が勝てるはずなどない。

 

 平時暴れる12使徒が注目されがちだが、剣先ツルギは通常移動が瞬間移動で、指で撫でたらそこからヘルメットが割れる程度の攻撃力を持つ。正義実現委員会の長とは見せ札などではない、文字通りトリニティの「力」たる切り札であった。

 

「そうですか……よかった……」

 

 驚異的なことに、トリニティ・ゲヘナ両校はこの落盤攻撃を受けて殆ど無傷であった。会場に集められていた最精鋭たる2000人の両校学兵達は装備を失った者すらいない、キヴォトス最上位の学兵たるに恥じぬ練度であるといえた。

 

 その上ミサイル攻撃に至っては12使徒と空崎ヒナが殆ど全て撃ち落とし、残りもハスミ率いる選抜射手隊が対応しているので、事実上一発も有効打を受けていないのだ。今のトリニティへの攻撃など自殺だと以前評した百合園セイアのそれは、自校への過剰な自信や大言等では全く無く、単なる事実でしかない。

 

 これだけの規模の攻撃を受けて殆ど無傷。恐鳥達の走り回る修羅のキヴォトスで約5年間鍛え抜かれてきた上位生徒達のレベルは、マダム・ベアトリーチェの想像の斜め上を……かなり強めの角度で行った。

 

 それはいい、喜ぶべきこと、誇るべきことだ……しかし。

 

「ハスミさん、あの子達の姿が見えませんが、今何処に?」

 

 ナギサは訝しんだ。あの瞬間足場を失い落下する自分を抱えていたのは12使徒の長、城島ツバメであった。自身の警護をするのは12使徒の役目、彼女達の忠誠度を鑑みれば、直系の後輩とは言え選抜中隊に自身の身を任せるなど異様に思える。正実生徒が無事ならあの子達も無事、それは確実だし判る、けれど……。

 

 その12使徒がこの場に居ない、それも全員。もう嫌な予感しかない。

 

「ナギサ様……どうか、どうかお心強く、お聞きください……」

 

 そういう前置きをされる段階でもうナギサは限界が近かった、わかっている、わかってはいる。これほどの攻撃だ、当然元気一杯・勇気100倍、全ギレの怒り2000%で反撃に出ているはず……空崎ヒナもいたのだ、もう何が始まっていても全く不思議ではない。

 

 何が一番不味いか、ナギサが攻撃を直接受けているということなのだ……止められない、たぶんもう止まらない。どうしたらいいのか、言って止まるようなら、今日この日まで皆してここまで苦労していない……ナギサは胃が強めに痛みはじめる。

 

 その上でこのお知らせは、責苦にも程があった。

 

「12使徒が飛びました……全員」

 

「と、とん……」

 

 思わず絶句。いやまあ、今までも空挺や滑空しての強襲はよくやっていたし、ブーストカバンというミレニアム・エンジニア部の、そういうのは求めてない善意な悪夢の強化装備で短時間なら普通に飛んでいたので、それ自体は不思議ではない……ないのだが、今日は式典なので未装備だった筈である。でも飛んだ、全員。つまり生身だけで、飛んだ。

 

 ついに飛びやがった……。

 

 いつか飛びそうだなとは、若干思ってはいた……でもほんとに飛ぶやつがあるか。「そーらを自由に、飛びたいなー」とかいう、あまりに恐ろしいメロディーを……B小隊隊長の炭沢リクがヘルメット団を錐揉み回転させながら上昇させつつ最近よく歌っていたので、そのフレーズを聞くたびにセイアが精神的に追い詰められていた事を思うと、正直涙が出そうだったし、当然ナギサ自身の胃も痛んだ。

 

 呼吸が荒くなる、よく考えなくてもわかることだが。機動力が上がれば上がるほど、破壊を振りまくスピードも、活動範囲も広がるということなのだ。とうとう飛んじゃった……もう終わりじゃんね……そんなミカの幻聴まで聞こえてくる始末。

 

「空崎ヒナも飛びました……そしてビーム攻撃を……連射し……」

 

「れ、連射!? あれ連射できるんです!?」

 

 空崎ヒナが飛ぶのは、もうしょうがない。12使徒が飛んでいるような事態なので、何も不思議ではない。それぐらいのことはしてくるだろうとは皆思っているし、未確認情報ながら聖夜の時にも普通に飛んでいたという話もあった。

 

「少なくとも100発以上は……」

 

 おかしいよ、人間じゃない。

 

 問題はビーム攻撃だ、街を4つ消滅させた聖夜の戦いで放たれたという、射線上の全てを飴のように融かす狂った攻撃、人間がやっていい行為じゃない……あれを、連射? 3桁? おかしいよ……狂ってる、人間がビーム出したらだめだろ、生物としてどうかと思わないの? こんなのってない。

 

 そんなの連射されたら、キヴォトスが一日持たずに火の海に……。

 

「12使徒も負けじと、アメミットを連射して地上を灰に……」

 

 どうしてそんなことするの?

 

 負けじとじゃないんだよ、張り合ってどうするんだよ。イカれ生物辞め枠と張り合わないで欲しい。ゲマトリア神秘研究所……なんて物を渡してしまったの? 火力を強化するな、限度ってものがあるんだよ、ダークサイド研究者……自分達も焼かれるの確定なのに、どうして……ナギサは心からそう思った、泣きたくなってきた。

 

 そして気づく、というかもしかしてまだ皆大穴に待機してるのって、地上が本当の意味で火の海に……? そこまで想像できたナギサは思わず胃を押さえた、古聖堂とその周辺の建築物は歴史的に貴重なキヴォトスの過去を語る文化遺産だ。地上を「灰に」という恐怖を煽る文言でもう、先祖に詫びなければならない事態になっていそうな予感しかしない。

 

「……ぅぅ……」

 

「ナギサ様……まだ終わりではありません、どうか……お心を強く……」

 

「ちょっとまってください!? これ以上があるんですか!?」

 

 聞きたくない、聞きたくないけれど、桐藤ナギサは常に現実と向き合わねばならない立場なのだ。だからといって限度がある、外傷など皆無なのに、血の気が引いてしまい、ナギサはふらついたところを大内に支えられ、ハスミから……これから毎日キヴォトスを焼くだろう力の発現を聞くことになった。

 

「12使徒が、ついにビームを撃ちました……全員」

 

 どうしてそんなことするの?

 

「…………ぅぅ……もう、一度……おねがいします。聞き違いですか? ビーム? ビームって空崎さん以外撃てたりするんです? 全員? そんな筈ありませんよね? そうでしょう? ハスミさん」

 

 嘘だろお前……セイアの口癖となってしまった、お嬢様ヒエラルキーの頂点存在にあるまじき現実逃避の言葉が喉から出る寸前でナギサは堪えた。こんなのってない、こんなの現実である筈がない、人間はビームなんか撃っちゃいけないのに。

 

「残念ながら……しかも爆発するタイプの火球です……12発炸裂した結果、地上は崩壊……古聖堂含む周辺の全てが……完全に消滅いたしました……地上は月面よりも酷い有り様です、それで地下に退避を……」

 

「……」

 

「ナギサ様!? たいへんだ!! ナギサ様が!!」

 

 ナギサは限界を迎え……気絶しそうになった。

 

 

 ゛ナギサ!! 大丈夫!? 無事!?。゛

 

 

 とここで先生の声が聞こえ、桐藤ナギサはなんとか踏みとどまった。

 

「!! 先生!! ご無事で……」

 

 正実の生徒達に群がられながら先生がナギサの元に向かい、抱きしめる。この場で先生の次に「脆い」のはナギサであることは周知なので、先生は自分のことを棚に上げてかなり心配していたのだった。

 

 心から安心できる大人、その温かな抱擁に荒れた胃の痛みが和らいでいったナギサは総領主生徒会長たる判断力を取り戻し、急速に思考が鮮明になっていった。欠けたピースが埋まりつつある、状況を打破するために必要なピースが。

 

「ご心配をおかけしました……ですが皆、無事のようです。サクラコさん、先生を無事に守られたのですね……ありがとうございます。時に、後ろの方々は?」

 

「例の方々です、説得に時間がかかりましたが無事に」

 

「流石ですねサクラコさん」

 

 サクラコ達シスターフッドに抱えられて大穴に降りてきた先生に同道する面々に、見覚えのない生徒が複数いた。

 

「「……」」「ひぇぇ……正実に囲まれてますぅ……ほんとに大丈夫なんですかぁ……」

 

 居心地の悪そうに帽子を目深にする錠前サオリ達、アリウス・スクワッドだ。

 

「!? そのマーク、アリウスの!?」

 

「いいえ、彼女達はもうトリニティの生徒、警戒の必要はありません」

 

 それに気づいた正実生徒達が声を上げたが、サクラコの一言で制され、即座に収束する。シスターフッドの長、歌住サクラコの言葉はこの場でナギサの次に重い、サクラコが否というなら否なのだ、それだけで彼女達はもう、サオリ達を敵とは見なさない。

 

「失礼いたしました、サクラコ様」

 

「白洲アズサさんのご家族です、丁重に」

 

「はっ」

 

 その光景を間近で見たサオリは改めてトリニティの暗黒卿の影響力というものを垣間見た。サクラコが「敵ではない」と言えば、一瞬でこれなのだ……以前なら恐怖を感じたに違いない存在感、しかし不思議と今、危機とは感じない。

 

「……サオリ」「……わかっている」

 

 そして悩む……サクラコにシェルターへと誘われた際もそうだ、倒された督戦隊を見捨てず自ら背負い運ぶ姿、こちらに警戒するでも武装解除するでもなく、ただ共にシェルターへと匿った姿を思う……そして今もサオリに背を見せている。撃とうと思えば何時でも撃てた、今も。

 

 自分達は既に洗脳を受けているのではないかという疑念は常にあった、しかしあまりに無防備なのだ。スクワッドはあれから何も問われず、武器すら奪われず、シェルターに共に匿われ……厄災を逃れた。

 

 そしてシェルターの中で会った、本物の先生……シスターフッドに囲まれている状況だ、闘争の空気ではないし勝ち目も薄い、スクワッドは抵抗をやめた……仕方ない面もあった、任務は失敗したのだ。

 

 そして今、最重要目標だった桐藤ナギサの前にさえ、スクワッドは連れ出されている。流石のミサキでさえ緊張を隠せない状況、マダムに与えられた任務を思えば千載一遇の機会だろう……しかし。

 

 この地上の有り様を見たら、抵抗の気も失せるわ。

 

 なんなんだよこれは、人間のやる事か? 本当にミサイル直撃して無傷とかおかしいし、反撃したらしたで即このザマ。正実も万魔殿も一般生徒すら無傷? こんなのに勝てるか!! アズサの報告書一切誇張なしだったんかい、あんなの相手にマダムの命令とか聞いてられるか!! 死ぬわ!! そんなサオリには今は何より、ミサキとヒヨリの命のほうが大事。そしてアツコのためにも今、するべきことがある。

 

「錠前サオリさんですね? 白洲アズサさんよりお話を伺っております。後ほどアズサさんを交え、皆様とお茶の席にて……ゆっくりお話できればと思います」

 

 自身の殺害を狙っていた人間を前にして、優しく微笑むその姿が、アリウスである自分達をこうも無防備に受け止める姿が、衝撃の連続だった。自分達の置かれてきた現実との違いを、サオリ達は今……思い知っている。

 

 ゛サオリ、ミサキ、ヒヨリ……大丈夫だからね。゛

 

「先生……」

 

 ゛ナギサ、皆は助けたい子がいるんだ。私も頑張るからね。゛

 

「ええ、アズサさんから伺っております」

 

 サオリはシェルターから出て、地上の様子を見た後に……先生に懇願していた。それは土下座、アズサの恩人、多くの生徒達を助けてくれるという、マダムとは全く違う「大人」に、恥を捨て、全てを投げ出して懇願した。残る最後の家族、秤アツコを助けるために……トリニティへ投降する、口添えを願いたいと。その答えは……。

 

 

 ゛大丈夫、もう何も心配要らないからね。゛

 

 

「キキキ、話はまとまったのか? ならそろそろ此処を出るとしよう」

 

「羽沼議長、ご無事で何よりです」 ゛マコト、アコ、皆怪我はない?。゛

 

「どうということはないさ先生、我がゲヘナは精強無比だからな」「うう……マコト議長の命令で掘り出されるとか屈辱なんですけど……」「キキキ!! 情けないことだなぁ!! 尻丸出しで瓦礫に刺さっていたのは笑えたぞ!! キキキ!!」「うがーー!!」

 

 ゲヘナの首脳が先生に続き下層から現れる、ここに場の全ての首脳が揃った。

 

「ナギサ様、揃ったようです。これより脱出を開始いたします」

 

「態勢を整えて反撃ですね、ハスミさん」

 

「はい、古聖堂までの移動に使った臨時仮設駅まで後退します。本校からの援軍も鉄路を使用するでしょう、会場外にいた両校主力も状況的にそこに後退しているはずです、集結し再編成・弾薬補充の上で……反撃を」

 

 トリニティ郊外の旧地区にはハイランダーの鉄道インフラは整っていないが、古い時代の鉄路がそのままあった。そこでトリニティとゲヘナ両地区から新たにレールを繋ぎ、この場に人や車両を運んできたのだ。古聖堂が条約会場に選ばれたのも、両校から移動の足を軽作業で接続できた地理的な面が多分にあった。

 

 ゲヘナの戦車隊は救援に来れないのではなく、援軍到着のために駅と線路を守っている可能性が高かった。仮設駅は2ブロック以上先、先程の大爆発の影響はおそらく少ない。式典仕様で携行弾薬の少ない会場組が「勝利する」ためには、駅で弾薬を受け取る必要があった。

 

 既にイズナが単身先行している。援軍を呼ぶため、連絡を回復するために1人駆けていた。通信の途絶した完全包囲下にあるこの古聖堂跡地から、トリニティ本校に伝令を単身走らせることなど不可能に近い、しかしできる……百鬼の忍び、久田イズナならば。

 

 あとは全軍で全てを蹂躙するだけだ、もう逃しなどしない、両校の全力をもってここで終わらせる。勝利を目指し、この策謀を今日ここで終わらせる決意を……桐藤ナギサは固めた。

 

「ではそのように……12使徒達はまだ戻りませんか?」

 

「不明ですが、状況的に爆風でおそらくかなり遠方まで飛ばされた可能性が……」

 

「怪我はしていないと思いたいですが……」

 

「連中がそんなヤワなわけがあるまいよ、空崎ヒナもいるのだぞ?」

 

「そうですね……」

 

 その程度で止まるようなら、聖夜も火の7日間もおきないのだ……。

 

「ミサイル攻撃がかなり前から止んでいます。アポストル隊はミサイル攻撃の策源地を叩きに行っているのではないかとも」

 

「ならばいずれ戻るでしょう、待つことなく行動を開始いたしましょう……シスターフッドが前衛に立ちます。聖堂騎士、集合を」

 

「サクラコさん、よろしくお願いいたします」「はい、可能な限り銃弾を防ぎますので」

 

「勇ましいことだな? 歌住サクラコ」(銃弾切れるってホント? マジなのこいつら?)

 

 修羅の国ゲヘナでは銃弾は撃たれてから耐えるものであって防ぐものではないので、マコト的には結構カルチャーショックであった。

 

「地上の橋頭堡は委員長剣先が押さえております、一気に押しましょう。ゲヘナの協力を必要とします、お願いできますか? 羽沼議長、天雨行政官」

 

「風紀委員は問題なく、後詰めですね?」「はい、お願いします」

 

「いいぞ、私は寛大だからな。レッドショルダーを貸してやろう、シスターフッドと共に前に出せ、頑丈さだけならヒナにも劣らん……聞いたな? 小細工はいらん、ゲヘナの力を見せつけてこい、押し潰せ、全部だ」

 

「はいマコト様!! 郷田、突撃拝命いたします!! RS全隊戦闘用意!!」

 

「感謝いたします……全隊反撃に出ます!! 総員突撃発起用意!!」

 

 ハスミのよく通る声の宣言に、大地を震わせる歓声が両校から上がる。今の今までやられっぱなしで逼塞していたのは、精鋭を自認する全ての面々にとって十分なストレスだった。自制していたのは単に彼女達が本当の意味で「精鋭」だったからに他ならない。普通の生徒はここまで統制が利いたりはしない、だからこそ集められた2000人だったのだ。

 

 だが、もう容赦の必要などない。ここから先は純然たる「力」あるのみ。

 

「全隊、着剣!!」「ちゃっけーん!!」

 

 正義実現委員会だけでなく、ゲヘナの万魔殿悪魔軍と風紀委員達も己の小銃に銃剣を装着していく。これから先は、目的地の駅まで全速で突撃あるのみだ。あらゆる障害を「轢く」と、全員そのつもりで戦意は最高潮だった。

 

 ユスティナの亡霊らしいとは既にサクラコから聞いている、それが何? 昔はイキってたらしいけど、幽霊ごときが今の私らに通用するとでも思ってんのかよ?

 

 山程いるらしいが関係ねぇ、ぶっ潰してやる。

 

 そう、全員キレている。当然だ、この場にいるのは両校総領主に忠誠を誓う面々、母校の晴れ舞台を台無しにし、生徒会長の顔に泥を塗った連中……もう死ぬほどボコす以外にするべきことはない。恐鳥の薫陶厚い精鋭生徒達は基本、血の気が多いのだ。

 

「ぶっ殺してやるぜぇ……」「見てろよ……二度とお盆を迎えられなくしてやる」

 

 見た目お嬢さんな外面からは想像もできないトリニティ・ゲヘナ両校生徒達の恐ろしすぎる台詞は、どう考えても12使徒の影響が過大だった。

 

 完全に目の据わった学兵達が一斉に着剣する様に、ヒヨリは思わず震えながら隣のミサキの袖に縋った。これと戦おうとしていたとか辛すぎる、マダムは自分達に「死ね」と言っていたのだと、改めて理解したのだ。

 

 そらトリニティ本校襲った皆も全滅して未帰還になるわ、スクワッドは真実と現実を理解した。

 

「錠前サオリさん、お二人と共に……私と先生と警護の中に。大内隊長、我が身を委ねます。先生の指揮に従い、万難を排しなさい」

 

「はっ、セレクションチームは全霊を尽くし、警護を拝命いたします」

 

「まってくれ、私達も」

 

「その必要はありません」

 

 これから始まるのはアツコを助けるための戦いでもある、黙ってみてなどいられないとナギサへ戦う意志をサオリは伝えた……しかし、ナギサはそれを退ける。

 

 桐藤ナギサは、トリニティの庇護を求めた生徒を戦わせることなどしない。

 

「今の貴女方は守られるべき生徒です、先生……お願いいたします」

 

 ゛まかせて。゛

 

 守られるべき生徒、初めて「誰かに守られる側」となった錠前サオリは……その言葉に何故か、掻き乱されるような、体験したことのない感情の濁流の中にあった。苦痛・不安、それが何もかもに押し流されていくように、サオリ達は考える暇もなく勢いのままに、背と心を強く押されていく。

 

 それを察したミサキが、帽子で目を隠し、肩を落としたサオリの背を擦る。何時も自分達のために体を張ってきた長姉の、外に出す方法を知らない感情の発露を察して。そして先生がサオリの今の顔を……余人から隠すように、掻き抱いた。

 

 周囲で戦闘準備を、装備点検を行う正実生徒達は、その光景をあえて見ないようにした。戦士の情けだ、それにこれからは学友となるのだから。

 

「久留島さん、先生への銃撃は絶対に防いでください」

 

「拝命いたします、全霊をもちまして」

 

 既に青い特殊警棒を展開していたティーパーティーの生徒、久留島がシスターフッド仕込みの「型」を構え、先生の側についた。久留島は元聖堂騎士、どの方向から飛んでくる銃弾も防げる。先生の直接指揮は選抜中隊セレクションE・F・Gの3小隊、そして久留島。万全だ、全ては整った。

 

「ナギサ様、羽沼議長、両校全隊準備が整いました、ご下命を」

 

「全てを打ち倒しなさい、よしなに願います」「キキキ!! 景気よくやれ、蹂躙しろ」

 

 地上の大穴の外、壁面は急角度の崖と崩れた構造物の瓦礫。天頂まで数十メートル以上あり、縁を剣先ツルギ達が制圧しているとはいえ、これを駆け上がるのは容易ではない……この場に揃った面々以外にとってはだ。全身に力をみなぎらせた生徒達が引き絞られた弓のように身体を靭やかに、そして力ませてその号令を待つ。

 

 ハスミの目配せで、アコが取り出したホイッスルを咥えた。

 

 本来は風紀委員が取り締まりに使う号令のそれだった、しかし今この場では……キヴォトス最大の戦闘集団、その足枷を外すギャラルホルンの角笛。

 

 その瞬間を察して急速に静まり返る静寂の中、マコトは楽しそうに銃を肩に掲げ、選抜隊の2小隊がナギサと先生を抱えて「疾走る」用意をした。

 

 ピィィーーーー!!

 

 天雨アコの吹き鳴らすホイッスルが空洞に鳴り響き、戦いの火蓋が今。

 

「突撃ーーー!!」

 

 猛禽と猛獣、天使と悪魔の雄叫びと共に……切られた。

 

 弾かれるようにして崖を駆け上がる生徒達、深い大穴から殆ど飛び上がるようにして弾かれたように、次々と躍り出る。何十メートルの地下から僅かな時間で一斉に舞い上がった羽付きの生徒達が銃撃を加えながら、待機していた委員長剣先ツルギの頭上で、すぐに隊列を組み始めた。

 

 ついさっき飛ぶことを覚えた生徒の練度ではない、しかし12使徒のそれを見て覚えていた面々の順応は一瞬であった。

 

 3次元の援護を受け、目的地へ向けて一本の矢となって駆け出す2000名が、ずらりと並んでいたユスティナへ向けて突撃する。当然飛んでくる銃弾、無数。

 

 全軍の先頭に、黒いシスター服の集団が躍り出る。シスターフッドが最上位生徒、聖堂騎士はなんと3桁もいた。歌住サクラコ自ら赤い警棒片手に先頭に立ち、凄まじい火花を散らしながら銃弾を弾き、切り捨てていく……それも全速で走りながら。

 

 そんなシスターフッドの隊伍の隙間を埋めるように、ゲヘナ・レッドショルダーが両手に構えたMG34軽機銃二丁を連射しながら疾走する。頑丈さだけならヒナと大差ないという、マコトのその大言に相違ないかのように、隙間から抜けた銃弾が無数に直撃しても、意に介さず突撃を続ける。

 

 その様はまるで装甲騎兵、戦車。練度が低いと12使徒達に評される面々も、ただ力押しするだけならば単純にフィジカルモンスターの集団だった。何も効かないし、軽機関銃を片手撃ちしながらローラーダッシュさえできる異常者の集団、だからこそマコトは小細工せず押し潰せと命じた。

 

「 押せぇー!! 」

 

 あっという間に正面のユスティナ・ミメシスが半壊し、そこに楔のごとく突撃した両校の集団が、文字通り亡霊の軍団を打ち破り、押し破り、貫いていく。薙ぎ倒されている、空から見れば……そう形容するに相応しい光景だった。転倒したミメシスは容赦なく踏み潰されていき、消滅を強いられる。

 

 ユスティナは過去に名だたるだけあって、複製といえども脆弱などではない。だが、その集団は紙のように簡単に引き裂かれていった。単純に今代の生徒が実力を以て上回っただけだ。文字通り踏み潰され、壊乱した集団を押しのけて全速で走り続ける2000名の集団。

 

 改めて全員が目にする地上は地獄だ、本当に月面より酷い灰にされている有り様を見て、やっぱやべーなあいつらという感想の面々だったが……引くどころか戦意が上がった。この2000名、それが必要なら12使徒どころか空崎ヒナにも殴りかかれる「本物」なのだ。

 

 一方、歴史的建造物が完全消失した現実にナギサは抱えられたまま胃痛が戻りかけていた。ここまですることある? 廃墟を通り越して更地も超えて月面だよ!! 見渡す限りクレーターしかない!!

 

 どうにかしてアメミットの使用制限を課さないと、これから毎日キヴォトスを焼こうぜされる未来を幻視したナギサは泣きそうだった。流石のセイアも起き上がれなくなってしまうだろう破壊力、この上更にビーム。

 

 更にナギサを苦しめるのが、例の携行ビーム砲が実装間近だという連絡が先日の調月リオ来訪時にあった事。自力でビーム撃てるようになったんだから、ビーム砲持たせるのはもう勘弁してくれないか……そんな心からの思いはミレニアムには通じない。

 

 何故なら、今まさに……。

 

「!! ナギサ様!! あれを!!」

 

 まだ仮設駅までは距離がある、両校主力とも接触できたわけでもない。しかし歓声が上がりつつあった。ユスティナ聖徒では絶対にない存在が、こちらに向かってくるのが見えたからだ。

 

 空から。

 

 曇天の途切れる先、遥かな遠方からこちらへ向かってくる無数の黒点が、次々に空に現れる。その黒点達の後方に、一際大きな何かが浮かんでいるのが見えた。

 

 大きすぎる、この遠距離からでも存在感を誇示する巨体は見たこともない大型の。

 

「飛行船!? それにあれは……全部ヘリですか!?」

 

 豆粒にしか見えなかった姿が、段々、そして急速に輪郭を伴い、それが急行するヘリコプター群であることはすぐに分かった。そしてそれらヘリの大集団の最先頭に、見覚えのある白いティルトローターが2機……いや先頭の一機はダークブルー、3機。

 

「ティーポット!! それに先頭のあれは……」

 

 エンジンが渾身の全速であることを示す、超高熱に揺らいだ両翼を誇示した3機のV22オスプレイを先頭にして続く、ヘリコプターの軍団。そして空中戦艦さながらの巨大飛行船が、真っ直ぐこちらに向かっていた。誰が見ても救援、明らかなる味方。

 

 その空中艦隊の最先頭にいるのは、アビドス高校に贈ったティーポットの3号予備機。電子戦装備を取り外し、20mmバルカンを両舷に増設したガンシップ仕様……今のその名は春風号。

 

 周囲のユスティナ・ミメシスが攻撃の手を止めて呆然と空を見始めていた。それは無理もない、誰だってこんな光景を見たら呆然とする。

 

 何故ならその数は。

 

 

「多すぎませんか!? 何百機いるんです!? あとその飛行船何!?」

 

 

 ヘリが7分に、空が3分だ。

 

 





「なんかとんでもないことになってるね……」

 報道を店で見ていた朱城ルミは、それほど重い事態とは思わず報道を見ていた。ルミ自身は厨房にいたので中継の決定的瞬間を見ていなかったのもある、食そのものが大事な玄武の店は、食事中テレビを流したりはしないからだ。しかし突然外が大騒ぎになった上に、客もスマホでそれを知ったのか、食事どころではない様子になり帰っていったので、一度店を閉めて店子と共に報道を見ることで事件を知った。

 いくら中央と距離も縁も遠い山海経でもトリニティの慈愛の君の名は知られているし、その麾下である12使徒の内、数人とはシャーレで会い、交流もあった。トリニティは遠いが、中央が荒れれば外周自治区の山海経高級中学校とて影響が不可避、これは大事になったな、キサキはこれから苦労しそうだ……という感想だった。

 だからルミはぜんぜん、当事者になるだなんて思っても見なかったのである、その瞬間まで。

 ドガン!! そんな天井でも抜けたような音が頭上から響き、耳がピンと立ったルミは何事かと上階に走るとそこには……。

「あっルミちゃんシェフ!! チャーハンおなシャス!!」

「?????」

「カツカレー」「オムライス……」「町中華でチャーハン頼まねぇやつとかいるのか!! いねえよなぁ!!」「ラーメンだろ!!」「もうなんでもいいよ……ひもじい」「……私はマーボーがいい」「屋根ブチ抜いたことをお詫びしてから注文するべきでは?」「それもそうやな、すまんルミさん」(ヒナちゃんがいるので、何時もより声に出している)

「ちょっと状況つかめないんだけど!?」

「ごめんなさい、貴女がルミ? 申し訳ないのだけど……何か食べさせて。急いでいるの、早く会場に戻らないといけなくて」

「??????」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。