ゴッドスピード……マダム・ベアトリーチェ。
それは熾烈な戦いであった。
エデンの戦い……これよりキヴォトスに長く語り継がれることになる出来事の一つ。暴力荒れ狂うこの地で聖夜と並び「伝説」に至るなど……そうある事ではない、だからそれは一つの象徴となる。
天に地に、そして地の底へ。この1日はまさに戦いの中にあった。
後に「回廊の戦い」「斜行エレベーターの決戦」と呼ばれるものも、バトルオブエデン、その戦いの内の一つ。アリウス自治区への大型機動兵器搬入口、秘されたゲートを巡る戦いは、桐藤ナギサ救出に集いし地上を埋め尽くした生徒達による報復……地下への侵攻という形で始まったが、思わぬ苦戦を強いられる。
万人の生徒という絶対的な数の暴力が活かせぬ、閉鎖空間での戦いは困難を極めた。それは隠されたと言うには想像よりも広い空間であり、最早基地と称してよい規模の存在だったが、通路は一度に数百人単位の生徒が展開できるような空間ではない。
そしてアリウス側に残された戦力は、少ないといえども盗まれたスーパーアバンギャルド君ターボカスタム、それも44機。そして脇を固めるアリウス学兵は文字通り残された真の精鋭、マダムに忠実な戦闘マシンさながらの彼女達の抵抗は凄まじいものだった。
数多いトラップ、無数のセントリーガン、そして何よりスーパーアバンギャルドの猛威が数を頼みに突入していく生徒達を簡単に蹴散らす、それはアバンギャルドの名にふさわしい恐るべき力。
学兵100人で囲んでも勝負にすらならないと謳われたミレニアムの守護神は、この閉鎖空間では厄災そのものだ。電磁装甲を持つアバンギャルドは銃撃に対して無敵に等しく、その力は生徒100人をひと暴れでなぎ倒す。
弾切れやエネルギー切れを狙おうにもアリウス学兵が随伴歩兵としてよく働き、容易ではなかった。そもそもアバンギャルドタイプは無線給電に対応していてエネルギー切れという概念がなく、交代され給弾されてしまえばヘビーガトリングもバズーカも使い放題だ。
対抗できるミレニアム総領主旗機、スーパーアバンギャルド君RSCという最大戦力が、地下空間という場所とジャミングで無線操作信号が届かず、中層以降使用不能になるという事態が、重く連合学兵達に伸し掛かっていた。
トリニティ・ゲヘナ連合戦車隊も死力を尽くしたが、戦車は屋外で使う機動兵器である。展開できない閉鎖空間で置物にされては、スーパーアバンギャルドタイプに勝利することは容易ではない。多くの戦車がバズーカで撃破され、被害は大きかった。連合戦車軍団指揮官、棗イロハ座乗のゲヘナ旗機、虎丸がターレット損傷・砲塔旋回不能になる程の激戦。
銃弾を「切れる」シスターフッドの聖堂騎士といえども、逃げ場なく真正面から複数火線のヘビーガトリングガンを全て切り払うことは難しく。聖堂騎士の証たる銃剣は勿論、特殊警棒もミレニアム製とはいえ20mm弾に長く耐えられるほどの強度は持ち得ない、弾き続けるも押し切られ、銃剣と警棒を折られ撃破されるシスターが続出する。
そして頑丈さで鳴らしたレッドショルダーも、人間津波の中でローラーダッシュを封じられ機動力を失い、バズーカが直撃すれば撃破されてしまう。連携できない他校生徒の援護のため、盾になるべく前に出たことが裏目となった。
各校の名だたる戦力が苦戦する様は、地形と人数の要因が大きい。ようするに、味方が味方の足を殺しているのだ。
そうして膨大な負傷者を出しながら前進していった連合学兵達の迎えた戦いのハイライトが、斜行エレベーターのあるメインホール……駐機場。
別名、アリウスの殺し間。装甲車両をアリウス自治区に下ろすためには制圧必須の斜行エレベーターだが、上下左右天井裏にいたるまでアリウス残存戦力が集結しており、それは文字通りの死闘。
暴れまわる盗難アバンギャルドタイプ、あらゆる位置から狙い撃ちされ、アリウス生徒が「このまますり潰せるかもしれない」そう思う程にキルレートはアリウス有利となる状況。
その目論見を、SRT特殊学園と正実選抜中隊が破壊した。
SRT隊は開戦当初からよく働いた、位置だけは判明していても内部不明の空間は罠だらけな上に順路も不確か。これを索敵して回っていたのがSRTだ、闇の生徒達として鍛えぬかれた面々は所属をヴァルキューレに移しても錬度は衰えていない。しかも装備は油断なく保管していた各個人用のそれを運び出してきた防衛室長の手で全員に行き渡っており、完全武装。
封鎖されたゲートを開き、トラップを無力化し、道を調べ。奇襲を防ぎ、そして整備孔に潜り込んでは敵の後背を突く。通路に陣取る正面撃破不能のアバンギャルドを攻略できたのは、彼女達の貢献が極めて大である。
アリウス督戦隊は精鋭であっても、SRTの生徒には及ばない。まして屋内戦闘で浸透戦、しかもSRTはFOX隊以下6小隊24名。連邦生徒会長という絶対者の握り拳たる彼女達に、アリウス生が勝てる道理はなかった。
そして選抜中隊……正義実現委員会選抜中隊には「Dチーム」が存在しない、アルファベット連番のチーム名は前身たる「特殊戦研究会」のコードを引き継いでいる。トリニティ入学と同時にD1のコードを持つ生徒が特殊戦を抜けて以降解隊、欠番となっていた……が。
今日、復活成った特戦研D小隊は潜入を得意とした隊、そして隊長……D1は敵の急所を嗅ぎ分けることに長けた、彼女達の中で唯一翼を持たず、獣の耳をもつ闇の黒猫。
選抜特戦隊はその嗅覚でアバンギャルドの弱点を看破していた。無線給電されているなら発電・給電システムがあること、それらは熱を発するため必ず吸排気口が存在し、操作要員も必要なことを。
閉鎖空間において、かつて付属中等部特戦研部長であったD1・杏山カズサに勝利しうる生徒など……12使徒を除けば数えられるほどしかいない。液体のようにダクトから無音で滑り込み、施設要員と機材を破壊して回るD小隊によって、アリウスの優位は崩れ去る。
そして、ついに戦いの均衡が崩れる。
スーパーアバンギャルド君RSC2号機が、エレベーターホールに突入したのだ。
操縦中継機をミレニアム号艦内ででっち上げた白石ウタハ率いるエンジニア部が、切り札RSCと共に到着したのだ。地下でビーム砲が封じられ、給電不足で電磁装甲が停止したところで……圧倒的な性能差と、操作プレイヤー「UZ」の超反応が全てを蹂躙する。
あっという間にパイルバンカーの餌食にされた残存盗難アバンギャルドは程なく全滅し、アリウスは組織的抵抗力を喪失、戦闘は終息した。
ここに至るまで約5時間と少し、そうは感じないほどに長く、厳しい戦いだった。
アリウス自治区は目前。ついに黒幕を打ち倒す時が来たと、硝煙に汚れた顔で互いを称え合い、激戦の果てに今日知り合ったばかりの、他学から来た学友達と共に……闘志を高めて決戦に臨む。
彼女達が、やけに煙臭い最後のゲートを抜けた……その先にあった光景は。
盛大に炎上するアリウス自治区!
「もう火の海じゃん!!」
燃え盛る街並み!! 地下なのに何故かある夜空が、炎で赤く染まっている!!
「ええ……」「何? この……何?」「……わ……ぁ……」
なんせ一面、瓦礫!! 瓦礫!! 瓦礫!! 無事な建物らしきものが全然見つからないレベルで破壊し尽くされている。焼き討ちとかそういうレベルで済んでない、もう廃墟だこれ。いや廃墟っていうか戦場とか空爆跡、現在進行形で灰になってる最中だった。
そして、こういう光景を作る連中に心当たりがありすぎる。
皆、流石にドン引きした。いや確かに自分達も大暴れの予定だったので、結果的に大惨事になるやろな、ぐらいの気持ちはあった……けど到着したら、もうとっくに自治区全部火の海で完全廃墟になってるとか思わんでしょ。
早すぎる、超スピードだとかそんなチャチなもんじゃない速度で街が消滅してる。この場に連合学兵が至るまで大体5時間と少し、5時間でこれなの? おかしいよ……様子がおかしすぎるでしょ。
別働隊の距離的な移動時間を考えたら、焼き討ち完了まで実質所要1時間かかってないぐらいなんじゃないか……という恐怖に凍りつく想像が浮かんだ。やるかやらないかで言ったら、連中はやる。
宇宙怪獣空崎ヒナと、ウキウキしながらティーポットから弾薬補充を受けていた12使徒は当然として。アビドスの生徒会長と正実の長、ミレニアムの武闘派も名の知られた強者だったが、例の鉄骨天使……あれがヤバすぎる。完全に人間辞めてる領域の生命体だった、おかしいよあれは……目があったら即命乞いしてしまうでしょ、あんなの。
そんな連中に襲われたら街一つぐらい……こうもなるわな。でも心底ドン引きだった、最後の戦いを前にした高揚感が吹っ飛ぶレベルの、夢でも見てるような大破壊がそこにあった。
「ア、アリウス自治区が……」「みんな、焼けてる……」
火柱に巻かれて倒壊する建物の音が響き、火の粉が舞い上がっていく光景は端的に言って地獄だ。まさに暴虐の炎に包まれたといった光景に……元アリウス生徒達は卒倒しそうになった。苦しみばかりの日々とはいえ、ここは自分達の暮らした街、故郷。それがすごい勢いで焼け落ちている……。
やっぱり全ては虚しい……いや、虚しいって本当にこういうことか? 何か違うだろ、ここまですることある!?
するのがダチョウだった、容赦は全く無かったし「全てが虚しいってんなら全部「無」にしてやろうぜ!! バニタス焼き討ち術!!」とか言いながら火を放っていたりした。
バニタス焼き討ち術って何、焼き討ちに術もなにもないだろ。
それを聞いていたサオリは、バニタスはそういう意味の言葉じゃないと思ったが……理解不能の暴力性を前に言葉を失ったりしていた。サオリも含めてアリウス生徒達の中で「教え」が壊れていく。真の暴虐に晒された時、人は虚しさより先に恐怖と困惑が勝る。
呆然と燃え盛る故郷を前に膝をついた道案内の(予定だった)元アリウス生徒に、多くの連合生徒達が励ましの声と共に「ダチョウは初めてか? 連中が暴れたら大体いつもこうだぜ?」とか何の慰めにもなってない発言で正気を削いでいく。
何かあると何時もこれなの? 地上恐ろしい所すぎるだろ……アリウスのほうがよっぽど平和だった? そんなことある? 元アリウス生徒達はトリニティに戻ったら、ナギサ様とサクラコ様の慈悲に縋って静かに暮らそうと心から思った。
そんな時、生徒の一人が気づく。
「……なんか歌? 聞こえないか?」「ほんとだ」
街が焼け落ちる音の向こうから、人の声が聞こえていた。それは歌のようにも思える、よく通る声。瓦礫を越え、そこに向かって生徒達は進む。その先は広場、かつて枯れた噴水が1時間ぐらい前まではあっただろう場所……まあそんな物もう無いが。
「……姉さん達だ」「総長っぽいね」「てこたぁ、あれかな?」
特戦研の面々がその歌声の正体に気づく。
何故なら……それは自分達、特殊戦研究会のある恒例行事……。
「力の限りパワー!! どこまでもツヨシ!!」
「我ら等しく、特殊戦」
「力をパワー!! 正義を尽くそう!!」
「力をパワー、悪を倒そう」
「皆の幸せ、平和にしよう」
「我ら等しく、特殊戦!!」
激アツな獲物を仕留めた際に歌う……特殊戦研究会部歌「この世を暴力」の斉唱。
「「「「「「「ぇぇ……」」」」」」」
歌われてる内容もドン引きだが、光景がもう異様すぎて有志学生達は頭がおかしくなりそうだった。恐怖に震え上がる暴虐の後夜祭、もう蛮族の宴だろこれ。
円状になって盆踊りめいて踊りながら歌う12使徒、その中心には……生きてるかな?ぐらいに死ぬほどボコされた感じで十字架に磔にされ、松明(意味深)の炎に照らされたズタズタの黒幕?成人女性の姿。と……その頭のおかしくなりそうな光景を、どこか遠い目になって体育座りで見守る、先生と7人の生徒達。
なんの儀式なんだよこいつは。
ぶっ潰した人間をキャンプファイヤーに見立てたそのイカれたBON!!踊りに、嬉しそうに混ざっていく選抜特戦研1年組の面々を見ながら、多くの生徒はドン引きし、震え上がる。わかってたけど特戦研やっぱ怖すぎだろ。
こうして、アリウスの戦いは幕引きを迎えた。
大方の予想通り、アリウス自治区の消滅という結末で……。
----------------------------------------------
「………ぉ、おのれ……」
12使徒の考えられない暴力をその身に受けたマダム・ベアトリーチェはわりと長い事失神していた。無理もない、11mm特殊炸薬弾頭「真実の羽根」60連射という暴虐+ついでの秒間5発×12なオラオラの拳を受けたベアトリーチェは生きてるのが奇跡ぐらいの惨敗ぶりだったのでマジで無理もない。
イカれた鳥の「力と夢」は、彼女の居城バシリカを完全に吹き飛ばして「おつり」があり、周辺を丸ごと更地にしていたので……わりと真剣に、生きてる方が不思議なぐらい。
真実の羽根にはある「効果」があり、無強化であればどうなっていたかはわからない。自称崇高に至ったと豪語したマダム・ベアトリーチェの自信は、案外馬鹿にできたものではなかったのだ……失敗してたら死んでます。
わぁぁぁぁぁ……わぁぁぁぁ!!
歓声がする、周囲に大勢何者かがいるようなのだが、状況がわからない。
「ここは、どこなのです? 何に閉じ込められて……誰か!! 出しなさい!!」
ベアトリーチェは不思議な揺れ方をする、狭い空間に閉じ込められていた。手足は縛られている……骨がメタメタに折れているので縛る必要あるか?な感じではあるが、拘束されていて身動ぎ程度しかできない。
「いるのでしょう!? 何をしているのです!! 開けなさい!!」
彼女をイラつかせているのは激痛と閉じ込められている不快感だけではない、この揺れ……何者かに自身が収められた箱を担がれ、揺らされているのだ……そして軽快でいて不愉快にも楽しげな電子旋律が鳴っている。
そこでベアトリーチェは気づく、この箱……棺桶じゃね?
揺れる棺桶・軽快な電子音楽……総毛立つ、何故なら彼女は「それ」を知っているからだ。
「な、何をするつもりなのです!! 冗談はやめなさい!!」
あのイカれた鳥共に、自身は棺桶に詰められて抱えられ、踊られている!!
それは12使徒という狂った鳥達がボッコボコにして惨敗させたダークサイド大人を……処刑する時に時折やる「パレード」のパフォーマンス、そう、棺桶ダンスだ。
黒服が以前「自分が」パレードされた時の光景をマエストロに録画してもらっており、それを笑いながら男ども4人で見ていたので知っている……頭おかしいんか、付き合いきれんわと心底思ったアレを、今自分が!?
ベアトリーチェは知らなかったが、棺桶ダンスは12使徒達の基準で「健闘した」敵手に対して行われる、わりと礼節に則った処刑前の作法である。イカれた鳥達は勝敗が付いた後なら、許しがたいほど悪辣な大人に対してもそういう儀礼を大事にする気風がある……あるのだが……処刑される当事者にはそんなの関係ない。
周りの歓声、そして棺桶ダンス……これが意味するところは。
「おハロー、マダム。トリニティ宇宙港へようこそ」
公開処刑!!
開かれた棺桶から担ぎ上げられたベアトリーチェは初めて外の光景を見る……場所は既に地上、そこには全周を埋め尽くす生徒達の海!! そして正面に嫌な予感しかしない、ミレニアム製と確実にわかる醜悪なデザインのロボット!!
「や、やめなさい!! 何をするつもりなのです!!」
「何って……月面旅行の見送りだが?」
「はぁ!?」
「トリニティ宇宙港だって言ったじゃんね、なあ姉妹達」
「ん、ここを発射場とする」「胸が熱くなるよ……!!」「いよいよだね」「待ちかねたぜ!!」「楽しみですわ」「嬉しすぎる……夢が叶う」「待ち遠しかった」「打ち上げの準備……万端」「ウタハパイセンと、リオ会長に感謝」「パワーオブドリームの時間だ」
宇宙、そして打ち上げという恐ろしすぎる文言。そして眼前にあるミレニアムのロボット、その上半身でこれでもかと主張する……巨大なミサイルシステム、それでこれから何をされるのか察したマダム・ベアトリーチェは絶叫した。
「や、やめなさい!! 気でも違ったのです!? 何を考えているんです!! こんな、こんな馬鹿げたことを!! ミサイルは人を乗せるものじゃないでしょう!? 常識というものはないのです!?」
そら叫ぶだろ、ミサイルに詰めて射出されそうになったら。
「わぁ……嬉しい……ついに聞けたね!! マダムの命乞い!!」
「このために頑張ってきたもん、嬉しいね」
「うれしいー!!」
「こ、このイカれ鳥共がぁぁぁ!!」
「マダム、マダム。辞世の句もオナシャス!!」
「辞世の句!? 頭がおかしいにも程が!? 殺す気なのですか!!」
「? ダークサイド大人だし、この程度じゃ死なないと思うけど……黒おじとかもう6回ぐらい打ち上がってるしさ、マダムはまだ初回だから不安かもだけど、すぐ慣れるって」
「黒服!? 貴方一体なにやって!? い、一緒にするんじゃありません!! それに辞世の句というのは死ぬ時に詠むもので、詠ませるものではないわ!! 慣れるも何もないわ!!」
「え? そうなん? マジか……黒おじもゴルおじとデカおじも、毎回センスある一句と「そういうこった(字余り)」残していくから、てっきりそういうもんかと……じゃあ普通に俳句でいいや、さあ一句!! 一句!!」
「先生!! 先生ーーッ!!」
ベアトリーチェは思わず先生を呼んだ、このイカれた鳥共に一体どんな教育してきたのか問い詰めたい思いが溢れた。けれど先生は無実である、ダチョウは最初からダチョウだし、内一匹に死ぬ思いで勉強を教えたりはしたが、道徳の授業は試験範囲外だった。
先生はマダム・ベアトリーチェと話す事など無い。生徒達へした所業を思えば強い怒りがある……しかし先生たる者として、その感情を生徒達の前で発露するのは憚られたし、優先すべきは常に生徒なのだ。
゛………。゛
「先生? 呼ばれてるみたいだけど、どうする?」
゛聞かなかったことにしておくかなぁ。゛
「うへー、先生も結構怒ってる感じ? だよねぇ」
゛今回は流石に、ね?。゛
だから12使徒にその暴虐を止めるように言える者は、もうこの場に誰も居なかった。ナギサも、先生も居ない……先生の言うことは聞くかというとかなり怪しいところなので、ベアトリーチェが助かるにはナギサに慈悲を懇願する他になかった……が。
ナギサは装甲車に仕舞われたままだし、目が合った知らない生徒から……心無い命乞いの言葉をかけられ、深く傷ついたミカにトドメのハグをされている最中なので意識は戻らない、現実は非情である。
もう一方のETO責任者はというと……羽沼マコトは少し離れた見晴らしの良い場所からヒナを含めたゲヘナの首脳達を側に侍らせ、花火見物の良位置取りに余念がない。
マコトにとってベアトリーチェは既に無様な敗者、特段話をしてやる必要性も感じないのだ。イブキを抱え、哀れな敗者が空へと上がる最高のショーを見上げることのほうが優先される。
そして……この待望のメインイベントを見ようと押しかけた生徒達によって、マダムに近づけなくなったアリウス生徒達は、ベアトリーチェの声も聞けない位置にいる。もし近くにいれば、自分を救えと命令され、心無い言葉も浴びせられただろう……それを察したツルギとサクラコ達によって、意図的に遠ざけられていた。
剣先ツルギと歌住サクラコは、外からはわかりにくいが……至極優しみに溢れた心優しい少女達である。悲しいことに誤解されやすいのだが。
だから助けは来ない。
しかし、呼んでいない連中は来たりする。
「クックック……マダム、ごきげんよう」
「やはりこうなったか」「予想よりもかなり大事になりましたがね」「そういうこった!!」
「黒服!? マエストロ達まで、貴方達!! どういうことなのです!!」
なんと黒服達ゲマトリア一同だった、しかもしれっと先生側に立ってるのでベアトリーチェはキレた。こいつらは一応自分の側であった筈なのに、どのツラ下げてという思いはわりと当然である。
「お前たちの作った物!! どれも使い物にならないではありませんか!!」
「おやおや、これは手厳しい……ですがマダム、我々は忠告したはずですよ。あれらはあくまで試作品、だからこそ倉庫に全て保管しているのだと……」
「効果は望めたと言っていたではないですか!!」
「クックックッ……ええその通りです、神秘防御貫通弾は彼女たちに「有効」でしたとも、確かに防御を貫きました……虫刺され程度には。ゴルコンダは消沈していましたね、流石に自信作が蚊のそれ以下では無理もない」
「あれの現実はつらいものでした……」「そういうこった……」
「はぁ!?」
「ですがあれらを全て持ち出した上に複製するとは、見事な手腕とは思いますが、いささか強欲が過ぎましたね。それにデータシートは何故お持ちにならなかったのです? あれがあればとても世間に出せるような品ではないことはわかったはず……クックック」
「そんなもの……!? く、黒服!? 貴方!? 最初から!?」
「さて? ……ですがマダム、貴女は素晴らしい貢献をしてくださいました。これは見事な成果と言えるでしょう、これには我々も脱帽する他にありません、実に素晴らしい」
「帽子被ってるのゴルおじだけやん、黒おじ」
「おっと、そうでしたね。クックック」
「ま、まさか……黒服!! 私を実験に!? お前ーー!!」
まあ流石にお気づきになるが遅すぎる、そもそもアメミットと真実の羽根とかいう超兵器が12使徒に提供されている段階で彼女は気づくべきであった。テクスト付与兵器など、普通に考えて生徒に持たせて良い代物では絶対にない。
アメミットに付与されたテクストは「引き金を引く者の裁定」だが、肝心の弾丸……真実の羽根に付与されたそれは「この羽根に撫でられし汝、悪なりや?」である。
悪、対象判定がたったその1文字だけのテクスト。それはあまりに漠然とした概念……これがどう機能するのか、それこそがこの「実験」の最終目標であった。概念としての悪など曖昧が過ぎる条件だ、法など所詮人が定めたもの、概念として動作するかは未知数……だからこそゲマトリアは12使徒という無垢なる凶刃にそれを与えた。
アメミットの裁定……持ち手が我欲・私欲による他者への危害意思……拡大解釈すれば殺意という「負の意思」を検知すれば「自滅」する銃を使える12使徒は、強い神秘を内包しつつも無垢なる者に限りなく近い存在だ。同時に恐怖の要素も強く持ち、極めて均衡の取れた、理想的崇高のサンプルたる存在だと言える……少々素行が乱暴だが、観測・計測器として非常に有用なのだ。
アメミットと真実の羽根は、単なる厚意で与えられた武器ではない。しかし気に入ってなければ、その気質にある意味信頼がなければ、到底渡せるような代物ではない。無垢……とは聞こえが良いが、本当の意味で頭が悪い鳥類だからこそ提供したのだとも言える。
常用できていること自体がおかしいのだ、だからこそゲマトリアは12使徒を気に入っている、とても。
「ベアトリーチェ、そなたは短気がすぎる……やりすぎなのだ」
「そういうこったぁ!!」
「ですがマダムがお怒りになるのもわかりますよ、いささか心苦しくはあります……とはいえ大変良いデータが取れました、これは素晴らしい……マダム、感謝いたします」
「ちょっと!? ゴルコンダ!?」
「? ゲマ研的にはさっきのはいい感じだったの?」
「ええ、そうですよリクさん。素晴らしいデータが取れました……まさかこれほどの成果を得られようとは、発明品や資金の「盗難」は確かに問題でしたが、結果的に得る物の大きい成果です、クックック」「盗難!? 提供でしょうが!!」
「ほえー、よくわからんけど、よかったね!!」
ゲマトリアが12使徒を「気に入ってる」のは、勿論その気質もあるが、研究に興味を示してくれ、協力的でかつ稀有な個体値を持つ生徒という点だけでなく、その羽ばたきが生む影響力も大である。彼女達のもたらした効果は計り知れない、それ以前は何だったのかという程に、研究は高進捗・好循環。
定期的に襲撃されるぐらい安いもの、ゲマトリアの歩みは今、絶頂期にあると言っても過言ではない……だからこそベアトリーチェの逸脱した方針はいささか困る。今現在ゲマトリアは神秘研究所としてキヴォトスに広く知名度があり、表の顔も大きなものだ。キヴォトスに重大過ぎる干渉をされては不都合なのである。
と、いうわけで……黒服はベアトリーチェへの制裁ついでに実験をすることを考えた。アメミットと真実の羽根のデータを偽装しておいたのもこの日のため、そして計画は完璧だったので……見事に、こう……。
゛……盗難ってさぁ……。゛
それは絶対、黒服の罠っぽいことに想像がついた先生であった。使えそうで使えない兵器を放置して盗ませたのだ、こいつ仮にも自分の研究所に所属してた奴でも容赦ないな、というか止める方法他にもあったでしょという思いが巡る、ダークサイド大人に恥じぬ悪辣ぶりだった。
゛黒服さぁ……ちょっと後でお話があるんだけど、いいかなぁ?。゛
「ええもちろんです先生、是非に……私もお話がしたい、クックック」
シロコ連れてこ、ナメたこと言ったらケツバットしてくれるだろうし……そう心に決めた先生に、初めて見る双頭の紳士が歩み出た。ゴルコンダとデカルコマニーは会ったことがあるけれど、この人物は初である。しかし特徴からして、なんでゲマトリアにいるのかわからないと名高いプロの彫刻芸術家……。
「先生、こうして直接お目にかかるのは初めてとなろう……私の名はマエストロ、貴女のような淑女の前に出るには不慣れな身、無作法を許してもらいたい」
゛あ、マエストロさん、ご丁寧に……。゛
「貴女は以前から我が芸術に対して理解を示してくれていると、この娘達から聞いている、いささか不本意な形での公開となってしまったが……ヒエロニムスはどうであったろうか」
゛その、少しの間しか完全な姿では見られなかったんだけれど……とっても綺麗だったし、凄いなぁって。表現貧弱すぎるかな……。゛
「そうか……いや、未完成の品をお目にかけるのは汗顔の至りではあったが。美しいと、そう評してもらえるのであれば……十分に意義のある作であった。先生、貴女の評をとても嬉しく思う」
゛あ、いえいえ……。゛(皆から一番紳士って聞いてたけど本当に紳士だ……)
「マエストロ、よかったですね」「そういうこった……!!」「うむ……」
゛ゴルコンダ、デカルコマニーさぁ……ちょっと黒服と一緒に後で、真実の羽根っていう弾の事でお話があるんだけど、いいかなぁ……?。゛
「ええ、是非に」「そういうこった!!」
「一体何をしてるんですお前達は!?」
マダムも思わず突っ込みたくなる空気であった、君等敵対してる自覚ある?
「そういやゴルおじ、あれ何かいい感じなったとか言ってたけど、何が一体どうなったの?」
「おお……聞いてくださいますか。では、そうですね……先ずはテクストを物体に付与させる効果とその転写、そしてその変化について……」
あ、これ長くなるな……先生は12使徒、炭沢リクの何気ない質問がゴルコンダの研究者面によくないスイッチを入れた事を察した。
゛巻きでお願いします、あとの予定が……ほら皆待ってるし。゛
「おっと、すみません、そうですね。マダムのせっかくの初飛行ですし」
「先生!? ゴルコンダ!?」
「まとめますと「悪」という定義の曖昧なテクスト作動条件を付与した場合であっても正常に作動するのか、そしてそのテクストは未記載である別のテクスト、「制裁」に書き換え、連鎖させるのかという試験において、望ましいデータが得られたことです」
゛ベアトリーチェは悪判定でたから大爆発したんだ……。゛
「そうなります、実に見事な大爆発でありました……実験は成功、研究の成果としてこれ以上は望めない結果です、実に感慨深い」「そういう……こった!!」
悪特攻のテクストは正しく動作した、ゲマトリアの研究目標は全て達成されたのだ。でもお前ら自分が悪なのは自覚ないんか?
゛アリウス自治区吹っ飛んだけどね……やりすぎぃ……。゛
ミカの聖なる鉄骨無敵バリアーがなければ全員巻き込まれてた気がするなぁと先生は思った。いや、無敵バリアーも大概だな……あれはあれで一体何?
「これほどの有意な結果、なまじの事で辿り着くことはできなかったでしょう……。マエストロ、黒服、お二人の協力あってこそと言えます。感謝をしたい」「そういう……こったぁ……!!」
「なに、私もアメミットの彫金を経て大いに得るものがあった……素材の構築、テクストを刻み込むという工程、神秘を反応させる反転の技術……また一つ高みが見えたのだ。崇高は近づいている……そなたらとの合作あってのヒエロニムスでもある、礼を言うのはこちらであろう」
「クックック……素晴らしいことです。また一つ謎が解明され、我らゲマトリアが真理を紐解く、新しき一歩となった……近づいている……我々は崇高に向かって……!! 一歩ずつ、確実にね、クックックックッ!!」
黒服がマエストロに手を差し出し、そしてデカルコマニーにも促す。杖を脇に、ゴルコンダを片手で抱えたデカルコマニーは黒服とマエストロの握手の上から手を置き、ゲマトリア4人の男たちは達成感と共に互いを称え合う。
それは、ひと仕事を終えた男達の姿であった。
12使徒達がその周りに集まって一斉に拍手を始める、なんだかよくわからんけど良い感じになったらしいし、上手いこといったならお祝いしてあげないとな……という軽いノリである。
「なんかわかんないけどおめでとー!!」「お? 始まる?」「ゲマ研次のテーマ早く出して!!」
その流れは事情がよくわかってない周囲の生徒達にもなんとなく広がり、万雷の拍手となってゲマトリア達を包んだ。ゲマ研が某有名カードゲームの開発元であることはわりと周知なので、関係のない声援もある。遠くにいる生徒達はそろそろ打ち上げが始まる感じかな? という期待感に胸を膨らませての喝采であった。
「ほんとに何なのです!? 何を見せられてるんです私は!?」
完全にベアトリーチェ置いてけぼりの中、いよいよ準備が整う……。
「待たせたね皆」「準備終わったよぉ」
「ウタハパイセン、斯波」
「よく整備されていて助かったよ、アバンギャルドタイプは整備性が良いとは言えない。丁寧に扱われているようで嬉しいね、リオ会長も喜ぶだろう」「天下のエンジニア部にそう言ってもらえると嬉しいねぇ」
「あれ? リオ会長は?」
「桐藤さんのところさ、黒幕の発射はまかせてくれるそうだよ」
ミレニアム号から降りたリオは棺桶ダンスされているマダムを見ると、ナギサの見舞いに向かったのだった。来たるべき無名の司祭射出のためにデータは計測しているが、十分に溜飲が下がったということだろう。
「ほんじゃ始めますかぁ……マダム一句できた?」
「できるわけないでしょうが!? やめなさいこんなこと!!」
「俳句はやっぱ難しいんか……黒おじは俳人やね」
「教養の一つですよツバメさん、先生に教えを請うのもいいでしょう」
「その手があったわね、きっと激アツな一句が出てくるようになるよ」
゛えっ!?。゛
「ウタハせんぱーい、1号弾のノーズコーン開けました、いつでもー」
「うん、いよいよだね……コトリ、ヒビキ、製品版の実射は初めてだ、慎重に頼むよ。締め付けトルクの管理を忘れないでくれ、前はそれでノーズコーンが分離してしまったからね」
「試験弾は炸裂せずにヘルメットさんを弾道飛行させるだけになっちゃいましたからねぇ」
「人打ち上げるのこれが初めてじゃない!? 頭がおかしいの!?」
人間を弾道飛行させるという恐怖の文言が平然と飛び出してくるミレニアムだったが、まあそのぐらいはあることかな? ぐらいにはキヴォトスの生徒達は慣れ始めていた、一方ダークサイド大人とはいえ、一般成人女性のマダムは自分の所業を棚に上げてドン引きである。
「やめっ!? やめなさい!! 死ぬでしょ!! 死ぬでしょそれは!?」
「心配性やね、人間そんなヤワじゃないって」
「そんなわけがあるかー!!」
12使徒に抱えられて奇跡の人間ミサイル発射機「アリーヴェデルチ君」に運ばれるマダムの姿を、多くの生徒が拍手と共に見送る。誰一人マダムが空に舞っても死ぬことはないなという感じでいるのもわりと狂気であるが、現在のキヴォトス人の平均的感覚でいうとこれは全然死ぬようなもんじゃないなという感じであった。お前らは大人をなんだと思ってんだよ。
「黒服!! 助けなさい!! これは死ぬでしょう!?」
「ご心配なく、救命の手立ては整っておりますよ……それにこれは大事なこと、我らゲマトリアの通過儀礼……イニシエーションなのです」
「はぁぁぁ!?」
「我々はこの数年間……強い負荷を受けることで大きな進歩を見てきました。この大いなる試練はマダム、貴女にきっとより明るく……崇高への道を示してくれるに違いありません」「そういうこったぁ!!」
「そんなわけあるはずないでしょう!? 通過儀礼!? これが!? 何を言っているのです!?」
「困難な道のりほど、新たな発見があるものだ。そなたもそれを知るよき機会となろう、この上昇負荷が必ずやそなたに別の視点、アイデアを見出す切っ掛けとなると願っている」
「これでどうやってアイデアが出ると!? それどころじゃないでしょうこれ!? 死ぬって言ってるでしょうが!? ミサイルに詰めて射出!? こんなのありえないでしょう!? おかしいと思わないのです!? ここまでされるいわれがあるとでも!? 流石にないでしょう!?」
マダム迫真の命乞いに生徒達は大興奮だ、キヴォトスやっぱ怖いとこだなと先生は思った。
「この試練を乗り越え、貴女の崇高……求道の歩みが新たなるステージに至ることを切に願っております。クックック……いや、実に喜ばしい、新しい船出ですな……良き旅を、マダム」
「ゴッドスピード、ベアトリーチェ」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
゛やっぱゲマトリアおかしいよ……。゛
「いやぁ……マダム命乞いの才能あるよ、中々でないってこの切れ味」
「わかる、これは逸材」
「あくまで自分を下げない高圧感、これはレベル高いよ」
「お前たちぃぃぃ!! 覚えていなさいぃぃぃ!!」
「すげぇぇぇ!! マダム!! 最高だよ!!」
「こんな激アツなの聞けることある!? 高まってきちゃう……!!」
「命乞い名文ランキングの上位に急浮上だな……感動する」
大興奮の12使徒によって、奇跡の人間射出ミサイル「アリーヴェデルチ君」に収められたマダム・ベアトリーチェが今……空高く、舞うのだ。大地との別れ……こんにちは月。待望の時が来た。
「おまたせ!! じゃあ最後の花火といこうか!!」
大歓声の中、書道の得意な12使徒、花川カオルによってミサイル本体に書かれた「サヨナラ」の感傷的な文言が輝き、真上を指向したアリーヴェデルチのミサイルが今……点火される!!
「アリィィィィヴェェェデルチッ!! サ ヨ ナ ラ だ ぁ ぁ ぁ !!」
< あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! >
轟音と共に射出されるマダムinアリーヴェデルチ君が2発、空に向かって舞い上がる!! 白煙をたなびかせ、天へと昇るそれは……エデンの戦いの終わりを告げる最後の花火。
地上の生徒達は大盛況だった、こんなイベント楽しすぎる。キヴォトス基準でも中々見られない壮大なショー!! 悪党が空に打ち上がって弾ける……こんな激アツなの見逃せない。
クロノスを通じて、キヴォトスの殆ど全ての人々がそれを見守っていた。
あらゆる光学機器、そして人々が肉眼でそれを追っている。
「うん、順調に上昇中だ。後は炸裂すれば成功かな……そういえば弾頭は何にしたんだい? 爆薬じゃなかったみたいだけど」
「? そういや斯波にまかせてたな、どうなの斯波?」
「おお、花火って聞いてたから、とっておきを突っ込んどいたぜぇ」
「マジでシバちゃん、激アツな奴なの?」
「おおよ……ほれ、スズミと一緒に作っていたあれ、新しい閃光弾の試作品をな、配合表出来てたから、ついでにドッサリ作っといたのよ!!」
閃 光 弾
「わぁ!! なら昼間でも綺麗に光りそうだね!!」「どんな光かなぁ」
お馬鹿のダチョウ共がよ!!
偶々近くで聞いていた、斯波とアホの鳥とスズミの3人と1年を共にしてきたクラスメイト、篠原が驚愕と共に問い質す。マジでヤバい事態になるまで……あと20秒もない!!
「ちょ、ちょっとまって!! スズミの新閃光弾って!! あれはまだヤバくて!! アリーヴェデルチ君の弾頭って何キロなの!? いくつ積んだの!?」
「ん? 一発1トンだから……だいたい2000キロか? マダム分は抜いてるけど誤差だわな!!」
「シ、シバちゃん……!!」
閃光弾は、外の世界の人類ならグレ一本でも至近距離なら失明レベルの閃光が出る。
それが…… 2 0 0 0 キログラム 。
「この……お馬鹿!!」
その日、キヴォトスは光に包まれた。
・キヴォトス全土の人々
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!(目がぁぁぁ)
・キヴォトス全土の光学系観測機器
ほげぇぇぇぇぇぇ!!(死亡)
・キヴォトス中央周辺の全カメラ付き滞空型巡回ドローン
クゥーン……(墜落)
・セクシー百合園FOXセイア様
こんばかなことがあるのかい!! なんでそんなことをしたんだよ!! 何考えてるんだよ!! 2トンの閃光弾!? お馬鹿!! この……お馬鹿!! 眩しいに決まってるだろ!! 何ルクスだよ!! 何がしたいんだよ!! そういうことはしなくていいんだよ!! 花火のつもりで閃光弾仕込むやつがあるか!! 2トンだぞ!? なんでそんなことをしたんだ!! 言ってみろ!! ええ!?
未来とかもう見えるわけないだろこんなの!! 未来以前に前が見えないわ!! 真っ白だよ!! 全部真っ白だわ!! キヴォトスの未来も私達の未来も全部真っ白だわ!! どうしろっていうんだいこんなの!! これから私達はどうなってしまうんだい!? こんなことある!? こんなのってないでしょ!! こ、こんな……こんなのあまりだ、死ぬほど頑張ってるのに地獄が加速していく!!
未来視とか普通超強いチートクラスの能力の筈だろ!! なんで何の役にも立たない事態になるんだい!? ありえないよ!! あんまりだよ!! 私達がなにをしたっていうんだい!! こんなのってないだろう……!! こ、こんな…こんな……。
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!(後始末の想像でガチ泣き)
マダム・ベアトリーチェは光になった。
一応死ななかったけど輝きの中に消えた……感じでダークサイド病院にひっそり入院したりして、後日療養してるところにテンション最高の黒服が現れたりしてマジギレしたりもあったが、アリウス事変はこれで終わりを告げたのだ。
尚、被害総額はマダムのウルトラテロに匹敵する数値をアリーヴェデルチ君最後の輝きが叩き出し、キヴォトス中央区は夢でも見てるみたいな大惨事になってしばらく機能停止した。
終わってみれば全員倒れている、全てが虚しい戦いであった……。