トリニティの12使徒   作:椎名丸

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連邦生徒会救護の一報を受けた人々の反応。

百合園総領主代行「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
まだ事態が飲み込めない聖園さん「?????」

外務の安藤さん「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
総務の藤沢さん「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
財務の天田さん「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
法務の富士川さん「ほげぇぇぇぇ!!」(どう法的解釈しても襲撃なので死亡)
シスフの歌住さん「主の救いがあらんことを……」(普通に連邦生徒を心配してる)
一般通過救護騎士団員「ミネ団長、流石にごわす!! 連邦合掌ばい!!」

ゲヘナ総領主の羽沼さん「キキキ!!見てみろあのチップス詰め込まれた生徒の面!!傑作だぞ!!」
ゲヘナ風紀委員長「イト? うん、こっちに来るのね? わかったわ、待ってる」

ミレニアムの総領主以下生徒大多数「ほーん、お疲れやったね」(興味なし)
会計の早瀬さん「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」(フトモモ削減)



26・エデン条約締結記念日(祝日)

 

 百合園セイア不予。

 

 この知らせはキヴォトスに雷鳴のように響き渡った。

 

 曰く、執務席から立ち上がったところで腹部の痛みからよろめき、椅子によりかかりながら座り込んでしまったという。その場に同席していた聖園ミカ次席生徒会長に抱えられ、即座に寝台へと寝かされている……どう考えてもストレス性の胃炎であった、それ以外は考えられないし、実際その通りであった。

 

 あまりに労しいことであり、学園都市国家キヴォトスの多くの人がその快癒を願いつつも「マジでやばいやつだよ!!」「ナギサ様も倒れてるのに!?」「もうミカ様しか残ってない!!」と多くのチャットアプリ・SNSが一時繋がりにくくなる程であったのだから、いよいよトリニティどころかキヴォトスの屋台骨が傾いていることがわかろうものだ。

 

 事の発端は連邦生徒会が「過労で全員昏倒」したことにある。

 

 トリニティ救護騎士団の病院飛行船が連邦生徒会ビルに突入。屋上に取り付いて全員を救護搬送するという異常事態、すわテロかクーデターかと全土が騒然となったところに発されたトリニティからの声明。

 

 曰く、徹夜一週間超過の連邦生徒達が限界を迎え、生命の危機に瀕していることが確認されたため、これを即日救護した……である。これに対する人々の反応は様々であった。

 

「一週間徹夜とか、どんだけだよ……そんなに仕事あるんだ?」

「トリニティによるクーデターではない? いっそそのほうが……」

「全員て……テロリストの襲撃にあったことを隠蔽しているとか?」

「ナギサ様に過負荷かけるから、ダチョウに襲われたんじゃねぇの?」

 

 一部真実が混ざっていたが、思ったより人々は冷静だった。ミネが鬼電を無視するため、12使徒経由にて事態を把握したセイアの手当が、なんとか混乱に先んじたのだ。

 

 ティーパーティー・ホスト代行が映像とはいえ、姿を見せての声明は効く。火の七日間をほぼ無傷で凌ぎきったセイアの手腕は誰もが知るところなのも大きい。

 

 収容され、救護された連邦生徒達の姿を隠さず、映像を通して見せている(ミネとは揉めた)のもあった。ペンを握ったまま白目を剥いて運び出されてきた連邦生徒達の姿(モモカに至ってはチップスを口一杯にねじ込まれた凄惨な姿である)が報道で流れると、珍しく多くの生徒達から同情を集めたりした……本人達が知ったら悶絶するだろう、生き恥な姿であったが。

 

 トリニティ・ティーパーティーが大概な政務状況であることは知られていたが、連邦生徒会も似たような状況であったことが、これを機会に周知され、いくらなんでもこれはねぇな……という気持ちに多くの生徒が至った。

 

 注意深く見ていれば、受付の連邦生徒が終日1週間以上ずっと同じ顔なのだから……つまるところ窓口の彼女達は1日も休んでないし、朝から晩までずっと窓口に座りっぱなしだということを意味している。窓口でこの有様なので、実務してる階上の面々もお察しだ。

 

 そもそも連邦ビルは以前からずっと不夜城で、電気が消えている時間がゼロなのだし24時間稼働なのは明白、これでエデン事件からぶっ通し……そら限界だわな……という感情にキヴォトスは満たされた。

 

 手続きが遅い遅いと度々ブチ切れていた一般通過大人や生徒達はそれに今更ながら気づき、ちょっと悪いことしたなと思った、が……。

 

 しかしそれも一瞬の事、何故ならこの日から連邦のお役所業務が……全部止まるからだ。連邦生徒会が機能停止しているのだから当然だが、各種申請と交付は完全にストップしている、各機関への指示出しもだ。インフラこそサンクトゥムタワーがセーフモードで動いているので平常通りだが、その他は何も動かない。

 

 皆して普段から散々バチボコに罵っていても、統治機構がいざなくなるとマジで困る、行政が止まると本当に何も動かないのがお国なのだ。

 

 こうしてキヴォトスは阿鼻叫喚のお祭りに突入した……かに見えた。

 

 そんな中、セクシーなセイアちゃん様でもマジもう限界です……ということで、最後の力を振り絞って声明他シャーレへの支援要請を出したのち、百合園セイアは静かに息を引き取った感じで撃沈。

 

 うつ伏せに顔から寝台へ沈んだ姿はいっそ哀れである。すっかり萎んだセイアの尻尾に縋りつき、私を一人にしないでと泣く最後の生徒会長……聖園ミカを残して3首長の内2名が脱落。こうしてトリニティ総合学園の歴史上初めて、生徒会長が単独一名という体制が誕生する。

 

 考えなくてもわかることなのだが、3人いるトリニティ生徒会長を射的の残弾ぐらいの勢いで消費している、今のキヴォトスはかなり切羽詰まった状態だ。元々学生自治国家という政治不安定要素の向きが強いお国柄であるとしても十二分に異常事態。

 

 末期戦もいいところな、ここまでの惨状に追い込まれても統制が崩れない、トリニティの現体制こそ純粋に褒められるべきだろう。この期に及んでもティーパーティーは勿論として、主要3閥以下全ての部活・団体・生徒がナギサの復帰を信じ、自校トリニティの立て直しに協力的であり続けているし、一般生徒達や市民の日常は平常通り。

 

 ETOがあることでゲヘナの協力があり、ミレニアムからも支援がある。時間さえ……具体的には体制再建まであと一週間もあればという所まで来ている。市民生活にさしたる不自由なくこれは、相当に凄いことだろう。

 

 トリニティはね。連邦は知らん……で、済ませたかったな……。

 

 既に事実として、もう一つの連邦生徒会とさえ言えるトリニティ・ティーパーティーが……この事態を無視するわけにはいかない。キヴォトスが文字通り爆発してしまうからだ。

 

 連邦生徒会が機能停止し、連邦生徒会長を失っている……今の主人無きキヴォトスに対して「意向」を示せる人物は三大学園の長、総領主生徒会長3名のみ。しかし桐藤ナギサが療養中の今、キヴォトスの混乱を収められる程の人物など……。

 

 いる。

 

 それはゲヘナの羽沼マコトでも、ミレニアムの調月リオでもない。

 

 圧倒的な「力」を持つ個人。最早いかなる存在もその身を害することはできず、あの最強生物空崎ヒナをもって、戦えば「どうなるかわからない」と称された……神に最も近き者。

 

 眼前に立てば、このキヴォトスの誰もが平伏するだろう人物、それは……。

 

 トリニティのラスト・タイクーン「聖なる鉄骨の君」。

 

 トリニティ総合学園生徒会長総領主代行「聖園ミカ」は、自身のホスト就任と同時に……キヴォトス全土に対して重大な声明を発表した。

 

 

「今日からお休み!! 全部お休み!! キヴォトスはぜーんぶお休み!!」

 

 

 そういうことになった。

 

 

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「そういうわけらしい」

 

「「ええ……」」「大変そうだ」「アズサ!? 大変ってレベルじゃないわよっ」

 

 トリニティ本校の一室で、阿慈谷ヒフミはクラスメイトにして補習授業部の盟友?である12使徒、城島ツバメから同じく補習授業部アズサ・ハナコ・コハルと共に事の顛末を聞いていた。外部に漏らせない秘匿情報なので、トリニティ生徒と言えどもこれを知れるのはティーパーティーの面々以外では限られる……のだが。

 

 12使徒達の中で補習授業部(解散済)は、実のところ既に一般生徒枠から外れつつある。ヒフミがナギサのお気に入りという点は考慮されない、純粋に要注意生徒枠……エデン事件で暗躍したと思われる疑惑が濃いためだ。

 

 推定ファウストのヒフミは勿論だが、事件後ハナコの豊満な胸にめり込む程抱きしめられて振り回されていたツバメはその時、気になる文言をいくつかハナコが零していたことを聞き逃さなかった。

 

 確信を得たのはそれから一週間後。補習授業部が揃って放課後ティータイムしていた時。コハル痛恨の情報お漏らしと、ヒフミ・ハナコの露骨な話題転換あたりで察しがついた。ツバメは平時アホの鳥でクソボケだが……特戦研の総長、最も頭の回る最優のダチョウ。

 

 ファウスト宣言とその顛末、ハイランダー等多数の他校と本校の生徒を扇動して、キヴォトス総力戦モードにしたの絶対こいつらだろ……というわけだ。

 

 12使徒は基本的に何も覚えられないアホの鳥と言われているが、時に注意深く物事を見聞きしていることもある。戦闘状態でアンテナを伸ばしている時のダチョウはサバンナの果てまで聞き取れる地獄耳だし、内容も忘れない……そして情報共有はノータイム。そうでなければ入学早々に悪のお嬢様方を一人残らず噴水に漬けたりはできないのだ。

 

 しかし証拠は無い、そしてツバメ達12使徒もそれを調べて何かする気もない。その正体が割れれば……ティーパーティー入りは不可避の実績である、ハナコがそれを本気で嫌がっていることを知っているツバメは全て知らないフリをし、沈黙することにした。これはヒフミについても同様だ……一般生徒として、平和な普通の暮らしを望む皆のためにこそ、自分達がいるのだから。

 

 そのために12使徒が……我ら姉妹の力がある。藤の枝下で安寧を求める生徒達の平穏より、優先するべきことなどない。我らが主も、それを肯定してくれるだろう。

 

 それはそれとして、必要な情報は与えておかないと不味い連中である。

 

 ヒフミとハナコが組めば、キヴォトスを転覆可能なレベルの策謀がスッとお出しされてしまう、アズサとコハルはその実現のための戦力として申し分ない……つまるところ、自己判断で活動されては不味いのだ。

 

 今寝台に力なく横たわった、死にかけの弱ったキツネこと百合園セイアが知ったら「お前お前お前ら!! そういう判断ができて自分達ダチョウはどうなってるんだい!? どういうことなんだい!! なんでだよ!?」という叫びが出てきそうな、的確な状況判断であった。

 

「連邦生徒会もティーパーティーも限界が近い、一回全部止めて休暇にするのは理にかなってる。流石ミネ団長、そしてミカ様やね、判断が早い」

 

「えっと!? 連邦生徒会襲撃即断は、よくない方の早さですよね!?」

 

「ヒフミ、あれは襲撃じゃない、救護だ」

 

「やってることは同じですよねぇ!?」

 

「?」

 

「首を傾げるような事じゃないですよぉ!?」

 

「ヒフミ、救護は力を伴うこともあるそうなんだ、救護騎士団に入ったアリウスの仲間達もそう言っていた。きっと抵抗したんだろう……そうまでしても仕事を完遂したいとは、連邦生徒会の面々も立派な生徒達だったんだな……」

 

「ああ、防衛室の面々は見事な討ち死にだったと聞いている」「そうか……」

 

「アズサちゃん!? というかツバメちゃん!? 討ち死にって、それ明らかに襲撃の結果ですよね!?」

 

「「?」」「私がおかしいんですかこれっ!? そんなことないですよね!?」

 

「でも、これからお休みなんでしょ? 夏休みもまだ先なのに、なんだか得した気分かも」

 

「まさかトリニティだけじゃなくて、キヴォトス全体を「連休」にしてしまうなんて……ミカさんも凄いことしちゃいましたね、思い切りが良いというか」

 

「ミカ様が休みだって言ったら、ほんとに休みになるの……凄い」

 

 そう、今キヴォトスは少し早い夏休み……ではなく、完全に別枠の急遽生えた「祝日連休期間」ということになっていた。

 

 聖園ミカの「キヴォトスお休み宣言」を受けて、連邦構成学園の全てが一斉に祝日カレンダーに入り、スケジュールを急遽停止、学業・行政業務も最低限稼働の休日対応に入った。

 

 市井の企業といった大人達も同様で、降って湧いた休日に混乱しつつも、これに従う……サービス業は逆に稼ぎ時になるし、祝日それ自体は悪いことではないのだ。それに行政システムが止まっているのだから、ジタバタしても仕方ないという諦めもついた……そうするしかない、何故も何も「聖なる鉄骨の君」に、よもや文句など言えようか。

 

 連邦生徒会ビルと茶会総領主館、そしてシャーレの入口を封鎖するように突き立てられた計6本の鉄骨を見れば……文句を言いに来た連中も無言でスーッとフェードアウトしていく。

 

 どう見ても……鉄骨を退かそうとしようものならば、命の保証はしないという雄弁な宣言でしかない。休みにするか死ぬか選べと言われたら……誰だって命は惜しい。(ミカちゃんはそういう意図じゃなかったです)

 

 聖園ミカと戦って勝負になる可能性があるのは、どう考えても空崎ヒナだけだ。12使徒?いつかの全員撃破全身骨折(8時間復帰)をやったのは、絶対に鉄骨の君だろという確信が今……人々の中にあった。ヒナでさえ実質相打ちだった12使徒が12人揃っていて勝てない存在に、誰が抵抗しようなどと思うのか、選べる選択肢は命乞いだけだ。

 

 そうして、キヴォトスは祝日期間に突入した。

 

 色々後回しになってしまう行政サイド所属の生徒達以外には嬉しすぎるお休みでしかないので、全土の生徒が喝采を以てこれを迎え「ミカ様万歳!!」がキヴォトス・ネットのトップトレンドになり、トリニティの支持が更に上昇するちょっとした事故もあったが……ミカは時間稼ぎに成功したのだ、思いつきのわりに最適解だったのかもしれない。

 

 なので今、どこの学生達も浮かれた様子でこれからの予定を話し合っているのだった。

 

「うふふ……じゃあ、皆でどこかに行きましょうか? せっかくですし」

 

「ほんと!! あっ……でもいいのかな……正実はどうなるんだろ、前の連休は部活動があったし、ハスミ先輩に聞かないとだめかも」

 

「あ、そっか。コハルちゃんは正実の1年生だから、前の黄金連休半分は訓練旅行でしたねぇ」

 

「うん……皆で山ごもりだった……ウッチー達と一緒だから、別によかったけど……」

 

「訓練合宿か……アリウスの新兵訓練を思い出す……」

 

「大内達に今更基礎訓練はと思ったが、コハル達の引率という意味もあったか」

 

「うん!! ウッチー達すごかったよ!! あれもツバメがした訓練のおかげなの?」

 

「本人達の努力やな」

 

 ツバメはそうは言うが、特殊戦研究会の訓練はSRTのそれに匹敵か一部凌駕する「特殊技能の講習」だ。12使徒は魂の繋がり抜きにしても全員同じ動きが出来るが、それに近しいレベルを後輩達に仕込むに当たり、相当に洗練された訓練の日々があった。

 

 特殊戦の戦闘技能は一般的な学兵のそれとは全く違い、全てにおいてマルチプレイヤーであることを強いられる、各々がプロフェッショナリズムを徹底していなければ特殊戦ではあれない。大内が1年生にして正実の選抜部隊を預かっているのは伊達ではないし、それを仕込んだのはこの12人。

 

 コハルもその恩恵に与っている、正実の訓練様式の一部は「特戦研式」だからだ。そして補習授業の一環でツバメの教練を約2週間も直接受けた……結果、もう既に下江コハルは、どこに出しても恥ずかしくない正実学兵だった。

 

「コハルは強くなった……これならあるとしても、強化合宿は免除だと思うぞ。あれは体力不足組のための奴だからな、任意参加になる」

 

「そ、そうかな……えへへ……」

 

「じゃあ全員でいけますね!! アズサちゃんに海を見せたいと思ってたんです!! ね、アズサちゃん!! 海ですよ!! 海!! ちょっとシーズンには早いですけど、もう海開きはしてるんです!!」

 

「そうか……海、初めて見る……楽しみだ。ありがとうヒフミ」

 

「錠前達もと思ったが、まだ難しいか」「アリウス分校校舎、まだ出来たばかりですから……忙しそうとは聞いてますね」

 

「うん……色々と学ぶことも多いみたいだ。私もトリニティに来たばかりの頃は苦労した、こればかりは慣れるしかない」

 

 元アリウス学閥……現アリウス分校組は真新しい校舎を用意され、寮も充てがわれた。外部生の受入体制が整っているトリニティにとって、多少生徒が多い程度で問題はない。

 

 問題があるとすれば、今の今まで学生らしい生活というものを全く知らないアリウス組の再教育……キヴォトスの生徒として最低限必要な常識の教育、そして生活基盤の構築だった。出されたまともな食事にさえ困惑するような、あんまりな生活をしてきたので……これがそこそこ以上に時間がかかる。

 

 実際、シスターフッドだけでなく、ティーパーティーの生活指導部が総掛かりで再教育の真っ最中だ。サオリ達スクワッドチームも例に漏れない。

 

 元々自立心の強い「自由の素質」がある生徒はアリウスとして固まらず。既に正実や救護騎士団、シスターフッドへと所属し、アズサのように本校に居を移して再出発した生徒も居たが、これはかなり稀な例である。

 

 そして錠前サオリは残念なことに再教育過程の成績がよろしくない。生真面目な性格が仇となったのか、色々と苦労しているようであった。

 

「そういう意味でも、いいタイミングのお休みだったのかもですね。でもそれなら、夏休みが始まる頃にはまた出かけられますっ、ね? ツバメちゃん、アズサちゃん」

 

「そうやね、何……シスフと生活指導部が面倒見てくれてる。こういう事は慣れっこだろうし、心配することはない。これからはいくらでもそういう機会がある、そうだろアズサ」

 

「うん……」

 

「じゃあさっそく準備しましょう、うふふ……楽しみですね、ツバメちゃん」

 

「ああ」

 

「補習授業部旅行か……」

 

「えっと!? 補習授業部は解散になった筈なんですけどねっ、今の私達は帰宅部!! 帰宅部ですよアズサちゃん!!」

 

「それはそれで、その……ちょっと寂しい、かも……補習は嫌だけど……だって私、ほんとは正実だもん……」「私も一応ティーパーティーだからな」「一応!?」

 

「同時所属できる部活は限られますからね。ならここは補習授業部(仮)ということにしておきましょうヒフミちゃん、ね?」

 

「(仮)……また皆して落第しそうなんですけども……えっと、そ……そういうことなら……ま、まぁ気を取り直して行きましょうか!! 先ずは水着、そしてお泊りセットですね!! キャンプもありです!! 早速買いに行きましょう!!」

 

「D.U.にでも行くか、足は? ハイランダーは休日ダイヤだが動いてくれるらしいが」

 

「はい!! どうせならそのまま旅立ちです!! というわけで足を取りに行きましょうか。えっと、実は当てがありまして」

 

「当て?」

 

「シバちゃんに今整備に出してるんです。私達の2年3組号、クルセイダーちゃん!!」

 

 

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「どうでしょう、サオリさん。トリニティでの暮らしには慣れましたか?」

 

「いや……すまない、正直に言うとまだだ」

 

「謝る必要などありませんよ、少しずつで構わないのです」

 

「……ありがとう、その……助かる」

 

 錠前サオリはティーパーティーの療養施設、場所の秘されたVIP療養用の館に来ていた。

 

 ここはトリニティの上位生徒達が事情あって使用する場所……以前までは療養ではなく「軟禁」のために使用されていた施設だったが、今では限界を迎えたティーパーティー所属生徒用の入院施設になっている。

 

 サオリを迎えるこの館で今、最も位の高い生徒、それは……。

 

「桐藤、生徒会長」

 

 数日前に倒れた筈のナギサが、ベッドの上で体を起こしてサオリを迎えていた、随行はティーパーティー総務室・生活指導部の長、生駒。

 

「この場ではナギサでも構いませんよ、公の場でもないのですから」

 

「慣れさせるためならば言葉遣い、特に敬称はと思うのですが……ナギサ様がそうおっしゃいますならば。サオリさん、この場ではそのように」

 

「ああ……」

 

「ああ、ではありません。はい、です」

 

「う……はい」

 

「生駒さん、そのように厳しくせずとも……彼女達がトリニティへとやってきて、まだ一週間と少しです。戸惑うことも多いでしょう、焦らずに」

 

「お心遣いを……ご心配をおかけしております。ですが少々進捗が……このままでは本校への合流にいささか時間がかかります、せめて夏の休みまでには最低限に仕上げませんと」

 

「なんとか校外に出してあげたいのですね?」

 

「はい、キヴォトスの常識に疎すぎます。出る場所によっては言葉の選択一つで容易に争いになるのがトリニティの外、ナギサ様の翼下から出すにはあまりに心もとなく……ですが見識を広める良い機会である夏の休みに、旅行の一つもできないようでは不憫に思いますので」

 

「迷惑をかける……」

 

「迷惑など!! 貴女方はこれまでの分の青春を取り戻さねばならないのですから、その手助けをするのは生活指導部の務めです、お気になさらず。ですがその分指導が「巻き」になってしまいますが」

 

「……努力する」「します、あるいは、いたします、です」「します……」

 

「頑張っているのですねサオリさん、そして皆さんも……ところで、私に相談事があると聞いています、伺いましょうか」

 

 サオリが快癒に向かいつつあるとはいえ、療養中のナギサと面会しているのは、サオリから……というよりアリウスの生徒達の多くからの、ある要望が「上」の判断を仰ぎたい案件であったからだ。

 

 ナギサは寝台で面会しているが、実際にはもうかなり回復している。しかしセイアがなんとか持たせ、ミカが想像以上の妙手でキヴォトスの混乱を収めたので、ナギサが今ここで復帰すると少々都合が悪い。

 

 連邦生徒会を「救護」してしまった今、ナギサの健在が表に出ると……またぞろ小自治学区連合といった面々が良からぬことを考え出す。今はタイミングが悪いのだ、そういう理由もあってナギサの復帰は遅れる予定である。

 

 救護騎士団が館を厳重に固めているので、ナギサは一切政務などできない状況だし、外部の情報もよほどの場合を除いてシャットアウトされている……ナギサは連邦生徒会が12使徒の襲撃を受け、ミネに救護されて壊滅していることを、実はまだご存じない。(総務室長藤沢の判断)

 

 そんな中での相談事とは、吸収したアリウスの事。

 

 今現在トリニティのティーパーティー・ホスト、総領主代行のミカでは手に余るというほどではないが。慣れない首長仕事で余裕のない彼女よりも、内々にナギサへと話を通しておくほうが良いとの判断であった。

 

「すまない、制服がそんなに大事だとは思わなかった」

 

「学区法が無い場所から来たのですから、致し方ないことでしょう」

 

 相談の案件、それは制服。

 

 アリウス生達のトリニティへ編入に当たり、一般生徒用の白に青ラインの制服が配布された。

 

 これは標準制服であり、指定制服のある部活・派閥に入る場合はそちらに変更となる。あくまで入学時のスタンダードであるが……制服改造が盛んなキヴォトスの文化の中では珍しく、トリニティは制服の大きなカスタマイズが盛んではないので、これは学区でよく見かけるシンプルな汎用モデルだった。

 

 当然だが、戦闘用ではないので……元アリウス生徒達からすればかなり頼りない。だが理由はそれだけではない、アリウス生徒達は自分達の元の所属、アリウスの学章と制服を残したがった。

 

 トリニティの生徒としてあるのなら、トリニティの制服を着なければならない……アリウス学閥の旧制服をそのままという訳にはいかないのだ。キヴォトスにおいて学園指定制服とは、そのまま生徒の身分の証。学生証と並んで当人の所属を表す大事なものであり、その学園の制服を他学生徒が偽造・着用することは通常許されない。

 

 トリニティの制服を着せることは、サオリ達元アリウス生徒がトリニティの庇護下にあり、その身分を保証しているのは桐藤ナギサだという証。トリニティの制服を着ているだけで避けられるトラブルがある程に、このキヴォトスでは強い力を持つ護符でもある。

 

 たとえば何者かが身代金目的でこの制服を着ている生徒を攫ったとする、この場合……必ず捜索され、奪還される。見捨てられることはない、助けが必ず来るという信頼と実績があるのだ。

 

 そして最も重要な要素として、救助に出てくるのが正実学兵で済めば良いほう……ということだ。学外での案件であればあるほど……正実よりも、ある部隊の出現率のほうが高い。そしてこの場合、待っている結末は想像を絶する地獄となる、それは正に破滅の惨禍。

 

 そう、トリニティの制服を着ている限り、12使徒という最強の特殊戦がその身を守っているのと同じ意味を持つ。破滅的な暴力による報復が確約されているトリニティ生徒への攻撃は……荒くれ揃いなキヴォトスのアウトロー……ドロップアウター達にとっても相当に勇気がいる行為だった。カツアゲ程度ならともかく、拉致などしたら確実に来る……恐怖の鳥が。

 

 実際、恐鳥達はトリニティの生徒だから助けるわけではなく、見かけたらどこの生徒だろうと助けに走ってくるので視界に入らないことが重要だ……しかしダチョウの視力はサバンナの地平線まで見えるし、耳も良いので悲鳴でも聞こえようものなら時速70キロで走ってきて推参したりする。そもそもトリニティ生相手ならば確実に通報されるので、月面送りは避けられない。

 

 トリニティの制服は、12使徒という「力」がその身の安全を保証する証なのだ。

 

 だからこそ、制服に難色を示される事は、かなり大きな問題であった。

 

「忌憚なく、思うことを仰ってください。アリウスの紋章を背負い続けようとする、その理由を」

 

「……上手く、言えない……ただ、今までの全てを無かったことにはしたくないと、そう……思っている。良いことは少なく、悪いことが多かった、苦しいことのほうが、ずっと……だが」

 

「それでも、捨てたくはないのですね。過去を」

 

「ああ……すまない。拾われ、助けられた身で。これは我儘なんだろうな……」

 

「いいえ」

 

 桐藤ナギサは錠前サオリの言葉に、逡巡することなく否と返した。驚きに目を開くサオリに対して、ナギサは語りかける……それは我儘などではないのだと。

 

「大事な思い……願いだと、そう思います」

 

「……そう、か」

 

 サオリの身体から強張りが抜けた。慈悲を受ける身でという緊張があったのだ、しかしそれは良い形で裏切られる。サオリ達アリウスにとっては安堵の一言だったろう……しかしこれは、ナギサ達にはある程度予測できたことだった。

 

 マダム・ベアトリーチェの所業はナギサにとっても許しがたいことに変わりはない、でなければアリウスを更地にしろと12使徒に命じなどしない。

 

 12使徒は命令通りに、忠実にそれを実行し……アリウスを焼き払った。アリウス自治区は灰となり、最早残滓さえ残っていない。それはマダムとその配下による、アリウス再起の目を残さないための意図した破壊であった。

 

 アリウス自治区という寄って立つ場所を「消す」ことで、トリニティへと居場所を強制的に移し、生徒達を心理的・物理的な両面で完全にトリニティに吸収する……そのために行われた苛烈な攻撃。荒療治ではある、しかし残酷な決定でもあった。

 

 その結果、彼女達の故郷は失われた。

 

 苦しくともアリウスは彼女達の育った場所。何もかも失い、捨てることを強いられた身に、残されたアリウスの制服が……最後の緑(よすが)として映ったとしても不思議なことではない。

 

 苦しかったとしても、誰もがそれを、全部を……忘れたいわけではないのだ。

 

 だから、ナギサが返す言葉は決まっていた。

 

「そうですね……制服はトリニティ生徒であることを示す身分証でもありますから、アリウスの制服と合わせて着用するというのはどうでしょう、アリウスコートの着用を「正式」として認めます。また制服にアリウス学章をトリニティ校章と共に使うことも許します、前例もありますしね」

 

「はい、白洲アズサさんが現在そうしております。指定制服にアリウス学章を刻んでおりますね」

 

「アズサ……」

 

 白洲アズサはアリウスを捨てたのではない。裏切りはした、相打つ覚悟もした。しかし……家族のままだった。だからトリニティの制服に、それを刻んだのだ。

 

「いっそ制服を新造するのも良いですね……アリウス制服をトリニティの制服に改造してもいいですし、逆にトリニティ制服をアリウス制服に寄せた意匠変更も認めます。我がトリニティの生徒なのだと判るようであれば、好きにデザインをしても構いませんよ」

 

 完全ではないが、サオリもこれがかなり大きな「配慮」なのだということは理解できた。トリニティは比較的、服飾の品位について制限がある学園。制服の過度な改造例が少ないのも、他学に比べ校則がしっかりしているからだ。そんな学園で制服の自由改変など、そう許される事ではない。

 

「そこまで……その、いいのか?」

 

「ナギサ様の裁可が下ったのですから、即ちこれはトリニティの決定です。被服部に要望を伝えます、制服のデザインを新たに作るのならば先ず、皆様と相談して決めると良いでしょう」

 

「感謝する……ありがとう……」

 

「ふふ、いいえ。お礼を言われる程のことではありませんよ、このトリニティは総合学園です、幾つもの学園が集まり、形作られた場所……今新たに、かつて道を違えた古き盟友が帰ってきたのだと、そう思います」

 

「派閥、部活で制服が異なるのもその名残ですが、何百年越しの融和ですか……スケールの大きさに戸惑いますわね」

 

「融和、か……こんなことになるとは……想像もしていなかった」

 

 マダムの命令に従い、トリニティへの攻撃を計画していた時には「その後の事」など、殆ど頭にもなかったことに……今更ながら気づいたサオリだった。

 

 もし、全てが上手くいき……トリニティを打倒できていたら、どうなっていたのだろうか。

 

 いや、どうあれ被害が大きければ自分達は決して受け入れてはもらえなかった筈だ。アリウスの始まりのように、全てから排斥され、行く場もなく彷徨う……そんな背筋の冷たくなる想像が浮かぶ。

 

 もしかしたら、別の可能性として……アツコだけでなく、生徒達皆が「儀式」に焚べられ、サオリ達スクワッドだけが最後のアリウスとして残った可能性も……あるかもしれなかった。そうなっていたら、自分は、自分達はどうしたのだろう。

 

 その時、このアリウス学章を……この身に付けたままでいられただろうか。

 

「せっかくの機会です、随分と久しぶりの学閥統合となりますし……新たな分派の制服として恥じること無く、アリウスの学章を刻むべきでしょう。生駒さん、手助けをしてあげてください」

 

「拝命いたします、被服部と協議いたしまして」

 

「よしなに願います」

 

 だからこれは、奇跡のような幸運なのだ。アズサが引き寄せてくれた、細く白い天からの糸。

 

 その天の先で、糸を手繰る人が今……サオリの眼前で微笑んでいる。

 

「錠前サオリさん」

 

「?」

 

「トリニティ総合学園にようこそ。私達は貴女を、貴女達を歓迎いたします」

 

 





・クルセイダーちゃん(2年3組号)

阿慈谷ヒフミ所属の高等部2年3組に配備されている戦車。
他に利用者がいないため、主に阿慈谷ヒフミが日常的に私用で使っている。

トリニティ総合学園正式採用戦車、主に高等部の各クラスに配備されているトリニティの主力戦車の一種。その他にチャーチル・TOG2等があるが、大多数は扱いやすいクルセイダーが選ばれている。トリニティは機甲戦力に対する興味が薄く、砲兵と歩兵が主体であるため、あまり活躍する機会がない。これは潤沢な砲兵力と精鋭歩兵主義であるだけでなく、平時から一般生徒達が戦車で活動する機会がない、学園領内が平和であることに起因する。

エデン事件で戦車を総動員したものの、不慣れな生徒達で運用したため被害が大きく、トリニティの各クラス配布戦車はその多くが撃破されてしまった。この2年3組号は数少ない無傷でエデン事件・本校防衛戦を生き延びた車両。

戦車としてより日常の足として使われてきた2年3組号は、ヒフミが以前から特車整備部に度々整備に出しており、状態良好の上で特車2年の斯波の手でかなりチューンアップされているらしく、中身はもう殆どクルセイダーではない。


・ファンアートを頂きました。
https://www.pixiv.net/artworks/124195667 Emmeriaさんより
12使徒とV-22オスプレイです、ありがとうございます……驚きますねぇ。
M14ストームバードはノーマルですが、EBR使用のカスタムもいつか出番があるといいなと思います、しかしミリタリー詳しい人の情報量すごい。

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