この本来の歴史より、良くなってるのか悪くなってるのかわからない、イカれたキヴォトスの現状へようこそ。
ナギサ様「だから頼れるのはもう……先生しか……」
・アビドスに仕掛けられたカイザーコーポレーションの卑劣な罠!?
・アビドス自治区での大規模な戦闘、その真相とは。
・カイザーPMC壊滅か!? 12使徒と空崎風紀委員長の共闘再び!?
・カイザー系列各社に家宅捜索、噂の闇金融と関係か。
・トリニティ桐藤生徒会長、カイザーの声明に対し事実無根と。
「委員長? クロノスのニュースに何か気になることでも?」
ゲヘナ風紀委員の長、空崎ヒナは執務室でクロノスが発信するネットニュースのヘッドラインを眺めていた。彼女の側で仕える行政官、天雨アコから見れば……普段はあまりない事である。
デスクに座る時は書類の決済ばかりで、こういった片手間の情報収集は専門の者に任せていることが多い。彼女は情報部の出でもあるので、こういう雑多ではあるが必須の情報の蓄積はそちらの業務だと知っている。彼女がすることではない。
では、何故ヒナがそれを自ら眺めているのかというと……。
「アコ、どう思う?」
「まあ……いつも通りですが、流石だなと」
ヒナが興味を示し、アコが少し複雑そうに称えるそれは、カイザーコーポレーションが発表した、トリニティの行ったカイザー所有地での攻撃・破壊行為についての非難の声明……ではなく。それに対し出されたトリニティ生徒会、ティーパーティー首席生徒会長、桐藤ナギサの回答である。
「そのような事実はありません」
詳細はより長く儀礼に則った文章の羅列だが、要約するとこうなる。
そして付帯する反論には、カイザーの非難の要件について慇懃に……先方の無礼を咎めるように、かつ滲み出る嘲笑を込めて記されていた。
例を1つ出すならばカイザーの言い分から。
自らの所有地で訓練中だったPMC部隊がトリニティの榴弾砲部隊に攻撃され、大きな被害を被った、謝罪し弁済を……という非難と要求があるが。
対し、桐藤ナギサの回答は要約すると。
トリニティはそのような攻撃を行った事実はなく。被害のそれはPMCの砲兵隊が誤爆、弾薬の誘爆で補給部隊も巻き込まれて焼失したという話を伝え聞いております、大変不幸なことだと思いますが、貴方がたの練度不足・規律欠如が原因であるそれを、こちらのせいにされても……となる。
あれだけ砲弾ブチこんでおいてそんなの通る筈があるわけ無いだろ、という話なのだが……桐藤ナギサの手にかかれば、なんとこれが通るのである。それこそがアコが毎度のことながらと感嘆する部分だ。
何故か? カイザー側は榴弾を山程浴びていたが、結局最後まで「何処の誰」に打ち込まれたのか、トリニティである証拠を1つも持っていないのである。証拠が提示できないなら難癖でしかない。
何故トリニティ砲兵隊の存在を証明できないのか、それはティーパーティーが運用するV-22オスプレイ「ティーポット」にあった。この機体はミレニアム・エンジニアリング製の超強力な電波妨害が可能な電子戦機。金満のトリニティでさえ予備機含めて2機しか保有していない高価な虎の子であるが、相応の能力を持っている。
ECM広域電波妨害と対ドローン誘導妨害システムで、カイザー側の索敵システムが電波・カメラ含めて全てダウンしていたことで……目視以外で彼女達の姿を確認する術がなかったのだ。
砲弾の飛翔方向へと攻撃ヘリ部隊を派遣するも砲煙しか捉えておらず、部隊をセンサー等の記録機器で捕捉する前に全滅している、勿論機材は念入りに破壊されており、これではどうにもならない。ヘリを落としたのは「自衛した」と言っている12使徒、これはもう半ば災害なのでカイザーも今更突っ込んでこない。
撃ち込まれた砲弾は? 掘り出せばL118榴弾砲から撃ち出された不発弾は出てくるだろう……それが? なんの証拠に? L118という砲は確かにトリニティ砲兵隊の備砲であるが、使用される榴弾はキヴォトスでは一般流通している普通の榴弾に過ぎない。
それに砂漠なのだから、これまでにも砲撃訓練をした何処かの学園の部隊が過去にいたことだろう、それが偶々L118使用砲弾に近かったのでは? 暴論? そうですか、でもそれって貴方の意見ですよね。
またトリニティ砲兵こと、砲術研究会は確かに射撃訓練の課外授業に出発し、アビドス「方面」に向かいましたが、貴社の所有地に立ち入ってはおりません。別の場所にして訓練を実施しておりますし証拠もあります、ほらここに……地域住民がSNSで写真を撮られておりますね、住民の方と交流もしておりますが何か? となる。
そこには居ないし、別の場所に居たことを第三者が証明している。
種を明かせば、元々砲兵隊を二部隊動かしているだけ。花のティーパーティー直属第一砲隊、砲術委員会とその長はアビドスの砂漠に居たが……彼女に扮した第二部隊が、さも第一砲隊のように振る舞って別の場所に居ただけである。
結局、カイザー側は一度として牽引式榴弾砲の姿を確認できていない。
存在していないものの実在を証明することはできるのか。キヴォトス古則の問いの亜種であるが、これを相手に難題として突きつける点で、彼女の右に出る者もそう居ない。
最初から、全てを有耶無耶にしてしまう準備は万全だったのだ。
阿慈谷ヒフミは、慈愛の君から榴弾砲部隊を貸し与えられる際、こう言われていた。
「他ならないヒフミさんですし、全てお任せします。細かいことは私の方で……」
その「細かいこと」の部分がこれ、なるほど……実に細やか。
桐藤ナギサは見事に、そして華麗に自らの榴弾砲部隊を砂漠の陽炎の中に隠したのだ。それもカイザーPMCに「統制不足で未練兵」という信用商売の民間軍事会社に致命的なレッテルを貼り付けてである、トリニティ仕草としては満点だ。
これにはヒナも感嘆する他なかった。
繰り出した手管の、何一つとして無駄なものはない。
「電子戦機を出してきたのは攻撃のためだと思っていたけど、その真意は証拠隠滅だったということね。広報の砲兵隊はダミーで、砲弾は汎用品……鮮やかだわ」
普通、億円単位の金がかかったPMCに、堂々と榴弾などブチ込んでおいてノーサイドになるはずがない。しかしそれを成してしまうのが、今代ティーパーティーのホスト、桐藤ナギサであった。
「御本人は、いわゆるトリニティ仕草は薄いと聞きますが……やろうと思えばいくらでもできるということですか。相手が悪党であればあるほど、芸術的なほど悪辣に立ち回れる苛烈さというのが、恐ろしいところです」
「そうね、それに……例のヤミ金融、カイザーローン。連邦金融法違反だなんて、学区法なら逃げ道もあったわ、でもこれは無理……一体どうやったのかしら」
「連邦法適用となると訴訟は桁違いの難易度の筈ですが、想像もつきません……」
そして挙句の果てに、腰の重い連邦生徒会を財務室・金融部門あたりから突いて手を回したのか、カイザーローンを起点とした金融グループ各社の金融法違反についての告発、捜査・家宅捜索までを短時間でねじ込んでいた。
この手の捜査は何時もなら大した捕物にはならない……小物に責任を押し付けて終わり……の筈なのだが、何かとてつもなく大きな政治的圧力がかかったのか……カイザーローンは「連邦」金融法違反で見事に釣り上げられてしまったのだ。
カイザーローンが狙い撃ちにされている。何処かの誰かが、アビドスの受けた道理の通らない理不尽の、落とし前をつけさせようとしていることは明白だった。
それに、どう見てもマスメディアに仕込みが入っている。
アビドスのような、言っては悪いが零細の学園の問題にクロノスがこうも張り付く筈がない。何か情報提供があった筈なのだ……おそらくある総合学園から。煽り、問題を大きくしてカイザーの対処リソースを削っている、アビドスの苦難の道のりに世間の耳目を集め、同情を誘い、彼女達の味方を増やすことにも一役買っている、政治的なアフターフォローということ。
桐藤ナギサという人物は、これだけのことを平然としてくる。
更に12使徒という強大な実力行使部隊の存在……これまで善良な生徒達を食い物にして利を貪ってきた連中は、次は誰がと、何時自分の元に彼女の代理人が舞い降りるかと……さぞ生きた心地がしないだろう。
「アコ、その後のアビドスは報告書から変わらず?」
「はい委員長、まあ案の定、あの方の潜在的シンパになってしまいましたが」
「それはそうでしょうね」
たった5人を助けるために、ここまでしてくれる人間など他には居ない。
シャーレの先生は頼れる大人だが、彼女は生徒で上級生なのだ。頼り方もまた違ったものになる。難点はトリニティの最奥で暮らすため接触しづらいことであるが、シャーレの先生と両輪で今、連邦生徒会長なき混沌としたこのキヴォトスの問題に対処している。
もし先生が居なかったら、流石の彼女も限界を迎えてしまうかもしれなかったので、頼っていい大人の先生がいるということは幸いなことだった。彼女も1人で背負わなくて済んだことに安堵しているだろう。その分、周囲の連邦生徒会への不信が増しているとも言えたが。
桐藤ナギサ。それがこの1年と少しの間、キヴォトスの後ろ暗い闇の世界を凄まじい力で圧している人物の名。ゲヘナという混沌の居心地を良しとしつつも、平穏を願っている空崎ヒナにとって、これは痛快なことであったし、望ましい変化と言えた。それをもたらす良識と力を持つ者、民衆から望まれる……理想の君主のふるまいをする、高貴なる者。
君主、それは尊き者を指すという古い名称。
このキヴォトスという民主的な学政による自治国家に存在しない役割。
だがその呼び名に相応しい人物が現れた時、人は君臨を求める。
失踪した連邦生徒会長は確かに傑物だった、君主と称して良い。彼女の治世はキヴォトスの歴史の中でもかなり安定した部類であったと誰もが納得もするが……それが祟ったのか、不在となるや世は混沌に陥る。君臨した者は突然居なくなった、引き継ぎもなく、誰にも知られること無く消え、未曾有の混乱が始まる。
しかし、キヴォトスが地獄の坩堝となることはなかった。
シャーレの先生と……彼女と12使徒がいたからだ。
元々連邦生徒会長失踪の当初から、無制限治安維持戦をしはじめた正義実現委員会と12使徒のフルパワーを用いて、トリニティとその周辺の治安はなんとか保たれていた。桐藤ナギサの緊急事態宣言が混乱に先んじたのだ。
先生着任後は、D.U.やトリニティから遠い自治区へも、先生の要請に従いシャーレに入部した生徒達とは別枠でもって、12使徒を送り込んでいる。シャーレからの派遣要請生徒の中にはヒナ自身も含まれており、この時期はよく外回りで会っていた。こうして当時の混乱は次第に収束していったのである。
ヒナが一時離脱したゲヘナは当然混沌としたが、ゲヘナは何時も混沌としているので、このぐらいはなんでもないという割り切りもあったし、最終的には12使徒と一緒に帰ってきて制圧したので問題はなかった。
キヴォトスはこうして惨禍から脱したのである、が。
連邦生徒会がするべきことを、先生と彼女の二人がやっている。
先生は先生だ、居なくなった生徒会長の代わりにはなれない。
だからこそ、誰かが言ってしまう。
「桐藤ナギサ様に、連邦生徒会長となってもらえばいいのでは?」
「そうだ、あの方であれば……」
そうして、始まってしまった別の戦いもあったが。トリニティ学園側からのかつてなく強い拒絶反応と、当人の「双方の混乱が大きい」と固辞されたことにより立ち消えた……しかし今でも潜在的な支持があり。出馬を表明すれば満票は確実であろうと言われている。
同じ君主でも、超人と呼ばれた連邦生徒会長に対し、彼女は慈愛の君と呼ばれる。
空崎ヒナは連邦生徒会長を優秀で巨大な人物だとは思っているが……能力が超越的に過ぎ、どこか不気味な存在という感覚が否めなかった。一方、桐藤ナギサはそうではない。
善良な人柄をトリニティの校風で覆い隠した、慈愛の人。
本音は隠す、言葉は飾る。しかし行動は雄弁だ。
だから空崎ヒナは彼女と、彼女の代理人達を信用できる。
一方、天雨アコにとっては不可思議である意味危険な存在。
派閥政治を行う巨大学園の長という立場は、安定した地位というわけではない。政治的な対立で追い落とされることなど、これまで幾度と繰り返されたトリニティの恒例行事。巨大な組織は内に目が向きがちだ、派閥の長は決して楽な居場所ではない。
力ある存在は周囲を圧してあたりまえの世界。学園都市キヴォトスの力関係は複数の巨大学園とその周辺中小自治区が織りなす、強い者の論理の社会。そんな中……自分達だけの安寧を求めず、隣人を愛し、善意の心配りを行う人物がトリニティに現れる。
学園自治区の領界を超えて治安活動を行う。それはともすれば侵略行為と見なされかねない危険な行い。だからこそ12人という少人数で行なわれる善意の活動。トリニティ自警団のそれを外に向けさせたようなこの活動は、政治的には失点だ。組織人として学園の利益にならない活動は糾弾の対象でしかない。
実際、派閥首長でもなかった去年頃は、かなり厳しい立場だった時もあると聞く。
無償の慈悲など無駄な行為、立場を悪くする愚かな行いに過ぎない。
しかしそんな組織にとっての無駄が、いつしか有益な要素へと変化する。トリニティを覆う空気が変わり始めたのだ。かつて悪辣で高慢の証と冷たい目で見られていたトリニティの校章が、在校生は誇りに、入学希望生は羨望へと。
助けを求められた時、手を実際に差し伸べる人は……そう居ない。しかし実際にしている者がいれば、次の一歩を踏み出す抵抗も下がる。高貴なる者の振る舞いを体現する者が現れたことで、学園の気風さえも僅かずつ変化し始めた。現金なもので、人は褒められれば、褒められた理由を大事にするようになるのだ。
彼女という人の形をした「信用」と、12使徒という圧倒的な「対応」による初動、正義実現委員会という抜かずの「力」が支える信頼……トリニティを中心とした、安定した経済圏の完成。3大学園のパワーバランスは徐々に変化しつつあった。
トリニティ自身が否定するトリニティからの支援を受けた自治学区は、潜在的な支持者となる。桐藤ナギサは何も求めない、だからこそ何かの形で恩を返そうと彼女達は思うのだろう、この連鎖が目に見えない勢力図となってキヴォトスに広がりつつある。
エデン条約の結果設立されるETOは、ともすれば周辺の中小自治学区にとっては本来、強大な圧力となる軍事力だ。しかしそれに対して懸念の声は驚くほど少ない。その支持者達というのが、彼女とその代理人に救われた経験のある複数の自治区生徒会。
これまでの信頼、そして期待。より強い権限を彼女に握ってもらい、その翼の下で自分達に安寧をもたらしてほしい……そう考えた小勢力がこぞって賛意を上げている。
エデン条約を彼女が引き継ぐ際に混乱がなかったのも、当然の事なのだ。
独裁者の誕生、その序曲にも見える状況をアコは優れた知性でもって察知していたが、エデン条約が逆にそれを縛るものになることも見抜き、ヒナと共に賛同し、推進していた。勿論懸念はある、中でも不気味なのは万魔殿が静かなことだが……。
「エデン条約も、近づいてきた」
「まだ不安はありますが……」
「主な心配事はむしろこちら、ゲヘナよ……マコトがやらかさなければいいのだけど。向こうのことは心配していない、彼女がいるから」
「マコト議長と入れ替えてほしいです、心から……」
「流石の彼女も、ゲヘナの首長なんてしたら倒れてしまうかもね」
「それは困りますね、また凄い混乱になりそうです」
「連邦生徒会長失踪の混乱も、やっと収めたところで今彼女が倒れたら、一体どんなことになるか……キヴォトスがひっくり返ってしまうかも、先生に負担が集中してしまうわ」
「本当に、冗談ではすまないんですよね……」
「伝え聞く限り、ストレスに強いほうではないと思うから、心配よ」
「身を削りすぎです、そんなだから慈愛の君なんて呼ばれるんでしょうけど」
「自分で始めたことだという責任感が強いのね、だから彼女達が従う」
そうでなければ、キヴォトスの安寧を願う12使徒が、あれほどの忠節を尽くす筈もない。鋼の連携と凄まじい暴力性を合わせ持つ彼女達を、ああも律せられるのは桐藤ナギサの、その人徳あってのこと。
中学時代、組織に属することを嫌う当時の12使徒「特殊戦研究会」を、トリニティに入学程なくしてティーパーティーに引き入れたのは彼女なのだ。正義の意味を知らず、悪を判別する方法もわからず。ただ無遠慮にその力を周囲に振るうだけだった彼女達に……忠誠と奉仕の心を刻み込んだ偉人である。
「12使徒……1人ぐらい分けてくれませんかね……」
「そうね……だったらあの子がいいわ」
「やっぱりやめましょう!! 私が頑張りますから!!」
「なんで? それにアコはあの子程強くない」
「イオリを鍛えますから!!」
「なんで?」
だがヒナとしては半分以上本音ではあった。
12使徒の中から1人、あの子が欲しいのは確かだ。
聖夜事変から幾星霜、キヴォトスにおける空崎ヒナの評価は「12使徒と、たった1人にして互角」という、とてつもない存在に昇華されてしまった。
あれと、互角。たった、1人で。
正義実現委員会の長、トリニティ最強の「個人」である剣先ツルギでさえ、模擬戦闘で膝をつくまでに5人倒すのがやっとだったという12使徒を。実戦で一度、相打ちに近い形までもっていっている。その後、聖夜に13人揃って共にD.U.自治区を暴れまわり、全てを破壊し尽くした結果、最早空崎ヒナは1人にして個人ではない。
混沌を体現するゲヘナの中にいると誰も彼も気にもとめないのが、まさにゲヘナであり救いでもあるのだが。D.U.はもとより他自治区からは怪獣の如き扱いである。万魔殿からの圧力は聖夜事変以降、不思議なぐらい縮小しているが。同時に12使徒と同じような仕事ぶりを求められる面も増加した。単純に忙しくなっているのだ。
イオリも強いが、流石に12使徒に匹敵するほどではない。何より連携の堅固さといったら、他に比類する部隊はSRTぐらいであるが、去年の聖夜にそのSRTの1隊、先のCROW小隊を12使徒・Cチームが粉砕してみせた今、キヴォトスに彼女達12使徒を超える部隊は存在しないことになった。
災厄の狐を捕縛したFOX小隊の活躍でSRTも面目を戻したものの、やはり12使徒に比べれば一段落ちるという評価が一般的だ、屈辱だろう。しかし現実12使徒に勝利できた戦力は存在しておらず、互角に戦えた者も空崎ヒナただ1人なのである。
救いなのは彼女達が皆善良で、桐藤ナギサという良心が外付けされていることだ。これがクーデターを画策するような悪辣な者に騙されでもして、仕えていたら……一体どうなっていたか。
キヴォトス全土がゲヘナのようになっていても驚かない。悪いことをしてそうな輩、気に入らないやつは殴る。それがかつての「特殊戦研究会」であった彼女達の信条である。やっていたことは正義のヘルメット団といった具合。
全員あまり賢くないのも不安要素だった、何度か騙されて悪事の片棒を担がされたこともある。ただ騙されたことに気づくと全てを破壊するので、リスクが大きすぎて手を引かれただけだ、特にブラックマーケットは都合4度も破壊されているので危機感が強い。
正しきことをするための道に迷う12の翼、桐藤ナギサは巡り合うべくして巡り合った主人だと言える。
そこまでの強さは求めない、でもあの子が1人だけでも来てくれるか、同等でなくてもいいから、素直で優しい強い子が入ってきてくれないかな。それがゲヘナ風紀委員の長、最近の空崎ヒナのささやかな願いであった。
この有様うち、ナギちゃん様が指示・実働してる部分は僅かである。
慈愛の君を怒らせた(と皆が想像した)時に起きる事態はこう。
「ナギサ様の政治力鬼つえぇぇ!! このまま逆らう奴ら全員ぶっ潰していこうぜ!!」
とは、発動すると大勢の忖度によって事態が止まらない状況を意味する。