トリニティの12使徒   作:椎名丸

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ミカちゃん様「い、今のうちに……!! お休みで時間稼いでるうちに!! なんとか緊急案件だけでもぶっ潰せば平常モードに……皆がんばって!! ナギちゃんが戻ってくるまで!! セイアちゃんは早く起きて!!」

休めない茶会3年生チーム「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

萎んじゃったセイアちゃん「ミカ……私は今、君の心に直接語りかけている……無理だから当分頑張ってくれ。何、君ならできる。寝言みたいな陳情が来なくなるの素晴らしいがすぎるよ、あとは頼んだよ……私は……休暇だ」

まだ何も知らないナギサ様「時間を気にせず絵を描くなんて本当に久しぶりですね……次は何を描きましょうか。そうです、お菓子も作りましょう。ロールケーキを沢山、二人や皆さんの分も……あの子達はチョコロールが好きでしたね」

外務の安藤さん「ミカ様!! Bチームの子達が!! 温泉開発部と!! これは一体!?」

ミカちゃん「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」



27・キヴォトスのやや暑い日の海

 

「見てくださいアズサちゃん!! ペロロ様砂像です!!」

 

「うん、立派な姿だ」

 

「どうしました? コハル、マシロ」

 

「「な、なんでもない、です……」」(ハスミ先輩、おっき……)

 

「けひゃぁぁぁ!!」「そうですね、ツルギ……揃っては随分久しぶりです」「……これて、よかった……きひぃぃぃぃ!!」

 

 燦々と照らす太陽の中、生徒達が多く戯れる砂浜は華やかな活気に満ちあふれていた。エデン事件から暫く経ち、ようやく一息ついた正義実現委員会の学兵達の姿も多くある。

 

 トリニティの学園領に程近いためか、この場にいるのは殆どがトリニティの生徒や領内に住む市民達で、ヘルメット団やスケバン姿も僅かにあったが騒ぎを起こす様子はない。皆が海と砂浜を心置きなく楽しんでいた。

 

 正実の黒羽が至る所に見えては、悪さをしようという者は流石に居ない。しかもその長と次席までいるのだから当然のこと……それにもう一羽、不良生徒が目を合わせることが出来ない大翼がいたりする。

 

「ツバメちゃん、泳がないのです?」

 

「ハナコこそ、どうした?」

 

「心地いい日陰、見つけちゃいまして」

 

「そうか」

 

 シートに座り自身の翼を高く広げ、日除け代わりにしている城島ツバメと、その翼下で涼む浦和ハナコの二人は、ヒフミ達を眺めながら穏やかな潮風に身を任せていた。

 

 ツバメの見目は何時もの前髪で目を隠し気味にした姿ではなく、纏められた長い髪が緩く編み込まれ、パレオタイプの落ち着いた色の水着に身を包んでいる。

 

 ヒフミとハナコの合作だ。この姿だけならば、広げられた大翼がなければ12使徒の長とは誰も思うまいという、何時もの白制服で肌を見せない姿から、かけ離れた解放的な姿。

 

 そして……なんか顔が良い。12使徒としての統一容姿を解除した城島ツバメはなんか妙に顔が良かった、多くの生徒が二度見するレベルだった。思わずハナコはやたらと写真を取ってはSNSに放流していたら、通知がえらいことになっていた……ので、今は切った。

 

 トリニティの12使徒、そのリーダーにしてナンバーA1……城島ツバメ。

 補習授業部からエデン条約に至るまで、一連の事件で見せた頼れる、凛々しい姿は記憶に新しい。ハナコはその姿を側で、2週間以上も見てきたのだ。

 

 元々ヒフミと並んで学年を問わず、人気の生徒。

 

 相談事を持ちかけられる事が多いヒフミは交友が広く、何かと力になってくれる。そして真摯に向き合ってくれる上に、どんな障害も寄せ付けない力強さを誇るツバメ。この二人は2年生の中でも有名人。

 

 二人の揃う2年3組はトリニティ本校2学年の……中心的クラスと言える。この二人の他にもティーパーティー所属生徒がもう1名、五十鈴。シスターフッドが2名、武士沢と徳田。

 

 前者は砲術委員会中隊長、後者達は聖堂騎士で歌住サクラコの側付き。見事に幹部候補ばかりで、メンバーが豪勢だ。3年生になる頃には、トリニティ主要閥の中心となる面々と目されていた。

 

 中でも12使徒の長、城島ツバメは別格だと言える。キヴォトス全国レベルの知名度を誇る、トリニティ最強部隊のリーダーというのは伊達ではない。

 

 本来なら補習授業部に来るような生徒では……無い筈なのだ、本来なら。

 

 厳しい風評に反して意外にも人付き合いも面倒見もいい……そして、いざという時に発する存在感。言葉と姿の頼もしさ、信頼感たるや……多くの生徒が慕うはずである。それは浦和ハナコとて同じこと。

 

 ハナコ、お前もだ。

 

 補習授業部の一夜。ハナコ自身……あの台詞には、参った。

 

 今もハナコが横に座るや翼を広げ、日差しから自然体でハナコを守っている。こういった細かな気遣いができる人物であることが、近くで接すれば接するほどに見えてくる。

 

 根本の気質が優しい。凄まじい暴力性を誇る、12使徒の風評からすればありえないと多くは思うかも知れないが、事実だ。

 

 クラスメイトである炭沢リクもそう。あちらは常々行動が突拍子もないタイプなので側にいる分には……物静かなツバメの方がハナコには好ましいが、リクも悪い子ではまったくない。ツバメと比較すれば、どちらかといえば幼さを感じさせた。

 

「そういえばハナコ、さっきかなりスマホが鳴っていたが……トラブルか?」

 

「いえ、旅の様子の写真が好評だったみたいで、羨ましがられてるみたいですねー」

 

「そうか、姉妹もそんなこと言ってたな」

 

「皆さんSNSしてましたっけ? リクちゃんはしてましたけれど」

 

「Bチームは皆してるが、他はそうでもないな」

 

 12使徒の間ではモモトークもSNSも盛んではない。周囲から本当に不思議がられているのだが、比較的喋るBチームの4人はともかく、Cチームのように集まっても殆ど会話さえない組み合わせもある、どうやって意思疎通しているのか謎なのだ。

 

 ツバメ率いるAチームはというと……やはり会話は少ないように見える。12使徒がスマホで姉妹と通話している姿を見たことがない……そもそもAチームのメンバーはスマホ率が50%だ。

 

 城島ツバメは今どきの女子高生にあるまじきことにガラケー派だった、頑丈さ重視勢である。モモトークはあるし使うが、SNSはしない。姉妹と脳内掲示板で喋っているせいなのだが、それがまたストイックさを醸し出してしまう。

 

 自身がどういう評価をされているのか、今ひとつ理解していないのも……そういう側面があった。

 

 ハナコも無理にSNSでの繋がりを勧めようとは思わない、不特定多数にツバメの付き合いが実は悪くないことに気づかれると不味い、あちらで大勢に声をかけられだしては……色々と不都合なのだ。

 

 作戦行動や治安活動がなければ、城島ツバメは浦和ハナコの誘いを断ることはなかった。

 

 ハナコも自分だから……ではなく、補習授業部の絆が前提にあるのだし、そもそも付き合いが悪くないタイプなのだと知られていないだけで、誘えば参加してくれる子だからと判ってはいるが……自身が優先されることに、なんとも言えない優越感がある。

 

 実際SNSで、ある繋がりの面々からは「は?????」「ハナコーッ!!」「お前お前お前ーッ!!」「先輩卑しすぎですわ!!」「こ……こんなことが、許されていいのか!?」「茶会にツラ出せや!!」という強めのリプが大量に飛んできていた。

 

 なおハナコは「人聞きが悪いですね、お友達との旅行なんですから、こうでないと(笑う花の絵文字)」とか返していた……笑って許されないレベルのトリニティ仕草だ。

 

 そういう諸々を無視して今、二人で穏やかな時間が流れる。

 

 羽川ハスミが巨大な両翼にコハルと正実の子を乗せて「浮き」になっている光景と、そんなハスミを掴んで泳ぎの練習? なのかモーターボートのエンジンみたいな水しぶきを上げつつ……大して進んでいかない剣先ツルギの姿。

 

 砂でモモフレンズの像を乱立させ始めたヒフミとアズサ……いや、気がついたらシリーズコンプしそうな勢いあるけど何してるの? という光景を眺めつつも、漣の音色と皆の声を聞きながら、浦和ハナコはこの始まったばかりの連休を……かなり堪能していた。

 

「なんだか気持ちいいですね」

 

「ああ」

 

「ようやく学園も落ち着いてきましたし」

 

「ミカ様に感謝やね、ナギサ様も実質休暇扱いになってる……今までが今までだ、休んでもらわにゃ。だからミカ様も慣れない総領主業やってくれてる」

 

 まあ、現状をご存知になったら気絶してると思うので、良いことなのかはさておき、慈愛の君には必要な休息だった……お狐の友はひっそり息を引き取ってるけれど。

 

「そうですね……」

 

「エデン前から皆ぶっ通しだった、キヴォトス全体を休みにするのは良いアイデアだよ」

 

「エデン事件、何度も思いますけれど……ツバメちゃんが無事で本当によかったです」

 

「心配をかけた、だが……あの程度で私らがどうにかなると思っていた連中に驚きだな」

 

「その……正直ツバメちゃんだから平気なだけだと思いますけれど……」

 

「そうか?」

 

「そうですよ」

 

 トリニティ総領主館で、今も慣れない首長仕事をしている聖園ミカに感謝しつつも……浦和ハナコは改めて、エデンでの出来事を思う。

 

 あの時は本当に肝が冷えた、崩れ行く会場の様子、飛び込んだミサイル……アズサからヘイロー破壊爆弾と聞いたときは、取り乱しそうにもなった……だが。

 

 行きましょう……私達で皆を助けるんです!!

 

 アズサの悲壮な覚悟を聞いたことで、ヒフミが戦うと決めた。皆の手を取り、絶対大丈夫と支え、揺れた心を叱咤する。

 

 本当の危機が訪れた時、阿慈谷ヒフミは心底頼りになる、そしてこれほど友誼に厚く、信頼できる生徒も中々いない……そう心から思えた。

 

 あの小さな背中が、なんと頼もしく見えたことか。

 

 桐藤ナギサも、どこで接点を持ったのかヒフミには全幅の信頼を置いている様子が度々あった。よくよく考えなくとも、ティーパーティー・テラスの首長茶会に「同席」できるのだから、自称一般生徒にも程がある。

 

 首長茶会とは生徒会長3名のみの会合。または3首長連名による共同開催の茶席を意味し、閣僚会議を兼ねる。後者は警護の12使徒が2小隊以上でテラスを固めるようなイベントで、室長クラスでもなければ茶会生徒といえど給仕に徹し、着座は許されない。

 

 しかし招かれた客人は例外となり、席が必ず用意される。

 ヒフミがゲストとしてテラスに通されたのは一度や二度ではないのだ。

 

 茶会の室長クラスといった上級生たちがヒフミを「様」付けで呼ぶのも……無理もない扱い。ヒフミはティーパーティーの作法に詳しくないので気づいた素振りは全くないが、ホストに迎えられ、席を勧められるというのは別格の扱いと言えた。

 

 聞けばアビドスでの一件で砲術委員会を預けられ、彼女の指揮でカイザーPMCを粉砕していたという。ティーパーティー直轄の砲兵部隊「砲術委員会」はティーパーティー・ホストのみが指揮権を持つ、それを任されるなど……トリニティ総領主の名代に等しい扱い。

 

 元々有名人だし、ただの生徒ではないと思っていたところに……出てくる情報がとてつもないものばかりで、流石のハナコもよろめく。

 

 これで本人が普通の生徒を自認する感性をしているのだから……。

 

 けれど……だからこそ。桐藤ナギサは阿慈谷ヒフミに対して、そういった扱いをするのかもしれなかった。気に入っている程度で特別扱いをするような方ではないことは周知だし、ハナコも理解している。

 

 権力者の寵愛を傘に好き放題するような手合は何時の時代も常々いるが、あの方がそういう人品の卑しい輩にどのような応対をするか、ハナコは知っている……去年最初期の光景を思い出せばわかること。桐藤ナギサも、12使徒も、阿り企む者には容赦などしない。

 

「まあヘイロー破壊爆弾と聞けば焦りもするか、ヒフミも無茶をする」

 

「……」

 

「あんなの3秒ぐらい目眩がする程度なんだけどな」

 

「それはちょっと様子おかしくないです??」

 

「ヒナも「束」で食らってたけど10秒ぐらいだったぞ?」

 

「あの方はちょっと……その……」

 

 空崎ヒナは人間かどうか怪しいので、とは言えなかった。ツバメもほぼ同じ枠だし、何より彼女を友としているツバメの前で、そんな言葉など出せはしない。

 

 無事だった喜びのあまり、ツバメの姿を見つけた時は思わず抱きしめてしまったハナコだが。詳しい戦いの様子が明かされると普通にドン引きした。

 

 成層圏から究極波動駝鳥砲って何? ミサイルに摑まって移動は魂斗羅戦士なら普通? アリウス自治区が灰に? 首謀者は月に物理射出?

 

 トリニティ旧地区が丸ごとポストアポカリプス以上になっているので、激しすぎる戦いだったのは判る……判るけれど、そこまですることある?

 

 尚、12使徒は全員ダメージを全く受けてない。ヘイロー破壊爆弾が「秒の目眩」で済むとかいう現実に、駝鳥の暴虐に慣れてきていたアズサは「流石だツバメ」としか言わなかったが、後々挨拶しに来たアズサの家族……アリウス・スクワッドチームの面々はドン引きだったのを思い出す。

 

 まあそう……どう考えてもこれが普通の反応だ。試したくもないが確実に殺人兵器だし、それが効かないのは絶対皆が異常にタフなだけ。

 

「私らより、本校防衛戦してた皆が無事だった方が大事やね」

 

「他のクラスの戦車は壊滅してましたし……クルセイダーちゃん、やっぱり特別だったんですね……何かちょっと、少し以上に大きいなと思ってたんです、前から」

 

「まさか中身がゲヘナのタイガーとは……滅茶苦茶してくるな斯波とヒフミのやつ」

 

 タイガー戦車はゲヘナでしか生産されてないハイエンドで万魔殿の主力戦車、ETOのある今ならともかく、以前の両校の関係を思えばトリニティで扱える代物ではない。まさか撃破した車両を鹵獲して、ガワだけ変えて使っているなんて想像もできない。

 

「ヒフミちゃんがあれを?」

 

「斯波がレストアしてたタイガーを2年3組号にすり替えたの、ヒフミのお願いだったらしい。デカすぎるから皆気づくだろと斯波も思ってたら誰も気にしてないからそのままだったの、笑っちまうな」

 

「ヒフミちゃん……」

 

 尚、ツバメも「なんかデカいな?」としか思ってなかった勢である。自分のクラスの戦車がすり替わっていてこれなので、いかにトリニティが普段から戦車が必要ない平和な学園かわかろうもの。

 

「ヒフミのやりそうなことだけどな、カードのすり替えも上手いし」

 

「カードと戦車は流石に比較対象として……」

 

 そんなヒフミに対しての発言から察するに……ツバメは既に、阿慈谷ヒフミの正体と行動を知っているのだとハナコは察した、その上で何も言わないのだと。

 

 しかし心配にもなる、何せ正体が正体……。

 

 覆面水着団のファウストといえば、今やキヴォトス中が震え上がるアウトローの頂点、それがまさかトリニティの生徒で……自分達の「友人」だったなどと。

 

 秘密ですよと、はにかむような笑顔で見せられた、数字の刻まれた紙袋を見た時はとても驚いた……コハルは察しが悪く、理解していなかったけれど。

 

 世間に全く正体が露出していないのが信じられない。アウトローとしてもそうだが、学内でもナギサと親しいことは噂程度ではあれ知られているが、まさかティーパーティー・テラスで「着座」を許されるとか、そんなの誰も聞いてない。

 

「ヒフミは闇デュエルの大会にも出てるからな、ダークサイドの作法に慣れてる、戦車すり替えぐらいはなんでもないだろう」

 

「カードゲーム、強かったですねヒフミちゃん」

 

「初手崇高は許されないだろ……」

 

 闇の帝王・ファウスト、闇のデュエリスト・ペロ島ヒロロ、ヒフミは裏の顔がビッグネームすぎて、とても表に出せるような情報ではないのだった。

 

 まあエデン事件ではファウスト・ヒフミと同じレベルで色々と扇動しまくったハナコは全く人のことを言えた義理ではないのだが、それはそれである。あの瞬間のハナコはあらゆる全てを利用してツバメを救出しようと全力だったので、最近鳴りを潜めていた悪い癖と仕草が全開だった。

 

 ハナコとしては、そういう自分の側面をツバメに知られたくないなという、自分でも困惑するような感情があった。しかし……ツバメはもう、全てを把握していると思う、けれど何一つ自分達にそれを聞いてくることはない。

 

 何故か? ハナコは……その答えを知りたい。 

 

「……聞かないんですね、ツバメちゃん」

 

「……」

 

 城島ツバメは浦和ハナコに何も言わない。

 

 コハルがあの時の話を漏らしてしまった段階で……いずれティーパーティーから詰問があるだろうとハナコは思っていた。12使徒は桐藤ナギサに絶対の忠誠を誓っている。それはツバメも例外ではない。

 

 だから、ツバメはそれをティーパーティーに知らせると思っていたのだ。自分達には絆が……友情があると信じているが、これはそれとはまた別のこと、あれだけ扇動して色々と動かしたので、流石に見逃されることはないと……そう思っていたのに……。

 

 ツバメはもちろん、リクさえ何も言ってこない。

 

 そして聖園ミカ……彼女とはあの日、直接話した。その力が公にはされておらずとも、最強の一角であることを襲撃の夜に知った。だからこそ言い方は悪いがクイーンの駒……「切り札」として会場へ向かうように誘導したのだ、仕上げとして。

 

 誘導だ。利用した……人柄を、気質を、状況でその背中を押す。

 けれど彼女には必ず……直接、お願いすると決めていた。

 

 あんな話を態々しに行ったのだから、状況的に疑われていてもおかしくない。そこにツバメから話が入れば……と思っていたが、こちらもなんら動きはない。

 

 ミカは自分が利用されたことには気づきそうなものだ、世間は彼女を「力」だけの存在と見ているが、そんなことはありえない。元々派閥の調節者としてトリニティのバランスを司ってきた人物だ、感覚はむしろ鋭い筈……感づかないほうがおかしい。

 

 やると決めてから、ある程度覚悟はしていた。

 なのに、何も……問われない。

 

 クロノスの生徒をボコして回線ジャックしたヒフミとアズサは不味いかもしれないけれど、自身とコハルは扇動と説得、重い罪にはならない……そんな計算はあった。あるとすれば4人揃って監視が付く謹慎。罰則はティーパーティーへの強制入部で、こんにちは労働の日々……が妥当なところ。

 

 学園待機だった1年生の正実生徒達や、シスター達に「皆で頑張ろ!怖がらないで、立って、一緒に銃を取るの!」そういって黄金の魂を学内に魅せていった、正実所属のコハルはともかく……策謀ついでに一般学生をスマキにしていたヒフミとアズサも、自分と揃って帰宅部ではいられなくなるとハナコは思っていた。

 

 ……まあ皆揃うなら、コハルも何か理由つけて茶会会館警護班に差し込んでしまえば全員揃うし、ティーパーティー入りが避けられないなら……もうそれでもいいかな? という腹づもりまであった。

 

 浦和ハナコは本気出せば派閥作るぐらいのことは余裕なので、どうにもならないならツバメのいるティーパーティーに皆と一緒に入るのもやぶさかではないし、やるならやるで色々ひっくり返して、楽できるようにしてやろ……程度には強かになっている。

 

 大型新人3名+1人追加、こんな事になったら茶会一同は泣いて喜ぶ……ところだったが。

 

「平和な普通の暮らしを望む皆のためにこそ、私達がいる」

 

「……」

 

「藤の枝下で安寧を求める生徒達の平穏より、優先するべきことなどない」

 

 ツバメは何についてそう語っているのかを言及せず、まるで独り言のように語る。ハナコならば何をいいたいのかわかるだろうと。

 

 ツバメの沈黙の意図を、ハナコは察する。

 

 望んでいないのならば、そのままでもかまわないのだと……彼女はそう言っているのだ。

 

「我らが主も、それを肯定してくれるだろう」

 

 それは信頼。桐藤ナギサに対しての……これまで自分達が見てきた主人への強い信頼……理解だった。我らが主は嫌がる生徒に、無理強いなどしないのだと。

 

 事実、ハナコへの勧誘は明確にやめさせている。慈愛の君は、たとえ自分達が苦しくとも、嫌がるならば生徒に政務部活動を強要などしたりはしないと、12使徒は知っている。

 

 あったかもしれない世界の中では、友を殺されたと思い、自身と幼馴染の命を狙われることで限界を迎えた彼女が、補習授業部の面々を退学させようと策謀する世界もあったかもしれない。しかし……命を狙われてやっとそれなのだ。

 

 かつてない繁栄と栄光の中にある、トリニティの総領主として崇められる今のナギサに、そんな過負荷は存在しない。力もある……権力だけではない、最終暴力装置12使徒という絶大な力がその手に。

 

 武力と権力、2つの「力」。それを「正しく」使うことでナギサはキヴォトスに慈しみを見せ続けてきた。力ある君主が覚悟をもって望めば……出来ることが違う、影響力が……格段に違う。

 

 だから自身の負担を考えなければ、桐藤ナギサの持つ善性は社会だって変えられる……史実の出来事など想像の端にすらでてこないし、そんな未来を誰に聞かせても、ありえない妄想以下として否定されるだろう。

 

 自身が振るうことができる力の全霊を賭して、ナギサはキヴォトスに慈愛を示してきた。だからこそ多くが慕い、エデンではあのような大軍勢が全ギレでマダム・ベアトリーチェに襲いかかっていったのだ。

 

 信頼と敬愛、キヴォトスで最もそれを受ける生徒にして、12使徒の唯一の主。

 

 城島ツバメが全霊を捧げる……ただ一人の、主人。

 

「……そうですね」

 

 浦和ハナコの中に、表に出すべきでない感情が少しだけ……巡る。

 

「ハナコ?」

 

 ハナコがツバメの羽根を優しく摘み、自身に引きよせようとしていることを察したツバメは……ハナコの細腕、その小さな力に抗わず、彼女の身体を左翼で包んだ。

 

「暑いだろ」

 

「そんなことないですよ」

 

 空気の読めない鳥類は……ハナコが頬をすりつけながら、やけに丁寧に撫でつけられる自身の羽根に対して、その程度の感想しかなかったので……危機感が全く無かった。

 

 城島ツバメとして今生最初に出会った「姉妹」である、最も付き合いの長い使徒にして右翼……緋色ユイが脳内掲示板で「あ、あの……これもうタレつけられて炭火点火される寸前の……」とか言ってるヤバい状況である。

 

 12姉妹は本人が意図して「繋げて」いれば視覚共有できるが、聴覚も共有もできる。

 

 今現在トリニティ本校総領主館で即応待機しているユイは、ツバメの様子を繋げて見て聞いていたので……ついに焼き鳥にされると思ったし、この状況で感覚共有をオープンで入れっぱなしなあたり、マジでクソボケだなこいつと思った。

 

 ハナコが属するSNSグループ「ツバメちゃんさん様いいよね」の面々が見たら、マガジンに強装弾叩き込んで全力で走ってきそうな距離感、詰み寸前の状況……城島ツバメ手羽先不可避の今。

 

「あーっ!! ハナコ何やってるの!! エッチなのはダメ!! 死刑!!」

 

 コハルが間一髪、ツバメの無自覚な危機を救う。

 

「コハルちゃん……これはエッチなことじゃありませんよ?」

 

 コハルの無自覚インターセプトに何時もの悪ノリができず、思わず否定してしまったハナコだった。

 

「そんなことないもん!! 手つきが死刑だったもん!!」

 

「? いつもの毛繕いだろ。てか羽根ソファーで寝て、私の羽毛によだれ垂らしてたほうが刑罰モンだ……」

 

「うっ、あれは……その、気持ちよくて……」

 

 空調の効いた戦車の中で羽根ソファーされていると、適度に吸収された揺れと暖かさで……コハルは揺り籠の小鳥のように穏やかな微睡みの中に落とされていたりした。

 

「うふふ、じゃあコハルちゃんも一緒にツバメちゃんの羽根を毛繕いしましょうね」

 

「好きだよな皆、デカ羽根いじるの」

 

「ツバメちゃんハナコちゃん!! せっかく来たんですから泳ぎましょうよ!!」

 

 走って二人の元に行ったコハルを追って、ヒフミとアズサもやってくる。モモフレンズ砂像、主要キャラクターを並べ終えた二人はひと仕事の汗を流すべく、海に来てまで毛繕いに勤しんでいる二人の手を取って海へと引っ張った。

 

「ツバメ、せっかくだ、遠泳もしてみよう。強度の高い心肺トレーニングになると羽川ハスミも言っていた、私にダイエットは必要ないだろうが、鍛錬としてはきっと有用だと思う」

 

「プールトレーニングでは狭すぎたところだ、悪くない」

 

「プール50往復とかしてましたもんねぇ……」

 

「50往復!?」「流石だ、ツバメ」

 

 アズサにツバメが、ヒフミにハナコが手を引かれ。それに続いたコハルがハナコの背を押しながら海へと向かう。5人を迎える海は碧く、空は青く……始まったばかりの夏を照らしている。

 

 本格的な夏休みはまだ先、しかし一足先にやってきた青春の日々がそこにあった。

 

 





・SNSグループ「ツバメちゃんさん様いいよね」

事実上の城島ツバメファンクラブ、SNSグループとはいってもTL上では単にハナコの相互フォロワー集団。本体はコミュニケーションルームサーバー「ダチョウ観察部屋」様々なダチョウ達の奇行が話題にされている。多様な生徒が在籍している他、最近トリニティ学外の生徒も入室許可が出たので学籍が入り乱れている。ゲヘナ生も増えたので実質エデン条約状態。

一部特定生徒が一部特定使徒の話題でややしっとりな以外は平和だったが、最近「フラワー」とかいうネームの生徒が凄まじいマウント行為(まさかの風切羽)(距離近すぎる写真)でピリつき、治安が乱れてきている。

そこにきて、ゲヘナ生徒のネームド「ディナー」の出してきた、考えられない写真(普段ない穏やかな笑顔を見せる対面食事中)で更に荒れ、隔離部屋が作られた上で混迷を深めている。

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