時刻・PM 20:48
??? → キヴォトス中央区 D.U.「ヤマシロ区」
??? → SOM本社社屋ビル1F、受付窓口。
ベアトリーチェは不機嫌だった。
長年かけて構築した根拠地アリウスを失ったので、拠点作りはやりなおしだし、崇高に至る研究も一定の成果は出たものの……振り出しに戻ったに等しい。
イカれた鳥に死ぬ程啄まれてボッコボコにされ惨敗した結果、骨折のお祭りだったので……結構長く病院送りだったのも効いている。
一般的に考えてミサイルに詰められて発射されるという比較的大きめのトラブルにあったわりには被害最小だし、これで病院送り程度で済んでいるのだから、幸運な方だとは思いますね。
「やはり強い負荷は我々悪い大人にも進歩を促しますね、気迫が見違えるようですよマダム……クックックッ」とか言ってテンション高い黒服が見舞いに来るのもイラついた……見違えるも何も、私は今お前にキレてんだよ。という出来事もあったが……これはいい、いずれわからせる。
正直まだ身体は痛むし、完治とは言い難い……せっかくロイヤルブラッドの神秘を搾取して得た力も、回復にほぼ全て費やすことになって使い切り、変身時に擬似的に得ていた赤く細いヘイローの模造物も消失……まあ、あれがなかったら正直死んでた予感がしたので仕方ないし、これもいい。
とにかく、ここ最近のベアトリーチェは再起に向けて忙しかったのである。言うことを聞かせられた生徒はいなくなり、雇いの手下も霧散してしまったので自分で動かねばならなかった。
このような有り様では……不本意ながらゲマトリアという組織の協力が必要なので脱退はしていない。
利用してやるぜ感バリバリだったし実際そうした自分は棚に上げ、手ひどい裏切りをキメておいて態度も支援も全く変わらない黒服にイライラしつつも、ベアトリーチェはなんとか新しい我が家兼研究拠点を再設置、再出発の準備が整いつつある……やっと一息。そんな折に黒服からのゲマトリア集会のお知らせ。
曰く、大事な話があるので全員集合で……とのこと。
若干ウザいぐらいテンション高めな事が多い黒服が、珍しくシリアスな様子だったので、すわ何か問題かと気にしつつもベアトリーチェは会合にやってきたのだ。
迎えのリムジンによって彼女が乗り入れたのは「ゲマトリア神秘研究所」の看板が堂々と掲げられた、わりと大きなビルディング……通称ゲマトリアビル。
ちょっとまて、ここは山奥の怪しい屋敷とかではない。キヴォトス中心のD.U.ど真ん中、それもビジネス街の一等地である。
おいゲマトリア、悪の秘密結社じゃないのかよ!! という疑問は多くの方がお持ちかもしれない。しかし黒服が以前先生に語ったように、ゲマトリアは結社ではあるが……特に秘密というわけではない。
ダチョウに崇高チャレンジの度に、つまり悪事の発覚毎に……定期的に襲撃されて月面送り……更地にされるイベントが珍しくないゲマトリアは、再建と活動に資金が必要。よって必要に応じて研究成果を社会に放出したりと、色々研究の片手間に細工した結果……今やゲマトリアは複数のフロント企業を持つダークサイド……世間的にはそういうわけでもない総合商社の創業者だった。
数多のグループ社員を抱えた創業5年目な新進気鋭成長企業郡の謎多き中核グループは、経営には口を出さないが妙に胡散臭い研究者の集まりであることは周知だった、怪しげな研究はあまり内容を知られていないし、トラブルもこれまで多々あった。
しかし世間一般からの認識は「研究資金のために企業群を持ってる様子おかしい趣味人の集まり」だ、知名度もあれば業績も良い。
当然だが納税もしている。
ダークサイド大人だろうと納税は義務です市民。
そんなグループの役員?のようなベアトリーチェの迎えに、リムジンのハイヤーが連絡一つで即やってくるのは当然の存在感。ベアトリーチェがイラつきつつもゲマトリアから脱退しない理由の一つであった、金には困らないのである。
エデン事件に費やされた工作活動の資金は勿論、千人以上居たアリウス生徒達の生活費原資も、ある時期を境にここから出ていた。(横領)
「……黒服は地下に?」
「はい、マダム。昼過ぎには既に……以降地上に戻られてはおりません」
ゲマトリアビルは地下以外、完全にフロント企業……普通の商社のオフィス。役員の登場に頭を下げて出迎える一般サラリー大人達を下げさせ、ベアトリーチェは地下へと向かう。
ゲマトリアメンバー以外入ることは許されないエリアの奥、秘されたエレベーターで降りた先にあるのは怪しげな秘密の地下会議室……そこには……。
< うおお!! なんということでしょう!! まさかあの小鳥遊が!! 12使徒の攻撃ですら一歩も後退させられず、ビクともしなかったあの小鳥遊が!! 片膝をついています!! >
< ガードこそ成功しましたが、バットを押しのけては立ち上がれないようです……ホームが陥没していますね。片手の単なる振り下ろしだというのに、なんというパワー……なんという圧力なのでしょう……!! >
< 聖園!! 無敵……無敵……!! 無敵!! 空崎と対等に戦えると噂されたその力を今、全キヴォトスに示しています!! >
「クックックッ!! まだまだ、貴女はそんなものではないでしょう、小鳥遊ホシノ。立つのです……暁のホルスと謳われし貴女は、そんなものではない筈だ……クックックッ!!」
野球観戦している黒服の姿が!!
「一体何をしているんです!?」
「おやマダム、お早いですね。会合は日が変わる頃とお伝えした筈ですが……いえ、本日は興味深い試合の中継がありまして、せっかくですから観戦していたのです……クックック」
壁の大画面に映るのは明らかに野球……のようなものだった。何か釘の刺さったバットで見覚えのある生徒が、これまた見覚えのある生徒と鍔迫りあっている最中だ……野球ってそういうものだったか? スポーツに興味のないベアトリーチェでも様子おかしいだろと思うそれを、黒服は……。
< !! た、立ちます!! 小鳥遊なんと聖園の一撃を受けて……押し返そうとしている!! しかし苦しい表情!! 小鳥遊をもってしても余裕とはいきません!! >
< 拮抗できること自体が凄いでしょうこれは…… >
< 激しい釘バットの鍔迫り合い! おっと審判からブレイクの指示、両者の攻防はドローとなりますが、この場合走者側に優先権がありますので、聖園ホームイン、1点です! >
< 119-107、紅組勝利までついに10点を切りました、残り9点です。紅組は点数有利ですが控え選手が全滅したため、既に外野の守備がいません。残り4名の選手を撃破すれば白組の勝利ですが…… >
< 剣先、川澄、歌住、そして聖園では、かなりの困難が予想されます。ですが白組のメンバーであれば不可能ではありません、まさにギリギリの……手に汗握る攻防!! 客席の盛り上がりも最高潮に達しております!! >
「クックックッ!! クックックッ!!」
栓の開いたボトルを机に並べ、グラス片手に観戦するその姿は……明らかに結構長い時間飲みながら野球観戦している、駄目なタイプの大人の姿だった……お前マジで何してんだよ。
ベアトリーチェも初めて見る、タイを解き、ジャケットをソファーにかけた黒服の、トップボタンを外したラフなシャツ姿に驚愕だった。プライベートな時間で会うことは無いに等しいゲマトリアの面々だが、黒服がこんなことをしてるとは思いもしなかったのである。
「貴方が野球を見るとは知りませんでしたが……これは、晄輪大祭とかいう生徒達の催しでは? 何か少し、様子が妙ですけれど……」
「見るようになったのは2年ほど前なのですが、中々どうして……これが不思議な面白さがありましてね。これほどの特別試合であれば、スタジアムで観戦したいところでしたが晄輪大祭は生徒達の祭り……私のような悪い大人はスタンドに入れないのですよ、残念ですね。クックックッ!!」
現地観戦に言及する黒服にベアトリーチェは、こいつまさか普段から野球場に通って……という頭が痛くなりそうな想像が浮かんだが振り払う、流石にキャラってものがある、きっと冗談だろう……彼女はそう思ったのだが。
「中継は中継の面白さがありますが、やはり野球は現地で見るに限りますね。ああ……しかしスタンドでは殆どアルコールが提供されないのが惜しく思います、生徒も多いので仕方ありませんが」
「現地で見ているんです!?」
「ええ、エクストリーム野球も普通の野球も見ておりますよ。社会人野球ではスポンサーもしておりますのでね、クックックッ。中々勝てないチームですが、それがまたいい……道なき道を求め足掻く姿は、趣深いものがあります」
「 」
流石のマダムもこれには絶句……。
ちなみに社会人野球にはカイザーコーポレーションも参戦しているし、バックネット裏席あたりでなんか妙に高そうなスーツの人物が観戦してる姿が中継に映ってしまう事もあった。
野球(通常)は生徒達には今ひとつだが、大人達の間では人気のスポーツなのだ。
余談だが、そのスポンサーしてる社会人チームの名は「コーギー・ブレーブス」といい、以前ちょっとしたトラブルがあった……いつも通りボッコボコにされていたある試合で、偶然先生とも会っている。
゛青空の下でフツーにドリンク片手に野球観戦してるの……もうさぁ!? 悪のイメージぶっ壊れるでしょ!? ダークサイド大人ならせめてVIP席に居ようよ!?。゛
とか言いつつ先生はずっこけていたが、突然のスポンサー観戦発覚に監督以下は騒然としていたりした。まあ気持ちはわかるよ……ベアトリーチェもその光景に出くわしたら先生と全く同じ台詞が出てくるだろうから。
ちなみに黒服は内野席(露天スタンド)派なので、VIP用のボックス席は「空気」が感じられずノーサンキューだった。これはカイザーで多分かなり偉い感じの人も同様である。
「強い神秘がぶつかり合うエクストリーム野球はかねてから注目していましてね、我々ゲマトリアとしても興味深い……特に今夜はこれほど強い神秘を持つ生徒達が一堂に会する、中々見られる機会ではありません、素晴らしい研究対象ですよ」
それを聞いてベアトリーチェは若干の安堵感が……多少あった。悪辣の限りを尽くすこの男が、マジで野球が目的で研究関係なくただ観戦しているとは信じたくなかったからだ。悪の大人としてそこは線引を……。
「以前から試合で使う道具の依頼も受けております、いやはや……どうなるかと思いましたが中々どうして、あの酷使ぶりでも壊れずしっかりと機能しているようだ、作り甲斐がありましたね、クックックッ」
「依頼!? 一体何をやっているんです!?」
「神秘の強い生徒が全力で暴れては、バットはもちろんボール、ベースも含めて強度が足りませんからね、神秘防御装甲の技術を用いていまして」
「野球のために!? 研究成果を!?」
「釘バットはそうでもなかったのですが、テニス用のラケットは苦労しました、炭素繊維でもすぐに傷んでしまいますからね、クックックッ」
「 」
よくよく見れば球場のスポンサーロゴの中にゲマトリア神秘研究所のロゴもあるのだが、ベアトリーチェはお気づきでなかったし、実は先日まで先生もお気づきでなかった。(ブレーブス監督の説明で知ったのである)
エクストリームスポーツのプレイヤーなら常識だが、エクスト競技で使うスポーツグッズに求められる強度は一般仕様のそれとは桁の違う負荷分、高い。生徒達が気合を込めればその分神秘も強く反応し、威力も上がれば消耗も激しいのである。
そこでサーバルを始めスポーツメーカー各社はエクストリームスポーツ専用ブランドを設立、その開発協力を生徒が持つという「神秘」なる謎のエネルギー論理の研究で名高いゲマトリア神秘研究所に依頼した……結果。
「もう2年になりますか、今やエクストリームスポーツに使用する道具はほぼ全て我らゲマトリアの技術が入っておりましてね。以前より遥かに長持ちするようになって喜ばれているそうで、クックックッ」
ちなみに「Seeker of Mysteries」神秘の探求者こと通称SoMという大流行カードゲームを始め、ゲマトリアが関与している製品は意外と多くキヴォトスに流通していた、これらが全て活動費の資金源だったのだ……そら知名度もありますよ。
ちなみにカード同様、一部のスポーツグッズにも使用者の神秘情報を収集する機能が仕込まれていて、何も趣味とお遊びと金儲けのためだけに作っているわけではない、そのあたりはゲマトリアがちゃんとダークサイド研究者の集まりらしい部分……なのだが。
お前ら悪の結社の自覚あるんか? スポーツグッズて。
ベアトリーチェは目眩がしてきたが、衝撃情報はこれで終わりでは……ない。
「御覧くださいマダム、あの少女……聖園ミカさんと言いますが、彼女は素晴らしい神秘をお持ちです、中々に興味深いと思いませんか?」
「!! あの時、鉄骨を握っていた娘ではないですか!!」
悲しいことに、最早ダークサイド大人達の中でもミカのイメージは鉄骨だった。
「空崎ヒナさんもまた凄まじい……ですが、聖園ミカさん共々……やはり「強化」の幅が大きい、彼女達の「影響」が大きいのでしょうね。これと同じだけの増幅を受けた時、暁のホルスは一体どんな高みに達するのか、それがもし反転した時、何が起きるのか……クックックッ!!」
「……黒服、それが貴方の研究テーマだったと?」
「ええ、実に……実に興味深い」
ゲマトリアはこれまで12使徒を通して、別の世界線よりも多角的に、深い部分まで研究を進めていた。その中には「外的要因に拠る神秘の変化」という項目がある……。
黒服達は12使徒が持つ神秘の秘密にも迫っていたのだ。そして他者にどういった影響を与えているのかも調べ、思索し、ある程度把握しつつあった。
あれらは単なる生徒ではない……増幅器なのだと。
今キヴォトスにおける最大の神秘を持つ生徒は小鳥遊ホシノだ、たとえ空崎ヒナや聖園ミカが強かろうと、神秘の総量と性質では彼女のほうが上……増幅器の影響がなければ。
12使徒達の持つ並列の「神秘」は、直接接触すればするほど効果が大きいことがわかっているが、不思議なことに全く接触のない遠方の生徒までも著しい強化が入っているという現象に、ゲマトリアは度々遭遇した。
ゴルコンダはこれを「噂」「ミーム」といった「情報」を介した神秘の増幅現象、ある種のテクスト……黒服の言う「崇高への階」と定義することで理解を進めたが、結論はまだ出ない……しかしキヴォトスに彼女達の発する、ある種の「情報」が満ちるほどに、その情報接触の濃度によって生徒個々の神秘もまた増幅されるのだろうと推測された。
存在することで、キヴォトスに満ちる神秘を強化する特性。
ある意味、それはテクストを付与しているに等しい。
そして……あの12人と親しくなり、情報接触と相互認識の機会が多ければ多いほどに、対象生徒は著しい強化を受けるのだ。
なら、あの12人と距離が近く「強いリスペクト」を受けている生徒はどうなってしまうのか。12人全員から「凄い女だ……」と思われている生徒の受ける、影響とは何か。
その影響は主に、自他の持つイメージが力となり、増幅されるのだと黒服は考えた。
でなければ説明がつかない。彼女達が強く慕う桐藤ナギサが、全く「強化を受けていない」のに、ある生徒はあまりにも異常な強化が発生している。
空崎ヒナの強化率は異常だ。
最早あれは単体の生命体として限界値を超えている。
キヴォトス人として、生徒として、神々の写し身としての限界を明らかに超えつつある。エデンで使用された改良型ヘイロー破壊収束爆弾の威力は一般的な生徒ならば即死、12使徒といえどもおよそ50秒程度は身動きがとれまい……しかし、空崎ヒナの見せた現実は10秒である。
ベアトリーチェもドン引きだったが、12使徒での試験で数々の辛酸を舐めてきたゴルコンダも流石にドン引きだった……おかしいだろそれは。
そして聖園ミカ……なんだろうな、あの鉄骨? マジでわからん。
まあこれも興味はあるので研究中である、ただあれは神秘とはまた別っぽい気もする。
さておいて、このような実例がある中で、ある推論が浮かぶ。神秘の増幅現象は「元となる器のサイズによって決定される」、つまり元から強い神秘を持つ存在は、より大幅に強化されるのだ。
ならば黒服的には、この二人よりもやはり小鳥遊ホシノ。暁のホルスこそが本命……しかしアビドスは栄枯盛衰の最中にあり、衰退した今、場所こそ中央の端にありながら僻地とされて文化接触が減り、陸の孤島となりつつあった。つまり情報接触が直接はなく他者からの経由の経由で最低限……これまで彼女に12使徒達が影響を与えることは殆どなかった。
これではいけないな、ということで黒服のダークサイド仕草が始まる。
そして「イメージ」が大事だというのなら、彼女達の接触は自然的でなくてはならない。思春期の少女達が仲良くなるには大人が介在してはいけない、ならイベントが必要だ。そう……互いに信頼関係を形作るようなイベントが……。
うんうん、共通の敵……これは青春だよね。
ただ実は黒服、カイザー主導によるアビドス廃校騒動自体は殆どノータッチである。あれは勝手に歴代生徒会が借金苦に落ちていっただけだし……。
しかし都合は良かった、先生が登場したのも素晴らしいタイミング……これはご挨拶が必要とウキウキで利用しにかかり、ダークサイドらしい雰囲気で自己紹介したのが先のアビドス騒動である。
終盤、いかにも黒幕……といった体で出てきたが、これはプランの一つとしてホシノの身柄をGETし、実験に「協力」してもらった後……トリニティに転校させて経過観察するのが目的だった。ノリノリのダークサイド仕草だったわりに全然ダークサイドポイントを稼いでなかったので、ダチョウの嗅覚に引っかからず、アビドス騒動では月面に行かなかったのが真相である。
そう、12使徒が出撃してくることが確定したあたりで成功を確信し、スッと手を引いている。あばよPMC理事……健闘を祈るぜ、私はこれからが楽しみで仕方なく、忙しくなるのでね、クックック……そんな黒服は同じダークサイド大人にも容赦なくダークサイドだった。
要するに黒服にとってはカイザーがボコされることなど全くもってどうでもよく、それをきっかけに12使徒とアビドスが、言ってしまえばホシノがトリニティと円満に接触できた段階で目標達成なのだ。
今まで小鳥遊ホシノが受けていた強化は、変化したキヴォトスの環境そのものから受けた増幅だけであり、本格的な「影響」を受けるのはこれからなのだから。
そして、今。それはなされつつある。小鳥遊ホシノは……アビドス事件以降……明らかに強大な成長を見せつつあった。普通の生徒ならば到底たどり着けぬ領域へ……空崎ヒナと同じ地平が見えてきている。
鷹が翼を得ようとしている、至高の領域……崇高へと向かって。
「兆候が見えています、ついに……その時がきたのです」
「……」
「あの専用釘バットと彼女の打撃に耐える、クックック! いささか資金を要しましたが、十分すぎる結果です、素晴らしい」
「……んん?」
聖園ミカ「専用」釘バットの打撃を受けられたのがその証拠だった……今までの彼女であれば、到底耐えられた打撃ではない。実際あれで叩かれた他の生徒達は未曾有の破壊力を前に尽く轟沈している。至りし者以外にあれは、耐えられる代物ではない。
……何故ならば。
「聖園ミカ記念モデルとしてサーバルから売り出された「聖なる釘バット」ですが、彼女の専用品として用意された物は我々が直接製造しましてね」
「……は?」
「彼女の神秘は例の鉄骨と共鳴します。我々はまだあの鉄骨が何であり、何で出来ていて、何のために鋳造されたのかを解き明かせてはいません……しかし、その性質に近い特性を再現することには成功しました、クックックッ!!」
「ちょっと待ちなさい黒服!? あの鉄骨を複製しようと!?」
「正しくは解析ですね。あの釘バットに使われている内部の鉄心と釘の素材は、再現した聖なる鉄骨の特性を我々の開発した神秘素材で表現したもの……効果はまだおおよそ2000分の1程度ですが、彼女の形質を増幅させるブースターとしては既に機能します」
「はあぁぁぁ!?」
ベアトリーチェが驚愕しているのも無理もない、あの忌々しい謎の鉄骨がなければ聖園ミカは「ちょっと……いや大分、いや……かなり、強い」感じの生徒に過ぎない、なのにその神秘鉄骨の性質を模倣した武器を与えてしまうということは……。
「御覧なさいマダム、彼女の無敵シールド……プライマリ・アーマーとでも称しましょうか、聖鉄骨がなくとも展開されています。素晴らしい……強化率こそまだ惨めな倍率ですが、あれが展開できるということは最低限機能している証拠、ゴルコンダはいい仕事をしますね、クックックッ」
「ゴルコンダ!? お前達ぃ!! 馬鹿なのです!? 生徒を強化する必要がありますかぁぁ!! 黒服!! あれらはこちらにも牙を剥くのですよ!? 何を考えているんです!!」
ゲマトリアが嬉々としてダチョウに与えた超兵器を死ぬ程ブチ込まれた被害者、ベアトリーチェ迫真の全ギレだった……。
当たり前だろ、何でこいつらは毎回敵対してくるの確定の連中を強化してんだ。自分達は据え置きのままなんだぞ、アホなのかと沸騰した……ぐうの音も出ない正論な筈だが、ゲマトリアにそんな常識は存在しない。
でも当然の感想だと思います……先生もそう思ってるよ、気が合うねマダム、ドン引きだよ。この男共研究進んで楽しければ何してもいいと思ってるでしょ。
「まあそうおっしゃらず、もちろん色々と安全装置はついていますとも、ご心配なく」
「イカれた鳥共の銃は完全に機能していたでしょうが!!」
見たこと無い大破壊だったわ!! 死ぬところだったわ!! というマダム迫真の、至極当然の怒り……。
「ああ、あれはですね……彼女達が無垢である限りは問題ないというだけなので、我々に対する安全装置なのではなく、世界に対してのものですね、クックックッ」
「それじゃあ意味が!! 無いでしょうが!!」
「おっと、すみませんがマダム、試合が佳境に移りつつあります、この話は後ほど……見逃せないものでね、クックックッ!!」
「黒服ーーッ!!」
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「どうしたのだ、ベアトリーチェ」
「マエストロ……何でもありませんわ」
「黒服に野球中継を付き合わされたのでしょう、ああなると彼は長いですからね」「そういうこった!!」
「そうか……災難であったな」
「おやおや、まるで私が無理に見せているようではありませんか。それに中々悪くないものですよ、クックック」
「黒服!!」
時刻は0時、ゲマトリア全員が揃って会合がついに始まる……。
試合が終わるまでテンション最高のままずっとクックック!!とか言っていた。野球場でよく見る感じの、ほぼ完全にできあがっていたよくない大人そのものだった黒服も、試合が終わるとスッと身なりを整えていた。
決して推しチームが負けたからというわけではない。実際決着後ずっと拍手していたし、ベアトリーチェが引くぐらいテンション高いままだった。黒服はオンとオフの切り替えがはっきりしているダークサイド男性なのだ。
なお、試合結果は「紅組128-白組121」となり、紅組の勝利。
スタジアムは会場の中も外も、中継で見ていた全土のご家庭にいたるまで、キヴォトス各地がサヨナラを決めた聖園ミカコールに包まれた。
夜空に花火が数多舞い上がり、いつの間にか浮かんでいた戦艦ミレニアム号の船体をスクリーンにして、その様子がセントラルの空に煌々と映し出されている。
空崎ヒナ率いるドリームチームに勝利するという偉業が、聖園ミカの伝説と共に……キヴォトスに刻まれた瞬間だった。
聖なる釘バットを天に掲げてほしいです、その一枚を明日の一面にしますから!! と押しかけたクロノススポーツ連中に群がられたミカちゃんは泣きました……。
主将はツルギちゃんだからという必死のアピールは謙虚と取られてしまい、肝心の主将ツルギはツルギで勝利投手のヒロインインタビューの最中なのでパス不可能。雄々しいポーズは取らせずになんとか逃げたものの……猛々しい試合中の画が採用され後日の一面にされてしまったので、ミカちゃんの繊細なハートへの被害は、より大きくなったりした。
こうして無事、聖園ミカは空崎ヒナと同格の存在だと明確に認識されることになったのだが……今にはあまり関係ない。
「それで、重要な話とは何ですか黒服」「そういうこった」
「大事というぐらいなのです、軽々しい話題で呼び出しているなら許しませんよ」
「おっと、マダムの機嫌を損ねてしまいましたね。趣味は仕事も彩ります、息抜きは大事だと思いますが。クックックッ……」
「同意はするが……気になるのは本題だ、何か問題でもおきたのか」
「ええ」
居住まいを正した黒服が、今までのテンションが嘘のように重々しく語るそれは。
「その通りですマエストロ。軽微ではない問題といえましょう……どうやらこの場所が「色彩」に捕捉された可能性があるのです、高い確度でね」
重大な脅威「色彩」その出現の予感だった。
「!!」「そういうこった……!?」
「……なんと」
「マダム……例の儀式で「力」の利用を考えられましたね?」
「フン……それが何なのです? 関係あるとも思えませんわ」
「色彩」からの脅威、エデン事件の折にそれを利用しようとしたベアトリーチェはしかし……色彩襲来への関与を否定する、一見苦しい言い訳に見えるが……実際の所、そうでもない。
「ええわかっております、力の利用……言ってしまえば対抗のための研究や解析の必要性はありましたし、これが初めてのことではありません……とはいえ、困ったものです」
実際ゲマトリアは色彩に対抗することも設立目的の一つ、その研究をするのは当たり前のこと。相手を知らねば戦うことは出来ない。
「だが、高い確度で掴まれたといった。大海の中で砂粒一つを探すに等しいものだ、この世界の座標をどうやって掴んだというのか」
マエストロの言う通り、この世界座標を掴まれる可能性は殆どなかったからこその、これまでの浅い接触の数々だった。道しるべとなるものがなければ、いかな「色彩」とて、到底見つけることなど……。
「……あれでしょうか」「!? そういうこった……」
「ええデカルコマニー、そうです。ゴルコンダの推測の通りでしょう、まさかこのような結果になるとは……クックックッ……」
「あれ? ……まさか」
だが、ゲマトリアの男達には心当たりが1つあった……それは。
「マダムの初飛行、新たな船出の輝かしい記念日ではありましたが……文字通り少々、輝きすぎたようですね。クックックッ!!」
奇跡の人間発射ミサイル「アリーヴェデルチ君」によって星界の間際で一際輝いた、マダム・ベアトリーチェ待望の月旅行出発の瞬間である。2トンの閃光弾の輝きは宇宙空間からも余裕で見えたし、わずかな亀裂が出来ていた、世界の壁の向こうからも……つまり。
「色彩」も「うお眩し、何の光?」してしまったのだ。
「はぁぁぁ!? あれが!?」
「直前にマダムが世界壁に入れた隙間から、漏れましたか……光が。星の狭間に近い場所であったのも災いした」「そういうこった!!」
「クックックッ……深遠なる暗闇の先は何も見えませんが、星を覆うカーテンの隙間から漏れる光は大層目立ったことでしょう。素晴らしい催しでしたが、まさかこのような事になるとは……」
「何さも深刻そうな体で話してるんです!! あの時お前が止めないからこうなったのでしょうが!! これ私のせいでは絶対ないでしょう!!」
「落ち着けベアトリーチェ、まだ色彩の到来が確定したわけではない」
「マエストロ!! そういうことを言っているんじゃありません!!」
ギャンギレのマダムであったが、この場で彼女の気持ちを察してくれるような紳士は皆無である。
「黒服、確かに色彩は脅威ではありますが……」
「ええ、脅威ではあります。ですが……マダム、どうでしょう? 実際にその力を体感した貴女にお聞きしたいのですが、色彩の力とは……どの程度のもので?」
「……フン!! あの程度の出力で至高の高みなどと馬鹿らしいわ、失望にも程があります……あれで崇高だなどと、鼻で笑うようなもの、狂鳥共に容易くブチ抜かれる程度で脅威だと? 全く愚かしい」
マダム・ベアトリーチェは「色彩」に対し……完全に失望していた。
まあそう。神秘を破壊し崩壊させる程の力と、鳴り物入りで導入してみたものの……完全に、全く役に立たなかったのである。ダチョウの考えられない暴力からベアトリーチェの命を守ったのはアツコから搾取した神秘の方で、色彩との接触で得た力は……狂った鳥のワンパンで消し飛んでいた。
至高の存在に達すると信じていた、お前の姿はお笑いだったぜという悲しい結果。だからベアトリーチェは、どこかの世界線では固執した、色彩の力による超越というプランを完全に捨ててしまった、使えるかこんなゴミ。
はっきり言って崇高……至高の高みを目指すために得る力というなら、考えるまでもなく完全に……今このキヴォトスに満ちる神秘の方を研究すべきである。それも有象無象の雑魚を頭数揃えても無駄だ、アリウス生徒がたとえ1万人いたところで……あのイカれた鳥が12匹いたら、全滅するまでの時間がちょっと伸びるだけ。
やはり力、パワーだけが全てを解決する。
そう考えると、最初から強い神秘をもつ小鳥遊ホシノに執着し、12使徒というイカれた鳥を上手く扱ってきた黒服の方針は正しかったことになる……彼女にとって、忌々しいことであるが。
「やはりそうでしたか、ある程度予測できたことでしたが」
「そうなると、色彩はさほど脅威ではないのかもしれませんね」「そういうこった?」
「油断するべきではないが、こうも明確に出力差があってはな」
「色彩の判明している特性は神秘の反転・崩壊といった直接的な侵食。しかし天秤を動かすためには互いの質量がある程度近しい差でなければならない……」「そういうこった!!」
「岩と砂で天秤が動くとでも? 馬鹿馬鹿しい……」
「神秘の比重が重すぎ、生徒達の崇高の力が満ちすぎている今のキヴォトスでは、色彩が天秤を動かせるほどの重みを得ることは難しいのではないか、その推論は正しいものになりそうですね、クックックッ」
本来であれば重大な脅威であった筈の「色彩」……しかし、その接近を前にして余裕のある黒服達だった。これまで様々な準備をしてきたし、対策や対抗手段もある。
そして何より……思ったよりも弱い。
危機感をもって当たってきた昔ならいざ知らず、イカれた鳥の形をした増幅器12個が、滅茶苦茶にブーストしすぎてお祭り騒ぎになった今のキヴォトスにとって……これ脅威か? もしかして、たいした影響力なくね? という感じであった。
そう、ゲマトリアは「色彩」に対して、完全に余裕ぶっこいていた……。
「しかし侵食されれば被害が無とはならぬ、完全に軽視するのも不味かろう」
「その通りですマエストロ、勿論準備は整えておきますよ。しかし……クックックッ、果たしてあの程度の出力で、このキヴォトスに満ちる「力と夢」にどこまで抵抗できるやら、結果は儚いものになりそうですね」
「隔世の感ありだな、あれほど脅威と考えていた筈の色彩が……」
「そういうわけです、連絡事項として「色彩」の件は伝えておくべきと思いまして。なにせ来たら来たで重大事件にはなります、最終的に解決はされるでしょうが、キヴォトスが再び火の海になることが確約されていますからね」
「今度もよいデータが取れよう、備えておかねばな」
「マダムの屋敷がまた燃えてしまいますか、新築だというのに……災難が続きます」「そういうこった……」
「ゴルコンダ!? デカルコマニー!?」
ダークサイドの者らしい油断……明らかにフラグなのだが、実際その力を使ってみてカス(当社比)であることが判明してしまったので、懸念事項が消えた研究者達はタスクの優先度を下げてしまったのだった。
こうして、色彩に対するゲマトリアの方針は「なんとかなるやろ」「パワーオブドリーム」で固まった。
デカグラマトン、無名の司祭、名もなき神々……どれもこれもが「力と夢」の前にひれ伏しそうな今、油断なく備えはしていても、精神的には余裕のあるゲマトリアであった。
かなり昔に策定した、当初のシナリオが早期に完全にぶっ壊れて役に立たないどころではなくなった時点で、ゲマトリアの方針は「なんでもやってみるものさ」「まあ……いけるやろ」になっている。
未来予知の神秘を嘲笑い続け、ボッコボコにして惨敗させ続けている今の世界はパワフルがすぎる、細かいことをいちいち深く考えても仕方ないのである。
対抗手段のある脅威に対してはそれほど恐れる必要はない……ダークサイドの者は時折、妙に詰めが甘くなる時がある、それが今というだけであった。
・先生は皆にもう少し平和なスポーツ楽しんでほしいなと思います。
「ほげぇぇぇ!! いくらなんでも暴力的すぎるよ!! 錐揉みで人が滞空したらだめでしょ!! さすがにそれはないでしょ!!」
・リオ・リンで二人はリリリリ
「……」「……」ガシッ (無言の理解と解釈一致を察し、固く手を取り合う)
・ナギサ様は大体何もご存じない……
「??」(急に二人が仲良くなって困惑)
・マコト様はおたのしみでしたね
「キキキ!! 敗れたかヒナ、まあいい……ゲヘナが敗れたわけではないし、私は寛大だからな!! それにベースボールコロッセオでの再戦は、むしろこの流れのほうが盛り上がるというものだ!! キキキ!! さあイブキ、哀れな敗者に今どんな気持ちが聞きに行くとしようか!!」「はーい!!」
・カヤちゃんさん……
「ミ゛ッ゛」(突然リンちゃんさんが総領主部屋に自分を「次席です」とか言って突っ込んで、自分はお下がりになるナギサ様とリオ会長とお話があるので後は頼みますって去られた時の鳴き声)