トリニティの12使徒   作:椎名丸

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・ダチョウAチーム。
A1 城島ツバメ(じょうしま つばめ)
A2 緋色ユイ(あけいろ ゆい)
A3 相良リョウコ(さがら りょうこ)
A4 夕立イト(ゆうだち いと)

・特徴
比較的温厚な鳥類が揃っている。暴力性・暴走性共に低め。
アポストルAチームはナギサが動く際に侍る近衛小隊であり、若干知能レベルも平均より高い。多少は考えて動いてくれるなどダチョウの中ではわりと良心。A1・A2はナギサの側付きをローテーションしており、A3とA4はゲヘナと仲が良く、万魔殿・風紀委員に直接の伝手がある。



間話・AチームのAはAHOのA

「ようやく……落ち着きましたか……」

「ひゃー……終わったねぇ……おつかれー皆」

 

「お疲れさまでしたナギサ様、ミカ様……」「奇跡だろこれ……」

「どうかお身体をお休めください、残るは些事ばかりですので」

 

「いえ、皆さんこそ。お疲れ様です……これまでの献身に私はただ感謝しかありません、よくやってくださいました……ありがとう、ございます」

 

 トリニティの頂点たる者、総領主生徒会長ティーパーティーホストの労いの言葉に、場の全ての生徒は静かな喜びに包まれる。敬愛する君主の温かな言葉で、全ての苦労が報われるかのようだった。

 

 火の七日間あたりからずっと、言語を絶する仕事量と舞い込む爆増した案件に滅多打ちにされ続けていた生徒会ティーパーティー生徒達は多少の間隔は空けつつも、およそ約2ヶ月は続いた修羅場の果てに……ようやく通常の体制に戻れる兆しを得ていたのである。

 

 彼女達はこの間……10代の少女らしい遊びをしていた記憶は殆ど無い、来る日も来る日も書類・実務・報告・会議・書類・出張・実務・会議・報告。毎晩月が見える日々であり、茶会生徒専用宿舎(残業がすぎるデスクワーク組のために去年、茶会会館近所に新設)には殆ど寝に帰っているような毎日。ミカが苦心して組んだローテーションと強行した強制リフレッシュ休憩、執務室から抱えて追い出す安息日以外は社畜ならぬ学畜といった、あんまりな有様。

 

 ちなみにこの場に居ない百合園セイアは……先日のダチョウNEW!!ウェポン・ビームライフル事件の衝撃から不屈の思いで立ち直った数日後あたりに「ビームマシンガンとかも欲しい!! ヒナちゃんみたいなの!!」という、ダチョウ衝撃のオネダリに快く頷いてみせた白石ウタハから送られてきた試作品の衝撃でトドメを刺されて昏倒、今現在は蒼森ミネに救護されVIP救護ベッドの住人。

 

 そんな長く辛い戦いを経て鍛え上げられたティーパーティーは今や、完全にキヴォトス第二の連邦生徒会である。なんで学園運営組織が他学の自治区行政からインフラと治安維持まで面倒見てるんだ?という疑問を、彼女達は既に考えなくなって久しい。

 

 ティーパーティーという名称の組織なのに、修羅場期間中お茶会を実施できたのは数えられるほど。それも終了したら解散せずそのまま即書類片手に茶席(デスク)へ戻るという、カイザー系列企業の社員達から「ブラックすぎる……学生には労働法が適用されないのか……」と恐怖に慄く発言が出る勤務状態。これにはプレジデントからも「福利厚生というものを考えろ、若さで全てを解決しようとするな」というダークサイド企業らしからぬ至極真っ当な経営者発言がお出しされていた。

 

 そんなカイザーホビー工場長達真っ当な大人が心を痛め続けている激務を終えた茶会生徒達は、久方ぶりの解放感からハイになり……。

 

「そうだ、お茶会をしましょう、ようやくゆっくりできますし」

「そうですわね、もう随分と時間を気にせずとはいきませんでしたから」

「心穏やかな一杯が、ようやく……」

 

 お茶会を開こうとしていた。

 

 狂った鳥達の暴力的圧政のせいで、皆して穏やかな淑女に目覚めてしまった彼女達の……慎ましすぎる、修羅の国キヴォトスにあるまじき、お嬢様学園生のイメージ通りな欲求の解放。

 

 これがゲヘナ生徒会万魔殿の事務生徒なら「適当に店でも襲撃しにいこうぜ!!」とかモヒカンみたいな発言が飛び出している。因みに訪問を襲撃と言い換えている訳ではなく、本当に銃弾を代金とした強盗的な打ち上げ(襲撃)なのがゲヘナのゲヘナたるところだったし、風紀委員にボコされて独房に叩きこまれる流れまでも日常だ、誰も疑問に思わない。

 

「ふふ、そういたしましょう……では、皆さんを労うためにも、私が腕をふるいましょう。茶葉も吟味して……楽しみですね」「やったぁ!! ナギちゃんのお紅茶!!」

 

「「「「「「わああぁぁぁ!!」」」」」」

 

 ナギサ手ずからの一杯が確約された瞬間、歓声でティーパーティー・テラスが満たされる。

 

「お手伝いいたします」「席のご用意はわたくし共におまかせ下さいますよう」

 

「久留島さん、生駒さん、よしなに」

 

 ナギサの発言に華やかに湧くティーパーティー生徒達、ここだけ見れば華やかな乙女の園。しかし実体は残業続きの連勤から解放された労働者達の「飲みに行こうぜ!!」(紅茶版)である悲しさだった。

 

 しかも準備は自分達でするという勤勉さだ。外注しても正直許されるところだが、ティーパーティー生徒たるもの茶席の用意も楽しみなので、これも疑問には思わない。そんなティーパーティーが外部から見たら聖人かつ超人の集団に見えるのは当然で、こんなところに普通の人間が入れるわけない……となって入部者が減るというブラック悪循環の地獄である。

 

 が……そんな中、何故か志願して入ってきてくれる生徒達もいた。

 

「ツバメ様、お花を持ってきてくださらないかな」「聞いてみる?」

「こちらから求めるなんて、はしたないことは……」

「お野菜を使いたいと言えば、一緒に持ってきてくださいますよ」「そんな手が!!」「流石ですわ先輩、感服いたします」

 

 何故か異様に少女達を惹きつける、凶鳥の一匹を追って白制服に袖を通した面々がいたりする。1年生だけでなく、一度はボコされた事がある2年生からも不思議なことに人気。肝心な時しか役に立たないと姉妹達から言われる12翼の長だったが、肝心な時「しかない」青春に生きる少女達にとっては、常に輝くばかりの存在だったりした。

 

 趣味は家庭菜園……もう家庭ってレベルじゃねぇ畑を気がついたらトリニティに持つ生徒。ティーパーティー直属、特別保安警務隊。別称使徒(アポストル)隊……名高いその名は12使徒。その部隊長ナンバーA1……名を、城島ツバメ。

 

 彼女が育てる野菜や果物の花は、ティーパーティーだけでなくトリニティで茶会を開く生徒達にとって、憧れの一品になっていた。尚、本人にとっては花は主題ではないので気付いた様子は全く無い。

 

 ナギサはそんな後輩達を微笑ましく見守りながら、気づかれぬようにそっと「後ほど、一年生達から明日開かれるお茶会へと誘いがあると思います、その際にはお花を少し多めにお願いできますか?」と、今の時間なら教室ではなく畑にいるだろう、話題の彼女へとモモトークを送る。

 

 厳しい雰囲気に見えるが、何かと気遣いのできる娘だと近くに置けばよくわかる。だから言わなくとも持参するだろう……とはいえ望む全員分用意させておくのが上に立つ者の心遣い。

 

 ナギサが最も長く側に置く12使徒、その長であるツバメへの信頼は強い。やはりどんな時でも懸命で信頼できる相手というのは大きい。幼馴染にして本人としては不本意ながら今やキヴォトス最強格のミカは別格としても、ナギサが何処に出るにも安心して側に置くならば……やはり城島ツバメだった。

 

 リーダーである彼女に明確な意向さえ与えればなんとかなる……わけではないのが困りどころだが、懸命に使命を果たそうとする姿、努力の姿勢を見れば、力の使い方がわからないだけだと理解できた。ようは命令の出し方次第……。

 

 理解できるように意思を伝えれば……12の翼は、そしてその長は応えてくれる。

 

 程なくあった女主人に対しての返信は、勿論肯定だ。

 

 

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 トリニティの噴水。通常それは、大学園トリニティの中枢たるスクエア、その中央にある大噴水を指す。歴史ある総合学園の中でもスクエアは旧学閥の隣接地、その中心に建設された学園統合の象徴たる存在。

 

 スクエアとはそのままの広場という意味だけではなく、最初に統合成った4学園、つまりフィリウス・サンクトゥス・パテル。そして少し遅れてヨハネ……4学閥の元となった学園の領地が接した緩衝地帯であったという意味もある、だからこそ……この場にトリニティ総合学園の本校が建てられた。

 

 長い時の中で学閥が派閥として緩やかに吸収され、統合の記憶が薄れた頃に、本来の意味での名は忘れられ広場としての名が残ったが、かつての水源闘争の名残か……絶えない湧き水の地、その中心に今も水を湛えた大噴水が残されている。この噴水こそは真に、トリニティの中心にあるのだ。

 

 優美な装飾と清らかな輝きの清水を今に伝える大噴水は、正しく優美なお嬢様校トリニティの象徴……生徒達の憩いの場……に、戻ったのは、つい今年初め頃の事。

 

 去年半ばまでの大噴水といえば実質……処刑場である。

 

 毎日朝昼夕には本日の犠牲者が噴水に漬けられた後、並ぶ街灯にボッコボコにされ惨敗した姿で吊るされているのが常であった。お嬢様学園にあるまじき世紀末の様相だろ……。

 

 ここだけ完全に治安ゲヘナな光景……毎日処刑が実行される恐怖政治のギロチン台のごとき存在感だった大噴水は多くの生徒達が恐怖で遠巻きに、一部の生徒は残虐ショーの見物に眺める場だったが……今年になってからは生徒の漬物は過去の物となり、今も多くの生徒達が穏やかな時間を過ごしている。

 

 その一角に、生徒に群がられた大翼の姿。

 

 大噴水を正面に眺める憩いの場、ベンチに腰掛けたまま本を読んでるティーパーティーの白制服、その大翼は広げられて掲げられ、ベンチを覆う天幕と化していた。群がった生徒、主に下級生達に翼を好き勝手にモフられている。

 

 集中しているようでしていない読書者の名は、ティーパーティー直属、特別保安警務隊。別称使徒(アポストル)隊……名高いその名は12使徒。ナンバーA2を持つ生徒……名を、緋色ユイ。

 

 キヴォトス全国レベルで名を知られた「暴」の存在も、同学トリニティ生徒達にとっては治安部隊の一生徒に過ぎない……わけではないのだが、今年に入ってから完全に平和になったトリニティ学内では、普段穏やかな姿しか見せない12使徒の「凶暴性」が忘れられている。

 

 特に1年生は昨年の凄まじい暴れぶりをよく知らないせいで、強く優しく穏やかで、頭は悪いという可愛げのある先輩をよく慕った。入学できた憧れの母校、その躍進を支えてきた存在という点も大きい。ティーパーティーの白制服など一般生徒から見れば遥か雲の上の存在だし、12使徒は画面越しに見てきた最精鋭部隊……それが案外普通に触れ合えるという距離感なのだから。

 

 ようはギャップだ。画面越しに見ていたあの暴虐と本人の穏やかさが一致しないので、多くにとっては気の良い先輩でしかない。中には中学時代にボコされたような生徒もいるが、普段のインコぶりを見ていたら……馴染んだ。

 

 ナギサに臣従した直後の「殆ど野生」だった頃、マジでヤバい暴虐を肌で知っている2年生達も多くはもう慣れた、特に何もなければ穏やかな生き物なのだと理解してからは、暴れる理由を作った側に問題があるのだと思うようになっている。こうしてトリニティは駝鳥の暴力的圧政によって意識改革が行われ、手当をするナギサの貴人としての存在感が高まれば高まるほど、キヴォトスにあるまじき……平和なお嬢様校としての存在に近づいていった。

 

 このキヴォトスで、銃声が殆ど聞こえてこない学園などトリニティだけ。

 

 それを形作った一人は長いベンチの右側に座りながら、その全てを覆って余りある完全展開の左翼は……日よけにした少女達にされるがままに遊ばれていたが、本人は全く気にした様子もない。適度に開かれた右翼に至っては、生徒達が身体を翼内に埋めての、羽根籠ごっこ順番待ち。翼を好きにされるユイは全く抵抗せず、されるがままだ。

 

「……?」

 

「これは【韜晦】(とうかい)ですね、自分の本心や学識、地位などを隠して、知られないようにすることを意味してます」

 

「難しい漢字……シミコは凄いね。これ、わかりませんって嘘ついてる?」

 

「ですね、少し柔らかい表現で……とぼけてるって感じです」

 

「この2文字で済むんだね」

 

「意味を圧縮してるという視点、凄く文学だと思います」

 

「そうかな?」

 

 そんなユイの隣に腰掛けて、時折首を傾げた彼女が読めないだろう漢字の注釈を入れている円堂シミコもまた、その翼の下で涼みながら二人読書を楽しむ生徒。威圧的なイメージからすれば不思議な程インドアな趣味持ちの上級生とシミコは、仲が良かった。本好きというのもあるが、勧めれば快く読んでくれ、拙いながらも感想があり、内容について話し合うことができる関係、そして本の扱いもけして粗雑にはしない……そんな暴力駝鳥達の良心は本好きの琴線に触れる。

 

 最も熱心に図書館を利用する鳥類、緋色ユイは普通に本好きだった。

 

 凶鳥の噂に反して意外にも静かな読書家なので、対人能力に問題のあるシミコの程々に敬愛する図書委員長とも交友はそれなり、必要以外で殆ど喋らないのが良い関係のコツらしい。

 

 ユイの姉妹達には本を読む習性こそほぼないが、彼女共々時折図書館を訪れては声をかけてくれる……シミコが請われてティーパーティーの資料室オブザーバーに収まっているのも、12使徒の交友と無関係ではない。

 

 そんな花の咲くような文学少女達の空間の……周囲は、ユイの翼を遊具に使ったアスレチック状態なのだが二人は一向に気にしないし、モスっと羽毛に顔をうずめている生徒達も気にしない。ぼんやりしている時のダチョウは生徒達に群がられるインコ的存在感なので、今時分は特に珍しくもない光景だった。学外の生徒達が目にしたら恐怖に凍りつくような行為だが、これはトリニティ生の特権……抜け羽根をお守り代わりにしている生徒も多いのだ。

 

 温かな陽気と水場にそよぐ風で適度な心地に、大噴水のせせらぐ音と、でかい鳥を愛でて遊ぶ感覚の生徒達の声……これが他所の学園であれば時折爆発音の一つも響いたところだが、ここはキヴォトスで一番平和な学園トリニティ。

 

 今、大噴水の周りはこういった歓談する生徒達の集まる、穏やかな空間だった。

 

 

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「……わかっていたけど……ちょっと次元が……」

 

 銃声が響く訓練場、正義実現委員会の生徒達が鍛錬に励むこの場は今……若干宇宙世紀。

 

 静山マシロが見守る模擬戦闘、それは今までのような陸戦……歩兵戦闘ではない。マシロが見上げているのは空、なんと空中での戦い。

 

 人間は空を自由に飛べない筈では?それはエデン事件までの話。今やキヴォトスの精鋭羽付生徒達は、気合いを込めれば意外と飛べるようになっていた……そうはならんやろ。けどなってるし、実際皆飛んでる。

 

 < 編隊は解いても、マブを崩さないこと >

 

 通信越しに静かに響く指導の声、その主は今……黒染めの翼達、正実学兵の群れを単騎で蹴散らしている、ただ一人の白翼。ティーパーティーの白制服に身を包んだその生徒の名は。

 

 ティーパーティー直属、特別保安警務隊。別称使徒(アポストル)隊……名高き12使徒。ナンバーA3……名を、相楽リョウコ。

 

 20対1の空戦、正実学兵達だけでなく近場の校舎から見学に来ている一般生徒達も見守るそれは、端的に蹂躙と言って差し支えない。普通この数相手なら袋叩きになるのは常、しかし相手は名高い恐鳥……殆ど被弾することなく悠々と飛び回りながら一個中隊……2人10ペア、10チームの「マブ」達を相手取っていた、教導しながらだ。

 

 マブ、それは「マブダチ戦術」を行う二人一組の戦術単位。新たに「空」で戦う学兵達のために考案された新戦術とチーム編成。お互いの死角と機動の制限を補い合う、空中衝突のリスクを抑えた最小単位で行われる3次元の機動戦闘……しかし教官は今一人。

 

(いくらなんでも自在すぎます、実質20対1で……)

 

 リョウコの機動は舞うようにしてかつ、緩急のあるそれだ。時に翼で力強く羽ばたき、時に腰のブーストカバンの推力で鋭く機動する。かと思えば重力と風にまかせて優しく、そして素早く降下……これを見れば明らかに飛び慣れているとわかる。人間は羽付であろうと本来飛べるようには出来てはいない、落下の恐怖を感じる筈なのに……。

 

 既に足で地を走るがごとく、空を我が物にしていた。

 

 この20人の正実生徒達は最近訓練によって飛べるようになった面々で、エデン事件当時から飛べた基幹部隊生徒達との練度差はいかんともし難いのは確か、しかし……あまりに飛び方に隔絶した差がありすぎた、同じ生き物の動きとは思えない。そもそも空中で銃弾を回避しているというのが異様だ。

 

 エデン事件では本校待機だったマシロは、遅ればせながら先日「浮かぶ」ようになった勢、だからこそわかるのだ……空で溺れるという感覚が。浮くには浮く、しかし「飛べる」かどうかは別の話。

 

 訓練生達が人数で押そうとしても、すり抜けるように飛ばれている。どう考えても翼の揚力がどうとか、物理的な空力とかそういうものを超越した機動。

 

 < そんなのあり!? > < 今ので当たってない!? >

 

 訓練生達の悲鳴のような声が無線から流れる、無理もない。今彼女達は十字砲火に等しい射撃を浴びせたのだ……マブ戦の基本は死角を補い、隙を突くこと、しかし最小の動きでそれは躱される。背面で飛びながら、身体と羽根を少し動かしただけで容易く全て躱された。

 

 < 焦らない、全員同じタイミングで撃ってはだめ。マブ戦は牽制と死角からの一撃、位置関係を忘れずに、見ていない角度から仕留める。二人で戦うなら徹底……でも基本は「下」と変わらない、落ち着いて >

 

 < はい!! 伊馬と梅沢、もう一回いきまーす!! > < その意気 >

 

「お、やってるっすねぇ」

 

「イチカ先輩?」

 

 散歩の途中に寄ったような雰囲気で現れたのは、完全武装の仲正イチカ。

 

「マシロは順番待ちっすか?」

 

「いえ……その、まだ上手く飛べないので、見学なんです……」

 

「ああ、ちょっとイメージが掴めるまでは困りものっすからね、飛ぶのも」

 

 イメージで済ませて良いのかな、あれは……という感想のマシロだったが、実際先達からのアドバイスは全て「イメージ」「飛べる自分を想像する」なので余計困ってしまうマシロだった。

 

 最も親しく、尊敬している先輩(ハスミちゃん……)も飛べない勢なので、劣等感こそ持たなくて済んでいるが、やはり同期に差を付けられていると思うところはある。翼のサイズは関係ないとわかっているので、飛べない自分のそれは完全にイメージ不足なのだ。エデン事件では本校待機だったマシロはあの狂乱ともいえる「飛べたわ……いけるやん!!」という空気を感じていないので、どうしても苦労してしまう。

 

 飛行能力の獲得は正義実現委員会の学兵にとって必須ではないとされているが、飛べれば選択肢も増える……できれば飛べるようになっておきたいなという生徒は多く、その数も増えつつあった。マシロも高い場所を好む、自由に空を飛べたらなという思いは……強い。

 

 しかし15年、自分の羽根で空が飛べるとは思ってこなかったので、これが中々難しい。

 

「よっ、よっと。んー……それじゃあ私も訓練に参加させてもらうっすかねぇー」

 

「イチカ先輩は誰とマブを組むんです?」

 

 ストレッチを始めたイチカ、しかし一人だ。マブを組む相棒の姿はない、仲正イチカの「マブ」は同じ警備大隊中隊長の中臣。エデン事件では二人共、古聖堂会場の外に整列していた。臨時駅の防衛戦や、その後の反撃でも隊を率いて戦っている。二人はあのミレニアムの超兵器、スーパーアバンギャルド君やアリウス特戦隊ともガチった正実の精鋭……。

 

 正実中隊長クラスの生徒がマブを組んだらそこらの学兵では歯が立たないが、しかし相手が12使徒となると……これでもまともな戦いにはならない。相棒とする生徒に求められるレベルはより高くなる……しかし今この場にいるのは1年生の訓練中隊なので、2年生は居ない。

 

「そりゃもちろん……リョーコっすね」

 

「え!?」

 

「せっかくなら迎撃してるだけじゃなくて、ソロ相手よりはマブ戦って奴を実際に見せたほうがいいと思うんすよね……ほら? 機動と位置関係を見せるって大事じゃないっすか、まあ私の場合はお手本ってほど自慢げなものじゃないっすけどねぇ」

 

 < というわけでリョーコ!! 混ざっていいっすかー!! >

 

 < ほいよ。イッチ、前衛やる? >

 

 < んじゃ先陣は貰うっすー >

 

 さらっと決まる過酷な訓練の幕開け、相良リョウコと仲正イチカは「マブもできる」レベルの友人で、息のあった二人でもあった。クラスメイトで、かつ寮も同じくして相互毛繕いも欠かさない関係……つまり正規のマブではないが、マブ戦術をしても強い。

 

 そもそもイチカ自身並ではない、正実中隊長というのは単に20名単位の学兵を率いていることを意味しない。古風な言い方をすれば百翼長……つまり最大100人以上を率い、その100人全員まとめたよりも強いということ。

 

 精鋭主義の権化である正義実現委員会で中隊長という地位は、実戦で真正面を張る学兵であることを求められている。指揮官の色が強い大隊長よりも、遥かに前線指向……直接相手を拳で殴る役割だ。選抜中隊の面々すら殴り倒せるイチカと、12使徒のリョウコが組んだらどうなるのか……端的に言って無理である。

 

 そして穏やかな雰囲気だが……仲正イチカの気質はかなり凶鳥寄りだった。平時はともかく、その凶暴性も、暴力性も、実力も駝鳥に近い。まさに正実の中核戦力、黒き翼の最前列に並ぶにたる学兵。

 

「ええー……そんなのありです?」

 

 <<<<< うそですよね!? イチカ先輩!? >>>>>

 

 < 泣き言いわない、イトと空崎ヒナのマブ相手にするより遥かに気が楽でしょ? あれは私達でも泣きが入るレベルっすからねー >

 

 < ヒナは私らと普通に無言連携できるからさー >

 

 < その域に私も達したいもんっすね、どう? リョーコ >

 

 < イッチは後衛より前衛、合わせるよりマブに合わせさせたほうが強い……つまり姉妹やヒナには及ばんね、要精進 >

 

 < 比較対象がヤバすぎっすよねぇ!? >

 

 12使徒は12人全員が「マブ」である。6ペアのチームなどではない、12人が全員……完全な連携をしてくるのだ。陸でも、空でも。だからこそ……このキヴォトスで最強の部隊。

 

 空崎ヒナ以外に、これを真っ向勝負で撃破できた存在は、いない。

 

 そんな面々と並んで戦える先輩達の背中、そのなんと遠いことか……。

 

 軽口を叩きながらイチカが駆け出し、軽く羽ばたいてふわりと空に上がる。そのあまりにもスムーズな離陸に、ため息の出てくるマシロだった。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 天雨アコはイラつきながら風紀委員執務室で書類を捌く。

 

 今この部屋には同じ行政官の同級生、須藤が一人いるだけで外を回っているイオリは勿論、机事を助けてくれるチナツも居ない。そして何より敬愛する委員長ヒナが居ない……。

 

 今、我らが風紀委員長は警邏の名目でお散歩中なのだ……外から迷い込んだペットの鳥を一匹連れて。そんな中自分は執務室に缶詰……暖かな陽気の中でヒナの側に侍り学内を散歩するという栄誉を、よりにもよって外部生、それもあのダチョウの一匹に奪われ……。

 

「……」

 

「なんです? 言いたいことがあるなら言いなさい」

 

「態度がうるせーぞアコちゃん、パイの態度すらでかい、慎ましくしてろよ」

 

「普通に罵倒しないでくれます!? 態度が煩いって何なんです!?」

 

 口数少ない同僚にもこの始末。しかしアコがイラついてない日があるかというと、そんなにはない……筆頭行政官は忙しいのだ。

 

 今も遠くから爆発音が聞こえる……まあ正直日常だし、銃声が30分しなかったら「何か様子が?」となるようなイカれ学園なので、アコも感覚が麻痺していた。トリニティに派遣されて屈辱の事務員仕事を強いられていた時には、あまりにも銃声がしないので落ち着かず、ティーパーティー生徒に理由を尋ねた程。

 

「銃声? ここは正実の訓練場から遠いですが……」

 

「ナギサ様の総領主館もございますのに、このスクウェアの内奥で発砲する生徒などおりませんよ?」

 

 とか本当に不思議そうに返されたアコは正直ショックだった。

 

「ティーパーティー・テラスに爆発音を響かせることなど、12使徒が許すとも思えませんが……」「この場ではあの子達でさえ、気をお使いになって殴打で済ませておりましたからね」とかいう威圧的な台詞が3年生から出てはいたので、平和すぎるトリニティになる以前に茶会会館で響いていたのは打撃音だったと思われるが、あまりにも文化が違いすぎる。

 

 こんな気質真逆の2校が今、普通に同盟できているのが不思議にすぎるかもしれないが。最近のゲヘナ生は暴力に目覚めたトリニティ生徒達を中心に関係良好だった。

 

 元々ダチョウが去年から万魔殿に結構訪れては校内でフレンドリー暴力コミュニケーションしていたので、今更「お高く止まった連中」という意識はない、ゲヘナでは力こそが全てなのだ。

 

 なので、エデンでこれまで秘められてきた……清々しいまでの暴力性を見せつけたトリニティ生徒に対しての隔意は今のゲヘナ生徒の中には少ない。学園領地が接する緩衝地帯は今、普通にフレンドリー暴力文化交流が行われる力と力のワンダーランドなのも効いている……いや、エデンで戦わなかったような平和主義トリ本校生徒達はドン引きしてますけどね。

 

 尚どちらも、ヒナちゃんかダチョウがお散歩してきたら平伏を余儀なくされるので緩衝地帯の治安もそれなり。

 

 ヒナのお散歩、それは威圧のつもりはないけど威圧的な日課。

 

 これが日中の学外なら恐怖に凍りついた道行く人々が平伏して命乞いを繰り返す地獄のような光景が繰り広げられるところだが、ゲヘナでは違う。

 

 ほぼハジけた生徒しかいないゲヘナ学園領内では、お散歩中のヒナを見ても慄くような生徒は少ない。このイカれ学園では基本、力こそが正義なので……その頂点であるヒナは普通に尊敬される人物だし、普段おとなしめな一般生徒ですら派手目に遊んでボコされるのも日常だった……ここはゲヘナである、平和という概念が一般学園とは違う。

 

「てか、アコちゃんもついていけばよかったじゃん」

 

「そんな無粋な真似ができますかっ!!」

 

「そんなとこだけ慎ましくするなよ、パイの治安はいつも乱れてるくせにさ。貞淑さがたりねーんだよ、胸に重機でも乗せてんのか?」

 

「胸の話なんかしてないでしょう!? いつもいつも貴女は!! 大体貴女も人のこと言えますか!! 同じ制服着てるのに!! 体格も少し小さいぐらいでしょうが!!」

 

「行政官制服の横が空いてるのはともかく、インナーわざと着てねぇ奴に同類扱いされたくねぇ……ダチョウを見習えよ、意外と貞淑だぞ連中は」

 

「肌晒すのは好きじゃないって、本当に意外すぎて感覚おかしくなるんですよね……殆ど野生動物のくせに……中学時代なんか羽のついた猿ぐらいには破れた服のまま暴れてたのに!! なんなんですもう!!」

 

「アコちゃんも恥じらいをもって服を着たら? イトの淑女感を見習えよ」

 

「着てるでしょうが!! あの子の淑女感とかガワだけでしょうが!!」

 

「そのガワが大事なんだろ……」

 

 去年の聖夜以降、ヒナと急激に距離を縮めたトリニティの生徒……ティーパーティー直属、特別保安警務隊。別称使徒(アポストル)隊……名高いその名は12使徒。ナンバーA4……名を、夕立イト。

 

 見た目は完全にザ・トリニティで貞淑な乙女……の見た目な白制服のお嬢様は、本当に見た目と所作がお嬢様だった。雰囲気だけは花の咲くような空気……。

 

 だがダチョウだ、生育環境サバンナのこのキヴォトスにとてもよく馴染んだ生き物である彼女の暴力性は殆どゲヘナのそれ。だからゲヘナ生徒と仲が良い……今もヒナと共に道ゆく生徒達と挨拶(意味深)を交わしている。

 

 ゲヘナの中央本校にティーパーティー制服でいるのに、完全に違和感を持たれていない程度の生き物だった。

 

 頭もあまり良くないし、売られた喧嘩はノータイムで買う……そんな光景を微笑ましい目で見守るヒナ……ちょっとだけなら私もと手を出したヒナ、即死ぬお調子生徒……日常である、平和なゲヘナの日々、ここがエデン。

 

 エデン条約……それが成立し、2大学園が同盟したことでキヴォトスのパワーバランスは一変した……かに見えたが、そうでもなかった。二校の感覚としては、だ。

 

 治安が特別良くなったとか、そういう感じは全く無い。

 

 元々環境サバンナなので、荒くれ生徒は当然として……キヴォトス一般レベルの暴力性を秘めた一般通過生徒達も、特別意識改革されるわけもない。交流が深まって二校同士の揉め事は減ったかな? いや空気がカラッとしただけで、普通に暴力事件は起きてるな……という様相。

 

 だからアコ達の仕事は据え置きだった、これは万魔殿とティーパーティーもそう。

 

「つーかアコちゃんはさぁ、イトどうなの? 別に嫌ってる感じじゃないでしょ、仲良くしなよ」

 

「うぐぐ……まぁ、ヒナ委員長の環境を良くしてくれたことは認めてあげます……が、それはそれ!! なんですあの羽根籠って!! でっかい翼があるからって委員長に対して……好き放題して!!」

 

「アコちゃんも包んでもらったら? 血圧下がるかもしれんよ?」

 

「下がるか!! 暑いでしょうが!! なんのためにインナー着てないと思ってるんです!!」

 

「いや、インナーは着ろよ……」

 

 ゲヘナといえども、指定制服に風紀はあるのだ。

 

「アコ、イトの羽根籠は不思議と涼しいのよ?」

 

「ヒナ委員長!?」「お帰りなさい委員長」

 

 廊下に響くアコの声に、扉からそっと身体を覗かせていたのは、どこか得意げなダチョウを連れた話題のヒナだった。

 

「アコも羽根籠してほしかったのね? 何時も私が独り占めしてしまっていたけれど、試したくて仕方なかったのなら言ってくれればいいのに……イトはお願いすればしてくれると思うわ、ね」

 

「かまいませんわ、まあアコは無駄にでかいので色々はみ出るかもしれませんが……」

 

「そんなに言うほど体格差はないでしょう!?」

 

「試してみりゃわかりますわ……ヒナ様のお許しも出たことですし、さあアコの助……お前もわたくしの翼で締め上げて差し上げます、感謝なさいね」

 

「や、やめなさい!? そのインコ臭い羽根を私に近づけるんじゃあない!! 締め上げると包むは違う意味でしょう!? ヒナ委員長!! 止めてください!!」

 

「アコ、イトの翼は綺麗だから匂わないわ、何時も良い香りでフカフカなの……心地よくて眠くなってしまうのよ」

 

 存分に羽根籠の中で翼をモフりちらかして吸ってきたヒナは今、かつてなら濃かった目の下の隈もとうに消え去り、健康的な姿である……ややテンションも高い、無敵だということ。

 

 マジで無敵だった、デバフが消えてバフしかなくなった無敵生物に勝てる存在は居ないのだ。

 

「ヒ、ヒナ委員長ー!?」

 

「人聞きの悪い……手入れに時間もかかりますのよ……さあ煩いアコの助は仕舞ってしまいましょうね。無駄無駄、貴女の贅肉でわたくしの筋力に抵抗できるとでも?」

 

「あ゛ーっ!! 締まってくる!! 全然ビクともしない!? 何なんですこれ!?」

 

「うるせぇなぁ……静かにできねぇのかよアコちゃん」

 

「貴女ねぇーーッ!! あ゛っイト!? 貴女マジでこれ締めて!? やめなさっ!? せめて普通に包みな……!? ちょっ息!? んぎー!?」

 

 その後全身パキパキ言わされながら静かに昇天したアコは羽根籠に包まれ仕舞われると、羽根籠を分かち合うという寛大さと慈しみを見せた風紀委員長の好意で……そのままお昼寝となった。

 

 





需要があるかはわかりませんが、間話としてダチョウに焦点を当てた子話をこれを含めてA・B・C分3つお出ししてから、最後の戦いに入りたいと思います。P先生視点の掲示板もやりたくはありますが、ゲームシステムを想像すると結構難しいな……頑張れたらにします。

比較的A1を側に置くナギサですが、Aチームもティーパーティーに常時侍っているわけではなく、ABCそれぞれ交代で衛兵みたいなことをティーパーティー・テラスや総領主館でしているわけです。A1はA2とペアが多いものの、全員チームが違おうと誰と組んでも同じことが出来ますね。

なのでそれぞれ意外と色々な場所に出没してます、この場合分隊(2名)での行動が多く、C4のようにソロ活動は稀でしたが、最近のCチームは分散が多いようです。

全員何かあると車より早く、最近は飛行機並の速度で飛んでいくので即応性が上がりました、どうしてそんなことするの。

このようにダチョウは個別にコミュとって人間関係があるので、各地で繋がったり近くに居たり、変なところで遭遇したりと色々あるかもしれません。

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