トリニティの12使徒   作:椎名丸

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最終章、あまねく奇跡の月への旅。

スペースサバンナ編、始まります。



7章・世界がヤバい? らしい? ので走れダチョウ!! あまねく奇跡の月への旅編 序章
33・野望と奇跡のスターティンググリッド


 時はサマーシーズン、キヴォトスの夏休み。

 いよいよ到来した、全学生待望の完全連休期間。

 

 キヴォトスは学園都市国家なので真夏の時期には長期連休が当然ある。聖鉄骨連休からそう間をおかずの大型連休に、全土学生達は喝采を上げつつ青春の日々を楽しもうとしていた。学生達が浮かれまくる奇跡のシーズン……なのだが、実は全学生が完全な休暇となるわけではない。

 

「……あ、あの……室長」

 

「なんです??? 私は今見ての通り忙しいのですが???」

 

 学園は独立国家であり、自治区は国土。行政を止めるわけにはいかないので、その運営を行う生徒会生徒は概ね例外である。もう誰もがお察しの通りなトリニティ・ティーパーティーだけでなく、これはキヴォトスの首班たる連邦も同様であった……あんまりだろ。

 

「はひ……その……面会の希望が、また」

 

「……フゥゥゥーーーー……はい、まあいいでしょう。今度は何処です? というか今、各自治区回ってる最中なので待っていてほしいんですけどねぇ」

 

 横に裂けた瞳孔ガン開きの連邦生徒会長代行「次席」兼、防衛室長たる不知火カヤもその一人だった。連邦生徒に夏休みはありません、いや制度上はあるにはあるけど、仕事が舞い込めば現実無いも同然だった。

 

 わぁい!夏休み期間だし週末 は 休める!とか言ってしまう生徒達の姿はあんまりにも程がある。

 

「やっと連邦側からマトモに話せる人が来るってんで、どこの自治区も機嫌良いッスよね。いやー、平和っす!! カヤちゃん先輩ー、やっぱ「次席」抜きましょうよー!!」

 

「外回りだけの担当で既にこの有り様なんですよ!? 冗談じゃありませんよ!!」

 

 そう、次席。

 

 ナギサとの接触でハジけた現職代行の七神リンが、急に思いついて新設した……生徒会長不在な現在の連邦生徒会における臨時ナンバー2。この役職が実際に承認されるまでには中々の揉め事があった。

 

 そら今まで連邦生徒会長派で、反桐藤派の筆頭と思われていた総大将が急に敵対閥桐藤派のトップを自分の隣に置こうというのだから反発必至である。しかも自分の閥である12室の長たる統括室の副室長からではなく……だ。

 

 一応これまで協力関係にあった扇喜アオイも驚愕して問い詰めに走ったが……以前とは完全に目の色の違うリンに気圧された上に、これまでシャーレに関係する事以外に決して乱用してこなかった生徒会長権限まで持ち出して強行を重ねるリンを止めることはできず。かくしてカヤ本人に相談皆無のまま……不知火カヤは代行次席という連邦ナンバー2枠に放り込まれることになった。

 

 なんと防衛室長兼任のままである。人事の正式発表時に一度退任したことになっているが、次席の辞令とセットでまたついてきたので、部下たる防衛室のメンバー含めて体制は何も変わらない。

 

 そして代行次席の職務は。

 

 リン「超頑張って自治区との関係を良い感じにしておいてください」

 カヤ「ヒョエーッ!!」(驚愕)

 

 主に外回りだ……リンちゃんご乱心と疑われても可笑しくないだろこれは。

 

「で、でも、室長なら何処の自治区に行っても皆さん、お話ししてくれますし……。門前払いされないってすごいです、やっぱりこれが一番なのかなって……次席じゃなくなってもイケます、きっと……」「楽しみっすねぇ!!」

 

「崎守さん!? 貴女本当に甲斐さんと何も企んでないんですよね!? 信じてますからね!? この子がやらかしそうなら止めてくださいよ!? 絶対無理ですからね!!」

 

「ひどいっすカヤちゃん先輩!! 私 は 何もしてないっすよ!!」

 

「で、でも。イケます……き、きっと……ワンチャン……ありまぁす……」

 

「ないですよ!! 本当に信じて良いんですよね!? 大丈夫なんですよね!? 気がついたらマジでヤバい事態になってるとか冗談やめてくださいよホントに!!」

 

「ご安心、くださいぃ……」「えへへへ!! 激アツな夏になりますよ!!」

 

「信じてますからね!? わかってんですよね!?」

 

 カヤちゃんの目は節穴なので、信頼する副長と後輩が「例のアレ」の事実上の首謀者だし。可愛がってるちょっとヤバめの後輩に至っては協力者増やしまくってて、地元のやり口で総括しているという驚愕の事実にお気づきでない。あと気楽に付き合えるからと距離の近い役員ハイネが、まさかの最大の協力者……ほぼ詰みだろこれは。

 

 なんとなく嗅覚で怪しげな空気を感じつつも、流石にないよね?この情勢でクーとか冗談だよね?とか思っているカヤちゃんの姿はお笑いだったぜ。

 

 例のアレ……それは、クー!!

 またしても本人の知らぬ間に、マジでヤバい事態が迫っていた!!

 

 しかし連邦生徒会「救護」事件で一旦白紙になった決起は、カヤの代行次席就任で……再び計画練り直しになっている。というのも、決起に当たるヴァルキューレ含む桐藤派内外に「代行次席なら実質トップみたいなもんだし、アレしなくても上手いことやってくれそう」という空気が広まっているのだ。

 

 図らずもリンの一手が、リンとカヤ双方にとっての望まない破局を防いだと言える。

 

 が、いきなり外回りを全投げされだしたカヤの方はたまったもんではない。大体代行職が勝手に次席を作るのも問題だし、それも本来敵対閥の筆頭なのだ。

 

 冗談じゃないですよこれは!! 一体どうしたんですリン代行!? 気でも狂ったんですか!? こんなことしたら連邦のお政治バランスが爆発して……!! と、蒼白になったカヤだったが……意外となんとかなった。

 

「バカなことしてる場合じゃないんです、ああ忙しい……他派閥が静かなのが救いですけど、なんだってこんなことに……リン代行もちょっと様子おかしいですよ。一歩間違ったら連邦役員会分裂で大惨事だったんですよ? まさかこんな分の悪い賭けに出るなんて」

 

「そうすか? 悪くない判断だと思うっすけど」「です、ね。会長探索以外の方針、それほど私達と乖離してませんでしたし……」

 

「いやどう考えてもおかしいですよ。こんな賭けを強行するタイプじゃなかった筈で、妙に押しが強すぎるんです。あの大祭の日から、確実に様子が……」

 

 ナギサと会談をしたことは知っている。雑談がてら内容を探ったこともあったが、リンは口をつぐんでいるし……まさかナギサに聞くわけにもいかない、だが確実に彼女を変えた何かがあったのだ、あの夜に。

 

 だからこそ、その腹を知らねばならない。良い影響ならばかまわない、同志になってくれるならいう事なしだ。

 

 だが、もし……。

 

「あんまりしたくないですけど、一度腹の底を探ってみる必要があるか……でもちょっと、やたら目が据わってて話しかけ辛いんですよねぇ」

 

「最近のリン代行マジでヤバいっすね!! 目があっただけでヒエーッ!! ってなっちまいますよ!!」「まるで別人みたいに覇気が……どう、したんでしょうね?」

 

 そう、目の据わったリンの覇気が、連邦生徒会を圧倒する。

 

 当初こそ次席を自分の下から出さないリンへの反発が統括室や自派閥からあったものの、やってみると楽すぎるので皆即黙った。

 

 すげぇぇぇ!! 自治区が全然反発してこねぇぇぇ!! なんなら協力までしてくれる!! 今までなら即キレて殴りかかってくる自治区会長達が、カヤちゃんさんと会うと魔法でもかけられたみたいに静かになるとか!! こんなの最高だろ!!

 

 話まとめてくるカヤちゃんは地獄だよ!! 

 

 エデンの一件で仲いいのと就任ボーナスタイムだから一旦引き下がってくれてるだけだよタコ!! という迫真の叫びは完全に無視されている。

 

 渉外担当は調停室、岩櫃アユムの職責である筈、という上申は却下され。挙げ句にアユム自身からも「お助けに全霊で感謝します……」という台詞が出てきてしまう上、なんとアユムがしれっと秘書みたいな立ち位置でカヤと同席したりすることも。おい、室長。

 

 そして負荷が分散され、慣れないおしゃべりや折衝の必要がなくなったリンが、筆舌に尽くしがたい速度で仕事を処理しはじめたので……明らかに連邦全体の稼働率が改善している、当然反対者はほぼいなくなった。

 

 この突飛な人事は本人置いてけぼりで、成功してしまったのである。

 

 逃げ道なし。そして広報も出て全土周知なので自治区サイドからも歓迎ムードで、ナギサからも直々に労をねぎらわれた今……もうカヤに退路などない。

 

 やってやるよリンこの女郎!! みとけよお前!! 私は勝つぞお前!! というヤケになった不知火カヤちゃんさんのヤバすぎる激務が、こうして幕を開けた。

 

 これまで政治巧者として結構上手いこと泳いできたカヤにとって初の、気がついたら外堀全部埋められている完全敗北状態。最も優秀な連邦生徒であるリンちゃんがハジけてその気になったらさぁ、カヤちゃんが勝てるわけねぇだろと言わんばかりの詰め方であった。

 

 七神リンは完全な政治下手の政局音痴というのは誤りである。

 

 さる筋から贈られた、心身を癒す茶葉の香りで休息十分ならそれなりにはできる。連邦生徒のレベル基準で、という但し書きがつくが……その意味をあえて説明するまでもない。

 

 そもそもリンはこれまで強権の行使無しで、この混沌の連邦役員会をどうにかコントロールしつつ、全身麻痺にならず半身不随程度でキヴォトスの行政を動かしていたのだから……今迷いを捨て、ガチのマジになって「これはこうします」を強行し始めると止められる者が居ない。

 

 影響力の大きくなったカヤを桐藤派ごと取り込めば、つまるところ連邦内部で最大派閥の与党になるのだから、リンは今や多数派の長であり、役員会の議決で常に勝てる。

 

 桐藤派と協調し始めたリンに多くは好意的だ。無派閥生徒達もこの方針転換に歓迎で、会長の捜索と帰還を待つ方針は堅固しつつも、桐藤派に理解を示してカヤをより上役に据える……就任初日から明らかに外圧が減ってやりやすくなったし、歓迎しない理由がない。

 

 こうなるとアオイ率いる財務閥も、中々文句は言えないわけで……なんなら役員会曰く。

 

「やりすぎ? 代行の分を超えてる? アオイさん……気持ちはわかりますが、役員会の過半数が承認しないと不信任の動議はできませんからね。今のところその必要はないのでは? 自治区サイドからの視線も柔らかいですし、なんだか上手く回りそうな空気ありますよ。やっぱ渉外はカヤさんに投げとけばよかったんですよ最初から、次席に置いて外回りだけしてもらう……この手があったかーって感じですよね!!」

 

 とか言い出していて、じゃあお前ら今まで何のためにバチバチしてたんだよ感ある、穏やかな笑顔が溢れる楽しい職場。

 

 当の桐藤派トップの意思が完全に無視されている以外、何も問題はなかった。

 

「っと、のんびり話してる場合じゃなかったですね。面会を希望してるのはどこの自治区なんです? 小規模自治区はできるだけ集会形式にしたいと伝えておいたと思いますが? 時間的に」

 

「自治区ではありません、企業です」

 

「企業? 完ッ全ッに私の担当じゃないんですが?」

 

「防衛室としては、そうでもないかと……」

 

「カイザーっすよ、カヤちゃん先輩」

 

「カイザー? ヴァルキューレの装備の件ですかね? 例の新型、ゴリアテV-MAXの売り込みなら冗談キツいんですけど……今のパトゴリアテ評判良いのに必要ないですよ。こっちはミレニアム級戦艦なんてイカれた代物をどうすればいいかで手一杯なんですが? 勘弁してくださいよ……」

 

 

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「そうか、ついにやったか!!」

 

 < はい、お喜びくださいプレジデント。発掘戦艦は全くの無傷です、驚くべきことに昨日竣工したのかと見まごうばかりの状態とのこと >

 

「朗報だな。ドクトルに替われ、現状を知りたい」

 

 < は、繋ぎます >

 

「フフフ……ハハハハハ!! ついに見つけたぞ!! 宇宙戦艦を!!」

 

 カイザーグループの頂点、カイザープレジデントは遺物発見の報に高笑う。探し求めてきた強大な力……オーパーツにして自身の求める最大の浪漫、黒服曰く「宇宙戦艦」の発掘に成功したのだ。

 

 プレジデントは多くの資材・資金をこの日のために費やしてきた。カイザーグループとしても……けして少なくない浪費である。アビドスの一件ではあわやグループが傾くかというギリギリの勝負を強いられた……ダチョウと宇宙怪獣の大暴れでPMCは壊滅、恐鳥の主と競り合う机上の戦いも激烈で疲労困憊にもなった。

 

 しかし浪漫だ……遠い過去より残された遺物、オーパーツの発掘はプレジデントの探究心を強く刺激してきた……それがついに報われる。

 

 男たるもの壮大な歴史浪漫を発見する者となりたい、プレジデントもまたそういった野望を持つ大人で、そのためには努めて勤勉。ある意味での求道……探求者だった。

 

 大きな事を成すため、自分のしたいことをするには金がいる。

 

 信用商売の概念が薄い修羅のキヴォトスでのビジネスは容易ではない中、時に真っ当な契約をして粘り強く、時にダークサイドの手管を駆使して荒々しくのし上がり、長い時間をかけて会社を大きくしてきた。今やカイザーグループという巨大コングロマリットを率いるようになれども……彼の野望は、浪漫は、まさにこのため、この瞬間にこそある。

 

 キヴォトスの支配者になる、それも大きな野望の一つ。国取りは男の本懐である。強力なオーパーツの利用は「力」となってそれを助けるだろう……そのためにも宇宙戦艦という力を見つけることは理にかなっている、が。

 

 やはり浪漫だ、宇宙戦艦……なんという心地よい響きか。

 

 大型の高級ヨットから果ては客船まで持っているプレジデントだが、彼が満足できるものではなかった……ただ買えば手に入るようなヨットに揺られて海遊び……それに何の価値がある。古代文明の残した宇宙戦艦、それを見つける事こそが真の浪漫ではないか。

 

 男ならば超古代の遺産なんて聞いたら、なんとしても見たいと思うものなのだ。しかも宇宙戦艦……最高だろこんなの!

 

 勿論発掘は賭けだ、まさに勝敗の読めない真剣勝負。よく見ている野球のように、負けて何も得られない時も当然ある。勝利の栄光はただ望んでも得られない。

 

 だがエクストリーム野球のように……1回表で127点を取られても暴れ倒して最終的に128点を取ればよい。追い込まれた状況、ピンチの瞬間にこそカタルシスがある。

 

 宝探しは野球同様に「ヒリつく勝負」。このギリギリを、そして勝った時の浪漫を楽しむために生きていると言っても過言ではない。悪としてダークサイドの限りを尽くすのもこの一端。利益のための駆け引き、法の隙間を掻い潜るリスクとスリル……9回フルカウント満塁のような、伸るか反るかで高まるギリギリの躍動が生の充実を彼に感じさせる。

 

 所謂、競馬で絶対こねぇだろという単勝に1222万円一本で突っ込んでいく系のヤバい大人だ。ミラクルして2億に化けるか、爆死するか……タチの悪いことに爆死してキレちらかしつつも、次のチャンスのために再起し「ワンチャンあった」とか言いながら堅実に正業で働いて、次のための資金を稼いでいくタイプのダークサイド男性。

 

 これってダークサイドっていうよりギャンブラーなのでは? 手段と目的が世間の認識と逆だろ、ギャンカスがなんで真面目に働いてんだよ。

 

 冷徹でいてビジネスは堅実と内外に評されるプレジデントだが、浪漫に関しては意外と熱い男……そう、彼はハジケていた。

 

 正直ミレニアム級飛行戦艦を見た時は感動したし、こんなの俺も欲しいわ……でもミレニアムから買うとかダークサイド大人としてのプライドが許さん、こういう浪漫兵器は自分で作るか発掘するもんだろ!! と、高まっていたプレジデントにとって、まさに勝ち筋の薄い単勝穴馬を見事に当てたような……待望の知らせであった。

 

 < これはプレジデント、報告が遅れまして >

 

「かまわん、ドクトル。発掘戦艦について何か解ったことはあるか?」

 

 < 現段階では少なくあります、艦内へ入ることこそできましたが機器一つ動かすことは叶いません。何かしらの封印が施されているようです >

 

「現状では動かせんか?」

 

 < はい、機関室は発見したものの構造は未知のそれでありまして。始動方法すらわかりません、また艦橋のコンソールはなんと待機状態で生きてはおりましたが、システムロックの解除方法が不明でありまして……推測ですが、より上位にあるオーパーツ級のツールが必要かと >

 

「ほう、より上位の権限を持つオーパーツか……具体的にはどのような物かな」

 

 < オーパーツとされる遺物はこのキヴォトスに多く満ちておりますが、オーパーツをコントロールするための機構を持つ遺物は少なくあります……ですが、所在確実であろう物は1つ >

 

「目星がついているか。すばらしいな……して、それは?」

 

 < サンクトゥムタワーにございますな、あれはキヴォトス全土に散らばる遺跡・遺物をコントロール可能な指揮システムでもあるのですから、この仮称宇宙戦艦「本船」も同様であるかと >

 

「そうか、サンクトゥムタワーか……うむ、ご苦労。引き続き艦の調査と機能復旧を試みるのだ」

 

 < ご期待には背きませんぞ、船体の何処を見ても発見があります……大変興味深い。いずれ多くの成果をご覧に入れられる筈です、ご期待くだされ >

 

「頼んだぞドクトル」

 

 発掘戦艦の調査に湧くスタッフの声を背景にしながら、カイザー技術研究所こと技研の研究者、カイザードクトルは淡々とプレジデントに報告を行い、そしてまた研究に戻った。

 

「おめでとうございます、プレジデント」「まことにめでたき事と」

 

「来たか、ジェネラル、セバス。うむ、ついに見つけたぞ……長きにわたる苦労が報われたな。だがまだ動かすことは出来ないようだ、しかしサンクトゥムタワーか」

 

 プレジデントの執務室に音もなく現れたのはカイザージェネラルとプレジデントの秘書、カイザーセバスチャン。共にプレジデントの側近。

 

「発掘戦艦の起動にサンクトゥムタワーが必要なのでしょうか?」

 

「そのようだ、難物よな」

 

 遺物を発見したので起動にサンクトゥムタワーの機能が必要だから使わせろ……こんな要求をしたところで連邦生徒会が認めるわけもない。明確に起動方法が解っているのに実行困難という状況……だが、そんな程度で諦めるような奴はダークサイド大人じゃないね。

 

「ジェネラル、我がカイザーはサンクトゥムタワーを手に入れる。これは決定だ……その上でお前に問おう、勝てるか?」

 

「は……ヴァルキューレは尾刃カンナを除いて問題なく、狂犬は離間策にて孤立させ、特殊部隊にて排除します。ですがプレジデントが仰りたいのは、その程度の連中ではございますまい……」

 

 身を正したジェネラルの声に緊張が走る、カイザーの武力を預かる者として、ここから先は慎重に言葉を選ばねばならない。プレジデントは寛容な方だが、結果が伴わなければならないし、特に判断の誤り「楽観」を最も嫌う。

 

 カイザーが連邦生徒会を武力にて制圧するという手段に出た場合、ヴァルキューレを排除しても単純にクーデター成功とはならない。

 

 必ず派遣されるだろう、最も警戒すべき学生側の最大戦力が存在するのだ。

 

 意外なことにそれは宇宙怪獣と称される空崎ヒナではない、ゲヘナは連邦の弱体化にはさして興味を示さない……だが、トリニティは違う。

 

 絶対にそれは来る、必ず送り込まれてくる……桐藤ナギサの、代理人が。

 

「そうだ……恐鳥共に勝てるか?」

 

「軍をお預かりするものとして、ご不興を覚悟の上で正直にお答えせねばなりません……困難です、極めて。全軍をもってしても現状で勝機は殆どありません」

 

「だろうな」

 

 

 まあそうだよね、至極真っ当な事がおきてしまいます、ダチョウに勝てるわけがないということです。

 

 

 今までならギリワンチャンある気がしてたけど、エデンのあれは何? 爆発する火球連射してるんですけど? というか飛んでない? おかしいだろそれは。今まではさぁ……ブーストカバンとか専用装備が前提だったじゃん? 空を自由に飛びたいなーで本当に飛び出す奴があるか。というか羽ばたいてすらねぇ、どうなってんだよお前らは。

 

 この上まだ進化するの? 勘弁してくれよ……。

 

 だが大人達の願いも虚しくダチョウは強くなり続けている……成長期だからね。

 

 ダークサイド大人達も若干「こいつらそのうち自由に空を飛び出すかもしれないな……」とか思っていたので不思議ではないのだが、いざ本当に飛ばれると頭を抱えるし、なんか火力も超強化されていた……なんでだよ。

 

 ゲマトリアさぁ……お前らは本当に何してくれてんの? どうすんだよこれ……。腐れ研究者共め、楽しければ何してもいいと思ってるだろ、冗談じゃないんだよ!!

 

 しかも最近イカれ学園ミレニアムから、ついに携行ビーム兵器がダチョウに実装されてしまった。大概にしとけよクソガキ共……そんなの何が起きるのか考えなくてもわかるだろ、火の海だよ火の海!!

 

 そう、武装蜂起した場合……全てを灰燼に帰しながら100%よろしくニキしてくる存在、イカれた鳥類のエントリーが確定だった。

 

 それはトリニティの12使徒、別名恐鳥。

 

 攻・防・走の全てでカイザーPMCの全戦力を、僅か12人で圧倒的に凌駕する厄災だ。アビドス事件で未だ消耗した状態のPMC戦力では、遭遇した瞬間終わりである。

 

 あらゆる出目が最高に上振れ、戦略戦術何もかも上手くいって奇跡的に相打ちになったとしよう……しかしこのイカれた鳥類、撃破しても復活が早すぎる。骨折しても分で治ってしまう生物なので、態勢を立て直すのはダチョウの方が早い。ほんの数分で復活してきた12匹に群がられ啄まれてジエンド……完全に勝ち目無し……ワンチャンすらない。

 

 しかも12人いる、12人もいてしまう。

 

 こんなモンスターの集団、一体どうすれば……ジェネラルが軍人として頭を抱えたくなるのも当然だった。

 

 だが、プレジデントは違う。

 

「真っ当にやってもまあ勝てまい、いっそ清々しいほどの戦力差だな。フハハハ!!」

 

 プレジデントの大物らしい余裕ある態度に、ジェネラルとセバスチャンは改めて感嘆する。ダークサイド界隈のカリスマであるカイザー・プレジデントはダチョウの暴虐を前にしても怯まない……。

 

 まあ、実際は笑うしかない感じであるし、これまでも負けてる時はずっとマジキレはしてるので余裕が無くなる時も結構あるのだが……プレジデントの傑物たる所は、ダチョウが出てきても「ヒリついてきたぜ……」みたいにモチベーションが逆に上がってくる点だった。

 

 目ん玉剥いて「ほげぇぇぇぇ!!」とか「アバーッ!? ダチョウ!?」とか言ってしまう、そこらのダークサイド弱者とは格が違う。ピンチになるとバジリスクタイムに突入する悪のカリスマなのだ。

 

 マダム・ベアトリーチェをして「マゾか何かなの!?」とか言われてドン引きされてる面もあるが、ダチョウから尊敬する敵手として敬意を向けられる大物ヴィラン……そんな彼ならば、勝機が無い程度の事は諦める理由にならない。

 

「サンクトゥムタワーの制圧と発掘戦艦の起動、恐鳥共が何処にいようと戦力化は間に合うまい。あの連中、その気になればミサイルに掴まって飛んでくるからな」

 

「どうかしております……音速の3倍ですぞ」

 

 セバスの常識的感想は尤もだが、相手は魂斗羅戦士をリスペクトしているダチョウ、ミサイル掴まり移動は乙女のたしなみだ。なんなら魚雷をサーフボードにしてくるので海上のオデュッセイア船団に誘導しても意味はない、泳いでも異様に速いし……そもそもこいつらは飛ぶ。

 

 その機動力、実に地上時速70キロ、海上海中30ノット、推定飛行速度150キロ……お前ら人間じゃねぇ。

 

 本気で加速すればコンクリートを踏み砕きながら音の壁を超えて踏み込んでくる、これがダチョウだ。こんな連中相手に戦えるわけがない……普通ならね。

 

「ここは悪の大人らしく、初手は絡め手といくか。何……やりようはあるものだ、サンクトゥムタワーを強硬手段で手に入れることが難しいならば間接的に手に入れればよかろう。ようはコントロールシステムがあれば良いのだからな」

 

「は、サンクトゥムタワーの大まかな構造は判明しております」

 

「改修工事にカイザー系列企業がいても警戒しない……子供達の将来が心配になる朴訥さ、純粋さよな」

 

 これまで何度もあった補修・改修工事に参加した企業の中にカイザー系列で息のかかった企業群がいくつもあった。サンクトゥムタワーの内部は既に把握されているのだ。

 

 そして最も重要な情報として……オーパーツたるサンクトゥムタワーには「設計図」が存在し、万一破壊された場合には再建できるようになっていることもわかっている。

 

 キヴォトスの中枢サンクトゥムタワー、それは作動原理不明でオーパーツと呼ばれているが再現はできる物。オーパーツ研究を行ってきたカイザー技研からすれば設計図があれば修理もできれば複製も可能。

 

 そう、今あるサンクトゥムタワーが必ずしも必要な訳では無いのだ。

 

「まずは完全な設計図を入手するとしよう、その上でサンクトゥムタワー……いや、我々の物だからな……カイザータワーとでもするか、なにせ我が社の資本で建築するのだ、文句などあるまいフハハハ!!」

 

「その上で発掘戦艦を起動し、キヴォトスに覇を唱えるのですね」

 

「うむ、起動後には発掘戦艦の戦闘力も調査せねばならん、恐鳥を圧倒する性能であることを期待しよう……悠長にはできんぞジェネラル、連邦への工作を急げ。時間をかけすぎては今年が終わってしまう、それはならん」

 

「承りました」

 

「プレジデント、よろしいでしょうか」

 

「どうしたセバス」

 

「思いますに、この方法であれば時間は我々の味方です。急がずとも実行を来年度に持ち越しては如何でしょうか。桐藤ナギサは高等部の3年……今期を終えれば卒業です、あえて万全状態のトリニティと戦う必要はないと存じますが」

 

 大人である彼らと違い、キヴォトス人生徒である彼女達には学生でいられる期間が決まっている。モラトリアムの時間を過ぎればキヴォトスから旅立ち、大人となる日が必ず来る……時間はカイザーにとって味方なのだ。

 

 賭けの要素が強い勝負を急ぐ必要はない、彼はそう主人に提言した……だが。

 

「……私に、落ちている勝利を拾わせるつもりか?」

 

 カイザー・プレジデントの勘気に触れる。

 

「!! そのようなことは……」

 

「あの娘の居ないトリニティに勝って何の価値がある。私はこのキヴォトスを盗みたいのではない、奪いたいのだ」

 

「申し訳ございません、出過ぎた真似をいたしました」

 

 だがトリニティは、確かに強敵だ。

 

 桐藤ナギサ、そして12使徒。待てば勝てる、ナギサ卒業後のトリニティは見る影もなく弱体化するだろう。あの娘が育て上げたティーパーティーの優秀な生徒達の多くも共に卒業していく……12使徒を残して。これでまともに機能するはずがない。

 

 恐鳥達に首輪をつける方法を模索した形跡はある。

 

 エデン条約は本来対雷帝の同盟だったが、ETOは12使徒の外付けコントロール機構として期待されたものに違いないのだから。だが、おそらくそれは不可能。

 

 プレジデントは知っている……12使徒が、あの恐鳥達が真に従うのは桐藤ナギサ唯一人なのだと。

 

 プレジデントのビジネスマンとしての人品を探る目が真実を見抜く、ナギサはいかに優秀だろうとまだ17歳の娘……人生経験の差は大きい。なんせプレジデントが普段から商売してる相手はイカれたカス揃いなキヴォトスの大人だからね、なんだかんだ子供達は素直で……な、涙がでますよ。

 

 元々怪しいところはあった、全てが桐藤ナギサの意思というには……どう考えても過剰に暴れている。そしてアビドス騒動で直接ナギサと話し、共に痛む胃を押さえるはめになって、それは確信に変わった。

 

 あ、こいつダチョウ言うほど制御できてないな……どうにか誤魔化して、暴れの後始末するしかなくなった感じなわけね、アワレがすぎるだろ……。

 

 だが全員ナギサに心酔しているのは確か、そもそも恐鳥が臣従しているという状態そのものが偉業だった。こんなことは他の誰にもできはしない。あの超人、連邦生徒会長でさえ言うことを聞かせられなかったのだ。

 

 つまりナギサが居なくなった瞬間、アレがキヴォトスに無制限に解き放たれる……中学時代の恐竜状態に戻るのだ。いやぁ、今からカイザー保険の規約、リスク上げとかないとな、ヤバいぜこれは。

 

 本当の嵐は来年から始まる……しかし、それはダークサイド仕草をする難易度の上昇を意味しない。

 

 来年度にはナギサもミカもセイアもいない。各閥首長達や幹部勢も大半が卒業してしまう。トリニティの栄光を支えた生徒の多くが居なくなる……つまり、トリニティ総合学園は「今こそが最盛期」。

 

 強大な敵、競う相手、それが企業を慢心と停滞から高みへと導く。競争こそがビジネス、カイザーコーポレーションは数多の競合他社、裏社会の敵と競い力をつけてきた……。

 

 そんなカイザーが相手の弱体化まで待つ? 馬鹿な事を、それでは敗北を認めるようなもの。そんなのじゃ到底「至れない」だろ。ヒリついていたいんだよ、この一瞬の熱情のためにこそ今があるんだろうが。

 

「二度とつまらぬことは言うな」

 

「はっ……」

 

「ジェネラル、仔細は任せる……私は発掘戦艦を一度見に行くとしよう、待望の船だからな」

 

「御意に」

 

 ガン萎えな提案に盛り下がった気分を上げるため、最高の浪漫こと宇宙戦艦を見に行こうと立ち上がったプレジデントにしかし、突如として急報が入る。

 

「……私だ、うむ………パラダイスリゾート? ああ、理事……いや営業が発案した案件か。どうした、トラブルか? ……何だと?」

 

「「?」」

 

「……キヴォトス全土から、大量の生徒が集まっている?」

 

 





・ゴリアテV-MAX

カイザーインダストリの傑作機ゴリアテの改良型。
ミレニアム・エンジニアリングの送り出した新型アバンギャルドタイプに対抗した待望の新型ゴリアテ。傑作機と名高い機体を改良することで安定した性能向上を見込んだが、アバンギャルドタイプへの対抗という部分でコンセプトが二転三転、ゴリアテの長所であったコストパフォーマンスが大幅に犠牲になった上、性能では及ばずという中途半端な機体となってしまった。

これはセールスにも影響しており、顧客からは「旧型の方がよかった」「前の方が財布に優しくて良い」等と反応が芳しくない。アバンギャルドタイプの様子がおかしいだけで結構な性能向上が果たされており、デザインは変わらずかっこいいとダチョウからは評判だったが……ワンパンでスクラップにしながらでは説得力がなかったのか、ワルキューレも導入を見送った。

・パトロールゴリアテ
警察学校用に改装された前モデルのゴリアテ、通称パトゴリアテ。ヴァルキューレカラーでパトランプが装着されている以外は普通のゴリアテ、予算不足で財布の厳しい連邦に優しいコストパフォーマンスで大変重用されている。

カイザーとの癒着? いや、ちゃんとした製品常識的価格で出してくれるの殆どあそこぐらいで……別に不正とか無くても要求通りの性能でコンペ通過するし……そりゃアバンギャルド君は強くて欲しいけど顔がダサいし高……(ヴァルキューレ装備課生徒の声)


最終章、始まります……。
どうにか完結までもっていけるよう、感想とかでご声援頂ければ幸いです。

うちゅうの鳥類が熾烈な生存競争を繰り広げるスペースサバンナ編ですが、宇宙空間でも平気そうなダチョウはともかく普通の生徒がうちゅうのせんしになるためには宇宙船が必要なので……以前勢いよく救護されて1話で通過したと思しきカルバノグの兎編らしき部分から再スタートです、対戦よろしくおねがいします。

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