時は少し遡り……トリニティ総領主館、仮眠室。
百合園セイアは深い眠りの中にあった。
時は既に混濁の中にあり、自分が眠ってから何時間経っているのかを知るすべはない。しかし意識だけは、はっきりしていた。セイアは今……かなり深い部分まで未来を見るために、可能性の中に潜航している。
その深度が深く、より先を覗き込もうとするほどに……セイアの心身は打ち据えられ、傷つき、弱っていく。
既に危険な領域だ、しかし掴まねばならない……未来への切符、可能性を。
「……あれほど嫌だった未来視に、気がつけば頼り切りだね」
耐え難い倦怠感、脳が焼け付くような鈍い痛み。魂が傷つけられていく、幻のような寒気。
それでも、退く気はなかった。
断片的に未来視が見せた『あの』光景が、百合園セイアに不退転の覚悟をさせている。避けるべき未来、確定させてはならない未来。自分達の、世界の行く末……。
今見るべき未来はたった一つだけ、それは希望だ。
七神リンの安否? 不知火カヤの行方? 違う。
外周圏で起きるかもしれない事件? 中央混乱の結末? 違う。
そんなもの、些事だ。今明確に、自分達の世界を壊す何かが迫っている。
あの『赤い空』の先を知るために、それが晴れた青き空の向こうに、きっとあるその希望を……百合園セイアは、未来が欲しい。
ハッピーエンドに至る結末を、未来視をもって認識することで確定させるための……覚悟の入眠。予知夢という形式で未来を垣間見る、それが彼女の持つ特異な能力にして、呪いとも言うべき力の発動条件。
詳細に未来を認識するためには眠りにつかねばならず、しかし眠りとは即ち就寝であって、本来休息の時間である。夢見など意志で完全に掌握できるものではない、見たくなくても見える時は見える……心身を休めるべき時に心が休まらないそれは、この能力を認識して以来、常にセイアを苦しめてきた。
未来は常に望みのあるものばかりではないのだ。来たるべきその時を、陰鬱な気持ちで迎えねばならないことの方が多かった。だからセイアにとって未来視は忌むべきものだったし、見せられた未来が避けられないことも、疎う気持ちを助長する。
未来は変わらない、どんな結果であれ。
自分がどう動こうと、未来は変えられない。
そんな無力感が彼女の気質を皮肉屋で、その時々で『好きにする』常々一言多い、享楽家に変えていった。未来が変えられない、変わらないのなら……何をしても良いし、何もしなくても良いのだと。
都合の良い未来の時だけ、程よく力を利用していった結果として高い地位を得たりもしたが、元々名家の出でもあるのだから自身の力かというと疑問だ。
これもどうせ変わらない未来なのだろう。そんな諦観というには幼稚な無気力さが対人関係にも良くない影響を出しつつ、醜い人間性の魔窟ことトリニティ総合学園での1年生時代がもうすぐ終わる、その日がやってきた……だが。
予知夢が見せる未来は『変わらない』。それは確定した未来であって、これから発生する事件や結果は不変のものだった……その日までは。
未来は、変わるはずのないもの……そうだった筈なのに。
「と、特殊戦研究会……あの……」
「入学を志望する……この12人の生徒を、トリニティに迎えたいと思います。入学次第、ティーパーティーに迎え入れたく。そして……特戦研の活動を抑制……いえ、統制し、この力を治安の維持、学園の影響力拡大に用いたいと」
桐藤ナギサ。友好度はマシな方の他派閥生徒で、人間性もマトモな方の同級生。特別親しい友人とまでは言えない程度な関係の……見た目に反して結構無茶なことを時折やらかす、そんな彼女が。
セイアの見た『未来に無い選択』を、する。
「何故、一体どうしてトリニティに志望を……どう考えても行くべきはゲヘナでしょうに……」
「そもそも、このトリニティに入れるような成績ではありませんわ。何なんですかこの有様は……それを推薦枠の使用などと、一体何を考えているんです、桐藤」
「資料を見ましたが、これは……あまりに粗暴な。これでは暴れだした時、トリニティが一体どうなってしまうのか……学園が修羅の国になってしまいます、危険すぎますわ!!」
12の恐鳥を学園に迎え入れるなんて、そんな選択は。
「ヴァルキューレはまだしも、SRTを粉砕するような存在をどうやって統制など。正義実現委員会で止められると? 無理です……76mm砲の弾を掴むんですよ!? へし折ったビルを投げてくるんですよ!? 人間じゃない!!」
「戦車砲弾白刃取りはまぁ……ツルギさんもしますけど……ビルはちょっと……」
「聖パテル様でさえ、投げられたのは神殿の柱だったというのに……」
「ですが……生徒です。入学を志望する中学生を温かく迎え入れるのは、学園生徒会に身を置く者の定め……この子達は、私が責任を持ちます」
そんな未来は、なかった筈なのに。
「ばかなことを……桐藤さん、あれがコントロール可能な存在だと本当に思っているのですか? 気狂いの恐鳥ですよ? まともな会話さえできるかどうか……」
「可能です、私はその確証を得ました……それに、きっと悪い子達ではありません。無為に暴れてしまうのも……力の使い方を、知らないだけなのですから」
その日を境に、セイアの予知する未来が変わる……変わっていく。
「……わかりました。桐藤さん、よしなに」
「先代様!?」「そんな!? サキちゃん!?」
「入学志望の中等生を、確たる理由もなく拒否してはなりません。それに過去のトリニティも極道中学校から生徒を受け入れています……先例には、従わねば」
「ありがとうございます」
「……桐藤さん」
「はい、先代様」
「これで何かが、変われば良いのですが」
変わる。未来は変化する、定められていた道筋が消えていく。
「……きっと、変わっていきます。全てが、大きく」
「そう願います……特殊戦研究会はあくまで中等部の部、別の活動名を与えねばなりませんね」
「それにつきましては腹案が、特別保安警務隊が空いておりますのでこれを充てがおうかと思います……しかし通称は、別のものを……故事の引用ですが『人数』が一致しますので」
「……福音を伝えし者ですか」
「はい、12使徒と」
その日から、百合園セイアの灰色に満ちた日常は、色彩豊かな日々へと……姿を変えていった。輝く光に溢れた、それは……。
そらもう、マジでお祭り騒ぎだよ!! 毎日な!!
輝かしい日々っていうか、単に炎上してるだけなんだよこれは!!
それは確かに希望だったよ? 未来は変えられるって……嬉しいよ、本当だよ。
けど君らな、限度ってものがあるんだよ!! 未来は良い方向に変えていくべきものだろう!! 燃えてるんだよ!! 過去も未来も現在も!! 全部!! ネオキヴォトス炎上ってか!? 何でもかんでも無茶苦茶にすればいいってものじゃないんだよ!! おかしいよ!! 見えてた未来も今眼前にある現実も、全部お祭り騒ぎなんだよ!! 狂ってるよこんなの!!
今まで未来が変わらなかったのは単に『可能性を殴る力が足りなかっただけ』とか意味がわからないよ!! いや未来は強固に定まった可能性だから、動かすのにパワーが必要なのはまあ、理解できるさ……できるからって理解したくはないわ!!
未来視の『確定』を乗り越えるために必要な要素だったのは、その場のノリとか、思いつきとか……結果を全部無茶苦茶にするパワーだなんて……おかしいだろうこんなの!! 因果仕事しろよ!! ダチョウの思いつきに負けてるんじゃないよ!! 解決直前で「やっぱついでに焼き討ちしようぜ、火は清らかだろ」じゃあないんだよ!! 収まっただろう!! 収まってたんだよ!!
未来が確定した直後に変なことを思いつくんじゃない!! 確定した意味ないだろう!! こっちは丸く収まるように頑張ってチャート調整してるんだよ!!
クソがぁぁぁ!! ダチョウ共!! 毎度毎度めちゃくちゃにしやがって!! マジで見えてた未来が何も信用できないんだよ!! 今回は穏やかに終わりそうだな……とか思った瞬間大惨事に変えやがって!! 未来視をなんだと思ってるんだい!!
概ね結果だけはマシな方向にいってるのが奇跡だよ!! いや奇跡っていうかティーパーティー全員で死ぬほど頑張ってるからそうなってるだけだろうこれは!! 奇跡を毎回毎回要求してきやがって!! 何がしたいんだぁぁ!! 私達を過労死させたいのかい!?
それに君らのせいで白石ウタハが!! 好き放題してくる!! いいかげんにしろよミレニアム……考えられない事態ばかり引き起こしやがって!!
ヤメロー!! やめるんだ白石ウタハ!! もっと速度が欲しいな……じゃあないんだよ!! ダチョウのオネダリの翌日に、なんでもうブーストカバンなんてイカれ装備が完成してるんだよ!! 何がしたいんだぁぁぁ!! なんでダチョウを強化し続けるんだ!! 暴走生物に機動力を上げる装備を与えるんじゃない!! 空を!! 飛ばすな!!
そもそもダチョウ共は命令を曲解どころかまず理解さえしてない!!
ナギサ!! ナギサ!! 全然コントロールできてない!! できてないよ!! でもかろうじて言う事聞いてるのが偉業すぎるよ!! やっぱりすごいなナギサは!!
ほぎゃあぁぁぁぁぁ!!
……百合園セイアの中々眠れない夜は2年生の間、ほぼ丸1年続いた。
地獄の日々だった、殆ど拷問だろこれ。
しかし未来視を酷使しまくって、チャート調整に明け暮れた結果……血圧が上がりまくってしまったセイアは、低血圧ダウナー病弱少女から脱しつつあった。
ブチギレFOX式健康法……それはお政務と未来視とダチョウのやらかしの過負荷で怒り狂いながら強制的に血流を良くし、低血圧から脱する、斬新かつ類を見ない過酷なトレーニング。
いや、怒りの力で血圧上げて健康になるとか意味わからんわ。
しかし……それでも……。
「私達の未来は、良い方向に向かってはいるんだ……乗り越えるための力はある、その切っ掛けさえあれば……」
そう信じられるから、セイアは戦える……青い空の下で、これからも続いてく、皆と過ごす日々……未来のために。
「なんて光景だ……キヴォトスが溶けていく……こんなことが……この未来に到達する要素を探さないといけない、何かあるはずだ……何かが」
簡単ではなかった、潜航深度は既に限界に近い。彼女の未来視は本来それほど長い先を見ることは出来ないのだ、結末という結果の先を見るには相当な消耗を覚悟しなければならない。
そうして見た可能性はいずれも酷いものだ。キヴォトスの崩壊そのものと言って良い結果……映像だけでは測りがたい何かがおきている。いや、これから起きる……この現象、明らかに何か外的な……。
赤い空、その中心にある構造物……そして何か、本能的に『視る』ことを拒む謎の存在。近づこうとすると怖気の立つような存在感を、薄壁を挟んだ向こう側に感じる。
光ともつかぬ、何らかの煌めきが……その先に『ある』と判る。
セイアは迷った、キヴォトスの大地を溶かしていく程の何かがそこにいる。事態の全容を知るためには、それを視る必要があるだろう……しかし。
言いしれぬ、嫌悪感。
怖い物知らずを自認する己の心身が……それを、その先にある何かを恐れている。理性を超えた本能的なものが拒む存在、きっとそれこそが今回の……。
だからセイアは、恐怖を振り払い、勇気を出すと決め……その先を。
「それまでじゃ」
「!?」
「その先を視れば……死ぬぞ、百合園セイア」
気がつけば背後に、空間を切り取ったかのように存在する、見覚えのある和風の庭園、そして屋敷の部屋……泡沫の夢の舞台、そこに鎮座するは白き獣の特徴を持つ……少女の姿。かの者の名こそ。
「クズノハ!? どうしてここに……」
「其方が危うい橋を渡りそうな気配を感じたのよ、すんでのところであったの」
百鬼夜行にその名を語られる大預言者、クズノハ。
その瞬間、セイアの周囲の光景は見ていた未来の映像が消え、クズノハの存在する空間に一瞬にして侵食され。セイアは板張りの床に尻もちをつくようにして着地する。
セイアとて夢の中で他者に接触することはできるが、こうも一方的に自己の存在を投影できたりはしない。実力差がそのまま出た形だ。
しかしセイアは、クズノハの強引ともいえる領域への引き入れに抵抗しない。
セイアが彼女と遭遇するのは、これが初めてのことではないからだ。エデン事件の時もそうだが、セイアの未来視を使い倒すスタイルに物申すべく、クズノハは以前から接触してきていた。
「随分と深く潜ったものじゃの、これは目が覚めたら当分起き上がれまいて」
「覚悟の上さ……こんな予知を見てしまってはね」
初遭遇時は「また随分と活きの良い未来視持ちが出てきたもんじゃの……」程度の感覚だったクズノハだったが……日を追うごとにRTAでもしてんのか?みたいな勢いで起き上がり小法師スタイルで倒れて起きてを繰り返しつつ、未来視を自分ごと酷使していくガチ走者ぶりに……正直クズノハはドン引きだった。
未来視ってそういう能力じゃないんだけどな……こう……本来は受け身で……いや確かに方向性を与えるとか、変えるとかは頑張ればできるけどさ。
ドーピングしてまで強制就寝キメて未来を探りに走っていく、後輩預言者のストロングスタイルには高次の存在位階に至った流石の大預言者も困惑しかない。あの……それ使い方間違えたら死ぬタイプの能力なんですけど?
しかしまあ……そうならざるをえないイカレた環境なのも事実……というかあのダチョウって何? そんなの知らないんだけど、こんなの予言にないよぉ……。
いやマジで、ちょっと目を離してたらさぁ……キヴォトスに一体何が起きてんだよ? 気がついたら全土の全存在が何か妙にパワーアップしてない? 子供も大人も全員神秘ムキムキでフィジカルモリモリのマッチョなんだけどこれは何?
その、大預言者とか言われてますけど、わからないことも……あるんだよ。少なくともこういう感じのヤバい未来には……ちょっと心当たりがないですね。
というか未来が全然固定されていかなくないこれ? パチスロの詐欺確変じゃねぇんだからよ。これじゃそら『予言(笑)』『未来視(笑)』とかにもなりますわ……可能性の塊(精一杯の肯定的表現)じゃん。
妾なら逃げ出すね、こんなの視ろって言われたら。
同情半分、憐憫半分で預言者の先達として、定期的に様子を見に来て(意識を接続)苦労を労ってくれる先人と現役という、不思議な関係に2人は至っていた。まあ、見ていて大分面白い娘というのも多分にある。必死さが良い、足掻くことを諦めない、生きることへの前向きさを感じる。(預言者並感)
とはいえ、今回は流石に不味い。
「セイア、其方は毎度のことながら果敢にも程があるわ、感覚的に天敵がそこにいるとわかろうに」
「やっぱり危ないのかい? 今回の事件の鍵はあれだと思うんだが」
「その先にあるのは『色彩』よ、以前も言ったな? 先視の目を持つ者には直接触れずとも猛毒、踏み込む境界を誤れば終わりぞ。視るだけで其方ならばまず死ぬ」
「!! そうか……なら、あの赤い空と浮かんでいる物体は……」
「そこまで視ておったか……全く、あまり遠くを視れば心身が持たぬと言っておるじゃろう。そうでなくとも限界じゃ、終いに致せ」
「まだ……まだ結果を確定できていないんだ!! キヴォトスが溶けていく未来以外、まだ視えていない……これを防ぐためにも情報がなければ……!!」
セイアの焦りは、今までならば……いずれかの条件を足せば被害はどうあれ事件が解決したという結果が導き出されてきたからに他ならない。
どんな脅威だろうとも……12使徒を全力投入すれば、必ず事態は打開されてきた。
基本火の海にはなるが……解決はなされる。そこまでの被害をどう最小化するか、そのために試行回数を重ねチャートを組むのがセイアのいつもの未来視だ。
しかし、今回は違う。
『勝ちの目』が全く視えてこないのだ。
「12使徒が暴れている映像が出てこない……何故なんだ、あの12人の姿が何処にもないなんて……いや、そもそも人の姿さえ……」
それがまた不安を煽る。12使徒が事態を殴打で破砕している場面がないというのは、今までにないことだ。そして出力されるのは結果ばかりで過程も殆ど視えてこない、こんなことは初めてだった。キヴォトス崩壊という結果だけが只管に繰り返される、未来への潜航深度を深めても情報量が殆ど変化しない……これでは、これではまるで。
勝機が無いかのようではないか。
「そう急くな、先視の者が焦れば先ず負けよ。眼が良い者は冷静であれ……じゃ、氷のようにの」
「焦っている自覚はあるよ……クズノハ、何かわかっているのなら教えてくれないか。私達はこの結果を、回避できないのかい? 私達は……あの未来を避けることは、できないのかい?」
「妾が教えられることは少ないの……色彩の存在、その嚮導者、そして司祭の……いや、語り過ぎじゃな。妾があまり言うては確定させてしまう、予言の予言をしては不味かろう、その先は現実に現れてから知るが良い」
「それではどう対処すればいいのかわからない……せめて、もう少しだけでも良い、ギリギリまで接近して視れば……」
「セイア」
聞けた情報を元に再度条件を変えて潜航しようとするセイアに、クズノハの穏やかでいて、どこか浮き世離れしていた今までとは違う声音が、セイアの名を紡ぐ。
「?」
「未来は変化する、それを我らこそが……一番よく知っている筈」
「それは……」
「我ら先視の者としては悩ましいところよな……たまらんわ。しかしそれは、希望でもある。違うかの? セイア、其方が此処で倒れてどうするか。これから起きる事を誰にも知らせずして倒れては、お前の友はいかにすればよいのじゃ?」
優しい声、諭すような口調。見目の歳はそう変わらぬクズノハから紡がれるのは、子を諭すかのような慈しみのある声音だった。そうして……セイアに冷静さが戻ってくる。
「其方と共に歩んだ者たちは、この脅威を退けられないと? 信じられぬか? そうではあるまい」
「……そう、だね」
その通りだ……脅威に対して、一人で立ち向かう必要は……ない。
百合園セイアは一人で運命と戦っているのか? 否だ。
ナギサも、ミカも、こんなことで絶望したりはしないし、諦めたりはしない。
意志は強固で、立ち向かうための力もある。そうだ、ここで一人自分が倒れてどうする、きっと困らせる……いや、悲しませてしまう。それは……本意では、ない。
だからセイアは、その先の未来を視ることをやめた。
何が起きるかは視えた、ならば……後は出たとこ勝負だ。信じて、全ての力を合わせる、そうするべきなのだ。トリニティは、ティーパーティーは、キヴォトスだって、きっと手を取り合い脅威に立ち向かえる……今ならそう、信じられるから。
かつてのセイアならば、己の興味を優先させた筈だ。すれ違い、言葉の選択を間違え、自分の眼を過信して近づき、探る。そうして色彩と接触してしまい……クズノハの助力で命からがら、なんとか生き延びる。そんな世界線もあったかもしれない。
だが、今は違う。
百合園セイアは、昔のように……孤独ではないのだ。
「未来が視えぬというならば、視えるように場を整えるまでよ。相手はキヴォトスを破壊するような存在じゃ、加減の余裕など今度ばかりはあるまい……容赦の必要もな。セイア、するべきことはわかるな?」
「……そうだね。選択は1つ、必要なのは覚悟だけ……か」
そうだ、するべきことは1つしかない。
不確かな未来は自分達の力で掴むしかない……だから。
これから何が起きても、全部コラテラルダメージってやつだ。
後のことを考えたらまず地獄は避けられない、確実に目を覆いたくなるような、考えられない光景が全土に広がることは確実……しかし。
やるしかない、覚悟を決めるしか……ない。
最良の未来、勝利したという可能性を引き当てるまで、因果の壁を「力で殴る」これしかないし……この手に限る。
運命は、自らの拳で勝ち取るのだ。
「本当に、後のことを考えると頭が痛いよ」
「いや、それは能力酷使しすぎの疲労じゃ、無理をしすぎたの……其方の未来視は本来あまり先は視えぬ、その力の本質は千里眼。物理的距離を時間という計算尺で自在に動かすから未来視たり得ているだけよ……酷使することで異能を変化するまで鍛えるとか、ぶっ飛んだ鍛錬しおって……流石に引くわ」
「他に事態を軟着陸させる方法がないんだ!! 鍛錬のつもりなんてないんだよ!! どうしろというんだい!!」
「気持ちは判るが、未来視はそういう使い方するようなもんではないわ……さあ、やるべきこと、それを理解したなら戻るが良い……本当の苦労はこれからじゃからな」
「不穏すぎる予言はやめてくれないか!!」
「健闘を祈っておるぞセイア、まあ妾はここから見ているだけじゃがの(笑)」
「少しぐらい手伝ってくれてもいいんじゃないかな!?」
「世の理というものがあるのでな……それにあの12羽、明らかに干渉受け付けんし、どうにかできるとも思えんしの……」
「予言もできないの本当に何なんだろうなぁ!! あのダチョウ共は!!」
だが、それだけに『賭けられる』。
未来視の観測を無視できる異常な活動量と暴力性は、確実に変数として機能するからだ。それは、これまでも散々そうだった……ならば、答えは出たようなもの。
12の恐鳥を、解き放つ時が来たのだ。
なんなら今度は最初からミカと空崎ヒナもセットでつけてやる……キヴォトスがなくなってしまうかもね、マジ震えてきやがったぜ。だが、もういい……そっちがその気なら、こちらも全力でやってやる。見てろ、望みのままにしてくれるわ。
そんなセイアは、純粋に怒っている。
当然だろ、最近やっと落ち着き出した(当社比)キヴォトスを……態々ブチ壊しに来る外来の脅威。明確な敵だ……侵略者に対してかけてやる慈悲などセイアは持ち合わせていない。
病弱は設定とか言われる程度にアクティブで気が短いのが百合園セイアという少女の本質である。外面こそ大人しそうに見えるが、ミカと比べると気質が荒々しいのは明らかにセイアのほうだ。
ミカちゃんは実際優しいんですよね……トラブルメーカー気質って言われてますけど、基本穏やかだし。周りにいる連中のトラブルメーカー強度が桁違いなもんで、全然問題児じゃないよ? 常識的だし、ダチョウの想像を絶するイカれ行為はちゃんと止めようとしてくれる優しい子だよ……こんなの全然我儘お嬢様って感じじゃないよね。
それはティーパーティーを取り巻く環境がヤバすぎて、一人だけ普通の常識人なミカちゃんが一周回って冷静になるしかなくなってるだけなのでは? 諸説あります。
だからミカちゃん、お暴力は超絶強くても中々力に訴えないし、不必要な暴力は振るいません……セイアちゃんのほうが明らかに引き金が超軽いんですよね。売られた喧嘩は必ず買うタイプ、百合園セイアは沸点が低い。
ブチ切れFOXはトリニティにおける鎌倉武士概念の象徴である、ナメられたと思ったら即ダチョウを送り込んでくるタイプの生徒会長。セイアの世間的な評価もバリバリの右翼、タカ派の政治家生徒にしてトリニティの果断さの象徴だ。
慈愛の君、ナギサ様。
苛烈の君、セイア様。
聖鉄骨の君、ミカ様。
これが今代トリニティ総合学園の3生徒会長にしてティーパーティーの長です。史上最もバランスの取れた栄光の世代ってのが、文字列からもはっきりわかんだね。
そう、百合園セイアは飴と鞭と鉄骨の……鞭、担当。
だってナギサ様はよっぽどじゃなきゃダチョウ全羽叩き込んだりはしないし、やりすぎるダチョウを頑張って止めてくれる(止まってない)けどさ。セイア様はいつも全開で解き放ってばかりじゃんね……世間的にはそういう受け止められ方してるんですよ。
可哀想なセイアちゃん、こ、こんなの納得できない……。
だが、今回ばかりは。
愛する母校での暮らしを壊そうとしてくるカス、皆の努力と苦心と血と涙を無にしてこようとしてくるゴミ……許すわけねぇだろ。
後片付けもどうせ私達だ、こうなりゃ何がどう転んでも……もうよっぽどじゃなきゃダチョウを止める気はないね。ナメてんじゃねぇぞカス、私達トリニティを、キヴォトスを。
態々外から来るってんならさぁ……熱烈歓迎してやらねぇとなぁぁぁ!!
「……ふざけるんじゃあないぞ。色彩だか何だか知らないが、見てろ……!! ダチョウ共を全力でブチ込んでやる。私達が普段どういう目にあってるか、その身で思い知らせてやるからな!!」
「実感がこもっておるのう……」
全制限解除の超暴力をもって迎撃……いいや、待ってやる必要などないね、こちらから殴る。襲い来るカスを……野生に戻したダチョウで皆殺しにするのだ。
キヴォトスと皆の未来のため……何より自分自身の平穏のため。全力全開の『力と夢』で、全てを打ち倒すとセイアは決意した。
色彩? 嚮導者? 司祭? 知るかボケ。
ここはキヴォトス、力こそが正義の修羅の国。
このキヴォトスらしい力と力のルールで歓待してやるだけだ。見てろ……二度と思い上がった真似ができねぇようにしてやる……毎日道端に転がってるヘルメット共みたいに、お前もその仲間に入れてやるってんだよ!!
Welcome to キヴォトスだ。入国審査は拳、ビザのハンコはパスポート代わりの顔面にくれてやる。
態々夏休みに、よろしくネキしに来やがって……絶対に許さん……。
百合園セイア、キレた。
「時にセイア、遠くばかり視ておった其方はまだ気づいておらんようじゃが……えらいことになっとるぞ」
「は?」
「いやじゃから、今よ今。色々様々起きておるじゃろう、はよう対処せんと色彩どうこうの前にキヴォトスが先に燃えよるぞ。しかしよくもここまで、次から次と事態が転がるものよの」(笑)
「は????? 今のあれこれは、この未来とは関係が……なかったり? するのかい? え? キヴォトス滅亡の切っ掛けというか、色彩関連が関係してきてるわけでは、なく?」
「そうじゃが? だから最初から遠くを見すぎというとる、足元がお留守というとるじゃろ、はよう視てみよ」
「ちょ!? ちょっとまってくれ!! 今、今視てみるから……」
「いつも結果ばかりを先取りしようとするから、先を見すぎて色々見落とすのよ、危うい危うい……」(笑)
「な、なんじゃこりゃあぁぁぁぁ!! ほ、ほ、ほぎゃぁぁぁぁ!!」