「退避!! 退避です!! 急いでください!!」
「書類!! 書類だ!! とにかく部署ごとの重要書類を掴めるだけ掴んで走れ!!」
「そっちはもういいから!! サーバーはシャーレビルや各地事務所のバックアップに移せる分だけ移して!! 重要PCは抱えてでも逃げるのよ!!」
「あと1時間だよ!!」「ん、大物があるなら運ぶから言って」
「アオイ、連邦決済印を」「私が……? でも、これは」
「今の責任者はアオイだから、アオイから、リン代行に渡してください」
「……わかったわ」「私としては、アオイがクーするなら、担ぐんですけど」「それはやめて」
「ひっこし!! ひっこし!!」「さっさとひっこし!!」
「ぁぁ……なんてこと……」「会長の御座所を……」
「サンクトゥムタワーを捨てることになるなんて……」
1:名無しの12使徒
色彩!?
2:名無しの12使徒
マジかよ!?
3:名無しの12使徒
色彩が!?
4:名無しの12使徒
し、色彩……!! なんてこった!!
こいつは………なんだっけ?
5:名無しの12使徒
?? 何だろう……。
6:名無しの12使徒
ん、ヤバい。聞いた覚えあるけど完全に覚えてない。
7:名無しの12使徒
なんかマジで、とにかく何かすごくてヤバいとか、そんなじゃなかったか?
8:名無しの12使徒
昔、ヤマネが『前』のフラグがどうとか言ってませんでしたこと?
9:名無しの12使徒
そういやそんなこと言ってた気がしてきた……どうなのヤマちゃん。
10:名無しの12使徒
……? あったような、なかったような……。
11:名無しの12使徒
いや、お前が何か変なフラグがあったかもって騒ぐから、黒おじに聞いたらゲマ研設立の理由とかで出てきた『色彩』って文言に「そいつだ」って反応したのが最初だったろ。なんで忘れてんだよ。
12:名無しの12使徒
!? 思い出した!! バッドエンドフラグのボスっぽい何かだ!! 世界を滅亡させる感ある奴だった気がする!!
13:名無しの12使徒
ボス!? ボスポジのカスなのか!! 絵の具っぽい感じなのに!?
14:名無しの12使徒
ほげぇぇぇぇ!! 世界の滅亡!? 色で!? なんで!? 何もわからないよ!!
15:名無しの12使徒
なんでヤマはそんな重大情報忘れてんだよ!! お前が危ないからって話聞いたんだろ!! お馬鹿!! 頭ダチョウ!!
16:名無しの12使徒
え? 世界の滅亡ってマジな奴なの? そんなにヤバい奴なの? クレヨンなのか絵の具なのかわかんねぇ奴が?
17:名無しの12使徒
どうだろ? 黒おじが超軽いノリで「世界がヤバいかもしれんけど……まあ……いけるやろ!! クックックッ」みたいな感じだったから、それなりの脅威度っぽいけど。
18:名無しの12使徒
昔、全員並べて黒おじの解説があった筈なんだけど……リーダーとイト以外からほぼ忘れられてた色彩さんに悲しき今。もちろん私も忘れてたけどさ。
19:名無しの12使徒
難しい話は何も覚えられない……。
てか色彩ってなんとなく聞き覚えがあるなって思ったら、FGOのOP曲だ。ガチャで爆死したことしか覚えてないけど、確かあれ世界が破滅する系の話だったと思うから、何か関連があったり?
20:名無しの12使徒
ゲームも世界もちげーんだよ!! ブルーアーカイブはFGOじゃねぇって!! だいたいOPタイトル覚えてて、ガチャ以外の要素なんで忘れてんだよお前は!! 仮にも課金してたんなら、何かこう……あるだろ!
21:名無しの12使徒
ガチャは悪い文明!! お歌とこれしか覚えてない!!
22:名無しの12使徒
それ言ったら『前』案件でバッドエンドフラグだった何かだって、昔言ってたのはヤマちゃんじゃん。お前こそ活かせよ原作知識!! 今の今まで自分自身が忘れてんじゃねぇか!!
23:名無しの12使徒
いやだって……ブルーアーカイブそんな頑張ってしてたわけじゃないし……エデンも花柄のパンツ編とかのあたりも通過した感ある今、もう覚えてる事なんもないし……。
24:名無しの12使徒
マジで全部忘れてて草。
25:名無しの12使徒
色彩って聞いて、まずお前が「?」になってんのはだめでしょ、リーダーが又聞きでもギリギリ覚えてたのに、唯一の元プレイヤーが忘れてんなよヤマ。
26:名無しの12使徒
黒おじから名前でて、そんなのあったわ感で思い出した程度の前知識なんだよ!! わかんねぇって詳細とか聞かれても!!
27:名無しの12使徒
詳細以前に名前も忘れてんじゃねぇか!!
28:名無しの12使徒
この数ヶ月で色彩の名前すら忘れてた理由にはなってねぇんですわよ。
それで? 『前』のバッドエンドフラグっぽい色彩と、今回リアルで湧いて出てきた『色彩』は同じ物という解釈で良いんですの?
29:名無しの12使徒
わからん……名前同じだし、たぶん……?
30:名無しの12使徒
わかんねぇのかよ!!
31:名無しの12使徒
これで原作知識だってよ(笑)
まあ現実とゲームの話が一緒でどうとかキヴォトス基準でも中2乙だし、役立たずでもいいんじゃない別に。
32:名無しの12使徒
ん、ヤマは色彩さんについて素人、期待するだけ無駄。詳しいことは黒おじに聞くべき、専門家だよ!!
33:名無しの12使徒
ヤマちゃん情報はいつだってガバであんまり役に立たないし、現実とゲームごっちゃにしてもだしね……もう気にせずいこうよ。
34:名無しの12使徒
まあヤマのブルアカP体験が役に立ったこと1回しかないからな……その一回がデカいから、色彩さん案件を忘れてた件は不問とする。
35:名無しの12使徒
そういうこった!!(デカおじ並感)
36:名無しの12使徒
まあゲマ研基準でヤバそうでかつ、名前も色彩ってんならヤマが前で見た奴と同じだろたぶん。世界がヤバい級の手合、そのつもりで迎え撃つだけだ。
37:名無しの12使徒
そうですわね、初手殴れば済むだけのこと。
38:名無しの12使徒
色彩だかなんだかしらんけど……詳しそうな黒おじが余裕そうだし、実際大した脅威でもないんじゃね? とりあえず殴ればいいだろ。
39:名無しの12使徒
ヤマちゃん情報はいつだってガバであんまり役に立たないし、ゲームと現実ごっちゃにしてもなんだし……気にせずいこうね。
40:名無しの12使徒
釈然としない!! わりと正しい情報だったのに!!
41:名無しの12使徒
とりま色彩さんがどんな感じの輩か、黒おじに聞いとくか。うっかり遭遇してもワンパンしてしまわないように、特徴を捉えておきたい。推定今回のボスポジで、夏のBON祭のメインイベント主催っぽいしな。
42:名無しの12使徒
セイアちゃん様からも、今回の敵はできるだけ惨たらしく拷問するようにってお達しもあったしね!! これは凄いことになるよ!!
43:名無しの12使徒
セイア様直々の拷問オーダーなんて、かつてないだろ。カラテの高まりを感じる!!
44:名無しの12使徒
どんなイキったカスが登場するんだろ? 世界を滅ぼすぜとかお調子こけるレベルの渡世人が登場する可能性に、俄然カラテの高まりを感じるね。
45:名無しの12使徒
『外』から来るならキヴォトスの言葉が通じるかわかんないけど、ここは一つ、最強言語お暴力をもってコミュニケーションを図るしか無い。
46:名無しの12使徒
万能無敵の共通言語!! 貴方は誰ですか? イヤーッ!!(拳) 何処から来ましたか? イヤーッ!!(蹴り) 何が目的ですか? イヤーッ!!(ビーム)
47:名無しの12使徒
これなら速やかに来訪の目的を喋ってくれる筈だぜ!!
48:名無しの12使徒
あ、あの……言葉通じないなら喋られても、わからないんじゃ……。
49:名無しの12使徒
それは盲点だったな……どうしよ? 筆談とかできそうかな?
50:名無しの12使徒
ゲマ研に頼めば通訳してくれるだろたぶん、専門家だしな。
51:名無しの12使徒
んだ、頼れるぜゲマトリア神秘研究所はよ!!
52:名無しの12使徒
あの……でも今壊滅してるって……。
53:名無しの12使徒
どうせ翌日復帰でしょ、黒おじもアフロになってるけど元気そうだし。マダムがまた入院してるっぽいけど、これは様式美だしね、火事場になったらなんだかんだキレながら頑張ってくれるに違いないよ!!
54:名無しの12使徒
一日目、ゲマトリアは壊滅しました(n回目)。
55:名無しの12使徒
二日目、ゲマトリアは復活しました(n回目)。
56:名無しの12使徒
色彩さん、マダムを病院送りにしてゲマ研を一回休みにできる程度のパワーはあるんだから、これは期待感ある。中々の脅威度やね。
57:名無しの12使徒
キヴォトス・バッドエンドフラグって言うからにはキヴォトス全域でやらかせるスピード感もあると見た、久しくない強敵なのでは。
58:名無しの12使徒
ん!! 迫りくる脅威!! ほとばしる野生の暴力!! くり出される拳!! 砕ける色彩さんの顔面!! 即座にハッピーエンド!! 色彩到来編、完!!
59:名無しの12使徒
いかなるバッドエンドフラグもへし折る最強の解決法……言語を絶した超暴力あるのみだぜ!! 力と夢が色彩さんを折れたクレヨンにする!! パワーオブペイント!!
60:名無しの12使徒
今からインタビューが楽しみだろ!!
61:名無しの12使徒
あ、あの……もし暴力通用しないタイプの敵だったら、ちょっと不味くて……ついさっき物理無効タイプが出てきたばっかりだから……。
62:名無しの12使徒
ユイは心配性だな。無想転生(偽)とかゲマ研謹製、事象および確率変動なんとかこうとか銃、アメミットと真実の羽根の前にはカスだったろ。
63:名無しの12使徒
怪談だか奇談だか知らねぇが、一度ギミックが理解できれば大したことないじゃんね。
64:名無しの12使徒
所詮ムテキ・アティチュード頼りのカス。攻撃通った瞬間死ぬ程度の耐久力。これでキヴォトスを恐怖のズンドコに落としてやるぜとか、まさにお笑いだぜ。
65:名無しの12使徒
そう……かな? そうかも?
66:名無しの12使徒
真の怪談を私らが力で思い知らせてやるってんだよ!! いくぜオラッ!! この拳が刺さったお前は悪!! 昇天しろ妖怪共!! 怯えろ!! 竦め!! 怪談をされる側はお前らだぜ!! ホラー体験会だ!!
67:名無しの12使徒
迫真!! 真夏の夜の筋夢!! 幽霊に刺さる拳!!
68:名無しの12使徒
そもそも定期的に発生してた遊園地ホラー案件その他も、こうしてみたら怪談系だったじゃんね。それら全て尽く暴力で黙らせてきたのに、今更幽霊には物理が効きませんとか言われてもな。
69:名無しの12使徒
それもそう。本当にヤバい脅威だってんなら、黒おじが楽しそうにはしてないだろうし。
70:名無しの12使徒
エーカとかマジシャン猫に岩山両斬波キメてアバらせてたし。チョップが刺さるんなら拳も刺さる、ということは骨も折れると思うんだよね。
71:名無しの12使徒
ヒビが入るなら神様だって骨折させられるみたいな名言もあったし。この論理でいくなら妖怪も殴れば骨折するってことだろ!! ということは色彩さんも骨折は確実だってこった!!
72:名無しの12使徒
ん!! そうなのだ!! 実際骨折してたしね!!
73:名無しの12使徒
ユイの懸念はわかるが、そういうことだな。
この世に完全無敵とかあるわけもない。幽霊は物理無効ですとか余裕ぶっこいてた、お前ら怪異の姿はお笑いだったぜ。
74:名無しの12使徒
色彩さんもそのようになります!! 間違いないよ!!
75:名無しの12使徒
無敵ギミックの類より、純粋に防御力で上回ってるタイプのほうが怖いんだよね。ヒナちゃんもだけど、ミカちゃん様の聖なる鉄骨無敵バリアとか。
対策できるギミックは甘えだよ、ミチルパイセンとかひと目見ただけで看破してたし、所詮弱者の技だ。
76:名無しの12使徒
ミチルパイセンにいたっては咥えて念じたポケットテッシュをちぎって銃剣にふりかけたら、それ渡されただけのツクヨとイズナが普通に怪異殴れるようになるし、パイセン自身はスリケン連打で視界外から皆殺しにしてて、腰のいかにも業物そうな忍者刀は抜いてすらねぇっていう。
77:名無しの12使徒
ミチル・ザ・ダークスレイヤー「刀? まさかぁ……この程度で、これを抜かせられると思ってるのぉ? 驕りだよぉ、それはぁ」
気がついたらシュロの背後にもう1人影分身立ってて、これを耳元で囁くミチル様、震えるほどかっこいいですわ。
78:名無しの12使徒
ツバメ「眼の前にいるのが本人だとでも思っていたのか? いつから? 最初からここには誰もいないし、本体はとっくに狩りの最中。市街地が殆ど燃えてないことに、未だに気づいてないとは驚きだ」
シュロ「ふざけんな手前らぁぁ!! そんなのもう怪異でしょうが!! なんで分身とかできるんだよ!! 人間やめてるんだよ!!」
神話級生徒への認識が甘いんだよな、神の域に最も近き生徒だから神話級なんだぞ? ホラーごときでどうにかなる手合かよ。
79:名無しの12使徒
百鬼夜行を守る闇の生徒の長が、街の守備に入っていないとでも? 忍者真実に腰を抜かしたシュロには笑ったな。
ミチルパイセンは隠密・面制圧型で、フィジカル面だと神話級としては大人しい方だ、ヒナちゃんと出くわしたら心停止しそう。
80:名無しの12使徒
自分がエントリーすれば即殺だけど、落とし前は自分達でつけたいだろうって、百花繚乱勢に火事場を任せてくれるミチルパイセン、流石度量が深い。しかしあの煽りはまさにダクスレのレス・バ術だった、完全再現助かるね。
81:名無しの12使徒
パイセンと並んでたイズナとツクヨも、イズナの身代わり術『夢幻』の人形で、とっくに全員散開して市街の守りに入ってたという。お前程度はそもそも眼中にない感じで更に煽る、シュロち顔真っ赤だったの完全に術中よね。
82:名無しの12使徒
しかしミチルパイセンはエンターティナーだな、ガチムーブにスッと差し込まれるニンジャ・ロールに感動するわ。
83:名無しの12使徒
数十人に増えた上で空を走りながらの手裏剣連打、射程内の怪異が即滅ぶのヤバかったな。てか、どうみても携行できる量の手裏剣じゃないので、あれ自体が術なんだと思う、事実上の弾薬無限ってマジ?
84:名無しの12使徒
スリケンを生成できるって完全にダクスレの技だよ、現実に存在するんだそんな術!! 凄すぎるよ!!
85:名無しの12使徒
ん……こんな神話級生徒のガチで神話的パワー見てると、怪異もだけど……色彩さん? だから何? みたいな感じのところはあるよね。
86:名無しの12使徒
だから黒おじ達ゲマ研も余裕ぶっこいてるんでしょ。先生が滅茶苦茶焦ってるけど、あきらかに先生で遊んでるよね黒おじ、性格わりーよ。
87:名無しの12使徒
先生はキヴォトスに来てそんなにたってないし、サバンナ文明への反応が新鮮だから、からかいたい気持ちはわかるけど……。
88:名無しの12使徒
やっぱ『外』とはだいぶ気風が違うのありそうね、『前』と似たような感じなのかな。
89:名無しの12使徒
『外』と『前』の関連性、そういや気にしたこと無かったけど、日本があるなら行ってみたいな、ガンプラ欲しい……あ、先生戻ってきた。
90:名無しの12使徒
どうしたの? 連邦生徒会に一報したいけど通じない? ああそれは……。
91:名無しの12使徒
あれ? 先生知らなかったの?
92:名無しの12使徒
今連邦生徒会は全館清掃中名目で退避中だからさ、無人だよ。
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桐藤ナギサは、布団から身を起こし、少し崩れていた和風の寝間着を整える。彼女にとって慣れない服に、慣れない敷布団という寝具であったが……。
「………身体が、軽い」
久方ぶりの凝っていない身体、机仕事皆無の1日で抜けた疲労が与えた心身の回復に、10代の少女の感想としてはあまりに悲しい言葉が漏れる。トリニティの自室に比べると著しく狭い空間だが、和風独特の空気感か……今はそれが心地良い。
昨日、ゲヘナ勢に連れて回されたナギサは、本当に久方ぶりの政務ゼロな一日を過ごした。
心配事はあったが、イブキに普段はずっと一緒にいられないからと終日同行を望まれ、イブキ最優先なマコトの「政務? そんなものは気にするな、なんのためにここに来たのだ!!」という強引な押しの結果である。
少なくとも遊ぶためではねぇよ……とは、天地ニヤの内心であったが、実際遊んでくれていたほうがニヤの精神衛生的に良いのは確かだった。
外周圏での騒ぎを百鬼夜行の責に問われずに済ませるには、ゲヘナの無茶苦茶なお遊びムーブに乗って全部有耶無耶に……という陰陽部の腹を読んだのか、それとも何も考えていないのか、羽沼マコトは……それはもう好き放題をニヤに要求しており、百鬼夜行は終日上から下まで大騒ぎ。
まあ実際ぐうの音も出ないVIPだし、ガチガチの首脳会談を開かれて詰められるよりはよほど良いので、超頑張って調整し、唐突な二大学園総領主御一行をもてなすことになったニヤ達の疲労の結果だったが……図らずも本当の意味で休暇を過ごせたナギサだった。
「……んー……」
( ……起こさないようにしないと、ですね )
隣に寝ているミカはまだ起きてこない。昨日はトリニティ側の責任者として、ゲヘナの京極サツキと共に、終日各自地区の応対と調整という苦労をかけたので……起こさないように窓脇の空間(広縁というものらしい)の椅子に座り、カーテン越しの僅かな朝日を感じながら……この外周圏の旅が始まって以来。ようやくナギサは力が抜け、リラックスしていた。
( なんて、静かな朝…… )
少し離れた部屋ではマコトとイブキ、サツキとそしてイロハにチアキ、が揃って枕を並べた部屋があり。今はまだ全員寝ているかもしれない。
ナギサはイブキに枕を並べることも望まれたが、布団を敷ける面積の限界を理由に辞退した。万魔殿勢は夜も騒がしいので、ナギサが単純に休みたいのもあったが、置いていくことになったミカの機嫌がかなり悪化していたのもある。
( ゲヘナの生徒と、こうして過ごせるようになるなんて……)
( 先代様達が知ったら、きっと驚かれるでしょうね…… )
かつては最悪の関係だったゲヘナ勢と、こうして共に観光するまでの関係に到れた事は、本当に良かったとナギサは感じている。
エデン条約はリスクのある賭けであったが……ゲヘナ側からの反発は想像した以上に少なく、緊密に連絡が取れたことで成功裏に終わった。以前のような敵対関係ではなくなったのだ。1年、2年の頃を考えれば……まるで夢でも見ているかのような変化。
これが成功した理由について、ナギサも、そして全ての閣僚生徒も……12使徒の働きと存在が大きかったと強く思う。
12使徒……かつて特殊戦研究会と呼ばれた12人の不良生徒達を麾下に加えることで、ナギサはトリニティの歴史上かつてない栄光と共に、歴史的に激しく敵対してきたゲヘナとさえ、友好関係を築くまでに至った。
圧倒的な力だけでなく、ゲヘナ生徒に数多くの伝手を持っていた12人の存在が、ゲヘナ側の襟を開かせたのである。
その交友範囲たるや。下は一般不良から上は閣僚級生徒、そしてゲヘナ生徒会長にして議長総領主である羽沼マコトも含まれる。幾度もの事件や騒動を介して関係はより深まり、気がつけば双方学園全体にも認識の変化が訪れていた。
まあ一年当時のダチョウの暴虐に比べれば、一般ゲヘナ生徒の荒くれレベルなど、ちょっとお行儀が悪い程度でしかない。
次元が違う鳥類に慣れてしまったお嬢様層のゲヘナ認識も「先輩方から色々聞いていましたけれど、思ったより普通なのですね?」「もっとこう……朝昼晩ごとに噴水に漬けたり吊るしたりするのかと」だった。
こんなのゲヘナ生からすれば「トリニティこわ……修羅の国かよ、ダチョウと普通に暮らせてるのヤバすぎだろ」「お行儀意識してるだけで、あっちもうちらと大差ないらしいわ、お作法とかある分窮屈なんだろうな」みたいな認識に変わっている。
互いに理解?が進めば、自然と関係は良化したのだ。
この認識の変化こそが全てだった。ナギサは意図していたわけではないが、恐鳥を従えているという事実がナギサに与えた威風と権威は、強者尊敬論理のゲヘナにも通用する。ナギサ率いるトリニティがゲヘナ生から一目置かれたからこそ、エデン条約という歴史的同盟は成功したのである。
キヴォトス全体に与えた影響も含め……トリニティ成立以来、これほどの功績を成した生徒は存在すまい。偉大なる初代フィリウスを超え、トリニティ中興の祖として卒業しても永遠に語り継がれる生徒となることは確実。
実際、巨大な絵画がナギサは勿論のこと、ミカとセイアも含めて3首長分制作中である。なんなら銅像も……とか言われているが、それはあまりに気恥ずかしいのでナギサは止めさせた。
だがトリニティ分校は当然として、傘下各校の生徒会室にナギサの御真影(非公認)を飾ってるような中小学区が多い中。いざ卒業となれば……どうあがいても銅像建立は確実である現実を、ナギサはまだ理解していなかった。
その時、これまでの感慨に浸るナギサの端末が着信を知らせる振動を机の上で震わせた。その音は僅かだったが、ナチュラルに感覚の鋭いミカを眠りから覚ますには十分な音。
「……んー……電話? 誰……」
「……セイアさんですね。ミカさん、おはようございます」
「ふぁ……おはよナギちゃん……電話、セイアちゃん? もう起きても大丈夫なのかな? ナギちゃんビデオ通話にしてー」
「ええ」
寝ぼけ眼のミカにも見えるように机に端末を立てかけたナギサは、ミカと並ぶようにして画面の通話開始を押した。そこには……。
< やあ……おはよう。ナギサ、ミカ、無事で何よりだ >
< おはようございます、ナギサ様、ミカ様 >
蒼森ミネに両手で抱きかかえられて、その胸元にめり込んだ百合園セイアの姿!!
「おはようございます、セイアさん……その姿ということは……」
「セイアちゃん、身体やっぱり、まだだめそう?」
< 心配をかけるね、残念だがミネに支えてもらわないと起き上がることも難しい……しばらくはこの調子さ。ミネ、すまないね >
< いいえ、危機にあっても身体を厭わず立ち向かおうとするセイア様を支えるのは当然のこと。ですが本来ならばまず安静、学園の指揮などもっての他、即座に救護しているところです >
< 今救護されている最中だと思うんだがね? >
< 秘孔によって深く眠って頂くという意味です。今後の体調次第では実行いたします >
< よすんだミネ!! 永眠しかねない!! >
接触式茶道の呼吸あらため、救護の呼吸でセイアの回復に全力を尽くしているミネとしては、この状態のセイアを働かせるなど許せる行いではない。救護の呼吸がなければ実際強めの救護で強制安静にしていた。だが、キヴォトス滅亡の危機、乗り切るために側で支えてほしいと願われれば……女蒼森ミネ、目を伏せ、呼吸に全霊を尽くす。
救護が必要な場に適切な救護を。覚悟には覚悟をもって応えるのみ。多くを救うべく戦う盟友のため、蒼森ミネは彼女の肺となる、自身の役目を果たすのだ。
< 朝早くに連絡したのは他でもない、事態がいよいよ進行する段階にきた……まもなく空が赤くなるだろう、全土のね。それをもって、この事件の始まりというわけだ >
「私達、まだ詳細を説明してもらってないんだけどね。どんな感じの危機なの? セイアちゃん」
「空が赤く……不吉な。それにキヴォトス崩壊の危機とは、穏やかではありませんね」
< 色彩なる謎の存在がこの世界に接触してきた。見たり触れたりすると、あり方を歪められ、死ぬか、侵食されて正気を失うらしい。見る毒、触る毒と言ったところか……やっかいだね >
「見たらダメって危なすぎるんだけど!?」「想像よりもずっと危険ですね……」
< それがどうも攻撃してくるのは、その色彩自体というわけではないらしいんだ。その接触によって歪められた何かと……巨大な物が複数落下してくる。見えたのはそこまでさ、落ちてくる場所も1箇所しか判明していない」
「避難指示が必要ですね」
< もちろんさ、既に出してある……他は、残念だが出たとこ勝負になるが >
「わかってる場所って何処なの?」
< サンクトゥムタワーだよ。つまり連邦生徒会の真上というわけさ……さあ、これからどうなるのか予想はついたろう? 奇跡の時間の幕開けだ……ふざけるんじゃあないぞ……必ず思い知らせてやるからな…… >
「「ぁぁーー……」」
キヴォトス国政の中心にして政務とインフラの基幹中枢であるサンクトゥムタワーが、質量兵器と思しき大質量の落下物にて破壊されるという未来。それはキヴォトスが無政府状態になることを意味した。
結果待っている混乱。連邦生徒会の代替として、トリニティ・ティーパーティーに求められる役割を察したナギサとミカは深い溜め息しか出てこない。サンクトゥムタワーはキヴォトスのコントロール中枢であるオーパーツ、機能回復ができるか不明なのだ。その混乱は長く後に差し障る。
とはいえ、わかっているのならば連邦生徒を脱出させねばならないし、失うわけにはいかないデータや資料、書類等を持ち出すための時間は残り少ない。よってセイアはクーデター未遂を鎮圧した12使徒を再び送り込み、連邦生徒達の尻を叩いて最低限の荷物で脱出の準備を急がせていた。
先生が黒服から聞いた話を伝えようと連絡しても繋がらなかったのは、緊急の全館清掃の名目で既に連邦生徒が脱出の途中だったためで。一部は重要書類を抱えて既に、先生不在(アル達も出たので無人になった)のシャーレに退避しており、緊急事態宣言発令の準備を整え、課長以上の役員達は全員シャーレビルで待機している。
既に周辺ブロックにも退避勧告が出され『何か』の落着に備えていた。
< 総領主級生徒が集まっての、会議が必要だ。現状確認と……対抗のためのね。七神リンも同意した、連邦生徒会の名でまもなく緊急事態宣言と共に、要請が出る……まあ、それを見越して既にこうして集まり始めているわけだが >
「ミニレアムのリオさんにもお話を?」
< 当然、すでにそちらに向かっているよ、そろそろ到着するだろう >
「あー……ということは、アレに乗ってきちゃうの? 外周圏の人には刺激が強いと思うんだけど……」
< こういう時のための船だよミカ。それに、これからはあの船が指揮中枢にして移動する基地、私達と、そして連邦生徒会の会議室になる。このキヴォトスの『艦橋』というわけだ……最も守りが堅い場所なのだから適任だろう、キヴォトス最強の戦艦だからね。腹立たしいが……役には立つ、本当に >
そう、他校の協力関係に不足はない。味方は……多い。
今続々と百鬼夜行自治区に向かって、生徒会長・総領主級生徒が集まりつつあるということを、事実上の百鬼夜行の主である天地ニヤはまだ、ご存知なかった。ニヤ様の調整力に期待しましょう。
「……外周圏に旅立つ日には、こんなことになるなんて、考えもしませんでしたね……」
< 認識不足だったのは否めないが、最善は尽くしたと思おう >
「いや予想できないって!? こんなことある!? 急展開すぎるよね!? こんなのにどうやって備えろっていうの!? 要求値が高すぎるよね!?」
< ミカ、君に聖鉄骨を1本持たせておいてよかった……あれさえあれば、何が来ようと切り抜けてくれると信じている。頼りになるね、信頼しているよ >
「私!! 女の子なんだよ!? 鉄骨握って大暴れを求められるのが信頼の証っておかしいよセイアちゃん!! 絶対おかしいよ!! こんなのってないよぉ!!」
「ミカさん……事あるときは、本当にミカさんが頼りですから……」
「ナギちゃぁん!!」
< 流石にこのレベルの危機は初めてだ、まあ今までも容易かった事件なんてないが、今度はキヴォトス崩壊とまで言われる相手……かつて無い危機だね。けれど…… >
セイアがここ数日寝たり起きたりの状態だったため、事の詳細を周囲に説明する機会を逸したまま、この日を迎えていた。普通ならば詳細な情報もなく、こうも大規模に動けば混乱しようものだが……三首長の堅固な信頼の元にあり、完全な結束が成されているトリニティが揺らぐことなど無い。
力もある。正義実現委員会、そして12使徒。
いかなる脅威をも打ち倒す、力は我らが手に。
ここまで積み重ねてきた信頼が、友情が。鍛え抜いてきた組織、武力が。トリニティ総合学園というキヴォトスで最も堅固な、理想の楽園を作り上げてきた、皆の力で。
疑いはない、セイアの予知は努力で回避できる未来だと。
疑いはない、ミカの心配りがまとめてきた組織の結束を。
疑いはない、ナギサの言葉に全員が応えてくれることを。
何が来ようと、乗り越えてみせる。
我ら三人が力を尽くし、茶会三閥と主要三派閥の下にトリニティを十全に動かせば……どんな未来が見えようと、勝利してみせる……私達ならば。セイアは言葉には出さない。気恥ずかしいが……全員の思いは同じだという信頼が、確信があるのだから。
ぶつかり合うこともあった、意見が合うことも合わないこともあった。けれど……何時だって手を取り合って、支え合ってここまで来たのだ。もう3年目だ、すれ違う余地などない。話すべきことは話し、荷物を分け合って歩いてきた。
今、1人中央にいて、触れあえる距離になくとも……この手はいつも、2人と共に。
勝利の未来は見えていない。準備は足りず、情報も乏しい。しかしクズノハに諭され、励まされたセイアは、絶対に勝てると信じている。もはや未来視などなくとも、恐れることはない……進むべき道は1つだけ。
ならば。
< 勝つさ >
言うべき言葉は、それだけだとも。
・地獄忍魔刀
千鳥ミチルの愛刀。
板目肌の地鉄、小乱れの刃文。
忍者ファンガールになった頃からの愛用品で、かまぼこ突風伝の記念モデルとして販売された模造刀。拵えはしっかりしているが刀身は明らかな数打ちの安物で、ミチルがファンアイテム兼、忍者の象徴装備として実用してきたコスプレ的飾りの忍者刀……だったのだが。
ある日気がつけば、抜き身を見れば背筋に冷や汗をかかせるほどの威圧感を備えた「本物」になっていた謎の刀。
刃文などろくに無かったのに、今や名刀のような刀身の存在感。普段は指でなぞっても皮膚に傷さえつけられない、鈍器のようなナマクラだが、真に切るべき時には壮絶な切れ味を発揮するなど、謎の多い刀剣。弾丸はおろか鋼材を斬鉄しても刃毀れ一つ無い。
地獄忍魔刀という威圧的な名を与えられた刀であること、千鳥ミチルのイメージ、彼女愛用の佩剣ということで、名が知れ渡っており、拵えをかまぼこファンアイテムに偽装した、破邪の名刀と思われている。
どう考えてもライブラリー・ロア効果のせいなのだが、持ち主のミチルは「なんか最近かっこよくなってきた、手入れしっかりしてたせいかな」ぐらいの感覚でいる。
使用されなかったが怪異に対して特攻。百蓮並のあやかしアンチ武器だが、実は「攻撃無効」概念への特効兵装に至ってしまっている。聖なる鉄骨無敵バリアを割れる可能性がある、数少ない概念武装。
そんな異常兵器を名前をつけただけで創造するな、ゲマ研もドンびくわ。