「砲撃シークエンス、緊急につき安全工程全省略!!」
「エネルギー配管、導通よろし!!」「電力来ます!!」
「コンデンサー充填99%!! 初っ端安全マージン1%だけど大丈夫?」
「大丈夫じゃないけど、いったれや!!」「よっしゃあ!!」
「流石に突貫がすぎるわね!! ウタハ先輩も無茶言ってくれる!!」
「というかこんなに早く、実験の機会が来るなんて!!」
「準備不足は?」「努力と根性!!」「気合でカバー!!」「よぉし!!」
「初弾装填!!」「初弾そうてーーん!!」「砲弾よし!!」
「ランマー起こせー!!」「押せー!!」「砲弾よし!! 次!! 装薬!!」
「SOE管制よりPOD火器管制、イーグルアイより観測データ到着。目標までの距離、46万5021。高度7万2150。風速、東7、6、南8、2、北3。気流に乱れ」
「条件キツすぎ!! 計算急いで!!」
「POD管制了解!! 砲塔旋回いくよ!! ミレニアムはー!!」
「超最高ーー!! まわせぇぇぇ!! 主砲旋回11時ぃ!!」「左回転!!」
「装薬確認、尾栓閉鎖!!」「かくにーん!!」
「射撃管制へ、POD、装填完了!!」
「砲身おこせー!!」「砲身おこーし!!」
「射撃データ入力、計算……完了!! はい数字裏付けだして!!」
「計算計算計算……間違いなし!! でも終末誘導ほしー!! これ反れるかも!!」
「一発目は半分テストだからヨシッ!! データ取って!! さあいくよ皆!! 会長と先輩も見てる、私達ミレニアムの力と夢……見せてあげよ!!」
「いよいよだぁ!!」「最高の科学ショーの始まりだぜぇぇ!!」
「警報!! 全生徒退避、退避ー!!」「総員対ショック!!、対閃光!!」
「自動追尾よし!! 発射準備、完了!!」「トリガーを管制に回します!!」
「先輩、お願いします!!」「渾身の新素材鍛造弾……届いて!!」「あたれぇぇぇ!!」
「これが!! 私達の!! パワーオブ!! ドリームだぁぁぁ!!」
「発射ぁぁァァァ!!」「ミレニアムサイエンススクール、ばんざぁぁい!!」
「退避!! 退避してください!!」
「何か落ちてくるってよ!!」
「何かって何!?」「知らないよ!! 連邦に聞いてよね!!」
D.U.中心地区、サンクトゥムタワーの存在するセンターブロックに集結したヴァルキューレ警察学校の生徒達が走り回っていた。唐突な全市民の緊急退避令がくだされてから、そう時は経っていない。
「コノカ、状況は」
「はっ、退避は順調です。今は腰が重たい連中のケツを蹴り飛ばしてる最中ってとこっすね」
ほんの少し前まで、お祭りもかくやの暴れがキマっていた中央で自由に動けるヴァルキューレはそう多くない。しかして総動員で避難誘導の最中だった。指揮生徒は尾刃カンナ、公安局長その人。
「全員の退避を急がせろ……ヴァルキューレもだ、わかっているな」
「もちろんです、姉御!!」「姉御はやめろと……」
連邦生徒会の面々は既に離脱している、訓練されすぎた生徒達や市民の大半もだ。残っているのは野次馬か、呑気者か、火事場泥棒だけ。この過酷な野生の王国であるキヴォトスで生き残るためには逃げ足が重要であるから、いざ避難となれば生徒も市民も手慣れたものであった。
まあ区画まとめて街が爆発するぐらいの事は、中央では週一か週二で発生するレベルのイベントにすぎない。祭りの参加者になる気がないなら、総じて逃げの一手、これはサバンナに住むキヴォトス中央民の嗜みである。
「…………はいよ。それじゃあんたらも退避だ、怪我すんなよーキリノ……通信終わり。姉御、避難誘導中の8分隊より無事完了の報告っす」
「損害は」「ありません」
「被害は」
「市民負傷138名、いずれも火事場泥棒の最中か予備軍。素直になってもらえるよう説得を試み、無事ご協力頂いております!!」
極めてキヴォトス的対処である。
生徒、市民の説得は常に丁寧な対応によってなされるのだ。
この法治国家にして文明国家たるキヴォトスの治安警察、ヴァルキューレは市民への過激な言葉による取り調べや、暴力といった肉体的苦痛を与えての強制や自白の強要などは行われ…………ます。
公権力を投入!! これが法と秩序の力だオラッ!!(拳)
ということで、カンナとコノカも目についた退避を渋る市民に物理説得を試みた後である。銃火器握って退避を渋る皆様に、公権力(物理)を誇示済み。指揮もしつつ十分に拳で語った後だ。
退避指揮は本来生活安全課の職務である筈、なのに公安局長が前線で指揮を取っている理由は一つ……ヴァルキューレ最強の生徒である尾刃カンナが前に出るほうが一番早く物事が進むから。
キヴォトスでは弱者に従う者はいない……法治国家の姿か? これが?
「骨までは折ってないな?」
「もちろんです、自分の足で退避して頂くっす」
「よろしい。緊急事態につき調書は取らない、退避させろ」
「はっ」
極めてキヴォトス的対処である。
法の番人ヴァルキューレ生徒といえども、サバンナで暮らしてきた生徒なのだ。それ(法律)はそれ、これ(暴力)はこれ。
ヴァルキューレ生徒が不貞市民に「ナンオラー!!」「ドグサレッガー!!」など、強い文言と警棒でインタビューを行う光景は特に珍しいことではない。公権力組織は国家という最大組織のヤクザだから……というわけではなく、キヴォトスは力だけが正義でごわすという文明なので、警察もそうであらねばならないのだ。
警察は常に市民の味方です!! 暴れない市民に は 寄り添います!!
「これでほぼ退避完了っす、あちらさん以外は」
「……」
公安局副局長、志真コノカの目線の先に、一つの集団がある。
10名の生徒達……整然と並んだトリニティ・ティーパーティーの白制服が8名、そしてゲヘナの風紀委員制服が2名。
「まあ退避の必要あるか、怪しいっすけどねー」
「全員退避が厳命だ、例外はない……いくぞ」
退避勧告は彼女達にも有効、全員退避は連邦生徒会からの厳命なのだ。
「うっす……いやー、威圧感あるなぁ……姉御も負けてはないとは思うっすけどね。ダチョウが2小隊もヤバいっすけど、流石にガチモードヒナちは……ゾクッとくるっす」
「普段は穏やかなんだが……今日は流石に圧を感じるな」
ヒナをヒナち呼ばわりの段階でコノカも相当な剛の者である。でなければヴァルキューレの最上位生徒ではない。伊達に長年、ダチョウと殴り合ってきていないのだ。
そのコノカをもってして慄く程の存在感。立ち上るかのように錯覚するオーラを幻視する程の。空間が歪んでいるのかとすら感じる圧力が、この場に満ちている。
空崎ヒナ、そして従える9人の生徒達。
トリニティの12使徒、B小隊とC小隊。そして銀鏡イオリ。このキヴォトスでも最上位にある、暴を纏いし生徒達は……サンクトゥムタワーを睨んで動かない。
まるで、何かを待ち受けるように……だ。
その意図は明白である。
「こんちゃーっす、ヴァルキューレっす、ちょおっとお話良いっすか?」
「なんで職務質問風なんだよ!! 風紀委員だぞこっちも!!」
「いちおー職務なんだよー、察してよイオリん」「イオリんはやめろ!!」
「こんにちは」
絶対者の空気感からは想像もできぬほど、穏やかな声音の挨拶がヒナから出る。カンナからすれば見下ろす矮躯、しかし肌が粟立つ程の力の差を感じずにはいられない。
「どうも……ヴァルキューレ警察学校の尾刃カンナだ。ここは退避勧告が出ている……空崎委員長、理解していると思うが」
「そうね」
「おっす姉御!!」「ん!! おっすおっす!!」「姉御だ!! 今日もキレてる?」「キレてない? そう……」
「勝手に話を終わらせるな……お前らは何時も通りだな。そちらも話は聞いている筈だ、何故退避しない?」
「カスのツラを拝んでおこうとおもってさ!!」
「どんなゴミがエントリーしてくるのか、こうご期待だね!!」
「危険だ、わかっているだろう」
「全部ご承知。けど偵察はしとかないと今後に差し障るよ、姉御もわかってるっしょ」
「ん!! 情報は常に大事」
「ついでにボコしておくのもやぶさかではないね」
「そういうこった!!」
「いくぜぇぇぇ!! ナギサ様に逆らうカスは皆殺しだぁぁぁ!!」
「いや、外から来るんだからナギサ様のこととか、たぶん知らないと思うけど……」
「やることはかわらねぇぜイオリ。ナギサ様の訓令の偉大さって奴を身体に教えてやらねぇとな」
「コノカも一緒にカスのインタビューしよ?」
「オフならあたしもオッシャーって感じなんだけどねぇ……どうっすかー姉御?」
かつて散々ヴァルキューレのお世話(?)になったダチョウとカンナ・コノカは既知も既知なので、特に身構えることもない。治安維持組織なのでゲヘナ風紀委員も同様だ……まあ相手はゲヘナなので、連携が取れているという程の関係ではないが。
「却下だ、迎撃を命じられないレベルの質量が落下すると聞いている」
そう、サンクトゥムタワーの危機は、回避できないと連邦は見ているのだ。巨大質量の落下による破壊……これを迎撃することは、できないと。
「サンクトゥムタワーにサンクトゥムタワーが落ちてくるってマジ?」
「セイアちゃん様がそんな感じの見たって言ってるから、マジ」
「マジかー……どうするイオリんやーい、サンクトゥムタワーヤバいってよ?」
「なんで私に振るんだ!! だからここに居るんだろ!! なんなんだよもう!!」
「イオリ、落ち着いて、静かにして」「委員長ぉーー!?」
「自信がねぇか? 信用しろよ、私らも、自分自身も。お前は弱かねぇよ、イオリ」
「カオルとツバメだけだよな……そういうこと言ってくれるの……」
「本当に、何がどうなっているんだ……」
事態は混迷を深めている。何が起きるんやろなこれから……。
ヴァルキューレ側も混乱は酷かった。直属の上層部たる防衛室は防衛室長が一時行方不明だったこともあって機能不全だったので、カンナの自己判断による行動の連続。独断専行状態もいいところ。
混乱の激しいヴァルキューレを公安のカンナが現場単位で動かしていたのも、警備部局長以下、上位ヴァルキューレ生徒達が複数何者かにぶっ潰されていて、指揮系統が無茶苦茶になっている弊害が大きい。
一連の事件発生後、カンナはカヤの捜索よりも連邦生徒会およびヴァルキューレ内部の不穏分子内偵を優先して進めていた(捜索は特殊戦がしてるだろという職務優先の姿勢)のだが……これはダチョウの強襲により暴発前に始末されて不発、そのまま治安維持の方に回っていたらこの状況である。
ヴァルキューレ本庁に忍び込んだ上で、上位生徒だけを無音で四角く折り畳める連中など、カンナには一つしか心当たりはない。やってくれたなという思いもあるが、それでクーデター計画の全容に当たりがついたカンナは、今は何も問わないことにした。
事態が事態なのだ。遭難から復帰したばかりの防衛室長からの直電もあったが、正直何を言ってるのか全然わからない急展開だ。遭難復帰即仕事開始の不知火カヤ曰く……。
< カンナさん……落ち着いて聞いてくださいね。サンクトゥムタワーが爆発四散します……急いで避難誘導を >
「何を仰ってるんで???」
< 私も何がどうなってるのか、何もわからねぇんですよね!? なんなんですこれは!? というか警備部とか生活安全とか全然電話繋がらないんですけど、どういうことなんです?? >
「それが今、指揮系統が壊滅しておりまして……」
< 一体何がおきてるんです!? >
開幕この調子だったので、皆して行動が何もかもアドリブなのだった。
「ともかく、本当に同質量レベルの物体が落ちてくるならここは危険だ。シャーレビルに指揮所を設置した、まずはそこで情報の収集を……」
< 委員長!! 大変です!! >
天雨アコからの緊急通信。息もつかせぬ急展開の連続、しかしてヒナは動じない。
「アコ、簡潔に」
< ミレニアム号本部から緊急伝、上空の質量増大しつつあり……落着が近いです!! >
「そう……皆、来るわ」
< 委員長!? 流石にサンクトゥムタワーと同質量は!? 退避してください!! まもなくミレニアムの新型超兵器が迎撃を試みると、成功すれば破片が周囲にも!! >
「パワーオブドリーム君!! ついに実戦投入!!」「マジ震えてきやがったぜ……」
「ミレニアム怖いよぉ……」「超凄いけど頭おかしいよ……ドン引きだよ……」
「パワーオブドリーム君って、なんだその不穏な名前!!」
「ミレニアムの新型超兵器……またあいつらか……」
「うへぇ……今度は何作ったんすか、あの連中……ツバサが絡んでなきゃいいけど……そろそろ任意同行っしょ、姉御」「そうだな……」
「アコ、貴女はそのまま情報管制しながら待機。データの収集をお願い……ミレニアムの迎撃が成功するにしろ、しないにしろ……私達は退かない……皆、いいわね?」
「了解!! 委員長!!」
「「「「Bコマンドユニット、アイ・コピー!!」」」」
「「「「Cコマンドユニット、アイ・コピー」」」」
< ヒナ委員長……わかりました。ご指示に従います。ですがどうか、どうかお気をつけて…… >
「ちょ、マジでやる気なんすか!?」
「ボコさないことには話が進まない」「そういうこった!!」
「……お前達を制圧して退かせることは、できないとわかっている。それでも重ねて通告はする……退く気はないんだな?」
「ええ、心配してくれるのはありがたいわ……けれど、その必要はない」
空崎ヒナは退かない。
退く必要など……ない。何が来ようとも。
覚悟を決め、壮烈なる決意と共に……迎撃へ打って出ようとするヒナに、カンナは問う。
「どうしてそこまでする。ここはD.U.だ。ゲヘナではない」
ゲヘナ風紀委員会は12使徒のように学区外に出張ってまでの治安活動は基本行わない。トリニティの正義実現委員会も通常は傘下自治区といった庇護下の地域に活動範囲が限られる。大型イベント級な暴れのお祭りならともかく、日常的にD.U.その他学区で勝手に治安戦をするのは12使徒ぐらい。
風紀委員の学区外活動など、他学区で暴れて捕まったゲヘナ生徒を引き取りにくる案件が殆ど……ゲヘナ内部は察するに余りある。これほどの暴力をもってしても制圧されないゲヘナの生徒は様子がおかしいとしか言いようがない……だが。
そもそも生徒を統制する気がないのだ、ゲヘナという学園は。
万魔殿も、風紀委員会も、ゲヘナが運営できる最低限度の制約しか生徒達に課していない。外に出て暴れたところで連れ戻されるだけ……罰則というものが何もかもその場限りの混沌の坩堝。ヒナとて目が合わなければ些事まで出張っては来ない。
だから、空崎ヒナも学区外のことには無関心寄りなのだと……。
「そうね……けれど、ゲヘナと繋がっている場所でもある」
「地続きなだけだ、距離も相応にある」
そう思っていたカンナだが、ヒナの為人を知れば、見えてくるものもあった。
空崎ヒナは外部まで積極的に治安を守ってくれるわけではない。しかしここまで突き抜けて強ければ、その意思を見せるだけで圧政者になってしまう。圧倒的強者。キヴォトスの暴力、その頂点に君臨する生徒が治安機関の長として周囲を広く睥睨すれば……あっという間に王になってしまうのだから。
連邦生徒会どころかキヴォトス全ての軍事組織を一人で撃破してしまえる存在は、そこにいるだけで絶対的独裁者として、暴力だけで成立してしまう。
崇められ、恐れられる存在となる……かつての雷帝のように。
だが、今の彼女は恐れられていても君臨はしていない。対等な規模の学園が隣にあり、そこに同等の戦力が存在し、何より彼女が学園組織の頂点ではないからだ。
万魔殿に、民主議員制によって選ばれた議長総領主に彼女が『従っている』という姿勢を守っているのは、自らが絶対的独裁者にならないためなのではないか、と……カンナは思う。
理性と自制。怪物と謳われるこの生徒は、統治者になる道を望んでいない。
「でも……皆と暮らす、この国の中心だもの。守らないと」
宇宙怪獣の異名に反して、なんと理性的な生徒なのか。
「……」
「それに、私一人ではないわ」
「そういうこった!!」
だが……そんなヒナも12使徒とつるんでいる時の暴れぶりは大概だった。2面性がある、自制する奥ゆかしさと同居する、凄まじいまでの暴力性。
そしてカンナが知らないことがある。
知る由もないことがある。
きっと一人なら、孤独に戦うだけの生徒だったのなら……この場では引いた筈なのだ。冷静に、戦力を見極め。状況を考え、戦況を俯瞰して自らという駒を適切な場に置いた筈だ。
それが出来る生徒だ、稚気を理性で隠したその精神は一見大人びていた……以前ならば。
実際、どこか別の道を辿った世界では、決戦となる船には乗らず空へと旅立つ先生を見送った側だった。最強を自負するのなら、自らが最前へと立つべきである、しかしその世界の彼女はそうしなかった。自分が最強という自負はなく、頼まれれば断らず、後ろを固めるべきという方針に、異を唱えず……自分の主張は一歩引く奥ゆかしさが、悪い方向に度々働いた。
空崎ヒナは受動的な生徒だった……こちらでも。聖夜の、あの夜までは。全てを変えた、その日までは。曝け出して良いのだと思えたその日までは。思うままにあれ、それで良いのだと肯定された……その時までは。
だから、今の空崎ヒナは最強だった。
皆に認められた、あの子に認められた、私が。
最強たる者が、退くことはできない。
「最強!! 無敵!! ヒナちゃん!!」
「実際その通りだから、ホントなんも反論ねぇっす」
漲る力に不足なし。それに不安もなかった、一人ではないのだ。
何が来ても勝てるという全能感がヒナを満たしている。
だから。
「勝つわ」
宣言は、勝利のみ。
「……わかった、なら付き合おう」「姉御!?」
「D.U.は本来、私達ヴァルキューレの管轄だ。他校に丸投げにできるか……お前もその気だっただろう、コノカ」
「姉御ぉ……よっしゃあ!! そうこなくちゃあね!!」
「いよっ姉御!! 女だね!!」「んんん!! 地獄の狂犬再び!!」
「パワーオブドリームの時間だぜ!!」
< 各観測地点のセンサー情報が到着。ミレニアム号本部ともデータリンク……そちらに回します。上空約7万メートルに超巨大質量物体出現、まもなく自由落下を開始!! イーグルアイからの映像来ます……これが、サンクトゥム!? 歪で色も毒々しいですけど、まさか本当にこんな質量が!? >
赤い空の向こう、いまだ雲の向こう、見上げる空に何かがある。
「さて、方針は? 気張ると決めたが……どうやったものか」
「なんかプランとかないわけ? どうなのイオリんやい」
「なんで毎回私につっかかるんだよ!! 殴ればいいだけだろ!!」
「ん!! そういうこった!!」
「殴るっていっても落ちる寸前じゃヤバくねぇ?」
「出たとこ勝負もいいところだなァ……」
< 今、ミレニアムより砲撃警告……発砲確認!! レーダーで追跡中……って何なんですこれ!? 弾速、およそ秒速6キロ!? 一体何作ってるんですミレニアムは!? >
「流石レールカノンだ、すげぇや」
「レールカノン? サナエ、詳細を聞いていたのか?」
「いんや姉御、さっき回ってきたばっかりだね。キリコにも秘密だったみたいだしさ」
「うん、なんかヤバいもの作ってるとは聞いてたけど、ゲーム部は不参加だったし」
「まあそりゃ、ゲーム開発部がレールカノンとか作ってたら驚愕っすよ……」
上空を見つめるヒナ、空の先に何かを感じ……そして、決断した。
「……あれをやるわ」
ヒナは愛銃デストロイヤーを掲げ、天を睨む。
「委員長? あれって……」
「よっしゃあ!! やるしかねぇぜ!!」「今こそ見せろダチョウパワー!!」
「ん゛ん゛ん゛ん゛!! 私達の力と夢!!」「2000倍ダチョウパワーズだぁぁぁ!!」
「いいぜ、付き合おう、ヒナ」「まってたぜ、この瞬間をよォ!!」
「ミレニアムの力と夢と」「私達の力と夢、どっちが勝るか勝負」
以心伝心。ヒナと12使徒の間に、多くの言葉は必要ない。全員が銃を仕舞ってヒナの元に集まりだした段階で、イオリも気づく。
「って、ちょ!? あれってあれか!?」
ヒナに群がっていくダチョウの群れ。力を合わせる……それが意味する攻撃方法など明白である。エデンで見せた奇跡の輝き、今こそ……その再現をする時が来た。
……波動砲、イシュ・ボシェテだ。
「イオリ!! 何してんだよ、今度はお前も参加だよ!! パワーをヒナちゃんに!!」
「で、できるわけないだろ!? あんなのォ!? お前らダチョウと一緒にするな!?」
「やるんだよ!! やってやれねぇことはねぇだろが!!」
「それでも風紀のナンバーツーかよ、ビビってんじゃねぇ!!」
「……ミレニアムの砲弾では勝てないと思うか?」
「当たらないわ。命中率55%に賭けるの?」「それもそうか……」
「あたしもヒナちにパワー!!っていけるんすかねー? まあやってみよ!! ほら姉御も!!」「いや私は……」
「やろうぜ姉御!!」「姉御!!」「ん゛ん゛ん゛!! 姉御でパワー!!」「ゴリラ・ドッグ!!」「スミカ、お前後で覚えていろ」「そんなー!!」
ガシガシと頭をかいたカンナも歩み寄る。
両手でデストロイヤーを掲げ、上体を完全に預け、倒れ込むヒナを12使徒8名で抱えるようにして支え、それをカンナ達三人で背後から支えるようにして、砲門が天を睨む。
< ミレニアムの……パワーオブドリーム君? なんですこの変なコード!! ええい、PODカノンの砲弾、まもなく着弾!! 高度5万で直撃コース、衝撃波に備えてください!! カウント 5、4、3 >
「当たるかな?」「まあ半々だしワンチャンかな」「55パーは甘え!!」
「どこから撃ってるんだ……D.U.に直接砲撃できる射程なら問題だぞ……」「やっぱ任意同行っすよこれ!!」
「当たろうと外そうとやることは同じだろ、なぁ」「ええ、見ものね」
< 2、1……!! インパクト、今!! >
赤い空、黒い雲に覆われていた天蓋の先を、閃光が駆け抜けていく。
音は、後から来た。
ドンッ、そんな巨音と共に大気が震え、黒ずんだ雲が吹き飛ばされるようにして雲が裂けていった。赤が……天の果てまで続く空。
その遥か先に、黒点。
< ッ!! 命中せず!! 外れました!! 誤差およそ70m、目標健在!! 委員長!! >
120cm砲弾は、目標を掠めることなく虚空を穿ち、地の果てに消えた。
「まあそうなるか」「だと思った」「ん……残念……」
「やっぱだめじゃないか!!」「イオリ、55パーを信じるのは雑魚の思考だぞ?」「そこまで言うか!? 流れ的に、ここは当たるところだろ!!」
ミレニアムの力は未だ未完成、その力を振るうこと能わず……だが。
「……雲が晴れたわ、十分よ」
目標が、黒点が、見える。
「いくぜぇぇえ!! 高まれ!! 私達の!! 力と!! 夢!!」
「これが真の!! パワーオブドリームだぁぁぁ!!」
後ろで支える三人の目から見ても、それは異様な光景だった。12使徒達のヘイローが一斉に高速で回転し、目が潰れんばかりの光を放つ。それに連動し、ヒナのヘイローが白熱するかのように輝いていく。
本能的に、何か恐るべき力がそこに集まっていくのが理解できた。イオリがふと見れば、自分達のヘイローはやはり輝いていない、力が抜けていく感覚もない。やっぱ私らじゃ無理じゃんと思ったイオリだが、身体が押しつぶされそうな重圧を受けて、声が漏れる。
( きっつ……なんだ、これ!? )
まるでここだけ重力が10倍になったかのような圧力、支える身体に活を入れ、全力でそれに耐えた。隣のコノカ、カンナも同じくだ。
荒れ狂う赤黒い光と黒い暴風が拗れるようにして、ヒナの銃、デストロイヤーの先端に光が集中していく。それに応じて増した圧力が更に全身を圧してくる。イオリとてゲヘナの強者だ、耐えられないほどではないし、ヒナのプレッシャーを浴びてきた身だ、負けはしないし恐れもない。
それでも、汗が吹き出す程の力の濁流が全身を包んでいるのが、わかる。
コノカも顎下に下ろしていたマスクがどこかに飛んでいってしまったが、それを気にしている余裕はない。敬愛するボスがこれを見ても涼しい顔で耐えているのは流石だという思いと、やっぱやべーわ空崎ヒナという思いが巡る。これ人間が出して良い現象超えてない? ホラーじゃない? こえーよ!! 空崎ヒナ伝説とか真実そのまま都市伝説になっちゃうよこれ!!
驚愕すべき光景が広がっていた。凝縮された、黒い光が、捻れているなどと。
「足りねぇ!! 力をパワーしろ!! ダチョウ共!!」「うおお!! 4匹分不足ってか!? イオリ!! サボってんじゃねぇ!!」「サボってるわけないだろ!! こんなバグ技にどう付き合えっていうんだ!!」
だが、それをして……不足。あの時程の出力には4人分足りない。虹色の輝きが得られないという、明確な違いがあった。
願わくばイトが居てくれたら……という思いに蓋をし、ヒナは今できる最善の力をもって、迎撃すると決めた。時間はない、猶予も。このまま撃つしかないのだ。
黒点はどんどん大きくなってくる。圧倒的な巨大質量が、落下してくる……ここに向かって!!
「……これでいくしかないわ。皆、力を貸して」
「足りないパワーは気合と根性でカバー!! いこうヒナちゃん!!」
「ヒナ!! やってやろうぜ!!」「ヒナちゃんフォーエバー!!」「ヒナち!!」
うねり狂うエネルギーが頂点に達した瞬間、ヒナの両翼が大きく広がり、背後の全員の隙間を縫って大地に突き立つ。砕けるコンクリート、姿勢固定の補助に翼を使うのは12使徒も同じだ。しかしこれはそれで済むような圧力でも激震でもない。ビリビリと大地が震えだしたのは、落下物体の圧力か、それとも……この捻れ狂う力そのものか。
黒い光という恐るべき輝きが、瞬く。
「いくわ……!!」
イオリの知覚では周囲の色が全てモノクロになったかのような、不思議な閃光と共に、それは発射される。
「スーパーヒナちゃんダチョウ波動砲、発射ぁぁぁ!!」
「なんなんだよそのネーミングは!! 全然違ったろ確か!!」
イオリの突っ込みと同時に、光が天を穿った。その先の物体に、命中する!!
「ぎぃ……が、これは……ヤバ……」
「踏ん張れ、コノカ!! お前が倒れると、私もまず……ぃ!!」
「照射が外れたら負けだぞ、二人とも踏ん張れ!!」
ダチョウがほぼ反動を三人に全投げの体制であったため、正直かなりキツいカンナ除く二人であった。薄目をあけて見える光景は人間やめてる存在の圧倒的パワーと言った感じで流石のカンナもドン引きだ。
これが噂の護衛艦隊を一瞬で飴のように溶かしたという人力波動砲……だめでしょこれは。人間のやることじゃないよ……正直こんなの食らったらどんなカスも消滅だろ……リアルホラーを前にコノカは絶句。
「やっぱ委員長、すごいって!!」
常識人仲間だと思っていたイオリのヒナちゃんフォーエバー発言にもドン引き、やっぱこいつもゲヘナだったわ……。
「……!!」
凄まじい光の柱が天へと登り、舞い降りる偽りのサンクトゥムタワーを包んで蒸発させていく……。
「……ッ!!」
だが、足りない。あれほどの質量、そして超常的な概念の複製たる存在は、ヒナ渾身の波動砲イシュ・ボシェテに耐えている。表面は焼き剥がれ、ボロボロと崩れて溶けていっている。しかし、巨大すぎる質量という武器が、完全なる消滅を防いでいた。
通っている、ダメージはある。しかし、破壊しきれない……!!
「くそったれ、パワー不足かよ!!」「ん゛ん゛ん゛!! 絞りだせ野生の力!!」
「く……」
不穏な煙を上げる愛銃、回転する組み込まれたオーパーツ部分の発光は極限のそれで、照射は既に9秒。負荷があの時よりも大きい、不完全なのだ……やはり12人いなければ……。これ以上はデストロイヤーが持たない。そして照射が弱まっていく……。
光の柱が消えゆく中で、それを貫いて落ちてくる物体。
虚妄のサンクトゥムが、迫る。
「だめ、か?」「こ、こいつで……マジすか……」「そんな……」
< 目標にダメージ確認!! ですがまた健在です!! これ以上は!! 全員脱出してください!! >
アコの絶叫に等しい退避の声。しかしそれを聞いていながら、虚妄の柱が落ちてくるというこの状況で。
スゥーハーッ……スゥーハーッ……。
ヒナは呼吸を整え、8人の使徒も逡巡することなく、同時に息を整えている。
深い呼吸だ、この危機にそぐわない程に、深く、静かな。
決意を感じせる、力ある息吹。
その吐息の意思は堅固だった……すなわち、退かぬと。
< 委員長!? >
最強には、なすべき事がある。
私達は負けないという、意思の体現であらねばならない。
今この瞬間、ヒナはキヴォトスを背負う存在だった。
キヴォトスというこの地、その暴力の頂点たる者の自負がある。
これまで、自覚は薄かった、自分の能力に。大怪我をさせまいと全力を封じていただけで、己がどれだけの高みにいるのかを、よく知る機会はなかったのだ。あの日までは。
今、この身は無類無敵の存在だという自覚が……ある。
退くことなど論外だ。
前に進み、殴り、倒す。
それができねば……キヴォトスは、自分達は。
最初から、負け犬になってしまう。
そんなことは許せない。
「委員長……!!」
「イオリ……マコトの言う事を認めるのは、とても嫌だけど、あれは……あのタワーは、このキヴォトスの象徴よ。このまま黙って折られて、良いはずなんて、ない」
ゲヘナという混沌の地を率いるからこそ、羽沼マコトはその感覚に鋭敏だった。だから、荒れる会議の場でこう言い放ったのだ。「様子見など、まどろっこしい」と。
主導権は、自分で掴む。自由と混沌の君主だからこそ見出した勝機。
勝ち負けの確率など、問題ではない。
サンクトゥムタワーそのものが落ちてこようが関係ない。
最強だ。空崎ヒナはこのキヴォトス最強の生徒である。
最強には、なすべき事がある。
< ここで勝たなければ、負け癖がつく >
そうだ、その通りだ。本当に腹立たしいことに、羽沼マコトは時に真理を突く。勝てると思えなければ人々は世界の危機に立ち向かえないし、勝利を信じることもできない。滅亡の未来に抗い、打ち倒すために。勝利を信じなければ、立ち上がることはできないのだから。
だから、ここで負ければ未来が折れる。
だが、ここで勝つならば、勝てるなら。
いいや勝てるとも、勝利は最初から最後まで我が手に。
それは虚勢か? いいや、確信だ。
羽沼マコトは勝利を疑っていない。
信頼ではない、好きも嫌いもない。それがたとえ自由の抑圧者たる風紀委員だろうとも、ゲヘナの自由を侵す外敵に抗ずるのならば。お前がそこにいるなら勝てる。
< 勝てるだろうが、なぜ受ける必要がある >
純然たる事実として、マコトは勝てると確信してそれを言っている。ゲヘナは最も優れた学園だと、ゲヘナの最強はキヴォトスの最強なのだと。今のお前であれば、勝てない筈などないと。
そんなお前が、内心勝てると思っているお前が。一歩引いて敵を待ち受ける? 情報の収集のため? 馬鹿なことを言うな。作戦? こんなお粗末な出待ちがか? 知るか、自由にやるのがゲヘナの流儀だ。好きにやれ、なぜそうしない。
< こんな出だしで躓いてどうする。落としてから偵察だと? 馬鹿め!! >
空崎ヒナにとっては本当に癪だが。
< 何のためにそこにいる!! 空崎ヒナ!! >
羽沼マコトは、空崎ヒナの勝利を、疑っていない。
……羽沼マコトの、言う通りなのだ。
最強のカードがその場にあるのに、待ちなど論外。
流れを掴めねば、勝てる勝負にも勝てる筈がないのだから。
< お前に折れなくて、他の何で折れるというのだ? 笑わせるな >
最強である己が勝たなければ、この先に……勝利はやってこない!!
ドンッ。そんな音と共に、9人が駆け出すのは同時だった。
大地を踏み砕きながら、音よりも速く駆け出す。イオリとコノカが吹き飛び、カンナが破片から顔を守った瞬間に、もうヒナと12使徒は風となっていた。
踏み込む大地に凄まじい破壊を振りまきながら加速する9人が、鏃の形で大地を蹴り超え、サンクトゥムタワーの壁面を直角に駆け上っていく。重力を無視し、ただ加速する。
踏み込みの速度は影を引き離すがごとく、轟音と衝撃波と共にタワーの壁をガラスごと引き剥がしながら最高速にのった人の鏃が、タワー壁面をカタパルトのごとく踏み砕いて走り抜き、尖塔を駆け抜けて空を舞う。
最早偽りのサンクトゥムタワー、後に虚妄のサンクトゥムと呼ばれるそれは目前だった。
破損は酷い。波動砲は確かに深刻なダメージを与えていた。だがそれだけだ。
質量、推定数百万トン。全長おそらくキロ単位。人知未踏の質量が成層圏から大気を引き裂き、落着しようとしている。おぞましい音速を超えた空気の槌とともに、大気の悲鳴が響き渡る。
キヴォトスの全土がその恐るべき光景を見ていた。見守るクロノスも恐怖のあまり逃げ出す者さえいた。人々が悲鳴を上げ、絶望の声と共にその落下を見守る中……9つの小さな姿が、巨大すぎるがために、ひどくゆっくりと見える、音速を超えた落下物の先端へと飛び向かう様を。
「無茶です!! いくらヒナさんでも!?」「流石に無理でしょそれは!?」
゛ヒナ!! 皆!!。゛
ミレニアム号で見守る面々も、立ち上がって無謀と叫ぶ中……羽沼マコトだけが、イブキを抱いて椅子に堂々と座り……足を組んでジュースを片手にそれを、見ていた。
「ぁぁ……あああ……あああああああああ!!」
握る拳が異様な音を立て、躍動する全身の筋肉をバネにして繰り出されるは、打ち上げる右。全身全霊!! 生まれて初めて全てを出したと思えた夜を超え、今ここにヒナの、あの日から高まり続けた力、本当の意味での……今出せる全身全霊が繰り出される。
振りかぶったヒナの拳が、虚妄のサンクトゥムの先端に。
突き刺さる。
めり込む拳、質量に押しつぶされ、悲鳴を上げる全身。空中にあるにもかかわらず、まるで大気という大地に挟まれ、めり込まされるような圧力。ヒナの全身にあの日以来の、明確に、行動に支障のある深い傷が刻まれた。
砕ける拳、吹き出す血潮が玉となって弾ける……。
衝撃波が叫ぶ、慣性が狂う。物理法則が神秘の理に負けて悲鳴を上げた。
人類が聞いたことのないような音がキヴォトスに響き……。
虚妄のサンクトゥムの落下が……止まった。
「「「「「「「「いやいやいやいやいや!?」」」」」」」」
「ヒナ先輩すごーい!!」
「キキキ………… え?」
いや、それは………流石に……マコトちゃん予想してないなぁ……。
勝てるとは、言ったけども……こう……そういうのじゃなくて……。
「「「「「「「「おぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」」」」」
瞬間、虚妄のサンクトゥムに向かって8つ翼が襲いかかる。
乱打、乱打、乱打!! 秒間6発を超えた壮絶な拳が、またたく間にサンクトゥムを砕いていく。ヒナも続く、繰り出される左の拳が凄まじい轟音と共に偽りの柱を砕いていく!! そして引き戻されていた右が繰り出される、拳は砕けたままだ、だが躊躇いなどそこには一切ない!!
繰り返される左右の拳が徐々に加速!! ヒナの猛る戦意と共に、振り抜く速度が、上がる!!
「「「「「「「いやいやいやいやいやいや!?」」」」」」」」
ひっくり返るミレニアム号の指揮所一同。生中継である、全土が見ている真っ只中で、謎の落下物体をまさかの拳で迎撃の超常現実。いや!? ヒナさん!? 流石にそれは……!? 人として、ヤバくないですか!?
科学では説明がつかないガチの超常現象に超天才薄幸美少女ハッカー横転!! ヒマリちゃん先輩が車椅子からドオッと落ちるのをリオが滑り込んでスーパーセーブするも撃沈。ヒマリの羽根のようとは云い難い全体重がリオの腰一点に集中。迫真のパワーオブドリームを超えたパワーオブドリームの同時攻撃で意識が飛ぶ。
恐怖映像のあまり髭を落としてトモエに縋り付くチェリノ!! 流石に言葉の出ないキサキ!! ニヤ様横転!! 椅子から転げて気絶寸前!! 中央の連中怖すぎるだろ!!
そして流石にもう人類卒業すぎる光景に、全キヴォトス市民はドン引き……。
だが、あの空崎ヒナが。キヴォトス最強生物が。明らかに血塗れになりながら、阿修羅のごとく血風を撒き散らしながら殴りつけ続けるその姿に。
あのヒナが、全身全霊で抗う姿に……。
……ぃ。
いけぇぇぇぇぇぇぇーーー!!
恐怖を、超えて、絶叫した。
そして桐藤ナギサは、明らかに舞い散る血風を見て……ミカの手を握りながら祈るようにして目を伏せた。あの強く頼もしい、彼女達が。血潮で濡れるほどに死力を尽くしているのだと、わかってしまうのだから。
ヒナの拳がサンクトゥムを砕いていく。
拳を打ち込む度に襲い来る不快感。直接触れてはならないと言われた、この謎の物体の特性か。ウタハが後ほど調べれば、それは侵食とも言うべき現象だ。神々の写し身たる神秘を持つ生徒を反転させようと襲い来る悪意……。
「委員長……!!」
砕けた虚妄の残骸が降り注ぎ、都市を破壊していく。だがサンクトゥムタワーは健在だった。カンナはコノカを掴んで既に退避。制止を振り切り、瓦礫を踏み飛び、拳で砕きながらイオリが上を目指す……果たせない。届かない。
銀鏡イオリは空を飛べない。足だけでは届かない。
ここにきて、ここまできて、並び立てない悔しさが唇を切った。
「 おおおァァァァァア!! 」
空崎ヒナ、咆哮。
吹き飛ぶ。跳ね飛ばされるようにして染み込もうとする魔の手が、内から湧き上がる熱に弾かれて消え失せる。ヒナの輝くヘイローの光が、続く8翼の光輪が、虚妄を圧倒する!!
色彩なんぞカスだぜ!! そう言い放ったベアトリーチェが定義づけた事実は世界に刻まれて消えない。力を利用し、負けた。生徒にそれを超えられてしまったという『テクスト』が、今のキヴォトスにはあるのだ。虚妄程度、断片程度で最強級の神秘を侵すことは、もはやできない。
「 ガァァァァーーーッ!! 」
一度空中で止まったサンクトゥムが再度落下を始める中、拳の乱打。落下する速度と同速で虚妄の柱を砕き始めた。このラッシュ、スタンドとかじゃねぇ、完全人力だ、自分の拳でやっている!!
流石にどうかしてる異常現実を前にして、人々の常識が吹き飛んでしまった。そしてそれは、大きなうねりとなって、一つの意思、願い、思いが、一点に集中することを意味する。
そう、以前……配信という媒体をもって、全キヴォトスに力を見せつけた忍びのように。
元々ヒナはキヴォトスで最も強い生徒というイメージが定着している。これまでの異常な強さの一因であったことは否めない。イメージだ……人々の恐怖が形になることがあるのなら、希望もまた形を成さねば釣り合いはとれない。
落ちる禍々しい柱。赤く染まった空を打ち抜く輝き、それをすら跳ね除けるその脅威を砕かんとする、希望という名の拳。
キヴォトス全土の願いと意思が、最強たる存在の力になる。まあこれは最強ですと納得、そして負けるなという願いという形で、ヒナの全身を包み込み、そして追随する12使徒へも、それは同様に流れ込む。
12使徒は12人で空崎ヒナと同等……そうあれと謳われるならば、そうなる。
毎秒高まっていく力、ヒナ達のバラバラに砕けそうな全身が壊れる端から癒えていく。筋断裂、手から腕まで明らかに骨折、直撃する瓦礫が当たり、その質量で更に負傷。まともな手段で負傷などする筈のない9人が、明らかに重症……だが止まらない、無呼吸乱打の中で茶道の呼吸はできない、しかし。
万能感、全能感。拳は砕け、血まみれになりながらキロ単位の物体を砕きに押し返す、9人の心身をそれが満たす。自分自身をも砕く力と質量の反動で、確かに満身創痍であるにもかかわらず……速度を上げていく!!
「「「 オラオラオラオラオラ!! 」」」
「「 ボラボラボラボラボラ!! 」」
「「「 ウィィィィィィィィィ!! 」」」
「 あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! 」
完全な統率感、ヒナを中心に整然と円を描いた8人が全くの等速で拳を繰り出し、サンクトゥムの『芯』にいるヒナが砕きやすいように虚妄の破片を野菜の皮でも剥くように砕いている。
無意識の一体化。ヒナは今、己の自由になる両手を8セット手に入れたようなものだった。人の言葉を失うほどの戦意の中、効率よく砕くために考えるまでもなく追随する8翼がヒナの思うがままに破壊を遂行する。
ラッシュの速さくらべ✕9と化したキヴォトス最強野生動物の一団が、サンクトゥムを猛烈な速度で粉微塵に変えていく様はあまりに非現実的すぎ、人々から正常な思考を奪い、そして暴力信仰を極限まで高めていた。
オーバーロードした人々の願いが、正しく『力と夢』となってヒナの拳に宿る。
絶対にどうかしてる異常現実を前にして、人々の常識が彼方に消える。キヴォトス全土の意思が力となり、最強たる存在に納得という形で、さらにヒナの全身に流れ込む!!
破壊の速度が、上がる!! 波動砲イシュ・ボシェテのダメージ、そして人知を超えた殴打の連続に虚妄のサンクトゥムは耐えることなどできない。ミキサーにかけられるようにして、消滅していく!!
これが空崎ヒナだ、それに続く12使徒もこの有様だ。
納得が確信と共に、想像が現実に、信じる心がそのまま力に。
ヒナの、存在段階が……上がる。
最強の生徒、最強の存在。キヴォトスの頂点たる生徒……それをすら超える、超越せし者。
この瞬間、伝説を越え、神話を超え……空崎ヒナは星の頂きに最も近き、一つ上の位階に達しようとしていた。
神話より上にあるのならば、それは何か? 遥か遠き宇宙の怪獣を超えた存在たる、今彼女を表すべき……唯一の称号とは何か。
そうだ、宇宙……それしかない。
まさしく、その崇高に手が届かんとする称号にふさわしきは……銀河へ……到達せし者!!
『到達』……銀河級生徒!!
「 ア゛ア゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ!! 」
ヒナは最早言葉などなく、咆哮は獣のそれだった。何千何百発打ち込んだのかわからない拳の乱打の果てに、ついに虚妄のサンクトゥムの終りが見えてきた。シュレッダーに無理やりかけられた厚紙のように、末端まで破片を撒き散らしながら消えていく。
「 オオオオァァァ!! 」
最後に振り抜く、渾身の拳が大気を渦のように裂きながら突き立ち。
崩壊した先に、赤い天蓋が広がった。
砕けた残骸が数多大地に降りしきり、積もる幻想的を超えた光景の中で、音速で駆け上られた反動、落下する破片で大きな損傷を受けながらも……未だ健在なサンクトゥムタワーの尖塔にヒナは降り立ち……。
8翼の天使を侍らせた17歳の超悪魔が、血塗れの拳を静かに天に突き上げ、無言で勝利を告げた。
ファースト・サンクトゥム……初手これにて完全崩壊。
・羽沼マコトちゃん様議長、コメント全文・補足
様子見など、まどろっこしい(え? 外敵とか殴ればええやん?)
ここで勝たなければ、負け癖がつく(なめられてんだぞ?)
勝てるだろうが、なぜ受ける必要がある(いや、タワー折られたら負けやん)
こんな出だしで躓いてどうする(初手ケチがついたら負けだろ)
落としてから偵察だと? 馬鹿め!!(いや、だからシンボル折られたら負けだろ!!)
何のためにそこにいる!! 空崎ヒナ!!(なんで今日に限って奥手なわけ?)
お前に折れなくて、他の何で折れるというのだ? 笑わせるな(いいからぶっとばしてこいや)
なお、勝てるやろと思いつつ、拳でキメていくとは流石に考えていなかった。まあ、それはそう……。
親愛とかそういう感情特になくても、適切な言葉が適切な時にだけ出てくる、肝心な時しか役にたたない族の女……羽沼マコトちゃん様。無事ヒナちゃんを奮起させるもよう。