時刻・PM14:45
百鬼夜行連合自治区、陰陽部本館天守閣係留中、戦艦ミレニアム号
艦内、C-22よりB-45区画、ゲストルームより通路、および食堂。
< 当艦はこれより、キヴォトス各地へと急行し防御戦闘およびその指揮を行います。一般生徒および非戦闘生徒は速やかに退艦してください。合戦用意。繰り返します、合戦用意です、皆さん戦闘機動に備えてください >
「うおお!! 飛行戦艦の超パワー!! みせてやるけんのぉぉぉ!!」
「空中科学要塞ミレニアム号の前に、カス共は全てひれ伏す!!」
「我らが最強パワー!! 科学の力で全てを 解 明 していこうぜ!!」
「サイエンス!! いい響きだろ!!」「ミレニアムばんざーい!!」
「これが科学だ!! わからんか!! キヴォトスの救済だ!!」
「うわ……」
河駒風ラブから思わず漏れたガチの引いた声音も致し方ない、異様な盛り上がり。
合戦用意の艦内放送に猛り狂うミレニアム号の乗員達……彼女達は全員ミレニアムの生徒だったが、テンションマックスの艦内の空気に戸惑う一団の姿もあった。
ミレニアム号にリンとカヤと共に収容されたゲスト……ヘルメット団の生徒、ラブ率いるジャブジャブヘルメット団の面々。そしてトリニティから補修授業部のヒフミ達。
シスターヒナタはリン・カヤと共に司令部お呼び出しで乗艦と同時に作戦部入り。本人の自覚は薄いが名高い聖堂騎士の最上位なので、戦力として求められるのは自然な流れだった。
ちなみにウイは責任ある上級生の悲しさか、司令部召喚を断り速攻引っ込んだゲストルームで休んでいたところに茶会生徒、久留島がやってきて抵抗虚しく即拉致。
ナギサ様がお話を聞きたいそうです……我らがティーパーティー・ホストにして首席生徒会長総領主のお召しだぞ? まさか断らんよな? 図書委員長。隠れ武闘派のウイも流石に元聖堂騎士に閉所で勝つのは厳しいのだった。
そうして取り残された2年生と1年生混成チーム、補修授業部+ヘルメット団の面々は艦内を迷いつつ歩きながら到着した食堂。その至る所でヒートアップしている乗員生徒……模範的ミレニアム生徒達のテンションを前に居心地が大変よろしくなかった。
お昼すぎだし何か貰おうとしていたけど、とてもそんな雰囲気じゃないし、そもそもケミカル感漂う自販機しかない。エナドリでショットガン(ミレニアムの伝統的缶ジュースの飲み方らしい)している生徒が複数いる、よくいえば小綺麗なサイバーパンク、正直スラムのような雰囲気。
ああは言っても育ちの良いトリニティ生徒には辛い環境ですよね、ここ。
「困りましたね……最寄りの自治区で退艦といっても……」
「外周圏で降ろされても、どうしようもないわよっ」
「何が起きてるんだろう。ヒフミ、先ずはそれを調べないと」
「ですね、トリニティに戻るのは、当分先の話になりそうですし……」
「うちらも中央で下ろしてもらわないと、流石に困るって……というか、一体何がおきてんのよこれ。いくら頭のおかしいミレニアムの生徒っていっても、皆目がキマりすぎでしょ……」
見渡す限りミレニアムの生徒という状況は怖い……実験と称すればどんなイカれ行為も正当化してくる、このキヴォトスでかなり上位の危険な生徒達の集団。全学が『研究会』という狂気の学園。しかもミレニアム号のクルーとなれば、間違いなく選りすぐりも選りすぐりだ。
正直な話、ゲヘナの生徒よりよっぽど怖い。蛮族全開ではあるものの単純明快なルールに生きるゲヘナ生徒に理性はないが案外話は通じるし、暴力でコミュニケーションが成立すれば基本後に尾を引かず、認め合えば懐深い学風。拳を突き合わせ、銃弾で語り合えば仲良くなれる。
エデン同盟成立以後はより顕著だった、体面とか校風で抑えているだけで、トリニティも本質的には自分達と同じだと思うようになったのだ。欲望の発散がへたっぴなお嬢様にいっちょ遊びを教えてやっか、という空気。
「風紀にボコされるまで商店街略奪RTAしようぜ!! ポイント争奪戦だ!! 負けたら奢りな!!」
そんな荒々しい心温まる交流に他校生も誘ったりと、きっぷの良い性質なのだ。最終的に自分がボコされることも前提でいるあたり、ゲヘナ民はちゃんと因果応報を自覚している。
暴れる自由はボコされる自由と表裏一体、相手の右頬を殴るのならば汝の右頬も拳を受けるべし。
誰かを殴るなら自分もまた誰かに殴られる、相手の暴力の自由も認めなければならない。これがゲヘナのルールだ、一方的な自由の行使は『粋』ではない。
会話は打撃も言葉も通じる進歩的暴力文化国であり、議会制民主主義という高度な自治を行う先進的自治区。生徒会長の独裁という実質王政が殆どのキヴォトスで、選挙と議会がちゃんと機能しているゲヘナはマジで凄いのだ。これを一代で作ったマコトちゃんは本当に称えられていいと思います。
そう、ゲヘナはキヴォトス有数の文明国なのである。
「ヒャハァァァァ!! 実験の時間だ!!」「実験!! 実験!! カス共で実験!!」
「ヨオオオーーーッ!! カガク!!」「お前をサイエンスしてやろうってんだよ!!」
だが、ミレニアムの生徒には話が通じない。これは無理。
「……怖い……」
下江コハル、ガチの怯え。かなり強化された正実学兵でもドン引く、レベルの高い狂気がそこにあった。
まあ正体もわからないまだ見ぬ敵に向かって「お前をサイエンスしてやろうってんだよ!!」とか叫んでるのは本当にマジでヤバいタイプのミレニアム生徒なので、正しいリスクマネジメントだ。
「……」
浦和ハナコ、真の狂気を前に言葉を失う。思わず縋り付いてきたコハルを抱きしめてしまう程度に無理である。水着で出歩く程度の育ちの良いファッション狂人では、真にマジでヤバいタイプの生徒には追いつけない。これが本物だ。
「いくぜぇぇぇ!! 私達がかんっっぺきに調整した主砲がよぉぉぉ!!」
「唸れ荷電粒子投射砲!! 先輩達の超科学兵器!! エクスカリバーツー!!」
「は や く データを取らせろってんだよ!! 的になるカスは何処なんだよ!! 今すぐエクスカリバーブチこんでやろうぜ!!」
彼女達は狂っていた。
「意外と好戦的。すごい、本当にツバメの言う通りだ」
「あはは……」
マジで無理だった。パワーやフィジカルで暴力文明学園に対抗できないミレニアム生徒達がお不良さんチームの標的になりづらいのは……単純に怖いからだった。報復に一体何が飛び出してくるのか全く予測できないのだ。
一般通過ミレニアム生すら「これが科学だ!!」とか叫びながら謎の装置から音割れポッターレベルのアバダケダブラ(雷)放ってくるような連中に因縁をつけるのはリスクが高すぎる。
上級ランカーミレニアム生徒に至っては更にマジで怖い。彼女達ミレニアム学内ランキング上位陣の危険度は一線を画する。どのぐらいヤバいのか……代表的生徒というと、燦然と輝くその頂点は……調月リオ、そして2位に白石ウタハである。
ハレ? いやあの子もマジで凄いんだけど……こう……『狂い』が足りないというか……わりと実利を優先しがちなんだよね。ちょっと大人しいというか……。ヒマリちゃん先輩? あの人は全知(笑)だから。まあ確かにマジで電算させたら無敵で超凄いけど……どっちかというと理性的で善意の人だし……。
その点リオ会長とウタパイはすげぇよ。繰り出される超兵器の数々!! 実験の被害とか連邦法とか知ったこっちゃねぇぜ!! シビれるし憧れるだろ!!
ちなみに「お前をサイエンスする」という威圧的な文言はランカーミレニアム生徒達の常套句であった、意味は判らないがとにかく怖い。
ランカーミレニアム生徒、その総数……100名。
ミレニアム号に50名、スピリット・オブ・エリドゥに50名が搭乗。キヴォトスの危機と聞いてここに堂々推参!! 主にお前らで世界がヤバい!!
小鈎ハレという超天才にしてサイエンスアウトロー・ヴェリタスの生徒をもってして19位に甘んじるという、圧倒的なヴァルキューレ任意同行取り調べ回数を誇るキヴォトス最狂のクリエティブ・アリーナだ。
「強大な艦!! よく飛ぶ砲!! 威力ある弾!! 正確な狙い!! そしてカスの実験標的があれば完成する!! わからんか!! この科学が!!」
「ぅぅ……」
下江コハル、泣く。
突然近くのミレニアム生徒からこんな勢いで話しかけられるの、お嬢様学校の一年生にはマジで辛い。
「コハルちゃん……」(守るように胸の中にコハルを掻き抱くハナコ)
「コハルちゃん泣かないで、大丈夫ですっ、みんな襲ってきたりはしませんからね? ね?」
「これがミレニアム生徒……凄いな……本当に会話が成立しないんだ」
「わからんか!! 科学の聖戦だぞ!!」
絶対言葉は通じないと、この光景を見れば理解できる。
意思疎通ができているようで会話ができていないともっぱらの評判なミレニアム。キヴォトストップランクの高偏差値校という現実に反して、ミレニアム生徒の評判は理性なき科学蛮族。
そう、サバンナ文明に完全適応した科学の徒である彼女達は狂っていた。
「それで、貴女達は一般生徒のようだが……この船はこれから連戦になる。戦闘中の退艦は難しいと思う、早く降りたほうがいい」
「うわあ!? いきなり冷静にならないでよ!?」
急に普通の口調で喋りだすミレニアム生徒にヘルメット団ですら怯えが先行する。
「ここからだと遠すぎて……トリニティには寄りますか?」
「どのタイミングになるかはわからないが、航路がトリニティの近くに寄った際、桐藤さんが茶会の閣僚と一緒に退艦する予定だ」
「そうなんですね、ありがとうございます!!」
「だが戦闘に巻き込まれたくなければ一般生徒は外周圏で降りておいたほうがいい。中央は主戦場になると会長達は考えている、私も同意する」
「……部長級生徒とお見受けします、所属はどちらで?」「ハナコ?」
何らかの大規模な異常、危険を感じ取り始めたハナコの頭脳と勘が、急速に立ち上がっていった。ミレニアム号が本格的戦闘に入るような主戦場というのは、想像が難しい事態だ。
「ミレニアム超電磁研、3年の鳥栖だ。今はこの船の艤装委員長と砲術長をしている。専攻は電磁導体なんだが、専門家だろうと白石に言われてな……まあ確かにPODと艦砲化したエクスカリバーツーの製造は私だが」
「あれの制作者かよ!!」「うわ……」「パワーオブドリーム……?」
「浦和といいます、はじめまして。鳥栖さんはこれからの予定をご存知なんですね? 知りたいことがあるんです、教えてくださいませんか?」
「空が赤くなった理由、戦いになる理由を知りたい。何が起きているんだ?」
コハルを抱きしめたままハナコだが、少し前から『スイッチ』が切り替わってることにアズサは気づいていた。ハナコがそうなるという意味を理解しているアズサは、補修授業部の戦術担当として密かにコンディションを戦闘に寄せている。情報の収集は必要だ。
「一般生徒が危ないことに首を突っ込むべきではない、治安維持生徒に任せておくんだ」
だが鳥栖、他学生だろうと一般下級生を危険から遠ざけようとする人格者上級生。これがさっきまで「救済だ!! 科学でキヴォトスを救済する!!」とか叫んでた生徒と同一人物とか、マジ様子おかしいよ。
ハナコ達は知らなかったが、ランカーミレニアム生10傑の一人でランキングは8位。白石ウタハの盟友にして百合園セイアの精神を攻めぬき、苦しめてきた戦犯の一人である。
これでまだ8位ですよ、マジ震えてきますよね。
「なんでそんなところだけ常識的なのよ!?」
「その、ナギサ様とお話できませんか? 私は阿慈谷ヒフミといいます。伝えてもらえれば、お会いできると思うんです」
「桐藤さんに? ……まて、阿慈谷だと? そうか君が……いや、大変失礼した。これからCIC、作戦室に向かう、来るといい。君のクリアランスレベルなら問題ないだろう」
「えっ!? いいんですか!! ありがとうございます!!」
「君を門前払いしたなどと知れたら大変だからな、名乗ってくれてよかったよ」
超ヤバそうな言動の部長級確定ランカーミレニアム生徒が、ヒフミの名を聞いた瞬間に居住まいを正してこの対応。やめてください、怖いです。
阿慈谷ヒフミってマジでどんな位階の生徒なの? ほんとは何してる生徒なの? ラブ達ヘルメット団の面々が改めて畏怖に凍りつく。他校のそれも明らかに上位生徒からこの応対。
無害そうな空気だしてるのが地雷すぎる、一見不良にはカモに見えるのだ。だが。
「慈愛の君に、言えば会える……?」「……あの、やっぱ阿慈谷さんて……その……」「やべぇよ……やべぇよ……」「け、敬語とか、使ったほうがいいっすよね、やっぱ」
慈愛の君に『言えば会える』などありえないので、これで普通とか言い訳しようがない。こんなのが普段、普通の生徒とか言って一般制服着て一般教室にいるの詐欺だろ。一般通過してちゃいけないだろ。
ヘルメット団としては、うっかりのこんな見えない地雷を襲いでもしたら月面送りで終わる訳がないので本当に怖い。近衛のダチョウが飛んでくるの確実だし、正実も地の果てまで追ってくる……白制服着といてくださいお願いします……。
「えっと!? いやほんとに私は普通の生徒ですから!!」
「無理があると思う」「ですよねぇ……」「? ヒミフ今度は何やったのよ!!」
「わからんか。知らんとは驚きだ。まあヘルメット団の生徒なら無理もないか……公にはされていないしな」
「えっと!? 私もどういうことなのか全然わからないんですけどっ!?」
・
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「砲術長入室!!」「先輩、白石部長が呼んでますよ」
「わかった。こっちはトリニティの関係者だ、桐藤さんの所へ」「はーい!! 皆さんはあちらへ」
「あ、どうも……ここが……広いですねぇ……」
「……これは、キヴォトス全土の地図……まさか、侵攻を受けて?」
ヒフミ達が通された、多段に構築された広大な作戦室。なんかどこぞのジオフロント基地の司令部みたいなCICとも言うべき場所。今現在キヴォトスの総指揮を取っているこの中枢司令センターは混沌としている。至る所に赤いマークが浮かぶキヴォトス全土の地図が浮かぶ中央スクリーンを見れば、既に何らかの作戦が進行中であることは想像がついた。
壁一面のコンソールとシートに向かう多くの生徒達がそれぞれ矢継ぎ早に通信で各地と連絡と情報を処理し、見上げる階層一番上の指揮所ではミレニアムの生徒会長、調月リオと思しき人物と連邦生徒会長代行の七神リン、そして先生が話し合っているのが見えた。
こちらに気づいた先生が、最上段発令所から大きく手を振ってくれている。ヒフミ達は先生に両手でふりかえし、思わぬ再会を喜んだ。
それぞれの部署が分析して最寄り地区の生徒会長を通じて指揮をしている……思ったよりだいぶ真面目でシリアスな状況だ。
階段を登り、視界に広がる指揮区画とその一角……SF空間に場違いなティーテーブルが用意された場所に、探し人の姿があった。どんな時でも優雅たれ……ということで即席で茶席が用意された桐藤ナギサ率いるティーパーティーの席だ。当然のように持ち込まれた専用にして愛用の椅子に座るのは、二人の生徒会長。
「あ、ナギサ様!! ミカ様!! すみません、どうしても気になって……押しかけちゃいました……」
「ヒフミさん、皆さんも……退艦をお勧めしましたのに」
「やっほヒフミちゃん、やっぱりじっとはしてられなかった?」
「はい……どうしても気になってしまって。何か力になれることがあるかもしれないと思って」
阿慈谷ヒフミは自分だけが安全地帯で『待つ』ということはできない少女だ。心を通わせた友達も、思いは同じだという信頼があった。ナギサがここで陣頭指揮までしなければならないような事態だというのなら、ヒフミは退くことなどできはしない。
「困りましたね……安全な所に居てほしかったのですが……」
「無理だってナギちゃん、そういう子なんだから」「……ですね」
そういう子なのだとわかっている……仕方ないなという顔で笑い合う二人。全部わかってますよ感出しているナギサ達であるが……ヒフミのすごくすごい裏の顔は全くご存知なかったりする。
想像もできませんよね、こんな優しい子が……あの『ファウスト』だなんて。
「何でも言ってください!!」「私も戦う、力にならせてくれ」「わ、わたしも!! がんばりますっ」
「ありがとうございます、皆さん……時にそちらの方々は、リンさんとカヤさんを助けてくださったヘルメット団の方々ですね?」
「「「う、うす……じゃなくて、はい」」」
「は、はぃ……あーえーと」
ラブちゃんガチ目の緊張。
マジで普通の距離感で話始めたヒフミ様にも驚愕だが、聖鉄骨の君がセットでいるとか聞いてなくて……MRS(ミカ・リアリティ・ショック)寸前だったりする。
なんとか耐えた。天下に名高い慈愛の君ご当人目の前ですからね。しかしナギサが椅子から立ち上がって近づいて来たので、そらもうガチガチのガチであった。
「ありがとうございます……皆さんの覚悟ある救助で4人の生徒が助かり、キヴォトスも大きな混乱を免れました……深い感謝を。そして、河駒風ラブさん」
「はぇぇ!? なんで名前!?」
「我が校の不登校になってしまった生徒の事は、何時も案じております……きっと何かの事情あってのこと、それをここで悪戯に聞き出そうとはいたしません、ですが」
「……あー、その」
「トリニティは貴女にも、皆さんにも門を閉ざしてはおりません。それを、覚えておいてほしいのです。この度の事でヴァルキューレには私から寛恕をお願いしようと思います……困ったことがあれば、復学の相談も含め、何時でも我が校を訪ねてきてくださいね」
そしてナギサはジャブジャブ・ヘルメット団一人一人の手を取って感謝の言葉を述べていった……。慈愛の君直々に手を取って、しかも慈しみのお言葉。ドロップアウト組にそんな劇薬投与したらオーバードーズで死ぬ。
「あ、あー……あー……やっちゃった……」
ミカ、うっかり座ったままだったので制止失敗、手遅れだった。
訓練されすぎた慈愛の君モードのナギサは自然体でそういうことしだすので、マジでヤバい。いきなりこんなことされたら脳が溶けるだろ!! ナギサが立ち上がった時点で察して「馬鹿な真似はよせ!!」と羽根を掴んで止めてくれるセクシーFOXがこの場にいないので、無事ラブ達はこんがり焼き上がってしまった。もう終わりだよ。
「ナギサ……様……そうまで言われちゃ、うちらも力にならなきゃね」
「いえ、無辜の生徒を戦いに巻き込むわけには……」
「やらせてよ。せっかくうちの家、ホバー挺も回収してもらえたんだ。燃料さえ入れればどこだって走れる……弾薬も抗争前提でイベント来たからフルロード。水陸両用挺の働きどころはあるでしょ?」
ラブ達のホバークラフトはミレニアム号がセイアの高級クルーザー百合園丸Ⅱと一緒に回収して、空いた爆弾庫、ペイロードに格納されていた。
……格納されてた筈の『中身』、どこにいったんでしょうね?
「やってやりますよナギサ様!!」「「うっす!!」」「や、やってやるぞ……」
これでナギサのためなら死をも恐れぬ屈強なヘルメット戦士5人の出来上がりだ、3分クッキングかよ酷すぎる。
「じゃあ皆でやれることをやりましょう!! 皆さんよろしくお願いします!! えっと、とりあえず何しましょう?」
「そうですね、ブリーフィングが必要でしょうか……久留島さん」
「はい、ナギサ様」「よしなに」「承ります」
声をかけられた瞬間、その場に気配が出現したカーテシー姿勢の久留島。彼女は城島ツバメ不在時には、ほぼ常にナギサが侍らせる秘書にして側近茶会生徒。そういやダチョウがいませんね? さっきまで警護で侍ってたような?
そして一通り説明を受けたヒフミ達は……驚愕。
キヴォトス全土への一斉攻撃、しかも成層圏からの質量兵器とかぶっ飛ぶよね。
「……これは、思ったよりも不味い感じ、みたいですね」
ブリーフィング内容だけでなく、作戦室に満ちる数多の声音を聞き集め、状況を既に整理しつつあったハナコは、キヴォトス自体が受けている攻撃について理解を深めつつあった。
これは侵略だ、明確に。まさかキヴォトスそのものへの攻撃だなどと。
「現在パワーオブドリーム砲と12使徒、空崎ヒナの混成部隊でタワーの落下に対して阻止攻撃中ですが、多数の同時攻撃を受けつつあり、居住者の居ないエリアには落着を許しています。現在第7波を迎撃、合計で11本、落着を許したのは3本です」
「POD砲、即5本も折っちゃうんだもんね……驚愕しちゃう……」
「驚きましたけれど、今思えばあってよかったと心底……いや、様子はおかしいんですけど……」
「というか迎撃できるものなの!? ダチョウとヒナはともかく、そんなぶっ飛んだレールガンどっから湧き出したのよ!! 捕まるでしょそんなの作ったら!!」
「合法だそうですよ」「うそでしょ!?」
ダチョウとヒナならまぁ……拳……やれるしやるか。という感じでいるラブちゃんでも流石に1200mmレールカノンは驚愕だった。不良の子に連邦法違反を突っ込まれるのあんまりだよ。
「あ……さっき鳥栖さんが言ってたPODって……」「うわ……マジ?」
「流石にあんな大きな塔を壊せって言われても……無理……」
「皆は殴って折れるのか、流石だ」
「えっと、なら今は働きどころがない感じでしょうか?」
「……いえ、現状でほぼ手詰まりならアプローチを変えてくるはず。ですよね? 久留島さん」
「その通りです浦和さん、未確認ですが『軍勢』が出現したという報告があります。これからその確認に威力偵察を行う予定です」
「威力偵察ですか? まさかそれでヒナタさんを? 一人では危険すぎませんか?」
「それこそ、うちらとホバークラフトの出番じゃないの」
「ヒナタちゃんはこの船の護衛かな、白兵戦仕掛けられても聖堂騎士がいれば安心だからね」
「私はミカさんが居ればと思いますけれど……聖なる鉄骨は船内だと使えないですから……」「ナギちゃぁん……」
「もしかして、ツバメちゃん達ですか?」
「そういうこと……そろそろ出発かな、皆と入れ違いになっちゃったね。どうかな?」
「はい、ミカ様。アポストル隊はまもなく発艦です。回線をお繋ぎします」
そうして久留島が目配せすると、コンソールを操作していた生徒がディスプレイにその様子を……。
< ふざけるんじゃあないですよ!! なんなんですかこれは!? なぜ!? なぜ!? 私がこんな、こんな目に!? こんな仕打ち許される筈がない!! がぁぁぁ!! ティーパーティー!! 散々こき使った挙句にこんな仕打ちが!! 許されるはずが!! ナギサぁぁぁ!! ミカぁぁぁ!! >
ダチョウ4匹に抱えられてミサイルの弾頭に詰められようとしている、古関ウイの姿が!!
「「「「「「?????」」」」」」
「なぁにこれ」「ウイさん!?」
ミサイルに人を詰める理由は2つ、制裁か移動かだ。そして罪なきウイのために用意された移動手段こそ……。戦術弾道ミサイル『アリーヴェデルチ君V2』の弾頭!!
古関ウイ、音速で大図書館への帰還の時!!
「繋いでください……その、本当に申し訳ないと思うのですが……ウイさんにはトリニティの大図書館で、とにかく急いで調べ物をしてもらう必要があるので……不本意なのですが……」
「ウイちゃん……ごめんねぇ……でも、大図書館とセットになってないと、正直ウイちゃんは戦力8割ダウンというか……ほんっとごめん……!!」
< ごめんで済んだらティーパーティーはいらないんですよぉぉ!! ユイ! 裏切るんです⁈ 私を⁈ >
< ごめんなさいウイさん……ナギサ様のご下命だから……それにウイさんなら平気な程度の負荷だから…… >
< そ ん な わ け ないでしょうが! >
12使徒はナギサの完全なる下僕、ダチョウの良心ことA2、緋色ユイも例外ではない。ダチョウに4匹群がられては抵抗など不可能、ウイは無事簀巻きにされてミサイルの弾頭に格納される運びとなった。
あんまりだ……ウイちゃん先輩が何したっていうんだよ。
慈愛の君と名高いナギサだが、実のところ地獄を共に生き延びてきた同学同級生は死ぬほど使い倒すタイプだったりする。
本来ナギサは一人で抱え込むタイプだったが、2年時にダチョウの飼育を始めてしまったばかりに、一人でどうにかなるわけない案件量に押し流されてきた結果……心から信頼できる友人達をこき使うことに抵抗がなくなっていた。大事な後輩達には慈愛の配慮があります、でも同級生は……その、これは私達の始めた物語ですから……死なば諸共ということで……。
茶会の盟友達、正実・シスフ・救護の同級生達……そして図書委員……例外はない。すまんな、本当にすまん……これはキヴォトス防衛の聖戦……非常時だから……。
リオと立てたナギサの作戦はこうである。
現状集まっている情報を元に大図書館に戻ったウイの指揮の元、シスフと共同し『色彩』関連の資料をかき集め、侵食や出現する敵勢力の情報の収集と分析をしてもらう。そのデータをミレニアム号総司令部と連携すれば突破口も見えるはず……というものだ。
この計画、歩く図書目録ことウイが大図書館に帰還しなければ使えない。しかしミレニアム号はこれから各地へ転戦しトリニティに向かうには時間がかかる。今は何よりもその時間が惜しい。
ヘリより速い移動手段があれば……その時、リオの「アリーヴェデルチ君があるわ」という一言で一同に電流走る。ダチョウを緊急展開させるための搭乗機構だったが、別に他の生徒を乗せてはいけないわけではない……。
そしてウイはあまり目立ってないが、かなりの強フィジカル勢である。アリーヴェデルチ君でローンチされても耐えられるタイプの生徒。
で す の で 。
ウイさん、飛翔してください……。
< あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! >
怒り狂うウイの抵抗虚しくアリーヴェデルチ君の弾頭は封印され、巨大なミサイルが、なんか魚雷発射管っぽい機構に装填されていく……。そういえば、そんな感じの謎の予算が計上されてましたね、リオ会長。
バカ程謎の予算が増えてたのって、発射管じゃなくて発射する魚雷ことミサイル、各地に配置する発射機付きアリーヴェデルチ君の量産費用だったんです? これにはユウカは横転、ノアもニッコリ(暗黒)ですよ。
< ナギサ様、アポストルA小隊はこれより威力偵察に向かいます。戦果をご期待ください >
「我が翼達。真実を知るため、我が目、我が耳となるよう求めます。ですが戦果よりも、何よりも……必ず全員無事に戻ること、いいですね?」
<<<< イエス・ユア・マジェスティ >>>>
ウイを積め終わったダチョウ達が、全く躊躇いなくスルっと続く別のアリーヴェデルチ君に乗り込んでいく様に、補修授業部もヘルメット団も驚愕だった。
いやミサイル掴んで移動するような連中だし……今更ミサイルに乗り込んで移動しようがまあ……その……。でも本当にそういう使い方しちゃうんだ……。
< CIC、こちら戦闘艦橋、火器管制。艦首魚雷発射管、1番、3番、5番。装填完了、目標セット良し、発射準備完了。会長、ナギサ様、よろしいでしょうか? >
< ナギサ、準備ができたわ。1番の子は気の毒だけれど、時間がないわ。覚悟を決めてもらう他にない >
生徒を犠牲にすることを許さない高潔なタイプの生徒会長なリオだが、アリーヴェデルチ君で生徒が射出されるのは犠牲の範疇ではないガバガバな計算だった。
絶対にこれダチョウの見すぎである、よくない傾向だよ。一応、志願ということになってるし。大図書館直行の移動方法を聞く前に承諾したのはウイだ。
流石にミサイル詰められるとは思ってなかったけどな、ウイちゃん先輩は。
速攻帰りたいと本人も今すぐとか言ったので、誰かのせいにしたいが自分の顔しか浮かばな……そんなわけないだろ!
「本当にごめんなさい……けれど貴女は3年生、部長。私達と共に、背負うべき責務というものがあります……貴女の献身をティーパーティーは忘れません。私達の良き友、ウイさん……どうかよき旅を……」
< 良い友は良き友をミサイルに積めて発射したりはしないんですよ! >
「そしてツバメさん、ユイさん、リョウコさん、イトさん、無事なる帰還を……それではリオさん、お願い致します」
< ええ。艦首魚雷発射!! 1番、3番、5番、サルボー!! >
「ゴッドスピード……ウイちゃん……」
< こんなバカなことが! ありえない! あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! >
< 1番、3番、5番発射ァ!! >
・魚雷発射管
戦艦ミレニアム号の艦首と艦尾に設置された発射管。
艦首に10門、艦尾に4門の合計14基の猛烈な重武装。
魚雷発射管とか言っているが、実際に発射するのはミサイルである。一応規格の合う魚雷があれば発射できるかもしれませんけど……こんなクソデカい魚雷とか何に使うんです? そもそもミレニアム号は飛行船だよ、空飛んでるんだよ。
しかも使用されるミサイルはそこらの貧弱な代物ではない、アリーヴェデルチ君なんですよね。すごいですよ!! なんと一斉射で14発も発射されちゃうんですね!! 炸薬量合計14トン!! 小さめの自治区が無くなってしまうよ!!
ミレニアム級戦艦2番艦マアンナ号の改装計画予算に混ぜる形で計上されていたが、マアンナ号が連邦への引き渡しの際に武装削減されるに当たって1番艦のミレニアム号に装備搭載がスライドした。ついでに高機動ミサイルシステムである本来のアリーヴェデルチ君(アバンギャルド車体)の量産費用もこっそりと混ぜた。もちろんノアにはバレた。
一体いつこんなもの搭載して……答えは特殊作戦デカグラマトン、シーズン1終了後。実はこの他にも人には言えない秘密の追加装備が色々あって……ウタハがミレニアム号につきっきりなのは、船を稼働させながら改装をし続けているからだったりするそうですよ。