瀬戸内攻防   作:坂ノ下

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第1話 内海のガーデン

 夜の帳が落ち切って漆黒に染まった水面。平素なら極めて静粛、極めて穏当なはずのその水面に、音を立てて飛沫が上がっていた。

 三隻の船が水を掻き分け進む。それらは肉眼で輪郭が何となく確認し合える程度の間合いを空けて横一列に並んでいた。比較的大振りなものが中央に、その左右を小振りな二隻が挟む形で。

 中央の大振りな船、6000tクラスの船体の中に開けた空間がある。横幅が広いのは勿論、天井も船内にしてはやけに高い。そうする理由がこの空間にはあったのだ。

 高い天井に灯る眩しいライト。その割には薄暗い空間の中で、壁を背もたれに立つ少女が俯けていた顔を持ち上げる。

 

「そろそろか」

 

 時計を確認するでもなくそう呟くと、癖の強い外ハネの黒髪を肩下まで伸ばした少女は背中の壁から離れて歩き出す。向かう先にあるのは全高5mばかりのシルエット。卵型にも似た丸みを帯びた胴体から両腕と両脚を生やした歪な型。

 首の無い人型の後ろに回った少女はそこで金属の固い床を軽く蹴った。ふわりと舞い上がった肢体は楕円体の後方下部、人で言うところの腰かお尻の辺りに達すると、片手で取っ手を掴んで取り付きながら反対の手でレバーを操作する。すると重たい駆動音の後、楕円体の腰裏部分が外倒しに開いた。開いた先には人ひとり潜れるスペースがあり、少女はそこからこの物体の内部へと潜り込んでいった。

 ちょうどその時、船内に低い女性の声が響き渡る。

 

「本艦はこれより警戒海域へ進出する。総員戦闘配備。LG(レギオン)ディオネ出撃用意」

「もう来てますよっ、と」

 

 当たり前だが、艦内アナウンスに返事をしても反応は無い。少女は潜り込んだ人型内部の座席に座ると、手元の計器類に目を落としつつレバーやスイッチを弄っていく。

 すると今度は艦内スピーカーではなく、人型内の通信機から音声が流れてくる。

 

「あっ、隊長はや~い」

「隊長だからね」

 

 幼い声色の若干たどたどしい日本語に相槌を打つ。

 

「今のところ進路上に敵影は無いそうです。楽な仕事ですね、(おか)に上がるまでは」

「そうだねえ」

 

 先程のものよりは流暢だが、やはりネイティブとは違う声。

 

「四人揃っておりますわ、真緒(まお)様」

「うん、分かった」

 

 そしてこちらは正真正銘日本人による日本語。

 癖っ毛の少女はそれから間を置いて、艦の方へと通信を入れる。

 

「LGディオネより戦隊司令へ。ディオネ01から04出撃準備完了」

「戦隊司令、了解した」

 

 更に間が開いて、再び艦内アナウンス。

 

「作業要員退避確認。ドック注水開始、ドック注水開始」

 

 天井や壁の複数箇所で赤い警告灯が回転し、警報サイレンが木霊する。かと思えば大部屋の床に水が溜まり始めた。船体外の海水を注入しているのだ。

 やがて人型の膝まで水かさが増したところで、船体がぐらりと揺れる。

 

「艦尾ハッチ開放、艦尾ハッチ開放」

 

 大部屋を構成していた壁の一面が外倒しに開いていく。密室から解き放たれても差し込んでくるのは太陽の光ではない。今は夜。星が微かに瞬く暗黒の空と、底の見えない海面が視界に広がるばかり。

 

「AUV一番、発進!」

 

 オペレーターの指示により、少女たちが搭乗する人型よりも先に涙滴型の無人潜水艇が出撃する。専用のレールの上を滑り、若干の傾斜がついた艦尾発進口から外の海へと飛び込んだ。

 

「続いてLGディオネ、発進どうぞ!」

「了解」

 

 縦一列に並んだ四体の人型が動く。

 少女(リリィ)たちが乗り込む歩行型装甲兵器、それがLily's Armored Cavalier(リリィズ・アーマード・キャバリア)。通称LAC(ラック)

 鋼鉄の鎧は太く短い三本指の足で浸水した艦内を進み、ハッチからその身を海原に向けて傾けた。

 

「ディオネ01、出るよ!」

 

 アンブロシア女学苑高等學校所属、LGディオネ。最前線たる瀬戸内の海に出撃する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日前。中国地方香川県小豆(しょうど)島。

 瀬戸内海は大小700以上の島から成る多島海だ。中でも播磨灘の西に浮かぶ小豆島は淡路島に次ぐ面積を誇る。ヒュージの襲撃が低調の上に周辺陥落地域からの人口流入も相まって、人口も万を優に超えた。このご時世にありながら、ささやかだが商業施設やレジャー施設まで増えている。

 この小豆島では中国地方奪還に向けた中継拠点として国防軍が早くから基地整備や港湾機能の強化を進めてきた。そしてヒュージと戦うのだから、当然ガーデンもまた進出してきている。

 小規模ながら造船所も存在する島の南部。市街からはやや離れたとある建物の中、汚れの少ない白塗りの天井と白塗りの壁に囲まれた会議室にて、部屋の塗装に負けない純白のセーラー服と鮮やかな青のスカートを纏った少女たちの視線が前方の演台に集まる。

 

「さて皆々様方、短いバカンスの時間はおしまいですわ」

 

 演台の前に立つ者も同じくセーラー服姿だった。尊大さすら感じさせられる悠然たる物腰で弁を振るう彼女は神戸のガーデン『アンブロシア女学苑高等學校』の生徒会長、三年生の森下雅枇(もりしたみやび)という。

 雅枇の発言に対して、わざとらしく「えぇーっ」と野次を飛ばす数人は同じ三年生たちだろう。一方、口を引き結んで顔も引き締めている残りの多くは一、二年生である。

 

「海水浴もロープウェイも十分満喫したでしょう?」

「まだ雅枇とデートしてないんだけどー」

 

 数十人居るリリィの中から会議室の最後列に座り込む癖っ毛の黒髪が茶々を入れた。下村真緒(しもむらまお)。三年生。とある特殊なレギオンの隊長を務めており、それと同じぐらい人となりも特殊であった。

 

「真緒」

 

 雅枇は自身のくすんだ金髪を軽く掻き上げながら、細めた両の目で射抜くような視線を向ける。

 

「この作戦で抜きん出た働きを示せば、一晩ぐらい付き合ってあげてもよくってよ」

「それは……奮起せざるを得ない理由ができてしまったね」

 

 そんな二人のやり取りを目の当たりにした何人かは「またやってるよ」と言わんばかりに肩をすくめたり笑いを嚙み殺したりしている。お決まりの風景と化しているのだ。雅枇に軽くあしらわれるところまでを含めて。

 そうやってリリィたちの気が抜けてきた後、雅枇が生徒会長としての顔に戻る。

 

「では本題ですが、我らアンブロシアはここ小豆島より更に西方、直島(なおしま)奪還に向かいます」

 

 直島は小豆島と同様に香川県に属する島だが、距離的には中国地方の岡山県に程近い。大規模な金属製錬所こそ抱えているものの、取り立てて要地というわけではなかった。ヒュージ侵攻以前は。

 

「現在、彼の島の中央部にある貯水池にヒュージネストが根を張っています。これはギガント級を主とする小規模ネストですが、ここから出撃したヒュージ群が、奪還中の山陽地方沿岸部に被害を及ぼしているのです。特に港湾施設への襲撃は、海路による補給活動の妨げになるでしょう」

 

 ヒュージの侵攻によって陥落指定地域とされた中国地方奪還のため、西からは九州の諸ガーデンが、東からはアンブロシアを中心とした関西のガーデンが攻勢を仕掛けている。

 またガーデンだけでなく国軍たる日本国防衛軍、国防軍――防衛軍とも称される――も作戦を展開していた。奪還地域の復興や維持・防衛には軍の力が不可欠なのだ。

 そこで問題になってくるのが兵站である。軍需物資は勿論のこと、陥落指定地域に対する民生支援も必要になる。そのために瀬戸内海を通しての海上輸送が占めている役割は大きい。

 

「作戦は、まず第一段階として海上機動戦隊隷下のLGディオネが島東部の海岸線に強襲上陸、東部からネストのある中央部に陣取る敵を撃破。続いて第二段階、ディオネにより降下地点周辺を確保した後、三個レギオンをガンシップから降下させてネストを一息に討滅。そして最終の第三段階、海上機動戦隊から残りの戦力を揚陸させ同島内の残敵を掃討、国防軍部隊の到着を待ちます」

 

 それはアンブロシアの島嶼部奪還戦術の基本に倣ったものだった。とは言えその戦術自体、生まれてからまだ日が浅い。実戦の中で改善点が見つかることもあるだろう。

 

「作戦計画の子細については今晩にも配布します。各自必ず目を通し、再度の作戦会議に臨むように」

 

 結局作戦は大きな修正を加えられないまま決行日を迎えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真っ黒な夜の海中に四つの航跡が伸びている。真緒の乗る機体を先頭に菱形フォーメーションを組むLACたちの仕業であった。

 深緑に塗られた四機のLACは頭頂部――LACに頭はついてないが――を進行方向にかざす格好で、水底に対しうつ伏せの姿勢で水中を突き進む。

 LAC登場初期の機体に比べれば幾分かスペースに余裕のあるコクピット内で、真緒は近距離通信を入れる。

 

(はな)、状況は?」

「先行するAUVによる索敵でも、やはり東部海岸線付近のヒュージは疎らです。上陸は容易かと」

「……その分、島の中央と北部に集中してるんだろうね。なるべく誘き出して叩かないと降下部隊の支援にならないけど。まあ、ドンパチ始めたら嫌でも寄ってくるか」

 

 内海の凪いだ水面の如く穏やかな声を返してきたのは、癖っ毛の真緒とは正反対のストレートの長い黒髪を持つリリィ。石本華(いしもとはな)、二年生。戦闘では主に索敵を担当する。

 

「真緒様、結局我々はどこまで前進するのですか?」

「地図を見れば分かる通り、大きな島じゃないからね。海岸線と、近くの港町でヒュージを迎え撃つよ。あまりネストの方へ進むと藪蛇になりかねないし」

「そうですか」

 

 真緒に方針を問うたのはディミトラ・ディノクラティス、二年生。濃い栗色(ブルネット)の髪をセミショートに伸ばしたギリシャからの留学生だ。真緒と共にディオネの前衛を張っている。

 

「たいちょ――――たい――――」

「ユニカ、無線が聞こえない。コア感度上げて」

「私だけお荷物引っ張ってるからだよー!」

「そんな、電磁波放つような物じゃないんだから」

 

 最後尾の機体に乗っているのはユニカ・ラーホーリー、一年生。褐色肌とロングの赤毛が特徴的なインド出身のリリィである。後方からの援護射撃を得意とする。ちなみに彼女の機体はワイヤーによって二つの直方体を牽引中だった。

 以上の四機四名に加え、この場に居ないリリィ五名とアーセナル八名がLGディオネのメンバーだ。総勢十七名の大所帯、専属のアーセナル(技術者)を大勢抱える異色のレギオンだが、LACという兵器を部隊単位で運用するには、このぐらいの体制が不可欠であった。

 そしてこのディオネと三隻の艦船から成る部隊が、アンブロシアの島嶼部奪還部隊構想に基づき編成された『海上機動戦隊』である。

 

「待機ポイントに着いたね。全機停止、警戒待機」

 

 真緒の指示により脚部と腰部のハイドロジェット推進を停止させた四機は徐々に減速してから水中で静止する。この推進器は高速航行に有用な一方で燃料効率の問題を抱えていたが、リリィの操るLACの場合はマギによって解決できていた。

 停止後、母艦の戦隊司令とやり取りした真緒がまた仲間たちに通信を入れる。LACは通常の水中音響通信の他、マギクリスタルコアを介した近距離通信も可能としていた。

 

「予定通り、上陸開始は戦隊の支援射撃後、0(マル)5(ゴー)1(ヒト)5(ゴー)。各自、腹ごしらえは今の内にね」

 

 長期の作戦行動が予想される彼女らはLACのコクピットに食料を幾分か持ち込んでいる。またスカートの下には大人用のオムツを履いているのも同様の理由によるものだ。この辺りは遠隔地へ外征に向かうレギオンにも同じことが言えた。

 

「でも……バリッ……ヒュージ少ないなら……ボリッ……私らでネストぶっ潰しに行けば……ムシャ

 

 そんなユニカからの雑音交じりの通信に、ディミトラが噛みつく。

 

「私たちではギガント級を倒せないんだから仕方ないでしょう。あとビスケット食べながら喋るんじゃありません」

「うぇ~い」

 

 ギガント級以上を撃破するには、リリィ九人による連携必殺攻撃が無ければ厳しい。

 

「ふふっ、わたくしたちもノインヴェルト戦術を導入してみます?」

「あー……、LACがあと五機要るねえ。工廠科とかが悲鳴を上げるよ」

 

 華の提案を実行しようとした際に生じるであろう諸々の反応を想像し、真緒はコクピット内で苦笑するのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 古式ゆかしい民家が立ち並ぶ狭間を、センターラインの無い手狭な道路が乱雑に走る。早々に突き当りとなる隘路もポツポツと交じっていた。本土で見られるようなビル群は勿論無い。役場や公民館がこの町の中でも壮麗な部類に入るだろう。

 そんな町の外周を県道横切り、県道の向かい側は石垣がそびえ立つ。そこから石段やスロープを下った先には砂浜が広がっていた。海水浴場というわけではなく、さして奥行きも無いレジャー設備も見当たらない小さな砂浜だ。

 潮が引いて湿った土が露わとなった海岸線に、三本足が足跡を作っている。亀や蟹の類などでは決してない。何故ならそれらは、全高3mを超えた鈍色の体を揺らしてたからだ。

 異様な光景だった。そんな奇怪な生物が町中にも砂浜にも複数体蠢いていた。道端に無造作に放置された軽トラが動くことはないが、その生物たちは鉤爪みたいな三本足を駆動させて我が物顔で徘徊していた。

 東の空が輝きを増していく中で、朝焼けをバックに人口の光が幾つも灯る。光は白煙の尾を引き、見る見る内に島へ迫ると、奇怪生物の湧く海岸線に突っ込み爆炎を上げていった。

 それから時を置かずして、砂浜に程近い水面の上に水柱が立ち昇る。中から丸みを帯びた深緑色の体が姿を現し、二本の足で海岸の傾斜を登り始めた。数は四。その中の先頭が胴体上部の左右にマズルフラッシュを灯しながら重低音を掻き鳴らすと、生き残っていた奇怪生物が甲高い金属音を響かせて倒れ伏した。

 

「ガンシップ到着予定時刻まで50分。それまでに海岸部と東部集落を制圧するよ」

 

 コクピット内でそう宣言した真緒はフットペダルを踏む右足に力を込める。操縦者の操作に従い、機体は波打ち際から内陸方向へと進軍を続ける。

 LACM-03ベストラ。北欧のチャームメーカーであるユグドラシル社と日本の天津重工が共同開発した水陸両用LACだ。本格的な量産型水陸両用機としては世界初の機体であり、レギオン単位での実戦運用も彼女らが世界初である。

 

「真緒様、ヒュージの集団が複数個、島中央部からこちらに向かって移動を開始しました」

「もう反応したか。ディミ、一旦海岸線で迎撃。華とユニカはコンテナの回収を急いで」

 

 華の報告を受け取った真緒はディミトラと共に機体を更に前へと出していく。その後方では、二機のベストラが砂浜に打ち上げられた直方体のコンテナの元に集まっている。このコンテナこそ、ここまでユニカ機が曳航していた二つのお荷物であった。

 

「10時、1時方向よりスモール級12!」

 

 再び索敵報告。今度は大分差し迫っていた。見れば、町へと続く前方の石垣の上から四つ足の異形がこちらを見下ろしていた。

 そこへ前衛二機の胴体左右に発砲炎が煌めく。機体に内蔵された30mmチェーンガンの一連射はそびえ立つ石垣の表面を粉砕すると共に、その上の異形を撃ち抜き細長い四肢をもぎ取った。

 苛烈な弾幕を浴びて半数近くが動きを止めがらも、残りは真緒たちへ襲い掛かる。真っ先に石垣を飛び降りた異形は5m下の砂地に降り立った直後、後ろ足をバネの如く跳ね上げて真緒機に飛びついた。長い頭部の先に生やした二本の牙が深緑の装甲に突き立てられる。火花が瞬き、怖気の走る不快音が嘶く。

 しかしベストラを、リリィを包む鎧を貫くことは叶わず、首根っこを五指のマニピュレーターに捕まれた異形は地面に叩きつけられた上、腕を振り下ろされ頭を潰されてしまう。更に新たに真緒機へ迫ろうとした二体が、近付く前に銃撃を受けて崩れ落ちた。

 戦闘に割って入った華とユニカの機体は右手に銃を握っていた。緩やかに湾曲したバナナ型マガジンを本体に上向きに取り付けたその銃は、内蔵火器と口径を同じくする30mm突撃銃。手持ち故に取り回しに優れており、他のLACにも広く使用されていた。

 

「真緒様とディミも、銃を」

「ありがと」

 

 華の機体が運んできたもう片方のコンテナを二人の傍へ置く。コンテナはウェポンケースだったのだ。こうして四機が所定の火力を得ることとなった。

 

「敵のお代わりが来ないな……。華?」

「……ヒュージの第二派は未だ東部集落内を侵攻中。こちらはミドル級主体の群れのようです」

「連携が取れてないパターンか」

 

 陸の方では戦術的な動きをとるヒュージに苦戦中と聞くが、この直島では今のところ無用な心配であった。

 

「真緒様、意見具申!」

「よーし、分かった。今すぐ打って出よう。各個撃破だ!」

「了解!」

 

 案を聞く前にディミトラの提案を採用した真緒は前進の指示を出す。

 両脚の関節を折り曲げた四機は次の瞬間、背中のバックパックから白煙を吐き出して辺りの砂を宙に巻き上げた。飛んだのは砂だけではない。身の丈5mの鉄の塊もまた、前方の石垣を悠々飛び越えて道路のアスファルトに着地する。脚と腰の推進器が水中用なら、背中のものは地上で使う化学ロケットだった。

 石垣の上の南北に伸びた道路、島の主要道路である県道に出たリリィたちはすぐに新たなヒュージを視認する。背の低い建物が多く鈍色の装甲が見え隠れしていたからだ。故に華よりも先にディミトラが敵発見の報を入れる。

 

「テンタクル種オルビオ型を確認」

「こいつらどこにでも居るなあ。もう飽きたよぉ」

 

 うんざりとしたユニカの発言に真緒も同意するところだが、しかし見つけた以上は殲滅しなければならない。

 

「華、引き続き『鷹の目』で索敵を。ディミ、ユニカ、町中の敵を殲滅するよ」

「了解しました」

 

 ヒュージの方も敵の位置を認めたのか、遠く家々の狭間に光が瞬いて青白い光芒が幾本も奔る。ディミトラ機のすぐ脇の民家が屋根瓦を弾き飛ばし、白塗りの壁に穴を穿たれた。ヒュージの熱線攻撃だ。

 忽ち町が砲声と砲火に彩られる。鋭く高い光線の発射音があちこちに乱れ、時折重く低い実体弾の発砲音が響く。

 

「射界が取りたい。華、ルートは?」

「少々お待ちください」

 

 ディミトラが尋ねると、少しして全員の機体にマップ情報が送信される。コクピット内のディスプレイに東部集落内の地形に加え、敵味方の存在が光点として表示された。華の鷹の目は広範囲の俯瞰視野を得られるレアスキルである。

 

「南周りで迂回し敵の側面から衝きます」

「分かった。ユニカも付いてって。私はここからヒュージを引き付ける」

 

 二機が県道沿いに大きく回り込むように動き出し、真緒機も宣言通り役割を果たすべく前方に突撃銃を構える。構えたまま機体を横にずらして民家の陰から出ようとすると、複数方向より熱線が殺到してきた。その内の幾本かは命中コースだったが、ベストラの丸みを帯びた胴体によって弾かれた。光線相手に被弾経始も何もないが、それとは関係なくLACというものは堅固であった。

 

「そのままこっち向いてなよ」

 

 真緒はコクピットのモニター越しに敵と目が合った。足踏みで庭を掘り返され屋根の瓦を半分ほど落とした民家の陰に、三角状に並んだ青い光点が三つ妖しく光っていた。それが本当に目に相当する部位なのか未だはっきりと分かってはいないが、球状胴体の中心に位置するそれは少なくとも重要な器官であるのは間違いない。

 静かなお見合いの時間は、ほんのひと時。すぐさま銃声が轟き崩れかけの民家に粉塵が立ち込める。突撃銃の弾倉を一つ使い切ったところで、粉塵の中に赤い炎が噴き上がった。

 しかしややあって、またも熱線が飛んでくる。勢いが衰えているようには感じられない。あとからあとからヒュージが寄り集まってきているのだろう。真緒たちの思惑通りに。

 弾倉を交換しながらじりじりと後退し始めると、いよいよ敵の攻撃が苛烈さを極めてきた。一つの方向から同時に五本・六本と熱線が伸びてくる。まだ薄暗い港町に青白い光が飛び交って、白昼の如く辺りを照らす。

 退く獲物を追い掛けようとヒュージたちが家屋の陰から身を晒した。三本足を駆動させてぞろぞろと路上を進軍するオルビオ型の集団が、三つの目を三角状にぐるぐる回転させ熱線を放ってくる。狭い道路に縦一列ずらりと並んだその時、最後尾のヒュージが攻撃を受けた。横合いから銃撃を浴び続け、支える足の力を失くした球状の体がアスファルトの上に落ちる。

 

「配置完了。いつでもいけます」

「よし、一気に仕掛けるよ。……レジスタ!」

 

 ディミトラからの迂回完了の報せを待って、真緒がレアスキルを発動させる。ベストラを動かすマギがレジスタによって研ぎ澄まされて、放つ弾丸が鈍色の装甲をいとも容易く貫いた。逆にヒュージの熱線は強化された防御結界にあっさりと阻まれる。これがレアスキル『レジスタ』の効果の一端。真緒本人とこの場に居る三人の仲間が強化される。LACはそれ自体が一つのチャームなので、レアスキルの恩恵がちゃんと得られるのだ。

 二方向四機から容赦の無い十字砲火を受けて、ヒュージが次々に火を噴いていく。ところがその中に一体、命中弾を片っ端から弾く者が居た。同じテンタクル種だが、楕円状のフォルムをした三重の装甲を纏っている。

 

「ディアマントか。アレを使うほどじゃないけど……」

「私がやります、真緒様。援護してユニカ」

「はーい」

 

 そう宣言するや否や、ディミトラ機が銃撃を止めて走り出す。

 踏み付ける度に道路を震わせ迫る相手に、ディアマント型は熱線を使わず、装甲の隙間から黒ずんだ凶器を射出した。どう見ても「中に収まらないだろ」と言いたくなるほど長いそれは、チューブパイプの如きヒュージの触腕だった。その触腕が四本、向かってくる敵を貫き、あるいは叩き伏せようと、ディミトラ機の四肢を狙って伸びる。

 ところが触腕は目的を果たせず、ことごとく撃ち落されてしまう。突撃銃の単発射撃によって。

 

「ほい、ほいっと。ヒット!」

 

 ユニカのお気楽な掛け声の中、ディミトラ駆るベストラはディアマント型の目前に肉薄した。敵は三本ある鉤爪のような足の内の一本を振り上げ、鎌のように振り下ろしてくる。

 そこへベストラの火砲が解き放たれた。右手の突撃銃と、胴体上部左右のチェーンガン。三門の銃口から30mm弾のシャワーを至近距離でかぶり、レジスタの強化弾に耐えた重装甲も流石に撃ち抜かれた。

 

「ミドル級はこれで全部。各機、散開して集落内のスモール級を掃討。待ち伏せには注意して」

 

 降下部隊到着まで、残り30分――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 元の住人が避難し無人と化していた町の中、ひとしきり鳴り響いていた銃声が止んだ。小さな漁港の町ゆえに、潜むスモール級を撃破して制圧するのに難儀はしなかった。ただ入り組んだ道路事情のため、追い掛けて仕留めるのに少々時間が掛かってしまった。

 

「さてと、じゃあ最後の問題は……」

 

 真緒は搭乗するベストラごと西の方角を向く。町の隣、島中中央部まで広がる森林地帯に、機載したヒュージサーチャーが大型ヒュージの反応を捉えていた。

 

「ちょうどガンシップの進路上に居座ってます。小高い丘の上、後背は切り立った崖。絶妙な位置取りですわ」

「うーん、降下中に狙われるのは厄介だな。取り巻きを連れてないのが幸いか」

 

 鷹の目で見た華によると、問題のヒュージはバスター種のラージ級。攻めてくる気配は無いらしく、その場でじっと待ち構えているらしい。対ヒュージセンサーであるサーチャーは便利だが、詳細な情報を得られるのが鷹の目の強みであった。

 ディオネの面々はラージ級を目視できる地点まで移動する。確かに居た。山林の緑に囲まれた空間に、全高8m全長10m超のドームが鎮座していた。勿論ただのドームなどではなく、下部には短い三本足、側面には鋭い三本爪を生やした腕も持つ。カステロ型というヒュージだった。

 高所を陣取る敵に対し、真緒のベストラが銃口を上に傾けて引き金を引く。弾丸は外しようもない大きな目標に全弾命中するものの、ドームの表面で全て弾かれてしまった。そのドームはもぞもぞと巨体を揺らすと、胴体を上下に開閉させる。

 

「散開!」

 

 展開を分かっていたかのように真緒が叫ぶと、分かっていたかのように全員のベストラが散った。直後、開いたカステロ型の胴体内から黒色の砲が伸び、これまで島内で遭遇したヒュージたちとは比較にならない熱線を放ってきた。青白い光の奔流は道路のアスファルトを瞬時に溶かし、その下の土砂を深々と掘り返す。

 左右に別れた四機は足を動かしながら高所の敵砲台に銃撃を加えるが、効果は見込めず反撃の熱線が降り注ぐばかり。

 

「もうすぐ降下予定時刻です!」

「……取っておいたアレを使おうか。全機、魚雷発射用意」

 

 ディミトラからの通信の後、真緒は予定通り行動に移る。彼女らはヒュージの砲撃から闇雲に逃げ回っていたわけではない。攻撃に適し、なおかつ味方機からある程度離れた位置まで移動していたのだ。そこで四機全てが立ち止まり、左腕をカステロ型へとかざす。

 

「発射」

 

 ベストラの丸みを帯び膨らんだ前腕部。上下に二つ並んだ発射口のカバーが開き、内部に搭載された魚雷が飛び出した。四機合わせて八発の弾頭はロケット推進によって宙を翔けると、巨砲を振りかざす巨体へ複数方向から襲い掛かる。300mm魚雷を多数叩き込まれて爆発に呑まれ、さしものラージ級も辺りの木々を巻き込み崩れ落ちるのだった。

 

「間に合った……間に合ったよね?」

「間に合ったー!」

 

 真緒が機内の時刻表示も見ず祈るように呟くと、ユニカから元気の良い答えが返ってくる。

 ちょうどその時、三機の航空機が朝焼けを伴って東の空に現れた。

 

 

 







Q.これアサルトリリィでやる必要ある?

A.ないです。
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