瀬戸内攻防   作:坂ノ下

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第2話 取り戻すべきもの

 アンブロシアのリリィたちは丸二日かけて直島島内に蔓延るヒュージを全て駆逐し、島の支配権を奪還した。降下部隊が島中央部のネストを破壊して以降は、ヒュージの屯するポイントが限定的だったためスムーズに事を運ぶことができた。現在は既に後続の国防軍部隊が上陸しており、必要な施設の設置を進めているところである。

 復旧作業は島の西部を起点としていた。初めに制圧した東部の港は小型船向けの小規模港だからだ。大きさで言えば北部の製錬所に併設された港が最大規模だが、こちらはヒュージの攻撃で損壊が激しく復旧は後回しにされた。

 直島西部、港湾から程近い海上に今回の奪還作戦の立役者とも言える艦隊が錨を下ろしている。両翼を固めている二隻の2000tクラスの船は、国防海軍で運用される()()型哨戒艦をアンブロシア向けに改装したものだった。ギリシャ神話の海の女神ネレイデスをシンボルにする同校らしく、それぞれ『ネレイド』『ナイアド』と命名されていた。

 そしてそれら護衛艦の中央に位置するのが旗艦。後部甲板にVTOL式無人偵察機の発着場を備え、艦尾にウェルドックを有する6000tクラスの軍艦。彼女ら海上機動戦隊の中核たるLAC運用母艦『ルヴェリエ』だ。

 現在ルヴェリエのドックでは、任務を無事に果たして帰還した四機のベストラが整備を施される最中だった。

 

「真緒」

 

 ドック内キャットウォークの手すりに寄り掛かって愛機の整備を見下ろす真緒に、横から声が掛けられた。心なしか冷たく棘のある声だ。ちらりと視線を向けると、セーラー服の上からアンブロシア工廠科の証であるグレーの上衣を羽織った少女が立っていた。長身だ。そのショートカットの茶髪は真緒の頭よりも高い位置にある。

 

「マニピュレーターに異常に負荷が掛かってるんだけど?」

「あ~~~、そう言えば何度か殴ったかも」

「殴ったぁ!? ヒュージを!? 素手で!?」

 

 訝しむように潜めていた瞳を一瞬にして吊り上げた横河美月(よこがわみつき)、LGディオネ副隊長にして同部隊アーセナルのまとめ役。真緒と同学年(タメ)の三年生である。

 物を保持する手指が如何に重要で複雑な部位なのかは分かるのだが、しかしパイロットして真緒にも言い分があった。

 

「だったら何か武器ちょうだい。鎖の先に鉄球つけてぶん投げるやつとか」

「それはぶつけられる方なんじゃ?」

「鎖引き千切りそう」

 

 冗談も程々に、真面目な話に戻る。

 

「実際問題、新しい武器持たせる余裕が無いのよね。アサルトライフルだって、水中戦で邪魔になるからわざわざ別枠で曳航させてるわけだし」

「あれ本当不便なんだよね。どうにかならなかったの?」

「まあベストラは初めての実戦用水陸両用機だから。色々洗練されてないのは仕方ないのよ」

 

 洗練されてないのは機体や武装だけでなく、戦術もそうである。パイロットを除く五名のリリィは今回のような強襲上陸作戦時にはLACと歩調を合わせられない。遅れて舟艇を用いて合流することになるのだが、それまでは艦隊にて待機となる。

 

「けど、この問題は当然ユグドラシルと天津の開発陣も把握してるから」

「それってつまり……」

「ゴホンッ……はい、この話はおしまいね」

「ちょっとー! 気になるなあ、もう」

 

 二人のそんなやり取りの下で、整備は続く。溶接面片手に溶接機で火花を散らしたり、外装を開いてアクチュエータを弄ったり、クレーンを操作し交換パーツを運んだり。

 ディオネに所属するアーセナル八名は美月を含め、基本的に()()()()()()()()()だった。その半数はリリィではなくマディックである。もしも艦がヒュージに取りつかれた際は戦闘に加わるが、通常は整備に専念することとなっていた。

 

「もう少しで整備も終わるから。そしたら陸に上がりましょうよ」

「ん、何かあったっけ?」

「軍が海の駅やってる。自前の売店を持ってきただけでしょうけど」

「じゃあ折角だから外で食べようか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 直島西部の港は東部の漁港よりは大きいとはいえ、本来フェリーや旅客船ばかり運用していた場所だ。港湾設備の関係上、その荷揚能力はたかが知れている。それでも陸の店舗がいち早く開かれたのは、前線における娯楽の重要性を示していた。

 コンクリートの護岸に囲まれた埠頭の一角に海の駅が立っていた。広い駐車場に、瀬戸内海を臨む一面ガラス張りの壁、そこにカフェや軽食堂や土産物屋が同居した憩いの地。もっとも、ヒュージ侵攻によってそれらを管理していた者も避難しており、今は国防軍が運営会社から買い取って売店を出していた。

 

「結局あの話はどうなったのよ?」

「あの話って?」

「とぼけちゃって。会長とデートの話」

「ああ、うん……。『ヒュージの誘引が今一つ』って、流された」

「知 っ て た」

「くっそーっ……」

 

 海の駅のホールには広々とした休憩スペースがある。簡素なテーブルを前にして、簡素な長椅子に真緒と美月が隣り合って座っていた。真緒が眉根を寄せながらテーブルに突っ伏すと、美月が笑い声を噛み殺し切れずに漏らす。

 海の駅には二人以外にも多くの人が訪れていた。陸海軍の軍人や、他のレギオンのリリィ、海上機動戦隊の艦隊乗組員などが交代で息抜きに来ているようだ。ただしその中に元々の住人の姿は見えない。

 

「町が元通りになるまで、どれぐらい掛かるかな」

「そうね……まず軍が防衛体制を作って、それから各お役所が諸々の調査に入って、それから初めて帰還希望者を募るから。簡単にはいかないのは確かでしょう」

 

 美月の言う通り、ヒュージを追い出しておしまい、とはならない。特に島嶼部の場合は復興に一手間も二手間も掛かる。余程の僻地だと、市民の帰還が許されずにそのまま集落としては放棄される可能性だってあるだろう。

 

「私は、知らない町を見るのが好きだから。船に乗って港に寄って。だから元通りになってもらわないと困るな」

「真緒らしいわね。分かるけど」

 

 会話の間にも二人はトレイの上に並べられた昼食をつつく。レトルトのカレーに乾燥サラダにパイナップルの缶詰、先程売店で仕入れてきた品々だ。母艦に帰ればもっと良いものが食べられるのだが、船の中で食べるのと陸の上で食べるのとでは色々違ってくるのである。

 

「でも貴方みたいなのばかりでもないのよね」

「何が?」

「生徒たちの中には、神戸に帰りたがってる子も出てきてる」

 

 美月もそうだが、真緒だって地元神戸出身のリリィだ。気持ちは分かる。

 

「そりゃ確かに神戸みたいな都会じゃないし、食べるところも遊ぶところも少ないけどさあ」

「そっちもあるけど、それだけじゃなくて。皆、地元が心配なのよ」

 

 神戸のお隣、京都南部は激戦地だ。更に隣県の琵琶湖から強力なヒュージが度々侵入を図っており、アンブロシアは京都のガーデンと連携して迎撃に当たっていた。今すぐ京が抜かれるということはないはずだが、あまり気を抜いてもいられない。そんな中での瀬戸内海外征とあって、当然不安に思う者も居るだろう。

 またガーデンの外においても、取り分け常日頃からアンブロシアを快く思っていない勢力から今回の外征は批判に晒されてきた。広大な電子の海に揺蕩うインターネット軍師だかインターネット軍令部総長だかは「神戸から京都までは70㎞、岡山までは150㎞。どちらが優先事項か、一目瞭然。こんな単純な計算もできないのか、文系脳のバカ女は」と日夜説いている。

 

「それでも私たちが動いたのは、そうするだけの事情があったんでしょ」

「ええ。手の空いた九州のガーデンと挟撃できる絶好の機会だし、陥落指定地域から脱却したい中国地方各県の要望もあるし、瀬戸内の海運を復活させたい経済界の意向もある。軍事面だけじゃなくて政治面・経済面も考慮されてるのよ」

 

 この辺りの事情は生徒会やガーデン横断風紀委員がより詳しいだろう。何にせよ、複数ガーデンが絡む大規模作戦は一筋縄ではいかないことが多い。

 

「まあ、いつかはやらなきゃならないんだ。どうせなら楽しくやりたいよね」

 

 カレーの容器を空にした真緒はそう言いながらデザートのパイナップルにスプーンを伸ばした。小さくカットされた鮮やかな黄色の果肉が果汁と一緒に口内へ流し込まれ、舌を通して甘酸っぱい刺激をもたらす。

 ちなみに真緒のトレイの横には薄く平べったい板が置かれていた。まな板ではない。タブレット端末である。

 

「それ持ち出し申請、した?」

「当たり前でしょ。私のこと何だと思ってるの? レギオンの隊長ですよ」

「あ、そうだった」

 

 タブレットのディスプレイには電子版の新聞記事が映っている。地元、神戸の地方紙だ。一面にはアンブロシアの校舎が遠景から撮られた写真がでかでかと飾られていた。

 

「本日早朝、私立アンブロシア女学苑高等學校敷地フェンスを切断した上、犬の散歩中に犯行を目撃し声掛けを行なった男性にワイヤーカッターを振り回し飼い犬に軽傷を負わせたとして、兵庫県警は四十代の男を器物損壊と軍事施設等侵入未遂、並びに動物愛護法違反の容疑で逮捕した。だってさ。ワンちゃん可哀そう」

「36インチのワイヤーカッターとか、船舶用のチェーンも千切れる特大サイズじゃない。よくやるわ」

「ていうかよく見たらこれ『大蔵卿』だ。何やってんの」

 

 記事にある容疑者はアンブロシア……と言うより神戸では有名な人物だった。これまでに合計九回、国からアンブロシアへの補助金に対する監査請求を行なっており、そのいずれもが棄却されていた。以降も「行政が活動家に乗っ取られた!」と言い出して「圧政への抵抗者(レジスタンス)」を名乗ったり、勤務中に職場の端末から匿名で誹謗中傷していたとバレて懲戒処分されてしまったり、話題に事欠かない。そんな彼は神戸市民から大蔵卿というニックネームを付けられ名物名士として親しまれている。どうして財務大臣ではなく大蔵卿なのかというと、「古風な方が本人が喜びそうだから」らしい。

 真緒はタブレットから顔を離し、椅子の上で上体を逸らして天井を仰ぐ。 

 

「そっかー、ついに逮捕かあ。私らが幼稚舎の頃からやってたからなあ。感慨深いものがあるね」

「余計なお節介だけど、もうちょっと有意義な時間の使い方があったんじゃないかしら……」

「うちも結構な金食い虫だから大蔵卿みたいな存在は必要悪なのかも。『あえて憎まれ役を買ってガーデンや国の襟を正させる!』的な」

 

 ガーデン、特に艦船を運用するアンブロシアの周りでは多くの金が動く。今回の一件、もはや正攻法では不正の有無を確かめられないと思い詰め抗議の意味を込めて凶行に及んだのだろう。人生を賭してガーデン体制を監視してきた彼もまた、戦争によって生み出された哀しき犠牲者なのかもしれない。

 

「ノリノリでやってるように見えたんだけど……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 洋上。海上機動戦隊旗艦ルヴェリエ。

 ドック型揚陸艦として見た場合極めて小振りなこの艦は、主に上陸支援で用いる対艦対地誘導弾発射筒を二基と艦首の30mm機関砲、遠隔操作式の12.7mm機関銃架四挺で武装している。搭載兵器は予備機を含めてLACが六、無人偵察機と無人水上艇と無人潜水艇をそれぞれ三艇と三機、あとは地上要員のための上陸用舟艇だ。

 そのルヴェリエの狭い艦内廊下を、陸から戻ってきた真緒が歩いている。途中、対面方向からやって来た下級生二人が壁を背にして道を空けつつも真緒に話し掛けてくる。

 

「ごきげんよう、真緒様」

「ごきげんよう真緒様。陸の方はどうでした?」

 

 彼女らはルヴェリエの乗組員である海事科の生徒たち。海上部隊を運用するアンブロシアが普通科、工廠科に次いで設置した第三の学科が海事科である。その中は更に航海コースと機関コース、情報通信コースに分かれている。海事科の応募要件はスキラー数値――マギ出力の値――が50未満であること。即ちマディックか一般の女生徒であった。彼女らは高等部二年からこうして実戦航海に出てくる。

 

「ごめんねー、良さそうなお土産が無かったんだよね」

「それは残念ですね」

 

 軍の売店しか無いのだから当然である。

 

「その代わり、景色の良さげな所は見つけたから。時間が取れたら一緒に行こうよ」

 

 真緒がグイと身を乗り出して下級生たちを交互に見ながら言うと、二人は肩を寄せ合いながら答える。

 

「えーっ? 雅枇様のことはいいんですか?」

「止めて。その話は止めて」

「ふふふっ」

 

 高等科三年生以上はデュエル年代と呼ばれる()()()が厳しい世代であり、下級生から恐れられがちだった。しかし真緒はレギオンとLACの性質上、一般的なデュエル年代の戦法を採ってこなかったため、下級生との関係も柔らかいものとなっていた。勿論本人の気質も大いに関係しているが。

 そうして海事科の生徒たちと別れた真緒はやがてルヴェリエの艦橋に到着した。青空と瀬戸内の島々を見渡せる大きな窓が並び、座席の前ではモニターや計器類が艦内外の状態を示している。しかし機器や要員の数はそれほど多くない。戦闘指揮や艦全体の掌握はまた別の場所で行なうからだ。

 

「下村真緒、参りました」

 

 姿勢を正し一礼する真緒。艦橋中央付近の席で彼女を待っていたのは、黒髪を後ろで一本にきつく結んだ大人の女性であった。金色の肩章が映える純白の制服を纏っているが、生徒たちとは違いボトムはパンツスタイルだ。目尻が細く切れ込んだ目で相対する真緒に視線を合わせてくる。

 

「来たか。なに、すぐに済む。我が隊の今後についてだ」

 

 九鬼燈子(くきとうこ)。28歳にして海上機動戦隊司令とLGディオネ担当教導官を務める、真緒にとっての直属の上司になる人物だ。

 その司令の隣――と言っても1m以上離れているが――の艦長席では、彼女よりも四つ年上で彼女とは対照的に柔和な顔立ちの女性が真緒の方を静かに見つめていた。

 

「現在この直島周辺の島々を国防軍が奪還しているのは知っているな?」

「はい。近場の小島にはネストも無く、ヒュージもミドル級以下の駐屯しか確認されてないからですね」

 

 その中にはヒュージ侵攻以前から無人だった島も多い。しかし後顧の憂いを絶つべく掃討は必要だった。国防海軍は直島に一個護衛隊を派遣しており、護衛艦のミサイルと艦砲があればミドル級までなら討伐は容易だろう。

 

「アンブロシアの他レギオンは島内に即席で設けられたガンシップ発着場で大型ヒュージ出現に備えているが、我々は岡山を陸路進撃中のガーデン統合部隊を支援することになる」

「ということは、今度は本土沿岸での任務ですか」

「島嶼部の確保と本土の進軍は両輪で進めなければならない。片方ばかり進出し過ぎて逆撃を食らったら目も当てられないからな」

 

 今のところ海路での進撃は、大きな障害にもぶつからず順調と言ってもよかった。海からやって来るヒュージだが、奴らは海上交通を破壊すべく積極的に沖合を徘徊するというような行動は取ってこなかった。勿論例外はあるのだが。

 

「陸の方、戦況がよろしくないんでしたっけ」

「岡山方面、山口方面、共に進軍が停滞しつつある。最近急にヒュージの動きが良くなった、というのは真実らしい。また未確認種の目撃報告も複数出ている」

「う~ん……」

「ただ戦局打開に向けた手は既に打たれたし、我々海の方も今後どう転ぶか分からない。具体的な作戦が決まるまで、君たちもあまり羽目を外さないよう待機しているように」

「了解しました司令」

 

 来た時と同様に司令と艦長へ一礼すると、真緒は艦橋をあとにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ルヴェリエ艦内食堂。

 幾つもの長テーブルが規則正しく等間隔に並んだ大部屋に、艦橋から下りてきた真緒が居た。昼と夜の間にもう一食しようというわけではない。食事時以外の食堂は乗員の余暇スペースなのだ。

 レギオンメンバーを探していた真緒はちょうどよくパイロットの三人と遭遇してテーブルを囲んでいた。

 

「隊長! 怒られた? 先生に怒られた?」

「何で私が燈子先生に怒られるの。いや、心当たりはあるけども」

 

 真緒が艦橋に呼び出されていたことを聞きつけたユニカが期待するような目で身を乗り出してくる。長い赤毛と小柄で細身の上半身が机上に触れるが、食事時ではないので被害は無い。

 ちなみに改まった場面では司令呼びだが、それ以外では真緒に限らず先生呼びしていた。

 

「次の作戦について、ですね?」

「まあそんなところだよ」

 

 ユニカの首根っこを引っ張って机上から引き剝がしたディミトラに、真緒が軽く頷いた。

 

「次は本土の支援になりそう。どこかの岸に上陸してから、ヒュージの群れでも攻撃して陸上部隊の進撃を助けるってところかな」

 

 真緒の予想を聞いたディミトラは視線をやや下げる。彼女と付き合いの長い者たちならすぐに分かるが、落胆しているのだ。

 

「そうですか。そろそろ本格的な海戦が起きそうだと思っていたのですが」

「ヒュージには制海権とか関係ないからね。そうでなくても艦隊決戦なんておいそれと起こらないと思うけど」

 

 南欧らしい濃い栗色の瞳と彫りの深い顔にほんのちょっと影が差す。

 ギリシャ、レスボス島出身のディミトラはLAC操縦と着上陸戦を学ぶためアンブロシア中等部に入学してきた。当時の水陸両用LACは未だ実験機の段階を過ぎていなかったが、今や技術の進歩によって戦術の可能性は大幅に広がりつつある。そんな中でヒュージとの本格的な水中戦を望むようになるのも当然の帰結だろう。

 しかしながら、元々土木作業機だったLACが日本でこれだけ発達したのは結果論であり、何年も前から予測するのはメーカーの人間でもない限り難しい。それに着上陸戦ならギリシャと近場のイタリアやイギリスでも十分体験できるはず。にもかかわらずわざわざ遠い極東の地を選んだ理由は「その方がエキゾチック感があるから」とのこと。要は変わり者なのである。

 

「ディミ先輩、水の中の方がいい? 私、陸の方がいい。水の中だとライフル使えないから」

「そこは、美月様に水中銃でも作ってもらって……」

「え~? 銛をぶっ飛ばすやつ?」

 

 四人の中で最年少のユニカ。彼女はインドのゴアから中等部卒業後に来日してきたのだが、元からアンブロシアの留学生だったわけではなく、当初は関東のガーデンで学んでいた。ところがある日、市中にてガーデンに対する男子学生受け入れ要求デモに出くわした際、市民団体に向かって「男が女になれるわけないじゃん。何言ってんの?」と発言したのだ。これが日本人ならその場で暴動に発展してもおかしくないが、彼女は日本語覚えたての南アジア人。だが公衆の面前で恥をかかされた彼らの怒りは明後日の方向に飛び火し、結局てんやわんやの騒動となる。そんな折、ユニカのLAC操縦技術を知ったアンブロシアがスカウトに来たのだ。

 変わり者のレギオンに入るべくして入った変わり者。しかしユニカもユニカなら、拾ってくるアンブロシアもアンブロシアである。

 

「新装備も結構ですが、わたくしはドレスの趣も変えてくださると嬉しいですわ」

 

 奈良出身の華はLACのことをドレスと表現する。LAC操縦を希望していたが、なるべく(みやこ)に近いガーデンが良いということで関東ではなく神戸のアンブロシアを志望した変わり者である。

 

「そうだよねえ、分かるよ。新しいものも色々試してみたいよね」

「真緒様。真緒様が仰ると、別の意味に聞こえてしまいますわ」

「誰も女の子の話はしてないよ!?」

「あら、そうでしたっけ?」

 

 そして隊長は言わずと知れた変わり者である。

 もっとも、LACの搭乗者を希望している時点でリリィの中でもある程度の変わり者なのだが。それらを束ねるアンブロシアもやはり風変わりなガーデンであった。

 

 

 

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