瀬戸内攻防   作:坂ノ下

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第9話 外征レギオン

 水面下から放たれた三十もの魚雷は尾部のスクリューによって大気との境界線まで達すると、トビウオの如く勢いよく跳ね上がる。直後、本物のトビウオには存在し得ない噴射口から火を吐き出して、放物線を描きながら前方の陸地へと降り注いでいく。その先に居たのは、海岸部から海水へと入ろうとしていたヒュージの群れ。ロケット推進により多数の魚雷がヒュージの頭上から飛び込んで、海岸線に破壊の嵐を巻き起こす。

 魚雷の襲撃から遅れて、海岸に面した浅瀬に細長い突起が浮き出てくる。距離を空けて全部で四本。更にその直下から丸みを帯びた金属の塊がぬらりと海面上に浮上する。突起はLACのブレード型アンテナだった。

 

「海岸部のスモール級及びミドル級ヒュージ、七割を撃破。ですが島内陸部と後方のネストから続々と新手が接近中」

「ラージ級は?」

「島中心部に固まっていますわ」

 

 華がレアスキル『鷹の目』で読み取った敵情を隊長の真緒に伝える。機載のヒュージサーチャーも早期警戒には有用なのだが、詳細な状況把握にはやはり鷹の目やそのサブスキルである千里眼の方が適していた。

 

「このまま海岸部で残敵を掃討しつつ、向かってくるヒュージを迎え撃つよ。応援部隊は……あと120秒か」

 

 真緒は現在時刻から味方レギオンの降下予定を割り出した。いや、降下という表現は正確ではないかもしれない。件のレギオンは海面スレスレを飛ぶガンシップで途中まで接近した後、ヒュージネストの影響で結晶化したマギの上に上陸、そのまま島まで侵入する手筈となっていた。

 

「そのレギオン、すっごいこと考えるね~」

「凄いと言うか、無茶。普通に考えれば」

 

 感心するユニカの発言に比べ、ディミトラは冷静な評を述べる。結晶化したマギが流氷の如く足場になるのは事実だが、しかし不安定な上に海上で身を隠す障害物も無い。そんな状況でネスト付近にて陽動任務をやれと言われたら、普通は躊躇するだろう。

 

「ま、百合ヶ丘の外征レギオン、その中でもトップクラスのSSSレギオンだからねえ。出撃前、燈子先生があんなに自信ありげだったのも分かるよ」

 

 西国一のガーデンとして『西の百合ヶ丘』と称されるアンブロシア。両校は交流もあり、生え抜きの真緒は百合ヶ丘のことをよく知っていた。総合的に見た場合に自校が特段劣るとは思わない。海上部隊を運用しつつ陸上でも戦力を展開しているアンブロシアは資金力も層の厚さも負けていない。ただそれでもノインヴェルト戦術や降下作戦に関しては、あちらに分があると考えていた。

 

「でも海戦や上陸戦はうちの十八番だから。情けないところは見せられない。皆、気張っていくよ」

 

 単純な戦闘能力で見れば、LGディオネは一流のレギオンとは言い難い。隊長の真緒はスキラー数値75であり、これはレアスキル『レジスタ』に覚醒し得る下限の値で、強豪レギオンたるアンブロシアの隊長としては低い方。ましてや百合ヶ丘のトップクラスと比較したら、言わずもがな。

 ただ、真緒たちディオネはLACの操縦技術と運用においてアンブロシア内で評価されていた。また百合ヶ丘においても、全体の成績には劣るものの一芸に特化したリリィが補欠という名目で採用されている。単純な数値上のスペックに寄らない抜擢は、どこのガーデンでも大なり小なり見られることだった。

 

「……真緒様がいつになくやる気になってる」

「あらあら、これは喜ばしい誤算ですわ」

「きっと明日はマギの槍が降ってくるよ!」

「いつもやる気に満ち溢れてるでしょーっ!?」

 

 その間にも海岸に残る敵の掃討は続く。丸山島の奥行きの少ない浜辺に上がり、二本の足で柔らかな砂を踏み締めたLAC『エル・ベストラ』が胴体左右の内臓火器を放つ。ガトリングなどに比べればずっと発射速度の遅いチェーンガンだが、それでも連続して繰り出される30mm弾の威は圧巻の一言。ひとたび砂浜に弾幕が張られると、LACに迫ろうと足を踏み出したヒュージは装甲を打ち砕かれて倒れ伏す。

 戦いの最中、ふと真緒の耳にノイズ交じりの通信が入る。

 

「――――ディオネへ。こちら旗艦ルヴェリエ。通信感度はどうか?」

 

 その司令の声が、マギクリスタルコア通信ではなく艦の通常無線から流れてくるものだとすぐに気が付いた。

 

「ディオネ01、感度良好。これが例のレアスキルの力ですか」

「そうだ。これより艦隊から指定の座標へ支援砲撃を実施する。小物を潰されたラージ級が押っ取り刀で出てくるだろう。増援レギオンと協同して迎撃せよ」

「了解」

 

 ヒュージのマイナスマギのせいで阻害されていた通信の回復。そして司令の発言から、誘導兵器が有効になった事実が分かる。それ即ち、マギがプラスへと転じたのだ。件の増援レギオンによって。

 真緒たちが確保した砂浜から見て北西方向。小高い崖の連なるそこに、幾つもの砲火が瞬いていた。()()()もまた島に到達していたのだ。

 

「LGサングリーズルげんちゃーっく! ヒュージの側面を衝くよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 島全体を覆う鬱蒼とした緑を三本足で薙ぎ倒しながらヒュージの群れが迫る。侵入者に対峙する番犬の如く。決して大きいとは言い難い島でありながら、狭隘な地形に大量のヒュージがひしめいていたのだ。

 木々の緑を塗り潰さんばかりの灰色に、沖合から飛翔してきたミサイルが突き刺さる。その攻撃はスモール級ではなくミドル級の方を的確に狙い撃っていた。元より精度が大雑把なヒュージサーチャーとの連動射撃ではこう上手くはいかないだろう。

 そうして勢いを削がれたヒュージの隊列に、横合いから幾条ものレーザーが伸びる。群れの中で光が瞬く度に、球状胴体の装甲が貫かれ、鉤爪みたいに鋭利な足が溶断されていった。

 正面に陣取るディオネと側面サングリーズルの十字砲火により、反攻に出たヒュージたちは総崩れになりかける。

 

「ラージ級が来ますわ。ご注意を」

 

 華の警告。前方、小高い山林がそびえる島中央部の緑が揺れる。かと思えば、山林の奥からチャームの砲撃より何倍も極大な光線が海岸部のディオネ目掛けて放たれた。

 

「各機、散開しつつ前進。……サングリーズルの方は?」

「別のラージ級と交戦に入ったようです」

 

 ラージ級は複数存在した。ネストの主はギガント級だが、今のところ巣の最奥に籠っているため、防衛戦力の中核と言えるのは彼らラージ級の方だろう。真緒はそんなラージ級に対し、距離を詰める選択をした。高所から撃たれ放題の状況を打破するために。エル・ベストラの陸上機動性ならば、それも可能と判断した。

 

「皆、足を止めないように。相手はバスター種、走り続けてたらそうそう当たらない。動きも鈍そうだしね」

 

 実際、下から見ている限り、亀を模したであろうそのヒュージはお世辞にも機敏とは言えなかった。ラージ級バスター種アーケロン型。甲羅のようなドーム状の胴体に生える一門の大砲は、ジグザグ走行する真緒たちの機体に上手く照準を定められない。またヒュージ本体も太くて短い四つ足を動かし向きを変えようとするものの、やはり外見に違わず緩慢であった。

 

「同時に魚雷をお見舞いして、一気に片付けるよ」

 

 四機は左右に散り、半包囲の形を目指す。途上、崖の高低差や島に生えるブナの木が障害になるが、バックパックの推進器と山刀代わりのクローによって乗り越えていく。

 そうしてベターな射撃位置に近付き、一斉攻撃の号令を出すタイミングを真緒が図り始めた時、標的のアーケロンに異変が生じた。

 

「何か煙出てるっ!」

「ラージ級の甲羅が震えていますわ。これは……」

 

 ユニカと華が真っ先に気付き、そしてすぐに誰の目にもその異常が明らかになる。

 

「飛んだ」

 

 皆の声が一致した。今まさに彼女らが目指していた山林の頂から、直径10mもの亀の巨体が垂直に飛び上がったのだ。両手足と頭部を甲羅の中に引っ込めて、その穴から代わりに青白い光を炎の如く噴き出している。マギの光だろう。

 

「飛んでますね」

「亀が飛ぶわけないだろ!」

「しかし実際飛んでます」

「真似っこするなら真面目にやれ!!!」

 

 淡々と目にした事実を述べるディミトラと、あまりに理不尽な絵面に怒る真緒。しかしヒュージが型破りなのは今に始まったことではない。気を取り直して相手の出方を見る。残念だが、追い付こうと思って追い付けるものでもない。

 

「艦隊を襲う気……?」

 

 そんな真緒の危惧は外れ、アーケロンは一旦上昇した後に急降下を仕掛けてくる。甲羅を回転させながら、地上での鈍重な動きが嘘のような高速を以って、独楽か手裏剣のように頭上から降ってくる。狙われたのはユニカ機。その一撃は落下地点のみならず、勢いのままに地面を滑りブナの木や岩石など進路上の物体を吹き飛ばしていった。

 

「うっわ!」

「大丈夫!?」

「ダイジョブ! けどヤバいよ!」

 

 すぐ真横を砲弾に掠められ、バランスを崩したユニカの機体は山林を下敷きに倒れ伏した。あれをまともに食らったところは、ちょっと想像したくない。

 島の表面を抉り海岸から海中へ突っ込んでいった後、アーケロンは水沫を津波の如く吹き上げると再び宙へと飛び立った。真緒たちの立つ丸山島を中心に、サングリーズルが相手をしていた者も含めて四体の大亀が空を舞っている。

 その上更に、島の向こう側の半島、ヒュージネストから天に轟く咆哮が上がる。敵の本拠地目前での戦いであることを忘れてはならない。親玉に檄を飛ばされたのか、島の山頂を越えてスモール級ミドル級の一群が押し寄せてくる。

 

「……地上の敵を迎撃しつつ、空のラージ級を撃ち落とす」

 

 真緒の指示で隊列を組み直したディオネの四機は、斜面を滑り落ちるかのような勢いで侵攻するヒュージの群れを迎え撃った。エル・ベストラ胴体のチェーンガンが土煙の中に敵を沈め、体と泣き別れになった銀灰色の脚がごろごろと転がってくる。

 それと同時にエル・ベストラは背中に背負った四連装発射管二基から魚雷を繰り出していった。マイナスマギの悪影響が消え去った今、ロケット推進の弾頭は上空で旋回する飛翔体に狙いを定めて追尾する。忽ちサーカスめいた空の攻防が巻き起こった。しかし両手足の引っ込んだ穴、四箇所に推進器を備えて奇怪な飛行方法を採るアーケロンの空中機動はやはり奇怪。人間の乗り込む航空機ではまず不可能な急制動や急降下を以って魚雷の追跡を躱してしまう。

 

「島から退くか……? いや……」

 

 今回の陽動任務に際し、丸山島からの後退は事前に許可されていた。だがしかし、あの空飛ぶ凶器を引き連れたまま艦隊の方へ近付くのは避けねば、と真緒は一時撤退を考え直す。

 その間にも頭上からは砲撃が降り注いでいた。甲羅の前部中央から突き出た短砲身が繰り出す青白色のレーザー。飛行形態のままで発射されるそれは照準など無いようなもの。とは言え、たとえ当たらなくとも頭の上から一方的に大火力を投じられ続ける圧力は相当である。

 

「あちらさんの方は――――」

 

 真緒が島の西部で戦闘中のサングリーズルを気に掛けたその時、その西の方角から一筋のレーザーが伸びた。すると自由自在に飛び回っていた大亀の内の一匹が、マギの噴射光とは違う火花を上げながらぐんぐんと高度を下げていった。そうして終いには運の悪いスモール級数匹を下敷きにして地面へと突き刺さる。

 

「こちらサングリーズル! 空飛んでるのは全部落とすので、地上で止めを刺してください!」

 

 通信機から響く明朗快活な声。百合ヶ丘レギオンの隊長だ。当然だが今しがたアーケロンの一体を撃墜したのは彼女たちということになる。

 レアスキル『天の秤目』を持つ者ならば、射撃を当てること自体は可能だろう。しかしながらラージ級を一撃で落とす程の高出力砲で命中させようと思ったら話は別だ。真緒の知る限り、そんな真似ができるリリィは一人しか居ない。

 

「ディオネ、了解! それじゃあ後始末はこっちでやりますか。華、ディミ、落下地点周辺の敵を排除。ユニカ、上空警戒」

 

 よそ様へ思考を巡らせるのもそこそこに、真緒は自分たちの役割を果たそうと動く。厄介な敵を確実・迅速に仕留めるため。また再び空へ飛び上がられては堪らない。

 未だネストの方角から湧き続ける増援のスモール級を後輩たちに任せ、真緒機が落下地点へ急ぐ。砂浜から程近い岩場の一角が衝撃で抉れた場所に。そこには銀灰色の大きな甲羅が上下逆さまに地面へめり込んでいた。

 真緒は機体の機動力をフルに発揮して走らせるものの、相手の抵抗も想定する。そして実際、墜落したアーケロンは戦意も戦力も失ってはいなかった。甲羅の奥に引っ込めていた頭部をヌッと突き出して、上下に開いた口から砲撃を放つ。赤色の炎を纏った火炎弾だ。軌道上の大気を揺らめかせながら飛翔するそれは、横方向へ跳んだ真緒機の傍を掠めていった。

 

「亀が、火を吐くんじゃないよ。レギュレーション違反でしょ」

 

 コクピット内で真緒がまた益体も無い軽口を叩くと、まさか聞こえたわけでもないだろうが、アーケロンは火炎弾を連射しながら周囲に白煙と粉塵を舞い散らせる。再び飛び上がるつもりなのか。地面に半分埋まった甲羅がゆっくり動き始め、土の上を滑るように走り、やがて地上から離れて宙へと浮かぶ。

 しかしアーケロンが高度を上げ切る前に、推進器を吹かして跳んだ真緒機が敵の上を取った。逆さまの状態の甲羅の上、即ち腹の上に着地した後、ジェットの噴射口である両手足の穴の一つに右手のクローを突っ込んだ。甲羅に比べれば中身は脆弱なはず。そのまま掌のフォノンメーザーを接射すると、甲羅内部で爆発が起きてアーケロンは今度こそ撃墜・撃破されるのだった。

 気が付けば、上空を飛んでいるヒュージは皆無。サングリーズルが全機撃ち落としたのだろう。ところが敵全体で言えば、依然として勢いは衰えていない。

 

「真緒様、島北岸及び東岸から更にスモール級の増援」

「ネストの主……ギガント級の影響で活動が活性化してるのか」

 

 飛び掛かる四つ足のスモール級をクローで薙ぎ払いながら華が報告し、真緒は機内の光学映像とヒュージサーチャーによって状況を確認する。

 

「ネストの様子を見てくる。ディミ、付いて来て」

「了解しました」

 

 敵の掃討を二機に任せて、あとの二機が山の斜面を登り始める。さして広くない島で高さも知れている山だが、敵の砲撃を警戒してバックパックのロケットを用いず地面の上を歩いていく。そうして最後に急勾配の岩肌を避けて通ると、島の反対である北側を一望できた。更に浅瀬を挟んだ向こう側には、撃滅対象の鴨之越海岸ネストが見える。

 ネストの中から巨体の一部を覗かせるヒュージの映像を、真緒機の外部カメラが捉えた。四匹の長大なウミヘビが一体化した凶悪な姿。体長は優に50mを越えるだろう。

 

「アビスサーペント」

 

 真緒とディミトラが二人同時にネストの主の名を口にした。当のギガント級はと言うと、青白く発光する頭部で天を仰いで低くて重い唸り声を上げた。ネスト上空では、幾重にも積み重なった分厚い雲の層が日光を遮って局所的な薄闇を作り出していた。

 

「降下部隊到着まで、残り30分」

「このままここで迎撃し続ければ、いけるかな?」

 

 ディミトラに時間を告げられて、真緒は思案する。本命のネスト攻略班がギガント級に対してノインヴェルト戦術を実行するまで、可能な限りヒュージを誘引してネストの防衛戦力を消耗させるのが陽動班の任務。現状でその務めは果たしつつあると、少なくとも真緒は判断していた。

 その時、島の西側から北の空に向けて光の線が伸びた。先程まで好き放題にディオネの頭上を舞っていたラージ級を全て墜とした光と同じものだ。その一撃はヒュージネストを覆うベールにまで到達する。

 

「またあの砲撃。真緒様、あれは……」

「あれはね、サングリーズルの村上常磐(むらかみときわ)さん。射手・狙撃手と言えばこの人あり、ってリリィ。データで知るのと実際見るのとでは、また違うでしょ」

「はい……」

 

 幕張を始め多くの戦いで名を残したリリィ。ディミトラも情報としては知っているはず。しかし同じ戦場に共に立ってこそ分かることも少なくないだろう。

 

「彼女は私と同じ三年生、優雅で沈着冷静なお嬢様タイプ。前に外征先で一緒になった時にアプローチしたんだけど、華麗にスマートに躱されてしまったよ」

「それは当ぜ……ご愁傷様です」

 

 何やら心外な言葉が放たれかけたが、聞こえなかったことにする。

 

「しかしこのタイミングでネストに砲撃を仕掛けるってことは……」

 

 真緒はサングリーズルの行動を見て一つの可能性に思い至ると、自然に口角を持ち上げる。そして案の定、あちらの隊長から通信が入る。

 

「サングリーズルはこれよりヒュージネストに接近、更なる陽動を実施します!」

 

 どうやら彼女らの方はまだ足りないと判断したようだ。真緒はついさっきまでの自分を恥じると共に、沸々と闘争心を沸き立たせる。自分たちはただのレギオンではなく外征レギオンとして今この場に居るのだ、と。

 

「ディオネ各機、前線を押し上げるよ。島北部のヒュージを叩く」

「真緒様、ヒュージを叩くのは結構ですが、それ以上の前進は陽動の趣旨から外れていませんか?」

「戦況如何(いかん)によっては退いてもよいとは言われているけど、進んでは駄目だとは言われてないからね」

「ふふふ、屁理屈ですわねえ」

 

 華はそう言いつつも、掃討の完了した南岸から機体を前進させる。ユニカの方は言わずもがなだ。

 やがて島の中央、険しく足場の悪い山の頂に四機のLACが集結した。そこから島の南側を見下ろすと、数多の敵が視界に映る。海岸から内陸へと進撃するスモール級ミドル級の群れと、浅瀬に身を沈めつつ海面から甲羅と砲を覗かせるラージ級。

 ネスト眼前でギガント級の統制を受けるヒュージの軍勢に向けて、切り込む影があった。瞬く間に斜面を下ると、ヒュージの狭間をすり抜けながら右へ左へ駆ける。駆け抜けた直後、すれ違ったヒュージたちの体躯が次々に斬り飛ばされていった。その様は紅い雷光。身に纏う深紅の衣装がその所以。茶のポニーテールを振り乱し、手に握る刀で立ち塞がる障害を薙ぎ払う。彼女の後ろには当然、黒衣のリリィたちが続く。

 

「サングリーズルを援護!」

 

 真緒の命により四機が一斉に腰を屈めて前傾姿勢を取り、背負った発射管から魚雷を撃ち出す。それらは海岸と浅瀬にひしめくヒュージ群に降り注いでいく。そして支援射撃の効果を確認しない内に、四機は山頂を発ち前進を開始した。足裏から砂埃を激しく巻き上げながら、海岸部へ至る急斜面を滑り降りる。進路上に居たミドル級がエル・ベストラの胴体装甲に弾かれて、サッカーボールみたいに転げ落ちた。

 島の北を巡る戦闘は立ち所に激戦と化した。海から幾筋ものレーザーが奔る一方、陸地からはチェーンガンの弾幕があちこちに砂煙や水柱を生み出す。互いの砲火が交錯する中を、LACやヒュージに比して小さなシルエットが舞う。

 瀬戸の未来を賭けた作戦は佳境へと突入するのであった。

 

 

 

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