転生魔導記   作:青い灰

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2話 臨死体験

 

 

 

魔力。

 

先生曰く、それは万能であり不完全な力なのだと。

この世界のあらゆる存在は、大量の魔力が集積、また変質した『エーテル』により構成されている。それは人間を含めた生物全ての肉体もそうであり、それ故に『万能』で『不完全』。

 

あらゆるものに成り得るが、何物にもなれない。

そこからは命すら創られるのに、だ。

 

人間や魔獣などの生殖を除き、魔力から発生する命もまた、数多い。それらは総じて『精霊』と呼ばれる。それらは精神だけの存在であり、曰く〝形なき声〟であるのだと。それらに含まれるのが、先の先生の話にあった『エレメンタル』らしい。

 

 

 

「エレメンタルは……そうだな。

 形なき声である精霊が、力を宿したもの。

 そう言えば分かるか」

 

「………分かるような、分からないような」

 

「簡潔明快に言えば、元素の力を持った精霊だ。

 地水火風、あらゆる自然の〝現象〟の表象が

 魔力として生まれたもの……分かるか」

 

「火属性そのもの、みたいな感じか?」

 

「まぁその認識で構わん」

 

 

サラマンダー、ウンディーネ、シルフ、ノーム。

四大元素の精霊といえばこういうものだろう。完全にゲームの考え方だが、そういうのがあるってことだ。自分で納得している俺に、先生は真剣な顔で続ける。

 

 

「そして忘れてはならないのは、

〝それが意思を持っている〟ということだ」

 

「……? あ、精神だけって言ってたか。

 でも考え方とか流石に違うんじゃないか?」

 

「いや、何千年と存在しているエレメンタルの

 具現ならともかく、奴等に思考する力はない。

 ない、が………忘れてはならないのは〝敬意〟だ」

 

 

ハッキリと、先生は口にする。

 

 

 

「敬意を払え。自然に、精霊に、そして力に。

 そうすれば奴等はお前に力を委ねるだろうさ」

 

 

「………まるで信仰みたいだな」

 

 

そう苦笑いで返した俺の言葉に、先生は驚いたように目を見開いて、にやりと笑う。どうやら面白い返しが出来たようだが。

 

 

「いい観点だ。事実、教会の連中もまた

 信仰心と祈りを顕現する技術を体系化している。

 それを教会は〝秘蹟〟と云って魔法魔術と

 別物だと言い張っているが、そこに変わりはない」

 

「へぇー…….」

 

「教会の上層、特に異教徒狩りの連中は

 それぞれの〝狩り〟に特化した秘蹟を使う。

 もし奴等と戦闘になれば注意しろ、

 最悪、触れられもせず一撃で殺されるぞ」

 

「やべぇ連中じゃん関わらんとこ……」

 

 

凄いなぁ一緒に魔法とか研究できりゃいいのになぁ、なんて考えてたらコレである。なによ〝狩り〟って。人間狩りだろうね異教徒狩りってことは……

苦い顔をする俺に、先生は咳払い。話が逸れてたか。

 

 

「話が逸れたな。要は力を恐れろ。

 お前の知ろうとするものは、強大なものだ。

 だからさっきは驚かせようとしたんだ」

 

「単に自慢したワケじゃないのな……」

 

「自慢5割だ」

 

「あと5割の恐れでいいのか敬意……」

 

 

再びの咳払い。黙る。

 

 

「さて、簡単な説明は終わりだ。

 先も言ったが、まずは魔力の知覚から。

 魔法も魔術も秘蹟も、そこから全て始まる」

 

「分かった。どうすればいい?」

 

「そこでジッとしていろ」

 

 

言われた通り、先生の前で仁王立ち。

先生は俺の胸に手を当てると、

 

 

 

 

 

「え」

 

 

 

 

 

針のような鋭い衝撃が、全身を貫く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────────!!!!?」

 

 

思考が真っ白になる。瞬間、熱が全身を染め上げた。

 

激痛、激痛、激痛。

言葉にならない痛みが全身を刺し貫く。だがしかし、それは一度で終わらない。何度も、何度も、何度も、ヅキヅキと針を刺す激痛が襲いかかってくる。

 

声を出すことも出来ない。

身体が自由を失う。

苦悶の叫びすら痛みに消えていく。

なにも考えられない。

 

 

「ッ、これは……!?」

 

 

視界が回る。自分が今どんな姿勢でどんな体でどんな体勢でどんなどんなどんな──────

分からないなにもわからないこわいいたいいたいいたいいやだたすけてだれかだれでもいいいやだいやだいやだいたいいたいいたたたたたたたたたたた

 

 

「っ!? しまっ……ダンテ!!

 っ、何が……いや、待っていろ、すぐに……!!」

 

 

いたいいたいいたいたすけてしにたいころしてころしてころしてころしてころしてころせころせころせころせころせころせたすけていたいいたいいたいだれかいたいこわい

 

 

「まずい、これは……魔力が……!!?

 っ、仕方ない────〝眠れ〟!!!」

 

 

いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………。

 

 

 

 

暫くして、草の上に敷かれた布団の上で目が覚めた。酷い頭痛と目眩が落ち着いてから、俺は、先生と話をすることになった。

 

 

「死ぬかと思った」

 

「………………………すまなかった」

 

 

長い沈黙と視線を泳がせて、先生は絞り出すように、そう謝った。顔が青い。本来、あんなにやるつもりはなかったのだろう、というのは分かった。それだけ、先生は酷い顔をしていたから。

 

 

「…………魔法入門、あんなになるもんなのか?」

 

「………いや……本来の方法とは別に、

 魂に直接魔力で干渉する方法があるんだが、

 そっちの方が……手っ取り早いんだ。

 私はそうだったし……その時に受ける刺激も、

 少し痺れる程度のもので、調整もして………」

 

「………」

 

「………………ただの言い訳だな。私は、事を急いだ。

 お前が魔法を知りたいというのが、嬉しかった。

 だから、少しでも、早く、と……」

 

「……いや、いいよ。死んだわけでもないし」

 

 

苦しそうにする先生を見ていられなくなり、というかそもそも魔法を使いたいと言い出したのは俺なのだ。そこまで責める気には、なれない。三途の川は何度も行き来してるとはいえ、痛いのは嫌だし、慣れたくもないが………なにはともあれ、だ。

 

 

「それより、身体の周りに………

 何か、分かるようになった気がする」

 

「それが魔力だ。身体は大丈夫か」

 

「あぁ。ていうか……むしろ調子がいいな。

 今ならさっきの魔法もやれそうな気がする」

 

「…………大袈裟だな」

 

 

立ち上がり、肩を回してみせると先生は少し笑う。

あまり慣れない態度とられると調子が狂うので、早くいつもの調子に戻ってもらいたいところだ。

 

しかし、驚くほど身体が絶好調だ。

重力を感じにくいというか、今なら疲れも感じないと思えるほど、身体が軽い。それに力が全身に流れ込むこの感じは、どこか心地よさすら感じる。

まるで、全身の血流が早くなったかのよう。

それでいて心臓は静かで落ち着き払っている。本当にさっきの先生の魔法ですら撃てそうな感じだ。

 

 

「お前は、魔力の影響を受けやすいようだな」

 

「? どういうことだ、それ?」

 

「さっきお前にしたのは、魂の改造だ。

 正確に言えば魔力を取り込み、

 また魔力を使うための穴を開けた」

 

「そりゃ痛いわ」

 

「恐らく、お前の魂は突然の魔力干渉を拒絶した。

 その痛みは魔力をどうにか排除しようとした

 肉体の拒絶反応だろうが………悪かった。

 あれだけの痛みは起こらない筈なんだが……」

 

「……………」

 

 

前世の魂が流用されてるから、なんて仮説が浮かぶ。恐らく、と言っている辺り、魔力を拒絶されないのが普通なのだろう。魔力なんてない前世での生活を送りそして死んだあと、その魂に魔力なんて異物を流せば拒絶するのも当然のことだろう……ただの仮説だが。

 

 

「話を戻すぞ。

 その拒絶を乗り越えた故に、お前の魂は

 魔力に強く適合することが出来たのだろう。

 だからこそ、魔力を取り込んだ影響も大きい」

 

「なるほど……?」

 

「…………分かっていないな? 見ていろ」

 

 

なんとか納得しようとする俺に、先生は呆れ顔で指を鳴らす。すると、空中に小さな水の粒が大量に現れ、そしてそれが先生の指先に集まっていく。

 

そして出来たのは、空中に浮かぶ水の塊だ。

 

 

「なんだ?」

 

「見た通り、不純物を含まない真水の塊だ。

 これを先までのお前の魂と仮定する」

 

「透き通った魂だなあ、なるほど?」

 

「水は汚れてはいないが気にするな」

 

「俺の心が濁ってるって言いたいの?」

 

「人の魔導書を盗み見る奴の魂が

 汚れていないワケなかろうが」

 

「ド正論」

 

 

すっかり元の調子に戻ったようで俺は嬉しい。全く、女子のご機嫌取りは大変である。楽しくもあるが。

というか10年経っても全く歳を取った感じがしないが先生は女子って年代なのだろうか。外見は大人の女で色気も感じはするが……

 

 

「はぁ……まぁ、これを……こうする」

 

「あっ」

 

 

べしゃっ。

浮いていた水が地面に落ちる。勿体ない……

と思っていると、地面に広がった水が再び浮かぶ。

 

その水は、泥水のように濁っている。ひどい。

 

 

「さてダンテ、水はどうなった?」

 

「濁った」

 

「これが今のお前の魂の状態だ」

 

「分からん」

 

「水は土汚れを取り込んだ……

 つまり、魂が魔力を取り入れた状態にある」

 

「ん?…………あぁ、なるほど!?」

 

 

つまり、俺の水(魂)は汚れ(魔力を取り込み)やすい。

そういうことか!例えがひどいな!

 

水を地面に落としたのは、魔力による干渉。

そうして取り込んだ土汚れが魔力。

水の濁り具合は魔力の影響の受けやすさ。

 

先生が言いたいのはそういうことだろう。

 

 

「どうやら理解できたようだな」

 

「なるほど……分かりやすい説明どうも。

 それで、魔力の影響を受けやすいってのは

 なにか利点があったりするのか?」

 

「むしろ利点は少ないぞ」

 

「!?」

 

 

そうなの!?

いやさっきの激痛考えれば当然だねクソがよ!

膝から崩れ落ちて手を地面に立てる。

 

 

「精神攻撃のような魔術……

 幻のような類いには弱くなるだろうな。

 魔法魔術への耐性がないようなものだ」

 

「それ不味くないか?」

 

「かなり不味いな。それに魔力の淀んだ場所……

 例えば坑道、戦場跡地なんかでは

 まず間違いなく体調に異常をきたすだろう」

 

「ダメじゃん!!」

 

 

思わず叫んでしまう。

なんか利点とかホラ……あってもいいじゃん?

 

 

「だが魔力切れを起こすことはないだろうな。

 大気の魔力を取り込みやすいのはあるから

 そう落ち込むな。苦労はするだろうが」

 

「お、おぉ……それならまぁ……」

 

「それにお前の魂に触れて分かったことだが……

 今の状態でもお前の魔力の器はかなり大きい。

 魔力切れという魔導士としての弱点は

 ほぼ無くなっていると言っていいほどだ」

 

「マジ!?」

 

「鍛えれば大魔法、大魔術の連発も出来るだろう。

 私もこれには驚かされた。それに先の………」

 

 

そこで言葉は区切られ、先生は眉を寄せる。

どうしたのだろうか。

 

 

「先の……なんだ?」

 

「いや………これは後からでいいな。

 お前の体質は短所が多いが利点も強力だ。

 とはいえそれに驕らず、鍛練はしなければな」

 

「上手いこと誤魔化したな」

 

「実践するには危険過ぎる技術だと思ったからだ」

 

「えっそんなんあるの?」

 

「だから後でいいと言った」

 

「後でいいや……」

 

 

そんなこと言われれば気になるが危険なら後でいい。まずは基礎から堅実にやっていくべきである。

気になる自分を納得させて、立ち上がる。

 

 

「さて、まずは魔法だったな。

 授業はここからが本番だ。よく聞いておけよ」

 

「了解」

 

 

 

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