転生魔導記   作:青い灰

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4話 卒業試験

 

 

 

 

「………むう」

 

 

魔力の流れを意識で掴み、それを繋げていく。

まるで針の穴に糸を通す作業を何度も続けるような、そんな地道かつ繊細な作業に、思わず声を漏らす。

こんなにもしんどい魔力技術もあるとは思わなんだ。イライラしてきた。

 

 

「おい、始めの術式がほどけ始めたぞ。

 何をタラタラやっている」

 

「話しかけんな……!」

 

「言わねば分からんだろ」

 

 

そうして次の魔力を繋げた瞬間、その魔力の繋がり、〝術式〟の全体が崩壊する。一瞬で。全部。

 

放心。

 

 

「………………………………………ァ」

 

「そら見たことか」

 

「もうやだぁ!!!」

 

「発狂するな。ダンテ、お前は何故こうも

 魔力を巧く扱える癖に結界術は上達せんのだ」

 

「知るかよもおおおおおおお!!!」

 

 

追撃の口撃に、雑に魔力を集めて目の前の岩塊へ向け魔力剣を投げつける。ばぎっ、と音を立てて魔力剣は岩に突き刺さり、そして溶けるように消失。続けて、その深い痕に向けて炎の弾丸を連続で叩き込んで岩を粉々に破壊する。

 

 

「………はあ、はあ、はあ」

 

「元はアレを保護するための結界術なんだがな」

 

「んなもん知るかーー!」

 

「………もう結界術は諦めた方が良さそうだな。

 基礎の『き』の字も覚えられていないが、

 3日やってそれでは絶望的としか言えん」

 

「造ったり直すより壊す方が早い!」

 

「結界の破壊ばかり得意になりおって」

 

 

先生の冷めた目がこちらに突き刺さる。

魔力を繋ぎ、そして空間を分ける魔術体系。それが、〝結界術〟と呼ばれる魔力技術だ。三日やったのだが出来たのは魔力の繋がりを感知して破壊、解除までは習得できた。そして肝心の結界は張れていない。

 

永遠にマラソンゲーしてるような気分だ。魔力を掴みそれを結び、を繰り返すだけがこんなにも辛いとは。賽の河原での積み石と同じくらいしんどいわ。

 

 

「………まぁいい、結界術は諦めるか。

 無理難題を続けても気概が削がれるだけだろう」

 

「割と楽しくはあるぞ。腹立つけど」

 

「結界術習得よりも、この森が

 焦土になるのが早いだろうがな」

 

「それはそう」

 

 

思わず頷く。

ぶっちゃけ絶望的過ぎる。先生の教え方は上手いが、多分これは自分の才能的に無理なやつ。アレルギーで例えるのが一番分かりやすいだろう。ほんとに無理。

 

 

「なら……他に教えることは殆ど無くなったな」

 

「え、もう終わりか?」

 

「私の知る限りではな。

 一般的な魔法と魔術は全て教えた。

 言っておくが、もう修行を始めて五年だぞ?」

 

「楽しい時間は過ぎるのが早いな……五年!?」

 

「五年だ」

 

 

全くいつの間にそんなに過ぎてしまったのか。

ずっと森にいるからか時間感覚が狂ってしまったな。暖期と寒期とかいう季節は分かるが、今何年、つーかそもそも何暦なんだ今は。暦すら分からんのだが。

 

いや、そりゃあ沢山の魔法やら魔術やら使えるようになったり、その他にも色々あったが、まさかここまで早いとは思わなかった。

 

 

「お前は森から出ていないからな。

 そろそろ世界の広さを知ってもいいだろう」

 

「先生が過保護すぎるから」

 

「この森で死にかけた回数を言ってみろ」

 

「32回」

 

「お前は死ぬのが怖くないのか」

 

「流石に右腕と右足が千切れた時は怖かった」

 

「魔獣の縄張り争いに突っ込んだときだったか?

 命知らずにも程があるだろう」

 

「熊のヤバさを再認識した」

 

 

熊に右腕を根元からへし折られて千切られた挙げ句、足から喰われそうになって右足を喪失、赤の魔力まで解放、一帯の森ごと更地にしてなんとか倒した。

まぁ失くした腕と足は生やしたのだが。

 

なんでも別の地域から紛れ込んだ魔獣の変種らしい。熊やベーわ。他の魔獣はともかく熊はダメだ。

その他にも狼に襲われて群れに囲まれたり、そういやドラゴンに出会したこともあった。翼のない、地竜と呼ばれているらしいが、まさかドラゴンなんて生物と会えるのは驚いたものだ。すげぇよ異世界。

 

 

「まぁ、お前も独り立ちの時期だろう。

 私も少し調べたいことがあってな」

 

「手伝うぞ?」

 

「いや、いい。危険も伴うものだ。

 お前は、自分のやりたいことを探せ」

 

「やりたいこと、っつってもな」

 

 

そんなものないし。でも仕事は必要だろう。

……異世界での仕事とは?

 

 

「魔法とか魔術使う仕事ってなんかあるのか?」

 

「魔導屋だな。封印物の解除、

 魔導書の解読、魔道具の作成なんかだな。

 お前でも出来るだろうが……稼ぎはどうだかな。

 王都の城下でなければ収入は殆どないだろう」

 

「そもそも商売なんてやったことないしな……」

 

「……そうだな、お前は魔獣も倒す実力もある。

 冒険家なんてどうだ?」

 

「冒険家に稼ぎが見出だせないんですが」

 

 

万に一の一攫千金か死ぬかでは?

と、思ったが、先生は「あぁ」と納得したように頷く。

 

 

「冒険家、というのも名ばかりだ。

 実際は魔獣や盗賊退治、薬草から鉱石採集……

 そういった、所謂〝何でも屋〟だな」

 

「へぇー……それなら稼げるかもな」

 

「それに名のある冒険家には名前通り、

 未踏領域と呼ばれる未知の地域への侵入権も

 与えられると聞く。ほんの一握りではあるがな」

 

「未踏領域?」

 

「世界の全てが流れ着く漂流地。

 万物がそこにある、とまで言われている場所だ。

 その位置は冒険家ギルドの上層部、そこでも

 一握りの者しか知らされていないと聞く。

 無論、私も知らん」

 

 

この世界も色々あるんだな、とぼんやりとした想像を巡らせる。しかしやはり、男ならばそういった未知の冒険は心が踊るものだ。

 

それにしても、冒険家か。

何でも屋なら仕事は選べるし、何をするにしてもまず自分が何に向いているかを知るのが大切だ。ここは、その冒険家とやらを目指してみるのがいいだろう。

 

 

「冒険家になるにはどうすればいいんだ?」

 

「冒険家ギルドを探してみるといい。

 ギルドの数は多いが、評判のいい所を探せ。

 お前の実力ならどこだろうと入れるだろう」

 

「そうかな……」

 

 

三途の川を何度も往復してるせいであまり力に自信はないのだが。まぁ先生とやり合えるようにはなったし大抵の魔法や魔術なら対応出来るだろう。

…………というか。

 

 

「なんか出ていく前提で話してないか?」

 

「あぁ、出ていけ」

 

「急過ぎない!?」

 

 

思わず叫んでしまう。勘当されるのが早すぎる。

それに、先生は頷いて続ける。

 

 

「少し調べたいことがあって遠出する。

 もう会えるかも分からん」

 

「そうなのか?」

 

「あぁ、恐らくな。

 お前は、お前のやりたいことをやれ」

 

「やりたいこと、ね……」

 

「森の外に出ればすぐ見つかる。

 それと一月分の路銀も準備してある。

 私は明日発つが、お前は好きにしていい」

 

「明日!?」

 

「あぁ」

 

 

そういうことはもっと早く言うべきでは?

報連相はしっかりお願いします先生。

げんなりしていると、突如として先生の魔力が急速に膨れ上がる。だから急にそういうことするのやめて。

 

怯えながら後退りする俺に対して、先生は手を振って魔力を収束、青い魔力の長槍を造り出す。やばい。

 

 

「さて、卒業試験といこうか。

 私が良しと言ったら合格だ」

 

「合格出来ない場合は」

 

「森ごとお前を10年封印する」

 

「怖っ!?」

 

 

なんだか授業重ねる度にしんどくなってる気がする。慌てて後ろに下がって、腰に差していた杖を構える。

 

それは木を削り出しただけの長杖だが、何度も魔力を込めて、魔力技術出力を引き上げる触媒としたもの。それを片手に握り、もう片手では成形魔術を発動してこちらも青い魔力剣を造り上げる。

 

 

「良し、来てみろ」

 

「……!」

 

 

先生はそう言い、クイクイと手で挑発する。

 

ならばやってやろうではないか。

芝生を蹴り、同時に杖を振るって火のエレメンタルを活性化、炎の魔法を発動する。

 

 

「〝レフィ、ショット〟!」

 

 

魔法は、体系化されている。

エレメンタルの魔力は自由自在ではなく、不安定だ。故にこそ、こうして制御するための〝形式〟がある。決まった型に沿って魔法を扱うのは簡単で制御もまた容易く、威力も安定している。

 

杖を、先生へと向ける。

 

周囲に四つ、魔力の炎を発生。弾丸の形へ収束させ、それを連続で発射する。ある程度まで収束した魔力は仮初めの質量を持ち、半物理的な威力を持つ。

 

………同時に一つ、魔力だけの弾丸を生成。

エレメンタルに干渉しなければ魔力だけでそれは形を得ずに、認識もされにくい。その弾丸へ、更に魔力を集中させていく。魔力から探知する可能性もあるが、同時にエレメンタルを干渉させないことで次弾装填と思わせる頭脳プレイ。

 

そして発射したのは、先程、岩を粉々にした魔法だ。

 

 

「────────。ふふ、収束が甘いぞ」

 

 

無言で放たれた魔力の衝撃波が、それを消失させる。

 

相反した魔力は、より大きな魔力の前には無力。

魔法の炎弾は、それより遥かに魔力の収束効率の悪い〝衝撃波〟により打ち消された。

 

………魔力の収束効率、収束速度は個人差が激しい。

俺はあまり得意でないから手数で勝負してるのだが、それを相性無視で消し去れるのはいい気分じゃない。大人げないだろ。

 

そうして笑った先生は、槍を逆手に高く掲げる。

直に触れてこそ、魔力の伝導は早くなる。槍を地面に突き刺されれば、とんでもない手数と威力の地魔法が襲いかかってくる─────のは、分かっている。

 

 

「させるか───!!」

 

「!」

 

 

杖を、その槍へ向け直す。

魔力を収束させていた弾丸に火をつけ、他の火の弾とは段違いにまで収束させた魔力で発射する。速度、威力は他の弾の約2倍まで引き上げた、が。

 

 

「ふ、小賢しい」

 

 

軌跡を引き弧を描く槍の一閃が、それを叩き落とす。電撃が走るような魔力の衝突、それに先生は、余裕の表情、だが。それと同時に、背後へ杖を向けて今度は風のエレメンタルを活性化させる。

 

 

「エーレ、ブラスト────!」

 

 

風の衝撃波を背後に放ち、急加速。

魔力剣を構え、懐へ潜り込む。

魔力での格上相手に魔法勝負などやっていられるか。先生の首目掛けて剣を引き絞る。

 

 

「近接戦といこうか」

 

「っ、はぁっ!!」

 

 

そして突きを放った瞬間に槍で弾き上げられる、が、返す刀で再び斬りつけ、引いて戻された槍とこちらの魔力剣が衝突、再び魔力が弾け、その衝撃に一歩だけ下がり、剣を造り変える。

イメージは戦鎚。重く、そして強靭に、叩き潰す。

 

 

「ほう」

 

「せぇあっ!!」

 

 

それを思い切り横に振るう、が、先生は後ろへ跳んで回避、すると同時にその手にある槍が、青白い弓矢へ形を変え、矢をつがえた弦が引き絞られる。

それを確認すると同時に、成形魔術を霧散させ、杖をその矢へ向け構えて炎のエレメンタルを活性化。

 

 

「成程、考えたな」

 

 

レフィショット。

複数の炎の弾丸が赤白い軌跡を描き、三つに分裂した魔力の矢を捉え、それを爆炎に呑んでいく。着弾して爆発を起こす魔力の矢は速度は遅いが、近接の武器で弾こうものなら爆発に呑まれてしまう。しかし、魔力をぶつければ矢は安全域で止められる。

 

逃がさない。

連続で周囲に魔力を集め、大量の炎弾を連続で掃射。物量で押し潰して─────とは、いかず。

 

突如吹き荒れる爆風が炎を打ち消し、大きく後ろへと吹き飛ばされ、その風に合わせ巨大な槍が飛来する。

 

 

「っ……うぉ!」

 

「接近戦がお望みなんだろう?」

 

「ちっ! んの……!」

 

 

即座に剣を造り直し、巨槍をなんとか弾く、が。

それをキャッチされ、形を変えられる。

 

着地と同時に地面を蹴り、剣を叩きつけるが、先生もまた新たに長剣の形を成した魔力で、それを受ける。魔力同士が弾け、青い魔力の火花が散る。

 

 

「らぁ、っ!!」

 

「ふふ」

 

 

縦横無尽に剣を振るう、が、それを全て叩き落として先生は笑みを崩さない。縦、横、袈裟、もう一度。

打ち込む全ては青いスパークと共に弾かれていく。

 

 

「────し、ァ!!」

 

「!! っく……!?」

 

 

が、そうして一刀で打ち込むと見せかけ、杖を魔力で覆って二本目の剣を叩き込む。流石のそれには先生も目を見開いて、同じように二本目の小さめの槍を造り防御する。一層強い魔力のスパークの、その裏側で、やっとこさ先生の笑みが、焦りのそれへと変わる。

 

笑みは深まるが、その目には焦りが浮かんだ。

それを目にしてつい嬉しくなり、一歩下がった先生へ更に追撃、両手の剣の形を変化させて、巨大な斧槍、ハルバードを成して、大きく、強く振り下ろす。

 

 

「ッ…! はは、小賢しい……!!」

 

「伊達にあんたの生徒やってない、からな!!」

 

 

二槍を重ねて防御、上へ弾きあげられた斧槍を引き、踏み込みと同時にその槍で突き込む。先生は、それを両手の槍を重ねたまま変形、幅広の巨大な剣を形成しその巨剣の腹で、槍を受け止める。

 

だが、防がれるのは想定済み。

 

 

「おぉ、らッ!!」

 

「っ! 緩い!!」

 

「っお!?」

 

 

槍を滑らせ、斧で一閃……を、狙った一撃。

だが、それは巨剣の裏から現れた二本目の短剣により叩き落とされ、酷く体勢を崩してしまう。調子ついた罰だ、とでも言わんばかりに先生は笑みを深め、握る巨剣を大きく振り上げる。

 

 

「っ、跳べ────!!」

 

「何!?」

 

 

一か八か、杖に魔力を込めて〝転移魔術〟を発動。座標はすぐ背後、巨剣が当たらない位置。

 

空間がぐにゃりと歪み、弾き飛ばされるような感覚と共に重力が消え去るのを感じ取った瞬間に、背中から地面に落ちる。

 

 

「「〝レフィ、ショット〟────!!」」

 

 

即座に横に転がって起き上がり、先生へと杖を向け、そして声が重なる。同時に互いの周囲で灼熱が収束、弾幕の炎が視界を埋め尽くす。

 

衝突する炎の弾丸の雨。

 

そこへ、更に風のエレメンタルを活性化。

杖を向け直す。

 

 

「〝エーレ、ウェイブ〟!」

 

 

風を杖先に集め、薙ぎ払う。

波のように進む強風が爆炎を吹き飛ばし、そして。

 

凶暴な笑みと共に大きく体をひねる、先生の姿。

 

 

 

「──────やっべ」

 

「吹き飛べ」

 

 

 

爆炎と強風を一気に散らして、巨槍が投擲される。

 

咄嗟に魔力のシールドを全方向に展開し、それでも尚ひび割れるそれを、更に魔力で補強。

そして、その槍が俺の眼前で破裂、崩壊する。

 

 

 

 

衝撃波。

 

 

 

 

恐らくは重力魔法と自壊魔術による、魔力の爆発。

 

自壊魔術。組み込んだ魔術の魔力を増大するが、だが組み込んだ魔術は数秒で自壊してしまう使いどころが限られるそれを、形成魔術に付与して投擲することで爆弾と化して威力を底上げしたらしい。

 

滅茶苦茶になる視界で、地面が捲れ上がっていく。

まさに爆撃とでも云うべき馬鹿げた威力でそれは俺を大きく宙に吹き飛ばす。

 

 

「っっっ………!!!」

 

 

間一髪、シールドが間に合わなければ即死していた。空中で何とか方向感覚を取り戻し、そして改めて下の先生を見下ろせば、既に風のエレメンタルが活性化、弾丸としてこちらに襲いかかってくる。

 

 

「〝エーレショット〟」

 

「っ、くそっ!?」

 

 

風の魔法は速度と範囲に特化している。

威力の底上げには魔力と魔法の改造が必要だが、ただそれが先生の魔力と出力で放たれれば、また一撃での即死が有り得てしまう。

 

全て撃ち落とす。

成形魔術を周囲に展開、浮かぶ魔力の短剣を複数個、それは脆いが魔法を撃ち落とすくらいは出来るそれを雨のように発射、風の魔法を叩き落としていく。

が、それにより形成魔術が崩壊、手にあった魔力剣が消滅し、術式が回復するまでのクールタイムが発生。接近戦を封じられてしまう。

 

 

「やるしかないか……!?」

 

 

切札は二つ。

片方は赤火の魔力の解放、こちらは駄目だ。

もう片方は…………………やれるだけ、やるしかない。

 

 

魔力(オーバー)──────ぐぇ!?」

 

「させんぞ」

 

 

そして突如、背後に現れた先生の言葉と共に、首裏を鷲掴みにされる。集中が途切れ高まる魔力が霧散し、切札は不発に終わる。

 

 

「多少とはいえ、()()は溜めがいるだろう。

 その魔力の高まりといい、隙だらけだ」

 

「ご教授どうも…っ、ごがっ!?」

 

 

そのまま転移が発動、地面に顔面を叩きつけられる。なんとか目を瞑って土が入るのを防ぎ、押さえつける力が消えたことに気がつく……瞬間。

 

 

「ご、っ」

 

 

腹部の地面が爆発、空気が押し出され、息が詰まる。再び高く打ち上げられ、かと思うと。

 

 

「耐えろよ」

 

「っ、は──────!!?」

 

 

腹に、拳が突き刺さる。

重力魔法で強化された重さの拳は、体どころか内臓をぐしゃぐしゃにされたような錯覚すら覚える。自分の身体がゴムボールみたいに吹き飛ばされるのが分かり激痛は後から襲ってくる。

本当に容赦なさすぎる。死んじゃうぞ。

 

それに、エレメンタルを介さない重力魔法は、単純に使用者の魔力に依存した威力を発揮する。先生もその威力くらいは調節できるだろうが、これは、まずい。

 

 

「………っ、が、ぁ……っ!」

 

 

地面に受け身も取れないまま叩きつけられ、そのまま身体は自由をきかず、ごろごろと転がっていく。石と砂が肌を引き裂く感覚は、どうにも慣れがたい。

 

それでも、まだ立てる。まだ動ける。

重心をずらして転がるままに立ち上がり、杖を構え、改めて先生を視認する。追撃はない。

 

 

「……っ、は……っ、殺す気かよ……!」

 

「殺す気ならお前はとっくに死んでいる。

 街中ならともかく、外で国の法は機能しない。

 全力でやらなければお前も呆気なく死ぬぞ」

 

 

 

 

 

……そう。そうなのだ。

日本のように、地球のように文明が進んでいる世界。その前提あってこその、〝愉しみ〟から来る魔導への興味。ただそれは、この世界にとってのそれは。

 

他者を、間違いなく拒絶するためのものだ。

 

それは、どうしようもなく、殺すための技術だった。成形魔術の魔力が、剣を形造ったように。

 

だからこそ、だからこそ。

俺は、その力を振るいたいとも、また思う。

 

それは自己顕示。それはエゴ。それは、悪心。

他者を踏みにじりたいと、心のどこかにあるそれが、間違いなく叫んでいる。

 

 

 

……………僕は、人でも、殺したいのだろうか。

 

 

 

いや、いや、違う。

 

だからこそ、だからこそ。

 

正しく、在れるように、だろうが。

 

そうでなければ、前世と同じだ。

俺は何者にもなれないまま、また終わる。

 

そうなるわけには、絶対にいかない。

 

 

 

 

いや、いや、いや。

今はそんなこと考えてる場合か。死ぬわ。

 

 

「ふ、ぅ」

 

 

ともかく、今は全身全霊で行くしかない。

息を整えて、魔力を集中。全身の血の巡りを意識し、身体中の動きを、骨と筋肉、心臓と肺が膨らむまで、全てを意識するように、集中していく。

 

ここは前世とは違う。

常識から異常まで、何から何まで違う世界。

だからこそ、適応しなければ。

郷に入っては郷に従え、である。

 

 

「………良し、なんでもいい。

 お前のできる限りの一撃を撃ち込んでこい。

 卒業試験の合否はそれで決めるとしよう」

 

「あれっ、今までのは!?」

 

「ただの前座だ馬鹿者め」

 

「前座で殺されかけたの俺!?」

 

 

ひどい。

森を出てもこんな強すぎる連中ばかりなのだろうか。異世界って予想以上に厳し……

いや、現代日本がぬるいのか? 多分そう。

 

………まぁ、何はともあれ。

デカイの一撃なら簡単だ。赤い魔力を

 

 

「赤い魔力と先のあれは使うな。

 今の状態、その自分の魔力だけでやれ」

 

「えー……」

 

「黙ってやれ」

 

「へーい」

 

 

禁止ですかそうですか。

ていうかアレそんなにヤバい力なんです? さっきの切り札も封じられたし。とはいえ、使うなと言われてしまっては仕方ない。今の自分に出来る最大限でだ。

 

杖を先生に向けて構える。

その先端に魔力を集中させる。全身に血が流れるのに似て、それは意識しても分かりにくい感覚。少しずつそれを体外に、そして、杖の先に意識を移動させる。

 

 

「──────ふ、ぅぅ」

 

 

息を吐く。目を閉じる。

時間が十二分にあるうえでの俺の最大火力は魔術だ。先も言ったが、俺は魔力収束が苦手で、魔法は魔力を無理やり収束すると活性化させたそのエレメンタルが耐えきれず、魔法は不発に終わってしまう。

 

故にこそ、魔術という手段を用いる。

魔術は成形魔術や転移魔術の他、強制睡眠や魅了など様々なものがある。だが、その中でも特に用いられる魔術が〝魔力術〟だという。

 

 

 

魔力術。

それは最も古く、そして最も普及した魔術。

魔力を集め、固め、そして発射する。

発射した後の軌道の操作こそ出来ないが、それはただ魔力の塊。エネルギーそのものである。

 

 

 

先生によれば本来全ての魔法使い、魔術師、魔導士はこの魔術から始まるのだと。

 

魔力を収束させる必要はなく、そこに集めて、ただのビームとして打ち出すだけで良いのだ。単純明快で、そしてだからこそ強力な魔術。魔術師は基本的にこの魔術を使って戦闘を行うらしいが、この魔術は威力を求めるなら溜めが長すぎるという欠点もある。

 

低威力のまま使い弾幕を張る、

または時間をかけて強大な一撃を放つ。

 

魔術師なら、この二択だ。

ただ魔法も使えるならエレメンタルの力を付与できるショット系統の方が威力が高く、魔力効率もいい。

それでも物理的な威力を求めるなら、核とするための弾丸そのものはこの魔術を使う必要がある。

 

 

 

 

だが。

時間があるのなら、この魔術は強大だ。

 

ありったけの魔力を集めていく。

俺は魔力の自動回復量が通常の人間より多いらしく、実際に尽きたことはないし、無尽蔵ではあるのだが、こうして放出し続ければ流石に限界値が見えてくる。

 

それでも足りないそばから、ほんの少しずつ、魔力が戻ってくるのが分かる。だが、これに使う量は、俺が本来持っている魔力量まで。そうしなければ、周囲の魔力が枯渇するまで半永続的に威力を高められるし、先生は『今の状態、自分の魔力で』と言った。

 

 

 

ならば、ここまでだ。

 

目を開ける。

 

 

 

「……よぉし」

 

 

杖の先端に青白く輝くのは、渦巻く巨大な魔力塊。

それは俺の背丈すら越え、また触れた地面を抉り取る大きさで、ごうごうと風を巻き込む。

 

要は、魔力そのものによる質量攻撃。

収束効率は絶望的だが、魔力さえあればこんなもの。さぁ、これが今の自分にある最高出力。

まだ切り札があれば威力なんぞ幾らでもあるが、だが俺の人間としての最大のパフォーマンス。

 

先生は腕を振るい、何重もの魔力の障壁を展開する。これを全部ぶち抜けば合格ということだろう。

 

 

「行くぞぉ、先生!」

 

「来い」

 

 

杖を押し出すように、それを、放つ。

渦巻くそれは、一際大きく輝きを放った、瞬間。

 

 

「………っ……!!」

 

 

荒れ狂うような衝撃が、反動として俺に襲いかかる。杖を両手に、足を踏ん張って、それに耐える。

次いで、閃光が視界を埋め尽くす。

 

魔力の熱線。

それは地面を抉りながら、だが一切の威力を落とさず先生へと迫っていき────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ、合格だ」

 

 

 

その言葉と共に、閃光が晴れる。

最後に残ったのは、たった一枚の、だが分厚い障壁。あと一歩、あと一歩だけ、届かなかったらしい。

 

 

「…………っ、は、ふ……」

 

 

脱力。杖を下ろし、息を吐く。

 

 

「あと、一枚かよ」

 

 

散り散りになっていく魔力の光の中。

そう言って、俺は半笑いで溜め息をついた。

 

 

先生は、いつもの余裕な笑みを崩さないまま。

 

 

 

「これからも鍛練を怠るなよ、ダンテ」

 

 

 

そうして、俺の名を呼んだ。

 

 

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