転生魔導記   作:青い灰

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6話 宿女将の依頼

 

 

 

 

「いやぁ、助かりやした!

 へへ、それに魔獣の部位まで貰えるとは……

 その対価が村まで乗っけてくだけでいいたぁ、

 兄ちゃんたちも気前のいいことだ!」

 

「気にしなくていいよ、無事でなにより」

 

「あぁ。それに私は元より、護衛が仕事だ」

 

「へへへ、報酬は倍額でもいいでしょうねえ。

 魔獣の革に、翼の皮膜に、爪に牙!

 こりゃあっしもボロ儲けできましょうや!」

 

 

愉しそうに笑うのは、大亀の平べったい甲羅の上へと鳥の魔獣から剥ぎ取った素材を並べる御者、もとい、商人であるらしい、禿げ上がった中年の男だ。

命の危機に晒されていたというのに、全く立派な商売根性である。揺れる荷台の上で、俺は苦笑いしながら鳥の魔獣の肉を串に刺す。そして、その対面側には、あの黒マントの男が同じように肉を串に刺している。

 

あれから、俺は近くの村に向かうという荷車の商人に頼み込んで、魔獣の売却できる部位と引き替えにして荷車に乗せてもらうことになっていた。

荷車を引く大亀の魔獣は、割と早く進んでいく。

揺れはあるが、気にならない程度だ。

 

 

「さて、では自己紹介でもするべきだろう。

 短い旅とはいえ、道行きを共にするのだからな」

 

「ん。それもそうだな。

 お前のその尊大な口調も気になってたところだ」

 

「フ、嫌われてしまったらしい」

 

「なんか……ムカつく」

 

「ハハハ、酷いものだな」

 

 

堪えきれなくなった様子で笑う男に、俺は苦い顔。

やりにくい相手だ。なんというか性格的に合わない。そんな感じがする。

 

 

「私は……そうだな、マルタと呼んでくれ。

 出身はリーファス。しがない旅人だ」

 

「しがない旅人ねえ……

 しかしリーファスって、大分遠くから来たな」

 

 

リーファス地方、というと、俺たちがいることになるラキア地方からは海を越えた先だ。ラキアは島国で、隣国のリーファスとは貿易関係にあると習った。

なんでも古い不戦条約が今も有効であるのだとか。

 

 

「色々あってな。今はラキアを見て回っている。

 一応、冒険家としての資格は持っている」

 

 

そう言ってマルタは肉を刺した串を、薪の上に置いた金網に並べる。俺もその横に串を並べ、薪の傍で指を鳴らして火のエレメンタルに干渉する。

 

 

「レフィ」

 

 

そう唱えれば、薪に小さな火がつく。

それはすぐに広がっていき、ぱちぱちと音を鳴らす。あとは焼けるのを待つだけだ。鳥の魔獣は大きいだけあって、可食部もかなりある。今は腿の部分を焼いて他の肉は向かう先に売り出す予定らしい。

 

しかし異世界に来ても焼鳥が食えるとは。

タレか塩が欲しくなる。

 

 

「ふむ。便利だな、火の魔法は」

 

「戦闘でも料理でも最適なんだよな。

 大抵のもんは火ぃ通せば倒せるし食えるし」

 

 

敬意もクソもない言い方だが、しっかり叩き込まれた成果もあってか威力が落ちたりすることはないのだ。人類の叡知である火を起こすエネルギーが、世界中に満ちていると思うとやっぱ異世界すげぇなってなる。

そうやって串を回しながら、自己紹介を始める。

 

 

「名前はダンテ。魔導士。

 森で暮らしてたから外に出るのは初めてだ」

 

「………キルクスの森から出てきたな。

 まさかあの森で暮らしていたのか?」

 

「そうだけど」

 

「………」

 

 

怪訝な顔をするマルタ。

そうか、あの森、結界のせいで出入り出来ないのか。確かにそんな森で暮らしてたとあれば……

言葉選びを間違えたか?

 

 

「そうか」

 

「追及しないんだな」

 

「聞いても無駄だろうさ。

 大火事が起きてもすぐに鎮火するような森だ。

 そんな森で人が暮らしていてもおかしくはない」

 

「……………そうだな」

 

「なんだその沈黙は」

 

 

その火事起こしたの大半が俺。あとは先生がやった。全力で目を逸らしながら何とか話題を変えようと頭を回す。そう、そうだ、目的地について聞こう。

 

 

「えぇ、っと……村。

 村に行くって言ってたよな。どんなとこなんだ」

 

「露骨に話題を変えたな」

 

「う……」

 

「フッ、そう嫌そうな顔をするな。

 それと、目的地には私も行ったことがない」

 

「目的地ならカロンって名の村でさ。

 海の近くで、魔獣も少ない穏やかな村でねえ」

 

 

顔を上げ、御者商人の話に耳を傾ける。

 

 

「どっ、せいっと!」

 

 

立ち上がった彼は大亀の前方に、切り分けた鳥魔獣の肉を投げる。大亀はそれを首を持ち上げて口で見事にキャッチ、「グウウウ」と嬉しそうに唸る。ちょっと可愛げのある亀だな。

 

 

「宿もありやすよ。

 兄ちゃん、路銀はあるんですかい?」

 

「おう、ばっちり」

 

「なら心配ありやせん。

 あそこの宿、金は取りますがメシは

 王都でも食えねえような旨ぇ魚が出てねえ。

 おすすめですよ、『沈む夕日亭』って宿です」

 

「おぉー、そりゃ楽しみだ。魚かあ」

 

「……近年は魔獣の活発化が激しいらしいが、

 漁もまだやっているのだろうか」

 

「あぁ……それは分かりやせん。

 あっしが行ったのはもう三年前でして。

 ここ二年くらいですもんねえ、魔獣の活発化は」

 

 

おや、そんなことになっているのか。

きょとん、とした顔をしていると、マルタがこちらに気付き、「あぁ」と頷く。

 

 

「御者の言う通り、二年ほど前からだ。

 魔獣の行動範囲が目に見えて拡大していてな。

 この大亀のように人に近しい魔獣なら

 問題はないのだが、魔獣の気性が激しくなり、

 また昔ならば人を襲うことのなかった魔獣が

 人や家畜に襲いかかった事例も増えている」

 

「へぇ……そんなことになってたのか。

 そういや森でも魔獣同士の縄張り争いが

 増えてたりしたな。そういうことか」

 

「世界中でも同様らしい。

 リーファスでも学者が冒険家を動員して

 調査を行っていたのを見たことがある」

 

「あっしら商人ギルドの運送組も困ったもんで。

 どうにも魔獣はおっかねぇし……

 こうして護衛もつけねぇと不安なんでさ」

 

 

どうやらかなり大変な事態らしい。

前世なら動物の本能なんかが反応するらしい大規模な災害の予兆もあるとか言われていたりしたようだが、この世界でもやはりそうなのだろうか。

 

 

「あの鳥の魔獣も、本来の生息域はリーファスだ。

 どうやら奴等も海を渡ったらしいな」

 

「ほーん……」

 

 

それはまぁ大変だろう。

国や大きな都市などは高壁に囲われているらしいが、それもない村やら町は被害も大きい筈だ。原因もまだ分からないのなら対処のしようもないだろう。

 

そして考え込んでいると、マルタがこちらを苦い顔でこちらを見ているのに気がつく。

 

 

「? どうした?」

 

「いや、肉が……」

 

「あっ」

 

 

焦げた。

 

 

 

 

 

─────

──────────

 

 

 

焦げた肉を渋々口に運び、そして次の肉を焼く。

鳥魔獣の肉は案外あっさりしていて、脂もしっかりと乗っている。塩がタレが欲しいが、そのままでも十分食べられ、勝手に手が進むほどに美味しかった。

 

そうして小一時間ほど馬車が進んだくらいで海沿いと小さな村が見え始め、やがて村に到着する。

 

 

海風の心地好い、小さな村。

高い木の柵に囲まれ、入り口はアーチのようになり、そこをくぐれば、煉瓦造りの家々が建ち並ぶ。どこか郷愁すら感じるような、静かな村だった。

 

そのアーチを抜けた辺りで、馬車…亀車?は止まる。

そこで、俺たちは荷車から下り、御者商を見上げる。

 

 

「カロンの村に到着でさ。

 兄さん方、護衛あんがとうございやした」

 

「こちらこそ助かった、御者殿。

 貴殿の商売が上手くいくことを祈っている」

 

「俺まで乗せてくれてありがとう。

 今度会ったときは何か買わせて貰うよ」

 

「へへへ、兄さん方もお気をつけて!」

 

 

カラカラ音を立て木の車輪が進んでいくのを見送る。そして、俺は何気なく隣で同じようにそれを見送ったマルタへと目を向けた。彼はそれに気が付くと、その心中を見透かすような黒眼を合わせてくる。

 

 

「で。あんたは?」

 

「私は夕日亭に向かう。

 案内が欲しいなら私がするが?」

 

「……頼んでいいか?」

 

「構わないとも」

 

 

何かどうにも気に食わないが、流石に来たこともない村でうろうろするのも恥ずかしい。この口振りならばこの男は来たことがある村なのだろうし、折角なので頼むとする。マルタは肩に紐付きの革袋をかけると、先導して歩き始め、それを追って俺も足を進める。

 

 

「そういえば、君は王都を目指しているのか?」

 

「急だな。別にそういうワケじゃない」

 

 

目指すのは……特にない。

別に王様だとか英雄だとかになりたいワケでもない。適当に稼いで、適当に魔導士としての研鑽を積んで、適当に幸せだと思えるような生活が出来ればいい。

人生なんて流れるままが一番。こうなれ、ああしろ、とかいう連中は前世だけで死ぬほど嫌いになったし、育ててくれた先生はそうじゃなかった。

 

その『稼ぐ』という面で、冒険家が良いと思った。

力を得るために、魔道に手をかけた。

それだけだ。

 

だがそれをハッキリと言語化するのは如何なものか。そう思い、少し考えて。

 

 

「言うなれば………自分と職探しの旅かな」

 

「フッ」

 

「鼻で笑われた!」

 

 

まぁ確かに鼻で笑われる内容だけど。

マルタはそれに「いや、すまない」と笑みを浮かべて返すと、視線をこちらから離して、道の先へ……

……いや、どこか、遠くを見ているようで。

 

 

「自分探し、という点では、

 私もあまり変わらない目的だったな」

 

「お前そういうタイプなのか」

 

「容赦ないな君は」

 

 

そういうのには困らない人間でもないらしい。

割と引いた目でこちらを見てくるマルタもまた、己を探して旅をしていたとは。少しばかり意外であるが、人は言動に依らないというものか。

 

………自分に自信がありますよ、みたいな。

そんなちょっと上からなのが鼻につくが、実際はこの男もそうでなかったりするのだろうか?

 

 

「……少しばかり、縛られるものが多くてな」

 

「ふーん」

 

「……お前も追求しないのか?」

 

「興味がないワケじゃないけどな」

 

 

素っ気ない返しに、マルタは少し意外そうにする。そりゃあ、あんな複雑そうな顔をしていれば察する、まではいかずとも、何かあるのだろうな、とは思う。

 

それに気にもなるし、この完璧そうな男にもそういう抱える問題がある、というのは、なんだか、嫌悪感が薄らいだような感じもある。同じ人間なんだなって。

 

 

「人それぞれ、問題もそれぞれあるもんだろうよ。

 そこに首を突っ込みたがるのは野暮だろ」

 

「そうか」

 

「何か手伝えることがあるなら聞くぞ。

 これも何かの縁だし。……報酬にもよるけど」

 

「…………フッ、そうだな。

 いつか、君に依頼することもあるかもしれん」

 

 

そう言って、マルタは気障ったらしく鼻を鳴らす。

調子は戻ったようで、そしてその口元には、いつしか失われていた笑みが戻ってきているのに気がついた。この男はそうして気取っているのが似合うとすらまで思ってしまうほどに、なんだか気を許せた気がする。

 

 

「で、お前の旅の目的は?

 ただの旅行、でもないんだろ」

 

「さて、な。気が向いたら教えよう」

 

「お前の気が向くのに何十年かかるか、

 それも含めて楽しみにしとくよ」

 

 

そんな冗談を交えつつ、村の通りを進む。

そうして雑談をしながら進んでいくと、マルタが足を止め、それに合わせて、俺も足を止めて、その視線の方へと顔を向ける。

 

 

「ここだ」

 

「んお………」

 

 

そこにあったのは、大きな木造二階建ての建物。

両開きの扉の上にある看板には『沈む夕日亭』と黒く書かれており、確かに、遠くには海が見えた。

成程、沈む夕日が見える宿、そのままだ。

あの二階からなら、水平線に沈む夕日、なんてかなりロマンチックな光景が見られそうだ。

 

………そもそも、空に浮かぶアレが太陽なのか。

太陽と月は共通認識らしいし、前世と全く変わらない世界で、ここは宇宙のどこか…なんて可能性もある。

割と、ここ異世界ではなかったりするのだろうか?

 

 

「………どうした?」

 

「いや……お前さ、記憶を持ち越したまま

 生まれ変わる、なんてこと信じられるか?」

 

「突然だな」

 

「どうだ?」

 

 

聞けば、マルタは「ふむ」と手を顎に当て考え込む。

 

…………しかし何やっても絵になるなこの男……

そんなイケメン野郎への僻みを向けていると、意外なことに、マルタはその首を縦に振った。

 

 

「有り得る、のではないか?

 英雄譚、御伽噺の一部には、英雄や勇者は

 巨悪を討ち、目的を遂げた後には

 美しい鳥へ姿を変える、という話が多い」

 

「へぇ、そんなんあるのか?」

 

「あぁ、有名なのは大賢者ミカールの物語か。

 彼は争いに満ちていた世界に突如現れ、

 その知識を以て世界中の争いを終わらせた。

 その後、彼は燃え上がる鳥となって

 世界の空を渡り、光と希望の象徴となった……

 この話と同じ伝説が、世界中で語られている」

 

 

鳥になって姿を消した、か。

前世でもヤマトタケルの神話があった。亡くなった後ヤマトタケルは白鳥に姿を変えて姿を消した、という神話が日本にもある。燃える鳥といえば中国の鳳凰や不死鳥フェニックスという幻獣の話もあった。

 

うーむ、想像が捗る。

やっぱこういうの考えるの楽しいなあ!

夢とロマンが広がって止まらない!

 

 

「一度死んだが生まれ変わり、新たな使命を果たす。

 なんとも英雄的な、面白い話だ。

 ……王都に行けば劇場もあるだろう。

 そういう話に興味があるのなら行ってみるといい」

 

「そうする。面白そうだ」

 

「しかし意外だったな。

 君はそういうのには興味がないものだと」

 

「そういう夢のある話、

 男なら誰だって好きなもんじゃないか?」

 

「フッ、確かにな。

 少し落ち着いたら詩人でも探すとするかな。

 私も久しく、唄でも聞きたくなった」

 

 

劇場もあるのか。そりゃあるか。

人はいつだって娯楽に飢えている。先生のところには魔導書ばかりだったし、そういう御伽噺や英雄譚やら買ってみようか。……楽しみだ、王都。

 

 

「さて、いつまでも宿の前で立ち往生もだろう」

 

「あ、そうだったな。行くか」

 

 

言われて改めて、宿の手前で立ち話をしていたことに気が付く。そうして扉に手をかけ、押し開く。

そして目に入ってきたのは、受付だろうカウンターで肘をつく、恰幅のいい銀髪の女だ。だがその眉間には皺が寄っており、こちらに気付くや否や、女はまさに営業スマイルというべき笑顔を浮かべる。

 

 

「あら、いらっしゃ……おや!

 これはこれは、お懐かしい顔だ」

 

 

だがその営業スマイルは、俺の横にいるマルタを見て穏やかな微笑みへと変わる。知り合いなのだろうか。そう思い、マルタの方へと顔を向ける。

 

 

「久しいな、ディエラ。壮健そうで何よりだ」

 

「冗談も上手くなったもんだねえ。

 悩みの種は増える一方だよ、あんたとか」

 

「結構。暇を持て余すよりはいいだろうさ」

 

「全くだよ」

 

 

会話の応酬。皮肉ぶったマルタの言い分に一切屈する様子もなく、女は飄々と言葉を返す。マルタも慣れた相手なのか、その頬には自然な笑みが浮かんでいる。

と、女の視線がこちらに向く。

 

 

「珍しく連れがいるね、友達かい?」

 

「……フッ、そうだな。

 そこの平原で会ったばかりの、な」

 

「こりゃ珍しい。仲良くしてやっとくれよ」

 

「だとさ。仲良くやろう」

 

「フッ」

 

 

笑われたし。

マルタはそうして俺に向き直ると、その女の方を手で示す。

 

 

「夕日亭の女将のディエラだ。

 昔、私も世話になった」

 

「ダンテだ。よろしく」

 

「よろしくね。今日は客かい?」

 

「あぁ。二部屋、空いているか」

 

「勿論。空いてはいるんだけど、ねえ……」

 

 

そう言って、ディエラはこちらをじっと見てくる。

マルタも含めて、ではなく、俺だけ。

えっ、なんなんですか。

 

 

「………あんたに頼みたいことがある。

 もし引き受けてくれるなら、宿代はタダでいい」

 

「えっ、俺だけ?」

 

「そうだ。あんた、魔導士だろ?」

 

「そうだけど……」

 

「それも、相当腕も良い魔導士だ」

 

「それほどでも」

 

「謙遜しなくていい。聞いてくれるかい?」

 

「まぁ」

 

 

押しが強い。

立ち上がるディエラさんの威圧感に、一歩後退る。

 

 

「この村近くの海辺に洞窟があってね。

 最近、そこから魔獣が湧き出してんのさ」

 

「それは大変だな」

 

「………」

 

 

冷静そうに言うマルタを横目で睨む。

お前自分が言われてないからって…………

しかもディエラさんは『()()()()頼みたいことが』と言っていた。これは恐らく、一人で行かねばならない仕事だ。

 

 

「あぁ。その調査に、私の娘みたいなヤツが

 一人で行っちまった。腕は確かなんだが、

 どうも不安でね、あんたさえ良ければ

 あの娘を手伝ってやってくれないかい?」

 

「その娘さんとこに行くのは本当に俺でいいのか?

 素性も分かんねぇ、ましてや男だぞ」

 

「これでも目利きには自信があってね。

 一目見りゃ分かるもんさ」

 

 

…………なんだか上手いこと話に乗せられている。

いや、まぁいいか。報酬の話も悪くないし、さっきの御者商の話ではここはかなり金を取られるはずだ。

初めての村、それも素性のない人間が信頼を少しでも得られるというのなら、やらない選択肢はない。

 

 

「分かった。縁起にもないこと言うようだけど、

 娘さんがもう死んでても文句は言うなよ。

 死体だけでも持ち帰りはするけど」

 

「言わないさ。

 洞窟は村を海側から出て、森の方向だ。

 道中はともかく、当然だが洞窟内は魔獣が出る。

 あんたも気をつけて行きな」

 

「了解」

 

 

俺は踵を返して宿を出る。

二つの視線に、見送られながら。

 

 

 

 

 

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