転生魔導記   作:青い灰

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7話 海辺の洞窟にて

 

 

 

宿からそのまま来られてしまったが、洞窟は割と村の近くに見つかった。高い崖の下、砂浜が続く場所から行けるそこは、どうやら自然に出来たもののようだ。蟹や蜥蜴などの小動物の棲み家となっているらしく、また魔獣の気配も漂っている。

 

さほど暗くはなく、魔獣退治に訪れることもあるのか洞窟の壁には松明がかけられている。また、壁に開く穴から光が差し込む場所もあり、寧ろかなり明るい。

 

 

「……そういえば、潮の臭いはしないな」

 

 

歩きながら、そんな疑問を今更ながらに抱く。

海辺、とは言っても、村でもこの場所でも、潮や磯の臭いはしない。恐らく、海だと思われているだけで、実際は巨大な湖……なんて可能性もある。

 

そもそも、この世界の海に塩はない可能性もある。

つーかなぜ前世の海は塩が混じっているのだろうか。考えたこともなかったが、この世界も前世も不思議でいっぱいだったらしい。

 

 

「………ん」

 

 

と、そこで。

遠くから聞こえてくる、バサバサという音に気付く。羽音……それも、かなりの数が重なっている。

 

腰のベルトから杖を抜き、魔力を練る。

イメージするのは、姿形を覆い隠す夜の暗闇。

 

 

「『影と成り 夜に染め 闇に溶ける』」

 

 

魔力を高め、その効力を高める詠唱。

足元で影が液体のように広がっていき、それは浮かび上がると、どろりと全身を包み込む。身体が少しだけ重くなるが、それに耐えつつ洞窟の壁際に屈み込む。

 

 

姿隠しの魔術。別名〝影潜み〟。

今や知る者の少ない、古い魔術の一つだとか。詠唱で効力を増す、というのは古い魔術の特徴らしい。また魔術の原型は遥か西の地らしく、このように、独自の詠唱や儀式を必要とするものが多いのだと。

 

 

その効果のほどは、余程警戒していなければ人間すら騙くらかすほどである。明るい場所では効果は落ちるとはいえ、洞窟の壁際であれば十分だろう。

そうしてジッとしていると。

 

 

「(蝙蝠か、でかいな……いやマジでデカいな)」

 

 

翼を広げれば2m近くはあるだろう巨大な蝙蝠たちが目の前を横切っていく。

数もかなり多い、十匹近くはいる。

だが、なにやら何かから逃げているような……

 

酷く怯えたように、蝙蝠たちはその奇妙な模様の翼を忙しなくはためかせ、洞窟に空いた穴から飛び出して何処かの空に消えていく。中には小さな穴に顔を入れ無理やり穴から抜け出すものもいる。

 

さて、なにがあったのか。

 

 

「………ったく、なんだってんだ」

 

 

溜め息。

今日は鳥やら蝙蝠やら、空飛ぶ魔獣に縁があるのか。立ち上がり、姿隠しを解除する。遠ざかる羽音を聞きながら、洞窟の先に目を向ける。

 

 

「急いだ方がいいかもな」

 

 

そうして、早足で洞窟を進み始める。

 

流れていく景色と共に、足元の砂浜は白い岩肌へと、そして明るげだった空間は、進むごとに、少しずつ、薄暗くなっていく。

視界が悪くなっていく。

 

 

「『光あれ』」

 

 

すぐに魔力を練り、杖先に光照らしの魔術を使う。

これもまた古い魔術の一つだ。それを松明代わりに、洞窟の中を進んでいく、と。

 

 

「!」

 

 

足を踏み込み、ブレーキをかける。

杖を構え直して、もう片手に成形魔術で剣を取る。

 

 

 

 

腐臭。死臭。漂うそれの上には。

ヒトのシルエットを描く、青い鱗の魚がいた。

〝サハギン〟、もしくは、〝深きもの〟。

前世知識で表すならそれ以上に相応しいものもない、人型をした魚の怪物。

 

 

それらは此方に気が付くと、ゆっくりと息を吐く。

血生臭い、吐き気のするような、おぞましい息。

 

火のエレメンタルを活性化させ、火炎を発生させる。成形魔術の弾丸にそれを纏わせて、走り出す。

 

 

「……!」

 

 

数は一。速攻で片付ける。

魔力を練り上げ、炎と弾丸を支配下へ。

 

加速させ、打ち出す。

 

 

「レフィ、ショット……!」

 

 

五の燃える弾丸が飛翔、魚人の魔獣を撃ち抜く、が。

 

 

「■■■■■■!!!」

 

「ま、効くとは思ってねぇよ……!」

 

 

五の弾丸全てを受けきった魚人の魔獣は、その両腕を振り上げ、高く飛びかかってくる。凄まじい跳躍力、見た目以上に活きが良い─────!

 

咄嗟に後ろに跳んで腕の叩きつけを回避し、魔力剣に魔力を集中、その力を解放する。

 

 

 

魔導は、イメージだ。

特に成形魔術はその影響を強く受け、それを利用して別の魔法、魔術の力を付与することも出来る。ただしそれは、確たるイメージを持たなければならない。

 

魔力の解放。

使えばその成形魔術での武器は破壊されるが、しかしそれ以上のメリットがある。そのイメージに応じた、力の解放というメリットが。

 

あの炎が、怒りから来たように。

この剣の青い光は、冷たい夜、その月の光から。

 

 

 

剣の魔力が、冷気を発現させる。

青い光の奔流を纏った剣を、突き出す。

 

 

「凍れ!」

 

 

青い魔力光を解放し、剣の先端から放出する。

それは岩の地面を凍結させながら魚人に襲いかかり、その足元から胴体の大部分を氷に包む。それもただの氷でなく魔法の氷、同系統、また火の魔力でなければ中々壊せるものではなく、拘束力はそれなりにある。

 

とはいえ相手は海の魔獣。

水に対する耐性はあるはず、さっさとケリをつける。杖の石突を地面に打ち付け、そこから魔力を込める。あまり得意ではないが、凍結した相手は脆い。ならば雑に砕いてやろう。

 

 

「〝坤〟!!」

 

 

魚人の足元、その地面を隆起させ、凍結した身体へと勢いのままに叩きつける。胴体を打つ土の柱は、氷により脆くなった身体をへし折り、岩壁に叩きつける。舞い上がる土煙と共に、血飛沫が地面を濡らす。

 

大地の魔術。

自然の力を操るのが『ガリア』系の魔法だが『坤』は地形を利用する魔術。魔法はエレメンタルの力を借りその場に土石流すら引き起こせるが、こちらは、場の地形、そしてエレメンタル両方に魔力で干渉し適正がなくとも単純な土柱程度なら発生させられる。

 

 

「………ふう」

 

 

土煙が晴れると同時に、凍結した内臓を撒き散らした魚人が、その四肢を痙攣させているのが目に入る。

あまりいい光景ではないが、やらなければ自分もそうなるのだから、仕方ない。自然の摂理というやつだ。

 

こいつ数体に囲まれるのは避けたい。

そうなれば流石に一人では危険かもしれないし。

 

………ともかく、まずは。

 

 

「………死んでるよなあ」

 

 

魚人が貪っていた死臭の元。

そちらに目を向ければ、生きたまみ喉を引き裂かれたらしい、若い男の死体があった。その表情は、絶望の一色に染められている。見開かれた目は血走っていて見ているだけでもしんどくなってくる。

 

それでも近くで屈み、その様子を見る。

血の海に沈む骸。その首から垂れる血は既に止まり、強い腐臭に、死後硬直も解かれた様子だ。死んでから長い時間が経っているのが分かる。黒っぽい肌色も、時間経過による変色ではなかろうか。

 

その腹もまた引き裂かれ、食いかけの腸に、変色した人糞の類いまである。あの魚人は糞が気に入ったのか鳩尾から股まで真っ直ぐに腹が裂かれているようだ。

 

………我ながら知識が偏ってるな。

知らなきゃよかった方向に。

そう不謹慎なことを考えながら、手を伸ばす。

 

 

「………埋葬してやりたいが、今は時間がない。

 悪いけど、これだけでガマンしてくれ」

 

 

そう告げて、見開かれた目を、そっと閉ざす。

そうして立ち上がり、手を合わせる。

 

合掌。

この世界では意味はないが、こういうのは気持ちだ。せめてその魂が、安らかに眠れるように。

 

 

「……急がないと。

 もし死臭に引き寄せられるのなら………」

 

 

 

 

吐息。

 

おぞましい、吐息が、耳を突く。

 

 

 

「………だよな」

 

 

 

眼光。

その数は、両手両足の指でも足りないだろう。

 

杖を構える。

 

 

 

 

 

 

 

──────────

 

 

─────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ、はぁっ、はぁっ…………!」

 

 

やっぱ無理あるよあの数は。

全力で走り抜けたが、その途中でも数は増えていき、いつの間にか数えきれないほどになっていた。やはり数の暴力は強すぎる。なんとか三、四体は倒したが、撤退して正解だったか。

 

洞窟の壁に背中を預け、息を整える。

遠くから遠吠えのようなおぞましい鳴き声が聞こえ、それに身震いする。なんとか逃げおおせたらしいが、未だ聞こえてくる唸り声が恐ろしい。今のところだがここまで一本道だったし、帰りもあれの群れを抜けて行かなければならないと思うと………

 

 

「ん? あれ、そうだ、あいつら……」

 

 

あいつらは、洞窟の奥から来た。

……依頼の、宿屋の娘さんは、今まで見ていない。

まさか………

 

 

 

「…………でも、な。流石に遺品の一つくらいは……

 せめて残ったものだけでも、持ってかないと」

 

 

 

でないと、女将さんも、その娘さんも浮かばれまい。自分の実力を過信している訳ではないが、やれるならやれるところまで、だ。とにかく洞窟を進もう。

 

そうして、足を進め、角を曲がった時。

()()が、目につく。

 

 

「! これ、は……」

 

 

壁にもたれかかるようにして、何かがいた。

最初に分かったのは、それが人間でないこと。それにホッとしながらも、光照らしで壁の影に隠れたそれを照らして、その姿を再度、確認する。

 

魚人。それも、全身に傷……切り傷を負っている。

絶命しているらしく、だがしかし、その死に様は……

 

特に傷が深いらしいのは腹部からの出血。

ゆっくりとだが、今もまだ血は流れ出ており、しかし死因はそれでないことがすぐに分かる。

 

 

「………毒、か?」

 

 

その表情は、人によく似た苦悶のそれだった。

 

青白い顔は紫色に染まり、口からは泡が溢れている。地面に落ちた手に浮き上がる死斑は鮮やかな赤……

通常の死斑は赤紫、それも暗色のものだ。

 

 

毒殺。

 

 

間違いない。恐らくは窒息死か。

肺、だが傷は腹部だ。呼吸器系に異常をもたらす毒。前世ならフグ毒やら塩素なんかが該当するのだが……

ここは異世界だ。前世の知識は通用するのか?

 

魔術の線もある。実際に毒霧を発生する魔術もあるが中規模の儀式が必要になる。魔方陣式だったか。確か危険過ぎて儀式化が必要になった魔術だったハズだが今はもう失われていると先生は言っていた。

 

だが毒だとすれば、それもかなり強力なものだろう。

 

 

「………毒を使う魔獣か、もしくは、娘さんか………」

 

 

顔を上げれば、そこには。

 

 

 

 

 

 

 

数体の魚人が、泡を吹いて死んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

「………第三者、か」

 

 

 

 

 

 

再び洞窟の奥へと、足を進める。

 

 

 

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