魔女学園のTS生徒〜被検体の俺は美少女の皮を着せられ、魔女学園(女子校)へ編入する事に〜   作:海神アリア

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少しずつのペースではありますが、第3章を執筆&投稿していけるよう、頑張って参ります。今回のお話も見届けて頂けますと、嬉しい限りです。


第3章20話 第二の助言:謎の人物、『リリス』を追え

 ◆

 魔法の影響もあるが、元々白百合邸の敷地面積は膨大だ。それでも、ダウジングマシーンのお陰で目的の部屋が判別可能だ。随所に刺客が存在したが、その都度撃退しながら進んでいく。勿論、要所要所でポーションを用いた回復も忘れない。

 

「やっぱり、お姉ちゃんの所に寄って正解だった」

 

「さおりん姉の魔力回復ポーション、めっちゃ効くじゃん! 帰ったら、一緒にお礼言いに行こ!」

 

 流石は天才研究者が開発したポーション、効能も優れているし、アディラ嬢お手製のポーションとは違い味も保証されている。

 

(炎華の言う通り、姉貴にちゃんとお礼を言ったほうが良いよな。『このシスター服』の件も含めて、だけど)

 

「ダウジングが示した部屋は……ここですね」

 

 彼女らが目にしたのは、二つの扉が存在する大部屋だった。そして両方の扉には、『当主以外の立ち入り厳禁』、『用のない者は()く失せよ』、『土足で踏み入る者は賊と見做す』と貼り紙がされたいる。ドア板は分厚い木製で、堅牢な鍵が設置されており、部屋自体が侵入者を断固として受け入れない姿勢を見せていた。

 

「何というか……あからさまですね」

 

 如何にも『ここに重要な秘密が眠っていますよ』と言いたげな部屋だ。

 

(とは言うものの、ここまで頑なに拒まれると入りづらいなぁ……)

 

 などと蒼蘭が悩んでいる側で、ドアが開錠される音が生じた。

 

「鍵は開きました。入りますよ、皆様」

 

「へ……? いや、こんなあっさりと……?」

 

「……? あぁ、ドア板に『開錠のルーン』を刻んだのですよ。大抵の鍵は、このルーン文字で開ける事が可能になります」

 

「いえ、そうではなくて……何となく、『入りづらいな』って悩んでいたところでして。勿論、今回は一刻を争う事態で、アレコレ悩んでいる私が単に気にし過ぎなだけなのですが……」

 

「なるほど……。では蒼蘭さんの迷いを払うべく、マギナ様が私に授けて下さった教えをこの場を借りてお伝えしましょう」

 

 扉に手をかけながら、ステラはこう述べた。

 

「魔女の好奇心を刺激したのなら、相応の代償は付きものです。要するに、『魔女に対して"入ってはいけない"などと言う方が悪い』のです!」

 

 それは一見すると、自分勝手な主張でしかない。が、今この場においては、ちょっと図太いくらいが丁度良いのだろう。

 

(それはそうと……確かにイタズラ好きなマギナさんなら十分言いそうな言葉だな)

 

 斯くして、ルーン魔術と大魔女の教えにより、秘密の扉は開かれた。

 

 ◆

 扉の中は、大きな机と幾つもの本棚からなる書斎だった。部屋の広さと収納された本の数を考えると、『家主専用の個人図書館』といった方が適切かもしれない。

 

「これ、下手したら田舎の古本屋くらいはあるわ」

 

「あー、漫喫とかこれぐらい本置いてあるって聞くしね。あーし、まだ漫喫行った事ないけど」

 

 お上りさんと都内っ子の間で軽度なカルチャーショックが発生したが、一同は気にせず室内を見渡す。

 

「ステラさん、どの本を見れば良いんですか?」

 

「この部屋に目当ての書物があるのは確実なのですが……残念ながら、ダウジングで探せるのはここまでになります」

 

「って事は……この沢山ある本棚の中から、あーしらが自力で探さなきゃって事ですか?」

 

「そうなりますね……力及ばず、申し訳ございません」

 

「ちょい待ってください! あーし、別にステラさんのコト悪く言うつもりはなくて! 部屋まで分かっただけでも、十分凄い魔法ですよ!」

 

 炎華が慌てて自身の言葉を訂正し、ややシュンとしていたステラのオーラが元に戻った。

 

「でも、確かにこの中から探すのは大変かも……。ただでさえ本棚は幾つもあるのに、その中に隙間なく本が並べられている訳だから……」

 

 蒼蘭はここで、ハッと気が付いたように口を噤んだ。そして無言のまま、部屋中の本棚を確認した。

 

「どうしたの、セーラ?」

 

「この本棚、かなり埃っぽい」

 

「確かに。ま、本棚って埃溜まりやすいもんね」

 

「そう。でも、『普段頻繁に使う』本棚なら、綺麗にするものじゃない?」

 

「言えてるかも! じゃあ、埃が少ない本棚に、『リリス』って人の本がある感じ?」

 

「私も最初はそう思ったんだけど、()()()()()()()()()のよね。だから……」

 

 蒼蘭はそういうと、書斎の机に向かった。

 

「私達が探している本は、きっと本棚には存在しないわ。それに、マギナさんは『異世界人が聖に目をつけた理由』を探るように助言をくれた。もしかしたら、そのリリスさんって人が『直近』の、悪魔騒動や聖女ショコラの陰謀に間接的に関係しているのかも。そして、仮説に仮説を重ねる突飛な考えかもだけど、直近の騒動に関係ある本なのだとしたら、()()()()()()()()()()()()()()

 

 つまり、机の引き出しが怪しい!」

 

 宛ら名探偵の様に自分の推理と閃きを高らかに宣言し、蒼蘭は勢いよく引き出しを開けた。

 

 しかし、中には何も無かった。

 

「あ……あれ……?」

 

 シスター服の名探偵は瞬く間に頬を赤らめ、恥ずかしさのあまり手で顔を覆ってしゃがみ込んでしまった。

 

「ごめんなさい、二人とも。今のは是非とも忘れてください……」

 

「セーラ、ちょっと待って。あーし、この引き出しで確かめたい事があるの。だから、セーラも手伝って」

 

「確かめたい事……? それで具体的に、私は何をしたら良いの?」

 

 蒼蘭が尋ねると、炎華は指先から蝋燭の様に、小さな炎を出した。

 

「ひじりんから借りた漫画にはね、大事な本やノートを『二重底の引き出し』に隠してた話があんの。だから、ひょっとしたらこの引き出しもそうなんじゃないかな?」

 

「そっか、二重底! いや、でも……もしそうなら引き出しの底が上がる筈でしょ? 見た感じ、引き出しの厚さは普通だったよ?」

 

「ふっふっふ……。中等部の歴史で習ったんだけど、昔の魔法使いの机には、泥棒さんに盗まれない様に色んな仕掛けがあったんだって。そして、その『仕掛け』が分からない様に、普通の机に見える魔法がかけられていたってワケ。そんで、この机ってかなり年季が入ってるじゃん? もしかしたら、二重底を誤魔化す魔法がかけられているかもよ?」

 

「なるほど! って事は、そこを弱火で炙れば隠している物が!?」

 

「そ、あーしが気をつけながら炙るから、ひじりんは火事になりそうになったら水魔法で消火する役ね」

 

「分かった!」

 

「いえ、少しお待ちを、炎華さん。指先に火を灯すより、このステッキをお使いください」

 

 そういうと、ステラは小さな木製のステッキを渡した。

 

「炎の魔力を送るだけで、蝋燭代わりの照明にも、はんだ付けや金属溶接にも、更にはお寿司の炙りにも使える魔術道具です。ルーン文字も使っていない、単に私が趣味で作成した代物ですが、多少の手助けにはなる筈です」

 

「ありがとう、ステラさん。そんじゃ、出来るだけ弱火で炙って……」

 

 炎華がステッキを使い、机の四隅からジリジリと底板を炙っていく。木が焦げる匂いと共に、底板の先にある物が少しずつ顔を出した。

 

「セーラの推理、当たってるかも……!」

 

 炎華は高揚しながらも手元が狂わない様に気持ちを落ち着かせ、蒼蘭は友人の作業を邪魔しない様に息を殺した。ステッキが底板の四隅をなぞり終えると、焼け跡が切り込みとなって板が外せる様になった。炎華はそのまま板を取り出すと、古びた2冊の本が姿を現した。

 

「炎華、本当に凄いわ! 貴女が居なかったら、この本を見つけるのに手間取ってたもの!」

 

 感極まった蒼蘭が炎華の両手を握り、ブンブンと上下に揺らす。

 

「机が怪しいって見抜いたのはセーラなワケだし、セーラだって十分凄いよ。それより、ひょっとしたらこの本が、マギナさんが言ってた本なのかも」

 

 炎華が指差した書物は、見たところ非常に年季が入っている。表紙はそれなりに綺麗だが、ステラがページを開くと少し黄ばんだ紙が顔を出した。

 

「これ、どのくらい前の本なんでしょう?」

 

 蒼蘭はそう口に出しつつも、心の中で思考を巡らせる。

 

(ページの黄ばみ具合……大学の図書館には明治時代のボロい本があったけど、あの本よりは黄ばみが少ないか? なら案外数十年とかそこらの本……な訳はないよな。だって、机に魔法がかかっているなら、本にも保存用の魔法がかかっている筈。それに、魔道書には何代先の子孫にも魔法の知識を受け継げる様に『書物保存用』の魔法が施されているって授業で習って、期末試験にも出てたし。だから、100年とか150年前くらいが妥当な推測か?)

 

「そうですね……本の劣化具合から推測するに、700年前程度でしょうか?」

 

「そうですか、700……700ぅ!?」

 

 予想を遥かに超える保管年月に、蒼蘭は驚きの声をあげる。

 

「え、え? 700年前の本でも、書物保存用の魔法って通用するんですか?」

 

「ええ、名のある魔術師が後世に遺す書物には、一際強力な魔法がかけられるのです。何百年後の未来に生きる、子孫のために。尤も、流石に500年を過ぎれば徐々にページの黄ばみが出てしまいますが。

 

 さて早速、こちらの書物を紐解いて見ましょうか」

 

 ステラは本のページを捲っていく。どうやら英語で書かれている様で、アルファベットの羅列と組み合わせが、蒼蘭の知識に無い単語を構成している。

 

「ダメだ、流石に全文英語だとちっとも分からない……。解読はステラさんにお願いした方が良いですね」

 

「ええ、お任せください」

 

「じゃあ、あーしらでもう一冊の本見てみよっか?」

 

「確かに分担した方が良いかもだけど、こっちもどうせ英語表記でしょ?」

 

 ダメ元で本を開いてみると、視界に飛び込んで来たのは以下の文言だった。

 

『我が家の起源-魔の物の力と"赫の厄災"について』

 

「もしかして、こっちは日本語訳版?」

 

「なら、ステラさんにはこっち読んで貰った方が良くね?」

 

「いいえ、問題ありません。元より、私はイギリスの生まれですので、英語の方が馴染みがあります。そして、御二方はそちらの本を通じて、この家の起源を紐解いてください」

 

 ステラに言われ、2人は並んで古びた書物に目を通した。

 

 ◆

 我が家の起源、それは幾星霜にまで遡る。しかし、今の形となったのは、『赫の厄災』を経てからである。宙から開いた孔より、異界の女神と数多の異形がこの世界を地獄へと変えた、あの忌まわしき出来事からだ。

 

 我らが祖先は、かつて存在した『魔法の深淵に到達せし者』、俗に言う『大魔女』と呼ばれた者達と共に、数多の異形を討ち取った。だが、異形の数は膨大であり、異界の女神の力は人類の想像を遥かに凌駕していた。故に、かつての大魔女達と同様に、初代当主もまた命を散らした。

 

 だが、それは単なる戦死ではない。異界の女神は、初代当主の誇りをも汚したのである。女神は、ある異形の悪魔に命じたのだ。白百合家当主の娘に取り憑き、自らの糧とするように、と。

 

 その悪魔は『サキュバス』と呼ばれる物だった。サキュバスは人間の体液を主食としており、男性ならば精液を、女性なら血液や唾液をはじめとする体液を、あらゆる手段を用いて摂取する。その際、生命力も同時に吸う事で人間を衰弱死させたり、或いは意識を奪って意のままに操る事も可能だ。更には、接吻(キス)を通じて自身と対象者の魔力を循環させ、敢えて延命させる事で長期に渡って体液を摂取する事も……即ち人間を家畜の様に扱う事も可能である。

 

 尚、サキュバスと戦う際に、毒を使う事は推奨できない。奴も悪魔の一つ、故に毒が通用し難いからだ。推奨されるのは聖水、木の杭、銀製の刃物といった、悪魔討伐におけるオーソドックスな武器だ。

 

 初代当主は娘の身体に取り憑いた、自らを『リリス』と名乗るサキュバスを追い出す事に辛うじて成功した。しかし、取り憑いた魂の破片が、幾星霜の時を経て蘇るであろう。異界の女神、或いはその使徒が再びこの地に舞い降りる時、神の僕たる()の悪魔が、白百合の子供を乗っ取り再び目を覚ます。その悪魔は子供の身体で、その子供に成りすまし、虎視眈々と力を蓄える。当主たるもの、子供達の動向に注視せよ。そして、取り憑いた悪魔を見破り、討伐する事が使命と心得よ。

 

 ◆

(蒼蘭視点)

 

 …………………………。

 …………。

 

 読み終えた後も、私は考えが纏まらなかった。一旦、情報を整理しよう。

 

 結局のところ、『リリス』というのは700年前に異世界からやって来たサキュバスで、そいつが時を経て蘇る事を危惧している、と。そしてサキュバスの概要やら特徴やらも書かれていて……その本を、現当主がここ最近、大切そうに手元に置いている、と。

 

 そう言えば、インターホンで癒香さんが話してたな……。『聖を普通の子供に戻すための施術をこれから行う』って。

 

 瞬間、私の脳内をどす黒い感情が支配した。

 

「いや、まさかとは思うけどさ……聖のお母さん、自分の娘がその『リリス』ってサキュバスに取り憑かれたとか思っている訳……?」

 

 本を持つ手が、自然と震え出した。仮にそうだとするなら、最初に抱く感想は『ふざけんな』の一言しかない。

 

 聖が、魔女学園の転校初日に初めて出来た友達が、『悪魔』だと? 馬鹿も休み休み言って欲しい。

 

 ……だが、『唾液によって魔力を循環させる』という点においては、心当たりがある。課外授業の時、魔力切れを起こした私に魔力を分けてくれた時の事だ。決して忘れる事は無い。私が、聖と……キスをした事を。

 

 いや、それだけじゃない。転校初日の夜も、聖は私に魔力を分けてくれた。つまり、その……私はずっと前から聖にキスをされていた訳で…………。

 

(いやいや、落ち着け。一体キスから離れろ、惺)

 

 他に思い当たる節と言えば、『毒が通用しない』という記述くらいだ。ショッピングモールでの対冒険者戦で、皆が呪術師ノエルの毒で苦しんでいた時、聖だけは平気だった。本人も言っていたが、聖は毒に耐性があるらしい。

 

 ……確かに、この本に書かれたサキュバスの特徴と、聖の魔法や体質には、似通った部分もある。だが、忘れてはいけない。その2つの共通点を、聖は()()()()()()()()使ったんだ! 

 

「この本に書かれた事なんて、嘘っぱちだ! 聖は何度も私達を助けてくれたし、一緒にお出掛けしたり、カラオケに行ったり、アルバイトだってした! それに、聖は見ず知らずの人にだって優しく出来る、温かい心の持ち主なんだ! 七夕祭りの結衣(ゆい)ちゃんだって、メイド喫茶で出会った影子(えいこ)ちゃんだって、聖は優しく接してた!」

 

 思わず感情のままに言葉を放ってしまう。

 

「えーこちゃんの事、セーラよく知ってんね」

 

「あっ」

 

 感情に任せると、この通り私は大抵失敗する。

 

「……茜から話を聞いたの。私もあの場にいたら、影子ちゃんに何か出来たかなって考えた事があって」

 

「そっか。でも、セーラの意見には、あーしも大賛成! ひじりんは悪魔でも、悪い子でもないもん! そんなの、頭が良くないあーしだって分かる事! 第一ひじりんは、あーしにとって大切な友達! だから、こんなデタラメ書いてる本、あーしの炎で燃やしてやる!」

 

 炎華が手のひらから炎を出した時、正直やっちまえと思った。

 

「いいえ、それはいけません」

 

 ステラさんの冷静な声が書斎に響いた。

 

「もう少し、この本の事を調べる必要があります」

 

「でも、この本に書いてあんの、ひじりんへの言い掛かりじゃん!」

 

「それだけでは有りませんよ。この書物が『赫の厄災』の発生を経て書かれた物なら、数百年の時を経て女神やその使徒が再来する事を予見していた事になります」

 

 確かに、ステラさんの言う事も一理ある。女神の使徒である『大賢者ラジエル』が送り込んで来た、異世界からの刺客。特に今回の悪魔騒動の黒幕も、ラジエルが送り込んだ魔術師だ。見方を変えれば、今の状況を何百年も前に予言していた書物という事になる。

 

「とは言え、今の状況を予見していたのならば、もう少し何か役に立つ備えや対策を書いていて欲しいのが正直なところですね……。そもそも、この本を書いた人間は何を意図していたのでしょうか? 『子孫が悪魔に取り憑かれる』事の警鐘? それとも、『赫の厄災の再来』を伝えたかった? だとしても現状、サキュバスの存在と異世界絡みの事案にはこれといった関連性がありません。捉え方の問題かもしれませんが、どうにもこの書物が伝えたい事が少し噛み合っていない様な気がします」

 

「ステラさんの言う通り、『執筆者の意図』を探るのが、真相への近道と言う事でしょうか?」

 

「あくまで考えの一つですよ、蒼蘭さん。『第二の助言』を達成するのは、少し骨が折れそうですね」

 

「でも、『何を思って書いたのか』っていう視点は、私には有りませんでした。正直なところ、『友達を悪く言われている』って印象が先行してしまって……。ステラさんの言う通り、異世界案件について予見もしているんですよね、この本。

 

『見方を変えれば』、荒唐無稽なだけな本じゃないって事ですね」

 

「『見方を変える』……変える……そうか、それですよ、蒼蘭さん! もしかしたら……!」

 

 ステラさんは机の上のランプを本に近づけた。そして、彼女は鞄のなかから、更に色々な照明器具を取り出して机に並べた。何か閃いたみたいだけど、私にはさっぱり分からなかった。

 

「蒼蘭さん、このノートを預かっていてください。机の上にあったものですが、少々邪魔だったので退けました。勿論この作業が終われば戻しますが、忘れない様に蒼蘭さんに預かって欲しいのです」

 

「それぐらい、全然構いませんよ」

 

 私はノートを受け取った瞬間、これも机の上にあった事に気がついた。聖のお母さんが先程の本と同じく、手元に置いていた物だ。何か、重要な事が書かれているかもしれない。ダメ元でページを捲ったところ、これが日記帳である事が分かった。

 

 ……他人の日記を勝手に見るなんて、悪趣味極まりない行為なのは自覚している。が、最早この際言ってられる状況ではない。私もまた、確かめたい事が出来たからだ。現在の白百合家当主、白百合 癒香さん。彼女は他に、この家の秘密を知っているのか。そしてこの日記の中で、彼女は(むすめ)をどう思っていたのか。

 

 ◆

(ここは、何処だっけ?)

 

 ベッドの上で、私はぼんやりと考えた。真っ暗な室内、確かここは……実家の地下室だっけ? お母さんに連れられて、彩月(さつき)お姉ちゃんや(なお)も後から来てくれるって聞かされて、私、少しだけ嬉しかったんだ。

 

 そして眠る前、私は蒼蘭ちゃんの事を考えていた。最近の私は、蒼蘭ちゃんの事をよく考えている。彼女の笑顔、楽しそうにしている顔。彼女と一緒に過ごした、かけがえのない時間の事も。

 

 そして蒼蘭ちゃんと彼女のお姉さん、沙織さんの事も。

 

 研究者で色々と忙しい中、沙織さんは妹のアルバイト先にやって来た。蒼蘭ちゃんのメイド姿を褒めてたり、プリンを食べさせて貰ったり。本当に蒼蘭ちゃんの事が好きなんだって、沙織さんから伝わって来た。

 

 蒼蘭ちゃんも蒼蘭ちゃんで、お姉さんに対しての不満とか愚痴とか言っているけど、蒼蘭ちゃん自身がお姉さんに劣等感を抱えているって言っていたけど、沙織さんとの姉妹仲は全然悪くなさそうだった。そもそも、お姉さんが嫌いなら課外授業で助けたりしないし、姉妹仲が険悪なら沙織さんが態々課外授業にまで来ることはない。

 

(いいなぁ…………お姉さんと、家族と仲が良くて)

 

 沙織さんが蒼蘭ちゃんにじゃれついている時、蒼蘭ちゃんが鬱陶しそうにしつつも満更ではなさそうな時、ハッキリ言って私は羨ましかった。

 

(私も、あんな風になれるのかな?)

 

 何度も、何度も、私はそう考えた。でも、私は家族から避けられていて、だから実家に帰る事も許されていなくて……。

 

 でも、今日は連れて来られた。実家に。

 

(なら、私は受け入れられたのかな?)

 

 そんな事をぼんやりとした頭で考える。部屋は本当に真っ暗で、地下室には窓が無いから、今が何時なのかも分からない。

 

(流石に、明かりが欲しいな……。電気、この際ランプや懐中電灯でも良いや)

 

 私はベッドから起きあがろうと、少し寝返りをする。

 

「……ん?」

 

 背中に、『何か』がある。ゲームソフトをベッドに置いた事を忘れて、その上に寝そべった時のような違和感を感じた。勿論、ゲームは持って来てないし、そもそもソフトよりもっと大きい物だ。

 

(電気毛布とかじゃないよね? 今は夏だし、それに感触が固いし。でも、薄さは電気毛布っぽい……?)

 

 私は背中に手をやって、違和感の正体を確かめようとした。そう、ほんの軽く触るつもりだった。なのに、

 

『ビリッ!』

 

「え……?」

 

 布が裂ける音がして、私は固まった。次の瞬間、背中から温かい液体が流れるのを自覚する。

 

「え、()? でも、あまり痛くない……何で?」

 

 そう言えば、何だか()()()()()()()()。メイド喫茶のアルバイトでは、ちゃんと毎日切ったり削ったりして整えていたのに……。

 

(たった数日で、こんなに伸びる事ある?)

 

 訳がわからない……。

 私の身体、どうなっちゃったの……? 

 怖い、怖いよ……助けて、お母さん……蒼蘭ちゃん……。

 

「聖! 待たせちゃってごめんなさい!」

 

 私の声が届いたのか、それとも偶然かは分からない。けど、鉄の扉が開いて、お母さんが入って来た。

 

「お加減は如何程でしょうか、ヒジリさん?」

 

 もう1人、聞き覚えのある声の主が、部屋の中へ入って来る。

 

「貴女は……ショコラさん?」

 

「ええ、覚えて頂けて光栄です。そして是非、私の事は親しみを込めて『シスター14(フォーティーン)』とお呼び下さい。私は貴女と、とても親しくなれると感じていますので」

 

 暗くて表情は分からないが、ショコラさん……シスター14は嬉しそうな声をしている。そんな事を思いながら、私はベッドから起き上がって、腰をかけた。

 

「でも、どうしてシスター14が私達の家に?」

 

「貴女のお母様に依頼されたのですよ。『娘を取り戻して欲しい、娘を本当の姿に戻して欲しい』という依頼でした」

 

 …………? 

 正直、お母さんがシスター14に何を求めているのか、さっぱり分からない。

 

「よく分からないのですが、私はこれから何をされるんですか?」

 

「『これから』? いえいえ、既に施術は終わっています」

 

「いつの間に……?」

 

 その言葉は、私ではなくお母さんの口から発せられた。でも、私も同じ気持ちだ。

 

「ところで、シスター14? 貴女は先程、『部屋の明かりを点けるのは少し待って欲しい』と仰っていましたが、それは何故ですか? そろそろ、部屋を明るくして、娘と顔を合わせたいのですが……」

 

「申し訳ございません。ですが、こうしたサプライズには、相応の演出が欠かせません。なので私は、親子の対面にアクセントを加えたかったのです。

 

 

 尤もこの考えは私の師、()()()()()()()()()()()()()()()ですけれどね」

 

「…………!?」

 

 お母さんがシスター14にお願いした事、シスター14が何に対してのサプライズをしたいのか、私には分からない事だらけだった。でも、そんな事がどうでも良くなるレベルの爆弾発言だった。

 

(シスター14が、ラジエルの弟子……? じゃあ、彼女は異世界人って事!?)

 

 次の瞬間、部屋の明かりが点灯する。

 眩しさに思わず目を瞑り、瞼が作る暗闇の中で、

 

「これは……一体どう言う事ですか!? 話が違うじゃないですか!?」

 

 お母さんの悲痛な叫びが聞こえた。

 

「いいえ、違いませんよ、ユカ・シラユリ様。貴女様からの依頼は、『娘を本当の姿に戻して欲しい』という内容でした」

 

「だったら! これが『聖の本当の姿』だとでも言いたいの!?」

 

「はい、仰る通りです」

 

 私は、お母さんとシスター14の声を聞きながら、恐る恐る瞼を開けた。

 

「一体、何が起こっているの……?」

 

「それは、ご自身の身体を鏡で見るのが最適かと思われます。僭越ながら、ご用意させて頂きました」

 

 シスター14の言う通り、目の前には鏡が置かれていた。

 

 でも、私はこれが鏡だとは思いたくなかった。

 だって、毎日顔を合わせている鏡の自分とは、どう考えても別人だったから。

 

 頭からは山羊の様な角が、背中からはコウモリ見たいな羽が、腰の辺りからは細くて長い尻尾が、鏡に映る女の子の身体から生えていた。爪はいつの間にか伸びて、しかも黒くなっている。何よりも服装が、露出度の高い物に変わっていた。

 

 これじゃ、まるで…………

 

「私……サキュバスなの?」

 

 私の言葉に合わせて、鏡の中のサキュバスが口を動かした。それが、今起きているのが『現実』なのだと証明する、何よりも残酷な証拠だった。




……実はこれまでのお話で、聖ちゃんの秘密について、それとなく伏線めいた情報をばら撒いているつもりです。もしよろしければ、振り返って読んで頂けますと嬉しいです。

次回の投稿予定日も、相変わらず未定です。
出来れば5月中に投稿できる様に頑張りますので、どうか気長にお待ちくださいませ。

後、ハーメルンでは今作、これで通算100話目でございます。
我ながら随分長く投稿しているな…と、しみじみ思っております。
ここまで投稿を続けられたのも、読んで頂けたり感想を投稿して頂けたり、応援してくださっている皆様のお陰です。本当にありがとうございます。

そして、もしよろしければ賛否に関わらず、今作の感想や評価などを頂けますと、今後の更なる励みとなります。是非、よろしくお願いします。
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総合評価:1897/評価:8.71/連載:3話/更新日時:2026年02月16日(月) 20:01 小説情報


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