魔女学園のTS生徒〜被検体の俺は美少女の皮を着せられ、魔女学園(女子校)へ編入する事に〜   作:海神アリア

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まだまだ第3章は続きます。続きを書ける内に書いていきます。

さて、前回の終盤では聖ちゃんがとんでもない事になってしまいましたが、今回は今回でハードな内容となっています。

後、今回も長めな話ですので、ご了承願います。


第3章21話 接敵、大賢者ラジエル!

 私と炎華は書斎を飛び出し、聖の元へ走りだす。

 

「セーラ、ひじりんは今、どの辺!?」

 

「今より下の階! それと、正門の反対側、もっと奥の方!」

 

 私はステラさんから借りた『ルーン式ダウジング』を手に、友人が居る方向を突き止める。大体の位置しか分からないが、それでも広大な白百合邸を探し回るよりは遥かにマシだ。

 

「よし、急ご!」

 

「勿論! このままだと……」

 

 私の脳裏には、先程ステラさんが立てた『ある仮説』が鮮明に焼き付いていた。彼女は書斎に残り、2冊の本を更に詳しく調べて貰っている。その間に、私達は聖を見付け出す。要は役割分担だ。

 この館に後何人、異世界からの刺客が居るのかは分からない。だが、隠れながら進んでいる時間は無い。向かってくるなら正面突破、その覚悟で廊下を全力で走っている。階段を駆け下り、だだっ広い廊下を駆け抜け、白百合邸の中庭に差し掛かる。

 

「ごめん……ちょっとだけ休ませて!」

 

 私は足を止め、大きく息をした。

 流石に、流石に広過ぎる! 天使や悪魔を暴れさせる為に、異世界人に文字通りの魔改造をされた白百合邸だが、進む者達の体力を削ぐ役目もあるらしい。故に壁にもたれかかって、酸素を肺に取り込む必要があった。

 

「確かに、めっちゃ広いよね……。これ、あーしらの事、ひじりんから遠ざける為でもあんのかな……?」

 

「それは……大いにあると思う。嫌らしい方法だけど、実際効果的なのが余計腹立つな……。アディラや菊梨花は、大丈夫かな?」

 

「すずみーは元々体力あるし、ラトナっちはヨガやってるって聞いた事あるから、大丈夫っしょ。それに、書斎からここまで敵が来なかったじゃん? それ、2人がやっつけてくれてる以外有り得なくね?」

 

「そういえば、さっきの天使使い達が言ってたね。『刀を持った魔女』と『ゴーレム使いの魔女』が暴れてるって。やっぱあのA組コンビ、ガチで強いわ」

 

 転校してから何かと縁のある彼女達だが、実力は折り紙どころか千羽鶴が付いているレベルだ。本当に、心強い助っ人に恵まれたものだ。

 

「ほら、ラトナっち達が頑張ってる分、あーしらも頑張ろ! それに、ひじりんも待ってるっしょ、あーしらの事」

 

「うん、その為にも最短距離で……この中庭を突っ切るのがベストなんだけどさ……」

 

 先程から、何だか嫌な予感がする。この中庭に、何か潜んでいる気がしてならないのだ。

 

 理由は二つ。

 

 一つ目は炎華の言った通り、ここまで敵が誰も来なかった事だ。確かに、アディラと菊梨花が敵を倒してくれている分、数は減っているだろう。だとしても、『1人も出会わない』なんて事はあるのだろうか? 

 そもそもの話、異世界人のターゲットは聖だけじゃない。『運命因子』と呼ばれる私もターゲットなのだ。私達2人を確保する為に『悪魔騒動』なんて大それた事をやってのけた以上、いよいよ獲物を確保するという段階では相当数の人員を使って来るのがセオリーではなかろうか? 

 

 二つ目の理由は、さっきから漂ってくる『死の匂い』だ。死体の匂いと言うより、()()()()()()()()()()()()()()()と言った方が正しいかも知れない。 私は警察でも医者でも、ましてや米◯町の住民でも無いので、死体の臭いがどういうものかは分からない。だが、それでも『死の予感』が香りとなって、私の鼻腔を刺激している。そんな気がしてならないのだ。

 

 まるで、『瑠璃海 蒼蘭の身体』が、この中庭に進む事を拒んでいるかのようだ。

 

「炎華。多分だけど、この中庭に何かが潜んでいるわ」

 

「マジで!? これも、セーラの未来予知なん?」

 

「『予知』とまでは行かないけど、このまま進むのは絶対ダメ。そういう予感というか、虫の知らせがあるの。かと言って、広過ぎる館内をぐるっと迂回するのは絶対時間がかかるし、これ以上聖を待たせる訳にもいかない。だから……この緊急時に頼むのもアレなんだけど……ちょっとだけ時間と、手を貸してくれる?」

 

 私は、自分の胸に手を当てるジェスチャーをして、友人にお願いをした。

 

「あー、成程ね……。もち、任せて!」

 

 私の言いたい事を察してくれた炎華は、私の身体に手を伸ばし、胸部を優しく揉んでくれた。

 

「んッ……!」

 

(セーラ、あまり大きな声は出しちゃダメだかんね?)

 

(ごめん……なさい……)

 

 もし待ち伏せが潜んでいる場合、今の私の声を聞かれるのは極めて恥ずかしい。いや、これはあくまでも、危険を確実に避ける為に必要な事なのだ。友達から乳房を揉まれたり、意図せず耳元で囁かれたり、これらは未来予知の為の魔力活性化に必要なのだ。

 

(それにしても……シスター服でもセーラのおっぱいは誤魔化せないんだね。ファッションがカッチリした雰囲気な分、お胸周りがミッチミチよ?)

 

 炎華が仰る通り、蒼蘭が持つ発育良好な豊満ボディは、シスター服という清廉なイメージとは対を成す。だが正直、お姉ちゃんのラボで初めて着替えた時……そのギャップには唆るものがあった事は否めない。

 

 体温が上昇し、血液と魔力の循環が激しくなったことで……私は再び未来が、この後取るべき行動が見えた。

 

 ◆

 私達は草木が生い茂る中庭を、一歩、また一歩と踏み締める。視線は前方下側に向けて、足元に罠が無いか気をつけながら進んでいった。ここで急いだら、それこそ敵の思う壺だ。

 

 靴のつま先で草を分け、何も無い事を確認してから歩みを進める。この慎重な歩みを続けて行き、ようやく中庭中央の目印、ムーンフルーツの木まで辿り着いた。残り半分、(はや)る気持ちに抑えが効かなくなる地点でもある。だからこそ、気を引き締める私は更なる注意を足元に向ける…………

 

 フリをしてから、瞬時に視線を空へと切り替えた。

 直後、眩い光が曇天の夜空に浮かび上がる。

 

「炎華!」

 

「分かってる!」

 

 次の瞬間、光輝く槍が中庭の大地を抉った。が、それよりも一瞬早く、私と炎華は地面を蹴って回避する。

 

「……ッ!」

 

 槍の衝撃で飛び散った小石や土塊が頬を掠め、血が肌を伝う。庭の地面は大きく抉られ、草木は文字通り吹き飛んだ。もし直撃を喰らっていたらどうなっていたのか……止めよう、考えただけで恐ろしい。

 

「おー、やっぱり()()()()()()()()()()、攻撃を避けてきたね! 流石は『運命因子』の魔女、と言ったところかな?」

 

 こっちが内心冷や汗ダラダラな事を知ってか知らずか、対照的なまでに明るい声色が上空から聞こえて来る。声の主は漆黒のローブを見に纏い、フードを目深に被った少女だった。傍には背中から光の翼を生やし、大槍を手にした球体関節の戦乙女を従えていた。その生物感を感じさせない無機質な見た目は、先程出会った『執行の(エグゼキュート)権天使(プリンシパリティ)』にそっくりだ。とは言え、発する魔力のオーラはこっちの使い魔の方が格段に強い。天使を凌駕する程の強敵……考えただけでも恐ろしい。

 

「大賢者ラジエル……!」

 

 私は口走った愚かな自分の口を手で押さえたが、時すでに遅し。声の主は益々明るい口調で話しかけてきた。

 

「おや、『大賢者』の事を知っていたのかい? でも、ボクがその大賢者様本人なのかどうか、初対面のキミには判断が出来ない筈だろう? キミは何故、ボクが『大賢者ラジエル』だと思ったんだい?」

 

 今まで冒険者やら魔術師やら、挙句悪魔まで送り込んできた大悪党とは思えない程に、少女はフレンドリーな声色と口調で話しかけてきた。

 

「理由は幾つかあるわ。フードの下、アイスグレーの髪の色。『大賢者ラジエル』の髪色は、一部の魔女に情報共有がされているのよ」

 

「ありゃりゃ、乙女の情報を嗅ぎ回った挙句に言いふらすなんて、ちょっとモラルに反するんじゃないかな?」

 

「それだけじゃないわ……。貴女が傍らに従えている、明らかに強そうな召喚獣。フード越しでも伝わる圧倒的な魔力。何より極めつけは……貴女から漂って来る『死の気配の臭い』よ。今私が言った理由、その全てを高水準で満たせるのは、噂に名高い『大賢者ラジエル』に違いないってね!!」

 

 この際だからハッキリ言ってしまうが、目の前の尋常ならざる魔術師に対し、私は内心萎縮している。声が震えないよう、何とか懸命に堪えているつもりだ。 何故なら、私が今まで出会って来た魔法使いの中で、彼女は『別格』であると文字通り"体感"しているからだ。具体的に言えば、眼前の少女と相対した時からずっと、全身の毛が逆立つ程の魔力とプレッシャーを感じている。恐らくはマギナさんと同格……下手をすればそれ以上の実力かもしれない。お師匠様の魔力もかなりの物だが、今感じている様な刺々しさは感じなかった。

 

 その差が、対峙する少女の危険性を物語っている。そして未来予知ではなく、より原始的な直感が私に訴えている。眼前の少女こそが、()の『大賢者ラジエル』なのだと。

 

 しかし、緊張のあまり相手の正体を口走った手前、今更沈黙するよりかは会話に乗る方が良いと判断した。気分的にも、そっちの方が幾分かマシだ。

 

「成程、成程。キミの考えは良くわかったよ。そしてキミの名推理に対するボクの答えはシンプルさ。

 

『大正解』、キミには花丸を進呈しようじゃないか」

 

 少女がフードを脱ぎ捨て、素顔が顕になる。お姉ちゃんに教えてもらった『大賢者ラジエル』の顔と、寸分違わぬ容貌が目の前にあった。

 

「アンタが……渋谷のアラキーネや、ポーション工場のグザヴィラの親玉ってワケ?」

 

 普段明るい性格の炎華が、宙に浮かぶ少女へあからさまな敵意を向け、声色を僅かに震えさせながら尋ねる。そりゃそうだ。今回を含め、今までの異世界人絡みの案件は全て、目の前に居る大賢者ラジエルこそが黒幕なのだから。私だって、ただビビっている訳じゃない。目の前にいる黒幕に、思う所は大いにある。

 

「その通り、キミ達に刺客を差し向けたのはこのボクさ。そして、ボクの名を既に知っている様だが、だからと言って挨拶も自己紹介も無しと言うのは、流石に礼儀を損なう振る舞いだ。故に、この場で改めて名乗ろうではないか」

 

 芝居掛かった大仰な台詞回しの後に、彼女はくるりと回ってスカートの裾を掴み、優雅にお辞儀をした。

 

「初めまして、異なる世界の少女達。ボクの名は『ラジエル』。『アイン・ソフィア王国』の宮廷魔術師長を任されていて、皆からは『大賢者』と呼ばれる魔女さ。

 

 その一方で(わたくし)めは、女神セフィリア様に仕える『大神官』を拝命しております。御二方、そして貴女達のお友達にも、以後お見知り置きを」

 

『大賢者』と『大神官』、二つの顔を持つと言いたいのだろう。嫌味な程に丁寧で礼儀正しいご挨拶だが、それがまたラジエルを不気味たらしめている。

 

「成程ね。それで送り込んだ刺客が無様にも悉く返り討ちに遭って、大賢者様が重い腰を上げて出張って来た、と言うところかしら?」

 

「まぁ、大体そんなところだけど……ちょっと言い方にトゲがあるんじゃないかな? そんな喧嘩腰にならないでおくれよ、『セイラ・ルリウミ』ちゃん?」

 

 流石に何度も刺客を送り込んでいるだけあって、私の名前は把握済みのようだ。

 

「それに、グザヴィラは兎も角、アラキーネはボクの元教え子なんだ。必要以上に悪く言わないで貰えると、ありがたいんだけどな」

 

「生憎、不躾な客人に対して、礼儀を尽くす心の広さは持ち合わせていないわ」

 

「確かにキミの言う通り、歓迎を受けるには自分から礼を尽くす事が肝要だね。

 

 なら、先ずは礼節の第一歩だ。ボクなりに吟味した『手土産』、キミ達は喜んでくれるかな?」

 

 ラジエルが手を挙げると、傍に控えていた球体関節の召喚獣が再び動きだす。

 

「『原初の戦乙女(プロト・ワルキューレ)』、彼女達にご挨拶だ」

 

 まるで飼い犬に芸を披露させるかの様な命令を受け、無機質な戦乙女は光の大槍を再び投擲しにかかる。槍を大きく振りかぶったその瞬間、動きが一番スローになる瞬間を私は見逃さない。

 

「2度目は撃たせるもんか! 『蒼石の流星(サファイア・ミーティア)』!」

 

 狙いは胴体の中央部。一瞬の隙をつく以上、最も外しにくい場所を攻撃するのがベストだ。私が初めて編み出した固有魔法。魔力の成長に伴い、今や権天使をも倒せる程になった。だから、胸部に突き刺さった水の矢を見て、私は使い魔の討伐を確信した。

 

 だが、戦乙女は『蒼石の流星(サファイア・ミーティア)』を受けて尚、球状の関節を軋ませながら己の武器を振おうとする。

 

「嘘……、耐えた!?」

 

「でもダメージはあるし、動きも鈍った! 今度はあーしの番! 受け取って、『熱情の口付け(キス・オブ・ファイア)♡』!」

 

 投げキッスから放たれる炎魔法、熱エネルギーの塊が、私が与えた傷跡と寸分違わぬ箇所に命中する。流石に大技の連撃には耐えきれず、『原初の戦乙女(プロト・ワルキューレ)』は消滅した。

 

「やった! 倒せたよ、炎華!」

 

「まだまだ! 次は黒幕さん、アンタの番! 燃えろ、『天翔る気炎の猛禽(ブレイジング・ラプター)』!」

 

 炎華はすかさず、次なる魔法を叩き込んだ。燃え盛る炎の鳥が、ラジエル目掛けて突っ込んで行く。敵は空を飛べる以上、ただの攻撃魔法では確実に回避される。

 でも、羽ばたきながら敵に飛び込む『天翔る気炎の猛禽(ブレイジング・ラプター)』なら、ある程度の追撃は可能だ! 普段から明るくてギャル特有のノリをしている炎華だが、時折垣間見る戦闘センスには舌を巻かされる。

 

 そう、彼女は最善の手を打った。その筈だ。

 だと言うのに……私は、目の前の現象が信じられなかった。理解が追いつかなかった。

 

「炎が……消えた!?」

 

 炎の鳥は、確かにラジエルへ向かって行った。だがラジエルの身体に触れた瞬間、まるで蝋燭の炎が吹き消される様に、炎華の固有魔法は霧散したのだ。

 

(いや、落ち着け……ラジエルも炎属性の魔法が得意で、炎への耐性があるのかも……だったら!)

 

「『ウォーター・バレット』!」

 

 ここまでの道中だって、炎が効かない相手には私の水魔法、逆に水が効かない敵には炎華の魔法で対抗してきた。炎が効かないなら、私の出番だ。それに、魔力ポーションも残り少ない。おまけに短時間で魔力の回復と消費を繰り返した所為で疲労が溜まっている。それは炎華も同じだろうし、決めるなら速攻で決める必要がある。

 

(『ウォーター・バレット』は威力が低い分、魔力消費も少ない牽制技。相手が避けたところに、もう一回『蒼石の流星(サファイア・ミーティア)』を撃ち込めば……)

 

 などと言う私の稚拙な作戦を嘲笑うかの様に、ラジエルの身体は水の魔法さえ霧散させた。防御した訳ではなく、避けるそぶりすら見せていない。

 

「魔法が……効かない!?」

 

「んー、厳密には違うよ。セイラ、ホノカ、キミらの魔法は、()()()()()()()()()()()なのさ」

 

「『当たらない』って、避けようともしてないじゃない!?」

 

「だって避けようが避けまいが、訪れる結果に変わりはないんだもの。実際、キミらの魔法はボクに到達する前に消えちゃっただろ? 生半可な魔法では、大いなる運命には太刀打ち出来ないのさ。

 

 キミも『運命因子』の持ち主なら、ボクの言っている事に察しが付く筈だよ、セイラ」

 

 私はラジエルの言葉に、何も言い返せなくなった。ラジエルの発言には、納得せざるを得ないものがあったからだ。

 異世界人達の話を聞く限り、『運命因子』とは人々の運命に干渉し、未来を変え得る『奇跡の力』らしい。そしてどうやら、私も『運命因子』とやらを宿しているらしいのだが……私自身、そこまで大それた力を持っている実感は無かった。そりゃ予知魔法で未来を変えた事は何度もあるが、その為に色々と動く必要があったし、多くの人に手助けされた結果、未来が変わったのだ。こうした一連の事を『奇跡』と呼ぶには……些か人力な側面が強いと思う。

 

 だが、目の前にいる大賢者を見て実感した。私達の魔法が『そもそも当たらない運命だった』と言うのなら、ラジエルが防御や回避をしなかった理由にも納得がいく。彼女の『運命因子』は、私より遥かに強力だ。私だって予想していたつもりだったが、いざ実際に大賢者様の力を目の当たりにすると、圧倒的な力の差に気圧されそうになる。

 

「そんなの、あーしは信じないし諦めない! 届かないなら、無理矢理押し込んでやる! 『緋色に燃る炎の水車(ムーラン・ルージュ)』!」

 

 轟々と燃え盛る炎の車輪が、宙に佇む少女目掛けて突撃していく。ここ2ヶ月、何度も炎華の魔法を見てきた。その凄さを理解していた。ラジエルが今まで対峙した敵と同等程度なら、『緋色に燃る炎の水車(ムーラン・ルージュ)』になす術なく燃やされる筈だ。だって、相手は一切動かないのだから。

 

 だが、どれだけ温度を上げても、回転速度を速めても、ラジエルの前では等しく塵芥なのだと、霧散していく炎を見て思い知らされる。

 

「『論より証拠』、これで分かっただろ? これ以上は魔力の無駄さ」

 

「嘘……でしょ……?」

 

 炎華は信じられない物を見る目で、消えていく自分の炎を見つめていた。当たり前だ。私だって、彼女の魔法が掠りもしない光景なんて、とても現実とは思えないのだから。

 

「そう落ち込まないでよ。ボクはボクなりに、キミ達の事を評価しているつもりだ」

 

 何を考えているのか、敵である筈のラジエルが、なんと私達のフォローをはじめた。

 

「例えばホノカ。炎を出す魔法それ自体はありふれた代物だが、キミの年齢でここまでの威力を出せるのはたいした物だ。それと、セイラ。キミの事は『運命因子』を宿す者として見ていたが……いざ対面したら、中々面白い魔法を使うじゃないか。身につけている修道服は唯の衣服ではないだろう? 水属性の魔法に、光属性の魔力を付与魔法(エンチャント)させる効果があるみたいだ。悪魔達への対策かな? 単なる魔術道具(マジックアイテム)なのか、或いはセイラ自身が着飾る事で魔法の性質を付与しているのか……何れにせよ、大変興味深い。ボクが直接足を運んだ、その労力に見合うだけの価値がキミ達にはある。それだけは誇りに思って良いぜ」

 

 かなり早口で捲し立てられたが、興奮気味なラジエルの表情を見ると、あながち『単なる社交辞令』という訳ではなさそう……なのか? 正直言って、この異世界人の情緒にはついて行けそうにない……。

 

 すると徐に大賢者ラジエルは、天に向けて手をかざした。

 

「キミ達の力を目の当たりにした以上、手土産が『原初の戦乙女(プロト・ワルキューレ)』一体だけと言うのは、幾ら何でも失礼に値するね。でも、大丈夫。何故かって? 他にも色んな召喚獣を用意してあるからさ。この中に、キミ達のお気に召す天使や悪魔、魔物が居ると嬉しいんだけど……まぁ、じっくりと堪能しておくれよ!」

 

 次の瞬間、曇天の夜空に次々と魔法陣が浮かび上がった。その数は10……20……いや、30…………。

 

 いや、おい……。

 おいおいおいおいおいおい! 

 待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て! 

 

 一度に何体召喚するつもりだよ!? 

 さっきの『原初の戦乙女(プロト・ワルキューレ)』、一体だけでも強かったぞ!? パワーも耐久力も、天使達を遥かに凌駕していた。それが……30体以上……だと? いや、待てよ……アイツはさっき、『色んな召喚獣を用意した』とか言ってたよな。じゃあ、もっと強力な天使や悪魔が這い出てくるのか? あの大量の魔法陣から!? 

 

(……いや、ここで弱気になるな! 私だけじゃなくて炎華も、下手したら館にいる全員が危ないんだぞ!? 私が気持ちで負けたら、それこそ一巻の終わりだ!)

 

 私は庭の土を水魔法に染み込ませて、悟られない様に泥水を作る。ラジエル本人にダメージを与えられなくても、目の前で泥水を撒き散らして視界を遮れば、僅かでも隙ができる筈だ。その隙をついて、炎華と一緒に逃げる! それしか無い! 

 

「………………」

 

 今まで余裕綽々な態度を取っていたラジエルの目つきが変わった。まるで、私達を品定めするかの様な、熱心な視線だ。……いや、そんな事は関係ない。この場をやり過ごす為に、全力を尽くせ! 

 

「その心意気はとても立派よ、蒼蘭お姉様。でもこれ以上、貴女達にばかり負担をかける訳にはいかないわ」

 

 突如として聞き慣れた、そして頼もしい声が聞こえて来た。

 

「爆ぜて、『次元(ディメンション)爆弾(・デトネート)』!」

 

 時空の歪みを用いた不可視の爆弾が、中庭の其処彼処で爆発する。今正に召喚されるところだった使い魔達は、出入り口の魔法陣ごと次々に爆散していく。

 

「マギナさん……!!」

 

「遅くなってごめんなさい。そして、先ずはその埋め合わせをさせて頂戴な」

 

 彼女は私達に優しく微笑み、大賢者ラジエルへは真剣な表情で相対する。

 

「キミが例の妖精、『アゲハの大魔女』か」

 

「ええ、お初にお目にかかりますわ。大賢者ラジエルさん。ここから先は、私が貴女のお相手をさせて頂きます」

 

 凛とした表情のマギナさんとは対照的に、ラジエルの表情は不機嫌そのものだった。

 

「はぁぁ…………全く、酷いじゃないか」

 

 この様に大賢者様は、とんでもなくデカいため息まで吐く始末だ。

 

「折角、素敵な魔女の卵達と触れ合っていた所に水を刺すなんてね……流石は勇者様を奪った妖精の姫君だ。その卑しさは健在か」

 

 なんか昼ドラみたいなセリフまで口に出してきたな……。などと私が考えられるのは、(ひとえ)にマギナさんが助けに来てくれたからだろう。この場において、彼女ほど心強い援軍は居ない。故に少しずつ、心に余裕が出て来た。

 

(この隙に少しでも呼吸を整えて、気力と魔力を回復させよう)

 

 私達は、白百合邸突入前にマギナさんから人数分配られた『魔法のウエストポーチ』から、お姉ちゃん特製のポーションを取り出して喉に流し込む。この間、マギナさんはずっと『次元(ディメンション)爆弾(・デトネート)』で、使い魔達を着地狩りならぬ『召喚狩り』している。そのお陰で、敵の目の前でポーションを飲むという隙の大きい行動が取れている。

 

 ……ダメだ、流石に1本じゃ足りない。未来予知に『蒼石の流星(サファイア・ミーティア)』まで使ったから、魔力の消耗が大きい。お姉ちゃんには『一度に何本も飲むと身体に悪い』って言ってたけど、そうも言ってられない。

 

「『勇者様を奪った』と貴女は口にしていたけれど……とんだ言い掛かりだわ、失礼しちゃう。それに、これだけの大事を引き起こした貴女に悪く言われる筋合いは無いわ。どう考えても、悪者は貴女じゃない」

 

「『悪者』ね……ならボクもヴィランらしく、悪逆非道に振る舞って見せようか」

 

 マギナさんの言葉を受け、ラジエルは一冊の本を取り出した。

 

 …………………………………………。

 

「炎華、これ飲んで!」

 

 私は、たった今栓を開けたポーションを、友人の口に流し込む。

 

「んぐっ!?」

 

 炎華は驚いた顔をしつつも、差し出したポーションを飲んでくれた。

 

「いきなり何!? むせるかと思ったじゃん!」

 

 炎華の抗議は至極正論だし、私も悪かったと思っている。だが、そうせざるを得なかったのだ。

 

「ごめん、本当にごめんなさい! でも飲まなきゃダメだと思ったの、炎華には少しでも沢山魔力を回復して欲しかったの!!」

 

「え、ちょ……マジでどうしたの、セーラ……? なんか、顔色めっちゃ悪いし震えてるけど……?」

 

 …………炎華は、()()()()()()のか? いや、それはある意味幸運か……。

 

「あの本……ラジエルがあの魔導書を取り出してから……死臭が、死の予感が急に強くなったの……」

 

 私の身体中で警報が鳴り響くほどに強烈で鮮明な『死』への予兆を体感した。

 

「あの魔導書って、そんなヤバいの……?」

 

 炎華の呟いた疑問に対し、大賢者は不敵な笑みで返答する。

 

「この本はボクが開発した、製本版の魔術スクロールさ。例えば予め本のページに魔法を込めて置くことで、大規模儀式の手順を大幅に短縮させる事ができるのさ。他にも様々な用途があるこの魔導書に、開発者のボクはこう名付けている。

 

大賢者の聖典(ラジエル・バイブル)』、我ながら良い名前だろう?」

 

 まるで折り紙や割り箸で自作したオモチャを自慢げに見せびらかす子供の様に、ラジエルは無邪気な声で私達に語りかけた。その『大賢者の聖典(ラジエル・バイブル)』から漂う悍ましい死の予感が、ラジエルの表情とのアンバランスさを醸し出し、眼前にいる神の使いへの不気味さと底知れなさを加速させる。

 

 そして、アイスグレーの少女は『大賢者の聖典(ラジエル・バイブル)』を開き、詠唱を始めた。

 

「極彩の羽は汝の肉に、甘美なる魔力は汝の血に、幻想なる者を糧とすべく、悠久の時を経て我が元へ来れ!」

 

 ラジエルの詠唱と共に、巨大な魔法陣が上空に浮かび上がる。その面積は、目算で中庭の8割に匹敵する。今まで出現させた魔法陣とは、比較にならない程の大きさだ。マギナさんの『次元(ディメンション)爆弾(・デトネート)』が撃ち込まれても、魔法陣はびくともしなかった。

 

「顕現せよ、『妖精の竜(フェアリードラグーン)』!」

 

 ラジエルの声に呼応するかの様に、魔法陣の中から1頭のドラゴンが召喚された。広大な翼で悠々と羽ばたき、ゆっくりと大地に降り立った。

 

「これが……本物のドラゴン!?」

 

 炎華はそういうと、『妖精の竜(フェアリードラグーン)』をまじまじと眺めた。現代っ子の魔女が実物のドラゴンを生で見たのだ。親友の反応は尤もだ。

 

 それに、()()()()()()()()()事も明白だ。桃色に輝く全身の鱗は、まるでピンクダイヤモンドやピンクサファイアの様に煌びやかだった。更にこのドラゴン、何と身体が発光しているのだ。それ故に今は中庭全体が、ドラゴンの鱗による煌めきにより、とても明るくなっている。今が夜で、天気が曇りである事を忘れらせる程に。この幻想的なドラゴンを見れば、殆どの人間は忽ち心を惹かれるに違いない。

 

 …………だが非常に残念なことに、私は少数派の人間だった。確かに、このドラゴンはとても美しい見た目をしていた。鱗の輝きは、正に幻想的だった。だがそれらを上から塗り潰す程に、()()()()()()()()()()()()がその邪龍にはあった。

 

 このドラゴンと対峙した時に、私は真相を理解した。中庭で感じていた死臭の正体は、他でもない『妖精の竜(フェアリードラグーン)』だったのだ。そして、取り分け死臭の強いのが『ドラゴンの口』だという事実と、『何故このドラゴンの身体がこんなにも幻想的で煌びやかなのか?』という普遍的な疑問。それらが結びついた瞬間、筆舌に尽くし難い程の忌まわしさが私の全身を駆け巡った。全身の警報音が、音量を更に上げて轟いた。

 

「炎華……このドラゴンはダメ……ヤバい……ヤバさの次元が違う……!」

 

「セーラ、マジで大丈夫!? 今にも吐きそうな顔してっけど!?」

 

 炎華の心配は有り難いし、私も実際にはショックで考えが纏まらず言葉を選ぶ余裕もないのだが……せめて、せめて危険性だけでも伝えるべく、震える口を必死に動かした。

 

「多分だけど……このドラゴン、()()()()()()()()()()()()の……だから、本当にマズい……どうにかして、逃げないと……」

 

 私には、何故かこのドラゴンの生態が理解できた。まるで『蒼蘭の身体が教えてくれた』かの様に、自然と脳内に浮かび上がったのだ。本能的な勘、と言うべきなのだろうか……? 自分でも理解が追いつかないまま、蒼蘭の口が半ば勝手に動いて紡いだ言葉だった。

 

 だが、『友達に逃げて欲しい』という気持ちに嘘は無い。体調も気分も最悪だが、せめて炎華だけでも中庭から逃げて欲しい。だが、空を飛ぶドラゴン相手にどう逃げれば良い? それに、そもそもラジエルが私達を中庭から逃す気なんてある訳がない。

 

 いや……だとしても、諦めるわけにはいかない。私は打開策を手繰り寄せるべく、吐き気を我慢しながら再度ラジエルと顔を合わせる。

 

 その過程でマギナさんの横顔が目に入り、私は思わず息を飲んだ。呼吸が荒く、目の焦点が定まっていない。普段のマギナさんが絶対に見せない顔だ。

 

「その表情、どうやらボクの『とっておきの手土産』は、大魔女様のお気に召したようだね。いやぁ、ボクはとっても嬉しいよ」

 

「そのドラゴンは……一体何なの!?」

 

 マギナさんが、震える声色で大賢者に詰め寄った。

 

「ボク達の世界では、『妖精』という種族は遥か昔に絶滅した生き物なんだ。種族が滅んだ最たる原因、それがこの偏食家さ」

 

 ラジエルはドラゴンの顎を撫でながら、得意げに言葉を続ける。

 

「当然、一番の好物がなくなって『妖精の竜(フェアリードラグーン)』も絶滅の一途を辿った訳だが……大賢者にかかれば、絶滅危惧種を生き永らえさせる事も叶う訳さ。というより、アゲハの大魔女様は知っている筈だよね? 

 

 

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()なんだからさ」

 

 龍の鱗が放つ光が、ラジエルの笑顔を照らしだす。無邪気にも思える彼女の表情が、『瑠璃海 蒼蘭』の目にはとても恐ろしく見えた。




一度踏んだアクセルを戻す方法はないので、このままシリアス方面に突っ切ります。

次回の更新は、今のところは未定となっております……。
どうか、気長にお待ちくださいませ。

皮モノ、TS百合、魔法バトル、が合わさった本作品。味のハーモニーを奏でるカツカレーになるか、それとも混沌を極めた闇鍋になるのか……読者の皆様にはどうか、見届けて頂ければと考えています。
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