魔女学園のTS生徒〜被検体の俺は美少女の皮を着せられ、魔女学園(女子校)へ編入する事に〜   作:海神アリア

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何とか宣言通り、日曜日に投稿出来ました!
第3章、思った以上に長丁場になってしまいそうです……。ですがこうして、書ける時に書いて、投稿していきます!

まだまだ波乱が続きますが、蒼蘭ちゃん達はどう立ち向かうのか……それでは、ご覧ください!


第3章23話 大神官の采配②

 ◆

 白百合邸の2階、転移魔法の罠から唯一逃れた蒼蘭は、必死に呼吸を整えていた。

 

(落ち着け、落ち着け、とにかく冷静になるんだ……!)

 

 心臓の早鐘が鳴り止まない自分の身体に、懸命に訴えかける。心を乱せば敵の思う壺、そんな事は蒼蘭だって百も承知だ。しかし、状況が余りにも最悪すぎる。今、中庭では、ラジエルによる悪趣味な余興が始まっている。その様子は、彼女を運んだ虹色の蝶がトランシーバーの様に音声を拾った事で、少しだけ把握する事が出来た。どうやら炎華だけでなく、皆が転移魔法によってバラバラに分断された様だ。

 勿論、ただワープさせただけで終わる筈がない。大神官ラジエルは『余興』と口にしたのだ。なら、転移先にはきっと、途轍もなく強い敵が居ると考えられる。

 

(最悪の場合、中庭で暴れている妖精の竜(フェアリードラグーン)レベルの悪魔やドラゴンが待ち受けている可能性だってあるんじゃないか?)

 

 悪い可能性の想像は、一度始まるとキリがない。それを自覚しつつも、蒼蘭は最悪の可能性を考えずにはいられなかった。

 

(どうする……? 多分、ステラさんから借りたダウジングを使えば、転移させられた皆を探す事は出来る。でも、バラバラに飛ばされたなら、全員を探すのにどれだけ時間がかかるんだ……? それに、こうしている間にも聖が危ない! けど、私はどっちを取るべきなんだ……!?)

 

 蒼蘭は頭を抱えて蹲る。

 

(今、館の中を移動できるのは私だけ……。ステラさんの調べ物はまだ時間がかかりそうだし、マギナさんはあのドラゴンを相手してくれている……。白百合邸に突入したメンバーで、一番弱い魔女だけが助かるとか、どんな皮肉だよ)

 

 立て続けに起こるピンチを前に、蒼蘭はかなり弱腰になっている。

 

(落ち着いて、蒼蘭お姉様。気をしっかり持って!)

 

 突如として、大魔女マギナの声が脳内に響いた。

 

「マ、マギナさん!?」

 

(今、お姉様を運んだ子を通じて、脳内に語りかけているの。この子のお陰で、いつも私とお姉様がやっている念話が、少し離れていても出来るようになっているのよ。尤も、長くは話す事は難しいわ。色々な意味で、ね……)

 

 それはそうだ。強力なドラゴンを相手しながら、念話に使い魔の使役。新米魔女の蒼蘭にも、これが膨大な魔力が必要になるマルチタスクだと理解できる。つまり、長時間の会話は不可能、あまり多くの事を問う事は出来ない。

 

(だったら、一つだけ教えてください! 私は、何をすれば良いですか!? 炎華達と聖、どっちを先に助けるべきでしょうか!?)

 

(ここまで強力なドラゴンを、館の中に何匹も連れ込めるとは考えづらいわ。待ち構えているのは、恐らく上級悪魔。なら、転移先の皆も抗える筈よ。だって、貴女が実力を見込んで、協力をお願いした魔法使いですもの)

 

 マギナの言葉で蒼蘭は、彼女から授かった『第一の助言』を思い出した。確かに炎華達の実力が優れている事は、蒼蘭も理解している。

 

(そして最悪の事態……全員が命を落とす事を避ける為には、『治癒魔法』の力が不可欠だわ)

 

(つまり、皆が悪魔達を撃破してくれる事を信じつつ、私は聖を助けて皆を治療して貰う! これが方針ですね!)

 

(ええ。それと、聖お姉様の元には彼女の母もいる筈よ。彼女にも、協力を仰いで頂戴。貴女がステラから聞いた『推察』を話せば、きっと協力してくれるわ。

 

 今、蒼蘭お姉様が一番の『希望』なのよ。どうか、自分の力と思いを……『聖お姉様を助け出す』と決意した思いを、信じて……)

 

 大魔女マギナの『心の声』は、ここで途切れてしまった。即ち、ここから先、蒼蘭1人で事に当たらねばならない。だが、取るべき方針が定まった以上、蒼蘭の心から、多少なりとも迷いが晴れた。

 蒼蘭はダウジングマシーンを取り出して、聖の位置を確認する。機械が指し示したのは床、つまり下の階だ。

 

(兎に角、時間が無い! 急いで下に降りないと!)

 

 彼女が駆け出そうとした瞬間、

 

「あ……あの中庭のドラゴンは、一体!?」

 

 後ろから声がした。バッと即座に振り向くが、蒼蘭の視界が捉えたのは敵では無い。声の主は中学生くらいの、白髪(はくはつ)の少女だった。髪色こそ違うものの、表情に何処か友人の面影を宿す彼女の事を、蒼蘭は知っていた。

 

(あの子は確か……聖の妹の、(なお)ちゃんだっけ?)

 

 彼女は廊下のガラス窓から、怯えた表情で中庭を覗いている。

 

「あー、もう。ちゃんと自分の部屋に居てくださいって。お母様も言ってたでしょう?」

 

 正教騎士と魔術師組合の者達が、廊下の向こう側から直に駆け寄って来た。

 

「……ねぇ、あのドラゴンは何なの? それに、さっきから家中で聞こえてくる激しい物音は!? 本当に、これがお姉ちゃんの『施術』に必要な事なの!?」

 

 異邦の魔術師達は、少し困った様に顔を見合わせる。

 

(面倒な事になったぞ……何でこのガキ、部屋から出歩いて居るんだよ?)

 

(手っ取り早く、何処かに閉じ込めて置くか?)

 

(辞めておきなさい。母親は兎も角、子供の方は丁重に扱う様にって、聖女ショコラ様から言われていたでしょう?)

 

 家主の子供に聞こえないよう、小声で意見を交わすと、正教騎士の男が笑顔で直に事情を語る。

 

「申し訳ございません、ご息女様。ただいま、神聖なる儀式の邪魔立てを企む者らが現れておりまして……私達一同、貴女様の母君と姉君のため、誠意を込めて賊の対処に当たっている所でございます」

 

「その『賊』って言うのは、私達の事かしら?」

 

 異邦の魔術師達は、声のした方向へ一斉に視線を送る。其処には、藍色の髪と蒼石(サファイア)の瞳を持つ聖女(シスター)が立っていた。

 

(あの人、お母さんに突っかかってた人だ……! でも、何で私達の家に、あの人が? まさか、本当に侵入者!?)

 

 直としては、複雑極まりない心境だ。はっきり言って、直が抱く蒼蘭への第一印象は『最悪』の一言だ。家の事情を知りもしないで、ヅカヅカと踏み込んで来た人間だ。しかも、何故かシスター服のコスプレをして、招いた訳でも無いのに自宅に居る。客観的に考えれば、どう見ても不審者そのものだ。

 

 だが、まさかあんな目立つ格好で窃盗や強盗をしに来た訳ではあるまいし、現時点では高露出度のコスプレイヤーによる家宅侵入でしかない。何より、先程から起こっている事が、この母に因縁をつけた不良コスプレイヤーの所為なのか、直には疑問だった。

 

 それに、直は母親である癒香から聞いていたのだ。蒼蘭が、『聖の友人』と名乗った事を。母が招いた怪しい客人達よりかは、事情を一切知らずとも姉と友達になろうとした蒼蘭の方が、まだギリギリ信用出来そうだと直は感じ取った。

 

「神に仕える正教の騎士が、子供に嘘をつくなんてね。それでも、女神様の使徒なのかしら?」

 

「いえいえ、これは『方便』と言いますか……言葉の綾です。ご息女様に分かりやすいよう、些か言葉を省きはしておりますが……」

 

 先程まで直に向けていた笑顔は、まだ辛うじて神の使徒たる清廉さがあった。だが、今の笑顔はまるで別物。胡散臭さと欲望を隠そうともしない。何故なら、彼ら彼女らの目当てである少女が目の前に居るのだから。

 

「『運命因子』の確保が最優先事項。今更取り繕う必要は無いよな?」

 

「そうね、この場を誤魔化すよりは、さっさと捕まえた方が断然速いわ!」

 

「と言う訳です。此処まで来るのに、随分お疲れでの事でしょう。ですので、早急に聖女ショコラ様とラジエル様の元へ来て頂きましょうか!」

 

 実際、彼等の目測通り、此処まで来るのに幾らか消耗はしている。しかし、直ならこの館について詳しいだろうし、聖の場所も知っている可能性が高い。何より、このまま放っておけば、敵が直に対して何をするか分かったものではない。危機に直面した親友の妹を、見て見ぬふりなど出来る筈がない。

 

「家宅侵入をした身でこんな事言うのもアレだけど……直ちゃんの事は保護させて貰うわ!」

 

 そう言うと、蒼の聖女はすぐさま臨戦態勢に入った。

 

 ◆

 菊梨花が生きる鎧(リビング・メイル)と対峙している頃、時を同じくして、炎華もまた上級悪魔との戦闘を開始していた。シチュエーションは菊梨花の時と全く同じ。魔術師組合の者達が、『上級悪魔』を封じていた鎖を解き放ち、炎の魔女に嗾けたのだ。

 

 それは全長約3mの生きた石像、冥巌魔帝(ガーゴイル・ロード)だった。首は2つ、その上に鎮座する頭部にはツノを生やし、手足には鋭い爪、背中には立派な翼がある。宛ら『キメラの石像』といった見た目だ。

 しかし、眼前の敵は呼吸しており、四肢で床を踏み締め迫って来ている以上、これが石像ではなく生き物である事は、炎華にも理解できている。

 

「『天翔る気炎の猛禽(ブレイジング・ラプター)』!」

 

 先制攻撃を仕掛けたのは炎華だ。基本的に、悪魔は炎に弱い。だが、

 

「ノーダメってマジ!?」

 

 そう、顔面に直撃したにも関わらず冥巌魔帝(ガーゴイル・ロード)には傷ひとつ付いていなかった。石像の悪魔は咆哮を上げ、口元に魔力を溜め始める。それは硬い岩石の塊となり、火炎魔法のお返しと言わんばかりに炎華へ衝突させる。

 

「うわッ、危なッ!!」

 

 幸いにも、攻撃の軌道は目視で躱せる速度であり、運動神経の良い炎華は回避に成功した。が、煉瓦で作られた壁は崩れ、床には大きな凹みが生じている。それらの損傷を見れば、敵が繰り出す攻撃の恐ろしさが嫌でも分かる。

 

(これ、マトモに当たったら絶対ヤバいヤツだ……)

 

 普段明るい性格の彼女も、これほどの敵を前にすれば背筋に寒さを覚える。とは言え、悪魔に天使、戦乙女(ワルキューレ)にドラゴンと、この一晩で立て続けに強敵と遭遇した事を考えると、心が折れずに戦っている時点で大したものだ。

 すると、先程崩壊した煉瓦の壁が、床の瓦礫を残したまま塞がっていった。これも、白百合邸にかけられた魔法の効果なのだろう。つまり、ガーゴイルに壁を壊して貰って脱出する事は叶わない。

 

「要は倒すしか無いってコトか……ひじりんを助ける為にも、セーラと合流する為にも」

 

 そう言いながら、炎華は『必殺技』の発動準備に入る。飛来する岩塊を躱しつつ、攻撃が途切れる瞬間を狙う。

 

「そこだ! 『熱情の口付け(キス・オブ・ファイア)♡』!」

 

 文字通り熱を帯びたギャルの投げキッスがプラズマ砲と化し、冥巌魔帝(ガーゴイル・ロード)の顔面に炸裂する。

 

「『今度も無傷』って訳にはいかないっしょ?」

 

 指鉄砲を構え、炎属性のギャルは石像の悪魔にウィンクを決める。先程とは違い、炎華は確かな手応えを感じていた。表皮の岩がボロボロと崩れ落ち、中に潜む赤黒い皮膚が顕になった。焦げ臭い匂いと煙が上がっており、ガーゴイルが上げる苦悶の声と併せて察するに、ダメージは確実に与えている。

 

(ひょっとして……岩じゃなくて、あの中身の方を狙えば良い感じ?)

 

 己の閃きに従い、炎華は再び『天翔る気炎の猛禽(ブレイジング・ラプター)』を発動させる。狙いは露出した顔面の皮膚、一気に焼き焦がして決着をつけに行く。

 だが、素直に倒されてくれる程、敵は甘くはない。しかも、悪魔が苦手とする火炎魔法が来るとなれば、より必死に生存の道へしがみ付くのが道理だ。冥巌魔帝(ガーゴイル・ロード)の眼に光が灯ると、先程崩された壁の瓦礫が宙を舞った。そして傷を塞ぐ瘡蓋(かさぶた)の様に、崩れた煉瓦がガーゴイルの皮膚を覆った。炎の猛禽は、煉瓦の瘡蓋に阻まれ、決定打にはならなかったのだ。

 

「そういう怪我の治し方ってアリなん!?」

 

 奇想天外な悪魔の生態に、炎華は驚きを隠せない。そして傷が塞がった悪魔は、再び攻撃に転じる。ガーゴイルの口から再度、岩石の塊が発射されたのだ。否、塊というよりは、小さな(つぶて)だ。

 

「痛ぁっ……!」

 

 炎華は、激痛に襲われた左腕を抑え、呻き声を上げる。攻撃の軌道が見えなかった。岩石のサイズが小さいため、先程より攻撃の速度が増している。肉が抉れ、血が煉瓦の床に滴り落ちた。

 痛みに苛まれる魔女に、追撃の岩塊が放出される。今度は錐状、空気抵抗を無くし、獲物を突き刺す為の形状だ。

 

「まだまだッ……!」

 

 歯を食いしばって苦痛を堪え、炎華は石槍の追撃を跳躍で躱す。だが、攻撃の手は止みそうにない。ポーションを使う余裕は、恐らく存在しない。何もかもが未知で常識外れな異世界の悪魔に、炎華もまた完成に翻弄させられている。

 

 ◆

 更に同時刻、アディラもまた同様に、『シスター14からの贈り物』との戦闘を余儀なくされていた。

 場所は大きなガラス窓が存在する、元々はリビングとして使われていた部屋。相対するは氷の悪魔、『氷骨魔(ウェンディゴ)』だ。全長は目算で2.5m、樹氷を連想させる巨大な純白の身体に、猿と骸骨の中間の様な見た目をした化け物だ。

 

 場所と相手が違っても、菊梨花や炎華が直面したのとほぼ同じシチュエーションだ。強いて違いらしきものを挙げるならば、

 

『上級悪魔の戦闘を、間近で見れる機会など滅多に無いぞ!』

 

『他の連中は、上級悪魔を解き放ったらすぐ逃げるだろう!』

 

『だが、俺たちはそんな腰抜けとは違う! 更に精進すべく、ラジエル様が下さった機会を己の糧とするのだ!』

 

 などと世迷言を宣っていた魔術師達が、3人仲良く素敵な氷像と化した事くらいだろう。人体を一瞬にして氷塊へ変貌させた上級悪魔には、流石のアディラも一瞬背筋が凍りついた。が、見方を変えれば、敵の実力を垣間見る機会を得たとも言える。

 

(この凄まじい冷気に魔力……長期戦に持ち込まれたら不利ね)

 

 アディラとてこの一週間、伊達に悪魔討伐の学内バイトをしてきた訳ではない。敵の魔法や能力、自分達の魔法を如何にして通用させるか、倒すには何をすべきか等々(などなど)、彼女は出来るだけ素早く思考を巡らせる。『悪魔』という強力な存在を相手取った経験は、確かにアディラ達A組の糧になっていた。

 

「選択肢はただ一つ、『短期決戦』あるのみだわ! 出なさい、『砂漠の傀儡(デザート・ゴーレム)』!」

 

 アディラが取ったのは、お得意の『砂のゴーレム』を使った戦法だ。だが、巨大なゴーレムで相手を圧倒したり、力を見せつけたりする為ではない。『使い慣れた魔法で強力な相手を確実に倒す』、それ故の短期決戦。相手の実力を、アディラなりに評価しているからこその考えだ。こうした思案も悪魔討伐に取り組む中で……否、それより前の経験、『蒼石(サファイア)の魔女』との演習を経て身につけた代物だ。

 

 だが、目の前の上級悪魔は圧倒的だった。『砂で何かを形作る』事を察知した氷骨魔(ウェンディゴ)が、砂の塊に冷気を吹きかけたのだ。

 

「くっ……砂が……凍って、操れない……」

 

 アディラが作ろうとしたゴーレムは、足先から腰の辺りまでで凍り付いた。砂が固められた異常、下半身から上の部分は作ることが出来ない。

 少女が操る砂が止まり、攻撃の手段が潰えたと見るや否や、氷骨魔(ウェンディゴ)は氷塊で作り出した棍棒を手に襲いかかる。氷の大きさ、密度、そして巨体から繰り出されるスピードの乗った一撃は、少女1人を肉塊へ変える事など造作もない。

 

 無論、このまま黙ってやられるアディラではない。

 

「『柘榴石(ガーネット)の魔女』を、甘く見ない事ね!」

 

 彼女の手のひらから、橙色(とうしょく)の一閃が放たれ、氷骨魔(ウェンディゴ)の頭蓋を撃ち抜いた。砂を魔力で圧縮してガーネットを、弾丸の様に撃ち出す固有魔法、『柘榴石の魔弾(ガーネット・バレット)』が炸裂したのだ。

 確かに、大きなゴーレムを作るには時間がかかるし、その隙をついて凍結魔法で妨害されてしまう。ならばより小さく、より早く、そしてより魔力の密度を高めた攻撃を放てば良い。

 

 実際、かなりのダメージを受けたらしく、氷の悪魔はギチギチと歯を鳴らしながらのけ反り、蠢いている。

 が、次の瞬間、手にした氷の棍棒を貪り始めた。自分の武器をバリボリと音を立てながら食する悪魔に、アディラは唖然とした表情で眺めている。

 

(一体、この悪魔は何を考えて……?)

 

 だが、その疑問はすぐに氷解した。先程、『柘榴石の魔弾(ガーネット・バレット)』を受けた頭部の傷が、瞬く間に塞がっていったからだ。

 

 つまり、敵は冷気を操るだけでなく、『氷を食べる事で傷を回復させる能力』も備えている。しかも、自力で作った氷でも賄えるとあれば、誰が見ても一目瞭然、強力無比な能力だ。

 

 同時に、氷の悪魔が持つ能力は残酷な現実を少女へ突きつける。そう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()、という事実だ。

 

 第一に、冷気の前では、砂魔法が大幅に制限される。第二に、敵は氷を食らう事で回復出来るが、アディラには回復手段がない。ポーションなら、瓶ごと凍りついて飲む事も傷口にかける事も出来ないからだ。

 加えて第三に、アディラは寒い気候が苦手だ。彼女の出身は南アジア、温暖な国で生まれ育った彼女には、日本の冬ですら堪える程だ。この部屋の気温は氷点下20℃、マグロや肉が保管されるべき室温だ。決して15歳の少女が、それも温暖な気候の元で育った少女が居て良い空間ではない。

 

「はぁ……はぁ……ゲホッ、ゲホッ!」

 

 息と肺が凍りそうになり、アディラは咳き込んだ。咳き込みながら、彼女は氷の悪魔を睨みつける。まだ柘榴石(ガーネット)の魔女は、心が折れていない。今まで相手をした敵が可愛く見える程の強敵を前に、彼女の闘志の炎が静かに燃えていた。

 

 ◆

(一方その頃、白百合邸の2階にて)

 

「吹き荒れろ、旋風! 『ディザスター・ハリケーン』!」

 

 簡易的な詠唱と共に、魔術師の男が持つ杖から風の魔法が放たれる。翠緑の風が凄まじい風圧で、蒼蘭の身体を壁へと叩きつけた。

 

「うぐぅっ……!」

 

 背中を強打し、呼吸が詰まる。加えて襲いかかる風圧の所為で、酸素を取り込む事が困難な状態だ。

 

「今だ、 『シルフィード・エッジ』!」

 

 もう1人の魔術師は、風圧で動けない蒼蘭に風魔法の刃を喰らわせる。

 

「ああああっ!!」

 

 身体を斬りつけられる感覚に、蒼蘭は苦悶の叫びを上げる。太ももや二の腕といった、露出した皮膚から血が噴出する。その血も風に飛ばされ、床ではなく壁に染みを作っている。

 

「お前の水魔法など、この強風の中では通じない! 正教騎士共、トドメに移れ!」

 

「言われずとも、既に準備は整ってます」

 

 正教騎士の男女が、共に杖を掲げて魔法の発動に入る。剣の形をとった雷が十数本、蒼蘭の上方に浮かびはじめた。このまま何もしなければ、雷の剣による串刺しは免れない。

 

(こうなったら……一か八かだ!)

 

 身体が風魔法で磔になっている所為で、脚が床についてない。だからこそ脚に込め、蒼蘭は壁を蹴って跳躍する。

 

「『時の戯曲(クロノ・アクト)-加速(シュネル)』!」

 

 同時に、時魔法を使って勢いを加速させる。己を拘束する風圧へ、撃ち勝てる程に。

 

「何ッ!? この風の中、動くだと!?」

 

「水魔法がダメなら、『時魔法』で太刀打ちするまでよ!」

 

 壁に固定した筈の少女が飛来するとは、誰も思っていなかった。故に必然、反応が数手遅れる。蒼蘭は敵の懐へ飛び込み、左腕で直を抱き寄せ、右手で魔術師の杖を奪った。

 

「コイツ、俺の杖を……!?」

 

「遅い! 『ディザスター・ハリケーン』!」

 

 蒼蘭が奪った杖に魔力を込めると、彼女が抱き寄せた直を除く、廊下に居た者が翠緑の強風で吹き飛ばされる。そして、彼等が飛ばされた先には、

 

「マズい! 魔法を解除しろ、正教騎士共ぉッ!!」

 

 だが、気づいた時にはもう遅い。先刻まで蒼蘭に狙いを定めていた雷が、彼女が居た場所へ飛ばされた者達に襲いかかる。

 絶叫は雷鳴によりかき消され、4人の刺客は身体中から煙を上げながら、積み重なったまま気を失った。

 

「はぁ、はぁ……何とか、倒せたわ……」

 

 息も絶え絶えになりながらも、蒼蘭は辛うじて計4名の刺客の撃破に成功した。

 

(取り敢えず、ポーションで回復を……)

 

 ウエストポーチに伸ばした蒼蘭の手を、『白百合 直』が優しく握った。

 

「『ホーリー・ヒーリング』!」

 

 直が魔法を行使すると、風魔法による負傷が瞬く間に癒えていった。

 

「あ、ありがとう!」

 

 まさか治療して貰えるとは思っていなかった為、蒼蘭は驚きつつも感謝を述べた。

 

「お礼を言われる程の事じゃないです」

 

「そんな事ないよ。傷があっという間に治っちゃったし、心なしが疲れも軽くなった気がするわ」

 

「『ホーリー・ヒーリング』は怪我の回復だけじゃなくて、疲労を癒す効果もあるんですよ」

 

「治癒魔法にも色んな種類があるんだ……。流石、聖の妹さんだね!」

 

『聖の妹』と言う言葉に、直は複雑な表情を示した。だが、すぐさま何かを察して、蒼蘭の手を引いた。

 

「誰か来る! この部屋に隠れて!」

 

「え、ちょっと!?」

 

 白髪の少女に手を引かれるまま、蒼蘭はある部屋に入った。




第2.5章までとは比較にならないレベルで、敵が強くなってますが、果たして蒼蘭ちゃん達の『運命』や如何に……!?

次回の更新はまだ未定です。何卒、気長にお待ちくださいませ。
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