魔女学園のTS生徒〜被検体の俺は美少女の皮を着せられ、魔女学園(女子校)へ編入する事に〜   作:海神アリア

106 / 108
月曜日は暑さでダウンしており、結局本日の投稿となりました。読者の皆様も、暑さにはご注意くださいませ。

それはそうと……何か、今のところですが、前回のお話は許されているっぽいですね。まぁ、前回の描写はあくまで聖の、サキュバスの『食事シーン』ですので、決してエロティックな展開ではありません、いいね?

さて、前回蒼蘭ちゃんがピンチを迎えたワケですが、まだまだ波乱の連続です。そして、今回もショッキングな展開がありますので、ご了承くださいませ…。
果たして、聖救出作戦と悪魔騒動の結末や如何に……?


第3章26話 甘露滴る暴食の魔宴(サバト)②

 ◆

「ふむ……少し想定とは違う過程だったけど、見事に『運命因子』の確保に成功したね。流石、ボクが教えた中でも、一番優秀で信頼の置ける愛弟子だ」

 

 中庭では、水晶越しに地下室の様子を見ていたラジエルが、満足気な笑みを浮かべていた。対照的に、マギナは絶望を噛み締めるかの様に歯を食いしばり、俯いていた。そのまま膝を折り、地面に手を突いた。

 

「こんな……こんな事が…………」

 

 妖精の声は震えていた。無理もない。中庭に聳え立つ4つの水晶が、それぞれ絶望的な光景を映していたのだから。

 

 自分の魔法が生きる鎧(リビング・メイル)に通じない菊梨花は、痛ましく刃こぼれした愛刀と同じ様に傷だらけだ。

 アディラは氷骨魔(ウェンディゴ)の氷結攻撃に防戦一方、手足の感覚は無くなっており、壊死一歩手前だ。

 冥巌魔帝(ガーゴイル・ロード)と戦った炎華は、炎魔法が決定打に成らず、(いわお)の足によって地に伏されている。

 そして蒼蘭は、悪魔(サキュバス)の力を呼び起こされた聖によって魔力を吸い取られ、異世界人の手中に堕ちてしまった。

 

「どうして……? どうして貴女達は、こんな酷い事をするの……?」

 

「『どうして』って、キミが勇者様を奪ったからじゃないか。この世界で言う『赫の厄災』は、キミ達に対する女神様の怒りと怨嗟による物さ。

 

 そして、女神様の怒りは今だに収まらない。これは神託なんだ。『アゲハの大魔女は、可能な限り苦しめてから惨たらしく殺す様に』ってね。それが、この余興のもう一つの理由。ショコラの実力を知らしめると同時に、キミが大切にしていた魔女の卵を苦しめてから、キミに絶望を与えてから始末する為さ」

 

「………………」

 

 マギナは、最早何も言わなかった。それが降参(ギブアップ)のサインだと受け取ったラジエルは、妖精の竜(フェアリードラグーン)に命じた。

 

「ほら、お待ちかねのディナータイムだ」

 

 薄紅色の竜は歓喜の咆哮を上げて、久々の好物を丸呑みにした。

 

(さて、これで最大の障害は排除したね。本当は、もっと痛めつけたり、少しずつ貪る様に食べさせても良かったんだけど……)

 

 ラジエルは白百合邸の2階へ視線を向けながら、思考に耽った。そこは、蒼蘭が『時魔法』を用いて危機を脱し、直を救出した場所だ。そして、そこは『運命の乱れ』が発生した場所でもある。白百合家の三女は、蒼蘭によって違う未来を歩むことになった。

 もっと明確なのは、地下室で白百合 癒香が命を繋ぎ止めた事だ。彼女も、彼女の娘も、精神的な動揺で治癒魔法が使えない状況下にあった。この家の当主は、あの場で命を落とす運命にあり……『運命因子』は、その未来を覆してみせた。

 

 未来が、運命が変わる瞬間を目の当たりにして、ラジエルは確信した。『瑠璃海 蒼蘭』、彼女こそが女神セフィリアの神託、『勇者の再来』に必要不可欠なピースである事に。同時に、大賢者は己の興奮と好奇心を抑えられずにいた。悠久にも思える年月の中、『待ち侘びた』という言葉すら生温い程に、ラジエルは勇者との再会を渇望していたのだ。そして、勇者に合わせてくれる存在に対しても、大賢者は並々ならぬ興味を抱いていたのだ。

 

(今は『運命因子』……いや、『セイラ・ルリウミ』との接触が最優先だ。それに今宵は愛弟子の晴れ舞台、師匠があまり出しゃばるのも良くないよな)

 

 彼女はドラゴンを中庭に待機させ、軽い足取りで地下へと赴いた。

 

 …………………………

 …………

 

 時を同じくして、『運命因子』の確保に成功した聖女ショコラの元へ、正教騎士達が駆けつけた。

 

「シスター14、ご無事ですか!?」

 

「何も問題は有りません。『運命因子の少女』セイラも、救済対象であるヒジリもこの通りです」

 

 部屋の中では、虚な瞳で座り込む蒼蘭と聖の姿があった。

 

「さて、後はつい先程、我が師から指示があった通り、この家の地下大聖堂へ集合しましょうか」

 

 悪魔憑きの聖女は、自身が持つ異形の右手で聖へ魔力を送ると、サキュバスの少女はゆっくりと立ち上がった。先程、聖の感情を解放した時より更に強力な魔力を送る事で、彼女を洗脳状態にして操ったのだ。

 

「行こう、蒼蘭ちゃん……」

 

 そして聖もまた、サキュバスが持つ魅了の力で蒼蘭の心を堕とし、支配下に置く事に成功していた。

 

「うん。ずっと一緒だよ、聖……」

 

 虚な瞳で蒼蘭は返事をして、彼女の『ご主人様』からの命令に従った。その光景を見て、正教騎士は歓喜のどよめきを上げた。何せ、自分達の悲願が叶ったのだ。喜ぶなと言う方が酷だ。

 

「おや、セイラは怪我をしている様ですね」

 

 聖女ショコラは、蒼蘭の脇腹が赤く染まっている事に気がついた。地下室までの道中、その戦闘で負った傷だろうか? 兎にも角にも、彼女はショコラ達にとって大切な存在だ。可能な限り、五体満足で大賢者の元へ届ける必要がある。

 

「でしたら、私めにお任せ下さい!」

 

 正教騎士の1人である女性が、蒼蘭に治癒魔法をかけた。と言うのも、この館に乗り込んできた魔女の卵達とアゲハの大魔女によって、正教騎士もかなりの打撃を受けていた。大魔女は純粋に強敵だったが、魔女の卵達も予想以上に強敵だった。かなりの負傷者を出した以上、正教騎士らもシスター14に見損なわれないよう必死なのだ。勿論、シスター14とて立派な聖女、治癒魔法だって扱えるのだが、そんな騎士の想いを汲み取って任せる事にした。実際、蒼蘭の傷はすぐに治療された。

 

「ありがとうございます。それと、他の皆は大丈夫ですか? 治癒が必要な者が居れば、私に言いなさい」

 

「ありがとうございます、聖女ショコラ様!」

 

 何人かの部下はお言葉に甘えて、聖女の治癒を受けた。そして、1人の部下がショコラへ質問を投げかける。

 

「ところで……あの女性はどうしますか? あちらも、一応治癒した方が良いでしょうか?」

 

 騎士が指差したのは、床に座り、壁にもたれかかっている白百合家の当主だった。ポーションによって一命を取り留めたが、明らかに万全の状態ではない。

 

「いいえ、彼女には()()()着いて来て貰いましょう。この家の大聖堂、罪深き母親へ引導を渡すなら、そこが相応しいですからね」

 

 彼女らの宗教観とは違えど、罪人の罪を暴き贖罪を促すなら、やはり神を祀る場所が相応しい。聖女は自らの部下と2人の少女を連れて、地下室を去った。そして、聖女が去った少し後に、

 

「『ホーリー・ヒーリング』……!」

 

 聖女らの会話を耳にしながらも、身体を動かす事が叶わなかった癒香は、漸く治癒魔法を自身にかける事が出来た。だが、身体は回復しても……後悔、罪悪感、諸々の感情が彼女の脚をこの部屋に留めようとしていた。

 

(いいえ……ここまででは……『このまま何もしない』事だけは許されないわ……!)

 

 これは、我武者羅な足掻き以外の何物でもない。それを自覚しながらも、癒香は地下の大聖堂へ足を進めた。

 

 ◆

 大賢者ラジエルと聖女ショコラが執り行った作戦は、極めて完璧に近い物だった。ラジエルが集めた魔女の卵達の情報を元に、各々の弱点をつく悪魔をショコラが配置する。そして、炎華達の足止めに成功し、ターゲットである蒼蘭と聖の確保に当たる。実際、彼女らの思惑通りに事が運んでいる以上、この作戦に穴と呼べる物は皆無と言っても過言ではない。

 

 そう、強いて言えば……ラジエルは、水晶が映し出す光景を()()()()()()()()()()()

 

 例えば、冥巌魔帝(ガーゴイル・ロード)と戦闘中の炎華だ。確かに、彼女は岩で覆われた硬質で鈍重な足の下敷きとなり、今にも踏み潰されそうな状態だ。彼女は薄れそうな意識の中、身体中の骨が軋む音が微かに聞こえていた。後数秒もしない内に、肋骨を始めとする全身の骨が踏み砕かれるだろう。

 

 当然、自分の身体が砕ける事への恐怖はある。しかし、彼女を突き動かしたのは()()()()だった。

 

(ダメだ……あーしがココで倒れちゃったら……次は、セーラ達が狙われる!!)

 

 ここで、この怪物を仕留める事が出来なければ、次は大切な友達が踏み潰される番だ。『そうはさせまい』と言う強い意志によって、炎華の全身は轟々と燃え盛る炎と化した。

 

「ひじりんを……助けなきゃ…………あーしは、その為に、セーラと一緒にきたんだ!!」

 

 炎の勢いに押され、巌の怪物は一瞬よろめき、その先に炎華は脱出に成功する。だが、冥巌魔帝(ガーゴイル・ロード)は冷静に、再び口から岩石の砲弾を放つ為に魔力を装填する。

 

「ここだっ!!」

 

 炎華が僅かに見つけた隙、それは『口から岩を発射する』という攻撃方法そのものだ。

 

「喰らえ、『熱情の口付け(キス・オブ・ファイア)♡』!」

 

 ハートを模った火炎魔法の塊を、普段は投げキッスの要領で相手へ飛ばし、膨張した熱エネルギーをぶつけていた。

 だが、今回は至近距離だ。今までは距離が空いていた所為で不可能だったが、

 

「うおりゃああああっ!!」

 

 今なら、ハート形の火炎魔法を()()()()()()()()()()()()()()

 

「召・し・上・が・れ!!」

 

 予想だにしない攻撃に、冥巌魔帝(ガーゴイル・ロード)は反応が大きく遅れた。そして、炎華の手を振り払おうとするも、既に手遅れだった。炎の魔力は体内で成長し、巌の怪物を内側から焼却したのだ。冥巌魔帝(ガーゴイル・ロード)は苦悶の咆哮と煙を上げ、ついに力尽きて倒れ込んだ。

 

(さっき、中庭でセーラが魔力ポーション飲ませてくれたお陰で、魔力がギリギリ持った……)

 

 正に『運命の妙』と言うべき事態に、炎華は心の中で友人へ感謝の念を抱く。そして、彼女は全身の骨が軋むのを何とか堪えながら、『魔法のウエストポーチ』に手を伸ばし、まだ使えるポーションを探す。岩石の砲撃は、ウエストポーチにも何発か被弾しており、魔力ポーションは瓶が割れて全滅していた。残ったのは怪我を治す治療用ポーションが1本だ。

 

(無いよりはマシだよね……)

 

 炎華はポーションを喉に流し込み、身体の痛みが引いていくのを実感した。

 

(……流石に、全快ってワケにもいかないか。多分だけど、あーしのアバラ、まだヒビ入ってるな……)

 

 だが、炎華は立ち止まるつもりはない。何処を目指すべきかは分からずとも、彼女は急がなくてはならなかった。囚われている聖を救う為に。そして、聖の元へ向かっているであろう蒼蘭を助ける為に。

 

 ◆

 炎華が文字通り『反撃の狼煙』を上げたのとほぼ同時刻、凍てつく部屋の中で氷骨魔(ウェンディゴ)の猛攻を懸命に凌ぐアディラの姿があった。氷の悪魔は眼前の令嬢を冷製挽肉(ミンチ)にすべく、氷の棍棒を振り回している。

 

(凍りつくのを待たずに、態々攻撃してくるなんて……随分と卑しい悪魔だこと!)

 

 心の中で悪態を吐きながら、アディラは部屋中を走り回り棍棒の攻撃を避け続けている。上級悪魔が振り回す巨大な氷塊は、部屋中のインテリアをいとも容易く破壊する程の威力だった。陶器の壺は割れ、ガラスのインテリアは中の液体と共に飛び散った。棍棒に直撃すれば、万に一つも命が助かる可能性は無い。だがそれでも、アディラは絶体絶命のピンチに居ながら、氷骨魔(ウェンディゴ)の事を観察していたのだ。

 

 相手にとっての最適解は、アディラが『完全に凍りつくまで待つ』事だ。だと言うのに、氷骨魔(ウェンディゴ)は口から吐く冷気だけでなく、氷の棍棒による攻撃も交えている。それは何故か? 答えは、悪魔の口周り、自身の体温により凍り付いた涎が物語っている。詰まるところ、氷骨魔(ウェンディゴ)はアディラを捕食する気なのだ。そして『食』の好み故か、はたまた『獲物を自分の手で仕留める』という拘り故かは不明だが、眼前の上級悪魔は棍棒でとどめを刺す事に固執している様だった。

 

(なら、その隙を利用しない手はないわ……!)

 

 恐らくチャンスは一度きり。具体的には、次に繰り出される氷骨魔(ウェンディゴ)の棍棒攻撃を躱した直後だ。

 だが意を決した直後、アディラの足がもつれ、床に倒れ込んでしまった。今までずっと動き回っており、しかも部屋の気温は氷点下20度という極寒だ。彼女の体力は、とっくに限界を迎えていたのだ。

 氷の悪魔は勝ち誇るかの様に咆哮をあげ、獲物にとどめの一撃を振り下ろした。

 

「……勝利を確信したその瞬間こそ、()()()()()()()()ものよね」

 

 アディラは不敵に笑うと、四肢で床を蹴り、跳躍して棍棒を回避した。彼女には、氷の悪魔をこの場所で足止めする必要があったのだ。()()()()()()()()()()()を完遂させる為に。

 

 次の瞬間、部屋の床下から橙色(とうしょく)と紅色の石が次々に飛び出してきた。それは、砂を圧縮させて作り上げた、柘榴石(ガーネット)の塊だ。そして、その形状は錘状で螺旋型の突起を携えた、所謂『ドリル』を模った代物だったのだ。

 アディラは課外授業で聖に紹介されたアニメ、『双星の戦乙女(ヴァルキリア)』を全話視聴していたのだ。その中では主人公が搭乗するロボットの新装備、『ドリル・アーム』が活躍する回が存在した。地中を掘り進めたり、敵のロボットを粉砕したり、時にはロケットパンチの要領で切り離し、遠隔操作で地中から奇襲を仕掛ける場面も存在した。

 

(ヒジリ……貴女のお陰で出会えた作品が、私に力を与えてくれたわ!!)

 

 彼女が常に動き回っていたのは、単に攻撃の回避や体温調節の為だけではない。この部屋には、作りかけのまま凍結されたゴーレムがあった。アディラはその死角で、『柘榴石の魔弾(ガーネット・バレット)』をドリル状に形成し、床下を掘り進めていたのだ。部屋に窓が存在したお陰で、ここが1階である事も分かっている。故に多少深くまで掘り進めても問題はなく、攻撃を悟らせない程度の深度で、柘榴石を待機させる事も可能だった。

 

「穿ち貫け! 『柘榴石の魔弾(ガーネット・バレット)-穿孔螺旋撃(ドリル・クラッシュ)』!!」

 

 アディラの声に呼応する様に、計7本の柘榴石が次々と氷骨魔(ウェンディゴ)の身体を貫いた。頭部、胸部、脚、腕、あらゆる箇所に、予想だにしないタイミングで攻撃をくらい、身体を抉りながら貫かれ、上級悪魔は苦悶の咆哮をあげて地に伏した。

 

 氷の悪魔が倒された事で、部屋の温度は急速に上昇し、夏の夜の暑さが瞬く間に部屋の氷を溶かしていった。幸いにも、氷像と化した魔術師達は気絶しており、更なる戦闘が行われる事は無かった。

 

 が、アディラの魔力も体力も、限界である事には変わらなかった。彼女は膝を突き、最早一歩も動く事は出来なかった。

 

(ま、まだよ……私は、ヒジリを助ける事を誓って、セイラに手を貸してあげると約束した身……それを(たが)える事は、ナヴァラトナ家の娘として、その誇りが許さない……!!)

 

 だが、令嬢としての矜持も、友との約束も、ライバルへの意地も、疲弊した身体を動かす事は出来なかった。部屋の扉へ手を伸ばすも、今の彼女では外へ出る事は叶わなかった。

 

 突如、ギィ、という音と共に扉が開かれた。追撃の敵勢力かと思い、アディラは身を硬直させる。が、部屋に入って来たのは14から15歳ほどの、白髪の少女だった。彼女は部屋を見渡し、怪しげな魔術師達と悍ましい見た目の悪魔が倒されている事、そして疲弊したアディラの姿を見て、大体の事情を察知した。そして確証を得る為に、彼女はアディラに声をかけた。

 

「もしかして貴女は……()()()()()()のお友達ですか?」

 

「貴女は……もしかしてヒジリの……?」

 

「はい、『白百合 (なお)』と申します! その制服、高等部の先輩の服ですよね?」

 

「そうね……ヒジリは、私の世界を少しだけ広げてくれたわ……」

 

 今にも気を失いそうなアディラに、直は急いで治癒魔法をかけた。

 

「『ホーリー・ヒーリング』!」

 

 アディラの傷も疲労も、見る見るうちに回復していく。呼吸もし易くなった事で、アディラは普通に言葉を交わせる程に回復した。

 

「ありがとう。貴女、ヒジリの妹だったのね」

 

「はい。先輩も、瑠璃海先輩と同じ様に、聖お姉ちゃんを助けに来てくれたんですよね?」

 

「ルリウミ……貴女、セイラと出会ったの?」

 

「あ、はい……。瑠璃海先輩は、私をコイツらみたいな怪しい魔法使いから助けてくれて……あ、瑠璃海先輩は、『危ないから何処かに隠れてなさい』って言ってたんですけど、私、居ても立っても居られなくて…………。それで、地下室に行こうとしたら、何か異様な冷気が漏れてる部屋を見つけたので……」

 

 床に這いつくばる異世界人を指差しながら、直は自身と蒼蘭との出会いを簡潔に述べた。

 

「それで、瑠璃海先輩は地下室へ行ったんです。そこに、きっと聖お姉ちゃんも居る筈なんです!」

 

「分かったわ。なら、案内を頼めるかしら? 『居ても立っても居られない』と言うのなら、私と一緒に行きましょう。その方が、貴女1人で館を彷徨くより安全な筈よ。

 

 この『アディラ・ナヴァラトナ』が、ナオをヒジリの元へ……()()()()セイラの元まで送り届けてみせるわ!」

 

 アディラは直の気持ちを汲み取り、共に聖の元へ向かう事を提案した。そして、彼女の気持ちは直に届いていた。

 

「ありがとうございます、ナヴァラトナ先輩! あ、でもその前に、先輩の魔力も回復させますね」

 

 直は蒼蘭に施したのと同じ様に、自身の魔力をアディラに分け与える。そして、彼女達は地下へ、悪魔騒動の首謀者達が待つ階層へと歩みを進めたのだった。

 

 ◆

 そして、時を同じくして、菊梨花と生きる鎧(リビング・メイル)との戦いも、同じく決着を迎えようとしていた。敵は皮膚を硬質化させて鎧に擬態し、同じ要領で手から剣をも生やしていた。その硬度は本物の武器や防具と遜色なく、上級悪魔の高いフィジカルによって繰り出される攻撃は絶大な威力を伴っていた。

 

(恐らくは、あと一回防ぐのが限度……ならば!)

 

 愛刀の『菊一文字』の限界を悟った彼女は後方へ跳躍し、敢えて自身の武器を投擲する。予想外の行動に、上級悪魔は一瞬動きを止めた。無論、刃こぼれが酷い刀を投げつけられても、生きる鎧(リビング・メイル)には傷一つ付かない。

 だが、ほんの一瞬でもあれば、菊梨花は再び武器を取り出せる。彼女は懐から巻物を取り出し、瞬時に広げてみせた。その中には、彼女の魔法で柔らかくされて巻物の間に収納された、菊梨花が持つ『もう一つの刀』があった。

 それは、魑魅魍魎を斬る事に長けた、『童子切』と名付けられた刀だった。菊梨花が彼女の師匠から賜った刀であり、切れ味が余りにも鋭いため『余程のことが無い限り使ってはいけない』と言われた代物だ。

 

(とは言え、幾ら童子切の切れ味でも、過信は禁物……。それに、上級悪魔が一体だけとは考えられませんし、『シスター14』とも戦う必要がある以上、刃の消耗は避けなければ……)

 

 菊梨花は逡巡する。何より、脇腹を抉られ出血が酷い。故に、彼女に残された時間は少なかった。

 

「はああああっ!」

 

 気合いの雄叫びと共に、菊梨花は床を蹴って踏み込んだ。そして、空中で大きく刀を振りかぶる。残された力を、次の斬撃へ全て注ぎ込む為の上段の構え。確かにこれならば、硬い身体を持つ生きる鎧(リビング・メイル)にも大打撃を与えられる。

 だが、胴体を曝け出した獲物を、みすみす見逃す訳が無い。生きる鎧(リビング・メイル)は鎧を着た悪魔ではなく、鎧に擬態した悪魔だ。そして、切り掛かって来た相手を、腹部から姿を現した頭で食い千切る生態をしている。先程と同様、鎧の腹が盛り上がり、血に飢え下卑た笑みを浮かべる異形の顔が出現した。

 

 菊梨花の右脇腹に、異形の歯が食い込んだ。血を啜る為に、肉の味を楽しむ為に、悪魔の口が蠢いている。その味に、満足気な吐息すら溢している。だが、苦痛に顔を歪めながらも、菊梨花は刀を手放さなかった。元より、()()()()()()()()の行動だからだ。

 

 突如、生きる鎧(リビング・メイル)が焦った様に、大きく跳び退いた。菊梨花の血が、()()()()()()頭部に貼り付いたからだ。口が塞がれ、呼吸ができず、視界すら奪われた生きる鎧(リビング・メイル)は、身振り手振りで苦悶を訴えている。

 

 無論、その隙だらけな様を、菊梨花は見逃さない。再びの上段の構えで敵に飛び込んだ。彼女の魔法は、物体の硬度を自在に操るものだ。生き物の硬さは変えられないが、流れ出た血は生き物ではなく単なる『物体』だ。故に瞬時に固める事で、悪魔の動きを乱す事に成功した。

 そして当然、菊梨花が手にした童子切にも、魔法をかける事で凄まじい強度を誇る武器と化す。

 

「『妖剣技(あやかしけんぎ)-天岩戸(あわのいわと)』!」

 

 最大限に硬度を高めた童子切を、菊梨花の強靭な筋力で振り下ろす事で、斬撃は強力な岩をも砕く一太刀と化した。硬質化した皮膚などまるで意に介さないかの様に、童子切は生きる鎧(リビング・メイル)の胴体を真っ二つに切り裂き、苦戦を強いられた悪魔は遂に絶命した。

 

 だが、菊梨花もまた、体力の限界だった。彼女は倒れ込み、次第に意識を失っていった。

 

 …………………………

 …………

 

「大丈夫!? 貴女、酷い怪我をしているじゃない!?」

 

 菊梨花が気を失った数分後、彼女が戦った部屋に足を踏み入れた女性が居た。その白髪の女性によって、菊梨花は治癒魔法をかけて貰っている真っ最中だったのだ。

 

「貴女は……? 私を治療してくださるのですか……?」

 

 菊梨花の質問に、白髪の女性はばつの悪そうな、罪悪感を漂わせた表情を浮かべつつ返答する。

 

「私は、『白百合 彩月(さつき)』。沙織に執拗(しつこ)いくらいに頼まれなかったら、私は貴女を助けられなかった……不甲斐ない魔法使いよ」

 

 彩月は、沙織から送られた正気の沙汰とは思えない程の鬼電とメール、そして暁虹学園の教師にして沙織の友人である萌木早苗からの電話によって、この家に駆けつけたのだ。沙織から『貴女の母親は異世界人に騙されている! 私の妹達が貴女の家に乗り込んだから助けにいって!!』と、限りなく怒鳴り声に近い懇願を受けた時は半信半疑だったのだが……功績と厄介ごと、その双方を齎す胃痛の種である人工魔女に、今回ばかりは彩月の頭が上がりそうになかった。




捕らわれてしまった蒼蘭と聖、捕食されたマギナ……。
彼女達の運命や如何に…!?
そして、まだ希望の炎は潰えていない! 上級悪魔を撃破した以上、残る敵も後少しです! 炎華、アディラ、菊梨花も、聖と蒼蘭達の元へ向かいます!

いよいよ第3章のクライマックスは近いです!
相も変わらず次回の投稿日は未定ですが、どうか気長にお待ちください!

【8/14:追記】今晩の19:00、最新話投稿します!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。