魔女学園のTS生徒〜被検体の俺は美少女の皮を着せられ、魔女学園(女子校)へ編入する事に〜   作:海神アリア

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第21話 異邦の魔女と『アゲハ(Swallowtail)』の大魔女①

 転校初日の時より、魔力が大幅に活性化している。ツバメさんの()()のお陰だろうか、或いは俺自身の魔力が少し成長したのだろうか? それはまだ分からない。

 だが、それは一先ず置いておこう。後は、目の前にいる銀髪の魔女を倒すだけだ。

 

 ◆

「あり得ない……私が、()()()()()()()()の人間に……」

 

 蟲使いの表情からは、驚愕、憤怒、焦り、それら負の感情が滲み出ていた。呼吸は荒く、酷く動揺しているのが分かる。

 彼女は奥歯を噛み締める。

 

(まだだ、まだ私には切り札がある……!)

 

 軍服の右内ポケット、そこにある魔水晶。それを使えば、彼女が使役可能な魔物の中でも、最強の代物が呼び出せる。

 だが、これは正真正銘『最後の手段』だ。前提として、召喚には莫大な魔力を消費する。

 次に、目の前の魔女達が死ぬ可能性もある。主人からは「最悪、死体でも良いから回収しろ」と命じられてはいる。だが、生きたまま連れ帰るのがベストである事には変わらない。

 そして何より……この切り札を使う事を、彼女自身のプライドが躊躇っていた。自分の故郷よりも()()()()()に住む、取るに足らない存在。目の前の少女達はまずまずの利用価値があるが……。

 

(こんな小娘共に、本気を出す……だと……?)

 

 時間にして数秒、されど何分・何時間にも思える沈黙。ただ自尊心が軋む音のみが響いていたその静寂は、青髪の魔女により破られた。

 

「撃ち抜け、『ウォーター・バレット』!」

 

 水の弾丸が、蒼蘭の指から発射された。狙いは、蟲使いの右胸。魔水晶を仕舞っている場所だ。

 

(コイツ……何故、()()を撃った!?)

 

 息の根を止めるなら、心臓のある左胸を撃つ筈だ。だが、蒼蘭はそれをしなかった。なら、その理由は? 先日の暁虹学園の騒動を阻止した事、そして今の甲虫兵との戦いで見せた、攻撃を『先読み』したかの様な回避行動……。

 

(まさか、切り札を隠し持っている事も見透かしているのか?)

 

 恐らく、青髪の魔女は鋭い直感か、或いは予知系統や占い系統の魔法技術を有している。先読みをする能力が、次の一手を予測したと考えるべきだ。

 こうなった以上、出し惜しみは愚策だ。

 

「お前達、聞くが良い。確か名は、蒼蘭(せいら)(ひじり)炎華(ほのか)と言ったな」

 

 三人の少女は、鋭い視線のまま頷いた。

 

「フッ、喜べ! お前たちには我が切り札を、使うに値するだけの価値がある! そして、我が名を聞かせる価値もな!」

 

 紫色に妖しく、そして毒々しい輝きを持つ水晶を、内ポケットから取り出して天に掲げる。

 

「聞け! 我が名は『アラキーネ・ビートローズ』、偉大なる王に使えし、宮廷魔術師が一人! このアラキーネの名において、貴様らを亡き者にしてやろう! 安心しろ、せめて死体だけでも有効に活用させて貰う!」

 

 次の瞬間、アラキーネが持つ魔水晶は強烈な光を放った。漆黒の影が、洪水の様に溢れ出して、全てを飲み込もうとしていた。

 

 ◆

 終わった……。

 銀髪の魔女、アラキーネが何らかの秘密兵器を使うことは予知できた。だからこそ俺は、使われる前に破壊しようとした。だが、結果は見ての通り。あの魔水晶は頑丈で、壊す事ができなかった。力及ばず、溢れ出す影に飲み込まれる……。

 

 その筈だった。

 

「危ない所でしたね、蒼蘭さん」

 

「え……ツバメさん!?」

 

 いつの間にか、俺たちの前には先輩魔女が立っていた。俺たちの周りでは虹色のアゲハ蝶が羽ばたいている。恐らくはツバメさんの使い魔でだろう。蝶達はドーム状のバリアを展開して、俺たち三人を影から守っている。

 

「どうしてツバメさんがここに……?」

 

「あーし達を助けてくれたって事、ですよね!?」

 

 事情を知らない聖と炎華は、思わぬ助っ人に驚きを隠せずにいる。

 

「ええ、その通りですわ。

 そして、貴女達三人以外も……この渋谷にいる全ての人々を、これから救出する所です」

 

 アラキーネの猛攻を防いでいる最中とは思えない程に、ツバメさんは余裕の表情を浮かべる。そして、彼女は俺に微笑んだ。

 

「ここからが、貴女の魔法の真骨頂です。蒼蘭さん、私と一緒にみんなを救いましょう」

 

 ◆

 視界が晴れた。

 バリアの中にいる間は視界が闇に包まれて、聞こえる音は影の濁流のみだった。それらが治った時……俺たちは息を飲んだ。

 

 何故なら、そこに広がるのは見るも無惨な光景だったからだ。

 先程までいたビルは崩れ、瓦礫の山と化していた。

 他にも多くの建物が倒壊し、大勢の人が血を流して倒れている。多分……殆どが死んでいるのだろう。

 瓦礫を逃れた人々も、皆状況が飲み込めずにパニックを起こしている。蜘蛛の子を散らす様に、我先にと逃げ出している。

 

「ツバメさん……この人達は、もう……」

 

 声が震えて、上手く言葉が出せない。そんな俺の手を取り、金髪の魔女は安心させる様に言葉を紡いだ。

 

「落ち着いてください、蒼蘭さん。今から私の魔法で、彼等を全員助けますから」

 

 ……本当に、そんなことが出来るのだろうか? 俺には信じられなかった。というのも魔法世界において、死者を蘇らせる魔法は存在しない。厳密に言えば、遥か昔に失われている。魔法に触れて日の浅い俺でも、この程度の知識は胡桃沢(くるみざわ)博士から聞いている。

 それに、だ。仮に、もし万が一にもツバメさんに太古の魔法技術があったとして、蘇生の魔法が使えたとしよう。ハッキリいって、この数の犠牲者を全員生き返らす事は不可能だろう。命の恩人を疑いたくはない。だが、どう考えても不可能だ。

 

「何やら迷い込んだ魔女が一人居たようだが……『全員を救う』だと?」

 

 アラキーネはツバメさんの言葉を嘲笑しながら、こちらに歩み寄る。

 

「世迷言か、或いは下手くそなハッタリか? 寝言は寝て言う物で、都合の良い夢は夜中のベッドで見る物だぞ? それとも、この『大女王蟻(ミュルミドネス)』が見えていないのか?」

 

 完全に勝ち誇った表情だ。彼女は自分の勝利を信じて疑わない。その根拠は、彼女の背後にいる超巨大な蟲の魔物だ。五階建てビルに相当する大きさで、蟻の様な顔にクワガタの様な大顎を持つ。身体は蟻や蜂に近い形だが、足は胸では無く腹から出ている。刃物の様な羽、口から垂れる毒々しい見た目の涎、見ての通り蟲の巨大怪獣だ。

 

 犠牲者の蘇生どころではない。予知など使わなくても分かる。アラキーネは今からあの化け物をけしかける腹づもりだ。そして、勝ち目が無い事も分かる。アレは人間が挑む様な相手では無い。もし倒せるとしたら、一体どんな魔法を使えば倒せるのか教えて欲しいぐらいだ。

 

 だが……どう言うわけか分からないが、今日知り合った先輩魔女はこの瞬間でも落ち着いている。

 

「あら、起きていても夢は見られますわよ? 

 例えば……この様な、ね♪」

 

 彼女は指を鳴らす。すると俺たちの周囲で、無数の蝶が羽ばたいた。先程バリアを貼ったのと同じ、美しい極彩の蝶。それが、アラキーネと『大女王蟻(ミュルミドネス)』を含めたその場の全てを包み込む。

 

「……いつまでも偽名や仮の姿でいるのも、可愛い後輩達に失礼ですわよね。ですが、お詫びはまた後ほど……ね♪」

 

『ツバメ』と名乗った魔女の身体が、金色に輝き出す。光のシルエットが、徐々に縮み始めた。20歳程の容姿だった女性は、10歳ぐらいの背丈に変化したのだった。ブロンドの髪はロングなツインテールとなり、服は彼女の身体に合わせて小さくなっていた。そして宙を舞うアゲハ蝶の一匹が、少女の髪飾りとして頭に留る。

 

「ツバメさんが、ちっちゃい女の子に!?」

 

「ううん、これが本来の姿よ。私《わたくし》の本名は、『マギナ・ロイジィ・スワローテイル』。

『ツバメ(swallow)』の魔女ではなく、『アゲハ(swallowtail)』の……()()()ですのよ?」

 

 ツインテールの少女、否、大魔女マギナは微笑んだ。『大魔女』……物凄い魔女という事だろうか? それに、『マギナ』という名前、何処かで……。

 

「『スワローテイル』って……貴女が大魔女様だったんですか!? あの、歴史の授業で習った!」

 

 聖の言葉で思い出した。そういや一昨日、歴史の授業でチラッと名前が出てたな。

 

「うふふ、私の事をご存知でしたか♪ 

 では皆様には大魔女の力……いえ、()()()()()をご覧に入れましょう。

 

 悪い夢から醒めたなら、斯くて全てが元通り……」

 

 虹色のアゲハ蝶は、更にその数を増した。視界が極彩色で埋め尽くされる。何が、何が起こっている!? 

 

「『多重並行世界(パラレル・)を飛び交う(ミラージュ・)幻影の蝶(スワローテイル)

 

 マギナさんが詠唱を終えた時、世界は静止した。まるで白黒写真の様に、色彩も、音も、動きも失われていた。

 だが、全てが()()ではない。俺の、蒼蘭の身体は動かせるし、肌色や服の色は失われていない。マギナさんも、だ。

 

 そしてもう一つ、蟲の魔女アラキーネ。厳密に言えばアラキーネ自身ではなく、彼女の身体に刺さった物。いつのまにか、虹色に輝く棘の様な物が刺さっていた。

 

「これ……は……?」

 

「それは、『楔』よ。貴女が、無意識に打ち込んだ物。貴女の未来予知とは、言わば『定められた運命』を変える魔法なの。この楔を使えば、この街は元に戻せるのよ?」

 

 マギナさんは静止したアラキーネに、虹色の楔に足を進める。不思議な事に、アラキーネは歩み寄る大魔女を止める素振りすらしない。それどころか、このモノクロの世界で動いているのは、俺とマギナさんだけだった。

 

 故に、『街を元に戻す』と言う大魔女の言葉には、絶大な信憑性が生まれた。俺は先程の、散々彼女を疑った自分を半ば恥ながら、ツインテールの魔女に歩みを進めた。

 

 その時ふと気づいたのだが、マギナさんの見た目に変化があった。服は白いフリルのドレスに変化しており、背中に羽が生えていた。そう言えば、口調も見た目相応に変わっている気がする。アゲハ蝶の羽を携えたマギナさんは、確かに幼い見た目の可憐な妖精の様に思えて来た……。




いよいよ、大魔女が本格的に動きます。
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