魔女学園のTS生徒〜被検体の俺は美少女の皮を着せられ、魔女学園(女子校)へ編入する事に〜   作:海神アリア

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第43話 『運命の鍵』-ファーストミッション

「さて、先ずは今回の仕事について、軽く概要を説明しようか」

 

 机に置かれた封筒を開封しながら、生徒会長は凛とした声で話し出す。

 

「依頼主はこの学園の創設者にして『アゲハの大魔女』、マギナ・ロイジィ・スワローテイル女史だ。仕事内容は『異世界から来た冒険者の調査・討伐』、募集対象は『学園の高等部1年生』と記されている。もっとも約三名ほど名指しで依頼をされているがね。『1年D組の瑠璃海 蒼蘭、白百合 聖、葡萄染 炎華──私のお姉様三人には必ず声をかけてくださいな♪』との事だ」

 

 字実(あざみ)会長が依頼状を読み上げる。まぁ、依頼主については薄々予想は付いていた。新米魔女の俺を気にかける人なんて、マギナさんと胡桃沢(へんたい)博士くらいなものだ。

 

「また異世界人が来たんですね」

 

 聖が少し暗い表情で呟いた。俺と同じく、渋谷での出来事を思い出しているのだろう。そして、マギナさんが語った『世界の危機』の話を。

 会議室の空気が、僅かに重くなる。皆が薄々気づいているのだ。大魔女からの依頼が只事ではないことに。

 そして……だからこそ、これから重要な話が始まるからこそ、消化しておきたい疑問があった。

 

「会長、一つ質問させてください」

 

「何かな、瑠璃海君」

 

「何故、募集対象が『高等部1年生』なのですか? 相手が異世界人なら、より研鑽を積んだ2年生・3年生の先輩の方が向いているのでは?」

 

「成程、当然の疑問だね。

 その答えはとある学説、『魔術世界免疫理論』さ」

 

「『魔術世界免疫理論』……?」

 

 初めて聞く言葉だ。

 

「では、『ガイア理論』という言葉は知っているかな?」

 

「それは知っています。世界が、地球は一つの意思を持った生物だとする理論ですよね? 例えば気候や海水の塩分濃度の変化は、地球の生命、ひいては『地球そのもの』が生活・進化していくための"自己調節機能"だとする理論、と聞いた事があります」

 

「そう、そして世界が生き物である以上、怪我を治す血小板や病魔を殺す白血球が存在する。要は魔法の世界における『ガイア理論』さ。

『魔法絡みの災害、或いは魔女達が引き起こす大規模な事件──それらが発生する時代には、その被害を阻止或いは軽減させる為に、強力な魔女が生まれやすい』というのが学説の内容だ」

 

「『悪い魔女を倒すため』とか『災害から人々を救うため』の、強大な力を持った正義の魔女が生まれやすい、と?」

 

「一昔前までは、『あくまで一つの学説』とする認識が強かった。だが……先日の『魔力測定試験』。瑠璃海君の目には、クラスメイトはどう映った?」

 

「……! そういえば、平均以上のスコアを出す人達ばかりでした!」

 

「もっと言えば……君は疑問に思っていないかな? 

『どうして生徒会の殆どが1年生なんだろう?』、とね」

 

「…………!! た、確かに! 

 という事は、『魔術世界免疫理論』は正しいのでは!?」

 

「大魔女様が『世界の滅び』を予見した以上、そうだろうね。君たち1年生が、異世界人討伐のエースと言うことだ」

 

 そういう事だったのか……。会長のお陰で、疑問が氷解した。

 

「良い表情になったね。心のつっかえは取れたかい?」

 

「ええ、ありがとうございました」

 

「何、心の整理は大事さ。気になる事を抱えたままでは、話も頭に入って来にくい。

 さて、ここから先の本題は()()()()()()説明していただくとしよう」

 

 字実会長は封筒から二枚目の紙を取り出し、机の上に広げた。そこに書かれているのは文章ではなく、虹色のインクで書かれた魔法陣だ。それも、俺たちが先日の授業で模写した物とは大違いだ。何重もの円、そして見たことのない文字がびっしりと円状に並んでいる。

 

 会長はその複雑怪奇な魔法陣に魔力を流す。彼女の魔力により、魔法陣が淡い光を放った。次に、人差し指で魔法陣をなぞる。すると紙に書かれた魔法陣の円は、まるで電話のダイヤルの様に回転した。

 会長はそのまま、滑らかな指捌きで魔法陣を動かしていく。動画配信でたまに見る、パズルゲームの最速プレイヤーの様だ。

 

「会長は、一体何をしているの?」

 

 彼女とは面識のあるらしい、ヒーラーの友人に質問をする。

 

「あれは『魔法陣の解読』だよ、蒼蘭ちゃん。魔法陣にはね、魔力を流すだけで使える物と、『解読』をしないと使えないものがあるの」

 

「解読?」

 

「簡単に言うと……暗号とかパスワードとかが近いかな? 他の魔女に知られたくない魔法を、ああやって暗号にする事で盗み見られないようにするんだって。見た感じかなり難しい暗号だけど、字実会長は術式魔法の天才だからね。どんなに難しい魔法陣もすんなり読み解けちゃうんだよ」

 

「ほえ〜、そんな技術があるんだ、知らなかった……。教えてくれてありがとう、聖」

 

「どういたしまして!」

 

 聖はニコッと微笑んで返事をしてくれた。

 

「あと少し……よし、解読完了だ!」

 

 魔法陣は先程よりも強い光を放つ。そして、立体映像の様な物が出現した。本当にすんなり読み解いた会長は、変わり者ではあるがやはりA組所属なだけはある。

 

『ご機嫌よう、高等部生徒の皆様』

 

 そこに映し出されたのはブロンドヘアーの妖精、白いドレス姿のマギナさんである。映像の中の彼女はスカートの裾を掴んで優雅に一礼をすると、一人用のソファーに着席した。

 

『私の依頼を受けてくださった事に、先ずは感謝を伝えますわ。どうもありがとう。

 ……さて、早速お仕事の説明をしましょうか』

 

 マギナさんが手元のステッキで宙をなぞると、映像が切り替わった。これは……学園周辺の地図だ。

 

『私の未来予知によると今日の夕方、私達の学舎がある街に『異世界からのお客様』がいらっしゃるわ。細かい場所までは……ごめんなさい。完全には特定できなかったわ』

 

 再び映像が切り替わる。マギナさんが四人の男女と戦っている光景だ。服装や装備品──剣や弓、杖といった武器から察するに、彼らは所謂『冒険者』というヤツだろう。宮使えの兵士なら、もっと高そうな鎧とかしているだろうし。

 それにしても……凄まじい暴れぶりだな。炎の竜巻、矢の雨、燃え盛る大剣、雷魔法……周囲の建物が壊れそうなレベルだ。

 

『彼らは血気盛んで、住民や建物に被害を出しかねないわ。だから貴女達には、異世界人を見つけて無力化して欲しいの。今日やってくる冒険者さん達は、貴女達でも太刀打ち可能な強さよ。勿論、万が一危険を感じたらすぐに避難して頂戴な。

 冒険者さん達はこの映像みたいに、色々な武器や魔術道具(マジック・アイテム)を駆使して戦うわ。くれぐれも、彼らの持つ道具には注意してね』

 

 マギナさんのナレーション、もとい解説が終わり、再び彼女自身の映像に切り替わった。

 

『異世界人については、まだまだ知らない事が沢山あるわ。だからお仕事の前に、もしもお互いに知っている事や()()()()()()があれば、みんなで共有する事をオススメします。

 それでは、勇敢で頼れる生徒達(こどもたち)、吉報をお待ちしてますわ♪』

 

 映像はここで終わり、魔法陣の輝きも途絶えた。

 

 ◆

「これが依頼の全容みたいだね。

 さて、特に質問とかが無ければ、マギナ様が仰られた通り情報共有タイムといこうか」

 

「情報も何も……アタシは『異世界人』とは会った事も無いッスよ?」

 

 困惑の表情でギタリスト魔女の風歌が呟く。

 

「寧ろこういうのは……。雷葉、アンタ何か知らないか? ネットの掲示板とかで、噂になっている事とかさ」

 

「んー、役立ちそうな情報は無い。精々、イギリスやらアメリカやらでファンタジーな格好をした不審者が出たって事ぐらい。それもあくまで噂レベルだし、具体的な情報は秘匿されてるから、情報としては心許ない」

 

 ノートパソコンをカタカタと動かしながら、雷葉は気怠げに姉へ返答する。

 

「いえ、私達よりも実際に会った人に聞くべきでしょう。白百合さん、葡萄染さん、瑠璃海さん。貴女達は既に異世界の人間と出会ったのですよね。何か、今回の依頼に役立ちそうな情報はありませんか?」

 

 ここで副会長が機転を効かせてきた。

 

「え〜? あーしらが会ったの、ここまでゴリゴリの『冒険者』って感じじゃなかったよ? ファッションも革ジャンとかのチャラ男スタイルの軍服のおねーさんだし。どっちかっていうと『スパイ』の方が近いかな?

 ……あ、そういえば虫の魔物を召喚してた!でも、さっき映ってた冒険者は召喚魔法を使ってたなかったし、みんながみんな使うわけじゃないのかも」

 

「炎華ちゃん。もしかしたら、マギナさんが伝えたい事は別にあるんじゃないかな?」

 

「そうね……ヒジリの意見も一理あるわ」

 

 ガタリと音を立てて、勝気な財閥令嬢が立ち上がった。

 

「そろそろ黙ってないで何か言ったらどうなのかしら、『蒼石の魔女』さん? どうもさっきから考え事をしているみたいだけど? 何か知っているなら、いい加減教えてくださらない?」

 

 彼女の言う事は最もだ。というより、皆薄々解っていたのだろう。知らない筈の情報を知る事が出来るのは、未来予知が出来る蒼蘭ちゃん以外存在しないのだから。

 

「えっと……ごめん、私も何か忘れているというか、思い出さなきゃいけない事がある気はするんだけど、上手く思い出せなくて……」

 

 そう、マギナさんは『俺が何かを思い出す』事を望んでいるようだった。というか、俺も何か皆に言わなきゃいけない事があった気がするのだが、上手く思い出せない……。

 

「ん〜……ま、考えてもしょうがないっしょ! 

 セーラの未来予知が必要なら、炎華ちゃんが『マッサージ』してあげよっか?」

 

 手をワキワキさせながら、炎属性のギャルが近づいて来た。

 

 ん……? 『マッサージ』……『炎』…………

 

「ああああああああっっ!!」

 

「うわっ、ビックリした!! 

 どしたん、セーラ!?」

 

「思い出した! 

 火、『火事』の未来予知!! 

 私、昨日見たの! 大きな建物が、真っ黒な炎で燃えている光景を、予知で!」

 

 にわかに会議室がざわついた。

 

「なら、具体的な場所とか時間は分かるかい?」

 

 会長は努めて冷静に質問をした。

 

「えっと……すみません、分からないです」

 

「……一応聞くけど、ちゃんと『未来予知』なのよね? 夢とか白昼夢とかじゃなくて」

 

 アディラ嬢は半信半疑と言った口調で聞いてきた。

 

「あれは絶対未来予知だよ! だって見たのは昨日、聖に『マッサージ』をしてもらった後に……むぐっ!?」

 

「わあああああああッ!!」

 

 聖は大慌てで、迂闊な事を口走った蒼蘭ちゃんの口を手で塞いだ。

 

「え〜、何ナニ? セーラとひじりんは、二人して昨日何してたの〜?」

 

「いや、その……実験、未来予知の実験的な!! 何も不純な事はしてないよ、炎華ちゃん! 

 そうだよね、蒼蘭ちゃん!? ね、ね!?」

 

「むぐむぐむぐむぐ!!」

 

 友人の言葉を肯定すべく、蒼蘭ちゃんは口を塞がれたまま必死に頷く。

 

「ちょっと失礼、瑠璃海君。キミの額を貸してくれ給え」

 

 会長は魔法陣の描かれた、トランプサイズのカードをポケットから取り出し、俺の額に当てた。カードはほんのりと熱を帯びており、額から離れると魔法陣が淡く光っていた。

 

「こういう時は、実際に見てみるのが一番さ。それで瑠璃海君が見たモノがハッキリするよね」

 

 生徒会長は下級生を安心させるように、明るい口調でウィンクをした。そして、プラスチックカバンから二枚の紙を取り出して、机の上に重ねて広げる。一枚は白紙で、上に重ねたもう一枚の紙には魔法陣が描かれており、その中央に先程のカードを置いた。

 

「これが言葉(ことのは)一族の力、代々受け継がれて来た術式魔法の技術さ。ここから先は瞬き厳禁、取り分け魔法の世界に踏み入れたばかりのお姫様はね!」

 

 生徒会長は自信満々に言うと、紙に魔力を注ぎ込んだ。魔法陣の輝きが収まり、彼女が一枚目の紙を退けると……

 

「ええッ、これは!?」

 

 そこに映し出されたのは、黒く不気味な炎が燃え広がる、開けた屋内の空間だ。

 そう、白紙だった筈の紙に、俺が予知で見た光景が印刷されていたのだった! その場にいた全員が、映し出された画像に釘付けとなる。

 

「これは『念写』の魔法陣。瑠璃海君の記憶にある光景を、こうやって紙に映し出す代物だ。この魔法陣は空想や妄想には反応しない。『その人間が実際に見た』光景しか映せないからね。

 論より証拠さ。こうすればみんなにも、瑠璃海君の予知を信用して貰える筈だよ」

 

「凄い……会長って、こんな凄い魔法が使えたんですね!」

 

「お褒めに預かり、光栄の至りだ。

 まぁ、下準備に一手間かかるのが難点だけどね。

 額に当てるカードと、印刷用の魔法陣。この二つを前もって用意する必要があるのだけど……まだストックが残っていて良かったよ。術式魔法は色々な事ができるが、どうしても一手間かかってしまうのが玉にキズなんだ」

 

「だとしても、凄い魔法な事に変わりはないですよ! それに私、術式魔法が凄い事、知ってますもん! まるでステラさんの『ルーン魔術』みたいです!」

 

 すると、会長は驚いた表情をし、その後すぐに微笑んだ。

 

「ありがとう、蒼蘭君。我が家の魔法を、純真な気持ちで褒めてくれて。それにしても、君は既に原初の術式魔法を見ていたのか。どうやら、蒼蘭君は『出会い』に恵まれている魔女のようだね」

 

『出会い』か……確かに、その自覚はある。

 

「会長。雷葉、一個手がかり見つけた」

 

 まじまじと見つめていた一同の中から、一人の声が上がった。

 

「ここ、壁に時計がある。ぼんやりとしてて分かりづらいけど、長い針と短い針が一直線になってる。だから、この火事が起こるのは午後の6時で多分間違いない」

 

「おお、それは吉報だ! ありがとう、雷葉君。

 その調子で他にも気になった事があれば、みんなも共有するんだ!」

 

「あとは何処が燃えてるかが分かれば良いんだけどな……ぼんやりしてるし燃えてるしで、アタシには『だだっ広い場所』って事しか分かんね〜! 会長、アタシはギブアップだ!」

 

 風歌は頭を抱えて根を上げる。俺の記憶が朧気な所為で、これ以上の情報は望めそうにない。気を失う寸前に見た予知だから、どうしても記憶が薄れてしまっている……。

 

 クソッ! 

 恐らくマギナさんは大なり小なり、俺の予知をアテにしてくれたんじゃないのか!? 

 俺は、彼女の期待に応えられないのか……? 凡庸な俺に価値を見出してくれて、強くなる機会をくれたりや『運命の鍵』として扱ってくれたり……自分を変えるチャンスを与えてくれたと言うのに。

 

「待ってください、風歌さん。貴女の発言は中々確信を突いていますよ」

 

 副会長の声に、皆が注目した。菊梨花副会長は、プリントされた画像の左端を指差しながら解説をした。

 

「この建物は天井が高く、そして屋内店舗の看板らしき物が、左端に映り込んでいます。他にも、右側には円柱状の柱の様な物が。

 恐らく、ここは百貨店かショッピングモールではないですか?」

 

 確かに言われてみれば、少なくともコンビニやスーパーマーケットの類では無さそうだ。それらの店舗は天井はここまで高くないし、デカくて丸い柱はショッピングモールや百貨店、デパートなんかにあるイメージだ。

 

「じゃあさ、候補は三つに絞れたって事っしょ!? 駅チカの百貨店と、中央通りの百貨店、後は橋を渡った先にあるショッピングモール! 他に当てはまりそうなお店無いもん。

 凄いじゃん、セーラ! セーラのおかげであーしら、何処に放火魔ちゃんが来るか分かっちゃったよ!」

 

 炎華はまるで自分の事のように嬉しそうな表情で、蒼蘭ちゃんを抱きしめた。

 

「そ、そんな事ないよ。私一人じゃ、場所の候補なんて絞れなかったし。会長やみんなのお陰だよ!」

 

「なら、蒼蘭君の言葉に倣って、我々も力を合わせようじゃないか!」

 

 会長は部屋の端っこにあったホワイトボードを持ってきて、そこに街の地図を貼り付けた。

 

「怪しい場所は三つ。なら、三手に分かれるのが定石だ。そして各自、悪さをする異世界人を見つけたら場合、交戦した後に確保すること。確保した際や相手が危険だと判断した場合は、魔法機関に連絡すること。そして蒼蘭君の予知にあったような、黒い炎を扱う冒険者を見つけたら、全員に連絡する事! 直ちに他のチームと合流して、事態の対処へ当たるんだ。

 各自に確保用のワイヤーやポーションを入れたポシェットを配布するので、それを持って仕事に行くんだ。それでは各自、このチーム分けでミッションを開始だ!」

 

 会長が発表したチーム編成。駅方面へは菊梨花と雷葉。中央通りへは聖、炎華、風歌。そしてショッピングモールへはアディラ嬢と……俺だ。

 

『運命の鍵』に課せられたファーストミッションは、こうして幕を開けた。

 

 ……この仕事で活躍できれば、『運命の鍵』としての価値を示せれば、俺もきっと自信が持てる。『凡人ではない何者か』に、きっとなれる筈だ。

 

 ……気合いを入れて、取り組まねば。

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