魔女学園のTS生徒〜被検体の俺は美少女の皮を着せられ、魔女学園(女子校)へ編入する事に〜   作:海神アリア

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今回、ちょっと長めです。
色々なキャラの活躍や心理描写を詰め込んでしまいましたので……


第48話 黄金世代、面目躍如!

 ◆

 今から一週間程前、彼らはこの世界に降り立った。

 覇王ダルトの転移魔法は、異なる世界にすら行くことが可能である。だが、何処に転移するかは分からない。無論、水中や空中と言った人が死ぬ様な場所は避けており、またある程度人が居る都市部に転移する様に計らっている。が、それ以外は国も場所もランダムなのである。

 

 故に彼らの到着場所が俗に『魔術ギャング』と呼ばれる、魔法世界における裏社会組織のアジトだったのは全くの偶然である。その時にギャングの構成員と戦った彼らは、この世界における魔法使いの強さを理解した。

 

(弱い)

 

 それが彼らの出した結論である。『魔法が衰退した世界』なのだから当然ではあるが、それにしてもギャング達の弱さは想像以上であった。男性や一部女性構成員はアイテム頼りで自分自身の魔法を扱えず、魔法を扱える女性構成員も初級魔法程度しか習得していない。故に、かつて最前線で戦うBランクパーティに取っては赤子の手を捻る様なものである。

 

 彼らは圧倒的な実力差で制圧し、組織を従える事に成功したのだ。それにより、冒険者時代とは比べ物にならない程の贅沢を味わった。美食、美酒、金銀財宝、そして女遊び。ギャング達だって命は惜しい。自分達では到底敵わない相手に、全力で媚びへつらった結果である。

 

 それがBランクパーティ『宵の地平線』のリーダー、剣士デビットに歪んだ成功体験をもたらしてしまった。斜陽事業の冒険者より、組織の要人をしていた方がよっぽど良い思いができる。何より、現地の者がこぞって自分の強さを持て囃し、必要としているのだから。

 身の丈を大きく逸脱した贅沢は、人間を数日で堕落させる。それに、デビットは『冒険』その物に執着していない。未知の探究やロマンより、金の方が大事な人間だ。冒険者をやっているのも、手っ取り早く稼げる手段だからでしか無い。稼いだ日銭で酒や食事を楽しむ、そうした刹那主義的な者も冒険者には少なく無いのだ。

 とは言え、腐ってもBランク冒険者だ。最低限外面を取り繕うことは出来るし、パーティメンバーとも不要な衝突は避けてきた。

 

 だが、一度贅沢を知ったデビットは、本来の仕事が億劫になってしまったのだ。この広い世界で『運命因子の魔女』を見つけ出す、覇王と大賢者ラジエルから与えられたクエストである。パーティのサブリーダー、元素魔術師のフランは連日、本来の仕事に取り掛かるよう訴えている。彼女は女神セフィリアの敬虔な信徒だ。大神官も兼任するラジエルとも、多少の面識がある。フランは、ラジエルが与えてくれた仕事を是非成功させたいと考えているのだ。

 

(……めんどくせぇ)

 

 それがデビットの率直な感想だ。フランの言い分に理がある事は、頭では理解している。ここ最近やった事と言えば、勢力拡大と情報収集の名目で他のギャング組織を襲撃したり、裏社会の繋がりを利用して他の冒険者パーティを探したりしたぐらいだ。最も、それらは建前で更に自らの懐を温めるのが主目的だった。

 

 だが、遂にデビットも重い腰を上げた。メンバーからの咎める様な視線が、日に日に気になっていたからだ。取り敢えず人が集まっている場所で騒ぎを起こさせて、こちらの世界の出方を見る。目当ての魔女は、少なくとも裏社会には居なそうだ。ならば騒動の鎮圧に赴いた表社会の魔女に、何か手がかりがあるかもしれない。それに、目ぼしい魔女は生死問わず『持ち帰る』事も命じられている。運命因子が見つからずとも、程々に手柄を立てれば大賢者も文句はないだろう。

 そして、『宵の地平線』はショッピングモールに赴いた。先ずは手下にしたギャングに騒ぎを起こさせ、やって来た魔女を仕留める。手に入れた情報によると、表社会の魔女は自分達冒険者を討伐しようと躍起になっているらしい。なら、偽の冒険者で釣れば安全に、運が良ければ大物が釣れるかもしれない。この世界の魔法のレベルを考えれば、簡単な仕事な筈だった。

 事実、フランの操る四大元素の水晶が、ノコノコ出向いて来た魔女の卵達を仕留めた所だ。取り敢えずの手土産は確保した。後は程々に贅沢を楽しみつつ、本来のクエストをちまちまと進めれば良い。

 

 だが、デビットにとって大きな『誤算』があった。ある意味で幸運であり、ある意味では不幸な事に、このショッピングモールにやって来たのが『運命因子の魔女』だったのである。

 

 水晶から放たれた攻撃により、室内に土煙が立ち込めていた。それが収まった時、デビット達が見たのは魔女達の死体ではなかった。青髪の少女が伝えた『危険』に対抗すべく、『柘榴石(ガーネット)の魔女』が展開した、ドーム状の砂の防壁だったのだ。

 

 ◆

「ゲホッ……ゴホッ!」

 

 蒼蘭は胸を押さえて咳き込んだ。彼女の肋骨は軋み、肺には激痛が走った。咳と同時に、床に赤い染みが出来る。

 水晶の攻撃は、アディラが全て防いだ。この痛みは蒼蘭が魔力の活性化が不十分なまま、無理矢理『予知魔法』を使った所為だ。新米魔女の身体は、強力な魔法の行使に耐え得る代物では無かったのだ。

 とは言え、だ。蒼蘭以外にダメージを負った者は居ない。彼女の予知と、警告にいち早く反応したアディラの功績である。本来避けようのない不意打ちを、最小の痛手で済ませられたのは十分すぎる成果であろう。

 

「あぁ、もう……本ッ当に気に入らないわね!!」

 

 だが、アディラ・ナヴァラトナにとっては気に障る事実であった。

 上級生から可愛がられる姿や、スライムに弄ばれる姿。それは『まだまだ未熟な、愛らしい新米魔女』の姿であり、普段の蒼蘭が見せている姿に他ならない。

 一方で、河原で見せたフェイントを織り交ぜた戦法、エアガンを用いた不意打ち、そして先程咄嗟に危険を感知して皆に知らせた時の表情。それはあの時の……アディラが蒼蘭と戦った時に見せた時の物だった。

 

 普段は頼りなく、笑顔と愛想を振り撒く事が主要業務のマスコット。そんな彼女が時折見せる知恵や大胆さ、そして輝きを宿した眼差し。『輝き(アディラ)』の名を持つ柘榴石(ガーネット)の魔女に取って、否が応でも意識せざるを得ない、厄介な代物だった。

 

「それはコッチの台詞だっての……何で今のでくたばらねぇんだ?」

 

 空間から姿を現したのは、5名の男女。その中でリーダーのデビットは、心底不満気に声を荒げた。それに反応した蒼蘭が、苦痛を堪えながら不敵に笑って言い返す。

 

「未来が……見えたからよ、悪党さん。貴方達の悪知恵は、蒼石(サファイア)の魔女にはお見通し……カハッ……!」

 

 ほら、これだ。普段は大人しそうな態度を取っておきながら、危機に直面した時には血を吐きながらでも強気に啖呵を切る。こういう態度も気に食わない。しかも、『本当は強気な人間が、敢えて可愛げのある人物を演じている』訳でもない。素であの愛玩動物っぷりであり、それでいて立ち向かうべき相手には『あの眼差し』を送るのだ。

 蒼蘭が『守るべきか弱き少女』であるなら、アディラも彼女を守る様に振る舞う。それがノブレス・オブリージュ、父から教わった『恵まれた立場に居る人間が取るべき指針』であるからだ。だが蒼蘭の場合、少なくとも単なる弱者では無い。故に取るべき態度が掴みづらく、そこもアディラにとって気に入らない点である。

 

「『未来が見えた』……? 

 まさか、この娘が『運命因子』!?」

 

 先程の水晶の持ち主、フランは心底驚いた様子だ。

 

「ハッ、こりゃ良い! まさか向こうから出向いてくれるなんてな! 俺たちは幸運だ、これで今日は格別に上手い酒が飲める!」

 

 リーダーは有頂天となり、今晩ありつく勝利の美酒に早くも想いを馳せている。よく見ると、ザリックは軽く酔っ払っていた。偽冒険者の戦いを、ワイン片手に見物していたからだ。

 

「さぁて、そうと決まればさっさと『周りの魔女』を片付けるか!」

 

「あら、ひょっとして『隠れているお友達』に私達を倒させるつもりかしら?」

 

 アディラが指を鳴らすと、床に散らばった『砂』が針の形状となり、『見えない何か』を突き刺した。

 

「ぎゃああッ!」

「あがッ、何で……俺たちの事が?」

 

 呻き声を上げたのは、盗賊らしき男二人と弓使いの男一人だ。姿を消す魔術道具(マジック・アイテム)で身を隠し、少女達を暗殺する手筈だったらしい。だが予想外の攻撃により、アイテムの効力が切れてしまったのだ。

 

「あらあら、意外と簡単に引っかかったのね! 私が何の意味もなく、『砂の円蓋(グリット・ドーム)』の砂をばら撒いたと思う?」

 

 盗賊の1人がすぐさま自分の足元を確認する。

 そして床に撒かれた砂の上に、しっかりと『足跡』がつけられていたのを理解した。

 

「姿を消して隠れている人間が『目の前の貴方達5人だけ』なんて、馬鹿正直に信じるとでも思ったのかしら? 

 残念でした、少なくとも私は騙されませんわ!」

 

 剣士デビットをビシッと指差して、アディラは声高に言ってのける。この時、冒険者達の視線が蒼蘭からアディラに切り替わった事に、彼女は内心喜びを隠せなかった。

 

(そう、貴方達が見るべきは『私』よ。自分達に取っての真の脅威が、そして恐れ慄き崇めるべき魔女が、セイラではなくこの『アディラ・ナヴァラトナ』である事を思い知りなさい!)

 

「どうするの、デビット?」

 

「どうするも何も、数で押せば良いだろ? 出てこい、お前達!」

 

 場を仕切るリーダーの声に応じて、各々が不可視化を解いた。モールにいる敵は、ざっと20人程の大所帯であった。大物が釣れた時に備えて、この地に降り立った冒険者パーティを粗方集結させていたのだ。

 

「事前の取り決め通り、報酬は山分けで良いんだな?」

 

「ああ、但し一番戦果を上げたパーティが少し多めに分け前を貰う! これが決まりだ、異論はないな?」

 

 他パーティからの問いかけにデビットが答えると、その場から雄叫びが上がる。皆、仕事に飢えた冒険者だ。久々の冒険、未知なる土地、それでいて『自分達でも倒せそうな、そして倒しても良い敵』。こんな良い仕事はないだろう。

 

 早速、3名の召喚師が水晶に手をかける。魔法陣から現れたのは緑色の肌をした人型の魔物、斧や棍棒を手にしたゴブリンだ。

 

「やれ、ゴブリン共! ガキ共を嬲って痛めつけてやれ!」

 

 10体の異形が、可憐な少女目掛けて突撃する。

 

「現れなさい、『砂漠の傀儡(デザート・ゴーレム)』!」

 

 アディラの声に応じる様に、床に撒かれた砂が巨人の形をとる。ゴーレムはまるでハエを叩く様に、ゴブリンの半数を平手打ちで吹っ飛ばし、壁に叩きつけた。撃破されたゴブリンは、光の粒子となって消えてしまった。

 

 仲間の瞬殺に驚き、動きを止める異形。その隙を次なる魔法が襲いかかる。

 

「いっけぇッ、『天翔る気炎の猛禽(ブレイジング・ラプター)!」

 

 炎の鷹が残りのゴブリンを焼き尽くす。先程のゴブリン同様、死体すら残らず光の粒と化す。異世界にまで出張したゴブリン達は少女達の柔らかな肌を堪能することなく、硬いゴーレムの手と燃え盛る炎に見送られて早期退勤する運びとなってしまった。

 

「…………え?」

 

 目の前の現実を、異世界人は受け入れられずに居た。明らかに、この世界で出会った魔術師より強いからだ。

 だが、だからこそ冷静な行動を取る者もいる。物陰に隠れ、弓を引く狩人だ。

 

(敵を倒した直後、油断している今がチャンスだ! 先ずはあの生意気なオレンジ髪を仕留めてやる!)

 

 放たれた矢が空を切り、アディラの首筋目掛けて突撃する。この暗殺は確実に成功する、筈だった。

 

「『柘榴石の手甲(ガーネット・ガントレット)』」

 

 アディラの腕に、砂が纏わりつく。そして砂は魔力により強力に圧縮され、別の物質に変化していた。

 砂に多く含まれる『シリカ(二酸化ケイ素)』を魔力で押し固める事で、橙色(とうしょく)の鉱石に変化させたのだ。

 彼女が最も好きな宝石である、ガーネットに。

 

 橙色の手甲は矢を容易く弾いた。そして矢の飛んできた方向は即ち、敵の居場所と同義である。

 

「『柘榴石の魔弾(ガーネット・バレット)!」

 

 柘榴石の手甲から、押し固めた輝石の一部を魔力で飛ばす。橙色の宝石は狩人の額に命中し、矢の主はそのまま戦闘不能となった。

 

「この私を貫く『矢』は、この地にもう存在しないわ。さぁ、大人しくお縄につきなさいな」

 

 これらは言うまでもなく、蒼石(サファイア)の魔女に味合わされた屈辱をバネにして、新たに身につけたアディラの固有魔法である。次に戦う時に、万が一の勝機すら残さぬ攻防一体の魔法である。

 

「…………」

 

 財閥令嬢のご活躍に、客人達は皆黙り込んでしまった。特にこの場の指揮を買って出たデビットは、酔いも覚めて仄かに冷や汗を浮かべる始末だ。

 

「来ないなら此方から行くわ!」

 

「ひじりん、ふーちゃん、二人はセーラを休ませてて!」

 

 アディラと炎華が攻勢に切り替えて、不躾な来訪者達を討伐しにかかる。

 

「に、逃げろォ!!」

 

 実力差を察した四名が逃亡に走る。彼らはこの中でも低級のDランク冒険者だ。勝ち目の無い敵からは逃亡を選ぶのも仕方がない。

 

「おい、いつのまにか鉄の板が出入り口を!?」

 

「構うもんか、ぶち破れ!」

 

 閉じられたシャッターに彼らは剣で切り掛かる。

 そして彼らの冒険はここで終わりを告げた。

 

「あがががが!!」

 

 シャッターから電撃が迸り、脱走者を失神させたのだ。

 

『あー、てすてす、聞こえますか〜?』

 

 モール内の放送設備から、気怠げな少女の声が発せられる。

 

「おー、雷葉! 来てくれたのか!」

 

「うん、雷葉達は遠かったから時間かかった。でも大丈夫。このモールのシステムをちょっと借りたから、これでフウ達をサポートできる」

 

 パソコンと電気魔法を得意とする(かなで) 雷葉(らいは)が、警備システムをハッキングしたのだ。そして電気設備を介して、自分の魔法を離れた敵にお見舞いした。彼女が来た時には、警備員は皆気絶させられており、雷葉はこれ幸いとばかりにシステムを拝借したと言う訳だ。

 

「おい、逃げるな! 全員で掛かれば勝てる! 一斉に切りかかれ!」

 

 魔女達の実力を目の当たりにしたデビットだが、それでもまだ戦う事を選んだ。数の利、Bランクの実力、確かに彼らにも勝機は十分にある。味方を鼓舞し、自分も剣を抜いて突撃する。

 

 その時、天井のガラスが盛大に砕け散った。

 煌びやかな破片をお供にやってきたのは生徒会副会長、錫宮(すずみや) 菊梨花(きりか)である。

 

「はぁぁぁぁッ!」

 

 彼女は落下の勢いを利用して、強烈な峰打ちを喰らわせる。一瞬の間に二名が脱落した。

 デビットは現れた新手を倒すべく狙いを定めたが、驚愕の表情で飛び退いた。他の剣士や騎士が、あり得ない現象に見舞われたからだ。

 菊梨花が着地した瞬間を狙った者達、彼らは防具や鎧を身につけた接近戦のエキスパートだ。少女の刀程度、簡単に受け止められる筈だった。

 その防具はまるで水飴の様にぐにゃぐにゃになり、刀の峰にあっさりと剥がされていたのだ。数瞬、止まる思考。そして隙を逃さず、再びの峰打ちで仕留める帯刀少女。

 次々と現れる強力な魔女達を前に、最早統制は瓦解寸前であった。

 

「皆さん、落ち着きましょう」

 

「ええ、ここで取り乱せば相手の思う壺だわ」

 

 声を上げたのは魔術師フランと彼女のパーティメンバー、聖女クリスである。クリスの治癒魔法で、強引にその場にいる者の精神を安定させた。

 

「一度上階に上がって、態勢を立て直すわ。フレデリカ、殿をお願いしても良いわよね?」

 

 フランは同じくメンバーの召喚師、フレデリカに指示を飛ばす。

 

「ま、それは私の召喚獣にしか無理でしょ。最低限、一番強そうなゴーレム使いの足止めはしておくよ」

 

「ありがとう。ほら行くわよ、デビット!」

 

 フランは頼りないリーダーの腕を引っ張り、エスカレーターを駆け上がる。他の者達も、フランに続いて一時撤退を決め込む様子だ。

 

 アディラ達も後を追いたかったが、異様なオーラを放つ召喚師の事も放っては置けない。今戦えるアディラ、炎華、菊梨花は一先ず固まって、相手の出方を見ることにした。

 

 ◆

(どうしよう、早く治療しないといけないのに!)

 

 先程から『ヒーリング』で蒼蘭を治療しているのだが、普段より治りが遅い。強力な魔法の反動と、魔力の乱れが原因だ。魔力を活性化が不十分だったせいで、体内を流れる魔力が捻れてしまっている。どうにかして、魔力の流れを正常にする必要がある。それも早急に、だ。親友の意識はもう限界で、今にも瞼が閉じそうである。

 

「よし、場所変えるぞ。二人で蒼蘭を、あそこのピアノのとこまで連れてく」

 

 風歌は聖と共に、蒼蘭の両肩を支えてピアノの近くに移動する。誰でも弾ける、フリースペースの鍵盤だ。

 

「アタシの音楽と、聖の回復魔法。癒しのセッション、決めてやろうぜ!」

 

 そう言うと、風歌は徐にピアノを弾きはじめた。

 クラシックには詳しくない聖だが、とても穏やかな曲調だ。アルプス山脈を流れる、小川のせせらぎにも聞こえてくる。

 すると、風歌の演奏を聴いていた蒼蘭の呼吸が落ち着いてきた。

 

(これは……今なら、治せる!)

 

 私は再度『ヒーリング』を使い、親友の傷を治療した。先程まで苦戦していたのが嘘の様に、スムーズな治療を行えた。

 

 ◆

 

 二人の魔女のお陰で、胸の痛みは完全に回復した。身体も軽くなり、俺はいつでも戦線復帰が可能だ。

 

「……凄いな、みんな。本当に、凄いよ……」

 

 俺は思わず、ポツリと心の声が出てしまった。いかん、ここは二人に礼を言うべきところだろうが! 

 

「何言ってんだ? アンタだって大したモンだろ?」

 

 風歌はけろりとした表情で、俺に言った。

 

「え、私?」

 

「そりゃそうだろ……蒼蘭の予知が無かったら全滅だっただろ? それにあの時の表情、アタシの琴線にビビッと触れたぜ! アディラのお嬢が気にいる訳だ! 

 あ、そうだ。これ、飲んどけ!」

 

 風歌はカバンからポーションの瓶を取り出した。俺達が会長から渡された物とは異なる、緑色の液体が入っていた。

 

「怪我の回復じゃなくて、魔力の回復させるポーションさ。総合センターのセンパイ達、あの中に『錬金部』のセンパイが居てよ、生徒会にお裾分けしてくれたのよ! ホラ、これ飲んで元気出せって!」

 

 ギタリスト魔女は背中をバシバシと叩いてきたので、促されるままに魔力ポーションを飲み干した。

 

「良い飲みっぷりだな! 少しは元気でたか?」

 

「あ、うん。ありがとうございます。それと聖も、ありがとう」

 

「どういたしまして。よかったね、蒼蘭ちゃん!」

 

 回復役とギタリストに礼を言ったが、ギタリストはわざとらしく眉をひそめている。

 

「ん〜? ちっと元気が足りねえな〜? 

 ……でもって元気の無い生徒を見たら、アタシがするべき事は〜?」

 

 風歌は愛用のギターを再び構え、ロックのリズムをかき鳴らす。

 

「アタシの演奏でブチ上げるしかねぇよな? もう分かってると思うが、アタシの音魔法は本来サポート用の魔法だ。さっきのピアノは癒しのメロディ。そしてギターはテンアゲのリズム! 

『自分の魔法に自信がありませ〜ん』見たいな顔してたけどよ、騙されたと思っていっぺんリズムに乗ってみな! それでなんとかなるからさ!」

 

 あまりに心強すぎる激励だ。俺は差し出された手を借りて、床から立ち上がった。

 

「私も、みんなと戦う! みんなで、ここを切り抜けよう!」

 

「うん! 一緒に頑張ろう、蒼蘭ちゃん、奏さん!」

 

「待て待て、アタシの事は下の名前で呼べっての。双子なんだからさ」

 

「あ、ごめん、風歌ちゃん」

 

「ふふふ」

 

 彼女らのお陰で、気分は大分軽くなった。笑みが溢れる程度には。

 いよいよ反撃の時。俺も学園の黄金世代達に、少しでも役立てる様に頑張らねば!




ショッピングモールの戦いは後2話で終わりです!
今しばらく、お付き合いくださいませ。

また宜しければ、肯否関わらず、感想、評価、ここすき等々頂けますと幸いです。
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