魔女学園のTS生徒〜被検体の俺は美少女の皮を着せられ、魔女学園(女子校)へ編入する事に〜   作:海神アリア

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お仕事を経て生まれ変わった蒼蘭ちゃん、もとい惺くんの、新しい日常が始まります。
一先ず書きたい部分の一区切りまで年内に書けたので、年明け前にあげてしまいます。


第52話 生まれ変わった『私』、新しい日常

 ◆

 帰るまでが遠足である様に、アルバイトも帰るまでがアルバイトである。

 何が言いたいかと言うと……ショッピングモールでの激闘を経た俺は、あの後も休まる暇が無かったのである。

 

 捕縛した冒険者と偽冒険者を魔法機関の職員に突き出し、全員が治癒魔法で一通りの回復を終えた後、仕事仲間に囲まれてしまった。

 

「あの時、一体貴女は何をしたの、セイラ!?」

 

 口火を切ったのはアディラ嬢だが、全員が同じ事を聞きたがっている様子だ。

 

「えっと、『何』と言われましても……」

 

「とぼけないで! 爆発を防いだあの巨大な『ウォーター・ボール』、一体いつの間に出したのよ!? 

 私達の中で、水魔法を使えるのはセイラだけ。だからアレは貴女の仕業。

 だけど! あの短い時間であの規模の魔法が発動できるわけがないでしょう!? 一体、どんなトリックを使ったの!?」

 

「監視カメラの録画映像を貰ってきたけどさ……。これ、どう見ても人間業じゃないよね? 雷葉もビックリ」

 

 アディラには矢継早に質問を浴びせられ、雷葉からはノート型パソコンに保存された証拠映像を見せつけられる。パソコンには猛スピードで直径7m程膨らみ、巨大水晶を覆い隠す水の球の様子が映し出されている。

 何だか、事情聴取でもされている気分だ……。

 

「えーっとですね、正直に申し上げますと……。

 ……私にも分からないんです」

 

 申し訳ないが、今の俺にはそうとしか答えられない。

 

「この後に及んでシラを切るつもり? 随分と偉くなったわね、この愛玩動物(マスコット)風情が!」

 

「いや、本当だって! 私はただ無我夢中で……強いて言えば、『未来予知』は『時魔法』の一種だって事を思い出して、『爆発するまでの時間が遅くならないかな〜……いや、遅くなれ!』的な事を考えながら魔法を発動したくらい、です」

 

 財閥令嬢に胸倉を掴まれてブルンブルンと揺らされながらも、何とか自分に出来る返答をする。

 

「『時魔法』と来ましたか……。いや、確かに瑠璃海さんが未来を見れる以上、理屈では理解出来なくもないですが……」

 

「勉強が苦手なアタシでも知ってるぞ。何百年も前に廃れた魔法だって……」

 

 菊梨花と風歌のA組コンビが、半信半疑の表情でこちらを見つめてくる。

 

「うん、みんなの言いたい事は分かるよ。私だって、どうやって出来たのか分からないもん。『もう一度やってみろ』って言われても、多分無理だと思う……」

 

 俺は自分の本心、その『片方』を正直に告げる。自分の実力を過大に申告した所で、何も良い事はない。出来るかも分からない魔法をアテにされても困るし、『背伸びをすると失敗する』なんて事はこの18年の人生で嫌と言うほど味わっている。

 

 ……だが、彼女らには話しておきたい。『もう片方』の本心を。

 

「だけどさ、せめて、『あと一回くらい』は出来るようになりたいって、私は思ってる。『時魔法』、私がもっともっと修行を積んで、出来るようになりたいって思えるようになったの!」

 

「……なんでそんな事を、わざわざ私達に話すのかしら?」

 

 いやはや、確かに全くもってアディラ嬢の言う通りだ。『自分語り』、『達成できるかも分からない、独りよがりな宣誓』、そう言われればそれまでである。

 

 だが、それでも彼女らに伝えたい事があった。

 

「私が改めてそう思えるようになった事、みんなにお礼をしたかったの。自分でも上手く言えないけど……私は今日、みんなのお陰で少しだけ『変われた』と思うから! みんなと今日の仕事をやり遂げた事で、『私自身』が変われたから、そのお礼を言っておきたくて……。

 本当にありがとう、みんな」

 

 少しの間、その場が静まり返る。流石に突拍子も無かっただろうか? だが、どうしても言っておきたかったのだ。

 

例えば、一人で無理をしない事。適度に誰かを頼る事、だ。実際、俺は雷葉の魔法を当てにして、聖女クリスと戦ったのだ。目の前にいる少女達は全員、魔法においては頼れる先輩だ。彼女らを頼る事、それ自体は何ら恥ずべき事ではない。

 それと同時に、少しずつでも自信を持つ事、だ。俺は冷静さを欠くと、途端に何もかも上手くいかなくなるタイプだ。今日、改めてそれを実感した。そして相談できる仲間、応援してくれる仲間を持つ事が、自信を持つ事に繋がると思う。

 後はまぁ…もう少し人との関わりを増やしても良いかもしれない。今日、沢山の頼れる魔女達と行動を共にして、俺はそんな風に考える事が出来た。

 

「セーラのその目、何か良いよね」

 

「えっ? き、急に何を言ってるの?」

 

 こちらも突拍子も無い事を言われ、俺は炎華に素っ頓狂な声を上げてしまった。

 

「いや実際、今の蒼蘭は良い目をしてたぜ。何つーか、凄えキラキラしてた。ほら、さっきアタシの演奏で元気になってたろ? ウンディーネ倒した時。あの時とおんなじ瞳だ。

 ……ギタリストの『琴線』に触れるとは、中々に気に入ったぜ、新入り!」

 

 風歌が背中をバシバシと豪快に叩いて来た。

 

「ちょ、痛いって! 手加減して!」

 

「あぁ、悪い悪い! でも、アタシの言った事は本当だからな!」

 

「う、うん! ありがとう!」

 

 ギタリストとの会話を横で聞いていた聖が、『ふふっ』と笑みを溢す。

 

「どうしたの、聖?」

 

「蒼蘭ちゃんが元気になって、私まで嬉しくなっちゃった。後、私もね」

 

「うん」

 

「蒼蘭ちゃんの()、好きだよ」

 

「ふぇ!?」

 

 友人の言葉に、身体中の水分が沸騰する感覚に陥る。

 

「あ、えっと、す、好きっていうのは、その……

 な、何かごめん! 上手な言葉が見つからなくて!」

 

「ううん、大丈夫、大丈夫!」

 

 二人してワタワタと身振り手振りをしてしまった。

 そんな俺たち二人を、この場の全員が露骨な程に温かい目で見てくる。恥ずかしい限りだ……。

 それにしても、聖はもう少し自分の顔の良さを自覚するべきだと思う。美少女が軽々しく『好き』なんて言わないでくれ、勘違いしてしまうだろ……。

 

「まぁ、それぐらいしてくれないと、私も張り合いが無いものね。この『柘榴石(ガーネット)の魔女』ともう一度相見えるなら、『時魔法』の一つや二つ習得して箔を付けておくがいいわ!」

 

 アディラ嬢は相変わらずの高飛車令嬢っぷりだ。

 とは言え実力は確かな上に、味方だと凄く頼もしい。彼女の自信家な面は、俺も少しは見習った方が良いかもしれないな。ひょっとしたら、今のは彼女なりの激励だったり……それは流石に自意識過剰か。

 

「さぁ、難しい話はこれくらいにしてさ。

 折角カラオケ屋に来たんだ、門限まで何曲か歌って帰ろうぜ!」

 

 そう、俺が連れてこられたのは東京のカラオケ屋。防音機能に優れたこの場所なら、一般人に聞かれる事なく、魔法の事に関する話が出来るからだ。

 

「ほら、蒼蘭! アンタもマイク持てよ!」

 

「え、私!?」

 

 投げ渡されたマイクを反射的にキャッチしたが、唐突なフリに応えられるだろうか……? 

 

「立役者が歌わなくてどうすんだよ? アンタはどんな曲が好きなんだ? ロック、J-Pオープニング、アニソン、好きなの選べよ! アタシが演奏してやるからよ♪」

 

「フウをカラオケに連れて行くと、ギターで演奏してくれる。瑠璃海ちゃんも、カラオケが好きなら覚えておくと良い」

 

「えっと……ええっと……」

 

 俺は困惑を無理やり抑え込み、ネットで流行りの曲をリクエストした。折角のお誘いだ。ここで無碍に断ってはいけない。それに、こうして友人と楽しく過ごせるのが、生まれ変わった『瑠璃海 蒼蘭』なのだから! 

 

 画面に曲名が表示されるや否や、カラオケ機器と全く同じタイミングで風歌がイントロを奏でる。本当にどんな曲でも演奏できそうだ、そう感じる程に彼女の演奏技術は凄い。

 

 いや、演奏技術だけではない。

 俺はカラオケ自体初めてだが、歌っていて"楽しい"のだ。合間のコールや、アップテンポな曲調に合わせたモーション、『盛り上げる』為のパフォーマンスも的確に取り入れられている。風歌の演奏を聴くと、途端に元気が出てくるのだ。技術と魔法、その両方が高い水準のハイブリッド。そんなとんでもない魔女と俺は今、楽しくカラオケをしているのだ。

 

 普通の人生を送っていたら、こんな体験は味わえない。先程まで命懸けの戦いをしていたのが嘘のようだ。この高揚感を噛み締めながら、俺は時間いっぱいまで楽しませて貰った。

 

 ◆

(翌日の昼休み、1-Dの教室にて)

 

「ねぇ、昨日リリースされた曲、聴いた?」

 

「あー、聴いた聴いた! メッチャ良いよね!」

 

 昼食を終えた女子高生達は、午後の授業まで仲良く談笑している。編入して来て約半月、女子校の日常も見慣れたものだ。

 

「炎華はさ、最近ハマってる推しとかいないの?」

 

 炎華の周りで談笑していたクラスメイト二名が、彼女に話題を振った。

 

「えーっとね、最近のあーしの『推し』はね……この子! すっごく可愛いっしょ? 歌も上手くてめっちゃ良い笑顔してんの!」

 

 炎華は満面の笑みでスマートフォンの写真を見せる。

 

「え? 

 これ、瑠璃海さんじゃね?」

 

「ブッフォォォッ!?」

 

 俺は飲んでいたコーラを盛大に吹き出してしまった。

 

「そーそー、昨日セーラ達とカラオケ行ったの! 

 どーよこの満面の笑顔! メッチャ可愛いっしょ?」

 

「ほぉぉぉのぉぉぉかぁぁぁ!!」

 

 俺は友人からスマホを取り上げようとしたが、炎属性のギャルは身長が高く手足も長い。ちっちゃい蒼蘭ちゃんでは、文字通り手も足も出なかった。

 

「いつ撮ったの!」

 

「んー、結構いっぱい撮ったからな〜。ま、セーラが楽しく歌うのに夢中になってる時?」

 

「"いっぱい"って何枚撮ったのよ!? 今すぐ消し……」

 

 ここで俺は言葉を止めた。スカートの裾を引っ張る者がいたからだ。足元を見ると、そこには正座した聖がいるではないか。

 彼女は両手にスマホを乗せ、恭しい動作で蒼蘭ちゃんに差し出したのだ。

 

「これは……?」

 

「私も、蒼蘭ちゃんの写真を撮っちゃいました。ごめんなさい」

 

 君もか。君もか、聖よ。

 凄くこそばゆい感覚だ。

 スマホに映る、マイクを握った美少女はとても楽しそうだ。彼女の満面の笑みを間近で見てしまったら、そりゃ写真に収めたくなるだろう。

 

 ……でもこの美少女の正体、『俺』なんだよなぁ……。

 自分がこんな可愛い表情をしている、写真でそう見せつけられると凄く倒錯的だ。

 

「……まぁ、良いけどさ。次からは一言声かけてよ、二人とも!」

 

 取り敢えず、一旦は水に流してしまおう。

 

「ん、分かった。で、ここからが本題なんだけどさ、今日もカラオケ行かない? この二人と一緒にさ!」

 

 炎華が示したのは、彼女と流行りの曲について話していたクラスメイト。

 

 一人は『先魁(さきがけ) 明星(あかり)』、魔力測定の授業でトップバッターを務めていた、光魔法の使い手だ。陸上部やバレー部に所属していそうな、ショートヘアで活発な少女だ。

 

 もう一人は『氷雨(ひさめ) 美雪(みゆき)』。彼女は『魔力生物』を使い魔とする魔女で、シマエナガの様なもっちりとした鳥を、魔力で生み出して使役している。授業で見た事があるが、本当に可愛らしい使い魔だった。転校初日に出会った蜘蛛使いのおばさんも見習って欲しいものである。美雪はアッパーな炎華とは逆に、ちょっぴりダウナー系のギャルである。とはいえギャル同士、メイクやファッションの話題で定期的に盛り上がっている。

 

 そして、炎華から聞いた事がある。彼女ら三人は『カラ友』、すなわちカラオケ友達である、と。

 

「セーラもカラオケ好きならさ、あーしら三人と歌おうよ! 今日は金曜日だからさ、週の最後にパーッとはしゃいじゃお?」

 

「早速、今日の放課後って事!? 

 ……ごめん、ちょっとだけ予定確認させて! 5分、いや3分時間ちょうだい!」

 

 俺はスマホを持って一旦席を外し、廊下で胡桃沢博士にメッセージを送信する。今日はバイタルチェックの予定があったが、それを少し遅らせて貰えないかの相談だ。

 

『今日、友達から遊びに誘われて……折角のお誘いなので、出来れば行きたいんです! 少し、バイタルチェックの時間を遅らせて貰えないでしょうか?』

 

 メッセージ、送信。

 そして、爆速で返事が送られて来た。既読も返信も、ヤケに早すぎないか? 

 

『縺励★縺上s繧貞ッ晏叙繧峨l縺溘?』

 

 ……は? 

 え、文字化け? それとも、博士が宇宙人にでも乗っ取られてた? 

 ……怖いよ、この文面。

 

 すると、再びメッセージが届いた。

 

『あー、大丈夫、心配しないでくれたまえ。

 君は立派な【女子高生】なんだから、友達付き合いも大切さ。ラボに着く前に、一報入れてくれればそれで良いよ』

 

 良かった。無事に許可は頂けた。

『立派な女子高生』と言う表現には引っかかるモノがあったが、博士の言う通り友達付き合いは大事だ。

『雨海 惺』が高校生の頃には、余りそういうモノに縁がなかった。クラスメイトと浅い付き合いしか無かったのは、当時の俺に精神的な余裕が無かったからだ。そして、心の底で人付き合いを避けていた節もある。でも今なら、『放課後に友達と遊ぶ』なんて何気ない日常も出来る。それは以前の俺が出来なかった事、そして大学でやりたかった事だ。

 

「お待たせ〜! 大丈夫、今日の放課後ね!」

 

 そう、圧倒的な『陽』の気を放つ女子高生達のお誘いだって、生まれ変わった自分になら……。

 

「聖! もしよかったら、聖も一緒に来てくれる!?」

 

 すまん! 知っている顔が一人だけと、やっぱり心細い! 悪いが、頼らせて欲しい! 

 

「え、私!? でも、誘われたのは蒼蘭ちゃんで……」

 

「何言ってんの、ひじりんも行くに決まってるじゃん! 二人とも、昨日楽しそうだったしさ、コレを機にあーしらカラオケ同盟に入ろうよ♪」

 

 正に炎、いや、太陽の様な明るさと暖かさを持つギャルだ。そして、他のカラオケ同盟メンバーも、歓迎する気満々の表情である。

 

「同盟に入るかは別としてだけど、ご一緒させて貰うね」

 

「良かった〜! よろしくね、聖!」

 

「うん!」

 

 良かった。無事に心強い同行者を確保できた俺は、密かに安堵した。

 

 ◆

 いよいよ放課後、そしてカラオケ屋への入店である。……やはり緊張する。カラオケは二回目、しかも流れで行く事になった昨日とは違い、今回は純粋に歌いに来たのだ。大丈夫だろうか? カラオケのマナーや作法とか、殆ど知らないのだが……。

 いや、今更不安になるな! 風歌を見習え、俺よ! 彼女は精一杯、参加者を楽しませていたじゃないか! 俺もあんな感じで、楽しい雰囲気作りを心掛けるのだ! 

 

『楽しい雰囲気』……

 あれ、具体的に何をすれば良いんだ? 

 ギターは弾けないから、タンバリンや合いの手? 

 或いは……例えば入り口にあった『コスプレ衣装無料貸し出し』のポスター、アレを使うとか? 

 

 ……いや、絶対そうだ! 多分、これはコスプレして歌う流れだ! だって、昨日入った所はそんなサービス無かった! 

 つまり、これは試されている……? 『自分達のノリに、着いてこられるか?』という、(よう)の女子高生達の挑戦状……。そうだ、そうに違いない! 

 

 案内された部屋に到着し荷物を置いた後、『ちょっと準備してくる!』と言って部屋を出た。店員さんに案内され、そして蒼蘭ちゃんの豊満ボディでも着れそうな衣装を見つけて貰った。フリルの付いた、水色と白のメイド服……他にサイズの合うモノは無さそうだ。

 よし、着よう! 自分から友人の輪に歩み寄る、少しずつでも更に自分を変えていこうではないか! 

 

「お、お待たせしました!」

 

 ガチャリ、とドアを開けて皆の待つ部屋に入る。

 

「……ほえ?」

 

「お〜、気合い入ってんね〜」

 

 ……あれ? 先魁さんと氷雨さんの反応が妙だぞ? 

『めっちゃ予想外』って感じのリアクションだ。

 

「みゆみゆの言う通り、めっちゃ気合い入ってるじゃん! どした? やっぱりセーラ、カラオケ楽しみだった?」

 

「いや、あの……『コスプレして歌う流れかなぁ』って……。だって、わざわざ衣装レンタルがあるお店入った訳だし……」

 

「あー、ごめん。ここにしたのは、そろそろ期限切れになるクーポンがあったからで、ぶっちゃけ着替えるかどうかは自由のつもりだったんだ」

 

「…………」

 

 ああああああああ!! 

 

 先魁さんの言葉を聞いた瞬間、蒼蘭ちゃんの顔が真っ赤に熱された。

 

「完ッ全に私の早とちりだったって事!? 

 あー、ヤバい、どうしよ! これ、脱いだ方が良い!? いや、もう脱ぐ! 脱ごう!」

 

「ちょっと待って、蒼蘭ちゃん! 流石にここで脱ぐのはマズいよ!」

 

「てか、脱ぐ必要ある? めっちゃ似合ってるじゃん! あかりん、みゆみゆ、二人もそう思うっしょ?」

 

 炎華が話を振ると、カラ友達は品定めをするようにまじまじと見つめて来た。

 

「まぁ、そりゃバツグンに可愛いけども」

 

「うん、それは言えてる。多分、るみたんは秋葉原とかでバイトしたらてっぺん取れる」

 

「る、『るみたん』?」

 

「『瑠璃海さん』だから、『るみたん』ね。ウチも、炎華みたいにあだ名付けた。あ、ひょっとして嫌だった?」

 

「ううん、ちょっと驚いただけ。私の事は好きに呼んで、氷雨さん」

 

「『美雪』か『みゆみゆ』で良いよ、ウチの事」

 

「もちろん、私の事も『明星(あかり)』って呼んでくれて良いから!」

 

「分かった。よろしく、美雪、明星!」

 

 都会の女子高生というのは皆フレンドリーだ、これが都会っ娘パワーか、或いは魔女の余裕というものか? 

 

「あ、セーラの分のドリンクも用意したからさ、早速曲入れよ? トップバッターは、誰にする?」

 

「そこは言い出しっぺの炎華っしょ? あ、それとも気合い入ってるから、るみたん行く?」

 

「……よし、間を取って一緒に歌お、セーラ! これ、昨日ノってたから知ってるっしょ?」

 

 何、いきなりデュエットのお誘いだと……!? 

 ……ええい、ここまで来たら乗り掛かった船だ! 

 

「うん、歌おう!」

 

「あ、ちょっと待って! これ、忘れてるよ!」

 

 そう言って、明星が三本のペンライトを取り出した。

 

「これもお店でレンタルしているやつ?」

 

「ううん、これは私が持って来たヤツ。私は光の魔女、だからこんな事もできちゃうのだ!」

 

 明星がペンライトに魔力を送ると、赤、緑、青、オレンジと、ライトの色が次々に変化していった。

 

「おおッ、凄い! カラフルで綺麗!」

 

「ふっふっふ、この程度で驚くなかれ! おりゃっ!」

 

 明星が空中に、ペンライトで星型のマークを描く。

 

「空間にマークが!?」

 

「ま、これはすぐ消えちゃうんだけどね。どーよ、私の光魔法?」

 

「キラキラして、綺麗だった!」

 

 明星は『フフン』と得意げな表情を浮かべる。

 彼女は炎華と同じく、結構人懐っこいタイプの様だ。

 

「よーし、早速歌うぞ〜♪」

 

「おー!」

 

 ◆

(その後、何曲か順番が回った後……)

 

「一旦、ここでドリンク補充タイムにしよ! あーし、行ってくるからリクエストあればちょうだい!」

 

「待って、私も行く。一人だと大変でしょ?」

 

「じゃ、お願いしよっかな。今のセーラは『可愛いメイドさん』だもんね♪」

 

「もう、炎華ってば……」

 

 ドリンクバーへ赴き、メロンソーダ、コーラ、コーヒー、オレンジジュース、ウーロン茶、トレーに色々なドリンクを入れたコップを乗せて、二人で部屋に戻る。

 

「お待たせしました、ご注意のドリンクです♪」

 

「何だかんだ、セーラもノリノリじゃん♪」

 

「もうここまで来たら、最後までやってやるわ! 旅の恥はかき捨て、生まれ変わった私は多少はノリノリなんだから!」

 

「じゃあさ、美味しくなるおまじない、お願いしても良い?」

 

「はーい、明星お嬢様! 

 美味しくなーれ、萌え萌えキュン♡」

 

 もう8割以上はヤケクソテンションである。

 完全なるやらかしだが、蒼蘭ちゃんの美少女フェイスで何とか誤魔化せている、と思いたい。

 

「あーしは、メイドさんとチェキしたーい! ツーショット、お願いしまーす!」

 

「はーい! もうどうにでもな〜れ♪」

 

 炎華とツーショットを終えて、取り敢えずひと息付いた。

 

「なんか、るみたん汗ヤバくない?」

 

「あー、確かに色々暑いかも……」

 

「もしよかったら、ジュースでシャーベット作ろうか?」

 

「シャーベット? あ、そっか! 美雪の使い魔なら!」

 

「うん、ちょっと柔めのシャーベットにして、ストローでも吸えるようにするからさ」

 

「お願いします!」

 

「ん、了解。シロ、お願い」

 

 美雪の声に反応して、シマエナガ姿の使い魔が出現した。雪の使い魔『シロ』がコップの上で羽ばたくと、ジュースがほんのりと凍りついた。それをストローでかき混ぜながらもう少しだけ凍らせれば、シャーベット擬きの完成だ。

 

「ほい、完成」

 

「ありがとう、美雪!」

 

 凍った部分とジュースの部分が程よく混ざり合って、熱った身体を冷ましてくれる。ドリンクバーの味変としては、中々にアリだ。

 

「シロちゃんって便利だよね、特にこれから暑くなる季節にさ。それに、もちもちして可愛いし」

 

「何だったら、撫でてみる?」

 

「え、溶けちゃわない? 大丈夫?」

 

「指で頭を撫でるくらいなら平気」

 

「なら、せっかくなので……」

 

 俺は人差し指で、手のひらサイズの小鳥の頭を撫でる。

 

「うわっ、ちべたい!」

 

「雪の使い魔だからね、この子。ちっちゃくても、ちゃんと冷たいの」

 

「でもやっぱり、雪うさぎみたいで可愛い!」

 

「めっちゃ褒めるじゃん。ありがと」

 

「美雪、シマエナガ好きなの?」

 

「うん、『魔力生物』って、魔女が好きな生き物の姿になる事が多いから」

 

 そうか、やっぱり可愛いもの好きなんだな。

 

「それじゃ、そろそろカラオケ再開しよっか! 次はひじりんの番でしょ?」

 

「うん、それと蒼蘭ちゃん……じゃなくてメイドさん!」

 

「何でしょうか、聖お嬢様?」

 

「デュエット、してください!」

 

「ふんふん、今期アニメのオープニングね、かしこまりました♪」

 

 藍色のメイドさんは、満面の笑みでお嬢様のリクエストにお応えした。

 

 ◆

(胡桃沢ラボにて)

 

「博士〜、ただいま戻りました〜」

 

 蒼蘭ちゃんの声は少し枯れている。精一杯歌いまくったからだ。だって、仕方ないだろう。女の子の身体なら、普段出さないような高音だって出るし、アイドルの曲やアニメのオープニングなど、歌える曲が広がるのだから。俺は元々歌うのが好きで、アニメが始まるとオモチャのマイクを持って歌うような子供だった。だから、正直に言って放課後のカラオケは物凄く楽しかった。

 

「あ〜、お帰り、蒼蘭君」

 

 何故か博士の声も少し枯れていた。ついでに言うと、博士は元気が無く今にも倒れそうだった。

 

「あの、大丈夫ですか?」

 

「問題ない、さっき血管に注射するタイプのポーションを打って来た」

 

「その注射、大丈夫なヤツですよね?」

 

「勿論、ちゃんと合法なヤツさ。それより、早速バイタルチェックと行こうじゃないか」

 

 こうして俺は『着替え』の為に、ベッドのある部屋へ案内された。

 

 ◆

 スカートのチャックを下ろし、プチン、プチンとワイシャツのボタンを外す。蒼蘭ちゃんの有り余る発育が、服という枷を外されて露わになる。この背徳的な感覚に、何処か段々と病みつきになっている自分が怖い。

 背中に手を回し、ブラジャーのホックを外す。下着の着脱も手慣れた物だ。鏡には一糸纏わぬ美少女の身体が映し出されている。自分の中に潜む悪魔の誘惑を断ち切って、早々に『着替え』に映る。

 

 博士から手渡されたファスナーを、背中に貼り付ける。以前は彼女に貼って貰ったが、今日は一人でやってみるように言われている。故に、部屋にいるのは俺一人だ。

 ファスナーを下ろす直前、漫然とした不安が襲った。蒼蘭ちゃんの姿でいる事が長かった所為か、元の身体に戻ることに躊躇いが生まれているのだろう。心に生まれた淀みを押し殺して、俺は銀色のファスナーを下ろした。

 

 ジジ……ジジジ……

 

 首筋から背中にかけて外気が流れ込む。肌が少しスースーするが、ここまで来れば後は脱ぐだけだ。

 

 ベリ……ベリベリ……

 

 地肌に引っ付いた魔女の皮を、慎重に剥がしていく。そして、脱ぎ終わった時……

 

 俺は強烈な違和感に襲われた。

 

『違和感』の正体……色々あるが、一番は『胸の重さ』である。

 前回のバイタルチェックでは、『皮』を脱いだ後には『重さからの解放感』があった。当然だ。男の俺には、蒼蘭ちゃんのJカップおっぱいなんて付いている筈がないのだから。

 

 だが、今は違う。

 ()()()()()()()()()()()()()! ()

 

 次の違和感は頭、正確には髪の毛だ。

 こちらも『重い』。頭を軽く振ると、腰の辺りにまで髪の感触が感じられた。

 

「え……何が起きて……」

 

 次の瞬間、俺は自分の口を押さえた。

 声まで変わっている!? 

 蒼蘭ちゃんの様な可愛らしい声ではなく、もう少し大人びた女性の声が俺の口から飛び出したのだ。

 

 俺は恐る恐る、姿見の前まで足を運ぶ。

 

 鏡の中に居たのは、艶を帯びた濡羽色の髪を腰まで伸ばし、手足もすらりと伸びた170cm程の背をした、蒼蘭ちゃんにも勝るとも劣らない豊満な発育を携えた美少女だったのだ! 

 

「な、なんじゃこりゃああッッ!?」

 

 俺の悲鳴を聞いて、胡桃沢博士が部屋のドアを開ける。

 

(しずく)君、一体何が……グフッ」

 

 部屋に突入した胡桃沢博士は、俺の姿を見るや否や、鼻血を噴出したのだ。

 

「博士、大丈夫ですか!? ポーションの副作用とか!?」

 

「いやぁ、突然目の前に美少女の裸体があったものだから」

 

「あ゛?」

 

「……申し訳ない、今のは失言だったね。一応聞くけど、君は惺で間違いないね?」

 

「はい、俺は『雨海 惺』。誕生日は3月30日で牡羊座。今年の春から貴女の助手をやってる被験体ですよ」

 

「うん、ありがとう。瞳の色、左目の泣き黒子、二重のまぶた、背中の黒子、確かに身体的特徴は一致しているね……。一先ずはバイタルチェックをしつつ、原因を究明出来ないか試してみよう」

 

 こうして俺はバイタルチェックを行った。

 

 血液検査、レントゲン、電子機器による身体のスキャン、それらを終えた博士は難しい表情を浮かべる。

 

「……完全に想定外の結果だ。まさか、『魔女っ子スーツ(仮)』を着た者の性別まで変化するなんて……」

 

「博士、俺の『皮』って作れませんか? そうすれば、元の身体に、男の身体に戻れるのではないですか?」

 

「残念ながら、それは無理だ。一度性別が変化した者が違う性別の皮を着ても、身体が変化しない。サイズの合わない皮を着るだけになってしまうんだ」

 

「そう……ですか」

 

「何か最近、例えば昨日の仕事で身体に不調をきたす事はなかったかい?」

 

「そういえば……魔力活性化が不十分な状態で、無理やり未来を見た時に、胸とか肺がめちゃくちゃ痛くなりました。でも、聖と風歌のお陰で何とか事なきを得ましけど……」

 

「それだ! 恐らく、無理に魔法を行使した所為で、君の身体が『魔法を扱うのに最適な身体』に作り変えられたのだろう」

 

「『最適な身体』と言いますと……まさか、俺が『時魔法』を使えたのも、女の子の身体になったからですか!?」

 

「待て、待ってくれ! 『時魔法』だと? 新しい情報をそんなにポンポン出さないで! しかも、どれも途轍もなく気になる情報だ! 悪いけど、昨日何があったのか、一から全部説明して貰おうか!」

 

 博士に促され、俺は学内バイトの状況を一から説明した。一応、博士もある程度の事は知らされていたみたいだが、俺が無理をした事と時魔法の事はいつに無く真剣な眼差しで話を聞いていた。

 

「なるほど……つまるところ『雨海 惺』は最早、単なる『被験体』に収まらない程の存在になった、という訳か……」

 

 驚きと困惑、そして仄かな苛立ちを顔に浮かべ、彼女は頭を掻きむしった。額に手を当て天井を仰ぎ、博士は大きく息をついた。

 

「博士、俺の身体が戻りそうにないなら、一つ済ませておきたい事があります」

 

「……何かな?」

 

「姉貴に、『雨海 沙織』に電話させてください。今までの近況報告と、これから『俺』……いや、『私』が何をしたいかを、姉貴に話しておきたいんです」

 

 疲れ切った表情の研究者は、何処にそんな元気があるのか疑問になる程の勢いで椅子から飛び上がった。彼女の顔に、薄らと嬉しそうな感情が浮かんでいたが……多分、見間違いだろう。




書き始めたら書きたい事が続々と浮かんでしまい、こんなに長くなってしまいました…。申し訳ございません。
また、今回で長らく死にかけだった沙織お姉ちゃんが無事に息を吹き返しました。もしご心配をおかけしていたら、こちらも申し訳ありません。沙織お姉ちゃんは意外と頑丈なので、安心して読んで頂ければと。

そして、もしよろしければ、感想や評価、お気に入り登録等を頂けますと、今後の励みになります。肯否関わらず、感想、評価、ここすき等々や登場人物への意見や感想等々を頂けますと幸いです。
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